No matter what fate   作:文系グダグダ

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13:IS学園 6月 後処理

 ある人物に連絡を入れた次の日。特に言う事もなく業務をこなしていたり、楯無さんに連絡をとっていたり、織斑君の寮の自室についての調整などをするうちに放課後となった。

 「傷と疲労を早く治すように」といってた轡木の爺さんが気を回してくれたのか、午後のホームルームが終わり次第フリーになり、色々とプライベートな時間が増えた。

 だが、そんなことは知ったこっちゃなく色々と溜まった案件片付けるために奔走するのであった。自業自得故に仕方なし。

 

「シャルル……じゃなかった。シャルロット・デュノアさん」

 

 ホームルームが終わり次第、廊下に出て隣の教室から『偶然』出てきたデュノアさんと織斑君をロックオン。直ちに声をかけて捕まえる。決して1組に合わせてホームルームを終わらせたわけではない。

 

「あ、友兄」

 

「何か用ですか? 岡部先生?」

 

「よう一夏。少しデュノアを借りるがいいか? 彼……じゃなかった、彼女に大事な話があるんだ」

 

 この言葉に織斑君は眉間に皺を寄せて、こちらをじっと見つめる。デュノアさんは険しい表情を浮かべ、俯いた。

 

「待て待て、そんなシリアスな顔をしたり腹を括るな。悪い話ではない」

 

 そう言って織斑君と暫く見つめあう。暫くそうしていると向こうは信じてくれたようで……

 

「……ああ、わかった。信じるよ」

 

「わかりました。岡部先生」

 

 二人の緊迫した表情も解け、快諾を得た。

 

「よし。じゃあ済まないが織斑君はどこか適当に時間でも潰しておいてくれないか? 終わったら連絡をいれよう」

 

「わかった」

 

「それでは、デュノアさん。ついてきてくれ」

 

 そう言って、織斑君とは一旦別れてデュノアさんを引き連れる事となった。代表候補生や各クラスの教員を始め、1年生達が奇異の目でこちらを見るが気にしない。

 廊下を歩いて、階段を登って、人気の多いところから人気のないところにデュノアを連れて行く。これだけ言うと凄く犯罪チックである。

 

「あのー、岡部先生? どこにいくんです?」

 

 デュノアを引き連れてテクテクと校舎内を歩いている途中、流石に心配したのか行き先を自分に訪ねてくる。誰だってそうする、俺だってそーする。

 

「生徒指導室だ。あそこなら密室で防音性もある。あまり多数の人に聞かせたくない話にも持って来いだ」

 

 生徒指導室

 

 読んで字のごとく生徒を指導……もとい、お説教する部屋。その他にも進路相談や学生生活におけるお悩み相談室のようなものである。ぶっちゃけIS学園における同性の少ない自分には縁が無い。

 そしてますます濃くなってくる犯罪臭の香り……

 

「……そうですか。なら大事な話というのは」

 

「そこら辺は賢い君の事だ。言わずとも察しているだろうが、まあ……君の御家族の事だ」

 

 途端に無言の時間がやってくる。彼女にとってはあまりいい思い出が無いのだろうか?

 

「まあ、君にとってはあまりいい思い出は無いだろうが聞くだけ聞いてみるといい。ほら、ここからは君一人で行くんだ」

 

 生徒指導室に着くと自分はポケットからカードキーを取り出し、ドアのロックを解除する。

 そしてドアを開けてデュノアを誘導する。彼女は生徒指導室に入る直前、自分と顔を合わせた。

 

「最後に、これは独り言なんだが……家族は大切にな」

 

 自分がそう言うと、デュノアはそのまま生徒指導室に入っていった。

 彼女が生徒指導室に入るのを確認するとドアを閉める。そしてちょうどタイミングよく楯無が姿を現した。

 

「じゃあ、後は任せた」

 

 そう言ってこの場を楯無に任せると、彼女はため息をついて呆れたようにこちらを見る。

 

「貴方ってホント、お節介さんね。どうしてこう生徒のトラブルに首を突っ込むのかしら?」

 

「そりゃあ、一応先生だしなぁ」

 

 分野が違えども、教師紛いの職種についたのだから『この先生と出会えてよかった』と思われるようになりたいじゃないか。

 ウチの生徒である以上誰が相手でも生徒には決して手は出させないし、こんな自分でも生徒の成長を手助けしたい。それをモットーにやっている。

 

 ――ホントにそれで良いのかどうかは判らないけどね

 

 ……ま、こんなセリフを彼女に言った日には、きっと抱腹絶倒――お腹をかかえてひっくり返るくらいに大笑いして、そんでもって友人の新聞部に頼んで記事にされるんだろうなぁ。自分のキャラに合わないしね。

 

「でも……」

 

 楯無は意地の悪い笑みを浮かべる。

 

「自分から親との縁を切っておきながら、生徒には家族の大切さを説くなんてお笑いよねぇ」

 

「親不孝者からの大切な忠告だよ? 人生の授業なんてと~っても貴重なんだよ! だよ!」

 

 楯無と同様に意地の悪い笑みを浮かべながらそう切り返す。

 

「口ではどうとでも言えるけどねー……ま、今回はそういうことにしておきましょう」

 

「そういうことにしてください。じゃあアリーナにでも行ってくるから、デュノアさんが出てくる頃あたりに織斑君をここに呼び出しといておいてね」

 

 そう言って、楯無の気怠げな返事をバックにアリーナへと向かった。

 

 さあ、つぎは幼馴染みコンビだ……

 

 そう思いながら、まずは下準備として、どこか図書館なり寮の自室なり適当な場所で時間を潰しているであろう織斑君に連絡を取る。IS ゲスト機の個人間秘匿通信(プライベート・チャネル)を起動し、白式へと繋げる。

 

「織斑君、聞こえるか?」

 

「ん? あ、あぁ……友兄か? シャルは?」

 

 特に必要もないので通信は立体ディスプレイの無い音声のみ、なので織斑君は自分の急な呼び声に戸惑いつつもこちらからの呼びかけに応える。

 

「デュノアさんは生徒指導室にいる。自分はそこにはいないが事が終わり次第、連絡が来るはずだ」

 

「そっか、サンキュ」

 

 よし、掴みはこんなもんでいいだろう。後は彼に察されないように遠回しに聞こうとしよう。

 

「そういえばさ、昨日聞きそびれていたんだが……更識んとこの姉妹、仲が良くなったような気がするんだけど何かあった?」

 

「はは、誤解を解こうとしたらちょっと姉妹喧嘩に巻き込まれちまった」

 

 声色から苦笑しながら話している織斑君の様子が想像できる。さらに織斑君は話を続ける。

 

「それで、ISで模擬戦みたいな事とか色々あったけどなんとか誤解は解けたんだ。解けたんだけど……」

 

「ん? 他になんかあったのか?」

 

 内心 占めた! と思いながら相槌を打つ。

 

「今度は俺の方に誤解が……ね?」

 

「あ、読めたぞ。ファーストとセカンド絡みか?」

 

「惜しい。正解は箒と鈴とボーデヴィッヒの3人。シャルをIS学園に留まらせようと千冬姉や会長に色々と相談したのがボーデヴィッヒの耳に入ったらしくて」

 

 うん。ここまでは予想通り。

 

「ふーん……ま、篠ノ之ちゃんと凰さんに関しては明日頭下げて謝れ」

 

「え!?」

 

 織斑君が疑問に思うのも仕方なし。

 

「……男にはそういう時がある。んでもってそれが一番波風立てないのさ……」

 

「友兄ェ……」

 

 哀愁感漂うコメントを残すと、織斑君は同情するように返した。

 

「……とりあえず、『誤解させるような事をしてスマン!』とでも言えばいいと思うよ」

 

「ホントかよ……」

 

「自分も織斑君の歳の時に……それでなんとかなったんだ……」

 

「……わかった。ありがとう」

 

「それじゃあ明日、頑張ってくれ。通信終了」

 

 そう言って、白式とのプライベート・チャネルを終了させる。

 ……女の花園に貴重な若い男性として放り込まれて早3ヶ月。一般の生徒からの奇異の眼差しと女学校顔負けの逆セクハラトークや教員達の嫌味や小言には完全に慣れつつある。ハーレム? 桃源郷? そんなものは無かった。

 

 ――知ってるか? 男子寮より女子寮の方がトラブルの頻度は多いんだぜ……

 

「おー、頑張ってるなー。ガンバッテルナー……」

 

 アリーナに来てみれば、1年の専用機持ちによる無駄にレベルの高いタッグの模擬戦が繰り広げられていた。だからこんな変なコトを考えてます。

 未だにお前らのその成長速度には慣れない。織斑姉弟(してい)といい篠ノ之姉妹といい……

 

 ――世の中見渡す限り天才だらけなようで、嫌になってくる。

 

 打倒一夏を掲げて修練に励んでいるメンバーを見て感心する一方、ボーデヴィッヒと篠ノ之のコンビがえげつなくて人選をやらかしてしまったとも思わなくもない今日この頃。

 とりあえず、見た感じオルコット・凰ペア対ボーデヴィッヒ・篠ノ之ペアで模擬戦をやっていて案の定ボーデヴィッヒ・箒ペアが押していた。

 

「ぐ、降参よ……」

 

「……降参ですわ」

 

 しばらくして、レーゲンのワイヤーブレードに拘束された甲龍と打金特式のブレードの刃先がブルーティアーズに乗るオルコットの喉元に突き付けられて模擬戦が終了した。

 それから4機のISは地面に降り、待機状態に戻った。

 

 自分はそれを見計らって、彼女たちが模擬戦をしている間に人数分タオルとスポーツドリンクを持って駆け寄った。

 

「みんなお疲れ、全員いい動きだったよ。そのまま頑張れば国家代表も射程圏内かもしれないな」

 

「岡部さん!」「あ、岡部先生」「先生!」「先生自ら!……恐れ入ります」

 

 殆ど差は無いようなものだが、篠ノ之・オルコット・凰・ボーデヴィッヒの順に彼女たちは自分に気づいてそれぞれ反応を表した。

 特に自分を見てボーデヴィッヒは即座に右手をあげ手のひらを左下方に向け、人さし指を大体おでこ辺り、帽子のひさしあたりに上げようとするが自分が制止させる。

 

「ああ、今日はプライベートだから敬礼はいいよ。むしろ君は今は学生なんだ、やめなさい」

 

「す、すみません。カラダに染み付いているもので」

 

「その厳正さは君の良いところだが、これからきちんと公私を使い分けれるようにしような」

 

「了解しました」

 

 そう言って、手近にいたボーデヴィッヒと篠ノ之ちゃんにタオルとスポーツドリンクを渡す。

 

「はい。タオルとスポーツドリンク。正直……ここまでいいコンビになるなんて予想外だったよ」

 

「ありがとうございます! 岡部さんっ!」

 

「ありがとうございます」

 

 二人はタオルとスポーツドリンクを受け取り、それぞれ汗を拭いたり、水分補給を行う。次は凰とオルコットだ。

 

「凰さんやオルコットさんもそう落ち込まないで。自分が見てきた1年生時の代表候補生達の中でもトップクラスだから……な?」

 

「本当にそうなんですの?」

 

 ひどく落ち込んだ感じの二人をフォローしたつもりが逆に怪しまれ、オルコットが懐疑的に答えた。

 

「そんな『些細な』事で嘘はつかないさ。大体、君たちは過小評価しすぎだ。高慢になれとまでは言わないが、そう卑屈になってもらっては困る」

 

「そりゃそうだけど……こうも叩きのめされるとさすがのあたしだってヘコんじゃうわ」

 

 まだ今日1回しかあのペアに勝ってないのよ!? と凰に言われる。

 確かに、自分が織斑さんと何回か模擬戦をやってその日は1回しか勝てなかったらヘコみそうだ……ぐぬぬ……

 事実そうなのだが、納得することはできないので話を逸らしてみようと試みる。

 

「へぇ、じゃあ凰さんやオルコットさんを鍛えている自分や織斑先生の事、信用してないんだ?」

 

「それはありえませんわ!」「それは無いわ!?」

 

 即座に否定が返ってくる事に内心喜びながらも、心を鬼にして二人に発破でもかける。

 

「でも、篠ノ之とボーデヴィッヒに叩きのめされて、内心自分が才能がないと思ってしまうって事はそういうことじゃないのかい?」

 

 そんなッ!? とリアクションをする二人。自分の後ろにいる篠ノ之ちゃんとボーデヴィッヒの視線が突き刺さり、心が痛いが無視する。

 

「今まで補習で自分や織斑先生、篠ノ之ちゃんや回数は少ないけどボーデヴィッヒさんとも、模擬戦をやったよね?

 その時に色々とアドバイスや注意点なんかを言ったはずだ。そしてこのタッグ戦は今までの応用とも言えるだろう

 これだけ言えばわかるはずだ。これで少し頭を冷やして、冷静にな。」

 

 そう言って二人にタオルとスポーツドリンクを渡す。そして、最後にもうひと押しの言葉を放つ。

 

「言っとくが、各専用機の特徴はあれど総合的に見れば圧倒的な差は無い。勝利は皆、君達の技量にかかっている。気合い入れていけ」

 

 ――我ながら、よくまあいけしゃあしゃあとこんなセリフを吐ける。

 

 そう言うと何か感銘を受けたのか目を輝かせ威勢良く返事を返した二人。ヴァルキリーとブリュンヒルデの名の力はこういった説得を容易にさせる。恐ろしいものだ……

 

「あ、そうそう。凰さんと篠ノ之さんは時間があったら今日の晩、自分の部屋に来てほしい。二人一緒にだぞ? それじゃあ、少し用事があるんでお先に失礼するね」

 

   ■   ■   ■

 

 シャルロット・デュノアは混乱していた。

 

 突然、亡くなったと聞かされていた母親が実は生きていて、憎んでいた父親は涙を流して自分に許しを乞うていた。

 生徒指導室に備え付けられている立体ディスプレイにリアルタイムで映っている自分の父親と母親から事の顛末を聞いたシャルロット・デュノアの状態は正にその一言に尽きる。

 

 やがて冷静になり混乱が収まると、今度はあまりの出来事に歓喜にうち震えた。

 立体ディスプレイでは色々と自分に懺悔している父親と母親の話を聞きつつ嗚呼、嗚呼、とデュノアは歓喜に震えながらもどこかに残った僅かな理性では推測をたてていた。

 

 ――一体、誰が……誰がこのような事をしてくれたのか? と

 

 デュノアには味方がいなかった。ついこの間までは

 

 自分が目標――織斑一夏の篭絡及びISのデータ収集に失敗し、あまつさえ自分が女だとバレてしまった日。デュノアは自分の尊厳や命の他、ありとあらゆるものを穢され未来はないだろうと悟った。

 不思議と恐怖は無く、涙すら出ない自身。今思うとあの時までの自分はどの道死んだも同然かもしれないと思った。

 しかし、そんな哀れな自分を糾弾するどころか救いの手を差し伸べる者がいた。

 

 そう、シャルロット・デュノアが目標としていた織斑一夏である。

 

 彼はデュノアの為に彼自身の出きり限りのありとあらゆる手を尽くし、とりあえずIS学園にいる間まではシャルロット・デュノアは身の安全を保証される所で落ち着いた。

 その事を織斑一夏から聞いた時、彼女はあまりの出来事に涙を流した。

 

 嗚呼、嗚呼、と彼女の心が歓喜に震える。止まっていたシャルロット・デュノアの時間が今、やっと再び動き出したのだ。

 

 あの当時はIS学園卒業までの時間稼ぎに過ぎなかったのだが、それでも構わないと思った。

 しかし、完全にあの悪夢から開放されたいかともし尋ねられたら、開放されたいと答えていただろう。そう考えていた矢先にこの朗報。

 

 ――あまりにもできすぎている

 

 「それで、僕の誘拐騒動が落ち着いてくる頃になんだが……やり直さないか? 僕とカリーネと君との『家族』の時間を……」

 

 父親のサミュエル・デュノアがそう提案する。

 家族の時間をやり直す……それはIS学園から離れることも意味している。

 フランスに帰ることも、IS学園にいることもシャルロット・デュノアにとってはどちらも捨てがたく、たいへん迷った。しかしその時、二人の姿が脳裏に蘇った。

 

 一人は織斑一夏。

 仲がかなり悪かった更識姉妹に対して『数少ない家族』を主張して仲介していた事は記憶に新しい。

 

 そしてもう一人は……岡部友章だ。

 実はあの先生とデュノアの関係はとても薄い。男装していた時も女に戻った時も学生生活の大部分を一夏に依存していたというのがひとつの理由でもあるのだが、岡部先生に言う事も話すことも特に無いのも原因のひとつでもある。

 彼はデュノアが生徒指導室に入る際、まるでこれを予測していたかのように喋っていた。

 

 ――状況、各関係、様々な要因がここで一つに繋がった。

 

「私は……お父さんとお母さんと一緒に、またやり直したい……」

 

 明るい表情を見せる両親。そんな中、自身の良心が少し痛みながらも続ける。

 

「けど……この学園での学生生活も続けたいんですッ……!」

 

 その言葉に苦笑いを浮かべながらもどこか納得したような表情を両親は見せた。

 

「……ははは、まさかここまで見抜かれるなんて、『彼』はまさに……慧眼の持ち主というわけか……」

 

「もしかして、『彼』って……」

 

「ああ、君の先生である岡部友章だ。フランスでの騒動で僕に協力してくれた人さ。もっとも……それが彼だと知ったのはついぞ昨日の話だがね」

 

 デュノアの脳裏にある男の名前が浮かぶのと同時に、彼女の父親はあっさりとそう答えた。

 

「ただ……シャルロットこれだけは言っておく。

 

 君には帰る場所がある。

 

 夏休みまでにはなんとか片付けておくから、その時になったら顔を見せてほしい」

 

「その時になったら例のボーイフレンドも連れてきてちょうだいね」

 

 最後に両親はそれだけを言って通信を終えたのであった。

 

 生徒指導室から出たデュノアは更識楯無とばったり会った。てっきり岡部先生あたりが待っていたものかと思っていたが、回りには楯無しかいない。

 

「こんにちは。姉妹喧嘩の時以来ね」

 

「あの、会長。岡部先生は?」

 

 自分を生徒指導室に案内した人物の所在を聞くと、楯無はため息をついた。

 

「あの人、そんなに暇じゃないのよ? 今頃はアリーナで上級生や学部生相手に模擬戦やらデータ取りの手伝いでもしてるわ……せっかく休んでもいいって言ってるのに、ゲスト機の機能を使って元気に仕事中よ」

 

 あれはまさに仕事バカね。あんな贅沢なISの使い方ができるなんてあの人位だわ…… と呆れたように言った。

 

「あはは……」

 

 思わず苦笑いを浮かべるデュノアであった。

 その時、奥の方から人影が見えてきた。織斑一夏だ。

 

「一夏!」

 

「シャル! と、楯無さん。それにしても友兄はなんの話をしてたんだ?」

 

「それについてはお姉さんが説明するわ。岡部先生から頼まれてることだしね」

 

 そう言って、楯無がこれからのデュノアの待遇について説明した。しかし、それは必要最低限の内容で岡部先生がこれに深く関わっている事は彼には伏せられていた。

 思わず、楯無を直視するデュノアだが、楯無からは個人間秘匿通信(プライベート・チャネル)で話を合わせろと言うだけであった。

 

「そう言った訳で、シャルロット・デュノアちゃんは晴れて完全な自由の身となりましたとさ。パチパチパチ~」

 

「本当なんですか!? 楯無さん! シャル!」

 

「お姉さんが嘘つくはずないじゃない」「うん。そうだよ」

 

 そう二人が答えると、織斑一夏はまるで我が事のように喜んだ。

 

「それじゃあシャルの家族も無事で、これからもシャルと一緒に居れるんだな! よかった! 本当によかったな! シャル!」

 

 そう言って感極まったのか織斑一夏はシャルに抱きつく。

 

 好意を抱いている相手に突然抱きつかれたことに混乱しつつも、今この幸せを噛み締めたのであった。

 

   ■   ■   ■

 

 そして、晩

 

「あ゛ー、疲れた」

 

 そう言って、ベッドに飛び込む。ボディプレスを受けたベッドは ボフン と音をたてて形状を変え、枕も同様に凹んでいた。そして首を横に傾けると腕時計型の待機状態になっているIS ゲスト機がチカチカと点滅していた。

 

『極度の疲労に加えて、新たに生成されたせいか筋肉の動きが固いからそうなるのです。ISの自己治癒機能にも限界があります故に、早急に休息をとることを強く進めます』

 

「そうしたいのは山々なんだが、色々と……な」

 

『フランスで調整を受けているラファール・リヴァイヴや生徒指導室に同席していたラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡから事情は聞きましたが……貴方の行動には理解に苦しみます』

 

「自分がやりたいことをやってるだけさ。無理に理解しようとしてリソースをそっちに多く回さないようにな」

 

 そう言うとゲスト機は一層点滅を繰り返す。

 

『これでは貴方の懐刀として私の存在意義が疑われます』

 

 使い手の性格から言えば、懐刀というよりもコンシールメント・ウェポン(隠し持てる武器)に近いけどな。

 

『それに最近は織斑千冬の駆る暮桜弐式との模擬戦も少なくなってきました。これは戦闘技術の維持の上では大変由々しき事態』

 

「そんなに?」

 

 疑問の声を思わずあげるが、ゲスト機はチカチカと強く発光した。

 

『近接装備しか無いという点は少し痛いですが、これ以上無い……いわばたった一人の恋人(パートナー)とも言えます』

 

 IS同士のカップリングが脳裏によぎる。

 

 ――暮桜×ゲスト機?

 

『ああ、しかし篠ノ之箒の駆る打鉄特式も捨てがたいです……』

 

 ――暮桜×ゲスト機←打鉄特式?

 

 アカン。何か変な数学に目覚めてしまいそうだ。

 

「ま、まあ。そろそろ、お前のスペックをフルに使っての全力戦闘もやってみたいとは思う。機会はうかがってみるとするよ」

 

『自身が選び、認めた使い手に思う存分使われるのはISの本懐。よろしくお願いします』

 

 ゲスト機はそう言って、チカチカと点滅したあと。スリープモードへと移行した。これでひとまず安心だ……

 と、その時ちょうどドアノックの音が響く。鍵は開いている事を伝えると、ガチャリとドアが開いた。

 

「岡部先生、来たわよ」「岡部さん、失礼します」

 

 慣れた様子ですたすたと入って来る凰さんと篠ノ之ちゃん。自分と向かい合うようにソファーに座る。

 自分は立ち上がり、冷蔵庫へと向かった。

 

「二人共飲み物は何がいいー?」

 

「あたし烏龍茶」「私は緑茶で」

 

 冷蔵庫から烏龍茶と緑茶を取り出してコップに注ぎ、テーブルに置く。そして二人が飲み物に口をつけた頃合いを見て、爆弾を投下する。

 

「織斑君をフランスのぽっと出の女狐に攫われるなんて、幼馴染みの面汚しですな」

 

「ゲホッゲホッ!」「ッー!」

 

 案の定、二人はむせて苦しんだ。吹き出さないだけ合格点だろう。何に合格なのかは知らん。 

 

「おおお、岡部先生。一体、何を!」

 

 しばらく苦しんだ後、やがて回復するといの一番に凰さんが突っかかった。

 

「いやさ、今まで色々と織斑君とくっつかせるようにお手伝いしたでしょ? なのに結果はこのザマ。なら、少しくらい意趣返ししてもいいと思うんだ」

 

 その言葉に色々と心当たりがありまくる二人はとたんに自分の視線から目を逸らす。

 

「おお、おかべさん。そ、それは……ほ、ほら! 一夏と付きあえるのは一人しかいないじゃないか! だから……」

 

 まるで自身に言い訳するように反論をする。篠ノ之ちゃん。

 

 ――だが、無意味だ。

 

「そんな事だろうと思ってだな……お前らの為に秘密裏にIS学園(ここ)の性質を利用して実質的な重婚・複婚制でもある市民同盟(civil union)の導入を検討させたりしてんだぞ」

 

「そんな馬鹿な!? 世間体的には……」

 

「できるんだな。これが」

 

 ドヤァ と言わんばかりに篠ノ之ちゃんの反論を叩き潰す。凰さんは口をあんぐりと開けて、フリーズしたままだ。

 何故、そんなバカげた案が門前払いされずに検討されているのか、それは言わずとも自分とゲスト機、そして自身の人脈を餌にしたからだ。

 織斑君もそれ相応の餌になりそうだが、自分と比べたら価値の高さと競争率はお察しの通り。

 

 ――競争率が激しく、旨味の少ない織斑君と競争率が激しくない割りには物凄く旨い自分

 

 自分で言うのもアレなのだが、結構お買い得だと思うんだ。

 まあ、織斑君との競争率の違いの一因としては容姿の差もあるんだけどね……

 

「だからな……もうお膳立てはこっちで済ませたんだから、いっそお前ら織斑君の寝込みを襲え」

 

 そう言うと、二人はボッと赤面する。篠ノ之ちゃんはともかく、フリーズ状態から回復しつつあった凰さんには少し刺激が強すぎたらしい。なにかうわ言を言いながら夢の世界にトリップした。

 

「い、いやいやいや!? ちふゆさんがだまってないっておかべさん!?」

 

 そんなことしたらころされちゃうよ!? と叫んだ篠ノ之ちゃん。一方、凰さんは『うへへ……』とまだまだ夢心地のようだ。

 

「大丈夫だ。織斑さんは……自分が抑える」

 

「うぅ、考えておきます……そういえばそれって岡部さんも適応されるんじゃ……?」

 

「ああ、自分も適応されるね。まあ、自分は最初から死ぬまで独身で過ごす予定だから」

 

 彼女を作るのも結婚するのも自分は興味ないから と言うと、二人に睨まれる。いつの間にか凰さんは復活していたようだ。

 

「言っとくが撤回する気はないぞ」

 

 人には言ってないが、織斑と篠ノ之の立場と地位を固め次第、蒸発する気でいる。人様に言えないことを色々としている身としては自分で自分の身を守るだけで精一杯なので仕方がないのだ。

 

「だからさ……自分の分までラブコメしてくれよ」

 

「……ざけるな」

 

 最後におどけてそう言い放つ。が、篠ノ之ちゃんは突然立ち上がり、両手でテーブルを強打した。

 

「ふざけるな!」

 

 バンッ!! と大きな音を立てて、テーブルは激しく揺れ、2つのコップが転倒し、中身が零れた。

 突然の出来事に凰さんは『ひっ!』と竦む。一方、篠ノ之ちゃんは犬歯をむき出しにしてガルルッ! と自分を睨みつける。

 

「どうして! そう! いつもいつも! 岡部さんが泥を被るんですか!」

 

 大声を張り上げて、篠ノ之ちゃんはそう主張した。彼女に怒鳴られながらも頭の片隅では今晩は隣の織斑さんの帰りが遅くて助かったと思っている自分がいる。

 

「白騎士事件の時も! モンド・グロッソの時も! IS学園入学の時も! そしてデュノアの件もだ!」

 

「デュノアの件? あの時は危険だからホテルに潜んでいたと説明しただろう?」

 

「なら、姉さんに聞いても問題ないでしょ? 姉さん経由でフランスのデュノアに持ち込んだISのデータを見ればわかるんですから」

 

 自分は閉口するしかなかった。一応、口止めはしているものの妹さんの頼みは断れないだろう。

 その様子を見て篠ノ之ちゃんは勝ち誇った様子で一方、回復した凰さんはその様子を見て驚愕する。

 

「じゃあ、フランスのデュノア社のアレって……岡部先生が関与してたってこと?」

 

「……ああ、そうだよ。篠ノ之ちゃんの言う通り、関与はしてたさ。だが、それは全くの偶然だ。不可抗力だ」

 

 昔から篠ノ之ちゃんは自分のことをよく心配してくれてはいたが……それにしては今回は度を過ぎている。昔からのソレの蓄積が爆発したのか、それとも……。いやそれは、一方の考えは少し高慢過ぎる。あり得ない。第一、篠ノ之ちゃんには『織斑一夏』がいるではないか……

 

「私は……私は姉さんや千冬さんよりも信用が無いんですか?! それとも!? あの二人よりも立場も! 力も! 弱いからですか!?」

 

 怒りに燃えていた彼女だが、その感情を通り過ぎて泣きながら叫んだ。

 

「岡部さん……教えて下さい! どうしたら、どうしたら……信用してくれるんですか!? 無茶をしないでくれるんですか!?」

 

 痛々しい沈黙が場を支配する。篠ノ之ちゃんはまだ愚図っており、凰さんや自分はただ沈黙を貫くしか無い。

 

「これじゃ……このままじゃ……私達が独り立ち出来る頃には……岡部さんがいなくなっちゃう……」

 

 元々、なんの因果からか記憶を引き継いだまま第二の生、いわば人生のロスタイムを送る事になってしまった自分。

 前世の記憶から、あまり死については希薄だったのもあってか、さらに死の恐怖が薄まっていたのは事実だ。だから、無意識的にしろ意識的にしろ前世よりもより危険な道やスリリングな所に飛び込みたがる癖はあったのだろう。

 篠ノ之ちゃんの涙ぐむ様子を見て、やっと確信が持てた。それと同時にすこしだけ良心が痛んだ……が、すぐ忘れるだろう。

 

「…………すみません。一旦、部屋に帰ります。ごめんなさい」

 

 しばらくして落ち着いたのか、唐突に篠ノ之ちゃんは一言そう言うとさっと立ち上がり、部屋から出て行った。その後、この空気から逃げ出すように凰さんも立ち上がり、部屋から出て行く。

 自分は部屋のドアを開けて出ようとする凰さんに声をかけた。

 

「……篠ノ之ちゃんを頼む」

 

「そんなこと、わかってるわよ」

 

 返ってきたのはひどく冷淡な返事だった。

 

「迷惑かけて済まない……」

 

「先生には先生の事情があるわ。けど、先生の回りも考えるべきだわ」

 

 あたしが言えるのはそんなこと そう言って、部屋を出て行った。

 その後、入れ違うのように誰かが部屋に入ってきた。

 

「先生(レーラー)。さっき、凰と篠ノ之が先生の部屋から出て行ったのですが……これは……酷い有様ですね……」

 

「女性の扱いは残念ながらとても下手でね。だから今まで浮いた話は一つもないんだ。恥ずかしながらね」

 

 そう言うと、ボーデヴィッヒは立てかけてあるタオルを手に取り、こちらに放り投げた。

 素直に言えないのは人の、男の性なのか、あるいは自分のどうしようもない自尊心からか……それはわからない。

 

「とりあえず、手伝いますからテーブルを拭きましょう。私から先生(レーラー)に話がありましたが、今はそれどころでは無さそうですし」

 

「……スマン。助かる」

 

 ボーデヴィッヒからタオルを受け取ると、いそいそと彼女と二人でこぼれたお茶を拭き取り始める。

 

「先生。コップは?」

 

「流しに置いといてくれ」

 

「了解」

 

 そんなこんなで無事にこぼれたお茶は全部拭き取り終え、改めてボーデヴィッヒと向かい合うように座る。

 

「君は関係無いのに、手伝ってくれてありがとう」

 

「いいえ、お気になさらず」

 

「ところで、君の話とは?」

 

「シャルル……シャルロット・デュノアと織斑一夏の事です」

 

 来たかっ! そう自分は確信した。

 

「言っとくがその二人の件に関しては、決定は覆ることはない」

 

「何故です! 何故ですか!?」

 

 ボーデヴィッヒは不満を露わにする。

 

「シャルロット・デュノアは明らかなスパイ行為に懐柔工作! 織斑一夏はあろうことかこれを保護。結果的に事なきを得たが、多くの学園関係者に多大な損害と『実例』を作ってしまった!

 そんな二人が何故! 罰せられないのです!!」

 

 ボーデヴィッヒの主張に自分は懇々と反論を述べる。

 

「一つ、シャルロット・デュノアの行為は未遂であることだ。

 色々と調べたが、情報は漏れていなかった。実際にその行為をしたかどうかという証拠が無いんだ。

 

 二つ、フランスへのアドバンテージを得るためだ。

 この騒動が公になれば、フランスの信用はガタ落ちになる。つまり、このカードがあれば当分の間はフランスを黙らせる事ができると判断されたからだ。

 

 三つ、代表候補生レベルの人材を逃がさないようにするためだ。

 ここで恩を売っておいて、IS学園の関係者に寝返って貰うためだ。

 

 最後にこれは結果論だが……すべて円満の状態で解決したからだ」

 

「そんな!? 横暴な!?」

 

「結果にはそうなるんだよ。それに、ボーデヴィッヒ。君が言いたいことはそんなことではないはずだ」

 

 そう言うと彼女は閉口する。

 

「君が気になるのはデュノアなんかじゃない。それに伴って、教官(織斑千冬)の評価が下がることが一番の不服だろう?」

 

「……ええ。その通りです」

 

「言っておくが、君が思う以上に織斑千冬の地位は揺るがない」

 

「え?」

 

「適正『S』の姉に適正『B』の弟、希少な男性操縦者とはいえ、それくらいの適正ならたくさんいるし、男で言えばそれこそ適正『S』の自分がいる

 更には兄弟によるISの搭乗適正の因果関係は無いと証明されている。だから」

 

 ――だれも織斑一夏という人間には注目しないのさ

 

 さらに畳み掛けるようにトドメの一言を告げる。

 

「今回は初回から特殊な事例でつい、温情を与えてしまったが……」

 

 ――次は、ない

 

 そう言うと、ボーデヴィッヒはそのままこくりと頷いた。

 

「そう……ですか」

 

「ところで……君はどこからこの情報を?」

 

 そう言うと彼女はビクンッと体を震わせる。

 

「まあ、そうビビるな。今回は見逃す。正直に言いなさい。先生怒らないから」

 

「……副隊長の、クラリッサからの……報告です」

 

 えらく懐かしい名前が出てきてビックリする。第二回モンド・グロッソ以来ではなかろうか……

 

「ハルフォーフ中尉か……」

 

 その呟きを聞いたのか、ボーデヴィッヒは驚いた表情を浮かべる。

 

「え? いや? あの? クラリッサを知っている!? しかし、岡部先生。クラリッサは今は大尉です」

 

 ――メキメキと昇格してるなぁ……性質上、出世のシステムは空軍に似てるのかな?

 

「何故? 副隊長のことを?」

 

 余程気になったのか、ぐいと詰め寄られる。身長差の関係上凄みはない、が微妙に上目遣いに見えなくもないので少し目のやり場に困る。

 

「い、いやあ。第二回モンド・グロッソの時にその名前を聞いてね。ハハハ」

 

「……そういうことにしておきます」

 

「……ゲフンゲフン。まあ、そんなに織斑一夏に不服があるなら、今月下旬の定期試験を終えた後の月末に開催される。タッグマッチトーナメントであいつを打ち倒してから言うんだな」

 

 そう言うと、彼女は渋々ながら納得したようで

 

「了解しました」

 

 そう言って、部屋から出ようとした。

 

「あ、ボーデヴィッヒさん」

 

 しかし、ドアの直前で自分はボーデヴィッヒを呼び止める。

 

「なんでしょうか? 先生」

 

「今日の事は……内密にな?」

 

 そう言うと彼女は溜息をついた。

 

「はあ……了解しました。『私はただ先生の部屋でISの戦闘技術についてご教授願っていました』」

 

「……ああ、『自分はボーデヴィッヒに頼まれてISの戦闘技術について教えていた』」

 

「それでは、おやすみなさい。先生」

 

「ああ、おやすみ。ボーデヴィッヒ」

 

 こうして、彼女は部屋を出たのであった。

 

 

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