Fate/strange fake Prototype   作:縦一乙

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day.10-01 王の財宝

 

 

 北部丘陵地帯、原住民要塞にはその広大さ故に休憩所兼食堂が複数ある。

 特に要塞南口付近にあるこの場所は指折りの開放的空間である。普段であれば日の出前の最も冷えるこの時間であっても賑わいが多少なりともあるのだが、現在利用しているのは二人きりだった。

 理由は簡単で、現在この要塞を維持するだけの人員が足りなくなったからである。ただでさえ広い要塞を少なくなった人員で効率よく使うため、不要な施設のいくつかは閉鎖せざるを得なかったのだ。

 ここも南側に面しスノーフィールドを一望できるが、その分襲撃された時に被害を受けやすいということで食堂の調理機器はそのままに、放棄することが決定された。

 それだけに、人目を気にすることなく密談するには適した場所だった。

 

「まったく、原住民のくせに食文化は普通のアメリカ人じゃねえか。なんかスノーフィールドならではの食い物とかねえのかよ。ニシンの発酵食品みたいなインパクトのあるもんがよー」

 

 そんなことを愚痴りながら、キャスターは棚の奥底にホコリを被った業務用ツナ缶(2キロ)に目を付けた。他にも保存食はいくらでもあったが、迷うことなくそれを手に取る。

 

「……キャスター。あなたは確か美食家としても有名だったのでは?」

「おう。美食事典も出版している。だが業務用ツナ缶は食べたことがない」

 

 金に物を言わせて象の足(史実)まで食べた英霊は鼻歌まじりに缶の蓋を開けた。当然、業務用になったことで味が変わる筈もない。せいぜい匂いが強烈になるくらいである。

 

「いるか?」

「結構です。自前で用意しているのが見えませんか?」

 

 キャスターの奇行に呆れながら、その人物は予め他の食堂から持ってきた食事を外見年齢に似合わぬ落ち着きを持って食べ始める。

 手にしているのは僻地での作戦行動時に軍などが支給する戦闘食。少量でありながら高カロリーで高タンパク、栄養バランスにも秀でている代わりに口当たりはひたすらに悪いと評判の代物。鉛筆を囓ったような薬臭さが周囲に拡がる。

 業務用ツナ缶が放つ圧倒的な物量を持ってしてもこの匂いは消せそうにない。

 

「……ライダー、もう少しマシな食事は選べなかったのか?」

「カロリーと栄養価を優先しました。が、椿に意識があれば絶対に食べないでしょう。私も食べさせたくはありません」

 

 匂いだけで顔をしかめるキャスターにライダーは率直な意見を述べた。味覚についての情報をライダーはあまり持っていないが、それでもこれは不味いのだろうとはっきりと理解できる。

 

 現在、繰丘椿の身体をコントロールしているのはライダーである。

 マスターである椿自身は三面作戦の終了後にその精神的疲労から深い眠りについている。ライダーはその間に身体の疲れを少しでも取り除くべく栄養摂取を行っている最中である。

 三〇回咀嚼してからの嚥下が規則正しく機械的に行われていた。

 

「安心してください。キャスターの助言通りにしてますよ。椿を起こすようなことはしませんし、頭の中を覗き込む真似もしてません」

「そうしてやってくれ。その方がこちらとしても都合が良いし、繰丘椿にもプライバシーは必要だ。夜までに起きないようなら、俺がなんとかしてやる」

「あなたが人を慮るとは世も末ですね。それを現代の世でなんと言うのか知っていますか?」

「ギャップ萌えだろ」

「死亡フラグです」

 

 死ぬのなら椿の迷惑にならぬよう死になさい、とライダーは冷たい視線で言外に付け加える。キャスターはキャスターでそしらぬ顔で視線を逸らした。

 もっとも、キャスターはある意味英雄王以上に唯我独尊男である。この劇作家が他者を慮っているように見えるのなら、それは騙されているだけに違いない。

 

「……それで、キャスター。そろそろ私を連れ出した理由を教えていただけませんか」

 

 機械的に行動し感情を持たぬライダーではあったが、キャスターがわざわざこのタイミングで声をかけた意味が分からぬ筈もなかった。

 

「念のため言っておきますが、我がマスターは男性経験がないので私の一存で花を散らせることはできません。椿が許可を出しても許しませんが。

 ああ、あなたがナブコフやキャロルの眷属だと公言するつもりはないので安心してくださいこのペド野郎」

 

 分かっていなかった。

 

「人気のない場所にわざわざお前を連れてきたのはそういう意味じゃねぇよ!」

「こう見えて私は忙しいのです。栄養を摂取し終えたら脱糞し直腸まで綺麗にし、シャワーを浴びながら自慰行為で性欲発散をさせ、心身共にリフレッシュさせる予定が詰まっています。

 キャスターがどうしてもというのならあなたの痴態を見ながらの罵倒ぐらい百歩譲って付き合いましょう。この食事が終わるまでですが。視覚と味覚を独立処理させますから、大丈夫です。我慢します」

「お前平気な顔して何言ってんの!?」

「円滑な人間関係に冗談は付きものでしょう。まさか本気にしましたか? 椿の使用済み歯ブラシでよければ下賜するのも吝かではありません。次回召喚される時の触媒になるくらい愛着を持つように」

「無表情で台詞が棒読みでなければ安心して冗談だと受け止めるられるがな! あとさり気なく俺のこと汚物扱いしやがったな!?」

 

 玩具を自慢する子供のようなライダーの言動に、キャスターは声をかけたことを半ば本気で後悔する。同盟関係上、戦果の報告はすべきだと少しでも思った自分がバカだった。マスターに対して嘘ばかりついていたことを真摯に反省するキャスターである。彼だって反省するのである。

 

「それで、今回の三面作戦は成功か失敗のどちらですか?」

「要点を理解してるなら俺の精神をズタズタにしないで貰いたいなぁ……」

 

 先ほど冗談を言った口ぶりのままで、ライダーはこの現状に対して成功か失敗かを問うてくる。テンションの落差についていけなくなりそうだが、そうもいくまい。じっと見つめ続けるライダーの視線に、どこまで話したモノかとキャスターは思案する。

 

「……傍目から見たら、間違いなく失敗だろうな」

 

 この作戦で署長とアサシンは敵の捕虜となり、原住民の部隊は壊滅。対してファルデウスが失ったのは捨て駒として利用した二十八人の怪物(クラン・カラティン)くらい。三面作戦とあるが、その全てにおいて敗北したように見えても仕方がない。原住民側は既に敗戦処理に走っている節もある。

 だが、それでもライダーはこの現状に成功の可能性を見いだしている。

 

「傍目から見なければ?」

「かろうじて辛勝ってところか」

 

 キャスターの言葉に嘘偽りはなかった。

 キャスター達の目的はお題目であるティーネの救出……などである筈がない。

 それも確かに目的の一つであろうが、最大の目的はアーチャーの宝物蔵を奪い取ることにあった。そのために必要であったのはお前の物は俺の物(ジャイアニズム)を使うための魔力の調達である。

 この砦の中にはライダーに感染していない健康で魔力を持った人間が数百人もいた。署長が椿を連れて砦を訪れたのも同盟のためではない。その健康体にライダーを“感染”させ、キャスターに魔力を供給するため。それ以外に関してはことごとくオマケでしかないのである。

 

 そんなわけで、キャスターにとって戦闘そのものの勝敗など些末に過ぎない。目下問題とするべき被害はアサシンと署長が捕まったことである。

 アサシンについてこちらから知る術はないので可能性に過ぎないが、署長については契約のパスから様子は少なからず把握できる。大怪我を負っているが生きているので虜囚となったのは間違いない。

 

 次の目的としていた時間稼ぎは、スノーホワイトが停止したことから辛くも達成されている。これでこちらがすぐさま全滅する可能性を大幅に減らすことには成功した。この時間差がなければ、こちらに勝機はない。

 

「解せませんね。確かに署長とアサシンを失ったのは痛い。しかしバビロンの宝物蔵を奪うことに成功し、時間稼ぎもできたのですから、あの場での目標達成率は一〇〇パーセントに近い筈。

 これのどこが辛勝なのですか?」

 

 細かいところを全てすっ飛ばして、ライダーは核心を突いてくる。

 アーチャーの宝物蔵。

 ライダーの魔力量。

 ただでさえ非常識な「物量」が二つも結びついる。危険度はかけ算どころか乗算。おまけにこの事実を知っているのはここにいるキャスターとライダーだけ。あれだけの敵であろうと、最初の一撃で勝負を決めることも十分可能である。

 

「いや、それがな……」

 

 やや気まずそうな顔をしながら、キャスターはおもむろに食べかけのツナ缶を横にして、その手のひらを上に向ける。

 空間が波打つ。その現象は間違いなくアーチャーが使っていた王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)によるもの。だが、キャスターの手の中には突然現れたようにも見えたソレはライダーが予想していたものとは多少趣が異なっていた。

 コトリ、とキャスターは蔵から出したモノをツナ缶の横へと置いた。

 それは石だ。握り拳ぐらいの大きさの石。どこにでもあるような、普通の石。王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)から出てこなければ、それが特別なものであるとライダーは判じないだろう。

 

「……触っても?」

 

 念のためキャスターの了承を得て、慎重に手に取ってみる。

 噂に聞く賢者の石かとも考えるが、魔力は欠片も感じない。重さも予想通りで、重くもなく軽くもない。指で弾いた感じでは固有振動数は一定で、質量分布にもおかしなところは見当たらない。

 間近で角度を変えてしげしげと観察しても分からない。角度を変えてみればなんとなく髑髏が浮かび上がっているように見えなくもないが、それはただの錯覚だろう。もしくは自己投影だ。

 

「分かりません。これは一体何ですか?」

 

 都合一分以上頭を捻って考えもしたが、結局ライダーは当初と異なる見解を出せなかった。

 ライダーの知識量は、そこいらの人間を優に超えている。というのも、ライダーの感染接続(オール・フォー・ワン)は感染者の知識や経験をも取り込むからである。感染者の中には鉱石に詳しい者は当然居る。だがそんな専門家の知識をもってすら、この石に特別製を見いだすことはできなかった。

 

 ニタニタニヤニヤ笑うキャスターに降参するのも癪であるが、ここで意地を張っても仕方有るまい。素直にライダーは自らの知識不足を認めた。

 やはりさすがは魔術師の英霊。十万人分の知識を以てしても、キャスター一人の知識に勝てはしないのか。

 そう、ライダーがキャスターの認識を改めたが。

 

「わからん」

「……は?」

「いや、わかんねーんだよ。これ。俺も」

 

 開き直ったような言い方のキャスターに、さすがのライダーも黙った。いや、直視しがたい答えに、しばし言葉を失った。

 

「……つまり、」

 

 たっぷり一〇秒間、わざわざ感染接続(オール・フォー・ワン)を使って考察し検証し悩み抜いた結論を、ライダーは口にする。

 

王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)、使いこなせないのですか?」

「そんなことはない。どこにどんな機能のどんな宝具があるのかさえ分かれば、使いこなすのは簡単だ」

 

 辞書に索引がある理由は、そうしなければ目的のモノを探し出せないからである。

 逆に言えば、索引のない辞書ほど不便で扱い辛いモノはない。

 

 王の財宝はここでもその物量をいかんなく発揮していた。

 

 

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