Fate/strange fake Prototype   作:縦一乙

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day.final-05 脚本修正

 

 

 例え現在がいつの時代であったとしても、カルキ自身は四〇万年の月日を経てこの地に降り立っている。

 時間の齟齬は彼にとって斟酌するものではなく、己の使命を全うしない理由にはならない。また世界側にしてもカルキが用意されている存在である以上、聖櫃から解き放たれた段階で抑止力を働かせることはない。

 ここで世界の終焉は決定されたようなものだった。

 抗える手段など、本来ならどこにもない筈だった。

 

「■■■■■■■■■――ッ!!!!!」

 

 中天で大神宣言(グングニル)に貫かれたカルキが、始めて苦悶の聲を響かせる。

 衛星軌道上にある《フリズスキャルヴ》から投擲された大神宣言(グングニル)は、通常弓なりに描く軌道をあろうことか直進していった。大気圏突入に赤熱こそするものの、そこに存在するあらゆる物理法則を神槍は嘲笑う。

 

 この神槍を防げる手段など、この世のどこにもない。

 おそらく最大威力で放ったであろう救世剣による迎撃も、迎撃不可能という概念を形とした大神宣言(グングニル)にあっては意味がなかった。

 

 神槍はほとんど真正面からカルキへと突き進む。再度放たれた極大の光の柱は神槍をこともなげに包み込んだと思われたが、神槍は周囲の空間を歪ませ光の柱をあっさりと回避してみせる。

 中空にあって器用に回避を試みようとするカルキではあるが、神槍は目標を誤ることなく、光の速度で打ち貫いていた。

 

 驚愕すべきは、カルキのその頑強さか。

 大神宣言(グングニル)は目標命中と同時に塵すら残すことなく消滅させる威力を持っている。その直撃を受けながら、カルキは未だに原型を留めていた。

 

 破壊の衝撃が再生によりキャンセルされる救世剣とは違うのだ。例え受け止め耐えていたとしても、神槍から伝わる衝撃はカルキを身体の内側から打ちのめす。カルキの咆哮は体内で暴れた衝撃を外へと伝播させる意味もあったのだ。

 

 瞬間。

 爆音に等しい衝突音が大気を震わせた。

 空間の歪みをはっきり視認できる威力が全周囲に撒き散らされていく。

 

 弾道弾を確実に迎撃する防衛兵器として表向き設計されてはいるが、同時に核をも凌ぐ威力を備えた攻撃兵器であるのもスペックを見れば周知の事実。殺傷範囲こそ対人でしかないが、小さな町などその余波だけで簡単に吹き飛ばすことができるのだ。

 

 上空一〇〇メートルとはいえ、ここはスノーフィールド市街地、しかも中心部である。カルキという緩衝材があったとはいえ、その威力は想像を絶して余りある。

 周囲のビルは衝撃に耐えきれず倒壊し、地面はクレーター状に抉れていた。すでに東洋人同士の戦いによって壊滅的被害を受けていたスノーフィールドの街並みは、その止めを刺されることになる。

 

 これが、米国が自信を持って“偽りの聖杯戦争”を実現させた理由。

 

 迎撃するには神槍を上回る神秘が必要であり、必中の呪いは誤差をミリ単位で許さず、神や巨人、最強の竜種ですら一撃で滅ぼせる威力がここにある。

 おまけに、この神槍は命中後、敵に奪われることすらなく自動(オート)で持ち主に帰る機能まで持っている。

 

 この攻撃手段を、米国は使おうと思えば何度だって使えるのだ。

 一撃目で倒せないのなら、二撃目を出せば良い。

 二撃目で倒せないのなら、三撃目で仕留めれば良い。

 

 攻撃は理論上無限に行える。

 これに耐えられる存在など、この世のどこにもありはしない。

 最終英雄といえど、例外には当たらない。この威力の宝具をこの状態のまま二度三度と受け止めれば、確実に消滅させられる。

 

 神槍を受け止めたカルキの身体は、無様に地へと堕ちようとする。ここまでくれば、もはや罅程度の損害では済まされない。大きく開いた傷口から血飛沫の如く肉片が撒き散らされ、身体の欠損は著しい。ただでさえ異形な姿が更なる異形へと歪められる。

 

 ここに、決着は付いた。

 カルキには、世界を終わらせるだけのありとあらゆる能力が付与されてある。

 救世剣の圧倒的な攻撃能力は無論として、あらゆる物理攻撃を凌ぎきる頑強さと神代の時代の魔術でさえ無効化する対魔力。どんな抵抗であっても即座に対処できる超直感とそれを可能とするスキル群。

 それももう限界にあった。

 

 本来であればこうした事態に備えて瞬間回復めいた自己修復能力や蘇生能力も有しているが、それを下支えするための魔力が今のカルキにはなかった。方舟(オリジナル・ノア)により強制的に加速された時間流では、本来なら蓄積される筈だった四〇万年分の魔力を得られていないのだ。

 

 度重なる策に、最終英雄は敗れた。

 破格と評してもまだ生温い、例外にして規格外の最終英雄が、ついに膝を屈した。

 この事実を知れば、この計画に荷担した全ての人物は喝采して喜ぶことだろう。協会と教会が手を組み総力を挙げたとしても、かの英雄を止めることなどできやしない。

 

 本計画は、失敗の代わりに十分すぎる成果を得た。

 米国は今後“偽りの聖杯戦争”を開催することは不可能となったが、世界を手玉に取れる情報制御能力と、最終英雄でさえ討ち滅ぼせる脅威を協会と教会に見せつけることに成功した。

 この成果で歴史に名を残せないのは少し残念であるが、これを礎に数十年後に世界は合衆国にひれ伏すことに間違いなかった。

 

 ――もっとも、この判断には無視できぬ誤算がある。

 

 神槍がカルキの体内で蠢いた。

 その真価を存分に発揮させた神槍は、己の役割が全うされたことを正確に把握していた。迎撃を阻止し、確実に当たり、その威力を遺憾なく敵に打ち込んだ。後は、持ち主の元へと帰るのみ。そして再度、この敵の身体を貫くのだ。

 

 だというのに。

 神槍は、動かない。

 否、動けない。

 

 神槍はカルキの胸を貫いているが、貫通しきっているわけではない。神槍が帰るためにはカルキの身体から抜け出す必要があるのだが、それをカルキは許さない。胸の肉を盛り上がらせ力任せに押しとどめ、救世剣を持つ逆の手をタコのように神槍にからませ固定させる。

 

 救世剣と神槍は同等の神秘を有している。そのため互いに互いを傷つけ壊すことこそできないが、このままカルキの体内にあり続ける限り、神槍はフリズスキャルヴに戻れない。

 再度の攻撃をカルキは許さない。

 

「■■■■」

 

 カルキが動く。

 もはや立ち上がるだけで身体の崩壊は刻一刻と進んでいく。

 確かにこのままでは、カルキの消滅は免れない。あと一度神槍を放たれれば避けることもできず、受け止めることも敵わない。

 

 逆に言えば、この神槍を放たれなければ、あと一〇分は保つ。

 とはいえ、残り一〇分で世界を終わらせ救世するなど単独である以上不可能だ。

 

 立ち上がったカルキの身体から、大きな破片が落ちる。神槍による衝撃が罅を産み、ついに身体より剥離したのである。

 カルキは鎧など纏っていない。表層の固い部分であろうと中心の核であろうと、カルキという最終英雄の身体の一部には違いない。彼が手に持つ救世剣ミスラも、剣と身体とで分離独立しているように見えて、実は身体の一部であったりする。

 

 そんなカルキの一部が、地へと落ちる。

 これを魔術師が回収でもすれば、一財産どころか七代末まで栄華をもたらすことだろう。末世(カリ・ユガ)に訪れる救世主のものともなれば、魔術触媒としてこれ以上のものはない。

 その身に埋め込めば聖人に勝るとも劣らない加護が得られるだろうし、研究解析すれば神代の神秘を紐解く切っ掛けともなろう。そうでなくともそんな代物が市場にそうそう出回るわけもなく、天文学的値段が付けられること間違いあるまい。

 

 現在この周辺にはそうした計りきれない価値を持つカルキの一部が神槍によって撒き散らかっていた。これがこのまま放置されるなら、かつてのゴールドラッシュがスノーフィールドにも再現されることになる。

 足元に落ちたそんな破片を前に、カルキはその前足を大きく振り上げ、

 

「■■■■」

 

 そうしたゴールドラッシュの芽を、粉砕する。

 あろうことか、最終英雄は残り僅かな命を、自らの破片を踏み潰し砕くことに使い込む。

 意味不明な行為であろう。人間でいうなれば髪や爪と同じようなものだ。本体から切り離せばそれは既に自分ではない。蜥蜴の尻尾ですらないのだ。そこに執着する意味を常人には見出せまい。

 けれど、最終英雄にとっては意味のある行為なのだ。そしてその理由はすぐに明らかとなる。

 

 一〇度も踏みつければ固い破片も砕け始めるが、そこに柔らかな肉が見え始める。二〇回でその肉も水っぽい音に変質し始める。三〇回もすればもはや原型留めぬ有様ではあるが、それで終わりではなかった。

 

「ケーッ!」

 

 鶏のような叫声。踏み砕いた破片の中で、もっとも大きな部位が途端、カルキの足から逃れるように跳び上がる。

 それを、カルキは救世剣にて器用に両断する。別たれた破片は二度と動くことはなかったが、その姿形は元の破片とは似ても似つかぬ異形の生命体だった。

 

『――なるほどなるほど。これが魔群の正体ってわけか』

 

 ゆっくりとカルキはその顔を声の主へと向ける。

 

『いやあ、納得したぜ。世界を終わらせ救済する、と言ってもどうやるんだと思ってたが、案外つまらねえタネだったな。つまりは自作自演(マッチポンプ)ってことじゃねえか』

 

 中空に漂うドローンから、キャスターは自らの存在を誇示してみせる。

 カルキ単体で世界を終わらせることはとても難しい。確かに救世剣を振り回せば可能かも知れないが、それだと壊すことはできても救うことはできないだろう。これは強さの問題ではなく、世界の広さの問題である。

 

 その問題を解決させるのが、魔群。

 最終英雄の身体は魔群を生み出す。強さこそ大したものではないが、あの数で蹂躙されれば世界はそう遠くない内に滅びてしまうことだろう。たった数グラムで数十から数百の魔群が産み落とされるのだ。カルキの全質量が失われた時には、世界は魔群に埋め尽くされることになる。

 

 最終英雄の目的は世界を滅ぼすことではない。世界を終わらせ、救世をもたらすことである。

 だから、カルキは魔群を生み出す能力を持ちながら、同時に魔群を滅ぼすようプログラムされている。魔群がヘタイロイを気にすることなく直進していた理由は、単純にカルキから逃げようとしていただけなのかもしれない。

 数の多い魔群はカルキの手より必ず零れ落ちる。きっと逃げた魔群の数だけ悲劇が生まれることだろう。

 

 仮に、魔群が蹂躙する世界にあって人々は魔群を滅ぼすカルキをどう見るだろうか。

 人類にとって魔群は明らかに敵である。それに大半の人類は抗うことなく死を迎えるだろう。徒党を組んで組織的に対処したとしても、時間を遅らせるだけ。そんな中に最終英雄が魔群を討伐してみせれば、人々は何を思うだろうか。

 事実を知らねば、カルキは救世主として人々に崇められることになる。事実を知ったとしても、それを補うためのスキルもきっとあることだろう。

 

『つまんねぇシナリオだな』

 

 心底軽蔑したようにキャスターは最終英雄を見下す。

 キャスターは楽しみにしていたのだ。世界を滅ぼし救済する存在。“偽りの聖杯戦争”の最後にそんな存在を見ることができれば、これ以上の幸せはない――とまで思ったからこそ、封印の開放を看過したというのに。

 世界を終わらせる原因を自分で作って自分で救済する――どこの神が作ったシナリオか知らないが、世界一の劇作家を前に披露するには些か以上にお粗末過ぎる。

 元々脚本を修正するのが得意ではあるが、修正するのにだって限度がある。

 

 限度があるので――修正はしない。

 

『っつーわけで、ここで終了だ最終英雄。恨むならお前を用意したご主人様を恨むんだな』

「■■■■」

 

 落第だ、とキャスターの言葉に反応するかのように、カルキは呻く。

 もちろん、それは気のせいだ。カルキはキャスターの言葉を理解しないし、相手にもしていない。カルキがキャスターのドローンを見上げていたのも、ただの偶然。彼が本当に見ていたのは、ドローンの先にある上空である。

 

 上空にあったのは、米空軍の大型輸送機C-5Mスーパーギャラクシー。

 そこから投下されているのは、高硬度のベアリング外殻に身を固めた戦闘用可動脚装甲車が二〇輌ほど。一メートル大の局地用軽戦闘車輌も数えきれぬ程盛大にバラ撒かれ、都市戦闘用自動機関人形も少ないながらも投入されている。

 

 これほどの空挺作戦(エアボーン)は近年中々見られない乙なものであるが、カルキがこんなものに目を奪われているわけではあるまい。

 輸送機の遙か上空には、秒速三〇キロメートルで近付くフリズスキャルヴより解き放たれた四つの質量兵器だって存在する。ひとつ当たっただけでも地球がどうにかなる威力を持っている。今更恐竜絶滅の原因が何か言うまでもあるまい。

 

 そしてこれで終わりというわけではない。

 カルキほどではないにしろ運動能力的に他を圧倒し、二〇〇メートル地下から地上へカルキを追いかけられる英霊が、飛び出てくる。

 おそらくこの場で唯一カルキと互角に近接戦を行えるであろうサーヴァント。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■―――――!!!!」

 

 神槍を抑える為に最終英雄は片手を使えない。

 周囲には最終英雄が倒すべき魔群が噴出しつつある。

 上空からはキャスターが操る対サーヴァント仕様の近代兵器群が展開している。

 数秒後には守るべき世界を破滅させかねない質量兵器が降り注ごうとしている。

 そして目前には同じく神に作られた兵器である泥人形が突進aしようとしていた。

 

『さて、最終英雄。この難局をどう乗り越える?』

 

 

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