Vシネチェイサーは本気で楽しめました
安定のブレンとか
なぜ彼は転生の道を辿ったのか
春を目前にしたある日曜日
駅の改札前で佇む、長身の少年の姿があった
(……ふむ)
左腕に巻いた腕時計に眼を向け、次いでやや雲行きの怪しくなってきた空を見上げる
今日、少年は半年ほど前から交際を続けている恋人を待っていた
待ち合わせ時間まであと少し、久しぶりのデートに内心緊張しつつ(無表情ではあるが)、少年はバッグからハードカバーの本を取り出し、眼を通す
タイトルは『表情筋の鍛え方』
◇◆◇
家を出る前に見た天気予報と星座占いはある意味当たって、外れていた
『お昼前から雨』
『今日の運勢は最下位、大切な予定が中止になるかも』
雨は雨でもスコールかと思うほどの土砂降り、予定は中止どころか……恋愛関係すら瓦解した
『ごめんね。わたし、もう付き合えないよ……だって、あなた何考えてるかわからないもの』
待ち合わせ時間から20分ほど経った辺りで届いたメール
何を言われたのか理解できず、メールや電話をしても返事は無し、どころか恐らく着信拒否さえされているだろう
「……唐突すぎる」
ふと、水溜まりに映った自分の顔を見る
いつもより少し目尻が下がっているくらいで、後は普段通りの無表情
感情表現が壊滅的に下手で、笑顔泣き顔怒り顔の一つも出来ず、加えて口下手な上に自分から語ることもあまりしない、どちらかと言えば聞き手に徹することの方が圧倒的に多い性分
むしろ、半年とはいえ交際が続いたことが奇跡なのでは、と他人事のようにさえ思っていた
「………」
悲しいはずなのに、涙の一つも出てこない
結局はその程度だったのかと、思ったよりも早く割り切れた
「……帰るか」
悲哀さを含んだ声で呟き、路地を抜けて大通りへと出る
瞬間
「……は?」
視界に飛び込んできた、濡れた道路で盛大にスリップしてこちらに突っ込んでくる大型トラックの荷台
耳をつんざくブレーキ音とぐるぐると回りつつも真っ赤に染まっていく視界、全身を襲った砕けんばかりの鈍痛を最後にして、少年の意識は闇に落ちた
◇◆◇
浮いている
(………)
否、落ちている?
(………)
それとも、寝ているのか
(……?)
真っ暗な世界だった
色どころか一つの光も無い、黒
「―――」
声が出せない、いや出ない
眼を開くことが出来た感覚はあれど、やはり黒に覆われている
音が無い、色が無い、自分の匂いさえも感じない
無論、指先を動かすことさえ、叶わなかった
(……ああ)
それでも、考えることは出来るらしい
(これが、死か)
死
生命の終着点
ならばこの黒は、死の闇というものなのだろう
(まぁ……いいか)
それでも、やはり他人事のように受け流して
唐突に気だるさが増してきて、それに任せて眼を閉じた
『―――君はとても暖かい心を持っている』
(……?)
ふと、音が無いはずの闇に届いた、優しさに満ちた男の声
『不器用なれど、君の優しさは尊いものだと、私は思うよ』
それは少年に向けられた、初めての肯定の声
『外にばかり目を向け、内面をあまり重視しないというのは、ヒトの欠点だとも思う。まぁ、こんな発言は傲慢だろうがね』
『だが、その不器用な優しさが必要になる時もある。それを示せないまま散るのは、あまりにも哀れだ。……故に君に問う』
『まだ、生きたいと思うかね?』
「―――」
矢継ぎ早に告げられる言葉に、理解が追い付かない
されど、最後の言葉の意味だけはなんとなくわかる
まだ、生きられる
今の自分のまま、生きていけるのかもしれないと
ならば、答えは一つ
「……Yesだ!!」
『Congratulations!! 君は今、生まれ変わる!』
『君のまま、あるがままに生きたまえ!』
「Happy Birthday! ReStart Your Life!!」
心からの祝福と激励
福音を受けた視界が、目映い白に塗り替えられた
◇◆◇
「……経過は?」
「順調です。覚醒後の不具合も無いでしょう」
「結構。……ククッ、ざまぁないなスカリエッティめ。貴様の研究は、我々に大きな恩恵をもたらしてくれたぞ」
「戦闘機人……ヒトの身体に機械の力。戦力としてこれ以上のモノは無いでしょうね」
「より戦闘向けのチューンも施してある。加えてあの能力とデバイス……完璧だ!」
「……最終調整の完了まで、もう間もなくです」
「クハハッ……ああ、楽しみだよ……『プロトゼロ』」
『調整終了』
『コード:プロトゼロ。シリアル
『メインシステム、通常モードを起動します』
不定期ですがちまちま更新していけたらと思っています