No matter what fate   作:文系グダグダ

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18:8月 夏休み

 IS学園の地下には膨大なデータを管理するサーバールームや非常時の為の避難用シェルターが置いてある。これらは、幾つもの装甲材や特殊素材が何層にもわたって積層された外殻によって守られている。

 内部も当然、電子的・物理的に堅牢な数々のセキュリティによって守られてもいる。

 そして、アリーナのシールドはもちろんのこと、これらIS学園防御機能を司るISコアがそこには置かれている。

 当然ながら、その居場所はIS学園の最重要機密事項であり一部の人間にしかその居場所は知られていない。

 

 その地下に存在するシェルターの一室に篠ノ之束は住居を構えた。

 

「んー、こんな感じでいいかなー? まあ、いっか」

 

 あたりを見渡しつつ、立体投影型ディスプレイで確認をとった。

 特に問題も無く、篠ノ之束はディスプレイを閉じて備え付けのディスプレイを起動させる。

 

「いやぁ、アッキーのゲストちゃんにミッションパックシステムを導入したのは大正解だね!」

 

 そう言ってディスプレイを見ると、そこにはこう書かれていた。

 

 ――ミッションパックシステム一覧

Aタイプ (アサルトタイプ Assault Type)

Bタイプ (ブルーティアーズ Blue tears Type)new!

Dタイプ (デストロイドタイプ Destroyed Type)

Eタイプ (エクスターミネーション Extermination Type)new!

Fタイプ (ファイトタイプ Fight Type)

Gタイプ (ガードタイプ Guards Type)new!

Iタイプ (インターセプトタイプ Intercept Type)new!

Jタイプ (ジャケットタイプ Jacket Type)

Lタイプ (ロングレンジタイプ Long-range Type)

Uタイプ (非固定浮遊部位 (アンロックユニット)タイプ、Unlock unit Type)new!

Vタイプ (ヴァルキリートレースタイプ Valkyrie Trace Type)new!

Xタイプ (エキストラタイプ Xtra Type)new!

Zタイプ (ゼロタイプ Zero Type)

                           』

 

「もうこんなに装備を自分でこんなに増やすなんて! 最高だよ!だよ! 伊達にゲストちゃんのAI制作に私のフラッシュクローンした脳を20個も費やした甲斐があったよ!」

 

 各種ミッションパックの詳細な内容を見ながらウンウンと満足気に唸る。

 

「それにしても」

 

 篠ノ之束はディスプレイに映し出された一人の女性をみて訝しげに呟く。

 

「いっくんはモテモテなのは周知の事実にしても、まさかアッキーにもモテ期が来るのはちょっとびっくり」

 

 ディスプレイに映し出された女性は紛れも無く、クラリッサ・ハルフォーフその人である。二組の副担任を務める彼女はISの実習があるらしく、アリーナへと向かう岡部友章に付き添っている。

 

「ハニートラップか何かだと思って軽~く彼女を脅して見たけど……」

 

 そう呟いた後、篠ノ之束は軽く身震いをする。

 

 篠ノ之束は臨海学校の終わり、IS学園へと引き上げる際に二組のバスに搭乗した。

 ガヤガヤとまだ騒ぐ者もいれば、疲れたのか寝息を立てる者や、感慨深そうに窓からの沈み行くオレンジ色の水平線を眺める者もいる中、プライベート・チャネルで篠ノ之束はクラリッサ・ハルフォーフに軽く『釘』を刺したのだ。

 

「返ってきた答えが『貴女には興味は無い』って言って、自分の国の軍事機密全部暴露だなんてね! もう思い出しただけで笑いが止まんないよ!」

 

 アハハ! という感じで大笑いしながら『ハニートラップにかける前から、ハニートラップでカウンターされるなんてギャグみたい!』と呟く。

 

「あー、笑った笑った。こんな下品な笑いなんてとてもじゃないけど身内には見せられないね」

 

 はぁはぁと息継ぎをしつつ、篠ノ之束はISコア・ネットワークのゲスト機経由で入手した岡部友章の行動記録を再び見た。

 

「でも、それだけちーちゃんやクラリッサ・ハルフォーフが惹かれる位に、岡部友章――アッキーは『悪魔的なナニか』があるのは束さんも同感だなぁ」

 

 学園生活は普段掛けている無駄にハイテク機能を詰め込んだ伊達メガネに、モンド・グロッソやフランスでの騒動等は音声と通信だけではあるが、ISのコア・ネットワークや拡張領域チップに記録させていた。

 

――ある時はIS学園や普段の生活、織斑一夏達の前では、気遣いが良く話の通じる所詮良い人な実習教員。

 

――しかし、裏ではIS学園の上層部やお偉いさん相手と渡り合い、目的のためなら殺害も厭わず、ISを起動させずに平然と記録にあるだけで何百人単位の人々を葬った顔も持つ。

 

――そして、未だ彼にはまだまだ知られていないであろう秘密が多すぎた。

 

 一切の打算や迷い無く貧乏クジを引くであろう重婚法の交渉をやっていたり、本当は切り捨てたほうが楽であったシャルロット・デュノアを救済しに行ったりする傍ら、銃を向けた相手には躊躇や慈悲は存在せず、邪魔になった実の親に対しても離縁届けを叩きつける程に冷酷であり、身勝手。

 だがしかし、非殺傷設定のできる銃器である『ガーディアン』をねだったり、自身の担任の2組には意味もなく奢っていたりと、彼の行動原理は実に歪で捩れている。信念も、ポリシーも……何もないのだ。

 

 おおよそ常人であれば、良心の呵責にかられ命を絶つか、あるいは精神が疲弊し擦り切れて理性のない狂人と化すだろう。

 

 だが、彼は良心の束縛されず、理性も失われてもいない。

 

 それが篠ノ之束のいう『悪魔的なナニか』なのだ。

 

 彼に中途半端者のレッテルを貼り付けるにはあまりにも規模が肥大化してしまっていて、秘密も多く抱えていた。

 

――篠ノ之束は静かに宣言する。

 

 彼に一番近い人物はクラリッサ・ハルフォーフや織斑 千冬――ましては大穴ではあるが自身の妹の篠ノ之箒では無い。

 

「君を誰よりも一番理解してるのはこの私。

 だから……そんな悪魔的魅力地味た君に惚れても、文句は無いよね?」

 

 篠ノ之束は彼に好意を暴露した場合をシミュレートする。

 現状でも最低2人に好意を寄せられている中、果たして彼はどう対処し、彼の精神にどのように影響を与えるのか……それが楽しみで楽しみで仕方がなかったのであった。

 

 

――一方、職員室では……

 

 

「ふう、やっと終わりました」

 

 山田真耶はふう、と一息ついた後、お茶を啜っていた。

 本来、小市民的な彼女にとっては冷房が肌寒いくらいに効いている中、熱いお茶で水分補給と暖を取ることに少しばかり抵抗が内心あったものの、ささやかな贅沢と割りきってのんびりしていた。

 

「一学期の総まとめ……今年はイレギュラーの連続でした……」

 

 山田真耶は今年の春から今に至るまでの出来事を思い浮かべる。

『ISを扱える男性』に始まり、異常な数の専用機持ち、頻発するトラブル、更には国際IS委員会からの頻発する岡部友章や織斑一夏の召集命令などなど……。

 

「それにしても、これには驚きました……」

 

 山田真耶は書類の束の中から二部、書類を取り出した。それぞれの書類には『織斑一夏』『篠ノ之箒』と表紙に書かれている。

 二人は『代表候補生でもないのに専用機持ちという』という状態になってしまっている……のだが…………。

 

「まあ、岡部先生に比べたらこれくらい些細な事なんですけどね」

 

 そう言って、山田真耶は書類の山の中に戻した。

 織斑一夏の方は形式上、倉持技研の方に属しているものの、篠ノ之箒のISはどこの国家・組織にも属していない――つまりは登録国籍がない。

 

――が、それはIS・ゲスト機を保有する岡部友章も同じ事。むしろ、篠ノ之箒は国籍が書類上日本に対して、岡部友章は個人の国籍すらも存在しない。

 

 なので、篠ノ之箒についてはほんの些細な事にしかすぎないのだ。

 大体、何者かが篠ノ之箒を手に入れようとすれば、確実に岡部友章が障害として立ちはだかる。

 

 白騎士事件やモンド・グロッソでの武勇の他に、山田真耶自身もうわさ話程度に聞いてはいるが、彼のしでかした内容が本当のことならば、並大抵の組織では太刀打ち出来ない。と、彼女は考える。

 

『正直、織斑君や篠ノ之さん、ISなんかよりも岡部先生自体の方が注目度は高いですよね……』

 

 さすがに口には出せないので、心の声で呟く山田真耶。

 

 ――正直、ISも第四世代相当の白式・雪羅や紅椿よりもゲスト機の方がインパクトが大きい。ゲスト機も紅椿同様に篠ノ之束博士の特注機(ハンドメイド)でもあるので紅椿の衝撃度はどうしても見劣りしてしまうのだ。

 

「はぁ……それにしても」

 

 ――なんでこう、私のクラスに色々と集中しちゃうのでしょうか……。

 

 どう考えても、1組に代表候補生が集中し過ぎている。が、しかし……

 

 ――私や先輩(千冬さん)ならともかく、新米の岡部先生に割り振るのもおかしな話か……。

 

 と、一人結論付けた。

 

 どの国家にも属さないIS学園ではあるが、やはり各国の影響力を遮断するのは難しい……のだが……

 

『――岡部先生なら実際にやってのけそうで恐ろしいです……』

 

 実際に篠ノ之束博士を名目上、非常勤講師としてIS学園に入れた事で、その可能性がグッと、現実になってきたのは間違いないだろうと確信した。

 

 ――世界は篠ノ之束をして『天災』と言わせるならば、岡部友章の場合はまさに、『悪魔』……

 

「……っと、せっかく岡部先生が私の仕事の一部を肩代わりして貰ってるのに、失礼な事を考えちゃダメですよね」

 

 山田真耶は湯のみを机の上に置いて、ぐうと背伸びをして体をほぐす。

 

 織斑千冬や同僚の教員、各学年・学部の学生やうわさ話など様々な視点で

彼を見た彼女にとって、岡部友章は『頼れる同僚』や『信頼出来る男性』である。

 

 性格上、男性慣れしてない自分に対して、男性にしか感じない妙な視線無く接してくれる人は珍しい。

 そういう所が彼女にとっては好感度が上がる要因にもなるが、仕事を手伝ってくれたり、プライベートで困ったことがあれば助けてくれたりすることもある。

 時々、色々と手伝わされる時もあるが、後日お礼として色々と奢ってくれたり、中々買えないものを買ってくれたりと、彼女自身にも嬉しい事があるのだ。

 

 特に、先の臨海学校での福音事件の時に見せた勇姿は彼女の岡部友章に対しての評価を『頼れる同僚』や『信頼出来る男性』に上方修正するには決定的付けた事柄であった。

 

「……ふう、仕事も終わりましたし戻りますか」

 

 山田真耶は立ち上がり、荷物を纏めて鞄に入れて職員室を後にした。

 

『これで岡部先生が、一夏君ばりのラブコメディ体質じゃなかったらなぁ……』

 

 山田真耶は岡部先生を好いている二人の同僚を思い浮かべながら職員室のドアを閉めたのであった。

 

 

   ■   ■   ■

 

 

 定期試験が終了し、臨海学校も終わった。んでもってセシリア・オルコットの一時帰国の付き添いも終わった。

 次のイベントは夏休み。学生達は皆、お休みだ。もちろん、生徒がいなくなったのでIS実習の技術教員の一人である自分はお仕事がなくなるわけである。

 ずっとIS学園の中では流石に退屈だ。なので、2年ぐらい前に篠ノ之ちゃんと一緒に住んでいたあの家で過ごせるように学園側に休暇と帰省の届出を出したのだが……あっさりと受理された。少しばかり面倒なことになるのかと思いきや、だ。

 

「ああ、やっと終わった」

 

 カタカタと朝のショートホームルームの後から寮にて私物のパソコンに向かってキーボードと格闘すること数時間、日が真上に昇りはじめ、ギラギラと太陽光線が地表に降り注ぐ頃にはついに闘いに終止符が打たれた所であった。これでやっとお家に帰れる。

 

 8月、IS学園では夏休みに突入といったところだ。まあ、大半は自国に戻って報告やほんの少しの帰省が主な目的なので世間一般の夏休みにしては大変遅い。

 自室から廊下に出るとキャリーバッグやダンボールがひしめき合っていた廊下が今ではすっかり綺麗に無くなっている。見た感じ、欧州組と凰鈴音はここにいるようだが篠ノ之ちゃんと更識さんの方は実家に帰っていったようだ。丁度いい、少し外の空気を吸いに行こう。

 

 寮内を歩くと意外にもポツポツと学生とすれ違う。4月の時は無視されたり嫌な目や珍獣を見るような奇異の目で向けられたものの、今では慣れたのかそういうのも無くなっている。

 

 ――そうやって歩いているうちにレポートを提出しに走る織斑君とすれ違って、ぱったりと会った。

 

「よう、凰さん」

 

「あ、岡部先生」

 

 チケットらしき物を握っている凰鈴音の姿と先ほどすれ違った織斑君を思い出し、瞬時に声をかけた事を後悔するに至る。

 

「凰さんはここ(IS学園)に残るんでしたっけ?」

 

「ええ、そうよ。あっち(中国)に戻ってもなーんにも楽しくないし」

 

 学園側と篠ノ之さんの資料のお陰で大体の生徒は把握している。

 両親が離婚したとなれば、気まずくて帰省したくもないだろうし、わざわざ軍施設で訓練漬けの休日も進んでやりたいとは思わないだろう。

 

 と、ここでふと自分の頭に電撃が走る。まるで頭上の電球が光ったようにだ。善は急げと言わんばかりに凰鈴音に提案する。

 

「ふーん、それじゃ夏休みの間は自分に家に泊まりなよ」

 

 そう言うと凰鈴音は『ファッ!?』という擬音が聞こえるような表情を浮かべた。

 

「いやだって、織斑君も自宅にに戻るんだからここ(IS学園)にいるよりかは自分の家にいた方が織斑君と絡みやすいでしょ?」

 

「お願いします。是非とも泊まらせてください」

 

 そう言うと、即答で返事が返って来た。現金な奴である。

 

「大体なぁお前らみたいなちんちくりん相手に性欲なんざ湧かねぇよ。

 そもそも射撃とかの趣味で代替行為可能だっての」

 

 凰鈴音と細かなすり合わせと荷物の運搬の手配を済ませた後、先ほどの台詞を呟きながらミニバン車を取りに車が置いてあるところへと向かう。

 

「あ、ロールスロイス」

 

 ミニバン車の隣に高級車というえらいシュールな光景に吹き出しそうになるものの、この車がセシリア・オルコットのものであるということがすぐにわかった。なぜなら、執事服姿のドライバーがロールスロイスから降りて、こちらに深々と頭を下げたからである。

 

「これはこれは、岡部様。お邪魔しております」

 

「イギリスでは運転どうも。オルコットさんは?」

 

「お嬢様は侍女のチェルシーと一緒に学寮へと行っておられます」

 

 夏休みに突入する少し前に、イギリス本国からの招集に伴いセシリア・オルコットは早い帰省を行ったのであるが、オルコット家の強い要望(意味深)で自分も馳せ参じる事となってしまった。

 

 その後はオルコット家総出でえらく歓待された。イギリス貴族の伯爵様というえらい地位にいるオルコット家ということで内容はお察しください。

 決して見ることのできない世界というのは、大変面白いもので十分に楽しめたのでよしとする。

 

 本場(?)のクレー射撃や鹿狩り、そして何といっても貴重なセシリア・オルコットの狩猟服姿が見れたのでよしとする。美人には何を着せても冴えるなぁ

 

 ドライバーと少しばかり雑談を挟んでから、ミニバンで学寮の前に止まる。

 

「岡部先生おそぉい!」

 

 ISの部分展開を駆使して荷物をかかえた凰鈴音が吼える。

 

「はいはい。遅れてスマンね」

 

 細かい注意なんてする気にもならないので、スルーしてトランクルームの扉を開ける。

 凰さんはひょいと軽い動作で次々と荷物を入れていく。そんなに量自体も多くないので1分とかからなかった。

 

「山田先生の方にはちゃんと書類は渡したか?」

 

「もっちろん! さぁーて! 行くわよぉー!」

 

 助手席の扉を勢い良く閉めてから、シートベルトを締めてそう答える凰さん。よほど退屈だったのであろう……

 自分はそんな彼女に応えるべくアクセルペダルをいつもよりも思いっきり踏んであげた。

 

 ――一度渋滞に引っかかったものの無事に到着しました。

 

「いやぁ、第二回モンド・グロッソ以来だなぁ」

 

 おおよそ2年もの間、ほったらかしにしておきながらも更識の人達が何らかの手を回してくれていたのであろう、綺麗な状態を保つ我が家を見ながらそう呟いた。

 

「そういえば、岡部先生って去年は一夏の家に居候してたんでしたっけ?」

 

「ああ、でもちゃんと見た感じ綺麗な状態を維持してるね――隣の家は空き家か……それじゃあ入るか」

 

「そうね、早くクーラーの効いたリビングでゆっくりしたいわ」

 

 自分と凰さんの二人で凰の荷物を持ちながら、鍵を外して玄関の扉を開ける。そしてリビングルームに入ると……

 

「ファッ!?」

 

「…………ッ!」

 

「アッキーただいま! 素麺食べる? 食べる?」

 

 当時と変わらないテーブルでのんびり素麺を食べる篠ノ之姉妹がそこにいた。

 

「岡部先生どうしたの? ……って箒?!」

 

「ズズズ……鈴ッ!? なぜここに!?」

 

 後からリビングルームに入ってきた凰鈴音も自分と同様のリアクションをした。

 

「あれ? なんで2人がここに?」

 

「実家遠いから帰りたくなーい」

 

 即座に答える篠ノ之さん。そんなに自分の親は嫌か。

 次に篠ノ之ちゃんの方に視線を合わせると……

 

「私にとっては、ここが……自分の家ですから……」

 

 と、しょんぼりとした態度で自分に答える。まるで、怒られたワンコのようだ。

 悪びれることもない篠ノ之さんは今すぐに蹴りだしても問題ない気もするが、篠ノ之ちゃんの態度もあってか流石にそこまで無慈悲な事をするやる気がでない。

 

 そんなことよりも……だ。

 

 ――前々から思っていた事だが、篠ノ之箒の自分に向ける視線が彼女自身が織斑君に向けるそれと似たような物であるような気がする。

 

 昔から度々織斑君についての惚気話を聞かされていた身なので、『まさかな、ハハッ』と一蹴していたのだが、ここに来て段々と現実味を帯びてくる。

 

 ――これって寝とりになるのかね……? 寝とる側とかうわぁ……

 

 と思ったがそもそも自分は織斑君のお姉ちゃん(織斑千冬)とってんじゃねぇかと結論付ける。だめだこりゃ。

 

「まあ、どの道叩きだす……なんてことは流石にできないからね。仕方ないね。あ、凰さんは二階の空いた部屋に荷物入れて」

 

「さっすがアッキー! 話しがわかるよ!」

 

「ありがとう! 岡部さん!」

 

「はーい…………アタシもあんな風に、頼れる人がいたらこうなってたんだろうなぁ」

 

凰鈴音の呟きが聞こえた。彼女にも何か思うところはあるのだろう。こっちは事情は知っているのだが、彼女が言い出すまではそっとしておいてやろうと思う。

 

「ただし、女性関係と私生活だけはとんでもないクズ野郎になりますがそれは」

 

「自覚してるのなら直しなさいよ!?」

 

 凰鈴音の去り際に締まらない事を言って彼女にツッコまれる。

 学園や恋のトラブルは歓迎だが、家庭のトラブルはお断りします。

 

 自分はポケットからさっと携帯を取り出し、織斑君の電話番号を打つ傍ら、食器を洗っている篠ノ之ちゃんに声をかける。

 

「そういやさー、篠ノ之ちゃん。明日暇だよね?」

 

「ええ、そうですけど?」

 

「今年の夏にさー、比較的近所に新しくウォーターワールド(大型屋内プール施設)できたらしくてさー」

 

 寮で凰鈴音が見たあのチケットを思い浮かべながら言う。

 

「明日、行くよな?」

 

「え!? あ、はい!?」

 

『もしもしー友兄?』

 

 唐突な自分の有無を言わせぬ言い方に目を白黒させる篠ノ之ちゃんをよそに織斑君が電話にでる。

 

「織斑ー、明日ウォーターワールド行こうぜ!」

 

 さも今から野球しに行こうと言わんばかりのかるーい口調で誘うものの、返事は予想を外れた。

 

『ごめん友兄! 明日はセカンドシフトした白式・雪羅のデータを取りに倉持技研に行かないと行けないんだ』

 

 だが、そんなこともあろうかと!

 

「え? 臨海学校でとったデータあるから、こっちで送るよ」

 

 大体いくら日本国内の企業とは言え、そうホイホイと貴重な人間とISを一人で行かせるかよ。学園と恋のトラブルはお任せ下さい……ってね。

 

『マジかよ! サンキュー!』

 

 ――よーしよしよし、これで篠ノ之箒・凰鈴音の幼馴染みの布陣は完成だな!

 

 と、1人頷いていると思わぬ伏兵がくる。

 

『いやぁ、良かった。せっかくだからセシリアも誘ってもいいか?』

 

 ――何だと!?

 

『今日、セシリアからもウォーターワールドに行かないかって誘われたんだけど、友兄と同じ感じに断ったんだよ』

 

 ――ラブコメ体質だからね……仕方ないね。

 

 そう1人で割り切る……だが、1つだけどうにも腑に落ちないことがある?

 

 ――あれれ? セシリアって、織斑君にお熱だっけ?

 

 IS学園での時や臨海学校で花月荘にいた時もいつものメンバーの中に入っていたりする分、他の子よりも仲――取り分けて好感度はいいんだろうが、何か決定的な瞬間ってあったか?

 

 そう思い、何かヒントを探るべく、つい先日イギリスでセシリア・オルコットの実家の方に招待された時のことを思い出してみる……

 

 ――あっ、彼女だ!

 

 思わず、パチンを指を鳴らす。篠ノ之姉妹が変な目で見たり、織斑君が『なんかノイズ入った?』と呟いているが気にしない。

 

 そうだ、オルコットさんには昔からの専属侍女がいたんだ。たしか、名前はチェルシー、チェルシーだ。 

 多くの使用人がいるオルコット家でも、自分が向こうにいる間は、一時的に自分に付いてくれたので非常に印象に残っている。

 18歳にしては非常に落ち着きがあって、オルコット家の一員なだけあってか、品も実に良かった。

 

 向こうにいる間、自分が何がしたいのか? 何を探しているのかをすぐに彼女は察してくれたりして非常に助かった。

 多分彼女は誰よりも人の心の機微には敏感なのだろう。

 

 だからか……だからチェルシーはセシリア・オルコットの何か――例えば織斑君に対しての好意か何かを察したのだろう。恐らく原因があるとすればそれだ。

 

 自分は夏休み中に考えていた『織斑君ハーレム計画(幼馴染みver)』の中身を考えなおすと共に、まずはこの目の前にイベントについて思案するのであった。

 

 

   ■   ■   ■

 

 

 ウォーターワールドのゲート前にて予定通り見知った顔と出会う。

 

「悪い! 少しばかり遅れたか?」

 

「一夏さん! と、あら?」

 

「随分と大所帯で」

 

 織斑君がオルコットさんとチェルシーさんに走っていく中、セシリア達は織斑君の後続を見て少しばかり驚く。

 

「いやあ、友兄に誘われちゃってさぁ」

 

「わ、私もだセシリア」

 

 後頭部を掻きながらバツの悪そうな顔する織斑君に苦笑いを浮かべる篠ノ之ちゃん。

 

「うう……まさかここまで大所帯になるなんて……」

 

「ホントはお前達だけ置いて行こうかと思ったんだが、申し訳ない」

 

 がっくりを項垂れる凰さんに彼女の肩を叩く自分。

 その後ろには……

 

「一夏だけと一緒に行って、私だけは除け者だなんてつれないだろ? な?」

 

「私の目の前で箒ちゃんだけを誘っておくなんて、ホント生殺しだよねー?」

 

 織斑さんはショートデニムパンツに黒のタンクトップ。篠ノ之さんはシャツにスカートといった感じの私服で、右側にいる織斑さんは自分の肩に腕を回し、篠ノ之さんは逆の方に自分の腕を組んでくる。

 

「ええい、こんな炎天下にくっつかないで下さい」

 

 そう言うと二人はあっさりと引く。これまでの経験則上嫌な予感しかしない。

 

「ま、そうだな」

 

「今日は暑いからねー」

 

「……今日はやけに素直だな。それじゃあ、みんな揃いましたんで行きますか」

 

 IS学園の学生メンバーから白い目で見られつつも、とっとと水着に着替えに更衣室に向かうのであった。

 

 

――特に何もなく10分後

 

 

「やっぱ野郎は早えな」

 

「そうだな、友兄」

 

 とっとと着替えた自分と織斑君は一足早くに予め設定しておいたウォーターワールド内の喫茶店で女性陣が来るのを待っていた。

 二人共テーブルに座り、自分はアイスティーを、織斑君はアイスコーヒーを飲んでいる。水着はつい先日の臨海学校と同じだ。

 

「ちょっとそこのお兄さん達? 私達とどう?」

 

 二人でボケ~っとしてると、いかにも遊んでますと言わんばかりの若い女性が4~5人でこちらにやってくる。

 

「あ、あの」「スマンが連れを待っててね、他をあたってくれ」

 

 愛想良く笑いながら『また』やんわり断ろうとする織斑君よりも先に、自分は露骨に嫌そうな顔をしながら、手を降って――所詮、人払いをする手の振り方で取り付く島もなく断る。

 

 女性達はチッと静かに舌打ちをするとそそくさと去って行く。

 

「……もうこれで何度目だよ」

 

 ……言うまでもなく、彼女達の狙いは『織斑君』である。

 

「ははは……そういう日もあるさ。友兄」

 

「大体、お前さんがキッパリと断らねぇからだな……まあ、いい」

 

 内心、これ自分がついていかなかったらヤバかったんじゃ……と思いつつ。また逆ナンパされた時の断り文句を考えていると、腕時計型の待機状態に移行しているゲスト機から連絡が入ってきた。

 

『あー、アッキー……?』

 

「ん? 何だい? 篠ノ之さん」

 

 連絡を入れたのは篠ノ之さんだった。彼女は困ったような声でこう告げた。

 

『すまないけど、迎えに来てくれないかな? 場所は女子更衣室の出入り口付近』

 

「? …………あー、わかった。すぐにむかう」

 

 しばらく考えた後、すぐに察した。こっちもこっちだが、あっちもあっちらしい。

 

「友兄? なんだって?」

 

「このご時世に随分と古風な奴がいるらしい。女性陣を迎えに行くぞ」

 

 

 ――ナンパ野郎を追い払うこと更に10分後……

 

 

「あれが、俗に言うナンパですか……中々新鮮でしたわ」

 

「あれだけジロジロとアタシ達の身体を見られたのに平気そうね」

 

「私と姉さんは胸ばっかり見られてた……」

 

「全く、デリカシーが無いのは嫌いだよ」

 

「上着を着るように忠告していたのは正解だったか……」

 

 お前ら思ったよりも状況を楽しんでるなオイ…………

 織斑さんは上着の提案は助かりました。

 

「ふう、ナンパ野郎も追い払ったことだし、泳ごうぜ!」

 

 織斑君も楽観的だなぁ……また別れたところをナンパされないか、こっちはヒヤヒヤ物だというのに。気負い過ぎかな、いや周りが周りだしこれぐらいでいいだろう。

 

 最悪、ISの使用許可でも出しておこうかと考えているうちに屋内放送のチャイムがプール内に鳴り響く。

 

『本日! ウォーターワールド開店記念イベント! 水上ペアペアタッグ障害物レースは午後1時から開始いたします! 参加希望の方々は12時までにフロントの方にまで、奮ってご応募ください!』

 

 そして、アナウンスは爆弾を1つ放り込んだ。

 

『優勝賞品はなんと! 豪華温泉旅行をプレゼント! 他には……』

 

 ズン、と女性陣の空気が一変する。あ、これは獲物を狙う肉食獣の目ですわ。

 

「お、面白そうだな。友兄やろうぜ!」

 

 ――アカン

 

「……篠ノ之、組むぞ」

 

「了解しました」

 

 この瞬間、織斑さんと篠ノ之ちゃんがタッグを組み……

 

「二人共生身なら……勝機は無くもないわね……セシリア! 組みましょう」

 

「ええ、いいですわよ」

 

 織斑君のこの一言によってある意味組み分けは瞬時に決まった。自分は出場確定ですか……

 

「……まあ、いいか。久しぶりにのんびりと身体を動かせるし」

 

「それでは、皆様方。御武運を」

 

「束さんは運動ニガテだから応援にまわるねー」

 

 どうやらチェルシーさんと篠ノ之さんは参加しないようだ。

 篠ノ之さんはともかく俗に言うメイド服姿のチェルシーさんには無理か。

 

「それにしても、チェルシーさんは水着に着替えなかったのですね」

 

「セシリア様の専属侍女(メイド)ですので。岡部様が見たいのであれば、またのご機会に……」

 

 そう言って茶目っ気のある笑みを浮かべ、人差し指を唇にあてるチェルシーさんなのであった。

 

 

   ■   ■   ■

 

 

「さあ! 第一回ウォーターワールド水上障害物ペアタッグレース! 開幕です!」

 

 司会のお姉さんがあざとく胸を揺らしながら叫ぶと、その効果(?)もあってか会場はおおいに盛り上がった。オルコットさんや篠ノ之姉妹の方が大きいな……

 

 主に野郎共の歓声と拍手が大きいのは、主に参加者が自分と織斑君以外全員女だからであろう。

 そして、女性達の歓声と拍手が大きいのは唯一の男性参加者である自分と織斑君がいるからであろう。なんとも現金である。

 

 なお、他の男性参加者は受付にて『お前空気読めよ』という雰囲気に押し負けて撃沈した模様。織斑君効果万歳。

 

「さあ皆さん! 参加者達に今一度盛大な拍手を!」

 

 再度巻き起こる歓声と拍手に参加者は手を降ったり、飛び跳ねたりと色々飛び跳ねたりとしている。

 

「お、この娘いいかも」「あの娘胸デケェ」「貧乳美少女キタ」「おい、彼処の連中、とびきり美人ばっかだぜ」「こんな中に男二人かよ」「物好きな奴らだぜ。俺達は門前払いされたのによ」「私、あの人にならお姉さまって呼ばれてもいい!」「応援はしないので、束様」「ん? うん。どうせ身内が勝つでしょ」「あの男の子可愛くない?」「隣の男の人、ガッシリしてる……」「あんまり見ないよね」「兄弟かしら?」「弟くんの方がイケメンだけど兄さんの方もそこそこ……」「俺、あの娘になら踏まれてもいい……」「あのとびきり美人なオネエサマにか?www」「いや、あの貧乳美少女だよ! ニーソ込みなら最高だ!」「お前の好み(性癖)はよくわからん」

 

 ガヤガヤと観衆が自分達を品定めをしていく中、自分のところの身内は特にどういうリアクションも無く、淡々と準備体操をしていた。 

 

「準備はいいか? 篠ノ之」

 

「ええ、問題ありません」

 

 臨海学校と同じ水着でそのまま腕を組んでズン! と堂々と構えているのは織斑さんと篠ノ之ちゃんのペア。ドマゾな男共がよってたかってきそうなほどにSっ気を漂わせている。

 

「ん、しょっ……とそういえばセシリア、この前と水着違うわね?」

 

「ええ、屋内型のプールなこんなのがいいかな? と思いまして」

 

「ふーん」

 

「それにしても鈴さんこそ、この前よりも引き締まったいいカラダですこと。正直、少しばかり羨ましいですわ」

 

「ふふーん。この夏が勝負だからね~」

 

 のんびりと会話しているように見えて、その実柔軟等の準備体操は十二分に気合を入れている。オルコットさんと凰さん。

 

「やっぱ、俺……参加するんじゃなかったかなぁ……」

 

「言い出しっぺの法則だ。諦めろ」

 

 大勢の人間に好奇の目で晒される自分と織斑君は半ばげんなりしていた。

 織斑君と自分はこの前の臨海学校と同じ格好なのだが、自分場合は白騎士事件の関係者――ISゲスト機の搭乗者なのはメディアに露出して周知の事実なので、誤魔化すためにも髪を一時的に金髪のオールバックにして、スポーティなサングラスをかけている。

 

「では! 再度ルールの説明です! この舞台は50メートル四方の巨大プール! そしてゴールはその中央に浮かぶ島に渡り、そこにあるフラッグを取れば勝利です! なお、その島に行くためには円を描くように――ちょうど渦潮のように外側から内側へと突き進んで頂きます。

 その途中途中では、各種障害物をご用意させていただきます。障害物は基本的にはペアでなければ抜けられないようになっております! つまりは二人の相性と友情がこのレースを勝利に導くための重要なキーでしょう!」

 

 司会のお姉さんの説明を聞きながら、再度コースの下見と分析を行う。

 

 ――中央に浮かぶ島……ってのが中々厄介だな……

 

 なんと、ゴール地点の中央の島はワイヤーで宙吊りに吊られているのである。しかし、何かしら方法はあるはずだ。

 

 ――ま、そこはともかく、中々凝ったギミックじゃないか

 

 コースを一通りみてそう思う。だが……

 

 ――まあ、一般人向けだな

 

 所詮はそんなものである。これなら軍隊顔負けの厳しい訓練を積んでる代表候補生や織斑さんでも平気だろう。

 

 彼女達は一般男性は愚か、レベルで言うなら本職の兵隊さんレベルだろうし。若干ベクトルはズレるがな……

 

 あくまで一般人の域である織斑君に自分がついたのは案外よかったのかも知れない。

 

 いくら軍隊顔負けでも……

 

 ――個人で組織や軍隊を負かす連中(V.S.S.E.エージェント)国連が極秘裏に設立した部隊(G.H.O.S.T.)には敵わないだろうし

 

「……ま、(前世)の職業の話なんだけどね」

 

 

 自分のちょっと優越感混じりの独り言は観衆の声にかき消されるのであった。

 

「さあ! いよいよレースの開幕です! 位置について! よ~い……」

 

 パァンとピストルの火薬が炸裂する。40名20組のバトルロワイヤルが始まった。

 

「甘いッ!」

 

 早速隣のペアからの妨害である織斑君狙いの足払いを庇う。

 そのままカウンターで水面へ……もいいが、相手は女性。手荒なことはできない。

 

「友兄!」

 

「先にいけ! うかうかしてると追い抜くぞ!」

 

「わかった!」

 

 相方さんの突進を軽く躱すついでに足を引っ掛けて、水面へと落とす。

 このレースは『妨害OK』、なので早速逃げ切りを目的とするグループと、先ほどのように妨害でライバルを蹴落とすグループに別れる。

 

「水着美女と徒手格闘なんざ、G.H.O.S.T.の演習(パラダイスモード)以来だよ! っと……」

 

 また襲い掛かってきた新たなペアにジリジリと前進しつつ応対しながら、思考する。

 

 さて、今の小競り合いで少しばかり出遅れてしまった。先頭の逃げ切りグループにはやはり、織斑さんと篠ノ之さん、凰さんにオルコットさんのいつものグループがいて、織斑君は上手いこと彼女達に護衛して貰ってるようだ。まあ、流石に姉の目の前で織斑君を落とすのは気が引けるのであろう。織斑さんは多分なんとも思ってないと思うけど。

 流石は代表候補生達と現役IS操縦者……しかし、大立ち回りを見せてしまったためか会場の注目を集めてしまっているようだ。逃げ切り組も妨害組もすっかりそちらの方に標的を定めたらしい。

 

 ――彼らまでの距離はそこそこ、障害? 飛び越えればいいじゃないか

 

「自慢じゃないが、俺は100メートルを10秒フラットで走れるんだ。つまり脚力には自信アリってことさ」

 

 女子レスリングと女子柔道のメダリストを水面へと叩き落とした後、2つ目の島から走り幅跳びの要領で『翔んだ』。

 

 ――文字通り翔んだのだ。

 

 本来、コースをは外周部から徐々に中心点に向かう。そのために島が用意されているのだが、中心点に向かうための島は直接行けないように距離大きく離されて工夫されている。

 

 ……だが、それはあくまで常人に限った話。

 

「おい! なんだあいつは!?」

 

「ポンポン跳んでやがる……!?」

 

 聴衆の驚愕の声をよそに位置決めなのか単なるオブジェクトなのかはわからないが、大きなフロートブイからフロートブイへと超最短距離で先頭グループを追いかける。そして……

 

「な? うかうかしてると追いぬくぞ、ってな」

 

「友兄! どうやって!?」

 

 中央の島の1つ手前の島で、先頭グループと合流を果たした。

 

「最短距離で翔んできた」

 

「……そういえば、岡部。昔高校の4階から転落しても無傷だったな……」

 

「はは! 今でも記録は破られてないだろうな!」

 

 織斑さんの言葉に冗談を返しながら、他の女性陣達の『うわぁ……』という視線をよそに最後の中に浮かぶ島を見上げる。

 

「……はっ! それよりも友兄! 早く!」

 

 そう言って、ゴール地点の島から垂れ下がっているロープを指さす織斑君。

 最先頭はやはり、篠ノ之・織斑ペアか……

 

「なあに、そう慌てるなよ」

 

 そう言って、自分は浮島に背を向けて、腰を落として腕を組んで差し出す。

 俗に言う1人では登れない壁とかを2人で登るときに使うアレである。

 

「さあ来い!」

 

「友兄……2メートルとかの壁ならまだしも、それは無理だって」

 

 流石に織斑君もドン引きだった……確かに、水面から浮島までは10メートルあるかないかだ。だが、自分にはできる。

 

「なあに、俺を信じろ!」

 

 最初は渋っていたものの、やがては覚悟を決めたのか……

 

「……まったく! わかったよ! やりますよ!」

 

 織斑君は助走をつけて走りだし、自分の手のひらに利き足を乗せて膝を曲げた。

 

「……オラァァァ!!!」

 

 そして自分は渾身の力を込めて織斑君を上に跳ね上げさせた。

 前世での最盛期に比べてやや力は劣っているものの、織斑君はいとも簡単に浮島の上に着地。一気に一番手へとなった。

 

『……岡部!』

 

「すみませんねー。これはズル(IS)じゃなくて素ですよ」

 

 プライベート・チャネルで咎めるように自分の名前を呼ぶ織斑さんに対して、素直に答える。

 

 昔においての最盛期はV.S.S.E.の訓練の敵役でワイヤーアンカーに引っ掛けたSUVを投げ飛ばしたり、フォークリフトや船舶用コンテナを蹴り飛ばしたりできたが、V.S.S.E.の訓練をまだ受けてないこの身ではこれくらいしか再現はできないか……

 

 ――ま、ミサイルを持ち上げるなんて芸当は昔もできないけどね。

 

『……ぐぅ』

 

「ま、野郎同士にしかできない協力プレーってやつですよ。」

 

 自分がそう答えるのと織斑君がフラッグを取ったのは、同時の出来事であった。

 

 

   ■   ■   ■

 

 

 その後は自分のビックリ人間っぷりを見たのか、身内に手を出そうなどと思う不埒なナンパ野郎は一切居なくなり、のんびりとウォーターワールド内を過ごして無事に豪華温泉旅行のチケットを貰い。脳内の『夏の織斑君ハーレム計画』に修正を加えながら、織斑姉弟を自宅に送り届けた後、自宅に向かうのだが……

 

「ん? さっきからオルコットのところの車が後ろからついてくるんだが……」

 

 後ろからオルコットさんの車がついてきているのだ。前のようなロールスロイスではなくアストンマーチンがだ……ボンドカーかよ……

 

 しかし、どうしようもないのでそのまま自宅に戻ると空き家だったはずの隣の家にトラックが……しかも軍用車両が。車種からしてドイツ連邦軍の所属のはずだ。

 

 ――大体読めた。が、まあいいか。『夏の織斑君ハーレム計画』がやりやすくなる。

 

 昔から思ってたが、自宅広すぎだと思うんだ。篠ノ之姉妹に凰鈴音入れても少しばかり余裕がある。このまま織斑姉弟を入れて先に『夏の織斑君ハーレム計画(幼馴染みver)』を発動させようか……。

 

 自分と同様に篠ノ之ちゃんも凰さんも察したのだろう。お互いに『お金持ちってすごい……』と言わんばかりに苦笑いを浮かべる。助手席に座ってる篠ノ之さんは全てお見通しなのか『わくわく、わくわく』と言いながら、物凄い期待の眼差しでこちらを見ていた。

 ガレージに車を入れてみんなを家の中に入れる。アストンマーチンも隣の家に入っていった。そして予想通り、隣の家から見知った顔が出てきた。

 

「うん。君だと思ったよ。楯無さん」

 

「あら? 私はほんの少しのお手伝いをしただけよ?」

 

 そう言うと、IS学園の制服を着た更識楯無はさも心外だと言わんばかりの表情を浮かべた。

 

「焚きつけた癖によく言うよ」

 

「乙女心を弄ぶ貴方には言われたくないわ」

 

 扇子を広げて『訴訟』の文字をこちらに魅せつける楯無さん。

 

「あれだ、おたくの妹さんが餌食になってるあの子(織斑一夏)の方がよっぽどなんだが……」

 

「あれは無罪です」

 

「控訴・上告も辞さない構えである」

 

「残念、請求は却下されました」

 

 なんという理不尽。

 そんな感じに楯無さんとじゃれついて遊んでいるが、そろそろ本題に入ろうと思う。

 

「で、ドイツの二人は確定として他には?」

 

「フランスの娘とメイドさん込みでイギリスの娘、そして私達とメイド!」

 

 『現金一括で購入しました』と扇子の文字が表示される。

 

「ここって結構な高級住宅街の中でも一番広くてお高い土地なはずなんだが……」

 

「ええ、4カ国の割り勘でお安く抑えたわ」

 

 すごい所帯じみてた……。

 

「それに、引越業者代わりにここ最近、ドイツ連邦軍から国連軍駐屯地の方に移転してきた部隊がハルフォーフ大尉とボーデヴィッヒ少佐の口利きで軍用トラックを出してくれたから助かったわぁ」

 

 お金持ちってセコイー。

 

 だがそんなことよりも聞き捨てならないことを聞いた。

 

「まさか……」

 

「ドイツ連邦軍の災害救助部隊って名目の特殊部隊よ」

 

 やっぱり黒ウサギ(シュヴァルツェ・ハーゼ)さんですかそうですか……。

 楯無さんからみた自分はさぞ愉快な顔をしているだろう。楯無さんは容赦無く茶々を入れる。

 

「私も驚いたわぁ。貴方彼処だと織斑千冬並みに人気があるもの。なにかやらかした?」

 

「俺は何もやってねぇ……と言いたいが、めちゃくちゃ心当たりがある」

 

 お前も一部共犯だけどな! と、心の中で叫んでおく。

 

「知ってた。じゃないと副隊長殿(クラリッサ・ハルフォーフ)が貴方にぞっこん……なわけないよねぇ」

 

 楯無さんがそう言っていると、噂の副隊長殿がこちらにやってきた。こちらもいつものスカートタイプのスーツ姿だ。

 

「てっきり欧州組は母国の方に帰るもんだと踏んでいたが、ここまで積極的なのは予想外だな」

 

「これも我らが隊長殿(ラウラ・ボーデヴィッヒ)とご学友達の為ですから」

 

「で、本音は?」

 

「私にもご利益があってもいいでしょ? 強力なライバルもいますし。あくまでもこれは夏休み――個人のプライベートですし」

 

 そう言って、にっこりと笑みを浮かべるハルフォーフさん。強かだなぁ。

 

「なんでこんな男の事が好きなんだろうね? 楯無さん?」

 

 先ほどの仕返しに楯無さんに無茶ぶりをする。

 

「なんでここで私にフルの!?」

 

「いやぁ、だってそれなりに付き合いがあるしねぇ……」

 

「正直に言ってごらん? 先生怒らないから」と楯無さんをからかっていると

、ずっと外で突っ立っていたのを不審に思ったのか、ほぼ同時に互いの家から人が出てくる。

 

「先生、いつまで外にいるのよ」「岡部さーん。姉さんが『今日の晩ご飯作ってー』って言ってましたよ」

 

「ハルフォーフ先生ー、何かあったんですか?」「クラリッサ、いつまで外にいるんだ?」「姉さん、さっさと荷物を運んでください」

 

 ――ピキピキッ!

 

 篠ノ之箒と凰鈴音、シャルロット・デュノアとラウラ・ボーデヴィッヒ、そして更識簪の2グループはお互いにお互いの陣営を見て、カチンと凍りついたような音がしたような気がした。そして……

 

 自分はこれから訪れる大絶叫に対しておとなしく両指で耳を塞いだのであった……。

 

――さあて、それなら明後日の『特別演習』の時には素早く演習場に行けるな……。

 

 思わず、自分は笑みを浮かべたのであった……。

 

   ■   ■   ■

 

 ――時間はおおよそ1ヶ月前に遡る。

 

「特別演習ぅ!?」

 

 用務員室の一角で、轡木十蔵(くつわぎじゅうぞう)さんとの『世間話』をしていた……。

 

「ええ、そうなんです。貴方には今年の代表候補生に対する特別演習全般を任せようかと思っているんです」

 

 いきなり出てきたIS学園の限定行事であるらしい『特別演習』という物について、その全てを一任された。権力者怖い……。

 

「いきなりそんな事を任されても反応に困りますよ!?」

 

「ええ、そうでしょうね。まあ、そういう反応を楽しむ為にわざとそう言いましたからね」

 

 そう言って、『今のは中々いいリアクションでしたよ』と付け加えると、湯のみに入っているお茶をのんびりと飲んだ。

 

「まあ、簡単な事ですよ。『実銃や実際の携行火器・兵器』の取り扱いの訓練の事です」

 

「それで……演習場はどこでやる予定なんですか?」

 

此処(IS学園)です」

 

 ――は?

 

「IS学園の敷地内でやっているんです。銃器や携行型の迫撃砲の訓練とかを」

 

「…………ごめんなさい。少しばかり理解するための時間をくれませんか?」

 

 思考能力がガクンと落ち、もう反射レベルで会話をしてしまった。

 轡木さんはのんびりと湯のみにお茶を注いでいる。

 

「そうなるのも無理はないでしょう。IS学園の設立当初に各国の軍事方面の方々から『そういう訓練』を導入するようにとの強い要請(脅迫)があったもので……まあ、悪しき風習ってものですよ」

 

「は、はぁ……」

 

 落ち着いて思考能力を取り戻すために、自分もお茶の入った湯のみに口をつける。十中八九、妨害工作なんだろうなー。しょぼいけど……

 

「今の今までそう言った分野の人材がいなかったので改善のしようも無く、そう言った外部協力者も呼べなかった物でして……」

 

「で……自分にと……」

 

「ええ、更識楯無くんのお墨付きとくれば躊躇する理由もないでしょう。どうか、お知恵の方を貸していただきたいのです」

 

 確かに何らかの早急な改善が求められる…………せっかくの機会だ。ここは前世知識を用いて度肝を抜くような奴を選んでしまおう。代表候補生達にはかわいそうだが、自分のスキルアップも兼ねてとっておきの『演習場』を用意しようではないか。

 その組織は国連所属なので干渉されにくく、なおかつ新しい刺激はウェルカム! といったスタンスなので特に問題はないだろう。最悪自分を餌にすれば問題無く食いついてくる。

 

 

 ――そして何よりも『実戦形式』なのが嬉しいッ!

 

 

 その場所は前世での『V.S.S.E.』という組織での訓練の次に厳しかった場所。

 国連軍のホスト(装脚式走行機構)型戦車を用いての軍事訓練コマンドの通称……

 

 ――ウォートラン(WARTRAN)だ!

 

 

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