Fate/strange fake Prototype   作:縦一乙

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day.05-04 勤労キャスター

 

 

「え? これマジですんの? この量を? 一人で? この俺様が?」

「はいはいそうですよ。他に誰がやるんですか。他に誰ができるっていうんですか。はい、これチェック表。後で確認しますからサボらないでくださいよ。最後にレポートも書くのを忘れないでください」

 

 もうキャスターの言うことにいちいち反応するのも面倒と言わんばかりに二十八人の怪物(クラン・カラティン)の技術スタッフ二名は容赦なく稀代の英霊に分厚い資料とチェック表を差し出した。

 古の英霊からして電子ボードでも使った方が効率がいいのではないかと思うのだが、ものがものだけに改竄防止措置のためには「紙に手書き」というアナログが一番らしい。

 

「えー。俺超忙しいのに。聞いてくれ、コンシューマー向け3DCGゲームのパンツを脱がすエロMOD導入用ツールを開発したんだ」

「つべこべ言ってないで働いてください。俺達だって忙しいんですから」

 

 穴蔵でジャパニメーション見ながら駄菓子を貪って何言っているんだコイツ、という視線がキャスターに突き刺さる。それを敢えて言わないのは最低限の優しさだったりするのだが、当の本人は目前の仕事量に呆然として気にしてはいられない。

 

 久方ぶりに出してもらえた穴蔵からやってきたのはやはり穴蔵。しかもキャスターが幽閉されていた部屋よりもよっぽど厳重で金もかかっていた。普通こういうのは『生み出した物』より『生み出した者』の方の扱いを上にするべきではないかと思う。

 いや、別にこれ以上幽閉されたいというわけではないのだが。

 

 見上げるほどにでかいこの宝具は、これでも全体のほんの一部に過ぎない。

 

 宝具開発コード《スノーホワイト》。

 

 キャスターが作った三つの最高傑作の中でも、最高と賞賛しうるにふさわしい逸品である。

 ベースとなる下地は元々ある程度作られていたので、キャスターがスノーホワイトにやったことといえば昇華による機能強化くらい。

 予想外に反応が良すぎて、予定スペックの軽く一〇〇倍以上の出力を試運転中にたたき出した暴れん坊でもある。暴走したと勘違いした二十八人の怪物(クラン・カラティン)が慌てて自爆装置を起動させようとしたのも良い思い出である。

 

 ともあれ、これだけ出力が高いと暴走の危険性も無視できない。

 結局24時間フル稼動メンテナンスを欠かすことができず、そして不安定でありながら拡張作業も同時に行っているので常に未完成なのである。

 

「こりゃひでぇ」

 

 そして蓋を開けてみれば、やはり予想通りの展開になっていた。

 キャスターが以前に見たときと比べ、スペックが少なくとも二割以上増強されている。増強するのは結構なのだが、増強だけされるのは勘弁して欲しい。

 ここの技術者はバランスというものを考えていないのだろうか。満足にメンテもできないのだからここまで拡張する前に相談の一つや二つあって然るべきである。

 

 俺って相変わらずマスターに信用されていないんだなぁ、とため息をつきながらダラダラとシステムチェックに突入する。口寂しさに酒かタバコが欲しいところだがアメ玉一つで黙らされた。これでやる気が出るわけがない。

 

 キャスター以外にもできないこともない作業であるが、専門スタッフがきびきび動くよりもダラダラキャスターがやったほうが進捗具合が良いというどうしようもなく納得できない事実がある。

 

 信用していなくても使える者は使えということか。何かしら急がざるを得ないことがあったことがよく分かる。

 一応誤魔化しているつもりだろうが、この程度の偽装に騙されるほどキャスターは適当でもないのである。

 

「いやこれ誰が拡張したんだよ。パワーばかりで効率下がってんじゃん。システム面も見ようぜ? てかここのバグも放置するなよなー」

 

 資料にパッチ追加必須と書いて一ページ終了し時間を確認。一枚に必要とする作業時間と残りの資料枚数をかけて軽く計算。予定終了時刻はあと二時間ほどではあるが、とてもじゃないが終わりそうにない。

 さりげなくそのことを告げてみたら、容赦なく作業時間が追加された。ちなみに休憩時間は皆無。

 もうこれはサボれという神のお達しではなかろうか。

 

「ああくそ! 地獄に落ちろマスター!」

 

 それでも生来の気性はそうさせない。

 どれだけサボろうと決意しても一目見れば些細なミスも見つけてしまうし、些細であってもそのまま放置できない。修正作業の手順を懇切丁寧にメモしながら、改善案が思い浮かべばそれも書かずにはいられない。思い切って何もしなければ先の作業を無意識に思い出しふと新たなアイデアが浮かび上がることだってある。

 

 これは困った。

 自分はいつから仕事大好き人間になったのだろう。

 

「って、おい! A68とF42Dに配線ミスががあるじゃねぇか! 240基盤は使えないから交換して廃棄! ついでに第3層の循環比率を一対九から三対七に再調整! 許容誤差はコンマ1以下だからな!」

「ついでの方が面倒ですよ!?」

「適当な仕事で良い作品ができるわきゃねぇだろ!」

 

 現場で悲鳴を上げる技師のケツを蹴りつける。どういう扱いであろうと彼等はアシスタントとして制作者たるキャスターの指示に従わざるを得ない。そして短くはあるが一緒に働けば妙な連帯感と仲間意識が芽生えるというものだ。

 マスターには信用されていないが、こうした仕事仲間とは別なのである。

 

 そしてそこが、隙となる。

 

 キャスター一人となった現場で黙々と作業すること数十秒。技師が走り去っていく足音が小さくなった頃に、キャスターはうつむきながらもハッキリと言葉を紡ぐ。

 

「これで、人払いは済んだぜ?」

 

 作業スピードは緩めない、手も抜かない。あくまで自然に動く。

 作業時間から計算すると配線ミスを直すのにせいぜい一分、基板の交換には二人がかりで三分、ついでに指示した比率操作は二人が別々に担当しながら調整するので数値が安定するまで五分はかかる。ここに戻る時間を考えれば更に二分。

 安全マージンを考えるとこの場に一人で放置されるのはせいぜい一〇分といったところか。

 

「……いつから気がついていたのかしら?」

 

 キャスターの背後から聞こえたのは若い女性の声だった。

 

「いや、軽いハッタリだ。居ないなら恥ずかしい思いをするだけだった」

 

 安心したように溜息をつくが、作業をしながらもキャスターは決して後ろを振り返らない。

 キャスターの行動は監視カメラによって常に監視されている。見張り役がいないからといって、怪しげな行動を取るわけにはいかない。うつむいて口元を隠しているのもそのせいだ。

 どうせ振り返ったところで女の姿は見えないのだが。

 

「だが可能性は低くないと思ってたぜ。ジャックの奴が姿隠しの宝具を欲しがってたからな」

 

 恐らくキャスターが他の二十八人の怪物(クラン・カラティン)と共にここへ同行した時点から、ずっとついてきたのだろう。

 姿隠しの宝具を使えば、認証を必要とするドアも一緒に入ることで回避が可能だ。女風呂に是非一度使いたい宝具である。

 

「重宝しているわ」

「《石ころ帽子》と名付けてる」

「単純にスカーフと呼ばせてもらっているわ」

 

 キャスターの命名にはアサシンは断固として拒否した。何故これが「石ころ」で「帽子」なのか、そういったツッコミは残念ながらなかった。どうやらマスターと同種の人間らしい。

 

「それで、お前さんが噂の真アサシンか」

「ええ。私が本物のアサシン。宮本武蔵はアサシンなんかじゃない」

 

 情報の共有。

 ジャックの言っていることを全面的に信じていたわけではないが、宝具を使いながらとはいえこの気配遮断スキルは紛れもなくアサシンそのもの。

 

「眉唾物だと思っていたが、これで俄然真実味が帯びてきたな」

 

 このメンテナンスもいささか急すぎた。資料にはいかにもなことを書かれて誤魔化されていたが、宝具を実戦投入――一体誰と戦ったというのか。

 

 マスターが何かを隠しているのは明白だった。アーチャーやランサーであれば隠す必要もない。

 おそらくはジャックから聞き及んでいたイレギュラーなサーヴァントにでも遭遇したのだろう。先日フェイズ5に移行したばかりでこの状況。いかに実力があろうと、脚本を修正するにはあのマスターでも荷が重いだろう。

 

 いっそのこと自分に全てを任せてくれたなら上手く回してみせる自信もあるのだが、どんなに腕があろうともマスターの頭の中にキャスターの名前はどこにもないのだろう。他人任せにできるものでもないが。

 

「……それで、ジャックはお前さんに何をどうしろと言ったんだ?」

「いいえ。私はお眼鏡に適わなかったみたい。一方的に色々と諭されただけよ。だから、あなたに会いに来た」

「すげぇな。あいつ生前は策士とかか?」

 

 出会い頭に機先を制したのが悪かったか。推測に推測を重ねてアサシンが会いに来ることは分かっていたが、促されて来たのではなく、アサシンが自主的に来たとなるとあの英霊の思考が読みにくくなる。この回りくどいやり方はキャスターを牽制するためのものだろう。

 

 マスターからも信用されず、同盟相手にも信頼がないことが良く分かった。もっとも、キャスターがそんな大前提に今更思う所がある筈もない。彼が今興味関心を抱いているのは、ジャックが何を考え動いているか、だ。

 キャスターの期待以上にジャックは応えてくれている。それが善意であるなどとは思わない。

 

「先に忠告しておくぜ。ここで俺から情報を仕入れたら誰にも気付かれないように脱出、しばらくは二十八人の怪物(クラン・カラティン)から距離を置け。可能なら街を出た方がいい」

「命令?」

「忠告だっつってんだろ」

「それは残念ね。ここであなたを殺してこの怪しげな宝具を壊せば、私は私の目的に一歩近付きそうなのだけど?」

 

 何やら首筋に冷たいものが当たる感触がする。察するに、ナイフか何かで脅かしているのだろう。

 しかし舐められたものである。キャスターを殺すのにアサシンならナイフを用いずとも指先一つでダウンできる自信がある。

 弱さについては定評があるのだ。

 

「命が惜しいから止めてくれ。それに俺を殺せばここからの脱出は不可能になる」

「あら。ここの宝具については何も言わないの?」

「それについては俺の苦労がパーになるから止めて欲しいって程度かな?」

 

 常日頃から嘘をついているキャスターではあるが、この嘘がアサシンにどれだけ通用するのか甚だ疑問である。

 わざわざキャスターが出向き整備調整を行う必要のある巨大宝具だ。怪しいことこの上ない。

 

 いっそのこと、壊したら大爆発するとでも言っておけば良かったか? あのマスターのことだから本当に自爆装置と連結させている可能性も高いし。

 

「……いいわ。時間の無駄ね」

 

 キャスターの葛藤は顔に出したつもりはなかったが、アサシンはどうやら見逃してくれたらしい。もしくは気付かなかったのか。

 同時に首筋から冷たさがなくなる。

 

「それで? おめえさんは一体何から聞きたいんだ?」

 

 頭の中でアサシンの目的と行動と性格を類推しつつ、今後どう動かせば一番面白くなるのかキャスターは計算する。

 このわずかな時間ではあるが、すでにアサシンの性格分析は終えている。偽ることは苦手で、自身の信条に実直。この駒を動かすのに苦労はないだろう。

 もちろん、この“偽りの聖杯戦争”でそんな生易しい駒が存在するわけがない。案の定、返ってきた答えにキャスターは呆然とすることになる。

 

「この聖杯戦争、敵は誰?」

 

 倒すべき敵として設定されているサーヴァントを前にして、暗殺者は大前提であるはずの爆弾を投げつけてきた。

 

 

 

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