No matter what fate   作:文系グダグダ

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16:花月荘 7月 臨海学校 中編

 無事に(?) レクリエーションが終わり、瞬く間に夜7時を回った。

 自分たちは旅館内の大宴会場で生徒達と一緒に夕食をとっていた。

 教師陣含め、全員が座敷に座っており、一人一人に一つの膳が置かれている。

 メニューはお刺身と小鍋料理、おかずとして山菜料理が数品あって、ご飯とお味噌汁、漬物というオーソドックスなものであった。

 

「うわぁ! ちーちゃんとアッキーとでご飯食べるのなんて久し振りだね!」

 

 刺身をパクパクと食べながら浴衣姿の篠ノ之さんは嬉しそうにする。

 

「ああ、そうだな。私は、お前がいない間、何をしていたか気になってたしな」

 

「どんなとこにいって、何をしてきたのか……篠ノ之さんの武勇伝、タップリと聞かせてもらいますね」

 

「うん! 束さん、アッキーやちーちゃんに聞かせたいこと、いっーぱいあるからね!」

 

 そう言うと、篠ノ之さんはお箸を刺身の方に伸ばすものの、お刺身が無くなったことに気づく。

 

「お魚さん、無くなっちゃった……」

 

「……篠ノ之さん。要ります?」

 

 しょんぼりとする篠ノ之さんに対して、自分はそっとお刺身を差し出す。

 

「わ~ほんとにくれるの? くれるの?」

 

 篠ノ之さんに対して、コクリと頷き肯定の意を返す。

 

「うみみやぁ! 嬉しい! 好き! 大好き!」

 

 そう言うと、自分の箸にある刺身を直接パクリ、と食べた。

 

「もっと! もっと!」

 

「……あれが日常なのか? ブリュンヒルデ(織斑千冬)」

 

「……あいつはいつもあんな感じだ。岡部も……束も……」

 

 自分のお刺身を篠ノ之さんの口の中に放り込む作業にさしかかってきた頃、ハルフォーフ先生と織斑先生はその様子をじぃー、と見ている。

 学生達は……ああ、うん。みんなわいわいにやってるよ。織斑君達も、わさびネタでなんか盛り上がってる。

 あ、会長達上級生組が一年達に絡んでる。サラ・ウェルキンさんが必死に頭を下げて謝っている。彼女、苦労人だなぁ……

 

「こうして見ると、岡部先生と篠ノ之博士って兄妹のようにも見えますねー」

 

 自分と篠ノ之さんの光景をみて山田先生はそう呟いた。

 

「うん! 君もいいこと言うね! 束さん的にはいっくんが未来の義弟(ぎてい)でもいいけど、他ならアッキーが未来の義兄(ぎけい)でもいいんだよ! だよ!」

 

 篠ノ之 束の発言に、岡部 友章、篠ノ之 箒、織斑 一夏、織斑 千冬の4人は一斉に咽た。

 

「ぐふ! ゲホ! 篠ノ之さん!?」

 

「うっ! ゲフ! たっ、束!?」

 

「嫁!? ほら、水だ!」

 

「ああ! 先輩! 大丈夫ですか!?」

 

 自分にはハルフォーフ先生が、織斑さんには山田先生がフォローに入る。

 

「ぐっ! 姉さん!?」

 

「ごはっ! ゲホゲフ! 束さん!?」

 

「……箒! 大丈夫!?」「ちょっと箒さん!? 水! 水!」

 

「大丈夫か!? 嫁!?」「ほら! 水! 水よ! 一夏!」

 

 篠ノ之ちゃんには、更識 簪とセシリア・オルコットがフォローに、織斑君にはラウラ・ボーデヴィッヒと凰 鈴音がフォローに入っていった。

 

「うみゃあ? てっきりそう思ってたんだけどな~束さん」

 

「し、篠ノ之ちゃんの意思次第なんじゃないかなー?」

 

「えー……でもじゃあ面倒くさいから束さんがアッキーかいっくん掻っ攫っていってもいいかな? かな?」

 

 自分たちのリアクション対し、残念そうにする束さんだが、再び爆弾を落とした。

 

「ははは…………織斑君はともかく、自分も中々倍率は高いらしいですよ……」

 

 自分は、肉食獣の目をした織斑さんとハルフォーフ先生を指さして、こういった。

 

「ふえぇ……これには束さんもびっくりだよぉ……」

 

 篠ノ之さんのその反応を見て自分はぼそりと呟く……

 

「頭冷やす為に、このメンバー全員で50キロ程走りこむか…………?」

 

 半分本気で考える辺り、もうどうしようも無い気がしたのであった。

 

 夕食を食い終え、教師陣は暫く暇になる。

 今日の夜勤は夜勤は基本、深夜の見回りですし。

 

「友兄! 風呂行こうぜ! 風呂!」

 

 ゲスト機の立体型ディスプレイで生徒が乗る打鉄やラファールの簡易チェックを済ませると、狙い済ましたように織斑君からのお誘いを受ける。

 

「ん? もう男子風呂の時間か……」

 

 ゲスト機の待機状態でもある腕時計を見ると現在、短針は8時を、長針は30の付近にある。

 いつも思うがなんでデジタルでなく、アナログ式なのだろうかこの時計……高級腕時計のような感じのデザインだから、どこにも持っていけるのはありがたいが、会食なんかで腕時計の話になるとすこしびっくりする。

 

「だろ? クラスメイトに聞いたけど、ここの露天風呂はスゲーらしいぜ」

 

 はやくはやくと急かす織斑君。だからお前は小学生か。

 

「わーかったわかった。露天風呂は逃げないからな」

 

 そう言って、立体型ディスプレイを閉じ、大浴場に向かうことにした。

 

 ――着替え? 荷物の持ち込みシーン? んなもんねぇよ

 

「かぽーん」

 

 更衣室でお風呂セット(バスタオル、ハンドタオル、髭剃りセット)を受け取り、大浴場に向かう。勿論、男風呂。

 そして、屋内浴場に入って早速口ずさむと、織斑君は不思議そうに見つめる。

 

「何やってんの?」

 

「恒例行事」

 

 腰にタオルを巻いた織斑君はワケがわからない、といった顔をしていた。

 

「これがジェネレーションギャップというやつか…………ゲスト、範囲25メートル圏内にジャミングを形成、コアネットワークにもファイヤーウォールを構築しろ」

 

『了解。しかし、使用しても効果があるとは思えませんが……』

 

 織斑君との意識の差に愕然としながらも、ゲスト機に指示を与える。

 タオルを腰に巻いただけの織斑君と違い、自分は高級腕時計に待機した状態のゲスト機、無駄にハイスペックな伊達メガネを着けている。ハンドタオル? 腰に巻くの面倒くさいからマッパだよ。

 

『…………外部からの不正アクセスを確認。撃退しました』

 

「な。言った通りだろ?」

 

『訳がわかりません……』

 

 愕然とするゲスト機を他所に早速、浴槽に入ろうとすると……

 

「友兄! 先にシャワー浴びてからがマナーだろ?!」

 

 織斑君に止められた。ちくしょう。

 

「えー、だってかけ湯したろ?」

 

「それでも、マナーは守らないと」

 

 そう言われてはぐうの音も出ない。

 観念して織斑君と一緒にシャワーから先にすることに。

 

「うわぁ、全員女物じゃね?」

 

「友兄、これ……めっちゃ高いやつだ……」

 

 これ前、千冬姉が使ってた……と言いながら、シャンプーとリンスで髪を洗う。

 

「背中洗ってやるよ。友兄」

 

「こうしていると去年を思い出すな……」

 

 織斑君に背中を洗ってもらいながら、しみじみと思い出す。

 その時は、水道代の節約とか言って風呂にはいったな…………

 最初、こいつ実は男に興味あるんじゃ……と戦慄におののいていたが、そんなことはなかった。

 

 そうして、お互いに洗うのが終わり、やっと浴槽に入れる。

 

「さーて、それではメインの露天風呂といこうか……」

 

 手をワキワキさせながら、外へ向かう織斑君ェ……

 

「なんというか……お前は残念なイケメンのにおいしかしなくなったよ……」

 

 容姿、能力共に『高級食材』といっていいんだけどなぁ……

 

 そんな事を呟きながら、織斑君と一緒に露天風呂に向かうのであった。

 

 

 

 ――これ以上の誰得シーンはカットカットカーット

 

 

 

 

   ■   ■   ■

 

 ――臨海学校、2日目

 

 今日は生徒達の課外授業に加えて、各専用機持ちたちの各種性能評価試験も兼ねて丸一日のIS実習だ。

 

「ふう、これはここで……こいつはここと……」

 

 自分は崖に囲まれ、ドーム状に整備されたIS試験用のビーチでゲスト機を身に纏って各ISやパッケージがはいっているコンテナを整理していた。

 

「なんかやっと本来のパワードスーツらしい用途に使っているような気がする……」

 

「さて、それでは……各班ごとに振り分けられたISに向かうように。専用機持ちのやつらは各種専用パーツと各種微調整だ。全員速やかに所定の位置へ、上級生は先に指定の中域に上がっておいてくれ」

 

 織斑さんの指示に従い、はーいと返事をする生徒達を遠目に最後の「束さんのこんてな(はぁと)」コンテナを所定の位置においた。

 

「おつかれー。アッキー」

 

「束、篠ノ之を連れてきたぞ」

 

 ゲスト機を待機状態に戻すと、篠ノ之さんと織斑さん、篠ノ之ちゃんがこっちに寄ってきた。

 ついでにその後ろから、いつものメンバーも付いてきていた。

 

「姉さん……」

 

「ふっふっふっ……それではこのコンテナをご覧あれ!」

 

 そう言うと、先ほど自分が運んだ例のコンテナが展開した。そこにあったのは……

 

「じゃじゃーん! これぞ箒ちゃん専用機こと『紅椿』! 全スペックが現行ISを……ゲスト機すら上回る束さん渾身のISだよ!」

 

 以前よりちょくちょく話と組立途中を見たとおり、真紅の装甲に身を包んだその機体は、コンテナから飛び立ち、篠ノ之さんの前に踊り出る。

 

「!!」

 

「大丈夫だ」

 

 篠ノ之さんを庇うように前にでる織斑さんに対し、自分はそれを手で静止させる。

 

「岡部、しかし」

 

「問題ない。お前は……主に自分の姿を紹介したいのだろう? 紅椿……」

 

 織斑さんを静止させ、主のいない紅椿に対してそう問いかける。

 紅椿は自分の方を見つめる(?)とコクリ。と頷いた。

 

「岡部さん……」

 

「こいつ(紅椿)はゲスト機のようなものだよ。ほら、挨拶してやれ。こいつは君に会いたかったんだ」

 

 後ろに控える篠ノ之ちゃんを紅椿の前に差し出す。

 紅椿は目の前の篠ノ之ちゃんを確認すると、彼女の前で片足を着いて跪いた。

 

「これが……私の、専用機……」

 

「どう? 気に入った?」

 

「ええ、文句の付けようがない位に……ありがとう、姉さん」

 

 そう言うと、あまりにも予想外の言葉なのかビクンとウサ耳が跳ね上がり、篠ノ之さんは喜んだ。

 

「その言葉を待ってたんだよ! だよ! それじゃあ早速、調整に移ろうねー!」

 

 篠ノ之さんがそう言うと、紅椿は即座に装甲を展開し操縦者を受け入れる状態になる。初期にゲスト機に自分が乗り込むような感じだ。

 

「アッキーもちーちゃんも調整に入るからお願いね」

 

 篠ノ之さんにそう言われると、別に断る理由もないので自分と織斑さんはISを展開させる。

 

「今日の束さん。ものすご~く機嫌がいいから、いっくん達も調整してあげるね」

 

 紅椿に圧倒されている。織斑君達に向かってそう言いながら、篠ノ之さんは立体型ディスプレイで構築されたコンソールと同じく空中投影ディスプレイにゲスト機や暮桜弐式の立体映像を投影させ、それを触って調整、整備を行う。それに伴ってコンテナから出てきたアームがゲスト機や暮桜をいじっていく。

 ジェスチャーインターフェイス、タンジブルビット・コンセプト、フォースフィードバック等……世界中が血眼になって開発しているインターフェイスシステムが篠ノ之さんの周りに完成された形で鎮座していた。

 

「すごい……」

 

「これが、篠ノ之束……」

 

 その光景を見て驚愕の色に染まる、海外の代表候補生達。

 その光景を見て一般の生徒はヒソヒソと色々と話をしている。

 

「岡部さん……」

 

「言わせておけ。自分の力を示せば、自ずと黙る」

 

 個人間秘匿通信(プライベート・チャネル)で不安にかられる篠ノ之ちゃんをフォローする。

 

「いや~、ちーちゃんもアッキーも凄いねー。フラグメントマップを見たけど、すごい発展速度だよ!?」

 

 両手で器用に9機のISを瞬く間に整備していく篠ノ之さん。

 

「……よし! これで全部!」

 

「篠ノ之さん。『アレ』も載った?」

 

「もちろん! 後はアッキー好みに色々と追加装備と改良装備も載せておいたよ!」

 

 親指をぐっと上げて、サムズアップする篠ノ之さん。

 他のみんなも調整に驚いていた。

 

「すごい……本国よりも軽い……」

 

「流石に、開発者なだけあるわね……」

 

 各自それぞれおっかなびっくりにISを動かしている。

 

「それでは! 篠ノ之以外は私と山田先生、ハルフォーフ先生に付いて来い!」

 

 織斑さんがそう言うと、事前にISを纏っていた、山田先生とハルフォーフ先生は専用機持ち達と一緒に飛び立って行く。

 

「じゃあ、先に行ってくる。箒。」

 

「ああ、私も後からくる」

 

 織斑君はそう言って、先に飛んでいった。

 

「岡部。お前は箒と一緒に動作試験に入ってくれないか?」

 

「いいですけど、何故?」

 

 そう聞くと、織斑さんは肩を叩いた。

 

「お前の方がよく分かってるだろ? 箒も、紅椿も」

 

 そう言って、織斑君達の方に飛び立って行った。

 

「……だと言う事だ。篠ノ之ちゃんと紅椿の動作確認は自分が担当しよう」

 

「よろしくお願いします。岡部さん」

 

「じゃあ、束さんは通信で色々と説明を入れるね」

 

「了解しました。行くよ、篠ノ之ちゃん」

 

 そう言って自分は、スラスターを吹かして空に上がっていく。

 篠ノ之ちゃんもそれについてくる。

 

「どうだ? 変わった点は?」

 

「特に、問題ないです!」

 

 その返事を聞いて、各種データを紅椿に送る。

 

「なら、あの場所で動作確認を行う。ついてくるんだ」

 

「了解しました」

 

 指定された洋上。IS学園の教習用ISや、各専用機が飛び交っている場所とは少し離れた中域に篠ノ之ちゃんを誘導する。

 

「よし。止まれ! ここから紅椿の動作確認に入る」

 

『じゃあ、束さんの出番だね!』

 

 立体型ディスプレイに束の姿が映る。

 

『じゃあ箒ちゃん! 早速刀を使ってみよー。右のが『雨月(あまつき)』で左が『空裂(からわれ)』だよ』

 

 束さんがそう言うと、篠ノ之ちゃんはしゅらん、と2本の刀を同時に抜く。この辺の身のこなしは流石、といったところだ。

 

「姉さん。抜きました」

 

『親切丁寧に束さんは説明するよ~ 雨月は対単一仕様の武装で打突に合わせて刃からエネルギー波を出して攻撃できまーす。

 大体一般的なIS用アサルトライフル位の射程があるから、遠くから撃ってよし。機動性にものを言わせて近づいて、斬撃とエネルギー波を同時に与えてもよし。箒ちゃんによし、束さんによしな一品だよ!』

 

 篠ノ之さんの解説を聞きながら、篠ノ之ちゃんは雨月を振るう。実家の剣術・篠ノ之流の技なのか色々とやって雨月を振るうと、確かにエネルギー波が出て海面から水柱が上がった。

 

『じゃあ次いくよ~お次は空裂。こっちは対集団仕様の武器だよ。斬撃に合わせて雨月とはまた違ったエネルギー波をぶつけて迎撃してくれるんだよ。それじゃあアッキー! デモンストレーションよろしく!』

 

「わかりました。それじゃ篠ノ之ちゃん。いくよっ!」

 

 篠ノ之さんからそう言われたので、ゲスト機の両脚部に二基の四連装ミサイルポッドを展開、紅椿めがけて発射する。

 8発の高性能誘導ミサイルは紅椿に向かって殺到していく。

 

「これくらいなら……いける!」

 

 そう言って、空裂を振るうと、瞬く間にすべてのミサイルを叩き落とした。

 

「パーフェクト! じゃあもう一回!」

 

 再び脚部のミサイルを放つと、同じように紅椿は空裂を振るい、ミサイルを叩き落とす。

 

『あっ! 箒ちゃん! 1発逃してるよ!』

 

 運良く生き残った1発のミサイルが紅椿に向かっていく。

 

『既に戦闘経験量が一定に達したと判断。出力可変型ブラスター・ライフル 穿千 (うがち)起動』

 

 紅椿のISコアがそう言うと、紅椿の両肩にブラスター・ライフルが構築される。

 

「ありがたい! これで、撃ちぬく!」

 

 そう言うと、篠ノ之ちゃんは両肩の穿千 (うがち)を放つ。

 

「っ! なんだ。反動が凄い……! でも、これくらいなら問題無い!!」

 

 初弾こそミサイルを外すものの、素早く調整して再び穿千 (うがち)を放つと、残りのミサイルに命中した。

 

『ワァオ! 箒ちゃん、すっご~い!!』

 

「……心臓に悪い…………」

 

「岡部さんのお陰です!」

 

 この日は一日中、紅椿や織斑さん達と一緒にISを動かしていたが、この時の篠ノ之ちゃんの笑顔が一番の印象に残ったのであった。

 

   ■   ■   ■

 

 ――臨海学校、3日目

 

「専用機持ち以外は昨日と同じだ! 各教員の従うように」

 

 はーいと気ダルげに返事を返される。これがカリスマ性の差か…………

 生徒が散り散りに教習用ISに群がって行く中、この場に残ってるのはいつものメンバーに上級生組だ。

 

「さて……君達には……特別授業を受けてもらおう」

 

 皆口々に特別授業? と疑問符を浮かべる。

 

「ああ、昨日の様子を見た限りだと、やっても問題無いと判断した」

 

 今一つピンと来ない様子の彼らに、決定的な一言を言い放つ。

 

「今日の特別授業の内容はゲスト機対一年生専用機持ち組との特別模擬戦だ」

 

 そう言って、ゲスト機を展開し洋上へと飛び立った。

 

「これより、ブリーフィングを始める」

 

 洋上にゲスト機が鎮座する中、海岸に設営された天幕で、織斑 千冬と篠ノ之 束、専用機持ち達がいた。篠ノ之 束は織斑 千冬の隣で色々と投影型ディスプレイのタッチパネルをせわしなく操作し、ブリーフィングの下準備をしている

 

「現在、目標は洋上で一旦停止している状態である。」

 

 投影型ディスプレイに地図と目標を示す赤い点が示される。

 

「我々はこいつにISによる奇襲攻撃を加え……」

 

 織斑 千冬はここで一息入れて、専用機持ちを見渡す……

 専用機持ちの皆は固唾を飲んで見守る。

 

「これを撃破する」

 

――ゴクリ

 

 織斑 千冬のその言葉に周りがしんと静まり返る。それは織斑一夏の生唾を嚥下する音が聞こえるほどに……

 

「それでは、目標の説明を始める」

 

 織斑千冬は篠ノ之束に目配せすると、彼女は投影型ディスプレイにある一つのボタンを押す。

 全員が取り囲む会議机の中央にゲスト機の立体映像(ホログラム)が投影される。

 

「正式名称は……実は存在しない。なので対外的な名称としてゲスト機と呼ぶ」

 

 アッキーがただあの子に名前を名付けて無いだけなんだけどねー、と篠ノ之束は補足をいれる。

 

「基本性能は……IS学園時や、モンド・グロッソ参加時と対して変わりは無い。

全身を守る厚い装甲に、身を守る盾、豊富なシールドエネルギー、そして……」

 

「豊富な射撃・間接攻撃武装に富んでいます」

 

篠ノ之 箒は織斑 千冬を遮るように言った。

織斑 千冬は少し咎めるように、鋭い視線で篠ノ之 箒を睨む。

 それに割って入るように篠ノ之 束は補足事項をいれる。

 

「あと、基本的にはゲスト機には危機感知機能の一つとして、相手の銃口の向きを計測し、それが自分に向いていれば、ロックオンサイトがその相手に表示され、その直後に、相手の銃撃が当たることを報知してくれる機能があるよ」

 

 それを聞くと、凰 鈴音は納得したように頷いた。

 

「通りで……それのお陰で、龍咆が見切られるわけね」

 

「あとの特徴としてはゲスト機の拡張領域(バススロット)の中身はそれと、弾薬・予備パーツ・増加装甲で占められています。そうですよね? 千冬さん?」

 

「大方、正解だ。しかも、それに加えて今回のロケーションは太平洋上……私ですらやり合った事の無いパターンだ。

遠距離攻撃がゲスト機の独壇場である以上、気を引き締めて行け」

 

織斑千冬がそう言うと、専用機持ち達は元気良く返事をした。

 

「教官。質問が」

 

すっと、挙手をするラウラ・ボーデヴィッヒ。

この場にいる全員の視線が彼女に集中する。

 

「よろしい、許可する」

 

「この特別模擬戦に参加するのは一年の専用機持ちだけでしょうか?」

 

そう言って視線を動かすと、天幕の隅で立ち尽くしている。他学年の専用機持ちとクラリッサ・ハルフォーフ大尉がいる。

 

「いいや、今回はお前達一年だけだ。私や彼女達は不測の事態に備えてのバックアップを担当する」

 

「俺からも質問」

 

「言ってみろ。一夏」

 

 ラウラ・ボーデヴィッヒの次は織斑一夏が挙手をする。それを織斑 千冬は発言を許可した。

 

「どうやって、俺達はゲスト機を迎え撃てばいいんだ?

なんとかして弱点の接近戦に持ち込むのか?」

 

 そう言うと、天幕の中にいる全員が、織斑 千冬と篠ノ之 束、両方を見つめた。

 

「ああ、お前達レベルだと……それしか無い……」

 

「別にー、尽きる事のない弾幕地獄の中、減らない増加装甲とシールドエネルギーとの絶望的超消耗戦が好きならいいけどねー」

 

 申し訳なさそうな、織斑 千冬とその様子を面白そうに見る篠ノ之 束の姿が対照的に見える。

 

「いくらアッキーのゲストちゃんがリミッターをかけていたとしても、結局白式の零落白夜頼みしか正直、勝ち目無いんじゃないかな? いっくん」

 

「……そうか、わかった。ありがとう、束さん」

 

 織斑 一夏がそう言うと、今度は自身の姉と向かい合う。

 

「なら、作戦の要は俺ってことだよな」

 

「ああ、そうだが……」

 

 普段は見せない、凛々しい表情でこう言い放った。

 

「みんな、俺から頼みがあるんだ」

 

   ■   ■   ■

 

「目標まで距離30000、これより作戦行動に移る」

 

「「「「了解」」」」

 

『油断はするなよボーデヴィッヒ。ゲスト機は……岡部はお前と同じ……いや、お前以上に経験が豊富だ』

 

 ラウラ・ボーデヴィッヒに織斑 千冬が忠告をいれる。彼女は苦しそうな表情でこう答えた。

 

「わかってます教官、レーラーは……岡部先生は……我々軍人以上にプロだ。実感は湧かないだろうが、皆もその事をくれぐれも忘れるな!」

 

 ボーデヴィッヒがそう言うと、全員静かに頷いた。

 

 未だに鎮座しているゲスト機をバイザーの片隅に織斑 一夏率いる1年の専用機組はゲスト機との交戦に移っていく。

 あの後、みんなとの協議の結果、軍務経験のあるラウラ・ボーデヴィッヒが隊長を務め、副官がみんなからの希望によって織斑 一夏となった。

 そして、距離が20000にまで近づくとゲスト機は換装を始めた。足回りが光に包まれると、コンテナ状の長方形箱が両脚の外側に装着される。ミサイルポッドだ。

 

 全員に被ロックオン警告(ロックオンアラート)が鳴り響く。

 

「回避ッ!」

 

 ゲスト機に搭載された二基の四連装ミサイルランチャーから次々と大量の誘導ミサイルが発射されると同時に織斑 一夏の声と共に回避行動にうつるIS達。

 

「……あれは、打鉄弐式(私)の流用!?」

 

「あのミサイルの群れが我々全員を同時に狙っているという事は……そういうことだろうな……」

 

「全員散開しろ! お互いの死角をカバーするんだ!」

 

 ラウラ・ボーデヴィッヒのかけ声により各自ISは散開しミサイルを迎撃にあたる。

 

「行きなさい!」

 

 セシリア・オルコットはブルー・ティアーズのレーザービットを射出し、迎撃にあたらせる。

 しかし、1発だけミサイルが漏れたのか、ブルー・ティアーズに向かってくる。

 

「この程度、ほんのお遊戯に過ぎませんわね」

 

 そう言って、手持ちの六七口径特殊レーザーライフル スターライトmkⅢでそのミサイルを撃ち落とした。

 

「ふん! 実弾兵器には遅れはとらん」

 

 ラウラ・ボーデヴィッヒはシュバルツェア・レーゲンに備わったAIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)でミサイルを完全に無力化する。

 

「これくらいの速さなら、撃ち落とす!」

 

 篠ノ之 箒は空裂 (からわれ)を振るい、周囲にあったミサイルを一掃する。

 

「箒! 後ろよ!」

 

 凰 鈴音の言うとおり、紅椿の背後にミサイルが迫っていた。

 

「わかってる!」

 

 紅椿はミサイルが自身に肉薄して来たその時、身をズラしてミサイルを紙一重で躱すついでにミサイルの側面に回り込み、近接ブレードで叩き切った。

 

「待ったく、ヒヤヒヤさせるわ」

 

凰 鈴音はそうボヤくと自身の頬を粒子砲が撫でる。その後直ぐに甲龍の背後で爆発が起こった。篠ノ之箒のIS紅椿(あかつばき)の持つ出力可変型ブラスター・ライフル 穿千 (うがち)の弾丸が甲龍の後ろにいたミサイルを撃ち落としたのだ。

 

「ああ、全くだ」

 

「……ホント、ヒヤヒヤするわ…………」

 

 凰 鈴音はため息をつきながらも、龍咆で全方位から迫ってくるミサイルを着々と片付けていく。

 

「クソ! 白式には近接ブレードしか無いから加速して振り切るしか……!」

 

 そんななか、織斑 一夏は必死に白式のスラスターを全開にして、ミサイルを振り切っていた。

 ある程度ミサイルを振り切って数を減らした後は篠ノ之箒の紅椿の時と同様に、ギリギリでかわしては叩き切ってを繰り返している。

 

「よし! これで最後!」

 

 篠ノ之 箒はゲスト機から放たれたミサイルの最後を叩き落とす。そして、反撃開始と言わんばかりにシュバルツェア・レーゲンはゲスト機にレールカノンの照準を合わせる。

 

「距離19000! 照準、敵機! 情け無用! フォイヤ!」

 

 専用の砲戦パッケージに搭載されている80口径レールカノン(ブリッツ)2門の一斉射撃を受け、爆発を起こすゲスト機。

 その爆発は凄まじく、暫く濃い爆煙がゲスト機の周囲を包むがやがて晴れてくる。

 

「ドイツ軍最新のIS用APCBC(Armor Piercing Capped Ballistic Capped)でも無傷……だと!」

 

 ゲスト機は左腕にマウントされた大型の実体シールドで防御していた。

 ラウラは貫徹力の高い低抵抗被帽付徹甲弾を受けても傷一つ無いゲスト機に顔を引きつらせる。

 

「やはり、ただでさえ厚い装甲に加えて爆発反応装甲と電磁装甲の二段構えの増加装甲を備えたあの化け物に傷をつけることは不可能か……」

 

 篠ノ之 箒は奥噛みする。

 

「……ゲスト機は厚い装甲を持っている」

 

 バイザー内で多数の小さなウインドウをせわしなく動かしながら、更識 簪はゲスト機を解析する。

 そして、彼女は八連装ミサイルポッド 山嵐の発射口の蓋を開けた。

 

「……だけど人型の鎧である以上、推進翼や推進部を持つISである以上、可動域やそこに装甲を施すことは不可能。ミサイル……発射」

 

 そう言って、ゲスト機の推進翼や推進部である両手足と背中のバックパック本体やバックパック上部の備え付けられている2基の可変タイプのバーニアスラスターをロックオンし、発射。山嵐から高性能誘導ミサイルが2発飛翔する。

 さらに高性能誘導ミサイルは弾頭を分離してさらに8発の高性能小型ミサイルを射出し、合計16発のミサイルを発射した。

 それに対してゲスト機は拡張領域(バススロット)からIS用大型アサルトライフルを取り出し右手に装備する。そして再び脚部のミサイルポッドの蓋をすべて開き、8発のミサイルで迎撃した。

 

 ゲスト機から放たれた迎撃ミサイルはすべて、打鉄弐式のミサイルに命中するも残りの8発のミサイルがゲスト機に向かって来る。

 ゲスト機はそれに対して、何も動じる事無く、自身の持つIS用大型アサルトライフルを構え……撃った。

 アサルトライフルを撃った時間は数秒にも満たない、しかしゲスト機は恐ろしく正確にかつ迅速に残りのミサイルを1発1発潰していき……ミサイルを1発もゲスト機に着弾させないまま全て迎撃した。

 

「嘘……フレアもチャフも回避行動すら無しだぞ!? しかも友兄の奴、自力で迎撃してたぞ……」

 

「打鉄弐式の山嵐は画像認識で追尾している……そんな物で惑わせるほど稚拙な物では無い……」

 

「CIWS(Close in Weapon System)にRAM(Rolling Airframe Missile)か……味なマネをする……しかし、これなら!」

 

 織斑 一夏と更識 簪は驚愕するもののラウラ・ボーデヴィッヒは果敢にも再び、2門のブリッツでゲスト機を撃ちぬこうとする。

 それに合わせるように、打鉄弐式のミサイルポッドの発射口の蓋が開けられ、ブルー・ティアーズは自身の装備する六七口径特殊レーザーライフル(スターライトmkⅢ)の銃口がゲスト機に向けられる。

 

「火力を一点に集中……!」

 

「この距離ならフルパワーのスターライトでも……!」

 

「ドイツ軍秘蔵のとっておき! IS用高速徹甲弾だ!」

 

 ラウラ達の執念が届いたのか、ゲスト機は回避すること無く。まともにHVAP(Hyper Velocity Armor Piercing)をくらう。

 さらにダメ押しと言わんばかりに打鉄弐式の八連装ミサイルポッド 山嵐 (やまあらし)の発射口からすべての高性能誘導ミサイルが飛翔、分離して高性能小型ミサイルをばら撒いて計、48のミサイルが一斉にゲスト機に向かって飛翔し、命中し、さらに六七口径特殊レーザーライフル スターライトmkⅢが着弾する。

 

 ――再び、爆煙がゲスト機を覆い隠す。

 

「ッ! ラウラさん! 避けてぇ!」

 

 ブルー・ティアーズのセンサーから発せられる天文学的な加速度で増加していくエネルギー量とけたたましい警告音から、セシリア・オルコットの悲痛な声があがる。

 しかし、願い虚しく、爆煙をかき分けながら、一発の弾丸がシュヴァルツェア・レーゲンを貫いた。

 

「ラウラァ!!」

 

 右腕に備わった、大型の携行レールカノンを構えたゲスト機が見え、篠ノ之 箒が叫んだ頃にはシュヴァルツェア・レーゲンは自然落下していた。

 

「うおおおおっ!!」

 

 だが、織斑 一夏はこの隙を逃さなかった。

 雪片弐型を握りしめ、吶喊。狙うはゲスト機の横っ腹、増加装甲のない部分。

 この時、ゲスト機の手にはIS用の大型アサルトライフルのみ……

 

 ――いける!

 

 織斑 一夏はそう確信した。

 

 ――だが、それはすぐに自身の先走りだと気づく事になる。

 

 織斑 一夏はゲスト機のもつIS用大型アサルトライフルのパーツ――ハンドガードがパージされるのをこの目で見た。

 そして、次に古めかしいエンジンが唸る音がハイパーセンサー越しに聞こえた。だがしかし織斑 一夏は躊躇無く雪片弐型を振るう。

 

 ガツーン! と、大きな音を立てた。

 

 ゲスト機はIS用大型アサルトライフルに搭載されたチェーンソーで白式の雪片弐型を受け止めていたのだ。そして、ゲスト機はそのパワーを武器に雪片弐型を押し返す。

 

「ひっ……!」

 

 チェーンソーを駆動させるエンジン音と鍔迫り合いによる火花……迫り来る刃に本能的な恐怖に襲われる白式。それを助けようにもこうも密着されては射撃のによる援護ができず、奥噛みすることしか出来無い仲間達。

 

「零落白夜ほどじゃないけど……これで!!」

 

 その時、機転を上手く利かして、シャルロット・デュノアは六九口径パイルバンカー 別称『盾殺し(シールド・ピアース)』を構え、すかさず瞬時加速(イグニッション・ブースト)、ゲスト機の懐に飛び込んだ。

 ゲスト機は現在IS用の大型アサルトライフルを両手にもって鋸競り合いの最中、タイミングは完璧であった。

 それを感知したのか雪片弐型を押していたゲスト機は雪片弐型を押し返すのを止め、アサルトライフルに添えていた左手を外し、腕をラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡに向ける。

 

 ――ゲスト機の左腕にあるシールドをみて。シャルロットは絶望するしかなかった。

 

 ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡの切り札とも言える六九口径パイルバンカー 灰色の鱗殻 (グレースケール)通称は腕に装着している実体シールドに格納してある。

 

 ――ゲスト機も同様なのだ。

 

 ゲスト機の左腕の大型シールドに格納された30mmシールドリボルヴァーカノンが無情にも火を噴く。

 現実のリボルヴァーカノンとは違い、IS用に小型化されているものの、その威力・連射は実在するそれと謙遜は無い。

 シャルロット・デュノアは咄嗟にシールドでガードするが、ゲスト機のリボルヴァーカノンは空薬莢を排出するためにチャンバー(薬室)を回転させながら、ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡの盾もろともシールドエネルギーと装甲、各パーツを大破させていく。

 

「シャル!!」

 

 織斑 一夏は次々にパーツを破壊され、やがてシールドエネルギーが底を着いて墜ちるシャルロット・デュノアをただ、見ているしかなかった……

 

「クッ! 俺が友兄を抑えてるうちに……早く!」

 

「クソッ! 簪! 私と一緒に来い!」

 

「わかった、箒……」

 

「セシリア! 私達は近接組の援護よ!」

 

「わかってますわ! 凰さん!」

 

 ブルー・ティアーズは四方八方から自立機動兵器『ブルー・ティアーズ』射撃型特殊レーザービット4機がゲスト機に襲いかかる……が、対レーザー拡散加工を施された厚すぎる装甲には傷一つ付かない。

 甲龍も自身の持つ龍砲の機能増幅、攻撃特化パッケージ 崩山(ほうざん)に搭載された4門の熱殻拡散衝撃砲で援護するものの白式への誤射の危険性から、中々大量に撃てない。

 紅椿、打鉄弐式がゲスト機に接近戦で取り付こうにも、増加装甲とオートショットガンで中々近づけず、頓着する。

 

 ――やがて、ビットがうっとおしくなってきたのか、ゲスト機は換装を始めた。ゲスト機の腰回りにスカートのような物が生成される。

 

「! それは! 私と同じ!」

 

 セシリア・オルコットは驚愕する。ゲスト機の腰回りにあるビーロジ塗装のスカートは紛れも無い、第三世代型 自立機動兵器『ブルー・ティアーズ』だからだ。

 更にゲスト機は両肩から非固定浮遊部位 (アンロックユニット)を出現させる。その特徴的な形状にはゲスト機以外の者達にはピンときた。

 

「あ! それはあたし(甲龍)の龍咆(りゅうほう)!」

 

 そう、それは紛れもなく第三世代型 空間圧作用兵器・衝撃砲 龍咆(りゅうほう)その物であった。

 ゲスト機は戸惑いもなく両肩の龍咆で白式を撃ち抜く。一発では無い。何発もだ。

 

「ぐわっ!…………? そこまで威力は高くない!?」

 

 龍咆は白式に直撃、遠くに吹き飛ばされる。しかし、威力は甲龍のものよりさほど無いらしく白式は再び、ゲスト機に肉薄しようと接近を試みる。

 しかしゲスト機は甲龍・打鉄弐式・紅椿・白式を龍咆や右手の大型アサルトライフルなどといった手持ちの武装で牽制しながらそのまま立ち止まり、スカートに扮した射撃ビットをすぐにすべて発進させる。その数、合計6基。

 ゲスト機自身はブルー・ティアーズではなく、他の4機に意識と視線を集中させている。まるで、「試してみろ」と言わんばかりの様子であった。

 

「……舐めた真似を! それは私の得意分野ですわ!」

 

 ブルー・ティアーズのビットとゲスト機のビットが飛び交い、激しいドッグファイトを展開する。

 しかし、数で劣るブルー・ティアーズのビットは一つ、また一つと落とされていく。

 

「こうなったら、せめて……」

 

 状況が芳しく無い事はわかるものの、せめて一矢向くいる形でミサイル型ビット二基を射出する。だがしかし、ゲスト機はなにひとつ大した反応もなしに、『ビットでビットを撃ち落とす』と言う前代未聞の事をやりだした。

 ……結局、ゲスト機のビットを一つも落とすことも無くブルー・ティアーズのビットは全滅してしまった。

 

「そ……そんな……」

 

 愕然とするセシリア・オルコット。

 それはそうだ。ブルー・ティアーズのビットを全力で操作したにもかかわらず、このザマだ……

 ブルー・ティアーズのビットが一掃されたのを確認したのか、ゲスト機のバイザーがセシリア・オルコットを捉える。

 

 ――セシリア・オルコットの心は限界点を迎えた。

 

「……ヒィ! イヤァ! 来ないで! 来ないでぇ!」

 

 六七口径特殊レーザーライフル(スターライトmkⅢ)を連射しながら――感情の堤防が決壊し、恐慌状態に陥ったセシリア・オルコット。

 狙いが滅茶苦茶だが、装甲の薄い部分にまともに当たればいくらゲスト機と言えどもシールドエネルギーの判定上中破、あるいは一発大破の危険性を孕んでいるのにも関わらず、ゲスト機は気にする事無く、ブルー・ティアーズに近づいていく。

 

「セシリア! 今助けに……!」

 

「チッ、ビットか……」

 

「まだミサイルが飛んでくるの!?」

 

「弾幕が……激しい……」

 

 セシリア・オルコットを助けようとする4機だが、ゲスト機のビットとミサイルの波状攻撃に阻まれる。

 そうして、4機が手を拱(こまね)いているうちにもゲスト機はどんどんとブルー・ティアーズに迫っていく。

 

「ににに、逃げないと……」

 

 そう呟いて、ゲスト機から距離を離す……が。

 

 ――ゲスト機に背を向けて逃げてはならなかった

 

 ゲスト機は大型アサルトライフルを左手に持ち直し、拡張領域(バススロット)から右手に淡々と複合式カービンライフルを取り出すと、エネルギーをフル充填させて片手で持ったまま引き金を引いて撃った。

 実弾・エネルギー混合の弾丸は綺麗な弾道を描いて、ゲスト機から逃げるブルー・ティアーズ――セシリア・オルコットの後頭部に命中。速やかに意識を刈り取り、撃墜した。

 

 ――1機、また1機と墜とされていく……

 

 ブルー・ティアーズが海面へと落ちていったのを確認すると引き続き複合式カービンライフルをビットの処理に手間取っている4機に向けて撃った。

 

「クソ! 何か打つ手は無いのか?」

 

そう毒づく織斑 一夏。紙一重で、ビットからの攻撃を避けて、瞬時加速(イグニッションブースト)。そのままビットに取り付いて、叩き落とした。

 

「拡張領域からまだビットが出てくる?!」

 

両手に装備された複合式カービンライフルや大型アサルトライフル、肩部の龍咆や脚部のミサイルポッドが途切れる事無く彼らを襲い。

やっとの事で墜とした射撃ビットも墜としたそばから腰部のスカートに補充され、発進する。

 

「くっ……こうなったら……」

 

篠ノ之 箒は苦虫を噛み潰したように、最後の手段を言った。

 

「こうなったら、どうするのさ?!」

 

「全員、近接武器を持って、ゲスト機に斬り込む」

 

「せめてもの……最後の抵抗……」

 

篠ノ之 箒の意図を察したのか、織斑 一夏の白式を守るように、紅椿・甲龍・打鉄弐式の3機が前に出る。

 

「箒、鈴、簪……!」

 

「一夏……私達が道を明ける、その隙に行くんだ!」

 

驚愕の表情を浮かべる織斑一夏に対して、篠ノ之箒はそう叫んだ。

 

「最後の最後で、ポカるんじゃないわよ!」

 

「一夏、貴方に……託す……」

 

そう言って3機はゲスト機に向かって突っ込んで行く。

ゲスト機はそれを許すはずも無く、手持ちのあらゆる武装で3機を迎撃する。

射撃ビットのレーザーが、大型アサルトライフルの弾丸が、ミサイルや龍咆の砲弾が装甲や盾、シールドエネルギーを削っていく。

 

「ぐあっ!」

 

 エネルギーが充分に溜まった複合式カービンライフルの弾丸が甲龍に直撃し、撃墜される。

 

「鈴!」

 

「構うな一夏! あいつの努力を無駄にしたいのか!」

 

 織斑 一夏は墜ちていく甲龍を見て、一瞬足を止めるものの、篠ノ之 箒は彼を叱咤する。

 

「でも!……クソ!」

 

「早く、行くべき……」

 

 織斑 一夏はそう毒づき、ゲスト機へと肉薄する。

 

「意外とうまくいったな!」

 

「っ! しまった! 誘われた!」

 

 織斑 一夏が呟いた時、篠ノ之 箒は何かに気が付いたのか叫んだ。

 ゲスト機は両肩の龍咆を炸裂させ、片方の砲弾は白式へ、もう片方には紅椿へと着弾させた。

 

「ぐわっ!」「うぐぅ!」

 

 二機は再び遠くに吹き飛ばされ、打鉄弐式だけがゲスト機に対して突出した形となった。

 

「まさか……コレが狙い……?!」

 

 ゲスト機は複合式カービンライフルを持ったまま右腕を打鉄弐式に向ける。打鉄弐式が回避行動を取るよりも早く、手の甲からワイヤーブレードが射出され、打鉄弐式の片脚に絡みついた。

 

「それは! シュバルツェア・レーゲンの……!」

 

 更識 簪がそう言うと同時にバチバチ、と音をたてて右腕のワイヤーが光り輝く。そう電気だ。

 恐怖に顔を引きつらせる彼女に対して、ゲスト機は容赦無く、『通常の』ISが耐え切れない程の高電圧・高電流の電撃をワイヤーに流し込む。

 

「――――っ!!」

 

 更識 簪は小さな身体を弓なりに逸らし、声にならない悲鳴を上げる。

 それを遠くで見ていた織斑 一夏と篠ノ之 箒は悲壮な声で更識簪の名を叫ぶ。

 

 彼女がぐったりとした後、右腕のワイヤーは巻き戻り、次第に打鉄弐式はゲスト機に引き寄せられていく。

 

「……うぅ……ぁぁ…………」

 

 更識 簪は僅かな意識を残していた。が、もはや戦闘可能な状態では無かった。

 やがて、複合式カービンライフルを拡張領域にしまいこむと、ワイヤーブレードを右腕に収納して、余った右手で彼女の頭を鷲掴みにする。

 

「どうするつもりだ?! 友兄!」

 

 完全に態勢を立て直した織斑 一夏が思わずゲスト機に問いかける。

 ゲスト機はその無機物なバイザーを織斑 一夏、篠ノ之 箒両人に向けた。そして、左腕に装着された大型シールドを更識 簪にあてがう。

 

「まさか?! 岡部さん! 駄目ぇ!」

 

 篠ノ之 箒の叫びも虚しく、30mmシールドリボルヴァーカノンが打鉄弐式を貫き、完全に無力化させた。

そして、そのまま右手を放すと、打鉄弐式は重力に引かれて落下、そのまま海面へと墜ちていった……

 

「友兄、なんて事を……っ!」

 

「そんな、岡部さん……酷い、酷すぎるよ……」

 

ゲスト機の諸行に織斑 一夏は怒りに震え、篠ノ之 箒は悲しみに暮れ、打ちひしがれる。

 

『悔しいか……?』

 

 そんな2人に対してゲスト機――岡部 友章は初めて声を発した。

 

『悔しいか? 誰一人助けられず、守れもしない事に……?』

 

『さっきのように、友が苦しみながら墜ちていくのをただ指を咥えて見てるしか自分に……』

 

 ゲスト機は攻撃する事無く、ただ2人に対して諭すように語りかける。

 しかし、二人はただただ無言を貫いていた……

 

『そうか、なら頭を冷やしてこい』

 

 そう言うと、両手に複合式カービンライフルを拡張領域から取り出し、エネルギーを充填して、躊躇なく撃った。

 

 白式も紅椿もその間、何も抵抗することはなく、そのまま弾丸が直撃した。

 

 同時に海面へと墜落する二機をゲスト機はただ見つめていた。

 

『やはり、お前が勝ったか……』『うーん、流石にそう簡単にはいかないか~』

 

 ゲスト機のバイザーに織斑 千冬と篠ノ之 束の姿が映し出される。

 

『今回は、流石のお前の勘も外れたな』『流石にいっくん達の勝率6%に賭けるのは無理があるね』

 

 ゲスト機はただ沈黙を続けている。二人はそれを肯定とみなし、話を続けた。

 

『それで、そろそろ回収に向かわせたいのだが……いいか? 見ていて心配になってくる』

 

『いっくん達の状態をモニタリングしてたけど、みんな何処かしろのパーツは大破状態でシールドエネルギーもほとんど無いんだよ? 大してアッキーと私のゲストちゃんは増加装甲や予備装甲はあまり多くないけど、シールドエネルギーは7割方、各武装やミサイル、弾薬、ビットはまだまだあるんだよ?』

 

 しかし、ゲスト機は未だに沈黙を続けたまま、洋上に佇んでいる。まるで、何かを待っているかのように……

 その様子に織斑 千冬と篠ノ之 束は二人して苦笑し、暫く待つことに決めた。

 

 ――そして、数分が経過した……

 

『岡部、いい加減にしろ。もう回収するぞ』

 

『あれからモニタリングしたけど、みんな意識が無かったり、シールドエネルギーの残量が危険領域に入って身動きが取れないのばっかりだよ?』

 

 しびれを切らした二人が再び、ゲスト機に通信をとったその時……

 

『…………いいや、彼らはまだ終わってなどいない』

 

 ゲスト機の操縦者――岡部 友章はそう強く断言した。

 

『岡部、何を根拠に言ってるんd』『いっくん達のISに強いエネルギー反応!!』

 

 岡部 友章の言葉に懐疑的だった織斑 千冬が異議を申し立てようとしたその時、篠ノ之 束が織斑 一夏達のISに異常が起こったことを知らせた。

 

『何!? 束、状況は?!』

 

『これは……凄い! 凄いよアッキー!! 束さん、君に頼んで大正解だったんだよ! よ!』

 

『いいから早く言え! 束!』

 

 ゲスト機のバイザー越しに状況を飲み込めない織斑 千冬に対して、ディスプレイに映ったデータ量を見て歓喜にうち震える篠ノ之 束の姿がいた。

 

『織斑さん篠ノ之さんはそっとしといてあげてやって下さい。彼らを見ればわかる。よく見ておくんだ』

 

 岡部 友章がそう言うと、海面から水柱が複数出現した。

 

『警告! IS 白式、紅椿が第二形態移行(セカンドシフト)完了を確認。同時に同二機とブルー・ティアーズ、甲龍、打鉄弐式、ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡ、シュバルツェア・レーゲンがシールドエネルギーを全て回復、再起動しました』

 

 水柱から姿を表したのは紛れもなく撃墜したはずの1年の専用機持ち達の面々である。

 各パーツや一部武装が破損して使えなくなっているものの、シールドエネルギーを回復させてボロボロながらも堂々とゲスト機と対峙していた。

 

『第二形態移行だと?! 岡部! 説明はしてくれるだろうな!』

 

『ええ、勿論……といってもシンプルな理由ですよ? 篠ノ之ちゃんの紅椿受領のついでに彼女と織斑君を次のレベルへとステップアップさせるように篠ノ之さんから頼まれていたんです』

 

『いやー、正直束さんもできたらいいな~って具合でアッキーに頼んでたんだけど……ホント、流石! 束の期待をいつも裏切らないでいてくれるよ。君は』

 

「ごめん友兄! 遅くなった!」「遅れてすみません! 岡部さん!」

 

 岡部 友章は、織斑 千冬に事の本当の理由を説明し、篠ノ之 束が岡部 友章に称賛の言葉を送っていると、第二形態へと無事、移行が完了した。織斑 一夏と篠ノ之 箒が声をかけてきた。

 

『それが君達の答えだな』

 

「ああ!」「はい!」

 

 二人は一切の戸惑いもなくそう答えた。

 

『他のみんなは済まないね……もう少しだけ、付き合ってくれないか?』

 

 そうゲスト機が言うと、他の専用機持ち達はただただ無言で首を縦に振った。

 

『ありがとう…………なら、続きを始めよう』

 

 ゲスト機は再び、脚部のミサイル、腰部スカート部分から射撃ビットを肩部から龍咆をそしてその手には複合式カービンライフルを持って、全力で攻撃を開始した。

 

 先ほどのまでの織斑 一夏達は、この攻撃に恐怖を感じていたが、今度は違う。

 皆、ボロボロながらもスラスターを全開にして、全機一気にゲスト機目指して殺到した。

 射撃ビットのレーザーが、複合式カービンライフルの弾丸が、30mmシールドリボルヴァーカノンの砲弾が、ミサイルや龍咆が……装甲や盾、シールドエネルギーを削ろうと、彼らに襲いかかる。

 

『警告。各ISのシールドエネルギー、減少と同時に回復している為、効きません!』

 

 ゲスト機の持つありとあらゆる武装は、彼らのシールドエネルギーに傷をつけるものの、瞬く間に回復させてしまう。

 

『これは……すこし反則じゃないんですかね…………』

 

 岡部友章は思わずそうぼやくが、とうとうIS達に接近を許してしまう。

 

「全員、作戦開始!!」

 

 篠ノ之 箒のその一言で、白式を除くすべてのISが展開、ゲスト機を物理的に押さえ込む。

 

『おいおい、嘘だろ……』

 

 ゲスト機が呆れるのも無理は無い。何故なら……

 

 ――ゲスト機はIS6機がかりで抑えこまれていたからだ。

 

 両足をそれぞれラウラ・ボーデヴィッヒと凰 鈴音がしがみ付き、次に腰部を更識 簪ががっちりと固定していた。

 次に両手はそれぞれ、セシリア・オルコットとシャルロット・デュノアがきっちりと抱きついてホールドし、最後に篠ノ之 箒が後ろから両脇に腕を通して強力にホールドしていた。

 

「一夏ぁ!! やれぇえええ!!」

 

『アーマーパージをしてもシュヴァルツェア・レーゲンのAICで無力化される可能性が大。

 攻撃してもシールドエネルギーが減らない以上、効果薄…………

 対策パターンを検索中…………該当無し、該当無し、該当無し……』

 

 ゲスト機のISコアが必死になっているも答えが得られないようで、終始アラートを鳴らしている。

 そして、ゲスト機を羽交い締めにしている篠ノ之 箒が吼える。目の前には織斑 一夏の駆る白式の姿があった。

 

「友兄。これが……」

 

 白式は雪片弐型 (ゆきひらにのかた)を構え、セカンドシフトによって新たに加えられた4機のウィングスラスターを利用して瞬時加速をした。

 

『これは……瞬時加速を2回行なっているのか……』

 

『白式……二段階瞬時加速 (ダブル・イグニッション)、完全習得……ありえない……ありえるはずが無い』

 

 驚愕に染まる、岡部 友章とゲスト機のISコア。

 そのまま、白式――織斑 一夏はゲスト機の胸に雪片弐型を突き立てる。

 

「これが俺達の全身全霊の力だ!!」

 

 そう言って、織斑 一夏は雪片弐型をゲスト機に突き刺した。

 

   ■   ■   ■

 

 ゲスト機のISコアは停止させていた機能を再起動させていた。

 その間、岡部 友章はゲスト機を身にまとったまま、海中に沈んでいた。増加装甲は外されており、ゲスト機の素の胸部装甲には一筋の切創が生まれていた。

 織斑 一夏達が胸に雪片弐型を突き刺すと、零落白夜によって全てのシールドエネルギーが食い尽くされ、撃墜判定となった。

 そして、その撃墜判定の演出の為にゲスト機を一旦、機能停止させ海へと落ちていったのだ。

 

「……悔しいなぁ」

 

 彼は暗い群青色の海の中、そうポツリと言った。ゲスト機は分析する。

 本来ならばこの間は自身の戦闘行動や判断の優劣と言った事をディスカッションするのだが、岡部から発せられる聞きなれないネガティブな言葉にゲスト機のISコアは何かただ事ではないと感じたのか、沈黙を貫き、静観する。

 

「悔しいなぁ……みんな、みんなが……成長しているのに……」

 

 先ほどの特別模擬戦の様子を思い浮かべながらだろうか、岡部はそう呟く。

 この海の中では岡部以外誰もいない、完全な一人の空間。だから、彼は呟くのだ。

 

「みんな、成長している……織斑千冬も……篠ノ之束でさえ…………」

 

 ゲスト機は岡部と彼らの成績を解析に入る。

 確かに、織斑一夏始め、IS学園に属しているIS操縦者は何かしろの技術の上達・習得の傾向があった。篠ノ之束の事はよくわからないものの、そこからのデータでは岡部の言った通り、織斑千冬でさえも何らかの能力・技術の上達があったことが確認される。

 

 反面、岡部友章は白騎士事件で乗った際のデータと、今現在のデータを見比べて見ると、そのほとんど……いや、全ての能力・技術は横ばい状態へとなっている。

 

 ――まるで、最初から完成されていたように

 

「なのに……っ! 自分はっ! っ……!」

 

 そこまで言うと、わざわざ口にだすのがバカらしくなってきたのか呟くのをやめていた。

 ゲスト機のISコアはそんな岡部の姿を見て悔やんだ。白式や紅椿、暮桜などは操縦者を成長させる手助けができたというのに、自分にはそれはできなかった。

 あの珍しく絶体絶命のピンチというに相応しい、特別模擬戦のラストでさえ、どうにも出来なかった。対照的に彼らがピンチからの成長を遂げたという事実が岡部を苦しめ、ゲスト機の思考を混乱させる。

 もっとも、あの戦いでは性能・数共に圧倒的不利にも関わらず、岡部はとても善戦できたと分析する。彼らはフルスペックのISが7機に対して、こちらは性能を制限した。いつもの仕様なのだ。

 

 だが、善戦しただけでは意味は成さない。後一歩、というところまで追い詰めてようが、あっさり墜ちていようが、結果は変わらない。岡部友章――ゲスト機の敗北だという事実は覆らない……

 

 そして、これにはゲスト機も責任の一端があると判断している。出す機会が無かったとは言え、マルチロックオンシステムも第三世代型装備もすべてシミュレーション、つまりは仮想空間でのエミュレートでのみ試験し、その結果に固執しすぎてしまった結果である。

 シミュレーションと実戦の違いと言えばそれまでだが、拡張領域にそれらが入れられた際、試験運用の提案を岡部に進言して。ゲスト機のISコアのAIと、操縦者である岡部友章との連携を密に出来ればよかったのかもしれない。

 

 本来、いかなる状況であっても、操縦者である岡部友章に勝利をもたらすのが、ゲスト機のISコアのAIの本懐。そして、白式・紅椿が第二形態移行(セカンドシフト)したあの時こそ、岡部友章に勝利を捧げる時であった。

 白式はこれまでの経験から多機能武装腕 雪羅 (せつら)を構築させた。スペック等としては、状況に応じて荷電粒子砲、エネルギー刃のクロー、零落白夜のシールドへ切り替え、4機のウィングスラスターと形態を変化させるのが特徴。しかし、これははっきり言って自身への脅威には足り得ない……とゲスト機は分析する。

 問題は紅椿の方だ。セカンドシフト時に習得したワンオフ・アビリティー 絢爛舞踏 (けんらんぶとう)は最小のエネルギーをほぼ無制限に増大させるという性質を持つ。本来は接触しただけで対象のシールドエネルギーを回復させる。

 が、篠ノ之箒はこれまでの経験から、出力可変型ブラスター・ライフル 穿千 (うがち)の出力可変機能の応用で、接触だけでなく、遠距離から味方を撃ってシールドエネルギー回復させてしまうというとんでもないシロモノになっていた。

 これらのことから、ゲスト機は岡部に勝利を捧げることが出来なかった。

 

 彼らに負けた……これが、きっかけ、トリガーになったのだろう。岡部友章は事実に打ちひしがれ、憔悴していた。

 

 ――そんな姿を見て、ゲスト機はある決意した。

 

 自身のストレージデータを検索し、何重にもかけられたプロテクトやセキュリティシステムを解除し、取り出したのは……

 

 ――ヴァルキリー・トレース・システム

 

 ドイツでの報復の際に回収したデータの中から『偶然』にもサルベージ出来たものであった。

 だが、これ単体ではラウラ・ボーデヴィッヒのシュヴァルツェア・レーゲンの時のような醜悪なものにしかならない。恐らく、これを創った人間は相当捻くれた人間であろうと、ゲスト機は推察する。

 

 ――これをゲスト機は再設計(リファイン)するのだ。

 

 本来はアラスカ条約で禁止されている物だが、生憎と岡部友章とIS ゲスト機は現在、どこの国にも属しておらず、なんの権限もない代わりに制約もない。

 何故、それを使うに至るかまでは時間を少し巻き戻さなければならない。

 岡部友章の呟いている途中、ゲスト機は岡部と織斑達との能力の比較・解析を行っている傍ら、バックグラウンドではゲスト機はある議題に対しロジックツリーを展開していた。

 議題は、自身の戦力の向上を図るにはどうすればいいのか。そして、今後大きく成長するであろう専用機持ちや織斑千冬に対してどのように対抗すべきか……だ。

 

 そして、展開されたロジックツリーは一つの結論にたどり着いた。

 

 それは、経験不足。

 

 岡部友章は確かに、ずば抜けて優秀な射撃能力、状況判断力、反応性を備えている。

 しかし、それだけで彼らと渡り合うことは不可能なのだ。

 岡部友章には経験が足りない。そう、ありとあらゆる『射撃』以外の経験が……

 そして、経験を得るためにはそれなりの素質も必要だが、残念ながら彼には無かった。

 本来はIS適正も無ければ、BT適性も無い。ただの一兵士に過ぎないのだから……

 

 だから、ゲスト機のISコアはAIらしくシステム的に思考し、答えを導き出した。

 

 ――ないのであれば、他所から取って来る他に方法は無い

 

 経験は言わば『ノウハウ』であり『記憶』だ。マニュアルを読んだり、当人を呼び出して勉強……という訳にもいかない。それに持ってくるにしても、それなりに習熟した人間でないと意味を成さない。

 

 ――しかし、幸か不幸か、人材に関してはそれほど問題でもなかった。

 

 ゲスト機は専用機持ち達の能力を見る。ここまでレパートリーに富んだ、成長性・将来性のある操縦者達はIS学園以外にはいないだろう。

 

 ――そして、方法に関してもさほど大きな障害にはなりえなかった

 

 そう、ここで例の悪魔のシステム。ヴァルキリー・トレース・システムが必要になってくる。

 

 ――すべては……主(岡部友章)に捧げる勝利の為に……

 

 その一心で、ゲスト機はVTシステムの再設計にとりかかった……

 




後編に続く……
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