Fate/strange fake Prototype   作:縦一乙

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day.09-12 白

 

 

 意外にも視界の中から肯定の言葉は聞こえてきた。

 その質問に答えたのは女。白い髪に白い肌、紅玉の瞳に凍えるような存在感。その四肢も含めて絶世の美人としか形容できないが、作り物めいた印象はどうにも拭えない。

 ソファーに優雅に腰掛け、暢気に紅茶などを嗜んでいるが、人形が人間の真似をしているようにしか見えない。今の今まで気付くこともなかった紅茶の香りを愉しむ所作も、どこか白々しく思えてくる。

 

「いつからそこにいたのかね?」

「最初から、よ」

 

 ソファーは大きめのものであるが、元々四人がけ。幹部三人がそれぞれ座っていたが、その全員がこの女の存在に気付くことなく真横で顔色を赤や青に変えていたのだ。間近で見物するにしてももう少し面白いものもあっただろうに。

 

「魔術師でもないというのに、よく暗示の存在に気がついたと褒めるべきかしらね」

「職業柄、人を見る目はあるつもりなのでね」

「あなたがそれを言うと重みがあるわ」

 

 クスクスと笑いながらもその顔は笑っていない。どこか冷え込んだ微笑を返すように嘆息する。

 

「一応言っておくと、あの暗示は深くて強力よ。時間と共に効力は薄らいでいくけれど、無理矢理解呪すると心が欠けてしまうわ。やっかいなことをしてくれるわね」

 

 まるで他人事のような物言いは言外に私は解呪を行わないと断言していた。それでいてこの女が言っていることが本当だとすれば一大事だ。あの幹部を抜きに話を現場に通すことはできない。

 自国のことながらスノーフィールドと早急にホットラインを設置するとなると、テロ支援国家にホットラインを結ぶことよりも難しいかもしれない。

 

「誰が仕掛けたのかくらいの目星はつくわ。“彼女”が誰か、教えてさしあげましょうか?」

 

 意味深な女の発言にしかして男は相手をしない。それを今この場で推理しようと対処するだけの時間はないからである。連れないわね、と女はいじける所作をとるが、それもまた白々しい。

 

「ならばこちらも一応聞いておこう。

 この報告書を信じるなら、残ったサーヴァントはアサシンただ一体だけだ。これでは君がわざわざ用意した小聖杯が起動する保証はないぞ?」

 

 ライダーとバーサーカーは数日前に消滅。アーチャー、キャスター、ランサーは本作戦に巻き込まれたと報告書にはある。残ったアサシンだけでは聖杯の起動に足る中身は期待できない。

 そもそも聖杯戦争のルールに照らすと、生き残りが一人の段階で優勝が決まったのではなかろうか。

 

「あら。報告書の内容を信じているのかしら?」

「無視はしていない、というくらいだ」

 

 遠く離れた地にある頭は、現場の手足を信用していない。以前から別の諜報機関を使ってそれとなく幹部連中を監視しているし、何より彼らにも内緒で目前の彼女をとこうして繋がっているのだ。これくらいの保険は当然だろう。

 

「このまま大人しく終盤戦となれば、私の出る幕はないだろう」

「このまま大人しく終盤戦が始まるとでも?」

 

 その均整のとれた唇がからかうような声が漏れる。

 生き残ったアサシンとファルデウスの激突――など、そんな単純な決勝戦になるとは到底思えない。

 理由は幾つかあるが、そのうちのひとつは目の前の女にある。

 

「君達も大人しくするつもりはないのだろう?」

「あらあら。どうやら勘違いしているようね。我々は今回の件について殊更介入しているという認識もないわ。故に次を用意するつもりもなく、我らが願いをここで成就させるつもりもない」

「その言葉を信じろと?」

「無視はしない程度に信じてくれればいいわ」

 

 先の言葉を返すように、女は仮面の下の素顔を覗かせる。

 

「ただ粛々と、淡々と、我等は我等が成すべき事をするだけよ。より良い選択を試みることは無意味。勝利も敗北も、最悪も最善も、そんなことに頓着しているステージではないのだから」

 

 それは事実上の勝利宣言に近いものだが、それによって彼が何かをすることはない。

 黒幕は隠れてこそ黒幕。出てきたらただの一兵卒になることを、彼女達は過去の聖杯戦争からよく知っている。

 

 故に、アインツベルンがこの戦いで表舞台に立つことは決してない。

 

 その意味を、彼は正しく理解していた。

 アインツベルンとの接触は組織としてではなく、個人として行ったものだ。この戦争のための安全策のひとつとして、彼はアインツベルンと手を組んだ。そのおかげですでに十分すぎるほどの利益を得ることに成功している。多少強引であってもこれで完全に幕引きを行えるなら、アインツベルンに全て奪い取られても良いくらいである。

 カチャリ、とソーサーの上にティーカップが置かれた。話は終わったということらしい。こちらとしてもこれ以上の話はない。

 

「この資料、持っていくかね?」

「お気遣いは結構よ。ゴミを押し付けないでくれるかしら?」

 

 非常識な登場の仕方をしたというのに、退場は実に常識的だった。ソファーから立ち上がり、ドアを開けて歩いて去って行く。やはり挨拶などをすることはなかった。

 そして女が退場するのと同時に、筋骨隆々の秘書官が入れ替わるように登場してきた。タイミング的には女と絶対にすれ違っている筈だが、彼がそのことに気付いた様子はない。女が魔術を使ったのか、それとも単純に彼がそれだけ焦っていたということだろうか。

 

「申し訳ありません、スケジュールにミスがあったようです」

「構わんよ。私は君を折から完璧超人と思っていたが、こうした人間らしいミスを見ると安心する」

 

 私の確認ミスです、と平謝りする無骨な秘書官に笑って応じる。どうせ、ここを出入りした幹部の周りにいる魔術師か、あの女が誤認させたのだろう。どうやら奴らは世界中が自分の庭であるとでも思い込んでいるらしい。

 

 外にあっては敵と味方の違いは明確だ。だが、内にあってはおいそれと線引きできるものではない。

 星条旗(スターズアンドストライプス)の下には複数の矛盾した意志が存在する。彼は確かにトップであろうが、それは多頭竜の中で一番頭が大きく従う首が多いという意味に過ぎない。その体に強力な毒があることを忘れてはならないのである。

 世の中、何もせずして成功することはない。ツテとコネ、根回し手回し下準備、時間と金と権力と人間関係に対して万難を排して挑んでこそ、成功へと繋がっていくものである。それで失敗してしまったのであれば、それは単純に想像力の欠如か、そもそも運が悪かっただけなのだろう。

 

 さて、なら原因はどちらなのだろうか。

 失敗は確定していない。それだけが救いだが、成功にほど遠い現状を思えばいつ失敗してもおかしくはなかった。それでいて思い描く選択肢はどれもこれも対処に困るものばかり。

 現状、具体的にできることは現場との回線を復帰させることだけだが、これは自分の仕事ではなかった。今、自分にできることは、スノーフィールドが消滅した場合に、どう言いわけをするのか考えることだ。

 

 それが、彼――米国大統領の仕事である。

 

 山積する内外の課題よりも少しだけ長考しながら、彼は己のミスを嘆く無骨な秘書官を慰めるべく、少し早足で執務室を後にした。

 結局頭の中に浮かんだ選択肢を言葉にすることはなかったが、大統領はその最悪のシナリオが進みつつあることを、まだ知らなかった。

 

 

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