Fate/strange fake Prototype   作:縦一乙

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day.11-11 正体

 

 

 左足を前に出した基本に忠実なウィーバースタイルで、ファルデウスは狙いを定め、二発、三発、四発、五発、六発と、偽物に弾丸を叩きつける。

 使用されているのはホローポイント弾と呼ばれる貫通力を落として通常よりダメージを増加させる弾頭だ。人間相手に使用するなら十分すぎる威力だろう。

 

「……ああ、やはり防がれると対英霊仕様でも殺せませんか」

 

 その場から動くことすらせず、余裕たっぷりにポケットから弾丸を取り出して回転式拳銃に弾を込めるファルデウス。火力が足りぬと理解しながら、その行為を止めることはない。

 そんなあまりに無意味な光景を前に、偽者は隙だらけのファルデウスを殺すことはできなかった。

 

「貴様は一体、何がしたいのだ?」

「意外そうな顔をしないでください。ここに侵入してくるであろうサーヴァントを倒す為に決まっているではないですか」

 

 つまりあなたを倒すことですよと、さも当然のように答えるファルデウスは弾を込め終える。

 再度発射された弾丸を、偽者はわずかな動きだけで防ぐことなく全て避けてみせた。威力ばかりで遅い弾など、不意打ちでもなければ役に立ちはしない。いかに偽者といえど、偽物がサーヴァントである事実に違いはない。

 またも全弾を撃ち尽くすファルデウス。ポケットの中を探ってみるが、取り出すことができたのはたったの一発だけだった。肩を竦めて弾を込めるが、それを再度構えることはしなかった。

 

 これではどうやっても勝つことはできない。

 最初の不意打ちだけが、ファルデウスが唯一勝機を見いだせる機会だったのだ。それを逸した以上、如何に訓練を積もうと彼の実力だけで現状は打破できるとは到底思えなかった。

 

「射撃は苦手なんですよ。どちらかといえば、私はナイフが専門でして」

「ならば腰のものを抜け。私を倒すのだろう?」

「遠慮しておきましょう。サーヴァント相手に接近戦など、人間がやることではありません。

 ――けれどご安心を。あなたのお相手は、ちゃんと別に用意しています」

「その右手の令呪でも使うのか?」

「はは、あなたを相手にこんなもの必要ありません」

 

 笑って否定しながら、ファルデウスは傍らの操作盤にあるスイッチをオフからオンへと切り替える。警戒するようなことはない。配線からそれがただの電灯の電源スイッチであることは分かっていた。

 案の定、スイッチと同時に壁際一〇メートル頭上に人工の光が点る。それが第八層と繋がる貨物運搬用エレベーターの明かりだった。

 

 目を凝らすまでもなくそこに誰かが居るのはわかった。相手を用意しているというファルデウスの言葉は嘘ではなかったが、それにしてはその相手とやらの様子がおかしかった。

 瞳の焦点はとっくの昔に失っており、弛緩しきった唇からは虚ろな笑いと涎を垂れ流し、床にへたり込んだその身体はひくひくと痙攣する。失禁でもしているのか異臭もするが、もはやその異常は些細なこと。

 どう見てもサーヴァントを相手にすることなどできるとは思えない。それどころか放っておけば遠くない内に勝手に死んでいそうである。

 

「どういうつもりだ、などと言わないでください。ああ、しかし少々気恥ずかしくもありますね。意表を突いたつもりであっても、こうして見てみると意外と陳腐な手段ですしね」

「一体何を――ッ!?」

 

 ファルデウスの言わんとしていることに偽者は気付く。

 エレベーターにいる者の手にある、ただ一つ輝く令呪の存在に。

 

 そのトリックは、既にこの聖杯戦争でも扱われている。

 例えば、忠実なる七発の悪魔(ザミエル)。七発と銘打っているにも関わらず、その実鋳造された弾丸は全四〇発である。

 例えば、二十八人の怪物(クラン・カラティン)。二十八人とありながら、その構成人数は全体で一〇〇名を超えている。

 

 これは具体的な数字を挙げることで意図的に誤解を招くよう仕組まれた例だ。

 そうした思い込みを利用したトリックは、何もキャスター陣営だけがやっていたことではない。

 テレビゲームにもよくあるシステムだ。プレイヤーはゲーム開始時に操作するキャラクターをセレクトする。ゲームに登場するのはプレイヤーが選んだキャラクターで、選ばれなかったキャラクターが今後登場することはない。

 けれども、それはただの思い込みだ。選ばれなかったキャラクターが登場しない保証など、本来どこにもない。

 

 プレイヤーが一人だけだという保証もどこにもないのだ。

 

「アインツベルンが投入した五つの令呪を持った東洋人。作戦呼称は『プレイヤー』もしくは『A氏』だそうです。私が知る限りでは、年齢性別体格バラバラの十二体が確認されていますね。

 その内勝手に戦って死亡したのが五体、ティーネ・チェルクやキャスター達に確保されているのが一体、我々レギヲンが確保したのが六体――内四体は先日ライダーにやられてしまいましたが」

 

 ファルデウスの言葉が本当ならば、このエレベーター内にいる東洋人がその最後の二人の内の一人なのだろう。

 その事自体に、偽者は驚かない。

 何せ、過日にこの基地を襲撃した原住民を撃退し、昨夜に北部原住民の要塞を襲ったのは今まで見たことのない複数人のサーヴァント。そして、それを操っていたのが令呪を持った東洋人であることはとっくに確認が取れている。

 

 交戦したライダーからの情報と、当初より協力関係にあった東洋人との情報を統合し整理したことで、彼等にある四つの制約は明らかにされている。その内の一つが、『エレベーターのある建物に入れない』というものだ。

 この制約によって、この地下基地攻略における東洋人の脅威はないものと推定されていた。排除すべき不確定要素の中に東洋人の項目はなかったのである。

 

 だからこそ、偽者はそのことに驚愕する。

 ファルデウスはキャスターの策を読み切った上で、東洋人を切り札に仕立て上げていた。

 確かに、物理的に考えれば人間が『エレベーターのある建物に入れない』なんてことはあり得ない。入れない理由は強固な呪詛が、あるいは単なる精神障害か。どちらにせよ、自力で入れないのであれば、他力を使えば良いだけの話。

 

「色々と試行錯誤してみたのですよ。制約のどれか一つでも解決できれば、より有意義な切り札になり得る。おかげで一人は使い潰してしまいましたが、もう一人はこうして無事に生かすことができました」

「これが無事だと?」

「無事、ですよ。ほら、その証拠に五体があるでしょう」

 

 平然とファルデウスは自らの罪状を肯定した。

 詳細は不明だが、東洋人の様子は普通ではない。何らかの薬剤によって『処置』を施されている。ロボトミー手術をされていたとしても、おかしくはない。

 こんな有様でありながら切り札として機能していると断言するのだ。ファルデウスはやはり『プレイヤー』が持つ令呪について熟知している。既にそうした実験も終えているのだろう。

 

 これが事実であれば、状況は最悪だった。

 東洋人の令呪の最たる特徴は、条件付きとはいえどんな英霊でも召喚できることにある。後出しでジャンケンができるのだから、その優位性は揺るがない。

 

「なら、無条件に英霊を召喚できないことも当然知っているのだろうな? 召喚に応じる英霊側にも拒否権がある。この英雄王を相手にする英霊がそう簡単に喚べるわけがなかろう?」

「あなたの存在が英雄王と同等程度にやっかいであることは認めましょう。しかし、アーチャーは既に退場していますし、その雰囲気からしてもあなたは偽者です。であれば、こちらが選ばずとも喚ばれる英霊はいくらでもいます」

 

 あっさりと、ファルデウスは偽者を偽者と断じてみせた。外見と宝具から見破れる筈はないのだが、やはり問答無用で反撃せずにいたりと、英雄王にしては大人しすぎる性格が拙かったか。いや、土台あの英雄王を真似ようとしたところで真似しきれる筈もなかったのだ。

 偽者の最後の悪足掻きも限界だった。

 ここいらが、潮時だ。

 

「ならば、君達を殺すより他に道はないな」

 

 戦闘は可能な限り控えたいが、それは無理であるらしい。

 罪もない『プレイヤー』には悪いが、ここでファルデウス共々殺すしかない。

 宝物庫を再度展開させようと偽者は動くが――

 

「何を戯れたことを。私が一体何のためにこんな時間稼ぎをしていたと思っているのですか」

 

 嘲笑するファルデウスの背後に、いつの間にかパイプを片手に鷲鼻の男が佇んでいた。帽子を目深に被ってはいるが、その眼光は鋭く、強い。全てを覗き込まれている気分にすらなる。

 偽物とはいえ見間違えるわけがない。

 この男はサーヴァントだ。

 

「言い忘れていましたが、『プレイヤー』の令呪はその魔力によって英霊を現界させるため、令呪の魔力が尽きるまで消えることはありません。申しわけありませんが、私が君を撃った時にはもう召喚は終了していたのですよ」

 

 一体何度驚き、そして踊らされるのか。

 ファルデウスの言葉に、鷲鼻の男はゆったりと前に出る。

 目の前でよくよく見てみれば、男の持つ魔力は微々たるものと分かる。ただでさえ結界が張り巡らされた場所だ、これなら召喚時の魔力に偽者が気付かなかったのも無理はない。

 どこの英霊か知らないが、英雄王の蔵を前にして堂々としたものである。余程の自信があるのか、それとも命知らずなだけか。この程度の魔力でどうにかなるほど英雄王の蔵は甘くない。

 

 出鼻を挫かれたのは確かだが、何か攻撃を受けているようにも思えない。

 そう判断して、偽者は迅速に蔵を開く。これ以上の会話は相手のペースに巻き込まれるばかりだ。鷲鼻の男が今から何をしようとも、もう遅い。できることなど、末期の言葉を残すくらい。

 だから、鷲鼻の男は残された時間で言葉を操る。

 己にできる、唯一にして絶対の力を、行使する。

 

「             」

 

 魔術の発動、言霊の蛮名化――などではない。

 男は、たた暴いただけ。真実を告げてみせただけ。一切の魔力を使うことなく、ただ数分にも満たぬ観察と召喚時に仕入れた知識だけをもって、偽者の正体を、そして本性までを暴いてみせた。

 言葉通りに。

 

「な……な――……ッ!!」

 

 その事実に、偽者は震えるより他はない。

 同時に、バビロンの宝物蔵はここに消失する。

 カランと、偽者が持つ鍵剣が床に落ちて転がった。

 偽者が王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)を扱えたのは、偽者が英雄王の知識と原住民が保存していたアーチャーの召喚媒体である鍵剣を持っていたからだ。だが、今の偽者にそんな知識はなく、そして鍵剣を起動するだけの魔力も資格も失っていた。

 確率という砂漠の中にあった砂粒ほどの可能性は、今ここで鷲鼻の男が完全に消滅させたのだ。

 

 自らの手を汚すことなく彼は全てを終わらせてみせる。

 男は、世界の真理をただひたすらに暴くだけの存在だ。

 魔術など頼らずとも、知性のみによって過去を見通す。

 パイプを片手に、知識の深淵を彼は覗き見る。

 

 男の名は、シャーロック・ホームズ。

 ベーカー街221Bの諮問探偵――。

 

「さて、己の願いを叶えた気分はどうだ、切り裂きジャック(バーサーカー)?」

 

 正体を暴かれた殺人鬼を前にして、名探偵はつまらない質問をしてみせた。

 

 

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