Fate/strange fake Prototype   作:縦一乙

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day.03-10 偽物達

 

 

 丸一日ほど大人しく潜伏を続けた後、目立たぬ装いでスノーフィールド市街の様子を伺いに出た。途中適当な伊達眼鏡も購入して顔を少しでも隠しておく。マスクも購入するが、これは非常時のためのもの。隠したいのは山々だが、この状況下でこれ以上顔を隠せば悪目立ちしかねない。

 

「やはり戦法を変えてきたか……」

 

 市内の中心周辺を一回りすると、行き交う人々の中に閑散とした地方都市には似合わない人種が混じっていた。

 外見は、どこから見ても市井の男、あるいは家事に勤しむ妻といった様相で、カモフラージュしているが、その程度で誤魔化せない。

 羊の皮を被っても狼の素性は、跫音に出る。一定で、規則正しく、それでいて必要以上に体重をかけない、専門的な訓練をされた人間に特有の跫音だ。

 

「サーヴァントではなくマスターを狙っている? いや、それにしては魔術に対する警戒もない……」

 

 初日の市街地戦等を考慮するならばこのような輩を配置するのも一定の効果もあるのだろうが、幾ら数を投入しようと魔術師ならば簡単に網の目をかいくぐることだろう。顔が割れていなければ恐れる必要はない。もしくはこうして調査に乗り出す者に対し圧力(プレッシャー)でもかけているのか。どこの陣営かは知らないが、ご苦労なことである。

 変装用に誂えた大きめの帽子を被り直し、何事もないのを装った態度で、相手の視界の外へと立ち去った。

 

 太陽が昇って沈む間に更に周辺状況を確認しつつ、知らぬ間に上着の内ポケットの中に入っていたメモに従い指定の場所へと足を運ぶ。

 いかに休業中の店が多かろうと、開いている店が皆無というわけではない。明確な危険がない以上、24時間営業の看板を外すことはできぬのだろう。東は米国から、西はジンバブエまで。世界中、どこに行ってもあるという。ファーストフード界のトップランカーは今日も元気に営業中だった。

 

 珈琲一杯を注文し二階席へと上がれば、思いの外簡単に目的の人物に会うことができた。閑散とした窓際でシャカシャカ音楽を聴くフリをしながら陽気に手を振って合図してくる。

 ハンドシグナルの使用符丁から察するに3桁ナンバーの諜報員。シングルナンバーでないことに少し安心する。こちらもただの平諜報員なのだから上役を相手にサシで話をするのは苦手である。

 

「若い女性と聞いていればこちらも若い格好に合わせたんだが」

「必要ないよ。今時、年の差カップルなんて珍しくないでしょ。けどお前伊達眼鏡にあわねー。グラサンで良かったんじゃない?」

 

 ケラケラ笑いながら不良娘を演じる仲間はそれでも周囲の気配に変化がないことを手信号で告げてくる。伊達眼鏡も少し困りながら隣の席へ腰を下ろした。

 

 この場所は周囲を監視するには視野が広く誂え向きだが、夜ともなれば条件は異なる。昼間は逆光となって店内の様子は分かりづらいが、夜間は店内の明かりが外に漏れだし丸見えとなる。おまけに今日のスノーフィールド市内は連日の煽りを受けてやや明かりが少なく暗がりが強い。見通せる範囲は数百メートルが限界か。こうも店内の明かりが強ければ暗闇に目が慣れるということもない。

 

「グラサンだとよく見渡せん」

「けど視線は隠れるっしょ?」

「光源を視界の中央において視界の端でモノを見るんだ。無闇に視線を動かすのは素人のやることだ」

 

 伊達眼鏡の言葉に不良娘は敵機を探す戦闘機パイロットの如く、額を薄汚れた窓ガラスに押しつけるようにして夜のスノーフィールドを睨み付けるが、それが簡単にできるなら街中の監視に伊達眼鏡が配置されることはないだろう。

 簡単にできるようなら、それに特化した自分の立つ瀬がない。

 

「それで? なんかあった?」

「街中に怪しいヤツがいるってくらいだ」

「それは知ってる、つか常識。つまり戦果なしってこと?」

「お前こそどうなんだ?」

「闇雲に動いても、ターゲットは捕捉できないっていう仮定の立証をしてたのよねー」

 

 互いにロクな情報を持ってないと報告し合うが、そこは問題ない。情報は一人で集めるものではないのでないし、仲間であればと闇雲に共有すれば良いというものではない。特にこの不良娘に先の羊の皮を被った狼を事細かに教えれば、要らぬ警戒心からボロが出る可能性もある。

 

「キャスターが二十八人の怪物(クラン・カラティン)を裏切ってバーサーカーと同盟を組んだわ。それにアーチャーとそのマスターの間に問題があったみたいで原住民の動きが忙しい。二十八人の怪物(クラン・カラティン)はT1000みたいなランサーへ注力してる」

「T1000?」

「液体金属みたいってこと。どうやらこてんぱんに一度やられてやっきになってるみたい――これ塩の効き過ぎ。けどなんで無性に食べたくなるんだろ? フィッシュアンドチップスもいいんだけどさ」

 

 ポテトを一本つまんで囓りながら、スノーフィールドで起こった極秘事項を不良娘はこともなげに言ってくる。

 街中をぶらつくだけの自分と違い、有益な情報を吸い上げれた仲間がいたことは幸いだった。もとより戦力的には他のどの陣営よりも弱い自陣である。せめて情報戦において先手を取らねば勝ち目がない。

 まだどの陣営にも気取られてはいないが、ここから優勝を狙うにこの程度のリードでは安心できよう筈もない。

 

「先は長そうだな。生きて終戦を迎えられれば良いのだが」

「多分私ら無理だろうけどね」

「可能な限り長生きをする努力は怠らぬようにしよう」

 

 科学忍者隊の最後の武器は特攻で、腕時計で動く巨大ロボの最後の武器は自爆だった。

 直接戦闘能力が低い以上、第四次聖杯戦争のアサシンのように無謀な特攻を強要され死ぬ可能性は低いが、蜥蜴の尻尾切りで始末される可能性は非常に高い。そうでなくとも、聖杯が手に入れば仲間達は悉く死に絶える運命である。

 レミングスの集団自殺じゃあるまいし、よくもまあこんな分の悪い作戦に大人しく従っているものだ。さっさと逃げたした方が余程建設的だろう。そんな輩が仲間内にいるとも思えないが。

 

 伊達眼鏡は己が運命に肩をすくめながら紙コップの珈琲を一口啜り、その味に顔をしかめる。

 薄い。確かに珈琲の味だけれど、臭いもほぼほぼ感じられない。自分の知っている珈琲との差異に戸惑いミルクを入れて誤魔化してみようとするが、しかし何だか自分の知っているミルクとも違うような気がする。

 

「……まるであたし達みたいだよね」

「何がだ?」

 

 唐突に眼を細めて見つめてくる不良娘に伊達眼鏡は少したじろぐ。不良娘の性格(キャラクター)が作戦のために作られたモノであることは承知している。つまりはこれが素ということだろう。

 彼女の視線の先には珈琲があった。

 

「味の違い、分かる?」

「俺の知ってる味と違うとは思うが」

「それ、生クリームじゃないよ。生クリームは保存が難しいから、コストを考えると提供できるわけないってことかな。それは白く着色した植物性の脂肪なの。牛乳由来ですらない安価な代用品」

 

 代用品という言葉がやや強かった。

 脂肪分のコクだけあれば良い。だから日持ちのする植物性の油脂を使う。全く合理的である。人間は合理性のために偽物までわざわざ用意するらしい。

 

「舌に自信があるようだな。料理人だったのか?」

「そんなとこ。まあ色々味見してたから多少鋭いかな。最初は珈琲を飲み慣れてないせいだと思ってたけど、よくよく味わえば納得だよ。ミルクの風味はなくても油分で飲み口は円やか。バランスは悪くないよね」

 

 言われてみれば、と珈琲を口に含んで舌で転がす。

 薄い珈琲と代用品の植物油。合わせてみればほんのりと、本来の珈琲とミルクを合わせた時のイメージが淡く透けて見える。材料の質(クオリティ)は最初から諦めるという前提で、この珈琲は成り立っている。

 

 偽物の珈琲に垂らされる安い代替品のミルクを思いながら伊達眼鏡は不良娘の言葉に頷いた。

 なるほど。偽りの聖杯戦争なのだから代替品が溢れかえることに不思議はない。

 十把一絡げの我々が活躍するに相応しい戦場である。

 

 天井に埋め込まれた質の悪いスピーカーから店内に流れていた無難で無害なクラッシック音楽が切り替わり、現在時刻を告げてラジオキャスターがリスナーのお便りを読み上げ始めた。

 300メートルは離れたストリートにワインレッドのセダンがライトを3回点灯させて走り去っていった。伊達眼鏡の広い視野と暗視術がなければ誰も気付くまい。

 

「時間だ。封限命令書R3を開封しろ。印字の酸化消滅は30秒だから注意しろよ」

 

 念のため時計で時間を再度確認してから伊達眼鏡は不良娘に要請する。命令書を所持するのは不良娘で、開封タイミングを知るのは伊達眼鏡。不良娘のスカートの裏側から命令書は出てくるが、そこに色気を感じている暇はない。

 

『出歯亀と給仕はポイントベクター、ゼロ、ナイン、ファイブ、セブン。痕跡を消しつつ速やかに魔術師の下へ集合』

 

 シーザー式換字による簡易暗号化が施された命令文を三度読み返し字が消えるのを確認すれば、不良娘と伊達眼鏡は命令書を二分割してくしゃっと丸めて躊躇なく口に頬張る。珈琲と一緒に嚥下すれば、証拠はこの世から消えてなくなった。魔術などを介す必要すらなく、実に確実な方法である。

 

 真北をゼロポイントとした右回り95度、距離7000――東部湖沼地帯に撤収か。周辺監視に秀でた伊達眼鏡をわざわざ不得手な場所に移動させるのだから、何らかの意図が介在したと見るべきであろう。

 それに魔術の心得のあまりない二人をわざわざシングルナンバーの魔術師と接触させるということは、次の任務は対魔術師、あるいは対サーヴァントを想定した大規模作戦なのだろう。一応覚悟だけはしておくべきか。

 いや、そんなことより。

 

「おまえ、料理人じゃなくウェイトレスかよ。盗み食いで舌を肥えさせてたのか?」

「悪いか覗き見変態野郎」

 

 コードネームという名の本性を互いに暴露され、多少ギスギスしながらスノーフィールド市街から二人の姿が消えるのに時間はさほどかからなかった。

 同時刻、市内にある数十ヶ所にて同様の命令によって、正体不明の集団、およそ三桁にも近い駒が市内から一斉に撤退した事実に、気づく者はいなかった。

 

 

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