No matter what fate   作:文系グダグダ

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14:IS学園 6月~7月 学年別タッグマッチトーナメント

 さて、今日はタッグマッチトーナメント……ではなく前学期中間試験だ。

 

 学園に来てから、ISで殴り合っている場面しか見てない気もするのだが、一応学生なので避けられないイベントである。

 なので試験期間内はアリーナには誰も来ないのでとても暇だ。それに加えて……

 

「じゃあ試験用紙を配るから、裏にしたまま机に置いて、合図が鳴ったら始めてください」

 

 1年2組の担任なので2組の試験監督官も勤めなければならないのであった。

 副担任のベネックス女史と協力して左右の端からあらかじめ列の人数分に分けておいた問題用紙と回答用紙を配る。

 まず初めに回答用紙を配り、全員に行き渡らせてから問題用紙を再び配布する。

 

「よーし、ちゃんと人数分行き渡ってるかー? 問題用紙、回答用紙、その他持ち込み可能な物は揃ってる? 無ければ早急に連絡を入れなさい」

 

「その他、試験中早急に退出せざるを得ない生徒は私に申し出て下さい」

 

 自分にとって女子しかいないこの教室で言い難いことをベネックス女史が言ってくれて少しホッとする。

 どの時、予定時刻になったのか合図としてチャイムが鳴り響いいた。

 

「それでは、問題用紙・回答用紙を表にし、回答用紙にクラス・名前を記入した後、回答を始めてください。くれぐれも不正の無いように」

 

 そう言うと、2組の生徒は一斉に用紙を表に返し、記入を始めた。

 自分は教卓後ろにある椅子に座る。ベネックス女史は教室の後ろに行き、そこにあらかじめ置かれている椅子に座った。

 

 ――学生時代を思い出すなぁ……

 

 机にしがみつくように座り、問題用紙との無言の格闘を続けている生徒達や凰・更識の代表候補生をを見てると、ちょうど同じ時の自分の様子と重なる。

 

 ――自分もあの二人にこれ以上引き離されないようにこんな感じに必死こいて頑張っていたなぁ……

 

 高校に入学した当初、前世の分を含めると二回目の学生なので、他の奴に比べて圧倒的な要領の良さもあり。さらに推薦で楽々入学したこともあってか、こと勉学に関しては調子に乗っていた時期であった。

 そして、奇妙な縁からか篠ノ之さんや織斑さんと親しくなり初の定期試験を迎える。正直に言えば、篠ノ之さんと織斑さんと出会って、やがて親しくなった時、前世での友人や知り合いを含めて……他の生徒に面白みを感じなくなっていた。

 

 話が逸れた

 

 自分の中ではあの二人に勝算はあった……いや、正直に言えば自分は二人に対して――篠ノ之さんは定期試験の点数に興味が無いと、織斑さんは自分に比べると下だという偏見を持っていた。

 そして結果は酷い有様だった。

 全試験の平均点は87点……学年での席次は7位だ。そしてクラスでの席次は4位であった……

 篠ノ之さんは平均点100点、当然主席だ。織斑さんは……席次は6位でクラスでは3位だった。

 

 普通に考えれば別に気落ちするような内容ではなかったが……普通は……

 だが自分はそうではない。自分は前世での経験から知識も勉強のやり方も、そして何より勉強することの大切さと重要さを知っていたからだ。

 ズルをしてまでも尚、そこまでにしか行けない己に嫌気が差した。そして、自分が己に酔っていた事実に自己嫌悪した。

 そしてその時から、自分はあんな風に机にしがみつくように勉強するようになったのだ。

 

 ――今にして思えば、学業もスポーツも成績の上位がほとんど女子で占められていたような気がする。そして時に、学校は社会の写し鏡とも言われている。これらの事実から将来、徐々に女尊男卑という社会形態に変化する予兆だったのかもしれない……

 

 そんなことを考えながら黙々と試験をしている生徒たちを監視する。これが終われば、お昼休み。その後は引き続き学部生の試験監督がある。

 特に言うべきことも無く時間が進み、試験終了を告げるチャイムが鳴った。

 

「試験終了。 全員ペンを置き、回答用紙を裏返して速やかに教室から退出してください」

 

 生徒達は速やかに指示に従い、教室から出て行く。

 

「ベネックス先生。貴女は後ろ番号の回答用紙から回収してくれませんか? 前は自分がやります」

 

「わかりました。この後、一緒にお昼でもどうですか?」

 

「いいですね。是非お願いします」

 

 机に残された回答用紙を二人でさっと回収する。そして、ベネックス女史から回答用紙の束を受け取り、番号の順番に並んでるかチェックをした後、外部から見えないように封筒に入れ、封をする。そして、回収が終わったことを告げるために廊下にでる。

 廊下には3分の1位の生徒がいた。ほとんどの生徒や代表候補生達は直接学食へとむかっていったようだ。

 

「回答用紙は回収しました。教室に戻ってもいいです。試験、お疲れ様でした」

 

「回答用紙は回収した。教室に戻ってもいいぞ」

 

 すたすたと教室に戻っていく生徒をよそに、自分と声の主はお互いに声が聞こえたほうへと顔を向けた。

 

「これを出した後、お昼でもどうですか? 山田先生、織斑先生?」

 

 その後はいつも通りに4人で昼食をとり、しばらく雑談を楽しむ。

 ひと通りの食事と雑談を楽しんだ後、織斑さんが自分に話しかける。

 

「岡部先生。これからの予定は?」

 

 期待のこもった目でそう話しかける。

 確かに今日は定期試験の期間。ISの実習授業なんてのも無く、自分達実習教員は暇だ。

 普段は人材が足りなくて糞忙しいのだが、こうして暇を貰うとどうにも持て余してしまう。

 彼女もその例に漏れないのだろう。

 

「済まない。午後から山田先生と学部生の監督なんだ」

 

 しかし、残念ながら例外だってある。

 今回は自分と山田先生に白羽の矢が立ったのだ。

 

「そうか……残念だ」

 

「埋め合わせはどこかでお願いします」

 

 ほぼ反射的にそう言ってしまって、心の中で「やべ」と呟く。

 

「そうか……なら、事前に都合のいい日を言っておくから埋め合わせして貰おうか」

 

 ――ほら、退路を塞がれた。

 

 こうなった以上、下手に断るよりも一気に滑り込んだほうが良い。

 身分を盾に回避する事もできるが、さすがに今回は無理があった。

 

 本音を言えば、この曖昧な位の微妙な関係が一番好ましいのだが、ずっと維持……という事は不可能であるし、お互いの為にはならない。

 別に織斑さんの事が嫌いではない。ゲスい話だが容姿は勿論、性格的、人間的に――さらに踏み込めば自分との利益関係においても、彼女が自分に好意を抱いているというのはこちらとしても好ましい

 しかし、それは織斑さんが自分に対し一方的に想いを寄せている場合に限った話。そこで自分が「はい、そうですか」と応じてしまえば色々な場面で不都合が生じてくる……正確に言うならば、不都合が生じてくる(気がする)のだ。

 

 ――いわゆる、人生経験による『勘』という物だ。

 

 前世の記憶と経験はどういうわけか初めての夢の発現から時間を経て、今では完全に思い出している。

 それ以前でも思い出していると言えば思い出しているのだが、どれも幼少期や学生時代の話である。完全にというのは――色々と『正義の』秘密組織を渡り歩いていたり、もっと社会の――ドロドロとした関係を経験……という事である。

 そして、前世と短いながらも今世でも、人生の密度なら、自分にも多少の自信がある。

 そういったこれまで培われてきた経験が直感的にアラートを鳴らしているのだ。

 

 地に落ちた信用を上に押し上げるのは簡単ではない。

 そこには見える努力も見えない苦労も含まれている。

 高校時代での彼女との邂逅(かいこう)からスタートしたどん底の信頼関係から、めいいっぱいの時間とそれ相応の労力ををかけて地道に、かつ堅実に築いていけば、やがて自分にとって大変居心地のいいものへと変えられる事が可能である。

 そういった事を理解して、実行に移すだけの能力と体力、そして判断力は自分は持ちあわせていた。

 そうして、惜しみない労力とささやかなお金、そしておおよそ1年と半年の時間をかけて、おおよそ今の自分の立ち位置へと変化を遂げた。

 

「……学年別タッグマッチトーナメントが終わったら……で、いいですか?」

 

 半ば観念したように答える。傍目には熟考しているように見えるのだろうが……

 

「ああ、確かアレも夜までには終わる。それに……その後は休みだ」

 

 それを聞いた織斑さんは、ようやく目標を見つけた肉食獣ように眼を輝かせている。ここまで露骨な様子はまったくの予想外である。

 

「……ああ、もうこんな時間か、山田先生。そろそろ学部の方に行きましょうか?」

 

「ええ!? ああ、はい……」

 

 心の中で胸に十字を切りつつ、半ば強引に山田先生を連れて行くのであった。

 

   ■   ■   ■

 

 試験の監督や、やれ生徒の頼みでISの整備・要望による取り付け等、色々とあったものの、学年別タッグマッチトーナメントが始まる。

 それぞれ各学年のクラスの担任を務める教員はそれ専用の観戦席についた。

 

「と、言ってもいつも通りのメンツですけどねー」

 

 そう呟いたのが聞こえたのか、織斑先生、山田先生、ベネックス先生は同時に自分を凝視した。

 しかし、やがて視線をアリーナに戻して生徒たちを観察している。

 

「今年は皆さんいい具合に頑張ってますねー」

 

 山田先生とベネックス先生は満足そうにタッグマッチに参加する生徒達をみる。

 やはり、自分の教えた事で生徒が成長していく様はとても嬉しい。

 

 織斑さんや山田さんとくらべて、日が浅い自分でもそう感じる。

 

「さあ、次はお待ちかねの専用機同士の試合だ」

 

 ひと通りの一般の生徒同士の試合終わり、あっという間に準決勝へとなった。

 ここで専用機対専用機という対戦カードがやっと登場する。

 

 まず初めに、オルコット・凰のペアと織斑・デュノアペアだ。

 

「さて、ここからがお楽しみだ」

 

 手をワキワキさせながら、対峙する二組を観察する。

 彼女らは少し会話を交わした後、お互いに距離をとった。話の内容はコア・ネットワークを通じてこっそり聞き出すこともできたが、野暮なのでやめておいた。

 

 そして、戦闘開始。

 織斑君の白式は雪片弐型を抜刀、そのまま突入する。

 当然、凰の甲龍がそれを許す筈もなく迎撃にあたる。青龍刀の双天牙月と近接ブレードの雪片弐型が互いにぶつかり合い、火花を激しく散らす。

 数回打ち合った後、甲龍と白式は一旦距離をとる。その時、白式は雪片弐型を左手で持ち、甲龍に向けて右手の手のひらを差し出すと、くいと手前に向けた。織斑は笑っていた。

 

――白式は甲龍を挑発しているのだ

 

 それをみて今度は甲龍――凰は感情を昂らせ、白式に吶喊。激しい打ち合いが始まる。

 

 一方、その間ブルー・ティアーズとラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡは何もしているわけではなかった。

 試合が開始された時、お互いに相棒を援護しようとしていた。ブルー・ティアーズは自立機動兵器(ブルー・ティアーズ)と六七口径特殊レーザーライフル(スターライトmkⅢ)を。ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡは五九口径重機関銃(デザート・フォックス)を持って。

 結果としては甲龍と白式は接近戦へと移行、誤射の危険性があるのでそれを良しとしない二人は射撃戦を展開した。

 

――一つのアリーナで行われる。射撃戦と近接戦、そして膠着状態。

 

――少しの油断と隙が原因で足元を掬われる。

 

 暫くの膠着状態の後、固唾を飲んで見守る。我々教員。

 

「膠着状態ですね」

 

「だが、ここからが本当の勝負だ」

 

 呟く山田先生に織斑先生。

 

「あれ、ラファール・リヴァイブってこんなにも甲龍と白式に近かったですか?」

 

 ベネックス先生が変化に気づき始めた。

 

「そうですね、ベネックス先生。織斑君とデュノアさん。そろそろ仕掛けるみたいですよ」

 

 自分がそう言った時、状況が動いた。

 ブルー・ティアーズと射撃戦を繰り広げていたラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡは五九口径重機関銃(デザート・フォックス)から六二口径連装ショットガン(レイン・オブ・サタディ)に高速切替(ラピッド・スイッチ)をして、甲龍に突貫した。

 

 白式にしか眼中になかったであろう甲龍――凰は面食らう。しかし、とっさに第三世代型 空間圧作用兵器・衝撃砲 龍咆(りゅうほう)で白式を牽制した後、至近距離でショットガンを構えるラファールに対して瞬時加速(イグニッション・ブースト)、そのまま青龍刀の双天牙月で六二口径連装ショットガン(レイン・オブ・サタディ)を叩き折り、そのままの勢いでラファールに斬りかかる。

 しかし、ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡはシールドでそれを防御、事なきを得た……訳ではなく、ブルー・ティアーズのレーザービットの攻撃を受けた。

 

――苦悶の表情を浮かべるデュノア、しかし口元は上がっていた。

 

 そんなデュノアを見た凰は理解した、そしてハイパーセンサーで後方を確認すると……

 

――ブルー・ティアーズに肉薄する白式の姿があった。

 

 ブルー・ティアーズ、オルコットは焦りの表情を浮かべながら虎の子のミサイルビット2機を射出、迎撃にあたらせた。

 しかし、白式はミサイルビットを難なく2つとも叩き伏せる。

 その隙を利用して、オルコットはレーザービットを引き上げ白式に集中させる。自身も近接ショートブレード(インターセプター)を構えた。

 

 白式はレーザービットに構うこと無く、再びブルー・ティアーズに吶喊。ビットから放たれるレーザーにシールドエネルギーを削られるもブルー・ティアーズに迫る。

 そして、白式は雪片弐型を構え……斬りかかる。ブルー・ティアーズはインターセプターで受け止めようとしたが……

 

――それは白式のフェイントだった。

 

 白式は斬りかかる直前に刃の向きを変えて瞬時加速(イグニッション・ブースト)、そのままブルー・ティアーズの胴を払い抜けた。

 雪片弐型の零落白夜はブルー・ティアーズのシールドエネルギーをすべて喰らい尽くし、セシリア・オルコットは撃墜判定を貰った。

 後は、甲龍の奮闘虚しく、数の有利でそのまま織斑・デュノアペアが押し切り、勝利を掴んだ。

 

「……中々いい試合だった」

 

 織斑先生は自身の弟が活躍したところを見て、満足気に頷いていたのが印象に残った。

 

 次の試合は篠ノ之・ボーデヴィッヒペアと更識・布仏ペアだったが、専用機2機に為す術も無く、順調に篠ノ之・ボーデヴィッヒペアが勝ち、決勝戦へと移行した。

 

 オルコット・凰ペアと同じように、篠ノ之・ボーデヴィッヒペアとも幾らかの会話を織斑・デュノアペアは交わした後、試合が始まった。

 

 開始から一時、ワイヤーブレードと立ち回り・コンビネーションを駆使したボーデヴィッヒ・篠ノ之ペアが優勢であったが、デュノアのラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡのシールドに仕込んでいた切り札――通称、盾殺し(シールド・ピアース)の異名を持つ六九口径パイルバンカー 灰色の鱗殻 (グレースケール)の一撃から流れが逆転、次第にボーデヴィッヒ・篠ノ之ペアはジリジリと追い詰められていく。

 

「……っ! なんだ!? シュヴァルツェア・レーゲンが!?」

 

 一時停止していたシュヴァルツェア・レーゲンが一転、姿形を変える。

 ワンオフ・アビリティーでも発現したか!? そう思うが、その禍禍しい風貌は絶対にそうではないと確信させた。

 

 ――あのような醜悪なモノが篠ノ之 束の創りあげた物では、断じてない!!

 

 シュヴァルツェア・レーゲン『だった』ものは大口径レールカノンを展開……その時、自分の背中に悪寒が走る。

 

「! アリーナの防御シールドのレベルを最大限引き上げろ!」

 

 とっさに立ち上がって怒号混じりに自身のISコアに命令を飛ばす。自分のその様子に同僚の山田先生とベネックス先生はビクンと肩を震わせる。

 

『アリーナのISコアから返答、エネルギーが足りません』

 

 平常時なら造作も無いことだが、今回はタッグマッチトーナメントで複数のアリーナが同時に使用されている。なので、無理があったようだ。

 

「直接エネルギーを送れ!やるんだ!」

 

『了解。プロバイドエナジー起動』

 

 ゲスト機から直接、ISコアから供給されるエネルギーを送り込んでアリーナのシールドを極限にまで強化した直後、大口径レールカノンが炸裂。大きなマズルフラッシュと音を立ててレールカノン用の導電性の砲弾が飛翔する。

 誰を狙ったのかわからない砲弾は明後日の方向へ翔び、アリーナのシールドに着弾。

 シールド自体はなんとも無かった……が、衝突時の音とそのあまりの衝撃にアリーナは揺れた。それは、シュヴァルツェア・レーゲンに搭載された大口径レールカノンのスペックを遥かに超えた代物だと言う事をわからせるには十分すぎるものであった。

 また、この音と衝撃はまるでこれから激闘が始まることを示すゴングのようでもあった。

 

「なんとか間に合ったか……」

 

「これは……暴走!?」

 

「大方、変なプログラムでも入っていたんだろう。織斑、篠ノ之、デュノア。聞こえるか?」

 

『友兄! レーゲンが勝手に!』

 

『味方の私まで、まるで見境無く攻撃してきます!』

 

『岡部先生! ラウラの機体、さっきとはパワーもスピードも違う!?』

 

 三者三様に豹変したシュヴァルツェア・レーゲンに戸惑いを隠せなかった。その為、動きもぎこちないものに変わりつつある。このままでは最悪、あのレーゲンだったものに各個撃破されることは容易に想像できる。

 

「落ち着け。ちょっとした『ハプニング』だ。三人でラウラを抑え込め。無理ならば、30秒持ちこたえろ」

 

『わかった!』『了解!』『わかりました!』

 

 通信を切ると自体を把握した山田先生が慌てふためく。

 

「そんな!? なら早速試合を中止させないと! このままでは織斑君とデュノアさん、篠ノ之さんが!?」

 

「落ち着いて下さい。そんなことで暴走したシュヴァルツェア・レーゲンは止まる訳は無い。 それにもし万が一アリーナのシールドが突破されてみろ。それこそ大惨事だ」

 

「なら観客席にいる生徒を!」

 

「いきなりそんなことを言ってみろ。みんなパニックに陥るだけだ」

 

慌てる山田先生をなだめながらも話を続ける。

 

「幸いにも暴走機の相手は全員専用機持ちだ。シールドエネルギーと各種制限をかけているリミッターを解除してなんとか無力化して貰う」

 

「……そうか! 一夏の零落白夜ならすぐにでも無力化できるな」

 

何となく自分のやりたいことを察したのか、ハッとした感じで織斑さんが答えた。

 

「しかしリミッターは事前に許可が必要で、仮に迅速に許可がおりたとしても解除には何重もの操作が……!」

 

 そう言って問題点を指摘した山田先生を尻目に自分はゲスト機に『構わん、やれ』と一言

 その一言の後、暴走したレーゲンを相手取っていた白式、打鉄特式、リヴァイヴ・カスタムⅡの動きが急激に良くなった。

 

『なんだこれ? 体が軽い……!』

 

『シールドエネルギーも回復してる……?』

 

『これならアレ相手にも戦える!』

 

「本来は、7月の臨海学校の時に君たち自身のISのフルスペックを体感してもらう予定だったが、今回は特別だ。暴走機をぶちのめしてやれ」

 

 威勢良く返事をする三人の声を聞いたあと、教師陣の方に向かい合う。

 

「そこで、三人に頼みがあります。

 万が一あの三人がしくじった場合の後詰として突入する準備をお願いしたい。

 自分はここのシールドを維持する為にシールドエネルギーの大半を費やしている。突入しても精々デコイ(囮)にしかならない足手まといだ」

 

「突入方法は、ピットから私の零落白夜でアリーナのシールドに隙間を入れて、イグニッション・ブースト(瞬時加速)で一気に滑りこむ……で、問題ないよな?」

 

 ここは任せろ そう言わんばかりの自信に溢れる様子で織斑さんが先に作戦の内容を言い当てる。

 

「完璧です、織斑さん。突入するタイミングと状況はこちらから逐一報告します」

 

「私とベネックス先生は先輩の援護をしつつ、生徒たちを回収しておきますね」

 

「色々と私達が出張るのも問題がありますけど、非常事態ですしこの際目を瞑りましょうか」

 

つづけて山田先生が最後にベネックス先生がやるべきことを言ってくれた。

 

「お二方も完璧です。もし万が一、責任問題に問われたら自分のせいにしてください。この騒動で起こるありとあらゆる責任はすべて自分が負いますので」

 

 そう言うと、三人に変な目で見られる。織斑さんと山田先生は何か言いたそうにしているが、「では、早急にピットの方へ」と言って何か言われる前に3人を教員用の席から追い出す。

 

「さて、『あれ』程度にやられるようなら織斑君も篠ノ之ちゃんもまだまだ……だが……どうなるだろうかねぇ?」

 

 目前のアリーナで行われているIS4機の激戦を特等席で眺めつつ、ISのリソースを駆使して脳内であらゆるその4機の状況をシミュレートしたり、今回の騒動の収束の方向を考えながら、IS学園の幹部や重鎮に報告を入れるのであった。

 

   ■   ■   ■

 

 シュヴァルツェア・レーゲンの暴走が沈静化すると、決勝戦はラウラ・篠ノ之の反則という事で、半ば強引に織斑・デュノアペアの優勝という事で、学年別タッグマッチトーナメントの終了を宣言した。

 その後はすべての責任は自分が受けもつ事になったので、IS学園の幹部や委員会、ドイツの人間との長ーい長い話し合いがその日の晩に始まり、ここでは言うにもはばかる程の舌戦というか軍曹トークを炸裂させてなんとか事なきを得た。

 

 ――本音を言えば、織斑さんから逃げられて良かった。本当に良かった……相変わらずの悪運である。

 

 そして次の日の朝、通常は休みではあるが、事情が事情なので学内の会議室に呼ばれた。なので来てみると、案の定あの人がいたのだった。

 

「今回のシュヴァルツェア・レーゲンの暴走の件。協力感謝しますよ」

 

「ただ、自分は微力を尽くしただけです。称賛は直接レーゲンを止めたあの3人や、後詰で待機していた彼女達に送ってやって下さい」

 

 それを聞いた轡木 十蔵は面白そうにこちらを見て笑みを浮かべた。

 

「報告書に書いていたISのリミッター解除やアリーナのシールドレベルの勝手な使用等、私の方にも色々とIS委員会の連中は五月蝿かったが、君の名前を出すと途端に閉口したのには笑わせてもらったよ」

 

「それは何より。そういえば、レーゲンの暴走の原因はなんと?」

 

「VT(Valkyrie Trace:ヴァルキリートレース)システム。まあ、要は君と織斑先生の模倣だよ。それがシュヴァルツェア・レーゲンの残骸の中から見つかった」

 

 まあ、報告の際にその様子を見させてもらったが、あれはただの出来損ないですな。 と轡木は付け加えた。

 

「へえ、それはIS業界内でのドイツの地位は中々痛いダメージを受けますね」

 

「『本来は』そうなる筈なんだが、IS委員会でこれを『ちょっとしたハプニング』程度にする方針に決まった」

 

「まあ、そんなものか」

 

「あれで学年別タッグマッチトーナメントがおじゃんになれば話は別だが……そうならなかったおかげですよ」

 

「でも、これで『はい、終わり』は無いですよね?」

 

「そこで、君に話があるという訳だ」

 

 はあ……、と気の抜けた自分の返事をよそに彼は話を続ける。

 

「これで、ドイツを一度だけ強請れる機会ができたわけです。しかし、そう長々とそれを盾に引っ張れるものではありません。そこで、かねてからのお礼に君に決めて貰おうかと思いましてね。」

 

 カネ、モノ、地位、利権……大抵の場合は向こうは飲まざるを得ないでしょう。と轡木さんは話を続ける。

 

「それでは……人材と技術提供で」

 

「わかりました。中々いい選択ですね。

 フランスの時といい、君には多くの面倒をかけてすみません」

 

「恩義と信用と、そしてちっぽけな自負を量りにかけるのならば、どうということは」

 

 最後に 失礼しました。 と言って会議室を出る。しかし、ドアを開けようとした時に轡木さんに呼び止められる。

 

「ああ、最後に一つ聞きたいことがあったのを失念していました。時間もあまり取らせません。これはただの雑談ですから」

 

 それにしても歳を取ると記憶力が低下するばかりですよ。と彼は呟く。

 

「了解しました。それではどうぞ」

 

「ところで、今回の騒動……これを『VT騒動』とすると……これは誰が引き起こしたのですかねぇ……」

 

「ドイツの内部抗争の飛び火かも知れませんね」

 

「ふむ。そうか」

 

「しかし、イグニッション・プラン(統合防衛計画)の妨害として欧州のどこかが引き起こしたのかもしれないし、あるいは仮想敵国としてロシア・アメリカ・中国の内の一つかもしれない」

 

「そうとも言えますね」

 

「もしかしたら、自分の知らないような秘密の組織だったり、あるいは滅多に姿を現さない自分の親友なのかもしれませんしあるいは……単純にこの国かうち(IS学園)のマッチポンプなのかもしれません……」

 

 そう言ってから今度こそ会議室から退出する。

 

「…………ふむ。確かに一理ある……それにしてもちっぽけ自負ですか、君はそこまで殊勝なタマの持ち主だとは思えませんがね……」

 

 会議室を後にして、外に出るといきなり立体ディスプレイが目の前にせり上がった。

 

「やあやあ、アッキー。折り入って束さんから君にお願いがあるんだけど?」

 

 いつも通りうさ耳をピコピコと動かしながら篠ノ之さんが現れた。

 

「ドイツの件だな?」

 

「うん。ドイツの話。そこで待ってるから『すぐに』来てね」

 

 たったこれだけの短い会話で大体察しはつく。

 

 ――要は報復だ。

 

 間接的とはいえISに関わって来た自分がVTシステムの醜悪さに嫌悪感を抱いたのなら……

 篠ノ之 束の場合はどうなるのだろうか? それは想像に難くない。

 

 自分はゲスト機を作動させる。

 

「モーションセンサーを起動、周囲の人間がいないことを確認した後、ステルスコート、起動せよ」

 

『了解……問題なし。光学迷彩、起動します』

 

 周囲に人がいないことを確認したら、そのままISも身に纏い翔び立つ。外出や国境云々は向こうでどうにかしてるだろう。

 あとはそのままひとっ飛び……なのだが、普通に翔ぶと多くの人間に迷惑がかかるのは当然である。ステルスとは言え、判別する手段はそれなりにあるのだ。なので少し工夫をする。

 

 まず初めに、ISを起動させているので翔び立つ為に上昇。どれくらい上昇させるのかと言うならば……

 

 高度10,000、20,000、30,000フィート……ぐんぐん上昇する。

 40,000、50,000フィート……戦闘機はこのへんで上昇限界高度だ。かの有名なストラトフォートレスことB-52も55,000フィートが普通は限界である。高度が上がっていくに連れて空の色が変わりつつあり、どんどん空が黒く染まっていく。

 60,000、70,000、80,000……特殊な飛び方で飛べたとしても戦闘機でもここまでこれるがこの辺りが限界。ブラックバードことSR-71もここらが限界。

 しかしISはまだまだ上昇できる。戦闘機のパイロットのように宇宙服のようなスーツを着て、体内の窒素を追い出し、高濃度の純酸素で呼吸……といったややこしい前準備という物はすべてしなくても良い。

 そして90,000フィート、紺色の空の中、真珠母雲(しんじゅぼぐも)が見え、水色に輝く球体を見下ろすことができる絶景ポイント……な、反面。-56度以下の寒さで極端に気圧が低く、酸素が存在しない空間でもある。

 最後に、目標の100,000フィート。キロメートル換算ではおおよそ30キロメートルだ。

 まさに天空……と言うに相応しい場所だ。到達や通過はできても、まるで自分の庭のように闊歩できるのはこのISだけだろう。

 

 まるで、夜中近所のコンビニにでも向かうように、ドイツへ向けてISを進める。向こうでは夜なので太陽から逃げるように移動する。障害も速度制限もないので、そう時間はかからなかった。

 

『まもなく、ドイツに到着です。降下に入ってください』

 

 ゲスト機のISコアの指示に従い、機体を一旦停止させ……そのまま推力を切った。

 大自然の摂理に従い、ゲスト機は重力の底へと降下していく。

 

『篠ノ之束からデータを受信。降下地点をバイザーに表示』

 

 アナウンスが聞こえると、バイザーに赤い矢印が着く。それに従い、調整を行う。

 重力の底へと落ちるにつれ始めは降下速度が速かったものの、空気抵抗のおかげで今では時速200キロ前後で降下している。

 

「ん? あれは研究施設か?」

 

『篠ノ之束から連絡。出来損ない(VTシステム)の大元を処分するようにとのことです』

 

 それはデータなのか……それとも開発者の方なのか……意味深にとれる発言だが、彼女の性質上これ以上追求しても意味は無いだろう。

 

『残り10000メートル。偽装パック、レーゲン型に換装します』

 

 ISを偽装させ、そのままぐんぐん地面へと近づいていく。この時点で、降下ポイントを目標する。

 

「よし、降下ポイントはあの天井にしよう」

 

『了解。目標を設定します』

 

 高度はぐんぐん下がり、4000、3000、2000メートルとなっていく。しかし、まだアクションは起こさない。

 

「? 静かだな?」

 

『通信があります。しかし、微弱すぎて内容までは把握出来ません』

 

 首をかしげながらも、高度は1000メートルと切り、500、400、300メートル。HALO降下(高高度降下低高度開傘)ではもうパラシュートを開いて減速しなければならないが、まだ減速はしない。

 そして、目標地点から高度200、100、50メートル……10メートルで一気に減速をかける。

 ISでほとんど軽減されているものの、ISですら殺しきれなかったGが体にかかる。

 だが、それを物ともせず、自分は無事に施設の屋上に降り立つように降下した。慣性制御機能万歳。PIC(Passive Inertial Canceller)万歳。とても大事なことなので二度言います。

 

『PERFECT! 完璧なランディングです!』

 

 ISからの賞賛を受けつつ、スキャンをかける。

 

「……おかしい。反応が無い」

 

 屋上に降下すると、そこにはパラシュートの残骸が……一体誰が……?

 

『通信を傍受しました。どうぞ』

 

 ゲスト機が通信を拾ったようなので、聞いて見ることにする。

 

『こちらアルファ。生存者無し』

 

『こちらブラボー、データも見当たらない。証拠を隠滅されたようだ』

 

『了解。チャーリーチームは引き続きタンゴ共の相手をして置く』

 

 実際には色々と暗号などのコードが入り交じっているが、内容はかねがねこんなものである。

 そして、この暗号が理解できるということは……自分はこいつらを『知っている』

 

『どうしますか?』

 

「彼らに構わず、そのまま前進する。ルートを出してくれ」

 

『了解。施設のサーバーにハッキング……データ転送開始……オブジェクト更新』

 

 ゲスト機はこちらの指示通りに、施設の最深部に続くルートを開拓した。

 

『ほとんどの探索は、あの謎のチームがしたようです』

 

「なら、手間はかからないな。そのまま突入する」

 

 そして、彼らと同じように屋上から侵入(エントリー)、激しい銃撃戦の跡を残した施設の中を最短ルートで進んでいきながらも、探索を続けた。

 

『データ検索……VTシステム関連はすべて存在しませんでした』

 

「……だめだ。もう死んでる」

 

 眉間を撃ちぬかれたり、胴が蜂の巣になった武装勢力や警備員を尻目にしながら、胸に紅い花を咲かせた状態でプラカードを首に下げた白衣の女性の目をそっと閉ざしておいた。

 この死体が一番マシな死体だった。――あるものは何か太いもので体を貫かれていたり、またあるものは首と胴が別れてもいる。――一番悲惨だったのは、臓物を引きぬかれたようにして、臓器を床にぶちまけて絶命している開発者だった。

 

「このやり方は、普通じゃない。『普通』じゃ出来無い……」

 

 任務やBLACK OPS(汚れ仕事のこと)、テロリスト狩りではお目にかかることが無い光景に悪寒がするもの、ズンズン進んでいく。

 

『アルファ! ISを確認! IFF(敵味方識別装置)は反応無しだ! クソ、なんでアメリカ製の奴が……』

 

 ゲスト機から常時送られてきた謎の組織からの通信に驚愕する。

 

「なんだって!」

 

『どうなされますか? 彼らの装備と能力は監視カメラごしからでもかなり高いですが……』

 

 ゲスト機から送られてきた映像を見る。ISの搭乗者がまだまだ素人なのか、はたまた相当腐った精根の持ち主なのか……それはわからないが、今の所死体がひとつも見当たらないので誰一人として欠けることなく、特殊部隊の隊員たちはIS相手に奮闘しているのであろう。

 

「救援に行く! 最短で頼む!」

 

 ゲスト機からの疑問に迷いなく答えると、拡張領域(バススロット)からIS用弾倉交換式ロケットランチャーが自動で取り出された。

 

『ならば、それで指示通りに壁をブチ抜いて下さい』

 

 いつもならば『ではこのルートで迂回しましょう』とでも言うのかと思いきや、返ってきたのは実に自分好みの返事。

 

「了解」

 

 ――きっとこの時の自分を鏡で見たならば、きっとイイ笑顔を浮かべていたであろう。

 

 強引に壁をぶち抜いて目的地に急行する間、ふとそう思う。

 

『この壁を破れば、目的地のラボルームに到着です』

 

「わかった」

 

 そう言って、ロケットランチャーの弾倉を交換してから、発射。施設の壁は大きな穴を開けて破壊される。

 

「クソっ!? 今度はなんだ!?」

 

「こんなところにレーゲンタイプだと!? ドイツはまだ来ないはずじゃ!?」

 

『IS発見の報告から、貴女にバレないように情報操作したの。貴女、ホスト権限でこの施設を自由に使えるようだけど、全然活かせてないわね』

 

 いかにも特殊部隊のような風貌の4人組とアメリカの第2世代型IS『アラクネ』が目の前にハイパーセンサーごしに視認できる。そして、アラクネの操縦者の驚愕に対してゲスト機は見下すように解説を述べた。自分にしか聞こえないが……

 

 それよりも、普段は畏まった口調のゲスト機がこんな喋り方をするのはとても新鮮に感じた。それほどまでに何か感情を揺さぶられるナニカがあったのだろうか……AIだけど……

 

 なぜ、そこにアラクネがいるのかは後で考えるとして、まずはこの動揺の空気の中、弾倉の残りをすべてアラクネにブチ込む。弾倉内には、壁の破壊用に爆発物を入れていたが、他はすべてキャニスター弾(散弾)を装填している。

 すべて撃ち込んでからロケットランチャーを拡張領域にしまいこんで、そのまま特殊部隊を守るようにアラクネと特殊部隊の間に入り、左手には盾を、右手には40ミリ機関砲弾を使用する大型のIS用のアサルトライフルをもってアラクネと相対する。

 

「チィ! 遊びすぎた! 命拾いしたな!」

 

 やがてアラクネの操縦者は分が悪いと判断したのか、そう言うと、自分が開けた大穴に飛び込んで逃げ出した。

 

『反応……ロスト。もう問題はありません』

 

 ゲスト機のアナウンスを聞いて、盾とアサルトライフルを拡張領域にしまい、後ろでカービンライフルを構えていた特殊部隊の隊員と向かいあった。

 

(どうしよ……)

 

自分は困惑していた。気軽に「やぁ」と、言うわけにはいかないし。だからと言って無視もいただけない。

変なそぶりを見せればたちまち撃たれるだろう。何せIS相手にほんの僅かだが持ちこたえたのだから。

しばらく、ゲスト機と隊員達は無言のまま見つめ合うという奇妙な状態になった。

 

『こちらチャーリー。ホテル・ズールーから通達。作戦は終了。これよりLZ(ランディング・ゾーン)に退却せよ。』

 

『少し待て。いま我々の目の前にはISが……』

 

『……ISは無視しても構わないとの事だ』

 

『報告。VTシステム関連は完全に破棄された模様、一時離脱し、指定されたエリアに向かうように……との事です』

 

ゲスト機からの報告と拾いあげた通信はちょうどこちらにも願ったり叶ったりな物であった。

なので、それ幸いに自分は彼らに背を向けてもと来た道を戻る。

その様子を見て安心したのか特殊部隊の方もジリジリと後退し、やがて退却していった。

 

自分は彼らより先に施設からでる。

その証拠に彼らのヘリは未だに施設上空で待機していた。

 

「G.H.O.S.T(ゴースト)……ホークアイとおなじように、この世界にも存在していたのか……」

 

そう呟いてから篠ノ之さんに指定されたポイントまで飛ぶのであった……

 

 

   ■   ■   ■

 

 

 さて、少々『ハプニング』や篠ノ之さんの『お手伝い』があったものの学年別タッグマッチトーナメントは無事に終了した。

 優勝者は織斑・デュノアペア、準優勝から順番に篠ノ之・ボーデヴィッヒ、オルコット・凰、3組・4組のクラス代表、布仏・簪ペアとなった。

 多少の番狂わせはあったもののかねがね予想通りである。また、ボーデヴィッヒの件でドイツとの講話の間にこれとは別に一般生徒のみでの優勝決定戦が行われた。ちなみにそれで優勝、ないし上位入賞者には最優秀敢闘賞・優秀敢闘賞・敢闘賞がそれぞれ送られる。

 (代表候補生でも専用機持ちでもないのに)よく頑張ったね。としか聞こえないのは自分だけではないだろう。まるで嫌味だ。

 

 季節は7月に突入しており、残すメインイベントは臨海学校となった。これが終わればすぐに夏休み……

 

 だがしかし、臨海学校の前にも一つイベントが有ることにお気づきだろうか?

 

 ―― テ ス ト 返 却 である

 

 只今の現在位置

 ――職員室

 

 只今の時刻

 ――寮での夜の点呼が終了したところ

 

 只今の状況

 ――自分以外誰も居ず、目の前の机には厚い冊子が置かれている

 

 只今の仕事

 ――上司(1年担任・副担任を纏める役目の人)から1年の試験の成績がまとめられた冊子を受け取り、最終チェックを任された

 

 

 

「せっかくだから俺はこの冊子のページを捲るぜ」

 

 

 

 そう呟いて各クラスの番号表を取り出して冊子を開き確認作業に入る。

 

 

 

「(成績が)上(位)からくるぞ!気をつけろ!」

 

 

 

 特にミスがあるわけも無く、確認には5分とかからなかった。

 

 

 

「なんだぁこの成績はぁ……」

 

 

 

 わかってはいたが成績上位は代表候補生と専用機持ちの連中であった。本物のエリートと秀才……かぁ……自分には縁がないなぁ

 ただズル(前世での経験)がある自分と違い。彼らも織斑君、篠ノ之ちゃん達も背負っている物も持つものも違うからこんなに頑張れて、こんなにも違うのだろう……

 いつも模擬戦時にISで彼らをボコボコにしているだけに少しだけ複雑な心境になったのであった。

 


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