Fate/strange fake Prototype 作:縦一乙
中央作戦司令室の占拠はさほど時間がかかることもなく、容易く迅速に成し遂げられた。
敵本部といっても過言でない場所であるが、残念ながら投入された戦力に違いがありすぎた。
レギヲンの主戦力は前線である第四層に引きつけられ、後方の守りはないに等しい。バリケードの構築もなく、敵兵装はせいぜいが
司令室のある第七層に密かに辿り着かれた段階で、既に彼等は詰んでいたのである。
「被害は?」
「
「助けられた身でそれらについて文句は言えんよ。警戒は密に。わずかだが休める者は食事をとってなるべく休ませろ。ただしすぐに動けるようにだけはしておけ」
恥じるような部下の報告に署長は制圧したばかりの司令室へと足を踏み入れる。
もの言わぬ骸が七。その内六人までが銃かナイフを握り締めたまま壮絶な最期を迎えていた。
レギヲンのメンバーはクレバーな戦闘狂ばかり集められていたと聞く。中にはデルタやシールズといった特殊部隊から引き抜かれた者も数多く、この場でオペレーターを務めていた者もその例に漏れていなかった。
宝具で強固に守られている以上、
そして唯一武器を持たずに死んでいった口髭の似合わぬ指揮官風の男も、ただで死ぬようなことはしていなかった。殺される寸前まで彼はシステムに細工を施し続け、ある意味ではこの口髭男が最も
「どうだ、何とかなりそうか?」
「無理ですね……システムの初期化こそ食い止められましたが、制御権限をスノーホワイトに委譲されています」
床に倒れた死体をそのままに、未だ血糊がこびり付いたままのコンソールを操りながら部下は署長に首を振る。
この司令室をスノーホワイトより先に制圧したのは、ここから基地全体を操作できるからである。上手くいけば隔壁を解放し、
筈だった。
「キャスター、スノーホワイトはどうだ?」
「ん、ん~……やっぱこっちもダメだな。ここからスノーホワイトへのアクセスそのものができてないみたいだ」
キャスターが打ち込んだパスワードは認識されているが、スノーホワイトからは何の反応も返ってこない。ネットワーク管理画面を呼び出し接続状態を確認すれば、スノーホワイトと繋がっている筈の専用ケーブルの断線が確認できる。
「迂回はできるか?」
「メインとサブ、共に断線しているので無理だな。交換するより他はない」
「やっかいだな。事実上何もできんということか」
スノーホワイトに制御権限が委譲されたということは、この司令室で何かをコントロールすることはできないということだ。
権限の優先処理設定から取り返すことは可能だが、それには専用ケーブルでのアクセスが前提となる。悠長にケーブルを交換する時間はなく、それ以前に予備のケーブルがそもそもあるのかすら分からない。
「
「あいにくと
唯一の救いは、有線接続されている基地内のカメラはリアルタイムで把握できることくらいか。署長が仕掛けた先日のスノーホワイトによる通信欺瞞対策をしたのか、スタンドアロンのシステムとして切り替えられている。
こちらとしては好都合である。
「キャスター、お前はこれからどうする? 予定通りスノーホワイトを確保しに行くか?」
「それしかないだろうさ。それに少々ジェスターの奴には文句を言わなきゃなんねえ」
基地内をモニターしたことで各所の戦闘状況が明らかになった。
第四層でレギヲンとヘタイロイが鬩ぎ合い、メインシャフトから基地外縁施設へと侵入した重装甲パワードスーツ部隊がライダーと交戦中。ジェスターが予想よりも遅いながらもスノーホワイトに辿り着き、周辺の敵を掃討している。
そして第八層。
そこで署長と同じく開放されたアサシンとティーネが、ランサーと対峙していた。
「ジェスターの奴、わざとランサーの存在を教えていなかったんだろうぜ」
「ランサーがわざわざ敵対するとも思えん。これは銀狼を人質に取られたか、令呪をファルデウスに奪われたか。あるいはその両方か」
何か裏があると睨み、スノーホワイトを後回しにして司令室を先に抑えたのは正解だった。ジェスターがこちらと同行せずに一人動いていたのは、ランサーをこちらとぶつける腹積もりだったからに違いない。
いや、むしろアサシンとぶつけるためか。
「銀狼の令呪は確か残り一画だった筈だ。銀狼さえ保護できれば交渉材料になるかもしれねえぜ?」
「その可能性は高いな。試す価値はある」
キャスターの案に署長も同意する。
銀狼の令呪を奪ったとしても、それでランサーが素直にそれに同意するとも思えない。無理強いするなら令呪を使う必要もあるが、一画だけではそれも無理だ。だからランサーがファルデウスの思惑通りに動くことはない。
その証拠に、この危機的状況にあってランサーは後詰めにしてはさほど意味のない場所で待ち構えている。
ランサーがいる第八層は“偽りの聖杯”が眠る第九層への緩衝のための層。神殿めいた巨大な柱が立ち並ぶ、広大なだけの空間がそこにある。
ここまで侵入されれば重要施設である司令室やスノーホワイトが制圧されてしまう可能性が高い。事実、司令室は制圧され、スノーホワイトは制御こそ奪われていないものの、ジェスターによってスタッフは排除されつつある。
ランサーには交渉の余地がある。戦闘に発展しなければ時間稼ぎくらい付き合ってくれるかもしれない。
「ふむ。ならばここは隊を四班に分けるか」
「おっと。俺はてっきりここは放棄すると思ってたんだがな」
署長の考えにキャスターは意外そうな顔をした。署長が戦力を四分するのはやるべき事が四種類あるからだ。
第一班はスノーホワイトの制圧。
第二班は銀狼の探索、そして保護。
第三班はこの司令室を堅持。
第四班は司令室から各所へ有線通信網を構築。
妥当な目標設定であるとは思うが、あいにくとそれを実践するには戦力が足りない。
この場にいる戦力はキャスターと署長を除いて二八名。これを仮に四等分すれば一班七名となる。戦力の分散は部隊の危険度を上げることに直結する。当初の優先順位を考えるなら、この何もできぬ司令室は放棄して第三、第四班をなくすべきだ。
「優先すべきはスノーホワイトだろう。俺としてはいっそのことこの場の全員で制圧に向かうべきだとすら思うぜ」
「装備が万全ならそれも考えるが、魔力も弾薬も心許ない。やはりあの強行突破で無理をしすぎたな」
署長とキャスター達がこの場に短時間で来ることができたのは、ジェスターからの情報で手薄となっている場所が分かったからだ。そこをティーネとアサシン、
こうした強行突破はアサシンと署長の救出前にも何度も行われている。基地内を時折揺るがす衝撃はそうした
「幸いカメラは生きている。ここから連絡が取れれば援護にもなるし、市民の脱出もよりスムーズになる」
これ以上の攻勢を強めようにも現状では戦力不足。だからこそサポートに回るべきだと署長は言う。しかしそうすると、先ほどの班分けでウェイトが大きくなるのはむしろ第三、第四班となる。
「……もしかして、さっきの質問は今後の
「言ったろ。『お前は』どうするのかって」
署長の案だと、スノーホワイトの制圧人数はキャスター一人だけとなる。
やはり救出するべきではなかったと、キャスターは半ば本気でそう思う。
スノーホワイトは既にジェスターが敵を蹴散らしているし、キャスターには防御専用宝具がある。人員配置を考えれば途中レギヲンに襲われる心配は少なく、ただ辿り着くだけなら問題はない。
心配なのはキャスターがスノーホワイトへかかりっきりになる瞬間にジェスターが何をするか、だ。
キャスターが全員でスノーホワイト制圧へ向かうのを提案した理由のひとつが、ジェスターに対抗するための保険である。
いっそのことスノーホワイトを諦めるべきだとすら思うが、署長が敢えてそれをしなかったのは、ジェスターの牽制は必要だと判断したからだ。
つまり、キャスター一人でジェスターを抑えろということらしい。
「今ライダーと戦っている重装甲パワードスーツ部隊はヴァルキリー構想とかいう時間経過と共に成長する戦域支配システムだ。スノーホワイトを操れるお前でないとあれは止められん」
「お前も少しできるだろうが!」
「この慣れない腕で細かな操作はできん」
署長に取り付けられた人形の右腕は確かに良い仕事をしている逸品ではあるが、負傷から時間が経っていることもあって神経接続が不完全である。銃に手を添える程度はできるが、その程度の戦力でしかない。
キャスターが用意しておいてくれた宝具のおかげで足手まといこそ免れたが、あれはちと扱いが難しいものである。スノーホワイトというバックアップがなければ活かせぬ類のものだ。運用に難がある以上、それをここで使うつもりはない。
「せめて護衛をつけくれ」
「ジェスター相手に護衛など何人いても無駄だ。諦めろ」
ついに泣きついてきたキャスターににべもなく署長は無情にも首を振る。
「それに我々の目的は“偽りの聖杯”そのものだ。そのためには邪魔が入らぬよう全サーヴァントと令呪を持つマスターを探索するのが優先だろう」
作戦の立案にこそ携わっていないが、計画を遂行する現場指揮官として署長の判断は正しいといえた。
ティーネと別れる際に署長は
状況は
通常戦力によって穏便に“偽りの聖杯”を確保するプランAは破棄。“偽りの聖杯”に強固な封印を施すプランBへと移行する。
当初遂行していたプランAで邪魔となるスノーホワイトも、第九層封鎖によって手出しができなくなるのならその意味では脅威とはなり得なくなった。その代わりに、危険度が増しているのはこちらに協力的でないマスターとサーヴァントである。
それを睨んだ上で署長がティーネに任されたのは司令室の占拠、そして危険人物の所在確認、そして排除である。
「ファルデウス。我々はまだ奴の姿を確認すらできていない……!」
この司令室を襲撃した時には、既にファルデウスの姿はなかった。指揮を執っていたのは口髭の男で、周囲の痕跡からはかなり前からここにはいなかったようである。
ここでファルデウスが無目的に動くとも考えられない。
署長が最も力を入れなければならないのは、ファルデウスの確認だ。そのためにはこの司令室は確保し続けなければならない。有線で各員と連絡つけるのも、戦況を有利に運ぶというより眼の数を増やし発見を容易にさせるためである。
ここでランサーを視認できたことは僥倖ともいえた。やや“偽りの聖杯”に近いことがネックだが、ここでならランサーの動きは逐一確認できるし、何かあったとしてもアサシンとティーネがすぐに対処することができる。
「すぐに隊伍を編制する。キャスター、魔力は十分にあるな?」
「待て、話を進めようとするな。俺は行かねえぞ」
「よし、問題ないようだな。ルートを確認させるから二分待て。」
「聞けよおい」
――などと今後の戦況における意見交換を行っている署長のキャスターの間に、一つの報告が飛び込んでくる。
「マスター、状況に動きがありました!」
「どうした?」
問う署長に対し、戦況監視を続けていた
「ジェスターが
「ジェスターからランサーへ?」
訝しむキャスターであるが、しかし署長はジェスターの真の狙いを理解する。
ジェスターはアサシンを慮りながらも、その現状には満足していない。ジェスターはアサシンのためなら世界さえも犠牲にする。
ジェスターの狙いは、アサシンに最後の試練を与えることだ。
「ランサーはどうしたっ!?」
脳裏に巡る最悪の予想を裏付けるかのように最悪の報告は行われる。
「ランサー、アサシンと戦闘を開始しました……!」