Fate/strange fake Prototype   作:縦一乙

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day.02-05 強襲部隊

 

 

 繰丘邸内部は酷い有様だった。

 

 一体どういう状況になれば、こうも無頓着に罠に引っかかることができるのか。猪突猛進という言葉はあるが、猪だって壁に当たればその歩みも止めるというもの。もっとも、猪以上の存在がやったのだから、壁の存在を気にしなくとも仕方あるまい。猛進ならぬ盲進であったのかもしれない。

 

 対サーヴァント仕様の罠は周囲全体を巻き込む形で発動する。そのためターゲットであるサーヴァントのみならず、罠を仕掛けた通路や部屋ごと壊滅的な被害が出ることになる。

 

 本来であれば、罠の発動は一つか二つで済んでいた。灼熱の炎、閃く雷電、押し寄せる衝撃波、超高圧搾の水流、蠢く妖蛆――そのひとつに遭遇するだけでも、この繰丘邸の強固さを実感できる筈なのだ。侵入するからには自らの命を含め、相応の被害を覚悟する必要がある。

 

 魔術師の工房とは元来そういうものであるが、繰丘邸はそれに輪をかけて徹底している。

 何せ捕獲や警告という親切なものは邸宅内にひとつとしてしかけられていないし、幻覚といった命の心配の(あまり)ない罠も、次なる罠の伏線でしかない。むしろ侵入者を念入りに殺せるよう、必要以上に威力を上げてすらいる。

 

 結界は全十二層全て破壊。

 発動した罠は全部で十四。

 緊急停止した魔力炉は四。

 それらの余波だけで城砦級の強度を誇る繰丘邸が半壊したと聞けば、繰丘の徹底ぶりが分かるというものだ。

 

 そしてこの惨状を招いたランサーの周囲に、四つの人影がほどなく到着した。

 

 体格からして男性だろうということしかわからない。

 全員が迷彩色のローブを身に纏い、同じく迷彩色のヘルメットで顔を隠している。パワードスーツを装着しているのか、あるいは魔術による強化なのか、決して広いとはいえない繰丘邸内の通路を時速四〇キロオーバーで駆け抜け、それでいて隊列は少しも乱れない。

 

「――目標を視認。これより排除を開始する」

 

 ぼそりと、サーヴァントを囲む一人が呟くと、全員がローブの中から各々の獲物を取り出す。

 前時代的な装飾の剣、明らかにローブに収まる筈のない巨大な鎌、実用的とは思えない大鎚、そもそも武器と呼べるか分からない長い布――そのいずれも凄まじい魔力が込められた宝具である。

 

 二十八人の怪物(クラン・カラティン)、繰丘邸内強襲班である。

 

 そもそも二十八人の怪物(クラン・カラティン)と繰丘夫妻は、言ってみればこの偽りの聖杯戦争の仕掛け人の立場である。

 例えるなら遠坂とマキリの関係に近いだろう。互いに協力関係にありながら、それでいて最後には争い合う間柄。長い目を見据えて事前に対抗策を準備しているのも当然の備え。

 一方的に連絡が途絶えたのであれば、尚更だ。

 

 かねてより二十八人の怪物(クラン・カラティン)は繰丘邸内でのサーヴァント戦闘を想定し、近くには秘密裏にベースキャンプを設け強襲班を常駐させていた。そのおかげで突如として繰丘邸を強襲したランサーにいち早く反応できたのである。

 

 少々イレギュラーではあるが繰丘邸内でのサーヴァントとの戦闘に変わりはなく、またランサーのおかげで懸念されていた罠も排除されている。

 そして敵サーヴァントは二十八人の怪物(クラン・カラティン)の存在に気付いた様子はない。

 

 これを傍観するのは彼らの存在意義を否定するのと同義である。彼らは速やかに本部と連絡を取り、今度こそ自らの手で直接サーヴァントを狩る許可を得たのである。

 

 意気揚々と彼らは初手で頭部を激しく損壊したサーヴァントに剣を向ける。

 二十八人の怪物(クラン・カラティン)はサーヴァントを侮らない。死に体であっても確実に仕留めるよう、宝具も含めて出し惜しみはしない。屋内故に四人一チームのみでの突撃であるが、後詰め(バックアップ)に一チーム配置し、遠距離からも狙撃用宝具で警戒と援護を怠らない。観測班、救護班までも導入する周到ぶりである。

 

 更に言うなれば、繰丘邸は細菌が空気を伝って外へ漏れ出さないよう、邸内と邸外で気圧差を生じさせるバイオ・セーフティと呼ばれる機構が設置されている。いかに最高クラスといえど、ランサーの気配感知スキルが邸内にしか作用しなかったのはそのためである。

 結界と外壁が破壊され外と繋がってしまったため、時間が経てば気圧差はなくなるのだが、今この瞬間は、ランサーの気配感知スキルは限定的にしか利用できない状況にあった。

 

 どちらが優位であるかは一目瞭然。

 片や五体も満足に保持できぬランサー。

 片や数、地形、時間を味方に付けた二十八人の怪物(クラン・カラティン)

 

「さらばだ。名も知らぬサーヴァント」

 

 それは驕りか慈悲か。あくまで事務的に黙々と仕事をこなす二十八人の怪物(クラン・カラティン)がサーヴァントに声をかける。

 無論、声をかけたからといってその間に手が休まるわけでも、とどめを刺すのが遅くなるというわけでもない。

 

 もし五体を潰された状態で敵に包囲され攻撃されたならば、それを凌ぐには英霊といえど無理というものだ。十二の試練(ゴッド・ハンド)のような驚異的な蘇生宝具か、あるいは全て遠き理想郷(アヴァロン)のような外界を遮断する絶対的な防御宝具がそんな状況には必要となってくる。そのどちらも所持しないランサーが二十八人の怪物(クラン・カラティン)の手から逃れる術はない。

 

 しかし。

 けれども。

 それはそもそも、ダメージを受けているという前提があっての話。

 

「「「「――――――!!!」」」」

 

 攻撃は放たれた。四人の攻撃は誤ることなくランサーの身体に吸い込まれている。

 首が落とされ、胸が抉られ、胴が別たれ、四肢は再度潰された。その状況は今もって変じてはいない。

 だというのに。

 

「僕の名はエルキドゥ――」

 

 肉の塊と化したサーヴァントから、自らを名乗る声がする。

 肉塊からの声に対する四人の反応がわずかに違った。二十八人の怪物(クラン・カラティン)において強襲班を任されるほど前衛能力に秀でた彼らではある。それだけに自らの能力に自信を持っているし、宝具の習熟も他の隊員より図抜けていた。

 全力で回避してもなお足りぬかもしれぬ相手の間合い。だが一撃だけならば防ぐことも可能かもしれない。数の利を活かすことが相手への牽制ともなる。

 

 全員の判断にほとんど差はなかった。が、同時ではない。挙動が一瞬遅れただけの二十八人の怪物(クラン・カラティン)の一人が、結果として犠牲となった。

 

「――ランサーのサーヴァント、だよ」

 

 声の調子はそれが日常とでもいうような穏やかなものだった。それに対し、その凶行は恐るべき非常識を以て行われていた。

 ランサーの肉塊の中から、一本の奇妙な槍が内側より破って外へと出る。ひな鳥が卵から孵る様ではあるが、殻を破る嘴はそのまま大鎚を持った二十八人の怪物(クラン・カラティン)をも貫いていた。

 

 槍としては短いと表現するしかないだろう。だがこの槍に長さなど関係はない。その気になればどこまでも長く、どこまでも細く鋭く、剣にも盾にもその形は変化する。

 それもその筈。この槍は母たる海水で作られた、七つの頭を持つ不定なる竜の槍。あらゆる生命の原典、生命の記憶の開始点。

 

 名を、創生槍・ティアマトという。

 

「ところで、君達は一体何者だい?」

 

 創生槍が二十八人の怪物(クラン・カラティン)の一人を貫いたと思えば、ランサーの肉塊は泥となって元の人形めいた身体を再構成する。倒れ伏した状態でなく、立ったままの状態で。

 

 泥人形たるランサーにとって、五体など人を真似ているだけに過ぎない。その気になれば翼だって生やすこともできるし、両手を右手に変化させることもできる。無形こそが彼の正体であるのだから、斬撃の類がランサーに効くわけもない。

 

 ランサーを倒そうとするならば、叙事詩に語られるとおり女神の怒りに匹敵する極大の呪いを用意する必要がある。

 

 真っ当にやり合えば、絶望しかないこの状況。

 それでも、そんな敵の圧倒的な能力に二十八人の怪物(クラン・カラティン)が怯えることはなかった。仲間が倒れたことすらも忘れているかのように、次の瞬間には何の合図も必要としないまま、一個の生物の如くその陣形を変化させてみせる。

 

「やれやれ……答える気はないのかい?」

 

 ランサーの言葉に応じるように、二十八人の怪物(クラン・カラティン)は動いた。

 

 最初に動いたのは刃がコの字に折れ曲がった畸形の鎌を持った二十八人の怪物(クラン・カラティン)

 仲間の身体を貫いたままの創生槍に魔力の篭もった一撃を躊躇なく解き放つ。並の宝具であれば切断とはいかずとも相応の衝撃を与えたことだろうが、ランサーはおろか創生槍すら微動だにしない。だがこれで創生槍を左右に振るうことは許されなくなった。

 

 そしてもう一人、布の宝具を持った二十八人の怪物(クラン・カラティン)はその布を広げランサーを取り囲むようにその視界を遮る。

 ランサーの知る由もないが、その宝具はギリシャ神話の英雄ペルセウスが冥王ハーデスより授かった宝具翻転響界(キビシス)を参考に作られた、即席の簡易隔離結界。結界内からの攻撃を防ぎつつその内部に魔力を溜め込み、耐えきれなくなったところで一気に魔力を解放する束縛型自爆宝具。

 

 そして、最後の一人が行うのは形成された結界内への魔力攻撃。

 布の隙間から繰り出される剣の一撃はマジックによくある串刺しショーのひとつか、はたまた黒髭が中に入った樽を彷彿とさせる。その一撃はランサー自身に何のダメージも与えないが、布の結界内に着実に魔力を蓄積させていく。

 

 コンビネーションの完成度は高い。剣で身体を次々と突き刺されながらランサーは感心していた。

 一つ一つの宝具の威力は決して高くはないが、高い練度の兵士が特定の条件下で運用すればこうも厄介な代物へと変質する。繰丘邸にしかけられた罠など、これに比べれば可愛いもの。

 

 自然、ランサーの口元に安堵の笑みが浮かぶ。

 ランサーが危惧したのは、この正体不明の襲撃者が親友の手の者か否かに尽きる。複数の宝具を持った英霊は少なくないが、連携を可能とする相性の良い宝具を他者に揃え貸し与えることができる英霊は親友くらいなもの。

 

 だがこの宝具は、親友の蔵にあるものではない。蔵の中にある宝具は全て王に捧げられたもの。このような薄汚い紛い物、いかに優れていようとも王の蔵に入れる資格があろう筈がない。

 

 畢竟、宝具を持っている英霊ではなく、宝具を作り出す英霊がこの地にいる。

 

 これは――実に友人が嫌いそうな英霊だ。

 まだ見ぬキャスターの存在を確信しつつ、これでランサーは数多ある疑問のひとつに解答を得た。

 

「喜ぶと良い。君達は――」

 

 僕達が排除すべき、敵だ。

 

 

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