Fate/strange fake Prototype   作:縦一乙

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day.01-04 地に伏せる者

 

 

 場所は同じながら、時間はほんの少しだけ経過する。

 黒いローブのアサシンと二人のマスターが消え去り、残されたバーサーカーもあの手この手を尽くした後、ようやくこの場にいても無意味だと悟り、立ち去った頃。

 

 武蔵が消滅した場所の傍ら、自らの血に伏していた屍に変化があった。

 先ほどバーサーカーと立ち会い、武蔵の不意打ちによって為す術もなく倒された魔術師である。

 左肩から入ってきた刃は鎖骨を砕き、左肺にまで達している。今も傷口から血が流れ落ち、程なく死ぬという見立て通りにその人生を終わらせようとしている――筈なのだが。

 

 もぞり、とその身体が動いた。

 

「クァハッ」

 

 邪気だらけでありながら、無邪気な笑い声が路地裏に響き渡り反響する。

 

「クァハッ! クハハハハハハッ!」

 

 子供のように、心の底から愉しそうな、それでいてどこか歪んだ笑いが木霊する。

 

 それは。

 わずか数日前の再現だ。

 

 スノーフィールド東部、湖沼地帯の別荘地の出会いと別れ。

 出会いと別れ――それは召還と殺害だ。

 そして再会と別離も、召還と殺害によって繰り返された。

 

 なれば、と屍は過去を踏襲する。

 そこに意味はない。そんな気分に浸りたいだけだ。

 

「惜しむらくは彼女に殺されず、別のサーヴァントに殺されかけてしまったことだがな! 浮気をしてしまって申し訳ないな!」

 

 アサシンのマスター、ジェスター・カルトゥーレは歓喜に噎びながら二度目の復活を果たそうとしていた。

 

「ふむ! やはり同じサーヴァントでも彼女に殺されるのと別人に殺されるのとでは勝手が違うな! やはり彼女はスマートだ! 殺し方一つとっても美しい!」

 

 上着のボタンを外して左胸部分にある紋様を見てみれば、数日前と同様にまたも黒く変色している。だがその色はアサシンに殺された時のようにどす黒くはない。もうどうにもならず再生不可能な点は同じだが、概念核が完全に機能停止するまで少しばかり猶予があるのだ。

 

 数日前と同じく黒く変色した紋様を回転させ、新たな概念核を装填した。身体つきや顔つきも変化し、まったくの別人へと変身する。同じなのは性別と、その鋭すぎる犬歯くらい。

 

「しかしさすがは噂に聞く聖杯戦争。この調子で死に続ければ概念核も足りなくなる」

 

 今回の死亡はジェスターにとっても予想外であった。

 

 ジェスターも例によって武蔵の召還に引き寄せられた一人だ。

 もっとも、その目的は他の魔術師達とは異なり、異端たる魔術師を一人でも多く排除しようとするアサシンの探索にある。令呪を持つ東洋人を狙う魔術師達を狙ったアサシンを追いかけてジェスターは動いていたのだ。とんだ捕食関係である。

 

 しかしここで思いがけず、ジェスターは先んじてバーサーカーを引き連れたフラットと出逢ってしまった。

 ここで欲を出してしまったのが良くなかったのか、ジャスターはあれこれと思惑を巡らし、何とか交渉をしようという時に、あの有様である。さすがの吸血種も日中サーヴァントから問答無用の奇襲を仕掛けられては他の魔術師同様に抵抗のしようもなかったわけである。

 

「まさか、マスターであるとも知られずに殺されてしまうとは……」

 

 運命の悪戯を感じずにはいられまい。

 ジェスターがマスターであることに、現時点ではアサシン以外誰にも気付かれていない。以前とは姿形も変わっているし、内情を多少なりとも知る弟子達もアサシンによって殺害されている。フラット達とも接点を持ってしまったが、こうして殺されたことでその認識から外れることにもできただろう。

 可能ならもう少し派手に動いた後で大勢に死んだことを認識させたかったが、それはさすがに高望みが過ぎるか。

 

 惜しむらくはアサシンを取り押さえる機会がありながら見過ごしたことだが、ジェスターはこれを前向きに解釈する。

 

「まだその時ではなかったというだけか。彼女を捕まえなかったのも、存外悪いことばかりでもない」

 

 あのままアサシンを捕まえれば、陶酔のままにうっかり殺してしまう可能性もあった。それでは本末転倒――彼女は全てにおいて黒く汚れ、白く穢れ、灰色に塗れて貰わなければ面白くない。ここは我慢をするべきところだ。いらぬ欲をかいて死ぬのは今回の一度だけで十分だ。

 

 それに、とジェスターは一連の出来事を思い返しながら自ら出した結論を追想する。

 宮本武蔵と東洋人、黒い少女とそのマスター、遠距離狙撃の宝具を所有する勢力、そしてアサシン、そしてジェスター本人。この混沌とした戦場で五つもの勢力が交叉した事実はひたすらに大きい。

 各々の断片情報だけであっても、統合すれば各陣営の内情も見えてくるというものだ。むしろこの情報を元手に他の情報を手繰り寄せることも十分に考えられる。

 

 それらを鑑みるに、アサシンについてはひとまず傍観を決め込むのも、悪くない。

 

「クハハハハハハッ」

 

 先のことを考えると、どうにも笑いが止まらない。

 楽しみで愉しみで、仕方がない。

 

 ジェスターが笑いながら胸を確認してみれば六連弾倉は残り四つ。つまりは二回しか死んでいない計算だ。

 アサシンは、やはりジェスターを再度殺してなどいない。姿形が変わっていたとはいえ、魔力供給のパスがあるのだ。これだけ至近距離ですれ違えばマスターであると分からぬ筈がない。

 

 ジェスターは、この聖杯戦争の中にあってアサシンが消滅する可能性をまるで考えていない。――それも当然。彼女の記憶を覗いたジェスターであれば、その強さは手に取るように分かる。

 

 元よりあのサーヴァントは狂信者。逆境であればあるほど、制約を科せば科すほど、その真価を発揮するタイプである。

 

 手綱を握るマスターがいない。他のサーヴァントならば致命的な条件だが、アサシンに対しては到底もの足りぬ制約だ。

 彼女に対してもっと制約が必要なのだ。目を隠し耳を閉じ手に枷を嵌め足を鎖で繋いでやらねばならない。このスノーフィールドの地に相応しいくらいに、彼女の存在を貶めてやる必要がある。

 それでようやく、彼女はその身にあった黄金にも勝る輝きを得ることができる。

 

「クァハッ! クハハハハハハッ!」

 

 幸運なことに、そのための手段は既に確立してあった。イレギュラーだらけのこの聖杯戦争であるが、やはり基本は抑えているようである。

 

「令呪が効いている確認がとれただけでも良しとしよう!」

 

 そういって笑いながら立ち去るジェスターの手に令呪の輝きは――

 

 すでになかった。

 

 

 

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