Fate/strange fake Prototype 作:縦一乙
わずか数分にも満たぬライダーの連続飽和攻撃。
費やした魔力は全魔力量の半分以上。椿たちがいたビルに被害が及ばぬよう威力を抑えてこの有様。もしライダーが全力で行えば地図上からスノーフィールドがなくなったことであろう。
さすがは騎兵の英霊。一撃の威力は全サーヴァント随一である。
だが、これをライダーだから、進化したからと、簡単に言い表すのは非常に無理がある。
以前にフラットが試算したが、ライダー自身の処理能力はNPCであれば千人程度、はっきりとコントロールするとなれば百人程度が限界だ。そしてその限界は多少増減することはあっても急激に増えることはあり得ない。
事実、ライダーはランサーに通用する威力の魔力弾を生成するのに、処理能力を限界まで使用しても数発が限度だった。
だというのにいきなりその生成数を数万倍に増やし、追尾機能まで付与してくる。
ついでにフラットとティーネがライダー仕掛けた連鎖術式による威力増強プログラムも参考にして、いきなり極大魔力弾に導入してきた。ここに至るともはや魔力量がいかにあろうとも解決することのできる問題ではない。
サーヴァント単体でできる能力の範囲ではない。
だから、ライダーは借りてきた。
自らの力の処理を、他人の力によって補った。
具体的には、ライダーが支配下に置く八万人の感染者を使って。
よろり、とクレーターと化した爆心地でランサーは創生槍を杖に立ち上がった。
その身体は黒く煤で汚れ、サイズも一回り小さくなっている。繰丘邸でも似たようなことはされたが、今回のこれは以前を遙かに上回る威力である。全方位からの一点集中攻撃に全くの無傷というわけにはいくまい。
創生槍を盾に軸点をズラし、全体積の二割を犠牲にして、辛うじてランサーは生き残っていた。あと少しでもタイミングがずれていれば、今ここにランサーはいないだろう。
この程度の犠牲でよく助かったものだ。
「まったく、無茶苦茶、ですね」
そしてライダーがいかにして処理能力を得たのか予想できたのだろう。ランサーの言葉はこの攻撃の威力などではなく、ライダーが行った無茶苦茶な処理能力の向上を意味していた。
コンピューター同士を連結させて処理能力の向上を図ることは、今や世界中で行われていることである。
単体によるスペックアップには壁もあれば天井もあるが、数を頼りにすれば弊害も少なく簡単でもある。むしろ手法としては真っ当であろう。人間だって一人でできないことをしようと思えば複数人で作業する。
ここまでは、決しておかしな話ではない。
問題は、コンピューターを連結するのと同じように、人間の脳を連結させて処理能力を上げようという発想である。
多少の差異はあれど、ハードウェアとしての人の身体は解剖学的に同じ構造で造られている。頭を開いて覗いてみれば、人間であればほぼ同じ脳構造を見て取れるだろう。
となれば、個々人で扱えるフォーマットとインターフェイス、インストール機構さえ用意すれば、コンピューターと同じように処理能力の向上は行われる筈だ。
理論上、では。
だが当然のことながらそんなことは不可能に限りなく近い。
何故なら使用する言語や培った経験、生まれながらの性格といったフォーマットとなるソフトウェアは、個々人で全く異なるからだ。双子であろうと同じということはあり得ない。試験管で作られたホムンクルスだって同じだろう。
インターフェイスとインストール機構そのものはライダー自らの“感染”によって成立しているとはいえ、このソフトウェアだけは既存のものをただ利用するだけではどうにもならない。
八万人いれば八万通りのソフトウェアがある。各人異なるニューロン発火パターンを解析し、コードを数式化した後、モデル化、共通基盤を見つけ出し、そこに新たな回路を書き加えなければならない。
魔力を使ってよりスマートになっているとはいえ、イメージとしては頭に電極を突き刺すのと変わりあるまい。
非常にデリケートな脳という器官への干渉である。一歩間違えれば八万人を一斉に殺しかねない、綱渡りにも等しい所行である。
だがこれをライダーは、このわずかな時間の間にやってのけた。八万人に共通の回路を書き加え、ライダーがやろうとする処理を八万人に肩代わりしてもらった。
言葉にすることは簡単だが、技術的には数百年経っても不可能だろう。
まさしく、無茶苦茶である。
「けれど人を傷つけない、という約束は本当だったようですね。もう一度あれだけのことを食らえば、いかに僕でも消滅は免れない」
その言葉に応じる余裕は、ライダーにはない。
仮想シミュレートでは何度も実験したものの、実際には予行演習もないぶっつけ本番である。演算に無駄も多く、分散したとはいえその負荷は莫大である。
再テストを繰り返せばもっと効率よく使えるかも知れないが、そんな余裕はもはやどこにもない。代理演算をした八万人の脳は高熱でゆっくりと休養を取らせない限りしばらく使い物にはならないだろうし、そもそも魔力を搾り取りすぎてこれ以上動かすのも無理である。
「さあ、ライダー。次はどうくる? 僕はまだここにいるぞ」
ランサーの挑発に、言葉はなくとも応じぬ訳にはいかなかった。
これで黙って引きこもれれば苦労はしない。椿を助けるために、勝つか負けるか、決着をつけない選択肢はない。そして次の手が出せなければ、ライダーの敗北は決定的になってしまう。
ライダーに残されたカードはあと二枚。
一枚は時間稼ぎで、一枚は博打。この期に及んで勝算があるというだけマシであろう。
残った魔力を使い、最後まで温存しておいた伏兵をランサーの周囲へ配置する。その数は五。本気のランサー相手なら時間稼ぎにもならないだろうが、弱った今ならまだ希望がある。
「ツバキ、モウイチド、アナタノソバヘ、マイリマス」
そう言ったライダーの言葉には、強い決意が込められていた。