どうしてこんなタイトルにしたんだか・・・・orz
「暗すぎんのよ最近!プール行くわよプール!」
切っ掛けは鈴のその一言から始まった。あの襲撃事件から数日空けてから帰国した鈴は大方の事情を真耶から訊きだし、しばらくは大人しくしていたのだが彼女の性格上そう長く続くはずもなくそう切り出した。
それから買い物に出かけ、翌日の日曜日に揃って外出届けを提出した次第である。
そして、当日。休日と言うこともありかなりの人の数で少しばかりイヤになりかけるもそれを振り切って先陣を切る鈴。少しでもこの空気を払拭しようという彼女なりの気遣いなのだろう。後ろ姿を見ていてなんだか微笑ましくなるとともに、このテンションに助けられてきたと昔を振り返る一夏は鈴のノリに乗っかり二人して駆けていく。その後を箒、シャルロット、モニカ、ラウラの順で追いかける。ライとセシリアはというと、そんな姿を見守りながらマイペースで歩いている。
「みんな元気だね」
「そうですわね。わたくしは少し乗り切れません・・・・」
こういったノリが苦手、というわけではないのだがこう暑いと気も滅入るというもの。日傘をさしていてもなお太陽の光は容赦なく降り注いでくる。そんな中涼しい顔をしてまるで汗一つかいていないライを不思議そうに見上げる。
「どうかしたか?」
「え、あ、いえ、別に・・・・」
暑いのが得意な人間も世の中にはいる。南国育ちの人ならばこの程度の暑さは造作もないだろう。そうでなくとも暑いのが平気な人間もいるのだから別にたいしたことではない。
いや、それにしても――――
(暑い、ですわね・・・・)
◇
興奮に沸く声が木霊する。ウォータースライダーを滑る鈴の声だ。それに混じって一夏、そして何故か箒の絶叫が聞こえてきた。水着に着替えるなりさっそくこの施設の名物であるウォータースライダーを満喫する二人+犠牲者一名。他はというと、ラウラとセシリア、そしてモニカという珍しい組み合わせは流水プールに。現在シャルロットとライはフードコートの椅子に腰かけている。
「みんな楽しそうだね」
「あぁ。シャルロットは行かないのか?」
「え…あ、うん。ボクは、後でかな」
そう言いながら下腹部をさするシャルロット。具合でも悪いのだろうかと見て見ると、そこには斜めに入る傷跡が。もう目立たなくなるほどには薄れているものの、この距離からだとしっかりと見て取れる。
「…その傷、どうかしたのか?」
「…うん。ちょっと、ね」
困ったように笑いながら、それでもどこか感傷深げになぞるシャルロット。それをみて普段の彼女からは見えない大人びた姿をみて少しドキッとする。
「そういうライは行かないの?」
「きみ一人置いて行けないって。モニカを無理やり行かせた以上、誰かが傍にいないと彼女も安心して遊べないだろ?」
お見通し、というかなんというか。苦笑するシャルロットは再度思う。本当になにもかも忘れてしまっているんだと。あの事件の直後、出逢ったときに余所余所しかったのも、直前に言われたセシリアからの忠告も、本当のものだった。一体どうしてそうなってしまったのかは知らないが、記憶喪失の例には本当の記憶を取り戻すと、それまでの事を忘れてしまうということを聞いたことがる。もしかすると、何か思い出してその代償としてライは自分たちの事を忘れてしまったのかもしれない。
嬉しいと思う反面、寂しい気持ちもある。記憶が戻った時、彼は全部を忘れてしまうのだろうか。もしそうだとしたら・・・・。
「シャルロット?」
「え、なにかな?」
「顔色が悪い。体調がよくないんじゃないか?」
「そうかな?・・・・あ、たぶんお腹すいたからかも」
苦し紛れにでた言葉だが、帰ってきた鈴達にその場を救われる。フードコートで各々食べたいものを購入し、人数分で座れる場所を探してそこに座る。いただきますの声で一斉に食べ始める。だが・・・・
―――――
「どうしたのライ」
「いや…なんだか味が薄いと思って」
「そうか?結構濃いぞ俺の。ホラ」
一夏から一口焼きそばを貰う。だがそれでも感じたのは薄味。首を傾げるライをみて一夏達が思ったことはこうである。
――――ひょっとすると、セシリアの仕業なのでは?
彼女の料理の腕前は学園内でも屈指のワーストだ。いや、もはやナンバーワンだろう。今までセシリアの料理を食べてノックアウトしなかった人間はいない。あの織斑千冬でさえ危うく寝込むところだったほどだ。それを食べさせられてきたライはきっと・・・・。
「な、なんでわたくしを見るんですの?」
「あいや、別に…」
鈴が言葉を濁す。言っていいものか、はたして言わない方がいいのか。本人の為を思えば言った方が良いんだろうが、それでも気づかないというのがなんとなく結果として見えてしまう。
どうしようもないまま、一同は自身の食事を平らげた。
◇
「いやぁ~遊んだ遊んだ」
「こんなに羽目を外したのは久しぶりだよ」
「えぇ。予想したよりもずっといいものでした」
帰りのバスを待ちながら今日の事を楽しそうに振り返る。そんな彼らを見ながら、ライは少し離れた場所で端末を動かす。次のバスは30分後、まだ少し時間がある。
ふと、風が強く吹いた。目に入らないようギュッとつむってから開くと、周囲の雰囲気が変わっているのに気が付く。
みんなが、いない。
その事に戦慄するライ。一人一人名前を呼んでみるが返事はまるでなし。それどころか人の気配が微塵もない。まるで、自分ひとりが世界に取り残されたような感覚の中、感じた気配に振り返る。
「やぁ、元気そうだね」
笑顔を浮かべる、兎が一人。
「…これは、貴女の仕業ですか?束さん」
「おやおや、随分と警戒するんだね?」
おどける束。
「…貴女については、わからないことが多すぎる」
「ほう、なんでだい?」
「まず、一夏の存在だ。彼が何故ISを使えるのか・・・・ISは本来女性にしか起動できない仕組みの筈。それが男である彼に動かせた。ということは、彼自身に特別な何かがあるか。ましくは貴女が直接関与しているかのどちらかしかない。今のところ、一夏にその兆しはない。となれば・・・・」
「私がいっくんをIS学園に行くよう仕向けた、と?」
試すような束の態度と視線にライは真っ向から対峙する。
「ん~それはイイ線言ってるね。でも半分正解で半分間違いなんだよラー君」
「・・・・どういう意味です?」
「それはこの先いずれわかることさ。もちろん、箒ちゃんのこともね」
「…彼女にも何かあるというのか?」
ライの問いに再びおどける束。
「でもラー君、他人のこと気にするよりまずは自分のこと気にした方がいいんじゃない?」
その呟きが聞こえたのは、ライの耳元。束との距離はいつの間にかゼロである。それまでや約5mほど空いていた距離が一瞬にして、だ。突然のことに距離を取ろうと足を動かすライだが、束の女とは思えないほどの腕力で抱きしめられているため動けない。この腕力はいったいどこから来るのか。
「いい加減気づいてるんじゃないの?自分の変化に。もうラー君はみんなの中には戻れないよ。いずれ私を求めるようになる・・・・」
その呟きは、酷く甘く、艶やかで。その顔はあの時と同じ、でも歪んだ笑顔で。
触れた唇が、とても甘ったるく感じた。
「ん~、やっぱりラー君はいいね!あの魔女に渡すには実に惜しいよ」
次は心底楽しそうな笑顔で。コロコロ変わる束の表情。だが唯一変わらないのは纏う雰囲気。相手の思う壺でペースを終始握られっぱなしのライは引き出せない情報に歯噛みする。
ISの開発者にして現状全ての元凶と言っても過言ではないその人物を目の前にして何もできないとは。いっそのことギアスを使おうかと思い至ってみるも、そうできないことに気が付く。
「何やら驚いているみたいだけど、ラー君の切り札は最初から封じてるからね。今こうして私と話している限りその手段は使えない。かといって会話を切ったところで使えないからね?いや~こんなに教えちゃうなんて私ってすっごく親切だと思わない?」
嫌に楽しそうな束を睨む。それに我感ぜずと上機嫌にクルクルと回る束。さながら踊るかのようなその行動はライの思考を乱す。
「貴女は一体何だしたいんだ?ここまでしておいて、貴女の望むものはなんだ」
「・・・・私はね、ラー君。この世界が嫌いなんだよ。だから・・・・――――」
もっと楽しくしたいんだ。そう呟いた時、世界は姿を変えた。再び風が吹いて、目を開く。
「な、なんなんですのあの風はっ」
「随分の強かったな…季節風ってやつか?」
聞こえてきた声に振り返る。一夏、箒、鈴、シャルロット、モニカ。ラウラ、そしてセシリア。その姿を見てライは心底安堵する。
「どうかしましたか?」
モニカの問いに首を傾げる。その後の一夏の「顔色が悪い」という言葉にハッとなるがすぐに表情を笑みに戻し「大丈夫だ」と返す。今日はたくさん遊んだし、疲労がたまっているんだろうと流す一夏。それがあえての事だと悟る者は誰もいない。
「あ、バスが来たよ」
シャルロットがバスが来たことを知らせる。置いていた荷物を手に乗り込む最中、ライがふと何かを思い出したようにバスから降りていく。
「ライ、どうかしたのか?」
「すまない、忘れ物をしたみたいだ。次のバスで行くから、織斑先生に伝えておいてくれないか?」
「あ、それならボクも――――」
「わたくしが残ります」
シャルロットが付き添いで名乗り出ようとしたところを遮ってセシリアが名乗り出る。不服そうな目で見上げるシャルロットにセシリアは、
「シャルロットさんはまだ躰が本調子ではありません。代表候補生たるもの、一流のレディたるものは己の体調管理は必須ですわよ?」
と返す。それに何も言えないシャルロットは仕方がないと苦笑し「ライをお願い」と返す。それにセシリアはスカートのすそをつまみお辞儀をしてからバスを降りる。扉が閉まり、バスが発車する。その姿が見えなくなるまで見送ったあと、セシリアが口を開いた。
「見え見えの嘘は良くないですわよ」
「・・・・なんのことかな」
「とぼけないでください。今日に限らず、イギリスから帰国して以来ずっと様子が変です。わたくしにはわかります」
隣を見れば、意志の強い瞳が此方を見返していた。
「もうこの際、何があったのかは訊きません。ですがッ。もっとライさんはご自分の事をもっと大切になさってください!」
口調が強くなり、瞳が揺れる。蒼く揺れるそのパッチリとした瞳の中には、自分の姿があった。
「貴方の背負っている物を、わたくしは背負えないかもしれない。抱えている物を理解できないかもしれない。だとしても!貴方の傍にいたいんです!貴方がわたくしにしてくれたように、今度はわたくしが貴方の傍にいます!だから!」
手を握る。強く、ただ強く。ありったけの想いをこめて。
「…どこにも行かないで。ここにいてください。・・・・もし貴方が全てを忘れてしまうなら、わたくしが貴方を覚えています。貴方と、その全てを覚えています」
「・・・・どうして、キミはそこまでして僕を?」
問われ、少しの沈黙。そして――――
「・・・・好きなのぉ・・・・誰よりも、好きなのよぉ・・・・!」
言葉にした瞬間、支えていたものが崩壊したかのようにセシリアの目から大粒の涙があふれ出す。崩れそうになるセシリアを支え、セシリアはライの腕の中で泣きじゃぐった。
それから、しばらくして。ようやく落ち着きを取り戻したセシリアは自分でやったことに恥ずかしくなり顔を真っ赤にして俯いたままとなりに座っている。中々いい話題と切っ掛けが見つからない中、ふとライは口を開く。
「・・・・ありがとう」
「はい…?」
「初めてだったんだ。誰かに面と向かって好きと言われたのは」
恥ずかしくなってさらに顔を赤くする。
「え、えっとそれは・・・・」
「まだよくわからない。キミの気持ちにどう答えたらいいのか。でも、きっといつかさっきの答えを言わせて欲しい。時間がかかることになるけど・・・・いいかな?」
「も、もちろんです!」
セシリアの返答に微笑むライ。エンジン音を響かせながら最終のバスがやってきた。そのバスに乗り込む最中、不意にライが立ち止まる。どうしたのかと首を傾げる。振り返り、手を差し出してきた。
「帰ろう。セシリア」
「――――ッ、はい!」
その手を取り二人はバスに乗る。道中、学園に着くまで二人は手を繋いだまま帰った。