Fate/strange fake Prototype   作:縦一乙

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day.11-09 ランサーVSアサシン

 

 

「下がりなさい、ティーネ・チェルク!」

 

 ランサーの創生槍を受け止めたのはアサシンだった。

 およそ前衛には向かぬサーヴァントであるが、それでも生身の人間であるティーネよりかは適正がある。

 魔力を秘めた現代風の大振りナイフ二本を交叉させて、アサシンはランサー渾身の一撃を受け止めた。それだけでナイフに罅が入るが、突風めいたランサーの動きを止めることにはなんとか成功していた。

 

「手加減はできません、ランサーッ!」

 

 そして説得を試みたわりに攻撃の機をティーネが逃すことはなかった。

 ティーネの叫びと同時にランサーの全身が激しく燃え上がる。衝撃を逃し斬撃を殺す天の創造(ガイア・オブ・アルル)であるが、こうした純粋属性による攻撃は程度の差こそあれ低減させるだけで無効化はできない。上位の宝具であっても無傷の自信はあったが、ティーネの一撃はそれ以上の威力を持つ。

 惜しむらくは、ランサーがその程度で怯む相手ではなかったことか。

 

 鋼鉄をも蒸発させる焔に舐められながらも、ランサーは構わず創生槍を繰り出し再度の前進を開始する。長柄の武器にあって間合いを詰めるのは自殺行為だが、今のランサーはティーネの焔に身を包まれており、迂闊に近付くことはできない。仕方なく、アサシンは後退せざるを得なくなる。

 ティーネの攻撃を逆手に取ったランサーであるが、アサシンにしてもここで永遠に縫い止めることなど考えていない。ほんの数瞬の時間稼ぎでティーネは大きく後退することができた。

 ティーネが安全圏へ退避したのを確認し、アサシンも限界に近付いたナイフを投擲しながら大きく後退する。

 

 あからさまな、罠。

 追撃するには容易く、敵の手に武器はない。追うべき獲物は直線上にあり、伸縮自在の創生槍ならどちらかは確実に貫くことができる。

 ランサーが躊躇することはなかった。全身が黒焦げになって尚燃え盛り、その頭部をナイフで貫かれ視界を閉ざされながら、ランサーはその動きを止めようとは欠片もしなかった。

 

 神霊並の魔力を持つティーネ。奥の手の多いアサシン。そんな警戒すべき二人がわざわざ左右に分かれることなく直線上に被って誘っているのだ。

 綺麗な薔薇には棘があり、美味い河豚にも毒がある。

 さて、この二人には何がある?

 

 ここでの最悪手は躊躇することである。躊躇は容易に身体の動きを阻害し、決定的な隙を産みかねない。泥人形であるランサーであってもそれが皆無だとは思えない。故にそれを回避したのは英霊としては当然のことであろう。

 しかして、ここでの最良手は蓋を開けてみないことには分かるまい。罠がある場合、このまま追撃しひっかかればただのマヌケだ。ただのブラフの場合、追撃しなければ二人の思い通りに動かされたことになる。

 

 ここでのランサーの思考を読むのは至極簡単である。

 罠があろうがなかろうが、前進あるのみ。

 仮にもランサーは最上位の英霊の一人である。他の英霊とはそもそもの格が違う。いかに魔力があろうと所詮は人間であるティーネと、山の翁にもなれなかったアサシンとは、相手になるわけがない。

 それにランサーは槍の英霊。そんな彼が得意とする間合いで駆け引きを持ち出されては、応えぬわけにはいくまい。罠であろうと、正面から正々堂々食い破るのみ。むしろ後退こそ有り得ぬ選択肢だ。

 

 だからこの時、創生槍に込められた魔力は過去最大であった。

 形状の定まらぬ創生槍は魔力の多寡によって威力も異なる。宝具開帳による天命渦巻く混沌の海(ムアリダート・ギムリシュン)に及ぶべきもないが、直撃どころか射線上にいるだけで跡形も残らぬし、掠っただけでも命の保証はできない。

 単純な破壊力なら、これに比するものはない。

 

 まさしく必殺の一撃を前にアサシンは、

 

【……幻想御手……】

【……伝想逆鎖……】

 

 その一撃を逆に利用して見せた。

 

 第八層は広大で何もない。直径数メートルの柱が乱立しているだけで、中心部から外殻まで一キロ以上ある。だというのに、中心部にいた筈のランサーの体は冗談のようなスピードで馬鹿みたいに外殻の中に埋もれることになった。

 途中にあった柱は緩衝材にはなり得なかった。あまりにランサーが高速で吹き飛ばされたので、運動エネルギーを柱に拡散させる前に貫通してしまう。音速超過の衝撃波が強靭無比な外殻をも抉り、衝撃波に吹き飛ばされた床の一部が火を吹いた。

 何があった、などとは思わない。

 これでは話が違っている、とは思った。

 

「僕相手では脅威になり得ない……この結果のどこがですか」

 

 冷静に状況を分析してみるも、さすがのランサーも原型も留められぬ状態ですぐに起き上がることはできなかった。

 直情的で状況分析ができず、数多の宝具と総じて高いパラメーターもこれでは宝の持ち腐れ。直接戦闘ともなればアーチャー・ランサー・ライダーに劣り、キャスター・バーサーカーを相手にすれば翻弄されるのがオチ、と聞いている。もとよりサーヴァント戦闘では侮られやすいアサシンクラスであるが、その認識はこの偽りの聖杯戦争でも同一であった。

 そんなアサシンが心理戦をしかけ、これを見事制していた。

 

 宝具の重複起動。

 

 単一宝具しか持たぬ者にはできぬこと。過去の業を習得した彼女でしかできぬ奇跡である。

 ランサーの攻撃はその威力を数倍に膨れ上がらせた上でベクトルを一八〇度返され、山をも穿つ破壊力をここに示した。単なる衝撃であれば流し殺すことも可能だったが、瀑布の如き流れはランサーの体内へ何故か留まり続けている。アサシンによって誘導された破壊力はそのまま圧縮され、ランサーの体躯を天の創造(ガイア・オブ・アルル)ごと消し飛ばそうとしている。

 

 ランサーが知るよしもなかったが、アサシンに関する情報は少々古い。

 アーチャーへの奇襲から見切りの遅さを自覚させ、椿を庇った超距離狙撃から秒速一五〇〇メートルの弾丸の精密カウンターを経験し、ジェスターによる一方的な蹂躙で宝具の応用を知った。

 わずか数日のことでありながら、アサシンはその天才的な才覚をもって急成長を果たしていた。

 だが残念かな。この程度のことでランサーが動揺することはない。ランサーが戦ったライダーだって、急成長どころか進化の域に達していたのだ。驚嘆すべきことかもしれないが、ただそれだけのこと。

 

「……なるほど、『対価』にしては安すぎると思いましたが、これは意外に適正価格だったのかもしれませんね」

 

 手加減というのは性に合わなかったところだ。

 これぐらい歯応えがある方が、ランサーには丁度良い。

 銀狼を人質に取るような真似はしていたが、そのことに触れることなくジェスターがランサーに要求したのは、かつて約束した『対価』だった。内容は、アサシンを痛めつけ窮地に陥らせること。

 アサシンのこの強さならさほど手加減する必要はあるまい。

 そしてわざわざ本気を出す必要もない。

 

 実に全身の半分を今の一撃で吹き飛ばされながら、それでも尚ランサーは慌てることなくむしろ微笑すら浮かべ、疾駆して目前に迫ろうとするアサシンを出迎えた。

 宝具の重複起動など初めてだろう。相手の攻撃を利用するカウンターとはいえ、そのための魔力が必要ない筈がない。コンマ一秒の狂いも許さぬタイミングに気力体力も大きく消耗している筈。

 

 そんな状態にあって両の手に先と同じようなナイフを持ち、呵責ない追撃をアサシンは行おうとする。その様は獲物を捕らえようとする大鷲を彷彿とさせた。

 これで仕留めたと過信することなく機を逃さなかったことにランサーは高評価だ。今の彼女なら、朋友だって命を落とすこともあるだろう。

 

「だから君に敬意を表して、忠告しよう」

 

 舐めていたことを詫びるべく、ランサーは外殻にめり込み動けぬままに上から目線でアサシンに告げた。

 

「この程度で、僕を倒せると本気で思ったのかい?」

 

 瞬く間に距離を詰め、先とは真逆の状況でアサシンのナイフがランサーへと迫るが、その切っ先がランサーを貫くことはなかった。

 ランサーの鼻先数センチの位置でアサシンのナイフは宙に停止する。先とは逆に、アサシンの吶喊をランサーはこともなげに止めていた。

 

 逆に貫かれたのは、アサシンの方。

 

「――……ッ?」

 

 全身を貫かれ動けぬ事実に、アサシンは意外そうな顔をする。

 吐血しながら自らを貫いた正体を探るべく周囲を見渡せば、そこには撒き散らされたランサーの肉片がある。否、これは肉片などではなく、宝具天の創造(ガイア・オブ・アルル)の一部。

 

 思い出して欲しい。

 彼は人間に近くとも、人間ではない。神の宝具であり、泥から産まれた人形だ。その器は泥であり、形は定まっておらず、全体と部分の区別すらそこにはない。

 

 アサシンが狙ったランサーは、単純に最も大きい塊というだけだ。周囲にグラム単位で撒き散らされた小さな欠片を、彼女はランサーとして認識していなかった。髪や爪を切っても、人はそれに自らの意識があるなどとは思うまい。指を切っても。足を切り落としても。極論、脳以外のどこにも人の意識が宿ることはない。

 だが、ランサーは違う。

 その身の全てに意志があり、自由に動くことができる。

 天の創造(ガイア・オブ・アルル)は、その形を細い糸状に変化させ、アサシンを串刺しにしていた。

 

「おしかったですね」

 

 目先のナイフを軽くはたき落とし、ランサーはゆっくりと身を起こす。

 全身を四〇以上も貫かれながら、アサシンはまだ生きている。単純に一つ一つの威力が低いことも理由だが、何よりランサーはあえて重要器官を外していた。そうでなければとっくにアサシンは消滅している。

 

「僕を倒そうと思うなら、塵一つだって残してはダメですよ」

 

 事実上アサシン最大の攻撃手段が直撃しながら、ランサーのダメージは全体の三割にも届いていない。

 よく健闘したと、ランサーはアサシンを讃えた。ランサーの奥の手を出させたのだ。その事実だけでも大したもの。いかに成長しようとも彼我の戦力差は明白。圧倒的な格差は依然顕在なのである。

 

 だから、ランサーはアサシンを侮った。

 

 たった今、その格下相手に奥の手を出させた事実を忘れ去る。全てはアサシンの計算尽くの行動であったと分析しながら、それ以上を考えない。自らをこれ以上傷つける方法をアサシンにはないと慢心してしまった。

 ナイフを落とし空となったアサシンの手が動く。ナイフの代わりに、針となって全身を貫く天の創造(ガイア・オブ・アルル)を掴み取る。

 そして、その口角が上がったのをランサーははっきりと見た。

 後悔してももう遅い。このアサシンは、忠告という贈り物をありがたく受け取り、平然と実行してみせる。

 

【……瞑想金色……】

 

 唱えた奇跡の名は、アサシン自身すらも知らぬもの。

 歴代のハサンが極めた業に、そんな名のものはない。

 使うのも初めてなら、その効果も遠目に見ただけ。

 それでも、音に伝え聞く業よりもよほど再現は簡単だった。

 アサシンのその手が、黄金の輝きを解き放つ。

 否、その輝きは黄金そのもの。

 英雄王と対峙した、あの英霊にかけられた呪いだった。

 

黄金呪詛(ミダス・タッチ)――!」

 

 ランサーの解答にアサシンは正解とばかりにその手の魔力を解放、この世で最も忌むべき黄金が、ランサーの天の創造(ガイア・オブ・アルル)の浸食を開始する。その侵攻はゆっくりと、だが確実にランサーへと迫りゆく。

 

「何故それを!?」

 

 これは、宝具でも奇跡の業でもない、神の呪い。

 一介の暗殺者如きが扱って良いものではない。

 あまりに非現実的な光景を目の前に突きつけられ、ランサーはアサシンに問わずにはいられない。

 

「私の本質は、どうやら模倣にあると気付いた。ただそれだけのことです」

 

 何とでもないように、アサシンは神に迫る己の才覚を告げてみせた。

 考えてみれば、彼女の素養は明かであった。奇跡を生み出せぬと言われながら、彼女は過去に存在した十八の秘技を『伝聞のみ』で修得するという奇跡を完成させている。その才のどこが奇跡でないというのか。

 それが猿真似であることは認めねばなるまい。見た目ばかりで極意を解さぬ以上、その業は張り子の虎。しかし『真似る』とは『学ぶ』ことでもある。この猿真似を探求していけば、その極意を得るのも時間の問題だった。

 

 暗殺教団が最も恐れたことは、そんな彼女が異教の秘技を得てしまうことだった。異教の奥深くに眠る秘技は、経典の教えに勝る真理を保有している。教団が彼女を外に出さずにいた理由は、異教を解する可能性を恐れたのである。

 なんてことはない。暗殺教団が真に疑っていたのは狂信者である彼女の信仰心そのものだったというオチ。

 それが分かっていたから、ジェスターはアサシンにランサーをぶつけたのだ。

 

 直接戦闘においてランサーに勝てる者がそうそういるわけがない。イシュタルが送り込んできた天の雄牛すらも退けた、ウルク最強の兵器なのである。ランサーを倒すのならば、女神の逆鱗と同種の呪いでなければならない。

 故に、最強無敵のランサーを倒しうる業は、この偽りの聖杯戦争では黄金呪詛(ミダス・タッチ)のみ。

 

 直に目にしているのだ。真似るだけならアサシンの能力なら容易いこと。後はアサシンの覚悟次第となる。

 己が才覚を自覚した今、異教の真理はアサシンの意志とは関係なくその信仰心を蝕むことになる。異教の業、それも神性の呪いを扱うということは、アサシンにとって毒杯を呷るに等しい。

 

 かくして、ジェスターの目論見通り、アサシンは黄金の呪いをもってランサーを追い込んでいく。

 今更ながら、ランサーはジェスターの求める『対価』がぼったくりである事実に気がついた。

 

 

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