悪魔が如く   作:冴え渡る

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関西の龍

一言で言えば『苛立ち』

人間、誰でも触れられたくないことの1つや2つはある。

 

それはこのイラつきを抑え切れていない大男も同じである。

男の名前は『郷田龍司』

かつて国内最大規模の暴力団に属しクーデタまで起こした彼は因縁のライバルとの決着の末 そのナリを潜めていた。

だがその沈黙は数年前、彼の弟分の犯した『決して許されない行い』によって破られる事になる。

ケジメをつけたと思っていたその『過ち』。

 

だがそれは終わっておらず、今もこうして目の前の自分を嘲笑っていた。

 

「どういう事や?……説明せぇ」

 

睨みをきかせて状況を確認する龍司

一般人なら軽く失禁するであろうその風貌は、睨みをきかせる事で尚、凶悪さを増す。

だがそんなものはなんてことない、とでも言うような顔で対する男は返す。

 

「お前さんのやって来た事は知っている。………だがな、こんなもんを見つけちまって、知らぬ存ぜぬは出来ねぇんだ」

 

余裕があるような無いような、そんなニヒルな苦笑いは龍司苛立ちをこれでもかと加速させる。

 

「当たり前や……ッ!桐生とワシとで落とし前はつけた筈やッッ!なのになんでや………なんでこんなもんがまだおるんやッッッ!」

 

そしてその苛立ちは怒号だけで収まる訳もなく

”義手である右腕の回転式機関銃(ガドリングガン)” を唸らせて苛立ちの原因を痛めつける

その暴力の象徴とでも言うべきガドリングガンは騒音と共にありったけの弾丸を『原因』に撃ち込む。

 

これはもうこの世にはない筈だ。

 

ある訳がない。

 

そんな事を思いながら、あるいは現実逃避をしながら、

龍司は弾薬が尽きるまで『原因』を撃ち続ける。

 

あの真島と金貸し、桐生の力まで借りてやっとの思いで潰してきたのだ、それがどうしてこのタイミングでしかもまたこの街で。

 

 

郷田と男の目の先にあるモノ

 

それはどこにでもいそうな普通の男だ。

だが男のめは赤く充血して瞳孔は開ききっており、血管は異様な程に青白く浮き出ている。

どう見ても生きている人間ではなかった。

ありったけの弾丸を浴びたはずのその人の様なものは死にかけてはいるが、死んではいない。

 

数秒の沈黙の後、龍司の前の男は重い口を開いて告げる。

 

「出現場所はこの地下……つまりアンダーグラウンドだ」

 

『アンダーグラウンド』

その名は聞いたことがある。

この目の前の『原因』が町中にいた頃、自分を含めた仲間達と共に降りた町の地下に広がる無限回廊の事だ。

その迷宮の中は決して『こいつら』が絶えることがなく、明かりが灯ることのない暗黒の世界。

 

「………ここに通じてる道は大丈夫なんか?」

 

確かここにも地下の通路があったはず、そこはアンダーグラウンド程ではないがかなりの量の『こいつら』が居たはずなのだ。

 

「あんな事があったからな、手下には銃火器を持たせてる………それにこいつはアンダーグラウンドにしかいねぇ」

 

「アンダーグラウンド………そこに行けば全部終わるんか?」

 

郷田はその言葉を聞くと目の色を変えて向かおうとする。

だがその反応を見た目の前の男は少し悲しそうな顔をした。

 

まるで「それは意味がない」と言うような表情を。

 

「……無駄だ、アンダーグラウンドには無数にこいつらが存在する」

 

「あぁんッッ!?んなもん全員殺せばええだけや!」

 

自分でもおかしな事を言っている自覚はある。

無限に湧いて出てくる『原因』を全て殺すと言っているのだ。

たとえ一時的に殲滅したとしてもすぐに『こいつら』は湧いて出るし、弾薬にも限りがある。

何よりあそこは暗黒の世界だ、長時間いれば体力も削られいつしか気が狂ってしまうだろう。

だがなにもしないと言う事は出来なかった。

 

「落ち着け。………比喩や冗談で無数に、なんて言ってるんじゃねぇんだよ」

 

「そないな事言われんでも分かっとるわッッ!」

 

 

男の目はこれほどまでないくらい真面目な目つきになる。

 

「アンダーグラウンドにはやたらとこいつらが出現する。それは知ってるな?」

 

「くどいわッ!なんだも経験しとるしそれぐらい分かっとるわッッ!」

 

「あれはマジで際限なんてもんはねぇ。………理由は分からん。だがな、何か無限に湧き出る原因が絶対にあるんだよ」

 

「……このまま行っても無駄、せやから諦めろっちゅうんか?」

 

「お前さんは奴らを全部潰せばいい、と思ってるんだろ?」

 

その通りだ。

それしか道が無いのだからその方法を取るしかない。

 

「……それしかないやないか、他に手が無いっちゅうならワシの命尽きるまで奴らを屠るだけや」

 

その言葉を待っていたかのように、男は覚悟を決めた顔で龍司に告げる。

 

「原因を突き止めろ、装備はこっちで用意する」

 

「あぁ?」

 

装備を用意する?

情報の提供だけでなく物資の用意まで?

この男が自分に対して、なぜここまでしてくれるのか、龍司にはわからなかった。

 

「『伝説の情報屋』が『関西の龍』を援護するって言ってんだ。………アンダーグラウンドへ行け、郷田」

 

「………その呼び方は」

 

『関西の龍』

 

それは忌み嫌っていた呼び名だった。

極道の世界にいた頃から変わらないこの思い。

 

『極道の世界に龍は一匹』

 

『龍』はまだいい。

この背負った入れ墨が、自分が、龍であるという事はとても嬉しく思えた。

だが『関西の』という部分が気に食わなかった。

極道の世界で知らない者はいない『堂島の龍』がいる、だから自分は『関西の龍』になっている。

一匹だけのはずの龍は二匹いて、自分は関西の龍。

どうしても孤高の龍になれない。

そして龍をかけて負けた自分は、いつしか龍になる事を諦めた。

 

「龍司」

 

「………」

 

「お前さんの『龍』にかけてるその信念は知っている。だがな……それじゃどうして、極道じゃなくなったお前さんは、その『腕』をまだ持っている?」

 

「………」

 

弟分の犯した『罪』

人間の命を弄び、ゾンビへと変貌させるという『許される事のない行い』。

それを止めるには拳では足りず刀でも届かなかった。

神村町に流れ着いた時、『ふざけた義肢装具士』につけられたこの回転式機関銃(ガドリングガン)だけが、愛する弟分を止める

手段となった。

だがその『罪』はあまりに重く、あまりに大きかった。

最初は後悔していた。

暴力をうちに秘めたこの義手は強度を増し、威力を上げて『鬼潰し』と呼ばれ、いつしかとある裏商人の手によって『剛龍の腕』と呼ばれる物になっていた。

 

この腕を初めて持った時に感じたあの感じ。

龍を捨てきれていないのだろうか?

 

この背中が、この腕が、まだ俺を見ているのだ。

語りかけてくるのだ、お前は龍であると。

 

「………支度は出来とるんか?」

 

「………あの頃流通してたものは全て別室にある」

 

「この町の警備は?」

 

「警視庁と連携して警備してある。……一部の自衛隊もな」

 

「………ほな、ケジメつけに行ってくるで」

 

この命尽きるまで。

どれだけの犠牲を払おうと構わない。

この悲劇を完全に無くすまで俺は龍へ挑まなくはならない。

 

(テツ………お前の残した後始末、これだけはワシがやらなあかん。何が何でも、奴らは殲滅したるで)

 

 

 

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