Fate/strange fake Prototype   作:縦一乙

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day.final-14 キャラクター

 

 

 可愛い女の子と話している一分とストーブの上に手を置いた一分とは同じ時間であっても天地ほどの差がある。詳細はともかくとして、20世紀最高の物理学者アルバート・アインシュタインのお言葉である。

 

 つまり時間の流れ方は観測者によって固有であることを述べているわけだが、これを繰丘椿は「気の持ち方次第で時間は変わる」とざっくり解釈をした。相対性理論など興味もない彼女が本質を理解する必要はなく、むしろ曲解による思い込みをする方がよほど重要なのである。

 

 何故なら彼女が扱うのは魔術。

 魔術の強さは思いの強さでもある。

 夢世界を構築する彼女独特の魔術は、たったそれだけのことで本来の力を得ることに――気付くことになる。

 

 夢とは、色も形も重さもない言葉通りの絵空事である。意志の強さだけが全てと言っても過言ではあるまい。

 夢世界に取り込んだ現実世界だって、何の干渉も許さないわけではない。積み木を手に入れた子供がそれでどうするかは自由なのだ。積み木で城を作るも良し、ボールのように投げつけることだって選択肢としてはある。積み木を削って仏像を制作するのだって自由だ。

 

 繰丘椿は、夢世界でひたすら自分を鍛えるために時間を費やした。邯鄲の夢の例をここでわざわざ挙げる必要はあるまい。彼女が夢世界を構築したのはたった一夜のことであるが、そこで得た時間は無限にも等しかったのだ。

 無限に時間があれば、無限に自分を鍛えることができる。如何な亀の歩みであろうと、時間をかければ兎に追いつくだろう。追いつくこともできれば、追い抜くことだって不可能ではない。

 

「ふん。凡人の発想だな。そんなくだらぬことに一体どれほどの年月を費やしたのかは知らぬが、ご苦労なことだ」

 

 明かされた手品の種は、アーチャーにとってあまり面白いものではなかった。

 千里の道も一歩から、と言うがおよそ英雄と呼ばれる種類の存在は千里の道も一歩で踏破できる足を持っている。地味な努力が大事なのは認めようと、兎が亀を真に理解することはないのである。

 

 だがその凡人に助けられている図式を英雄王が理解していない、ということもない。その証拠に彼は大人しく最終英雄の目から隠れ、宝具の射出準備に精を出しているのである。今ここで出陣するのは簡単だが、椿の助けなしでは碌に戦うこともできずに敗北するのは確実である。

 

「軽く見積もっても、彼女の研鑽は数百年を経たものです。千年だとしても驚きません。下手をすれば、万年にだって届いているでしょう」

 

 そんな言葉をアーチャーが求めているとは思えないが、解説をしていたティーネは補足する。あの幼気な少女に余計な気を負わせ追い込んでしまった者の一人として、擁護する義務はあるのだろう。

 そんなことは百も承知だと英雄王はティーネに視線で返し、そのまま魔術で壁に投影された戦況へと眼を走らせる。

 

 現在、繰丘椿はカルキと近接戦闘主体のインファイト戦術を繰り広げている。あまりに近すぎるが故に距離を取りたがるカルキであるが、周囲に復活した機械兵団がそれを許さない。対霊狙撃砲(アンリ・スピリチュアル・ライフル)は弾切れを起こすこともなく狂ったように火を吹いているし、四機のエインヘリヤルが時間停止の剣でカルキの動きを縫い付けている。

 

「この玩具もその延長にあるわけか?」

 

 この四面楚歌の状況でありながら、まだカルキはその圧倒的性能で機械兵団を次から次へと破壊し機能停止に陥れている。今もまた、ボルトスとダルタニアンの両機が救世剣の餌食となって鉄屑と化し――そして鉄屑は平気な顔をして鉄へと戻り、何事もなかったかのように戦闘は継続されていた。

 

 英雄王にとって死者が蘇る光景は珍しいものではない。だが、死んだ側から片っ端から再生していく様を見たことはあるまい。北欧神話におけるエインヘリヤルだって、復活するのは夕方である。同じエインヘリヤルの名を冠していても、いくら何でもこの復活の仕方は出鱈目過ぎる。

 

「はい。あれは夢世界に取り込んだものを現実世界に上書きしているものです」

 

 謂わば空想具現化ならぬ、夢想具現化でしょうか、と言ってみれば苦虫を噛み潰したようなアーチャーの顔が更に酷くなる。

 彼女は夢世界に取り込んだものを現実世界に投影する。何度壊されても、その度に再度投影すればいいだけの話である。この機械兵団を危険視し真っ先に葬ったスノーホワイトも、椿の夢世界の中にあってはカルキといえども手は出せない。繰丘椿本体を倒さねば、カルキは無限に機械兵団を相手にすることになる。

 かつて目視した刀剣を己の結界内に登録し複製する英霊がいたらしいが、やっていることはそれと同じである。

 

「現実に起こっていることとはいえ、たかが魔術師にそんな大それた真似ができるとは思えんな」

「仰せの通りです。如何に経験を積んだところであの規模のものを実行するには類い希なる才が必要不可欠。そして椿にある才は夢世界を構築することのみ」

 

 何かカラクリがあるのだろう、と問うてくるアーチャーにティーネも素直に頷いた。

 土台、投影魔術とは使い勝手の悪い魔術である。範囲限定であればさほど難易度も高くないが、破損したオリジナルを修復しているだけとはいえ、それを軍団規模で実行するにはいくらなんでも無理がある。

 

「ですから、夢の中のものを現実に上書きする能力は、別人のものなのです」

 

 だからこその、夢幻召喚(インストール)

 自らの肉体に英霊の力を顕現させる禁忌の業。

 

 繰丘椿がインストールしたのは、秦の始皇帝。彼には『夢の中で海神を弓で射殺したら、現実世界でも大魚が死んでいた』という逸話がある。能力の相性だけを論じるなら、繰丘椿と始皇帝のタッグはライダー以上に脅威である。

 椿はランサーと二十八人の怪物(クラン・カラティン)の戦いで失われた触媒を夢世界で手に入れ直し、令呪の力でその能力だけを借りてきたのである。

 

「貴様等マスターが持つ令呪でそのようなことはできぬと聞いていたが?」

 

 フラットから聞いていたぞ、とアーチャーは尚も問い質す。

 あの天才馬鹿はあっちこっちに大した計算もなく盗聴魔術を仕込んでいるので、実はかなりの情報量を保持していたりする。もっとも、正確には仕組んだことすら忘れているフラットをバックアップしているヘタイロイがアーチャーの耳に入れたのだが。

 それはともかく。

 そんな特殊な令呪を一体いつどこで手に入れていたのか。

 

 確かに、椿やティーネが持つ令呪は己のサーヴァントに告げるための絶対命令権であり、東洋人が持っている令呪のように好きな英霊を好きな時に召喚するような機能はついていない。

 それにそもそも、椿は令呪を使い切っていた筈である。

 

「……どうやら気を利かせた保護者が、こっそりと回収していたようです」

 

 至極当然のことであろう。

 持っていないのだから、盗っておいただけである。

 

 砂漠での戦闘終了後に、原住民要塞へ東洋人四人が強襲を仕掛けている。その場で動くことのできたキャスター及び原住民達は要塞内部の侵入者撃退で手一杯だったこともあり、あの時迎撃に出向けたのはライダー単騎である。わざわざライダーが原住民へ外に出ぬよう警告していたため、ライダーと東洋人との戦闘の詳細はライダーの自己申告によるもののみ。後に襲撃してきた東洋人一人の死体を確認しただけである。

 実はその時倒した東洋人は二人で、その内一人の令呪をライダーは椿の身体に移植していたのである。キャスターに嘘の戦果を報告したのも、ライダーなりの保険だったに違いない。

 

 ライダーには「繰丘椿が構築している夢世界の消失」を令呪で命令されている。いかにあの繰丘椿が強くとも、バックアップをするための夢世界をライダーに壊されると元も子もない。

 あの夢世界で鍛え上げられた繰丘椿が活躍するためには、夢世界を崩壊させかねないライダーの消失は絶対条件なのである。

 

「ライダーが消失しても、感染接続(オール・フォー・ワン)はフィルターとなっていた繰丘椿の中に残ったままです。集めに集めた魔力はスノーフィールド市民八〇万人分――」

 

 一つ息をついて、ティーネは断言をする。

 

「あの繰丘椿に、敵はいません」

 

 感染接続(オール・フォー・ワン)によって魔力も潤沢。

 夢幻召喚(インストール)・始皇帝により夢世界のものを投影可能。

 機械兵団は常に万全の状態で再生可能。

 そして無限の時間を経た繰丘椿は、ただそれだけでも化け物である。

 

 さすがに面と向かって言うことはないが、英雄王といえどもあの繰丘椿には勝てないだろうとティーネは断じる。能力的な絶対値ですら劣るだろうし、相性的にも最悪である。狂化したあのランサーでさえ、相性は悪くなくとも勝てないだろう。

 姿形こそ十歳児の幼気な少女と何ら変わりないが、その中身は霊長の到達点に最も近い存在なのである。

 

 キャスターがかつて言っていたように、彼女が扱う夢世界は凄まじい可能性を秘めた類い希なる神秘である。人類という種の意志に触れるための道程そのものであり、可能性のひとつ。もし繰丘椿が魔術師としての人格を確固としていたのなら、根源に辿り着くのも容易いことだっただろう。

 これは大袈裟な話などではなく、事実である。

 その証拠に傷つき消耗しているとはいえ、あの最終英雄と互角以上に戦っているのだ。そんな偉業を成し遂げられる英霊などいかほどもいるまい。必要なのは他を必要とすることのない、絶対的な『心』の強さ。少なくとも、蔵を頼りにするアーチャーには不可能だ。

 

「大したものだ。成る程、あの小娘は人類という種の意志に触れ理解する器であり、亜頼耶識と呼ばれる境地に達せる傑物――というわけか」

 

 くつくつと、前置きが長いと嘲う英雄王。

 彼とて幾多の試練を乗り越えてきた勇者の一人であるが、さすがにそんな試練を乗り越えられるとは思えない。ただひたすら自らを鍛えるストイックさを持ち得ないのも理由の一つであろうが、何より果てしない時の流れをたった一人で呑み込み抑える器を持ち得ない。

 人類最大級の器を持つ英雄王が、彼女の足元にすら及ばないと断言してみせる。

 

「この我とて、ともすれば赤子同然ということか。いやさ、結構結構。こうも有り得ぬ存在を最終英雄以外に見られようとは、まったく思わなんだ」

 

 すんなりと英雄王が受け入れたことにティーネは安堵する。あの繰丘椿の存在はアーチャーにとって気にくわないことだらけである。一つ誤解や曲解をされただけで、今後どうなるか分かったものではない。

 

「我が憤怒せぬのがおかしいか?」

「いいえ。全てを呑み込む器量があるのも、王の器なのでしょう」

 

 顔色を読まれたティーネの言葉に、アーチャーは呆れたように嘆息した。しばらく会わぬうちに多少成長したのかと思えば、根っこの部分では変わらないらしい。

 

「貴様はグーが何故パーに勝てないのか、納得できないと憤り怒るのか?」

 

 これを咎めるならむしろ王の器としては小さすぎであろう。

 これは器の問題ですらない。

 覚悟を持って挑めば成功するという甘い話ではない。英雄王でさえ匙を投げると言わしめた試練に、どうして十歳の小娘が踏破できようか。体力を得るために走ることや知識を得るために書物を読み耽ることと本質的に変わらないにしろ、その難易度は明らかに違う。

 

 夢物語ならば、夢でしか語られない者もいる。

 夢の中でしか、生きられない者も、いる。

 

「あの繰丘椿は、数百万年の月日を経た化け物――」

 

 不意に、ティーネの後ろで黙っていた少女がアーチャーに対して口を開く。

 

「――そういう、設定で作ったキャラクターです」

 

 実際は五年くらいでギブアップしてしまいました、と最終英雄と戦う分身を見ながら、本体である繰丘椿は恥ずかしそうにネタバレをするのだった。

 

 

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