Fate/strange fake Prototype 作:縦一乙
それはある意味では奇跡に違いなかった。
かなり特殊であることは事実だが、聖杯戦争が戦争の一種であることには違いない。しかも一対一ではなく、多対一。優勝者はただ一組のみであり、他は悉く敗者となる。その本質こそ偽られていたものの、聖杯戦争中盤まではバトルロワイヤルだったのは事実である。
だというのに、この場には盤上の駒がほとんど揃っていた。
誰もが傷つき消耗し、偽るための仮面は軒並み剥がされている。だが、欠けているわけではないのだ。
戦争終盤でありながら脱落者ゼロのバトルロワイヤルが成立し、誰が示し合わせたわけでもなく、まるで運命に導かれるようにここへと集結する。
ある者は最初から。
ある者はこっそり侵入し。
ある者は扉を蹴破り。
ある者は天井を破壊し。
ある者はただ落下し。
ある者は「どこでもドア」から。
示し合わせたかのようにこの場へ現れ出でる。
だから。
その場にいないキャスターだけが、彼らについて語ることができる。
「人物紹介をしてやろう。
エントリーナンバー1、アーチャー、英雄王ギルガメッシュ。
優勝候補ダントツ一位の最強英霊。マスターを放置して実は色々画策していたいけ好かない奴だぜ。秘薬を飲んで子供の姿になってはいるが余計侮れない相手になってるな。宝物蔵を失ってはいるが、アイオニオン・ヘタイロイ163名を引き連れて参戦だ」
「………」
床の崩壊に巻き込まれ第九層へと落ちる英雄王であるが、状況を正しく認識している。急速に遠ざかっていく朋友を見て、誰が仕組み、何があり、どうなっていくのか。だからこそ、英雄王は選択肢を間違わない。
「エントリーナンバー2、原住民族長ティーネ・チェルク。
御存知スノーフィールドのテロリスト総元締め。色々と吹っ切れたおかげで今では神霊並の魔力を手に入れた“偽りの聖杯”の巫女様だぜ。英雄王のマスターでありながら放置された反動か、今は
「………」
天井の崩落とファルデウスの言葉に、彼女は最悪を想定する。自死を選んで“偽りの聖杯”を鎮めるのが彼女の役割だが、それが通用しない場合がある。状況を確認するまでは迂闊に死ねない。彼女はひとまず自らの身と
「エントリーナンバー3、ランサー、神造兵器エルキドゥ。
翻弄され、拐かされ、騙され、嘲笑されてはいるが、実は実力ナンバーワンの苦労人。運が悪かったのは確かだが、強さ故の驕りがあったのは否定できないな。令呪によって理性がなくなったおかげで本来の力を取り戻している。狂戦士化しての参戦だ」
「………」
既にランサーの理性はない。この事態に嘆くこともなければ、後悔することもない。マスターがどうなったのか、朋友が誰だったのか、命よりも尊く大事であったものが塵芥へと消えて逝く。やるべきことは、ただひとつだけ。
「エントリーナンバー4、合成獣の銀狼。
序盤から死にかけていた空気の読めるイカした奴。俺はよく知らないが、夢世界では結構活躍したらしいぜ? ランサーの精神的支柱になれるかが鍵かもしれない。寿命で死にかけてたらしいが、何故か復活して参戦だ」
「………」
フラット命名「どこでもドア」を出てみれば、銀狼はそこに懐かしい影を見た。姿形は違えども、生まれて初めての主人を見間違う下僕ではない。思わずその傍へと走り出したい衝動に襲われるが、今の彼には群れの仲間がいた。降り落ちる禍に銀狼はその爪と牙を行使する。
「エントリーナンバー5、ライダー、ヨハネ黙示録のペイルライダー。
存在からして反則の超ダークホース。色々あって進化しまくりもう手が付けられない存在だ。更にスノーフィールド市民八〇万人に感染してるんで魔力量も位違い。宝具や幻獣なんて眼中にないぜ。マスター自身に騎乗する裏技で参戦だ」
「………」
椿の目や耳といった感覚器官を借りてはいるが、それだけがライダーの情報源ではない。飛沫を周囲に最大散布しつつ、周辺環境を書き換える下準備を行う。その過程で得られた情報は推測や状況証拠といった曖昧なものではなく、確定されたものである。その値千金の情報を元に、彼はある戦略的決定を行った。
「エントリーナンバー6、眠り続ける少女繰丘椿。
ある意味聖杯戦争の一番の被害者にして加害者。サーヴァントとの相性も良かったせいか、現在俺の予想以上に急激に成長中。ライダーに隠れてこっそり夢世界を再構築してるあたり、秘策を用意している可能性大。スノーフィールド市民の命を一身に背負って参戦だ」
「………」
状況が混沌としているのは最初から分かっていたことだ。そのためにあらかじめ身体の制御権をライダーに渡し、何かあっても口を挟むつもりもなかった。確認したかったのは、生存の有無だけ。だからそれを確認した以上、彼女が内に秘めた思いを口にすることはない。
「エントリーナンバー7……は俺だから飛ばして、
エントリーナンバー8、署長……えーと、説明いらないよな?
「………」
床の崩落に巻き込まれアーチャーとヘタイロイが落下する中、唯一署長だけが
「エントリーナンバー9、アサシン、美しき暗殺者。
まさかの救世主適正を持ってた狂信者。奇跡や宝具を見ただけで自分のものにできる能力は反則だな。異教の業を学べば学ぶほど自己否定で弱っていくとか。現在心身共に困憊ではあるが、そんなの気にせず参戦だ」
「………」
残り少ない体力ではあるが、アサシンは迷わず飛び出ていた。それで何かできるかなどとは考えない。重要なのは、その場へ辿り着くことだ。辿り着けねば、何もできない。宙を蹴るランサーを追いかけるように、
「エントリーナンバー10、六連『男装』ジェスター・カルトゥーレ。
もっと早く本性表せと声を大にして言いたいアサシン大好き美少女吸血鬼。命のストックは尽きてるが、奥の手のストックはまだあるとみた。アサシンのためなら世界も敵に回すぜ。目的と手段を取り違えたまま参戦だ」
「………」
目の前の光景に他の誰よりも呆然としたのがジェスターだった。フラットを殺そうとしたら何故か別の場所へと来ていた。しかもその場には多くのキャストがいるし、天井が崩落して地味に命の危機である。それでも、彼女独特の笑い方をすることもなく、ただただ立ち尽くしていた。嵐の前の静けさが如く、彼女の中のマグマは噴出する時を待つ。
「エントリーナンバー11、バーサーカー、殺人鬼ジャック・ザ・リッパー。
数ある策と変身能力で盤上を揺るがした稀代の殺人鬼。幻都を恐怖に陥れた手腕をまさかスノーフィールドでも発揮するとは誰も想像してなかっただろうさ。正体を暴かれ俺以下の最弱サーヴァントとなって参戦だ」
「………」
立ち尽くすことすらできずにバーサーカーは地に伏している。周囲の状況など分かる筈もなく、自らの痛みと格闘し、無様に負けかけていた。どうあがいたとしても役立たずであり、足手まとい。消滅していた方がまだマシだっただろう。彼が正気に戻るだけの時間は、おそらくない。
「エントリーナンバー12、時計塔の魔術師フラット・エスカルドス。
ロード・エルメロイⅡ世の秘蔵っ子。バーサーカーのマスターでありながらアサシンとティーネに魔力供給し、アーチャーとずっと行動を共にしていた浮気者。奴がいるだけで
「………」
この場は緊張に充ち満ちている。目の前には“偽りの聖杯”、それに襲いかかろうとしている正体不明の泥の塊。崩落する天井、集うサーヴァントとマスター。誰もが最終決戦と予感し警戒している中、あろうことかフラットは「やあ」と軽く手を上げてこの場の皆さんに挨拶をしてみせる。当然、それに返す者がいるわけもない。
「エントリーナンバー13、東洋人――は、エレベーターの上でもう死んでるな。名探偵ももういねえし。
再度改めエントリーナンバー13番、黒幕の一人にしてレギヲン隊長ファルデウス。
ヘッドショットして死にかけているが、まだ生きてるからカウントしていいよな?」
「………」
俯せに倒れ伏すファルデウスの頭から赤黒い血が流れ出ている。生死の境は論じる者によって曖昧なのが常だが、長くないとは誰もが思うだろう。そしてこの混戦確定の状況でわざわざ助けに入る物好き(フラットは除く)もいまい。
「そしてエントリーナンバー14、最終英雄――」
「………」
「なんだ。せっかくの最終決戦だってのにつれねえな。せめて何とか言ったらどうだ? 最終英雄の正体とか聞きたくないか? もしくは誰が優勝するのか予想して賭けようぜ? 7番なんかいいんじゃねえかな」
実に不謹慎なキャスターの弁ではあるが、並べられた御託の中に一理はあった。
最終英雄とやらが何なのか知らないし、分かる必要もなく、そして確かめる理由もない。必要なのは事態を安全かつ穏便に収めるための手段である。もはや聖杯戦争という体裁すら保てないのに、優勝などなんの意味があるというのか。
いや、だからこそ、優勝には心揺さぶる魅力が溢れているのだろう。
黙して語るつもりはなかったのだが、ここは稀代の劇作家の口車に乗せられたということにしよう。我慢とは人として最低限の基本スキルだが、四六時中我慢しておく必要もあるまい。
それに王者は勝利の結果だけではなく過程にもこだわらなければならないらしい。合理だけを追い求めればそこに人は付いていかぬ。今後のことを考えれば、ここでのどのような対応をしたのか事実を記録していく意味はあった。
そんな言い訳をして彼は居住まいを正し、モニターの向こうのキャスターに告げた。
「ならばご期待に添えてその問いに答えるとしよう、キャスター」
これは出来レース。最初から優勝者は決定している。
もとより、敗北など許される身ではないのだ。開幕前だろうと、終局だろうと、場外戦であろうと、決定は決定だ。その決定に変更などあり得ない。最終英雄の登場であろうと、例外とはいえないのだ。
最終英雄が、最終エントリーではないのだから。
「優勝者は――私に決まっている」
エントリーナンバー15、米国大統領。
参戦。