Fate/strange fake Prototype   作:縦一乙

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day.final-21 優勝

 

 

 神槍は誰にでも扱えるモノではない。

 

 モノとして存在する以上、確かに手に持ち振るうことは可能だろう。実際に使ったところで折れることもなければ、長い月日で朽ちることもない。だが、ただそれだけ。主不在の状態では神槍は神槍として機能しない。神槍が持つありとあらゆる権能は鳴りを潜め、また槍としての鋭さも失われたまま。

 

 神槍は、主不在のままではどうしようもないナマクラなのである。

 どんなに工夫を凝らしたところで、神性がなければ扱えない。

 全力で突き刺したところで、槍は突き刺さることはない。

 最終英雄の目は誤魔化せない。

 誰も傷つけることはできない。

 なのに。

 

「■ッ!?」

 

 深々と。

 神槍は最終英雄の身体に突き刺さる。

 有り得ぬ事態に、あの最終英雄が驚愕に打ち震える。

 そしてそれ以上に驚いたのは、何を隠そう突き刺したアサシン本人。

 

 アサシンに神性がないことは本人が一番良く分かっている。暗殺教団という特殊環境に生まれながらも、彼女は木の股や竹や桃の中から生まれたわけではない。精神の変容という特殊な洗礼を受けている最中ではあるが、彼女が人の子である事実が改竄されることは有り得ない。

 

 何より、彼女は触れただけでその宝具の本質を理解する天才である。神槍が扱えぬという事実は手にした彼女が誰よりもよく理解している。

 だから、彼女は原因が自分にないことをすぐさま理解した。思いがけぬ展開に混乱したのも一瞬だけ。すぐにアサシンは事実に気がつく。

 

 神槍がカルキの深部へ更に深く突き刺さるが、それは手にしているアサシンの意志ではない。いや、突き刺さるという形容もおかしい。これは「突き刺さる」というよりも「沈み込む」と言うべきだ。より適切に言い表すのなら「引きずり込まれる」か。

 

 神槍がカルキの体内をかき回していた。それは獲物の腹を破り臓腑を喰む肉食魚を彷彿とさせる悪食。喰らい、貪り、奪い取る。

 さすがは狂獣。喰わずに飢えは癒やせない。だが、満ち足りるまでの時間を悠長に与えることはできそうにない。

 カルキより一瞬早く正解に辿り着いたアサシンが、一瞬早く正解である行動に出ることができた。

 

 更に引きずり込まれようとする神槍を、アサシンは左手一本だけで強引に引っこ抜く。貪欲に喰い続けようと足掻こうとする気配もあるが、名残惜しげに最後の晩餐はここに終了した。

 片手でこの長大な槍を扱うのは苦労するが、別に細かな操作が必要なわけではない。アサシンが行ったのは、単に穂先をカルキへ改めて突き付けるだけ。

 

「――終わらせましょう」

 

 厳かに、アサシンは声をかける。

 カルキとアサシンは共に勘違いしていた。

 この場にいるのは二人だけではない。

 

「■■■!!」

 

 臓腑を掻き回されたカルキが気付き救世剣を振り上げるが、もう遅い。

 この場にいるのは、カルキとアサシン、そして神槍――についている、泥。

 カルキは忘れていた。先に狂獣と化したランサーに神槍を投げつけ半身を削っていたことを。そして削って不活性状態に陥った半身をそのまま放置していたことを!

 

 ランサー、泥人形エルキドゥ。

 

 アサシンが手にしているのは、神槍グングニルなどではない。神槍に纏わり付くよう付着していた(ランサー)を手にしているのであり、そのランサーが携える創生槍ティアマトを手にしているのだ。

 吸収された己の肉体をカルキ体内から引き摺り出し、ランサーは泥の身体のままに高らかに謳い上げる。

 

天命渦巻く(ムアリダート)――」

 

 バオバブの木には、マスターである銀狼の意志が息づいている。元とはいえマスターと直接接触すれば、不活性状態であろうと少なからず経路が通る。経路が通りさえすれば、息を吹き返す可能性は低くはなかった。宝具を読み取るアサシンが呼びかけたのであれば尚更。そうでなくともライダーという補佐もあればそれは必然と言い換えても良い。

 

 令呪による狂化の命令は既に切れている。

 吸収された身体はカルキから最低限奪い返せた。

 バオバブの木から莫大な魔力が供給されている。

 己が獲物は、最終英雄の喉元に突き付けられている。

 ならば、成すべきことはあと一つだけ。

 

「――混沌の海(ギムリシュン)!!」

 

 原初の海水が、召喚される。

 かつてライダーを葬った時の全力と比べれば、それは微々たるものだろう。支えるべきアサシンが片手であったことと、ランサー自身の質量も足りなかった。それに何より、ランサーが自意識を取り戻し宝具開放までの時間差が一秒にも満たないという三重苦。それを考えれば、現状考える最高の攻撃に違いない。

 

 万全な状態のカルキであれば、この攻撃は通用しない。

 天命渦巻く混沌の海(ムアリダート・ギムリシュン)の本質は原初の海水に触れた存在を自らの一部と化す強制権にある。だがそれが適用されるのは進化の歴史に連なる者のみ。残念ながら、最終英雄は強制権の対象外なのである。

 だからこそ、原初の海水は単純な攻撃力のみでカルキに挑まなければならない。

 

 天命渦巻く混沌の海(ムアリダート・ギムリシュン)は強力な宝具ではあるが、純粋な威力だけを語るならば、上にはもっと多くの宝具がある。宝具開放から数秒間を耐え凌げるか否かが勝負の分かれ目となるだろう。

 ゼロ距離かつ腹の中をかき混ぜられた直後の反撃モーション。これで回避される心配はないだろう。

 

 これが最後。

 アサシンは無論のこと、ランサーだって次はない。よしんばこれで倒せなければ、救世剣に潰されるだけだ。

 七つの頭を持つ不定なる竜の濁流がカルキを呑み込まんと顎を開く――が。

 

「■■■■ッ!」

 

 最終英雄は、その顎をあろうことか救世剣を持たぬ逆の左手で掴み取ってみせる。

 もちろんここでの顎というのは例えであり、性質が水である以上掴み取る真似ができようはずもない。ここでカルキが取った行動は、銃口に指を入れるようなものだった。

 

 ゼロ距離での宝具開放が徒となった。

 カルキは左手を犠牲に、天命渦巻く混沌の海(ムアリダート・ギムリシュン)の軌道をわずかにねじ曲げていた。左手こそ喰い破られはしたが、胴体は無傷。そして右手で振りかぶられる救世剣も止められない。

 至近距離で外しようがないのはお互いに同じだった。

 そしてアサシンとランサーには何かを犠牲にして生き延びるような術がない。

 

 だが、再度言おう。

 この場には、二人だけではない。

 そして、ランサーを含めた三人だけでもない。

 

「待たせたなっ!」

 

 張り上げられた声はサーヴァント・キャスター――否、東洋人の令呪で再召喚された今はただの劇作家のもの。

 まがりなりにもサーヴァント。この広大なバオバブの木のフィールドで最終英雄の決着を見届けようと追跡する気概は大したものかもしれないが、気配遮断スキルを持っているわけもないので彼の存在は最初からバレバレなのである。

 なのでもちろん、カルキがその程度で動きを止めるはずもない。

 

 確かにあの劇作家はこの場にいるし、カルキに敵対する抑止力の一角であることには違いないが、いかんせん戦力の定義から大きく外れてしまっている。再召喚されたところで最弱のサーヴァントの称号は不動のまま。茨姫(スリーピングビューティー)でアーチャーに挑んだ宝具お前の物は俺の物(ジャイアニズム)だって、念入りな事前準備が必要なのだ。今の彼にできることなど何も無い。

 

 できることはないが――何もしないことはできる。

 そう。例えば、この広大なバオバブの木でフィールドで最終英雄の場所を他の者に知らせるための目印とか。

 

天地乖離す(エヌマ)―――」

 

 バオバブの木の枝葉に隠れ、カルキに気がつかれることなく踏み入った者がいた。

 アーチャー。英雄王ギルガメッシュ。

 

「―――開闢の星(エリシュ)!」

 

 本日三度目。如何にアーチャーといえど、この短時間でここまで乱発できるものでもない。これにて看板。これが最後のチャンスであることに間違いなかった。

 だというのに、アーチャーは同じ間違いを繰り返す。

 

 至近距離で撃ち放たれた乖離剣。だが、カルキはカルキで救世剣発動直前で迎撃するには難しくはない。あるいはカルキがアサシンとランサーを仕留めた直後であれば、話は別であっただろう。二人の犠牲を糧に一瞬の隙を突くことができれば、最終英雄打倒はより容易だったはず。

 

 至近距離で極黒と純白が激突し、相殺し合う。

 相殺され無限にも等しい威力は完膚無きまでに無へと回帰してしまったわけだが、極黒と純白が激突する光までは消せはしない。

 光が飛び散るこの間にも当然バオバブの木が蔓や蔦を伸ばし拘束しようと動きはするも、時間が足りるわけがない。

 

 あと、一手足りない。

 しかもその一手はただ横合いから殴る機会を与えられるだけのものであり、乖離剣や創生槍でないのなら一手と言わずに数手は必要になるだろう。

 

 アーチャーは救世剣を抑えるのに手一杯。

 ランサーは質量不足。

 ライダーはバオバブの木を維持するだけで余裕はない。

 アサシンは行動不能。

 劇作家は高みの見物を決め込み役立たず。

 バーサーカーは木を切り倒すだけで力尽きた。

 

 全サーヴァントは悉く動けない。

 英霊は最終英雄を倒せなかった。

 

 ……再度。

 再度、繰り返し同じ事を問おう。

 この場には、二人だけではない。

 ならば三人か? 四人か? 五人なのか?

 それは違う。大違いだ。大きな間違いだ。

 

 この“偽りの聖杯戦争”で集った力は六柱だけではない。

 忘れてはならない。神々を過去とし、幻獣を追い出し、幾多の魔法を貶めてきたのは誰であったのか。

 そも、“偽りの聖杯戦争”は何の為の、誰の為の、どんな目的の儀式であったのか。

 幾多の側面を持つ“偽りの聖杯戦争”、その内の一つの姿をここで思い出さねばならない。

 即ち、人間の手による英霊の打倒。

 

 二十八人の怪物(クラン・カラティン)

 

 自らの胸より生まれた刃を見て最終英雄はどう思っただろうか。

 救世剣と乖離剣の激突があったが故に、這い寄る二十八人の怪物(クラン・カラティン)の手から逃れる術を、最終英雄は持ち得なかった。気付いたときには、もう貫かれていたといってもいい。

 人間を殺めるのはカルキの本意ではない。だが直接危害を加えられたことで自己防衛の例外規定に抵触、体内に蓄積された減速材の余剰エネルギーが自動的に電気変換される。カルキの胴を貫いてみせた勇者は次の瞬間感電しあっけなく息絶えた。

 

「■ッ!?」

 

 その光景を見ていたであろうに、またも身体を貫く痛みがカルキに走った。

 文字通りの電光石火。サーヴァントの反射速度と技量でもなければカルキのこの反撃に対応しきれないというのに、彼らにその反省がない。この勇者もまた同じように瞬殺してみせるが、次から次へと湧き出るように、人間が立ちはだかり殺到する。その間にもカルキは一つ二つと新たな傷を拵えてくる。

 

「ではな、最終英雄。最後は興醒めだったが」

 

 鼻を鳴らし、黄金のサーヴァントは面白くなさそうに最終英雄に背を向ける。乖離剣は既に蔵に戻され、辺りに散らばっているであろう宝具も次から次へと消えていく。

 まだ、最終英雄は倒れていない。それどころか、今ここでアーチャーが本気で参戦すればあっさりと片が付くような状況。

 そんな勝利の二文字をアーチャーは敢えて手に取らなかった。

 

 アサシン(とアサシンが手に持つランサー)の身体を担ぎ、アーチャーは悠然とその場を後にする。そんなアーチャーと交代するように、傍らを走り抜け最終英雄に突撃する二十八人の怪物(クラン・カラティン)

 

「アーチャー、待ってください。まだ私は――」

「戯け小娘。貴様の役割はもう終わった。お前にしろ、我にしろ、過去の英雄(サーヴァント)が出る幕ではない。

 ……だがな、最終英雄。お前がこれから相手にするのはただの雑兵などではないぞ。未来の英雄を倒すべきは、現代の英雄しかないのだからな」

 

 カルキは言語を習得しない。必要としない。それでもアーチャーの後半の言葉が、自らに向けられたことは理解した。

 こうしている間にも、カルキに向けられる白刃は数多く集まりつつあった。中にはランクの低い宝具も混じり脅威になり得ぬ者もいる。そうしたことも理解しながら、彼らはカルキに戦いを挑んでいる。

 彼らの目的はただ一つ。この場に一分一秒最終英雄を押しとどめ、その血肉を削り落とすことのみ。

 

 過去の英霊は去った。

 ここにいるのは現代の英雄達だ。

 二十八人の怪物(クラン・カラティン)は、カルキの前に立ち続ける。

 そんな彼らに、最終英雄は、

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■――――ッ!!!」

 

 最大限の敬意を払った。

 

 

 

 偽りの聖杯戦争が、ここに終結する。

 優勝――二十八人の怪物(クラン・カラティン)

 

 

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