墜ちていくゲスト機をモニター越しに見つめる織斑千冬の心境は、複雑であった。
彼女は織斑一夏の雪片弐型 (ゆきひらにのかた)がゲスト機の増加装甲を貫き、本体の全身装甲を傷付けた時、自身の弟が実際に目の前で成長したのを喜ぶ反面、自身の獲物を取られた事による悔しさも湧いていたのだ。
だが織斑千冬本人にはこれは悔しさだとはわかっておらず、ただ自分の胸の内にモヤモヤと嫌な感じがこびり付いている、ということしかわからない。
「あーあ、いくらアッキーでもこれはダメかー」
「ああ、そうだな……」
篠ノ之束の言葉に生返事で返しつつ、千冬はこの胸のモヤモヤとしたものが何なのか思案する。
しかし、結論が出る前に突然、山田先生が焦った表情でこちらに話かけてきたことで結論が有耶無耶になってしまった。
「お、織斑先生! IS学園から連絡が! ハワイ沖で……」
「プライベート・チャネル(個人間秘匿通信)を。山田先生」
そう言うと山田先生は慌てて、プライベート・チャネルを開く。
『全く……いくらここが密室に近いからと言ってもだな……周りに漏らしたくない情報はこうするんだ』
『す、すみませんでした。』
そうやり取りした二人の間にクラリッサ・ハルフォーフが割り込んでくる。
『織斑先生(ブリュンヒルデ)、ドイツ本国から連絡が。ハワイ沖でアメリカ軍所属の運用試験中のISが暴走事故を起こし、現在西に向かっているとのことです』
『なんだと!? 山田先生が言いかけたIS学園連絡はこのことか?』
『はい。そうです!』
『ハルフォーフ先生。 ISの詳細な情報は?』
『アメリカ・イスラエル共同開発の第三世代型軍用IS 名前が銀の福音(シルバリオ・ゴスペル) それぐらいしか……』
『わかった。それで福音の現在位置、あるいは移動先の割り出しはどうなっている?』
織斑千冬はそう問いかけるものの、ハルフォーフ先生と山田先生の表情は優れない。
『どうした? 早く言え』
『そ、それがですね……先輩……』
たじろぐ山田先生の変わりにハルフォーフ先生が答えた。
『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の到着予想ポイントは……ここだ』
織斑千冬は心の中で舌打ちした。
『……くそ! 1年生を退避させろ。一刻も早くだ。福音への対応はわたしg』
「目標(シルバリオ・ゴスペル)には自分が向かう」
これまで、海中で沈黙を貫いていた、岡部友章がここで反応を示した。
モニターからの反応に織斑千冬は声をかける。
「……大丈夫なのか?」
「リミッターを外せば、恐らくは」
織斑千冬の問いに対して、戸惑いなく即座に答える。
「相手は正真正銘の軍用機だ。万が一警告に応えなかったら……『自分』の出番だ」
「……わかった。帰還中の一夏達とここの奴らは私や他の操縦者に任せておいてくれ」
これまでになく、そう強く主張する岡部に対して、織斑千冬は強く反対する事は出来なかった。
岡部友章にそう言うと、織斑千冬はISを身に纏い、同僚のクラリッサ・ハルフォーフや山田麻耶、上級生の代表候補生達に指示を飛ばしたり、他の一般学生を誘導する為に天幕から出て行った。
天幕にいるのは篠ノ之束と未だに海中にいるのか、ディスプレイが真っ黒で映し出されている岡部友章のみである。
「ふう。ここまで空気を読んでだんまりしていた束さんですよー……っと、アッキー! リミッターの第一段階解除完了したよ!」
「ありがとう、篠ノ之さん。
さっそくだけど、さっき整備して貰った時に、こいつに新しく搭載された新機能、ミッションパックシステム。早速使わせて貰うよ」
岡部はそう言うと、ミッションパックを換装して海面から飛び立つ。
海面から上がってきたゲスト機が姿を表す。
ゲスト機の背部バックパックに両肩部が埋まる程の大型の機動ユニットが備え付けられ、左右両方の腕部と脚部には増加装甲らしき物が装着されている。
「アッキー、わかってはいると思うけど説明するね。このミッションパックはAタイプ。アッキーとゲストちゃんの要望に応えて、多少の戦闘能力と汎用性を引き換えに、機動力を大幅に上げたよ!
具体的には、両脚と両腕に増加装甲を兼ねたエネルギーパック、つまりは増槽を追加して、背部に大型の機動ユニットを追加したんだよ!
機動ユニットと肩部は機動能力確保の為に、固定されているから、戦闘に入ったら外してね!」
一息に一気に捲し立てる篠ノ之さん。よく息が持つな……
「武装は?」
「一応両手はどれでも持てるよ! 腰部後部に予備の武器を付ける為のハードポイントがあるから自由に活用してね!」
「了解した。それにしてもミッションパックとやら……数が多くないか? 今見ただけでも10種類はある」
岡部が半ば呆れたように言うと、篠ノ之束はその反応を待っていたのかニヤニヤと笑みを浮かべる。
「本来、アッキーのゲストちゃんは宇宙進出用とこれからのISがどのように進化していくかを見極める為の拡張領域(バススロット)と耐久性特化だよ?」
篠ノ之束は饒舌に岡部友章に語り続ける。
「いわば、性能検証用のワンメークモデルIS、実験機ISなんだよ! だよ!
豊富な装備をわざわざ一つ一つ選んで取るよりも、あるコンセプトに基づいた装備一式の方が研究がはかどるでしょ?」
「……ちなみに、全部でいくつの予定?」
「27種類!」
岡部友章はただ、呆れる他無かった。
■ ■ ■
Aタイプ装備で、銀の福音の到着予想ポイントへと移動していた。
ミッションパックについては、ひと通り篠ノ之さんやゲスト機のAIからある程度は把握済みである。
『アッキー? 福音ちゃんは視認できる?』
「こちらシエラ。今は作戦中だ、コードで読んでくれないか? 今はまだ視界に捉えていない……それにしても、あっという間に移動できるな……」
『はーい』
バイザーの端っこに描かれているマップを見ながらしみじみと呟く。
その直後、ハイパーセンサーの視覚情報が目標を捉える。
「あれが銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)か……」
見た目はまさにまんま銀色のISである銀の福音。全身装甲もこいつの特徴的であるが、真っ先に目に入るのは一対の巨大な銀色の翼だろう。
となると……こいつ(銀色の翼)が何らかの武装、あるいはシステムの一種だろう。
そう分析しながら、機動ユニットに固定されていた肩部を開放、武器の類も一時的に拡張領域の中に入れておく。
「こちらシエラ。目標(オブジェクト)を見つけた、これより接触を試みる。ゲスト、やれ」
向こうにそう報告すると、ゲスト機のAIにISコアネットワーク上からの接触を命じる。
『こちらゲスト、シルバリオ・ゴスペル。これ以上の暴走はやめなさい。このまま前進すれば、直に日本の領海に侵入してしまいます』
ゲスト機の呼びかけに、銀の福音は応えたのか、自分の前方で静止した。
「やったか……?」
暫くの間、両者に沈黙が訪れる
『アッキー! 危ない!』
『敵機確認、迎撃に移行、銀の鐘(シルバー・ベル)、起動』
オープン・チャネル上から銀の福音のAI音声が聞こえ、銀色の翼をはためかせて福音は一旦後退した。
「速い! あれは大型スラスターの一種……? いや、違う!」
そして銀色の翼の一部の装甲が開け、砲口が見えた!
咄嗟に自分は拡張領域から大型の実体シールドを左手で構え、Aタイプの加速力を駆使して銀の福音に突っ込む。
直後、銀の福音から放たれた光弾がシールドに命中。羽のような光弾は幾つかシールドに突き刺さった。
自分の勘が叫ぶ、『これだけではない』と……
そして、銀の福音が見せた加速性能から『悠長に遠くから撃ち合うべきではない』と判断した。
「シールドには、こういう使い方もある!」
ならば、やるべき事は決まっている。
そう言うと上半身を捻り、渾身の力を込めて……
――福音に向かってシールドをぶん投げた。
ぶん投げられたシールドば福音に向かって行き、爆ぜた。羽状の光弾が爆発したのだ。
爆炎が銀の福音の視界を塞ぐ。自分はその隙を逃さず、瞬時加速(イグニッションブースト)で一気に距離を詰める。
Aタイプの機動ユニットを装着した上での瞬時加速はいつものそれよりも速く、強いGが発生した。
慣れない加速に意識を繋ぎ止めながらも、自分は腰部後部にマウントした大型の携行型レールカノンを構え、銀の福音に肉薄する。
「機動性には自信がありそうだが……こいつは避けられんだろ!」
自分が銀の福音に対して取った行動は『至近距離からの銃口の押し付けあい』である。
大型の携行レールカノンが火を吹き、弾頭が銀の福音のシールドエネルギーを食らわんとする。
だが、銀の福音はとっさに銀色の翼で自身を包み込むように折りたたみ、レールカノンを防御する。
「そんな事だと思ったよ! くそったれめ!」
次弾装填に時間のかかる携行レールカノンは拡張領域にしまい、IS用のオートショットガンで強引に攻撃する。
福音は翼状の高出力多方向推進装置(マルチスラスター)で自分との距離を離そうとする。通常時だとゲスト機は銀の福音には追いつくことは不可能。
だが、今回は違う。純粋な機動性を向上させたAタイプはぴたりと福音に張り付きながら執拗にショットガンの散弾を浴びせる。
「そのバカでかい翼が仇になったな!」
銀の福音の翼から繰り出されるなぎ払いをAタイプの機動性にものを言わせて紙一重で躱しつつ、散弾を浴びせる。Aタイプの急激な視点移動であっても、調子が良いのか自身のオートショットガンの狙いは寸分狂わずに銀の福音に張り付いたままだ。
『モーショントラッカーに反応。小型艦艇1』
銀の福音を追い詰めていくに連れ、それに比例するかのように徐々に織斑君と篠ノ之ちゃん達に傷つけられた自尊心が癒えていく中、ゲスト機はそうアナウンスした。
――そうそう物事はうまく運ばないようだ。
ハイパーセンサー越しに、密漁船らしき漁船が迂闊にもこの付近に接近していたのだ。
「……って、んな訳あるか! ゲスト、あれをスキャンしろ!」
『どこまでスキャンしますか?』
「すべてだ!」
そう言って、苛立ちを隠しきれずにゲスト機に命じた。
どうせ、左脇腹が膨らんでいる連中だろう。
なんたって、近距離でしか反応できないモーショントラッカーでやっとこさ初めて捉えたのだ。おかしな話すぎる。
ここは広大な洋上。そして、上空にISが闊歩している。戦闘時に見落としたのは痛いところであるが、普通はハイパーセンサー越しに視認は容易だ。
『解析中……魚群探知機のレーダーの波長、性能が米軍の物と一致。その他積載機器から、漁獲能力を持った小型工作艦艇と推定されます』
「……! チッ! クソが!」
思わず舌打ちをする。
さて、これは面倒なことになった。現状、銀の福音相手に特攻インファイト地味た戦闘で優位に立っているが、米軍の小型工作艦艇の登場で銀の福音に何らかの変化が現れる。必ずだ。
散弾に晒される銀の福音は自分に遅れて小型工作艦艇を確認した。その証拠に小型工作艦艇にむけて、銀の鐘(シルバーベル)の砲口を向けたからだ。
――助ける!? 助けない?!
「ああ! クソが!」
歯ぎしりして自分は、Aタイプの機動性を活かして、銀の福音と小型工作艦艇との間に滑りこませ、福音の羽状の光弾を腕部で受け止める。
『被弾、左腕部エネルギーパック損傷、廃棄します』
腕部のエネルギーパック部分に刺さった羽は爆発し、パーツとシールドエネルギーを削る。その間にも銀の福音は砲口を小型工作艦艇向けて、次弾を放とうとしている。
「痛ぇ……ゲスト機、いつもの増加装甲の仕様に」
『了解、J(ジャケット)タイプ。換装します』
ゲスト機のアナウンスと共に即座に、機動ユニットや各パーツ、武装が拡張領域の中に格納され、いつもの増加装甲を身に纏った姿になる。ココらへんは流石、紅椿の展開装甲の試験モデルなだけあってスマートに換装した。
『装備は?』
「いつものだ」
銀の福音からの光弾を腕部に装着された大型の実体シールドで受け止め、複合式カービンライフルで迎撃する。威力は低いが、無視はできないはずだ。
「エネルギーは溜まって無い、実弾で普通に撃ちぬく」
そう言って反撃するものの、あまり効いてはいないようで銀の福音は怯むことなく銀の鐘(シルバーベル)で一方的に弾幕を形成する。
『解析中……銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)装甲材には非ニュートン流体系の特殊な物質を確認。データ照合中……反衝撃性硬化装甲と推定されます。実弾による攻撃は効果が薄い模様』
あまりいい状況とは言えそうにないが現状を確認しよう。
「船はどうなった?」
『銀の福音の初弾の後、この付近を退避しています。しかし、銀の福音は未だにあの船を狙っています』
引きつけないと、無理か……
実弾・エネルギー混合の複合式カービンライフルの威力は銀の福音を引き付けるには最適だが、いかんせんエネルギーチャージとして若干のラグがあるのが痛い。エネルギーチャージにうかうかしてると、銀の福音がそっぽ向いて小型工作艦艇にまっしぐらに向かうだろう。
『複合式カービンライフルに新機能がついています。試してみますか?』
「新機能? 手短に頼む」
『了解しました。プラグキャップ、オープン』
腰部から蓋らしきものが外されてプラグが剥き出しになる。
『そこのプラグにカービンライフルに備え付けられたケーブルを挿してください』
銀の鐘放たれる光弾に実体シールドと増加装甲をガリガリと削られながらも、左手で複合式カービンライフルのピストルグリップ底部からケーブルを引っ張り出すと、腰部のプラグに接続する。
『接続確認。シールドエネルギーを消費して、カービンライフルのチャージショットの発射ラグを無くしました』
試しに銀の福音にカービンライフルを向けて撃ってみる。
バシュ! と、力強い音をたてて、弾丸は銀の福音に命中し、福音を大きくよろめかせた。
その威力は間違い無く、実弾・エネルギー混合の複合式ISカービンライフルのチャージショットそのものだ。
しかし、同時に自機のシールドエネルギーが僅かながらに減った。
「なるほど、そういう事か。零落白夜がつくづく羨ましいね」
良い一撃を貰ったのが流石に効いたのか、銀の福音は翼を大きく広げ、羽を逆立てている。まるで鳥の威嚇みたいだ。
そして、すべての銀の鐘の砲口をこちらに向ける。
「オーケイ。第二ラウンドと洒落込もうじゃないか」
犬歯を剥き出しにして、ニヤリと笑う。
アクシデントはあったものの、ここまで粘るのは織斑さん以来じゃないかな。中々、楽しくなってきた。
■ ■ ■
織斑一夏達専用機持ちや一般学生を無事に無事に退避させ、織斑千冬は再び天幕に戻ってきた。
その時、彼女の目に映ったのは……
――コンソールを必死になって叩く篠ノ之束の姿と……
――モニターに映し出されたエネルギーの翼をひらめかせた銀の福音がいた
『クソが! どいつもこいつもアニメマンガみたいなパワーアップしやがって!』
「おい! 束! いったいどうなってるんだ!?」
『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル) 第二形態移行(セカンド・シフト)敵機接近』
「ゲストちゃんの言った通りだよ!」
珍しく焦燥に駆られた表情でコンソールを必死になって打ち込むながら応える篠ノ之束。
織斑千冬は何か異常事態がおこったことだけは即座に把握したものの、現時点ではどうすることもできないことに少し歯痒さを感じていた。
そして、機械的な翼から、エネルギーによって滑らかな流線形を描く翼へと変化した銀の福音は獣のような咆哮を上げて、ゲスト機へと吶喊する。
『くぅ……! 近づかれるのはマズイ! Aタイプ換装!』
『A(アサルト)タイプ換装』
対するゲスト機は展開装甲による換装で、機動力を増加させて離をとる。
――ドンッ
爆音が天幕に響き渡る。
異変はしっかりとゲスト機のバイザーと同期しているモニターに映しだされていた。
メインのエネルギー翼に加え、両手両足の四ヶ所推進翼による瞬時加速(イグニッション・ブースト)によるものであった。
爆発的な加速力で迫り来る銀の福音。
ただモニター越しに見ていただけの織斑千冬が思わず咄嗟に身構える程であると言えば、その加速力はどれだけ驚異的な数値であるということがわかるだろう。
『――ッ!』
迫り来る福音に対し、唸り声をあげて複合式カービンライフルを銀の福音に向けるゲスト機。
バシュ! と音を立てて、シールドエネルギー直結のチャージショットを放った。
…………しかし、弾丸は空を斬るに至るだけであった。
「束! どうにかできないのか!?」
織斑千冬がそう叫ぶ中、銀の福音の胸部、腹部の装甲が卵の殻のようにひび割れ、小さなエネルギー翼が姿を現す。そして、チャージショット寸前の複合式カービンライフルを持つ右腕にエネルギー弾を放った。
ゲスト機は複合式カービンライフルは破壊され、右腕のエネルギーパックも損傷、即座に切り離された。
「コア・ネットワークからなんとか干渉を試みているけど、全く受け付けない!」
「クソッ!」
篠ノ之束の答えに苛立ちを隠せず、織斑千冬は思わず悪態をつく。そして一瞬、脳裏にある考えがちらついた。
(私が、暮桜であそこに行けば…………)
『右足の増槽を暴走させ射出しろ!』
岡部友章はゲスト機の了承を待たずに、右足を勢い良く蹴りだす。
本来の呼び名であるエネルギーパックの名前すら呼ばずに手短に増槽と言うあたり、相当に焦りの色が出てきている。
(駄目だ! 今この状況、何が起こるかわからない! そんな中、この中で一番の戦力である私が出るわけには……ッ!?)
一人、胸中で苦悩する織斑千冬をよそに、時間は過ぎて行く……
ゲスト機は右足を蹴ってちょうど足が振り切った位置に来る時にちょうど、エネルギーを暴走させ、一種の爆弾と化したエネルギーパックが射出される。それは慣性でうまいこと銀の福音めがけて飛んでいく。
(どうすればいい?! 私は……どうすれば……ッ!)
篠ノ之束はコンソールを叩き、織斑千冬は無言で食い入るようにモニターを注視する。
『Jタイプ! 衝撃備え!』
再び、銀の福音は小型エネルギー翼を用いて、エネルギーパックを迎撃する。その間に、ゲスト機は全身を装甲で固め、他は何も持たない無手の状態で銀の福音に突っ込む。
(岡部……何をするつもりだ……?)
銀の福音は頭部の大きなエネルギー翼で抱擁するかのように、ゲスト機を包み込んだ。
モニター越しには、銀の福音の顔面と大量の小型エネルギー翼の砲口が映り込んだ。
「ゲスト機、銀の福音との接触を確認! 接触回線(クローズド・チャネル)なら!」
その瞬間、織斑千冬は気づいてしまった。
織斑千冬が天幕から飛び出すのと同時に、爆音が天幕に響き渡った。
「なんで!? なんであいつは……!」
半ば怒りに任せて悪態をつきながら、IS暮桜を展開させ、今まさに翔びたとうとしたその時であった。
「ブリュンヒルデ」
「……ハルフォーフ先生」
そこには、自身のIS シュバルツェア・ツヴァイクを纏ったクラリッサ・ハルフォーフがそこに居た。
彼女はまるで織斑千冬を咎めるように険しい剣幕で見つめる。
「済まんが……予定変更だ。ゲスト機の救援に向かう。邪魔をするな」
「私はそんな理由で貴女を咎めてはいない。ただ、これだけは言っておきたい。『自惚れるな』」
予想外の一言に織斑千冬は面食らう。
さらに、クラリッサは続ける。
「なんだと?」
「自惚れるな……と、言ったのです。ブリュンヒルデ。
貴女一人居なくとも、我々だけでここの維持や自衛位は出来ます。その為の教師陣です。その為の『専用機持ち』です」
淡々と告げるクラリッサ・ハルフォーフ。
「しかし! あいつらは!」
「岡部先生のゲスト機との模擬戦のヤリ過ぎで強さの基準がズレていなくて? ブリュンヒルデ」
反論しようとする織斑千冬に対し、クラリッサ・ハルフォーフは呆れたように肩を竦める。
「ぐ……言われてみれば確かに」
クラリッサ・ハルフォーフは、立体投影型ディスプレイを展開させる。
そこには、未だに第二形態の銀の福音と激闘を繰り広げるゲスト機の姿があった。
織斑千冬はゲスト機の無事な姿にホッと安堵する。
「衛星映像で見ていたからそこまで落ち着いていたのか……」
「これで落ち着きましたか? ブリュンヒルデ?
ええ、そうです。ドイツ軍の軍事衛星が『偶然』にも捉えることができたので見ていました。
ゲスト機が増加装甲を纏って銀の福音に突撃し、福音はこれをエネルギーのような翼で抱擁した時、爆発反応装甲と電磁装甲の両方を開放したのでしょう。
この後、手傷を負わされたのか、銀の福音はゲスト機に接近することは無く、ゲスト機は戦闘の主導権を握ることに成功したようです。」
一息に一気に説明するクラリッサ・ハルフォーフ。しかし、まだ会話は続く。
「今回は大目にお願いしますよ。
そもそも貴女(ブリュンヒルデ)や嫁(岡部)クラスの人間なんてそうそう見つからない。逆に言えば、そんな彼がそこそこに苦戦してるのです。ブリュンヒルデ、貴女は直ぐに救援に向かうべきだ」
「……恩に着る」
織斑千冬は素直にクラリッサ・ハルフォーフに頭を下げた。
「恩を感じる必要はない。これは私からのお詫びだ」
「? 何だと?」
よく分からないといった表情を浮かべる織斑千冬に対してクラリッサ・ハルフォーフは爆弾を投下した。
「ヴァルキリー……いえ、織斑千冬。先日、職員室でも言ったように。私は、『
「なっ……!?」
つい先日にも聞いたばかりなのに、再び絶句する織斑千冬。その様子を見ながら、優越感に浸っているのかクラリッサ・ハルフォーフは機嫌が良かった。
しかし、それもつかの間のことで、クラリッサ・ハルフォーフは少しだけ苦虫を噛み締めたような表情を浮かべた。
「まあ、ISに関しては悔しくも貴女と同等には行けないでしょうから、その時だけは彼の隣にいてもいいでしょう…………しかし、それだけです。妥協は決してしません」
きっぱりと言い放つクラリッサに珍しく織斑千冬はただただ圧倒されていた。
「ISでは織斑千冬、貴女に負けますが、この勝負なら……私にだって勝ち目はあります。
精々……身の振り方でも考えておきなさい」
言うだけ言ってから、クラリッサ・ハルフォーフは去って行く。
織斑千冬は無言でゲスト機に向かって飛び立った。
海面、海面……ひたすらオーシャンビューの続く中、全速力でゲスト機の救援に向かう中、織斑千冬は先程のクラリッサが言ったことを考えていた……
(岡部の隣を
まず、彼女が思い立った疑問がそこである。そして……
(そもそも、岡部とクラリッサ・ハルフォーフ……何時? 面識があったというのだ?)
普段における。岡部友章に対するクラリッサ・ハルフォーフの態度は初対面の人間に、それも異性に対してのものでは無かったと織斑千冬は感じた。
(しかし、岡部とクラリッサ……二人のあの態度はまず、普通では無い)
織斑千冬は自身の知らない岡部友章のあるもう一つの一面がある事を確信すると同時に、クラリッサ・ハルフォーフのあの絶対的優位に立っていることによるあの優越感に浸ったあの表情を思い出す。
――ちくりと、織斑千冬の胸が痛んだ気がした。
そしてふと、織斑千冬の記憶の底から普段、IS学園で笑顔で語らう岡部友章とクラリッサ・ハルフォーフの二人を思い出してしまった。
――ズキリと、織斑千冬の胸が更に痛んだ気がした。
さらに岡部友章とクラリッサ・ハルフォーフの二人が腕を組んで、自身から遠くへ離れていく様を想像してしまった……
――ぎりぎり……と胸が締め付けられた気がした。
(それは……それだけは……何か、嫌だ……)
織斑千冬は眉をひそめた。
(
織斑千冬は深く、深呼吸する……そして……
(岡部は私が見てきた同世代の男の中で一番良い奴だと確信する。
私や束のような奴に対しても、他と違ってちゃんと見てくれていたし、白騎士事件から今に至るまで、体を張ってまで色々と助けてくれたし気を使ってくれた……そんな奴を嫌になる理由は無い……)
暮桜は遥か遠く、ハイパーセンサー越しにゲスト機と銀の福音を確認した。
最後に見た全身を増加装甲で覆った姿と違い、両肩と両腕がミサイルやグレネード等で武装され、左腰には大きなガトリングガンが備え付けられていた。
(それに……あいつがいるから、私はここまで強くもなれたし、これからも強くなれる……そんな気がするんだ……)
暮桜は拡張領域から近接ブレード 雪片を取り出し、戦闘に備える。
「よし! D(デストロイ)タイプの火力で押し切ってやれ!」
ゲスト機は左腰側部のガトリングガンと両肩のグレネードラックを巧みに扱い、銀の福音との射撃戦を繰り広げている。
銀の福音はガトリングガンを避けつつも迫り来るグレネードを迎撃し、ゲスト機も同様にエネルギー弾を避けながら、避けられないエネルギー弾をガトリングガンで迎撃しつつ、グレネードで攻撃を加えている。
(だから……ハルフォーフに…………岡部は、取られたく……ないッ!)
「岡部! 大丈夫か!?」
「ッ? 織斑さん! 何でここに!?」
銀の福音から放たれた光弾を叩き落とし、ゲスト機を庇うように前にでる暮桜にゲスト機は驚きを隠せなかった。
「いいから話は後だ! 援護を!」
「ッ! ひとつ、貸しな! L(ロングレンジ)タイプ換装!」
織斑千冬の暮桜が福音に突撃を敢行する。
岡部友章のゲスト機はそれを援護する形でミッションパックを換装し多連装ロケットランチャーと複合式ペイロードライフルをぶちかます。
「もうひと暴れしてやるぜ!」
ランチャーからはロケット弾が、ペイロードライフルからは実弾・エネルギーの混合弾が一発残らず、銀の福音に多数命中。福音は大きくよろけた。
「逃がさん!」
(この感情が好意なのかどうか……私にはわからない……)
迫り来る暮桜に対して、よろけながらも福音は自動迎撃システムを起動させ、薙ぎ払うように翼を羽ばたかせた。
エネルギー弾が生成され、その様子は圧倒的物量、まさに壁や津波のような弾幕が織斑千冬の駆る暮桜を押し潰さんとする。
だが……織斑千冬には恐怖は無かった。むしろ、期待に胸を躍らせていた。
(しかし……わたしは……)
やがて、エネルギー弾の津波が暮桜を飲み込もうとしたその時、何かが津波を貫いた。
超高エネルギーの光の柱といっても良いくらいに太く、長いエネルギー砲弾が津波に大穴を空け、銀の福音の横を掠めた。
そして福音は、その津波の穴から見えてしまった。
期待から確信に変わり、笑みを浮かべる織斑千冬の姿とその後ろから左肩部に備え付けられていたハイパーセンサーを補う精密照準用複合センサーを用いて、複合式ペイロードライフルの銃口を向ける岡部友章の姿があった。
(あいつを手放したくは……ないッ!!)
――その後は一方的であった。
暮桜はゲスト機によってこじ開けられた弾幕の隙間から福音にむかって接近し、雪片で払い抜ける。
それだけでは無い。払い抜けた直後、暮桜は素早く特殊無反動旋回(アブソリュート・ターン)を行い、瞬時加速(イグニッション・ブースト)、再び福音を払い抜けた。これを延々と続けたのである。
ゲスト機視点で見れば、暮桜が銀の福音を縦横無尽に斬りつけているように見えるだろう。
「これで、最後ッ!」
暮桜は福音を全方位、縦横無尽に斬りつけて、最後に再び真正面から払い抜けた。
全身装甲の欠片が散り散りに舞う中、銀の福音は吹き飛び、大きく仰け反る銀の福音。
「最後は任せた! 岡部!」
織斑千冬がそう言うのと、ゲスト機のバイザーにロックオンマーカーがつくのは同じであった。
「了解」
『V‐system set up』
ゲスト機のアナウンスによって、機体の全身の表面にオーロラ色の膜が形成される。Vシステムが作動したのだ。
そして、Vシステムを作動させた後、複合式ペイロードライフルを『すぐに』撃った。
複合式カービンライフルと同様に腰部のソケットから直接、シールドエネルギーがケーブル伝いに伝達され、複合式ペイロードライフルのエネルギーチャージ分のラグを無くしたのだ。
「これでもくらいやがれ!」
Vシステムにより強化された複合式ペイロードライフルの弾丸は吸い込まれるように銀の福音の頭部に直撃、バイザーやヘルメット部を完全に破壊し、長い金髪が外気に晒し出され、そのまま海面へと墜ちていった。
――修羅……双連撃
ゲスト機は密かに暮桜と相談の結果、この連携をそう名付けた。
「目標、撃墜!」
岡部友章がそう言った時、ゲスト機のバイザーがピコン、と一回点滅したのであった……
■ ■ ■
ナターシャ・ファイルスが目覚めるとそこは、天井であった。彼女は戸惑いを覚えながらも、意識が無くなる前の出来事を思い出す。
彼女が最後に見た光景はハワイの米軍基地で制御不能に陥った愛機・銀の福音が次々と仲間の戦闘機や空母、ISを行動不能ないし墜として行く光景であった。
シーツを捲り上げ、自分の身体を確認する。何時もの米軍採用品のISスーツであった。
「目覚めはどうだ?」
不意に何者かから声をかけられ、咄嗟に自身の左脇を弄るも何もなかった。
声のした方には、彼女と同じ位の男性が一人……
「トモアキ・オカベ……!」
岡部友章がそこに居た。
「ここは日本だ。IS学園の生徒を連れて、臨海学校、つまりは課外授業で洋上に出た時に、暴走した銀の福音が『偶然』にもこちらに向かって来たので
保護させて貰った」
その言葉にナターシャはキッ、と岡部を睨みつける。
「そう怖い顔をするな。折角の美人が台無しだ。
保護……と言っても、米国と学園の話し合いが終わるまでは実質上ここに軟禁、というか拘束させて貰うがそう厳しくはしない。自分の名前に賭けて……だ」
「……わかった」
「協力、感謝する」
そう言うと突如、岡部の目の前にディスプレイが立ち上がる。彼女からでは、岡部が誰と話しているか分からない。
彼は「ああ。わかった。聞いてみよう。」と言った後、ディスプレイを閉じた。
「えーと……ナターシャ・ファイルス、でいいか?」
「ええ、合ってるわ」
「君のIS、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)……だっけか? あの子が暴走した理由について心当たりは?」
「いいえ、全然検討もつかないわ」
ナターシャがそう言うと、岡部は考え込む。
やがて、考えがまとまったのか、考え込むのをやめて、ナターシャと向き合った。
「なら、君にも聞く権利があるかもしれない」
「何を?」と、ナターシャが聞く前に岡部は爆弾を投下した。
「福音が暴走した理由についてだ」
ナターシャは驚きのあまりにベッドから立ち上がり、岡部に詰め寄ろうとする物の……
「あっ……」
ベッドから立ち上がる時点で足に力が入らず、そのまま転倒する。
「おっと、福音が暴走して無理な挙動をしたんだ。いくら補正があるとはいえ、操縦者にも其れ相応の負担がかかっている。安静にしたまえ」
と、思われたが、岡部に受け止められ事なきを得る。
「わかってるわ……だけど、私にはあの子の事を聞く、権利が……ある」
「松葉杖を取ってくるまで待て……と言いたかったが、仕方ない。肩、借りるぞ。」
そう言って岡部はナターシャの左腕を彼自身の後頭部、左肩にまわして部屋をでる。
「あ、アッキー! ……と、福音の操縦者」
ISの整備場に着くと、コンソールと睨み合っていた篠ノ之束が笑顔で振り向いて出迎える。
が、肩を借りているナターシャ・ファイルスの姿を見ると、直ぐに笑みは消えた。
「アッキー、説明」
冷たく、無機質な声で篠ノ之束は詰問する。
「彼女には聞く権利がある」
「今で無くとも、後でアメリカにでも教えて貰えばいい」
「……残念ながら、恐らくそれは無いだろう。
原因がなんであれ、ISの暴走事故が起こった以上、公の場にも、操縦者自身にもこの件の詳細な情報は隠蔽されるだろう。
そして、米国軍部内では少なくともISの兵器化を快く思っていない者達が一斉にネガティブキャンペーンにでて……自分の予想では、その責任を取る形でナターシャ・ファイルスの左遷、あるいは除隊に加えて、銀の福音の凍結処理、あるいは初期化が妥当な線だろう」
「なら余計に必要ない」
岡部がそう説明すると、篠ノ之束は即答で拒否した。
「セカンドシフトに移行しているのにか?」
「あの国だから尚更嫌だね」
そう言って篠ノ之束は、再びコンソールに向き合う
「君のところの国、相当嫌われているな」
「……割りと何をやらかしたのか予想できるあたりが言い返せないわ」
ナターシャ・ファイルスはそう言って岡部に説明する。篠ノ之束は我関せずの様子だ。
「私なりに憶測を立ててみたけど、聞いてくれないかしら?」
「ああ、問題ない」
「今回の銀の福音の暴走事故、原因は過度のストレスね」
ピクンと篠ノ之束のうさ耳が動く。
「へぇ、どうしてそう思うの?」
「銀の福音は一応私の専用機、という名目だわ。
しかし、私が直接操縦した回数は実はそう多く無い。」
ナターシャ・ファイルスは話を続ける。
「少なすぎるのよ、ハワイ沖での本格的な稼働試験には」
「それでは、他に操縦者が居た……と」
岡部友章はそう問いかける。
「わからないわ。でも操縦者を隠してまでやった運用試験って事は……」
「こういうことだよね?」
篠ノ之束は躊躇する事無く、立体型ディスプレイを出し、映像を投影される。
それは地獄絵図であった。
『こちらバルキリー、アルファ・ブラボーを支援する』
上空からある村に銀の福音が侵入する。
村には時代遅れな対空砲や対空ミサイルの発射機を背負った男達が降下する銀の福音に向かって攻撃してくる。
『タンゴからの対空攻撃を確認。これより迎撃する』
パイロットらしき者の声が聞こえる。声からして、明らかにナターシャ・ファイルスの声ではないということがわかる。
大口径の弾丸と、対空ミサイルを受けながらもビクともせず、福音は翼を羽ばたかせ銀の鐘(シルバー・ベル)の光弾を射出する。
羽は対空砲の機体や対空ミサイルの射手に寸分の狂いも無く突き刺さり、爆ぜる。
対空砲は射手や周りの人間を巻き込んで爆発し、対空ミサイルの射手は文字通り木っ端微塵となって、辺りに真っ赤な血の煙を漂わせ、臓物や『人』だった物が辺りに飛び散る。
『こちらバルキリー。対空兵器の無力化を確認』
『こちらアルファ。タンゴリーダーを始末した』
『ブラボー。LZの確保した』
『了解した。アルファ・ブラボーはLZへと向かえ。バルキリーは仕上げをしろ。エコーチーム、アルファとブラボーを回収しろ』
通信でそうやり取りすると、瞬く間に迎えのヘリがアルファとブラボーを回収し、作戦地域から離脱。
そして、銀の福音はそれを見送ると、先ほどの村を見下ろし、銀色の翼を大きくはためかせようとする。
村は今もなお、手持ちの銃火器で福音向かって撃ちまくる男達の姿が映っていた。
そしてISの性能が良い故に悲劇は起こった。
ISにとっては豆鉄砲も同然な銃撃の中、今まさに『仕上げ』を行おうとしたその時、福音のハイパーセンサーが視覚情報を捉えた。捉えてしまった……
バイザーの片隅に逃げようとする。女性と子どもの姿と……
福音に銃撃を加える男達の中に、古びたアサルトライフルを構える少年の姿が見えた。
福音はそのままフリーズように動きを静止させる。
『どうした? バルキリー? アクシデントか?』
『み、民間人がいます!』
映像の福音の操縦者は人並の良心があったのだろう。声からして狼狽えていた。
通信の内容を聴いていると、どうも目的自体は達成しているようだ。
しかし、回答は彼女の予想とは違った。
『バルキリー。そこにはタンゴしかいない』
『いえ。います! ハイパーセンサーで確にn』『バルキリー、いいか? ここにはタンゴ、アメリカの敵しかいない。CIAもそう調査した』
そう言って、通信は続く。
『今、すべての敵を根絶やしにしない限り、彼らは我がアメリカに卑劣な攻撃を続ける。バルキリー、もう一度言う。
『敵は全て殺せ』
君が撃たないという行動は命令に背くだけでは無く最早、愛国心が無い事を証明し、アメリカに銃を向けると同義である』
福音はしばらく、静止し……やがて……
『……ごめんなさい』
銀色の翼を羽ばたかせた。
そこから暗転し、映像は無機質な室内へと変わる。福音の目の前には二人の男が話し合っていた。
『この前の任務の報告書を見たよ。大変素晴らしい!』
そう言って、高らかに笑い声をあげるのはいかにも大きな階級章を身につけた偉い軍人だ。
彼は、スーツ姿の白髪の男性の肩を叩き、賞賛している。
「そう言って頂けると、我が兵器開発部も嬉しい限りですな」
「ISの運用試験の結果もまずまずといったところだが、こうも容易く拠点を文字通り潰せるのはありがたい。」
そう言うと軍人の男は熱く語り出す。
「今、我がアメリカはベトナム・中東・アフリカの介入以来、極度の歩兵アレルギーと成ってしまった!
何故なら、我々はルールに則っての戦争に対し、敵は卑劣にもテロや女子供も用いた卑怯な攻撃を行っているからだ!」
うんうんと頷くスーツ姿の男をよそに続ける。
「我々も空爆や砲撃などで対応しているが軟弱なマスコミ共が囃し立てと文句を言うから中々うまくいかん。
そんな時だ! ISが登場したのは!
ISはまさに最強のパワードスーツであり! 最強の兵士を創り出す事のできる兵器だと確信した!」
そう言って、軍人は銀の福音を見つめる。
「そして実際に! 銀の福音はその力をいかん無く発揮してくれたではないか!
その名の通り、哀れなテロリスト共に救いをもたらしたのだ!
これがあれば、歩兵の死亡率はゼロに抑えられる! 我がアメリカがイエスキリストのように世界に唯一神として君臨する事が出来るのだ!」
そう熱弁した軍人に対して、スーツ姿の男は拍手した。
「全くもってその通りです、閣下。しかし、まだ問題点も有ります」
「どういうことだ?」
スーツ姿の男は淡々と事務的に答える。
「これらの作戦の後、福音の操縦者の精神状態が不安定になり、後日精神科医からPTSDと診断されました」
そう言うと、軍人の男は呆れる。
「これだから女は……病院に入れとけ、代わりなんぞ幾らでもいる。軟弱なアメリカ人など国民としての価値は無い」
その言葉を最後に映像が途切れ、暗転した。
他にも映像は続き、やっと終わったのか立体型ディスプレイが無くなる。
ナターシャ・ファイルスは絶句する他無かった。
「うん。正解。この子は過度のストレスが原因でおかしくなってしまったの。
ISを発表した時や、ISコアを配布した時に散々言ったのに、『ISコアは機械では無い。大切に、大事にして欲しい』って。
なのに、このざま。だから他人は嫌いなんだよ」
吐き捨てるように篠ノ之束は言う。
「原因がわかったのならもう良いでしょ? とっとと、部屋に戻ったら?」
しかし、それに対してナターシャ・ファイルスは声を荒げて反論する。
「私だって信じたく無いわよ! あの子の操縦者に選ばれてから、ずっと一緒に頑張って来たのよ! なのにこんなのって」
「言い訳なんて知らない。事実として銀の福音がストレスによって重度のトラウマを負ったのは変わらない。君、ここから出て行って」
「しかし!」
「出ていけ。今の私は機嫌がすこぶる悪いんだ」
篠ノ之束のその態度と雰囲気でナターシャ・ファイルスを一蹴する。
ナターシャは岡部友章に助けを求めるように視線を向けるが、彼は『諦めろ』と言わんばかりに肩を竦める。
岡部がナターシャを整備室から離れた待合室に誘導させ、ISの整備室には篠ノ之束と岡部友章の二人のみとなった。
「アッキー! 何から話そうかな? かな?
福音ちゃんはー……アレがネタバラししたしー、ゲストちゃんのミッションパックについてお話しようよ!」
岡部友章が戻って来ると、篠ノ之束は再び、笑顔で岡部の元に駆け寄る。
「自分は篠ノ之さんの切り替えの早さについて議論したいな」
そう言うと、篠ノ之束は頬を膨らませて、不機嫌だという事をアピールする。
「えー、だってあんなのに思考のリソースなんて一部たりとも割きたくないのー
……それにしても、ゲロみたいな映像を見てもアッキーは眉一つ動かさなかったね! 心拍数も平常だったし、やっぱりアッキーは私と同類だね!ね!」
篠ノ之さんはニタァ、と笑みを浮かべた。
「流石! 私のIS開発を手伝う為に生みの親との縁を躊躇無く切ったアッキーは人間として『壊れて』いるね!」
満足気にそう言って、ミッションパックの説明を始めたのであった。
■ ■ ■
暴走する銀の福音を取り押さえた後、学園側に連絡をいれたり、福音の操縦者の面倒をみたり、在日米軍に身柄を引き渡したりと忙しい事この上なかったが、明日の最終日の臨海学校は自分と織斑さんは自由行動で良いらしい。
最終日事態が海でまた遊び倒すだけなので、まあ特に問題は無い。
というか『花月荘においてあるお酒は銘酒が多いので、挑戦してみては?』と轡木の爺さんが言っていたので、そういう事なんでしょうな。
そう思いながら、今晩にワクワクしながら自室に向かうと……
扉の前で、顔を赤らめる篠ノ之ちゃん達がいた。
扉からは織斑さんの嬌声が少し漏れている。
「……アホくさ」
無言で篠ノ之ちゃん以下、色ボケ共5名を退けて扉の前に出る。
「ちょ……岡部さん?!」
そして、躊躇無く扉を開ける。篠ノ之ちゃん以下5名は驚愕の表情の後に、その後自分達の身に起こる惨状を思う浮かべたのか顔が蒼白になる。
「あ、姉弟水いらずの所悪いね。もうちょっと外をぶらついてきた方が良かった?」
視界に入ったのは、ソファでうつ伏せになる織斑さんと、その彼女の背中を押してマッサージをする織斑君の姿であった。
「いや、いいさ。私が勝手に押し入った形だ。問題はない」
艶のある声を漏らしながらもそう応えたので、篠ノ之ちゃん達の方に振り向いて……
「姉弟同士で禁断の失楽園とかレベル高過ぎて岡部先生ドン引きだわ」
と、織斑姉弟に聞こえない声で言うと面白いくらいに女性陣が動揺する。
「冗談だよ…………問題無いってさ。せっかくだから篠ノ之ちゃん達も入りなよ」
そう言って、女性陣を全員自室に招き入れる。
「? なんだお前達も来たのか。まあいい、今回は目を瞑ってやるとしよう」
おずおずと部屋に入ってくるヒロイン一同に対して、織斑千冬がそう言うと一同はホッとした表情を浮かべる。
その時ふと、唐突に自分の脳裏にあるアイデアが思い浮かんだ。
「あ、そうだ織斑さん。昨日の福音事件でのアフターケアという名目で、花月荘のバーカウンターを利用してもいいってIS学園側から言質とったんですけど……行きます?」
教員が仕事放り出しての飲酒宣言に一同ははッとした表情を取るが、後の発言から納得する。
そして、わざわざこんな時に誘いを入れたことに織斑さんは自分の意図を察したようで、ニヤリと笑みを浮かべる。
「咎められないというのなら、是非」
織斑さんは浴衣を直すと、さっと立ち上がる
「そう来なくっちゃ。織斑君、せっかく来てくれた篠ノ之ちゃん達の為に飲み物を取ってきてくれないか? 奥の冷蔵庫にジュースか何かあったはずだ」
「お、おう。わかった」
織斑さんからの快諾を得るとすぐさま織斑君に飲み物を取ってきて貰うように頼み、席を外させる。そして、立体投影型ディスプレイを出して、篠ノ之ちゃん達に見せた。
ディスプレイに映し出されたのは文字だ。
――『お前等、既成事実のチャンスだぞ』
篠ノ之ちゃん達一同は思わず絶句する。
彼女たちは自分に対して何か言いそうだが、ディスプレイを即座に閉じ、有無を言わさずに織斑さんを連れて部屋を出たのであった。
バタン! とドアを閉じると笑いを堪えきれなくなり、思わず顔がにやけてしまう。
「一夏くん……がんばれー、ククッ……」
「岡部、一応……私の弟なんだぞ……」
自分のその態度に織斑さんは咎めるように注意するが、口元が笑っていた。
「じゃあ、飲みに行くの断って下さいよ~」
「アレもそろそろ色めいた話があっても良いと思って……だな」
と、織斑君を話しのネタに花月荘内のバーカウンターに向かおうとすると、途中で花月荘の女将である清州景子さんと遭遇した。
「あら? お二方、どちらへと?」
「花月荘内のバーカウンターへ」
女将さんの問いに対してそう答えると、ニッコリと微笑んだ。
「IS学園の方から事情は伺いました。何分忙しかったようで……」
「いえ、自分に課せられた職務を全うしているだけです。ちゃんと報酬は出してくれますしね」
そういうと、女将さんは懐から鍵を取り出して、自分に渡した。
「岡部先生は大変真面目なんですね。臨海学校の期間は通常は人員不足や不必要でもありますのでバーカウンターは閉じていますが、轡木 十蔵様のご要望により今晩は岡部友章様の貸切で御座います。先述の通り、人員不足によりセルフサービスではありますが、代金はIS学園の方から全額負担となっておりますので、お身体に差し支えない限りは存分にお楽しみ下さいませ」
「へえ、そりゃ嬉しいな。終わったらカウンターの人に返しておきますね」
そう言って、女将さんと別れるとバーカウンターへと向かい。貰った鍵で早速扉を開けた。
「ウヒョー。これはイイネ!」
「初めて入ったが、中々だな……」
バーカウンター内は茶室を改装したかのような純和風の内装であしらわれていた。
「てっきり中にバーテンダーかマスターがいると思ったが、こりゃホントに文字通り意味で貸切だな」
「ここまでされると、かえって申し訳ない気持ちだな……」
とは言うものの、学園側の好意を無為することもできないので、カウンターに座ることにする。
「……自分が何か適当なやつを見繕って来ますよ」
「……頼んだ。わたしは容器の方でも用意しておく」
しかし、バーテンダーもいない中、二人共座っていてはお酒は飲めない。
仕方なく自分は立ち上がり、色々と物色する。
「なんで、ここもセルフサービスなんでしょうかねー……っと、ウヒョー。これ幻の銘酒ってやつなんじゃ……」
手当たり次第に美味しそうな物を拡張領域に入れていく。
むやみにアルコールを摂取することによる内臓の損傷? わかってる! Fきゅうじゅ……ISがアルコールを調整してくれるはずさ!
そんなことを考えつつも『銘酒 戦乙女』を持ってカウンターに向かう。
そこには、お酒が注がれたコップと、『死生不知』と書かれた瓶が置かれていた。
「遅かったじゃないか。夜は長いようで短い、せっかく二人水入らずで飲めるんだ。楽しもうじゃないか」
そう言って、織斑さんはコップをこちらに差し出したのであった。
後はもうお互いにそれはそれはいろんなことを酒の肴にして会話を交えつつ、日本酒、ワインの瓶を次々と空けていく。純米大吟醸酒やシャトー・ぺトリュスとかそんな単語がチラチラと見えるが、そんなことはお構いなしだ。
時には笑い話を、時には愚痴を、時にはちょっとした昔の話などなど……
普段から飲み慣れない物を飲んだ影響からか、この日だけは自分も織斑さんもとてつもなく饒舌であった。
「岡部……お前は私のことが嫌いなのか?」
良い感じに夜も更けてきた頃、唐突に織斑千冬は真顔でポツリとそう呟いた。
「また唐突に、自分が何時そんなことを言いました?」
「じゃあ……私の事は、好きか?」
「ええ、好きですよ」
少し不審に思いつつもそう答える。後々考えると、自分も相当に酔っていて、完全に判断力が欠けていた状態であった。
「それは、親友としてなのか? 異性としてなのか?」
自分の瞳を覗きこむようにして見つめる織斑さんに対して、ひどく動揺してしまう。
「……」
「本当は……本当は私のことなんか嫌いだったのか!?」
動揺し閉口してしまう自分に対し、段々と感情が昂ってきたらしく、始めは涙目で訊いてくる。
「もう、我慢の限界なんだ……今ここで、はっきりしてくれないか?」
「……じゃあ、織斑さんはどうだって言うんですか……」
異性としても、親友としてでも無く、自身にとっての利益としてしか織斑さんを見てない自分には、この質問には答えられることができなかった。
だからこその逃げの一手……彼女の弟の織斑君が優柔不断・お人好し・朴念仁の役満であることを考慮した事の返しであった。
「私は……岡部、お前のことが好きだ――親友としてではなく、一人の男性として」
「ははっ、織斑さん。いくらお酒が強いって言っても、流石に今回は酔ってます?」
自分のその言葉に対して織斑さんは急に立ち上がり、傍にあったシャトー・マルゴー1994と書かれた瓶をそのままラッパ飲みの要領で口に含み、そのまま自分を抱き寄せて
口づけをした。
いきなりの行動で反応できず呆然とする反面、内心『ああ、またこのパターンか』と半ば悟ったようにして抵抗せず、そのまま身を任せてしまう自分がどうしようもない奴だと自覚する。『これはこれでイイんじゃね?』と思うあたりが特に……
腔内を蹂躪されるあの独特で敏感な感覚とは別に、今度はワインも一緒に中に流されるので、いつも(?)とまた違った感覚が、自身の脳内で快感物質をいつもよりも多く分泌している事がわかった。
「……ぷはっ。これでわかっただろ? 私は本気だ」
腔内のワインが無くなった頃合いになって、口移しを終えた織斑さんはアルコールを帯びてほんのり上気した顔でだが真っ直ぐとこちらを見据えて、そのまま自分を抱き寄せた。
「織斑さん、正気に戻って下さぃ……」
「お前で無かったら、こんなにも酔えないし、甘えないんだぞ……」
思わず声をかけるが、織斑さんは抱きついたまま耳元でそう囁いた為に語尾がおかしくなる。
「突然、クラリッサと言い、私と言い、複数から言い寄られて動揺しているのはわかっている。だけど、今は……こうさせてくれないだろうか……」
織斑さんはそう言うと、ぎゅうっと強く抱きつかれる。
自分はこれに対して振り払えるはずもなく、ただただ大人しくしている他に無かった。
「…………」
そして、織斑さんが抱きついたまま時間が数分経つ。しかし、織斑さんに一向に変化はなかった。
「寝ている? ……た、助かった、のか?」
心音と息遣いを見るにどうも寝ているらしい……
自分はただただ、アルコールが彼女の記憶を消し飛ばしてくれることを祈る他無かった。
■ ■ ■
臨海学校最終日。
多少のトラブルもあったが、なんとか臨海学校が中止……なんていう最悪の事態は避けられた。
臨海学校最終日は実質中身は初日と同じ……つまりは
「野外授業、お疲れ様でした。今日は今現在の朝から帰りのバスまで自由時間、つまりは遊び放題だ。諸注意は初日にやったから細かい話は抜きにして、解散!」
臨海学校に参加しているすべての生徒達に対して自分がそう言うと、蜘蛛の子を散らすように生徒達は駆けて行った。
今から更衣室で水着に着替える者、砂浜に向かう者、今日はゆっくりと過ごすらしいのか旅館に引き上げる者、解散の号令が出た瞬間、衣服を脱ぎ捨て海に突撃する者とバリエーションに富んでいる。
織斑君達と親しい教師陣は今から更衣室で着替える口である。自分は朝の内から下着を水着に置き換えているので問題は無い。
自分は初日の時と同様にパラソルを突き立ててその影でリクライニング式のビーチチェアーでくつろぐ事にしたのだが、兼ねてより海水浴でやりたかった事が一つあったので、せっかくだから実践してみるとする。
「なぁ、ゲスト。一つ頼みがあるんだが」
『なんでしょうか?』
そう言って、自分は拡張領域からあるモノを取り出した。
「ISの待機状態を腕時計からこれに変えて貰いたい」
『浮き具……ですか? では、待機状態の腕時計をそれの前に置いて下さい』
言われた通りに浮き具の前に待機状態のISを置く。
『スキャン中……形状を把握』
そして瞬く間に腕時計型であったゲスト機はシャチ型の大型浮き具へと形態を変化させた。
『待機状態の形状、変更しました』
「ああ、ありがとう」
そう言って、自分のすぐ傍にシャチ型浮き具を置き、右手でグニグニと弄びながらのんびりとすごす。
視界には女子高生、女子高生、女子高生、20代のお姉さん。アジア系、コーカソイド、褐色系美少女が水着等でキャッキャッウフフ……
時折、自分の方を見てはギョッとした感じでお隣のシャチを凝視するが、その光景を見て悦に浸る。
「更衣室に居なかったから、もしやと思ったが……」
「服の下に水着を仕込んでいたわけだ……」
手早く済ませたようで、織斑さんとハルフォーフさんの二人が誰よりも先にこちらにやって来た。
水着は初日に見せたの同じように、織斑さんは黒ビキニ、ハルフォーフさんは黒のツイストスリングショットの極黒のブリュンヒルデ仕様である。
彼女達もまた、シャチ型浮き具を視界に収めると、不思議そうにそれを見つめている。
「岡部、これは?」
「観賞用待機状態。誰もこれがISだとは知るまいって、悦に浸って楽しんでる」
織斑さんがシャチを指差したのに対してそう答えると、二人は呆れた。
「我が嫁ながら……なんてアレな使い方をしてるんだ……」
「お前はたまに、妙な事を考えるよな……」
「流石に殴り武器にはしませんよ……?」
「えー、面白そうなのになー」
背後から、二人とは違う第三者の声がかけられる。振り向くと、そこには脱いだら凄い篠ノ之さんがいた。初日に見せた、アブナイ白のモノキニワンピース姿である。
「ゲストちゃんのミッションパックのF(ファイトタイプ パワーアシスト強化型)タイプとかになら打撃武装として装備できそう! 名付けて! 打撃武装ビッグシャチ○り!」
篠ノ之さんは、自分の右隣のビーチチェアーに陣取ると、シャチ型浮き具をグニグニと弄り回しながらトンデモ発言をする。近接武器は要らないと言っているだろ。却下だ却下。
「うーん、このわざとらしいシャチ感! チープな形状に反して、妙にリアルな表面がいい味だしてる!」
「……嫁。私も触っても良いか?」
誰に頼まれた訳でも無く、シャチ型浮き具の触り心地を実況し始める篠ノ之さんにあてられたのか、ハルフォーフさんは心なしか両手をワキワキとさせながら、シャチ型浮き具にじりじりと寄って行く。
「友兄ー、みんな着替え終わったぞ……?」
織斑君達が自分の所に来るまでに、シャチ型浮き具(ゲスト機)を散々弄んだのは言うまでもない。
その後は、ビーチバレーや初日に使った水上ジェットスキーを用いて別に用意したバナナボートを引っ張ったりと生徒達にはかねがね好評であった。