永遠の空~失色の君~   作:tubaki7

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episode47 笑顔

 

ファントム・タスクの襲撃より早一週間。あれほどの戦闘があったにも関わらずまたしても被害は極小規模なものだった。破壊され滅茶苦茶になってしまった更衣室以外は全て元通りに直りはしたものの、それよりも対応に追われる教師陣の慌てふためく姿が目についていた。主に情報規正の類だが、どうしようもないことが一つ。それが、蒼月ライの存在だった。

 

露呈してしまった世界でISを使える二番目の男。織斑一夏に続き現れてしまったその存在は瞬く間に世界に広まり、学園側はその対応に追われている。正直言ってしまえばラッキーではある。ファントム・タスクが容易に学園に潜入されたことに触れられず、あろうことかその不明勢力を一夏はたった一人で、そしてライもまたこの勢力を撃退することに成功しているとだけあってさっきからメディア界からの取材オファーの電話であふれかえっている。まさに、猫の手も借りたいくらいの状況であった。

 

 

「うぅ・・・・」

 

 

部屋に戻ってくるなりベッドに沈む真耶。同室の副担任は今まさに疲労のピークを迎えている。

 

 

「えっと…その、すみませんでした。あの海域がまさか規則適用範囲外だったなんて…」

 

 

IS学園には様々な規則がある。わかりやすいもので言えば、今シャルロットとモニカを守る学園生徒は在籍中、いかなる国家、組織、企業からの干渉を受け付けない(例外アリ)というもの。これは案に、生徒がなんらかの形でトラブルに巻き込まれるのを国連規模で保護するという名目がある。だが、それの適用範囲と言うものが残念ながら存在し、先ほど上げた規則と一部のものを除いて学園から指定された距離を脱してしまった場合これを適用しないというなんとも矛盾したものまで存在する。

 

訊いてみればそれはこの学園を作る際の様々な問題点を解決する為に設けられたものらしいが、今はその妥協案がこうして真耶ほか沢山の教員たちを悩ませている。

 

 

「ここ数日、ライ君関連の問い合わせが多数寄せられていまして…。やれどこの所属だの、どこの代表候補生だの…」

 

「今まで内密にしてきたのが仇となったわけですか・・・・」

 

「ライ君の場合、立場がかなりあやふやですからね。篠ノ之さんの〝紅椿〟の登録とはまたワケが違いますから・・・・あ、別にライ君がいけないというわけではないんですよ!?むしろこんな時にこんなことしかできない私の方が・・・・」

 

「いえ、真耶先生はいつも頑張ってますよ。今だって僕のフォローをしてくれている。真耶先生だけじゃない、織斑先生やほかの教員の人達も・・・・」

 

 

 自分は守られている。そして守られてきた。知らず知らずのところで沢山の人が動いてくれていた。その事実を改めて認識したライは楯無が言っていた言葉を思い出す。

 

 

――――自分がいかに守られているか、それを知らないで戦うのと知って戦うのとでは大きく違うのよ。貴方が守っているもの、貴方を守っているもの。力を持つ者ならそれを自覚しないといつか痛い目を見ることになるわ。

 

 

「ライ君…」

 

「僕は知らなさすぎる。何もかも・・・・」

 

 

 そして、嘘をついてしまっている。もう隠し通せないかもしれない。でも、それでも・・・・――――。

 

 

(この嘘だけは、貫き通さないといけない。アレはこの世界にあってはならない存在だ。僕と同じように)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・なー、一夏」

 

「なんだ?」

 

「俺、生まれて初めて男に惚れそうになったわ」

 

「なにをいってるんだおまえは」

 

 

そんな会話をするのは外出許可を得て親友でもあり悪友でもある五反田弾のもとを訪れた一夏と弾だ。学園の規制と騒動が未だに冷めやらぬ中、変装とISによるGPS機能を常時展開し学園に随一居場所を知らせることを条件にして学園の外へと出ることを許されていた。少し長めの髪を後ろの流してうなじの部分で一つに縛る。そして黒ぶち眼鏡であまり目立たない服装を一夏に貸してもらい弾の家に来ている。

 

今は彼の部屋だ。

 

 

「最初見た時は女の子かと思ったぜ。いやまさか世の中こんな美形が存在してたとはな。ここまで整ってるとなんも言えねー」

 

「えっと…これはどうすればいいんだ?」

 

「あ~、いつものことだからホッといていいと思うぞ」

 

 

そうは言っても初めての相手にいたたまれない気持ちで落ち着かないライは二人がゲームを始めたのをベッドに腰掛けてただ眺める。先ほどから会話の体勢はこんな形で行われている。

 

 

(…この二人、なんだか懐かしい感じもする)

 

 

ぼうっと眺めているとそんな感想を抱く。どこか遠く、そして遥か彼方に忘れてしまったような、きっと大切な記憶の1ページ。今まで思い出してきたものはあまり碌なものではなかったライにとって、それは一番失くしてはいけないものだったような気がして少し気を落とす。

 

 

「おいライ」

 

「え、あ、すまない弾。なんだ?」

 

「次、お前の番だ。一夏と交代だぜ」

 

 

言われて一夏からコントローラーを受け取る。

 

 

「気を付けろライ。こいつ初心者でも手加減なしに育成キャラ使ってくるからな」

 

「育成キャラ?」

 

「このゲームのモードのひとつだ。好きなバトルキャラクター一つを選んでそのキャラクターを育成して強くすることができるんだ。普通はこういう対戦じゃなくてオンラインとかで使うもんなんだけど、此奴・・・・」

 

 

憎たらしげに弾を睨む一夏。そんな視線などどこ吹く風で弾は当たり前のように自分の育成したキャラを選択している。

 

 

「基本操作はさっきのを見ていて覚えた。あとは・・・・まぁ、出来るところまでやってみるよ」

 

「フッフッフ、初心者といえど手加減なしだ!獅子は兎を狩る時も全力を尽くすってな」

 

 

ライがキャラを選択すると次にステージを選択し、バトルが始まる。使用ハードは最近発売されたPF3。ソフトはISをモデルにしたロボット物のバトルゲームだ。コントローラーは一般的なものに対し弾の使用するそれはゲームセンターでよく目にするもののソレだ。使用しているものからして容赦のなさが窺える。

 

 ほどなくしてゲーム開始。そしてその5分後に真っ白に燃え尽きた弾をざまあみろといった感じで笑う一夏という図になっていた。

 

 

「っと、そろそろ昼だな」

 

「兄ィ、とっとと飯食えって・・・・って、いいい、一夏さん!?」

 

 

突如乱暴に弾の部屋のドアが開く。と、そこには弾と同じく赤い毛色の女の子がラフな格好をして立っていた。季節が夏ということだけあって着ている服も開放的で少々目のやり場に困る。

 

 

「おう、蘭。久しぶりだな。元気そうでなによりだ」

 

「い、一夏さんも、お元気そうで・・・・」

 

「…あ、僕は一夏の友達でライだ。よろしく」

 

「・・・・兄ィ、ちょっとこっち」

 

 

ライを見た途端、蘭の表情が固まったと思ったら油の切れたロボットのようなぎこちない動きで弾と共に部屋を出る。

 

 

「・・・・僕は何か彼女に悪いことをしたんだろうか?」

 

「いや、そうじゃないとおもうぜ?蘭ってけっこう人見知りだったりするからライを見て緊張したんじゃねーか」

 

「だといいが・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと、なにあの人!?」

 

「何って、ライだよ。自己紹介したろ」

 

「そんなのわかってるわよ!アタシが訊いてんのはなんであのライさんがウチに、しかも兄ィなんかと一緒にいんのかってこと!」

 

 

こそこそと話す妹は頬を赤らめ今にも頭から湯気でも出そうな勢いだ。

 

 

「なんでって、そりゃぁ一夏の友達で、外出許可もらって彼奴がウチに遊びに来る前日に一夏が連れていきたい奴がいるって言いだして、連れてきたのがライだったわけだ」

 

「どうしてそれをもっと早くに言わないのよダメ兄貴!」

 

 

理不尽だ。そう心の中で呟き溜息をつく。少し妹の将来が心配になって来た高1の夏であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

3人に勧められ、ライも五反田家が経営している食堂で昼食を厄介になることに。調理しているのは五反田厳、弾と蘭の祖父に値する。ホールは主に二人の母である蓮と蘭がやっている。蘭は今日は手伝いはないとのことだったのだが急きょ手伝うと言い出し部屋にもどって着替えてきたそうな。今度はかわいらしい服で、夏を意識して爽やかな白のワンピースを着ている。

 

 

「蘭が買ったのか?その服」

 

「は、はい。どうですか・・・・?」

 

「あぁ、似合ってるよ。な、ライ」

 

「うん。蘭の真っ赤な髪との相性もいい。かわいい・・・・というより、綺麗な類に入ると思う」

 

「あ…ありがとう、ございます・・・・」

 

 

顔を真っ赤にする蘭。それを見てあらあらうふふと笑う母蓮。やはり具合でも悪いのだろうかと首を傾げていると弾が「類は友を呼ぶ、か」と溜息まじりに呟いていた。

 

 

「あ、そういえばメールで知ったんだけど蘭ってIS学園受けるんだってな」

 

「な!?俺は聞いてないぞッ」

 

「何で兄ィに言うわないといけないのよ」

 

「けどウチの学校って偏差値とかおかしいくらいに高いぞ?」

 

 

その一夏の言葉をうけ、蘭はよくぞ聞いてくれましたと言ってまた部屋へと戻る。数秒して再び現れた蘭が持ってきたのはIS適正検査を行った時の結果表と自身の通知表だった。

 

 

「適正A、偏差値も申し分ない。これなら合格は確実だな」

 

「はいっ。来年からはお二人の後輩です!」

 

 

満面の笑みでそう言う蘭。一夏も後輩ができるということで嬉しいのか一緒になって喜ぶ。

 

 

「おいライ、お前からもなにか言ってやってくれよぉ」

 

 

弾が藁にも縋るような思いでライに言う。兄としてはIS学園という遠い場所に妹を行かせたくないらしい。兄バカ、と言えばいいのだろうがこれに関してはライも同じ気持ちだった。

 

なので。

 

 

「・・・・ねぇ、蘭」

 

「はい」

 

「蘭は、家族や友達は大事?」

 

「え?…はい、そりゃまぁ…」

 

「そう。・・・・なら、IS学園には来るべきじゃない」

 

 

その一言で、空気が変わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、五反田家の庭。

 

 

「どうしてですか!?IS学園には来ない方がいいって」

 

「言葉のままの意味さ。君は来てはいけない。来るべきじゃない」

 

 

きっぱりと言い切るライに食い下がる蘭。一夏は二人の間に入って「まぁまぁ」と宥めている。弾はライの後ろだ。

 

 

「納得できません、理由もなしに私の進路に口をはさむなんてこと、しないでください」

 

「理由はある」

 

「じゃぁ言ってくださいよ!」

 

「さっき言った問いが答えだ。蘭、きみには大切な家族がいる。一緒に遊び、過ごし、笑いあえる友達がいる。IS学園に入るってことは、それらすべてを危険にさらすのと一緒なんだ」

 

「・・・・どういう意味です?」

 

「まず大前提として、ISは兵器だ。一瞬にして人の命を、しかも複数奪う事のできる程のね。それの適正が高いということは、それだけの任務を課せられることもある。代表候補生ともなってくればそういったものも少なからずある。これがどういう意味か、わかるかい?」

 

 

ライの問いに未だに納得のいかない蘭。頭では少しわかっていてもまだ諦めきれないようだ。そのことにライは溜息をつく。

 

 

〔ギアスを使うのか?〕

 

(それも手の一つだ。・・・・でも、僕は本心と本心で彼女を説得したい。だからギアスはどうにもならなくなった時の最終手段だ)

 

 

ライにだけ聞こえるテレパシーのようなもので話しかけてくるC.C.にライはそう返す。

 

 

「IS学園に入るということ、それはすなわち――――こういうことだ」

 

 

そういうとライは後ろに立っていた弾の足を払って地面に伏せさせる。そして身動きのとれないよう腕を拘束し、あろうことか後頭部に銃を突きつけた。突然のことに弾は困惑し、一夏は驚愕、蘭に至っては悲鳴に近い息をのんだ。

 

 

「おいライ、一体なんのマネだよ!?」

 

「蘭、今すぐ一夏を殺せ!でないとキミの家族全員を殺す!」

 

「なにぃ!?」

 

「ライ!」

 

「イヤ、やめて!」

 

「一夏、キミも弾を救いたければおとなしく蘭に殺されるんだな。友人の命と自分の命、天秤にかけて重いのはどっちかわかるだろ?」

 

「ライ・・・・!」

 

「あぁ、ISを展開しようとしても無駄だ。僕が引き金を引く方が速いし、こんな狭い場所で戦えば戦闘の余波で被害が出る。こんな住宅街でIS同士が戦えばどうなるか・・・・わかるだろ?」

 

 

論破され、歯噛みする一夏。ISを持っているにも関わらずなにもできないでただ殺されるしかできない、親友も、目の前で泣きそうな蘭も、そしてライも止めることができない無力さにただただ拳を握る。

 

 しかし、そんな緊迫した空気の中、ライは弾を解放した。

 

 

「…すまなかった。あまり手荒な真似はしたくなかったんだけど。弾、立てるか?怪我とかははないか」

 

「あ、え、あぁ…なにも」

 

 

ライから差し出された手を握り立ち上がる弾。それを見て一夏は再び驚愕。蘭は緊張の糸が切れたのかその場に思わず座り込んでしまう。

 

 

「・・・・蘭。怖かったかい?」

 

 

ライの問いに蘭は首を振る。

 

 

「頭に拳銃が突きつけられて、兄ぃが死んじゃうかもしれないって思ったら、急に躰が震えてきて…頭の中が真っ白になって。助ける為には、一夏さんを・・・・」

 

「…これが、学園に入るうえで遭遇することになるかもしれない一部だ。僕たちはたしかにISを動かせる。けど学生だ、そういったことに巻き込まれることはない。でもそれは絶対なんかじゃないんだよ。現に一夏はISとの戦闘で生死の境を彷徨ったし、僕は・・・・相手のパイロットを殺すところだった」

 

 

それは、一夏も初めて聞いたことだった。あの時言えないと言っていたことと関係があるのだろうと思い、一夏は口を挟まずだまってライの言葉を聞き逃さぬよう耳を澄ませる。

 

 

「力を持ったその時から、責任や義務が付きまとう。それ以上に、それを振るうということの恐怖も。・・・・蘭。IS学園は確かにいいところではある。でも、それだけじゃない。常に死と隣り合わせなんだ。時には、自分が死にそうになるかもしれない。もしくは、誰かを死なせてしまうことになるかもしれない。もし学園が襲撃され、相手がテロリストだった場合、先ほどのようなことになってもおかしくもなんともない。そうなった時・・・・君は引き金を引けるかい?家族や友人、好きな人に向けておまえは死ねといえる?」

 

「・・・・」

 

 

ライの問いかけに、蘭は答えない。ただ俯いて、肩を震わせるだけだ。

 

 

「・・・・蘭。これだけは覚えておいてくれ。――――撃っていいのは、撃たれる覚悟のある人間だけだ。今のきみがISを使えばどうなるか…それだけは、覚えてほしい」

 

 

そう言ってライは踵を返す。時計をみればもうすぐ帰宅時間に差し掛かろうというところ。ライは一度も振り返ることなくその場を去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

五反田家からの帰り道。一夏とライは無言だった。夕日が二人の影を伸ばしていくなかで、一夏は目の前を歩くライが異様に遠くにいるように感じる。ほぼ毎日一緒にいるのに、その日の彼の背中は驚くほど遠く―――――そして、儚く見えた。

 

 

「・・・・ライは、さ」

 

「なんだい?」

 

「撃たれる覚悟、あるのか?」

 

「・・・・あるよ」

 

「そか・・・・」

 

 

再び流れる沈黙。そして。

 

 

「…じゃ、ライは何のために学園にいるんだ?」

 

 

その問いに、ふと立ち止まる。一定の距離が空いた状態で、ライは目の前に見える校門と校舎を見上げながら言葉を紡ぐ。

 

 

「・・・・僕には、記憶がない。最初ここに来た時はそればかりに気を取られていて他は正直さほど意味をなしていなかった。でも、ここでいろんなことをみんなと一緒に体験していくうちに、世界が鮮やかに見えてきた。辺り一面、ただ灰色のようだった世界が、凄く色鮮やかに見えた。一夏がいて、箒がいて、オルコットさんがいて、シャルロットとモニカがいて、ラウラがいて。鈴がいて、織斑先生や真耶先生がいて。・・・・初めて、かもしれないんだ。この場所を、守りたいって感じたのは」

 

「ライ・・・・」

 

「・・・・一夏。僕はもっと強くなる。今よりもっと、今日よりずっと。誰も戦わなくて済む、傷つかなくて済む世界がくるように」

 

「・・・・ライ。俺は、俺が大切だと思うものを守りたい。でもその為にはまだ足りない。ダメなんだ。もっと強くなる。その為に俺は学園にいる」

 

 

一夏は静かに拳を握りしめる。その手から大切だと思うものをこぼさぬよう、ギュッと力強く。そんな彼の力強い言葉に、思わず笑みがこぼれた。

 

 まったく、本当にきみって奴は・・・・。

 

そう口元を緩めてからすぐに引き締める。

 

 

「僕はもう、あんなことの為にこれ以上誰かの涙はみたくない。みんなに笑顔でいて欲しい。その為に戦うことが必要だっていうのなら、僕は戦う。みんなの笑顔を守るために」

 

「・・・・だったら、ライの笑顔は俺が守るよ」

 

「それは頼もしいな」

 

「だろ?」

 

「・・・・一夏」

 

「あぁ。二人で飛ぼうぜ。今よりもっと高く、強くさ」

 

 

オレンジ色に染まる世界で、二人は拳をぶつける。

 

改めてその胸の内に決意を秘めて。





暗躍する影の者達。


闇夜に紛れ蠢く彼らの、目的は果たして・・・・


次回、永遠の空~失色の君~


episode48 天災‐シノノノ・タバネ‐


運命の歯車が、狂いだす
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