今回はマイナー作品ネタを使用しています。
目滑り注意。
後書きと活動報告にネタの解説と誘導を行いますのでわからなければそっちで補完をお願い致します。
織斑一夏達は走っていた。
綺麗な青空の下、無機質なコンクリートジャングルの中を緑迷彩の『超特殊ボディアーマー』に白を基調とした戦闘服・ヘルメットを装備し、セミオートマチックのアサルトライフルとその弾薬、そしてボディアーマーと同様の材質でできた盾を持って、指定されたエリアまで駆けていた。
「ぜぇ、ぜぇ……ここがそのエリアか?」
IS学園とは違う、十何キログラムもの荷物には未だに慣れない織斑一夏は軽く息を整えてから、同級生に尋ねた。
「ええ、ここで間違いないわね」
「大丈夫ですか? 一夏さん。それと、簪さん?」
間違いないと答える凰鈴音に、そんな織斑一夏と比較的体力がない更識簪を心配するセシリア・オルコット。
「……まだ問題は無い」
「シャルロットは大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ。ありがとう箒。箒は?」
「ああ、問題は無い、大丈夫だ。」
問題は無いと答える更識簪にシャルロット・デュノアと篠ノ之箒はお互いに確認しあう。彼女達も織斑一夏と同様に緑迷彩の『超特殊ボディアーマー』に白を基調とした戦闘服・ヘルメットを装備している。
ここは欧州のウォートラン実戦訓練用ベース。
コンクリート製の擬似的な建物と機動兵器を格納するための大型倉庫や兵舎が多く点在している。
今年のIS学園の『特別演習』は学園を飛び出し、世界各地のウォートランのベースにて行われている。仕掛け人はもちろん、教員の岡部友章だ。
――そもそもウォートランとは何か?
国連軍の軍事訓練コマンドの通称である。
この訓練は新兵のみならず、全ての将兵が対象となっている。
この軍事訓練コマンドは陸軍・海軍・空軍全てに展開し、基礎訓練から特殊技能訓練、戦略シミュレーションに至るまで多岐に渡る。特に陸軍では通常の
兵科も普通科、機甲科、航空科、特殊科等多岐に分かれており、各々に重複してプログラムを受けることも可能。また、特に際立った成績を上げた者に対しては正式に受勲・昇格が行われる。
各演習を担当する教育担当官達は全員、各分野におけるスペシャリストで、発足時に各国軍より招集された者が殆どである。
訓練参加者は皆、特殊ボディアーマーを着用し、演習は全て実弾を用いた完全な『実戦形式』で行われる。
被弾から最大限に身を守ることが義務付けられ、『教官チーム 対 訓練生チーム』のスタイルが取られ、人身事故を最大限に減らす方策がとられている。
訓練生は敵チームを排除する等の演習ミッションを遂行し、かつ良い成績を上げ、各個人やチーム(小隊)の評価を高めて最高の兵士と認められる事を目指している。
「いきなり友兄にISに乗って欧州まで翔んで行くと言われた時はヒヤヒヤしたな」
「まあ、それでも仕方がないと思わせるのが岡部さんなんだけど……」
『遅いぞお前たち!』
エリアに辿り着いた一同にメガホンでの大音声が響き渡る。一同は音の方に視線を向けると、近くの物見やぐらに1人の女性がいた。
ヘソ出しタンクトップに白のローライズではあるが、彼女も立派な1人の教官である。
『ここまで来るのに一体いくらかかっている! テリー教官がお待ちかねだぞ!』
「お前たち! 何をグズグズしている!」
声のした方に駆けて行くと、彼女の3メートルくらい下にボディアーマーに半パンというスタイルで佇んでいる男がいる。今回の実戦訓練の教官――ジェイク・テリー教官だ。
織斑一夏達がウォートランに来てから、施設の案内や訓練の説明を行ってくれた人物なので印象にすごく残っている。
「こっちだ! ロープを使って降りてこい! いそげ!」
織斑一夏達は急いで近くにあったロープを用いてラペリング(懸垂降下)を行う。そして、テリー教官の前に横になって全員並んだ。
「初めての実技訓練ということで、今回は俺が引率を務める。
各国の代表候補者の腕前、拝見させて貰おう。
では行くぞ! 遅れるなヒヨッ子ども!」
物見やぐらの上から、先ほどの女性――テリー教官の副官を務める、ターナー教官が説明をいれる。
『お前たちの任務はテリー教官に付いて行って、倉庫内に格納されたSTの訓練機を撃破することだ! わかったな!?』
「「「「「「サー! イエッサー!!」」」」」」
――地獄の始業ベル! 訓練機鎮圧作戦! 開始!!
「遅れるな! ひよっ子ども! ついてこい!」
発砲音がする中、織斑一夏たちは教官の後に続く。
「身を隠せ! 無駄に体をだすな! そら11時の方に敵3だ! 撃て!」
教官が指をさした先には黒を基調とした戦闘服一式に同じボディアーマーを装着した歩兵達がいる。
「うおおお!」
織斑一夏がやや興奮しながら、アサルトライフルで射撃する。他のメンバーもそれに合わせて射撃を開始する。
6対3という数の上に先制攻撃なので、瞬く間に敵兵は倒れた。ボディアーマーや戦闘服のおかげか出血は無く、ただ気絶しているだけである。
「一夏! 下がれ!」
やや織斑一夏が突出してるのを心配して、篠ノ之箒が叫ぶ。
「あ! あっちに敵!」
「敵に狙われている時は身を隠すか盾で守れ!」
その瞬間、教官からの指示が織斑一夏に飛ぶ!
「い、イエッサー!」
織斑一夏はほぼ反射的に持っていた盾で身を隠した。
その瞬間、盾を構えた腕に衝撃と、彼の耳に甲高い音が聞こえてくる。弾丸が盾に命中しているのだ。
その他にも織斑一夏の体を掠めるようにいくつかの弾丸が飛んでくる。一発一発の弾丸が身を掠めたり、盾に命中するごとに織斑一夏の心の中ではドクンと心臓が跳ねた。
「うわぁ!?」
「しっかりと身を隠していれば大丈夫だ! ビビるんじゃない!」
教官はアサルトライフルで牽制射撃を行いながら、更に女性陣に檄を飛ばす。
「お前達! ボサッするな! 早く援護しろ!」
その一言で我に返った女性陣はすぐさま織斑一夏を援護、敵を殲滅していく……
「よし! 全員、この倉庫の中に突入だ!」
教官からの入れ、というハンドサインを汲み取って、織斑一夏が突入を指示する。
「うわっ! これがスタンディングタンクですの……」
「縦に長い分、すごく大きく感じるよ……」
セシリア・オルコットとシャルロット・デュノアは初めて見たスタンディングタンクの大きさに驚いている。
「HR-10/GXS 俗称:オリジン-ワン。
スタンディングタンクの中でも黎明期に作られた機体……」
彼らの前に立ちはだかるのは、全高4~5メートルの
両腕にガトリングガンを、胴体部中央には極々一般的な120mmタイプの主砲を備えている。
「簪! 弱点は!?」
織斑一夏は物怖じせず、アサルトライフルの銃口をスタンディングタンクに向けた。
「基本的にはロケットランチャーで撃破するのが王道。」
更識簪のその言葉に織斑一夏はアサルトライフルを肩に掛けて、
「けど、これは一発きりしかないぞ!」
「一夏さん! 私達が上階のキャットウォークに登ってアレを引きつけますわ! 大きな隙を晒したら思い切りやってくださいまし!」
「セシリア! アタシは右の階段から上がるわ! あんたは左に!」
凰鈴音はセシリア・オルコットの言葉を聞くとすぐさまそう叫んで、駆け出した。
「言われなくてもわかってましてよ!」
「私は鈴をカバーする! 簪はセシリアのカバーを! シャルロットは一夏をカバーしてくれ!」
駆け出した鈴の行動力に感心半分、向こう見ずさに呆れ半分の様子で、仕方がなさそうにアサルトライフルからサブマシンガンに取り替えた篠ノ之箒は矢継ぎ早に支持を出してから、鳳鈴音の後を追う。
「スタンディングタンクは、胴体部中央と脚部の間の隙間に存在するジョイントを撃ちぬく事や、視界確保の為にタンクから身を乗り出す操縦士を撃ちぬく事で小銃での撃破も可能……だからそこまで緊張しなくてもいい」
更識簪は織斑一夏にそう言うと、セシリアの後を追った。
「? 相手の操縦士もそんなに練度は高くない? 一夏! 相手がもたついている内に!」
「わかった!」
シャルロットが相手の操縦士がそこまで操縦の腕が上手くないことに気づくのと、相手の操縦士のカメラにロケットランチャーが写ったのはほぼおなじであった。
オリジン-ワンは足を開いて、整列時の安めの体勢をとる。
(アイツ! 主砲を撃つ気だ!? もしかして僕、読み間違えた!?)
シャルロット・デュノアはその動作は攻撃の予兆だと察知し、アサルトライフルで何とか牽制しようとするが、距離が少し遠いので弱点のジョイント部には攻撃が届かない。
(ダメだ! 距離が少し遠い! けど、簪の話が本当なら!)
シャルロット・デュノアはセミオートマチック式のスナイパーライフルを取り出してスコープを覗いた。
(イチかバチかだ!)
「当たれっ!」
スナイパーライフルでジョイント部に狙いを定めて、シャルロットは引き金を引いた。
直後に、スタンディングタンクの主砲と織斑一夏のロケットランチャーがほぼ同時に発射された。
対戦車榴弾がそのままスタンディングタンクに直撃、撃破することに成功。そして、スタンディングタンクの120mm砲は幸運にも狙いが外れて、シャルロット・デュノアと織斑一夏の後ろにあった大きな扉を吹き飛ばすだけに至ったのであった。
■ ■ ■
ウォートランでのおおよそ一週間の『特別演習』も佳境に差し掛かってきた頃、自分は織斑君たちと同じ白を基調とした戦闘服一式を着て立体投影型ディスプレイに表示された映像を見ていた。
「うんうん。やはり彼らには良い経験になったようだ」
ウォートランの訓練基地から送られてきた織斑君たちの活躍と成長ぶりを見て大方満足する。
「先せ、じゃなかった隊長。その映像は?」
横から覗きこむようにして、ラウラ・ボーデヴィッヒが不思議そうにしている。今まで織斑君たちが訓練プログラムを受けてきたように、自分とラウラ・ボーデヴィッヒもまた同様に幾つかの訓練プログラムを受けてきている。
お互いに二等兵からのスタートとなったが、今では曹長と伍長の関係になってしまった。お陰で本来、ドイツ連邦軍においては少佐の筈なラウラ・ボーデヴィッヒは自分に対して隊長と呼ばなければならないというおもしろ現象が起こってしまっている。
そもそも、下士官や准士官でもあるこの階級だと本来はだいぶ年齢を重ねなければなれないシロモノだが、年がら年中『戦争ごっこ』という名のゲームを行っているウォートランでは異常に経験値が貯まっていくので、こんな通常では不可能なスピード出世が可能である。
――余談だが、日本の警察官・海『洋』保安官・陸上『防』衛官では幾度もなく行われているヤクザ『極道会』やアジアンマフィア『龍頭』や
同じような理由でG.H.O.S.T.も似たような昇級システムで、前世での除隊目前ではなんとか准将に上り詰めていた。
「ん、織斑君たちの作戦を撮った映像」
そう言って、ラウラ・ボーデヴィッヒに立体投影型ディスプレイを見せた。
「そうか、
うんうんと頷きながら、元気にやっている織斑君たちの映像を見て満足そうにするが、少しばかり表情に陰りが見えた。
「済まないな……一応、軍隊に所属しているボーデヴィッヒさんがいると、今回の特別演習の意味が無いからね。今回は分けさせて貰った」
「いえ、その判断は間違ってないと思います。先生の考えの通り、私が居ると嫁たちのコンビネーションが育たないでしょう」
自分の表情を察されたのに気づいたのであろう。いつものキリッとした表情に戻ると、ディスプレイに向けていた顔をこちらに向けた。
「それに嫁たちがやっているのはルーキー向けの比較的の易しい訓練プログラムです。しかし、私と先生が今までやってきたプログラムは古参兵向けの訓練プログラムだとわかります。
わざわざ各人のレベルに合わせた特別演習のカリキュラムを組んでくれた先生には感謝しています。それに……」
ラウラ・ボーデヴィッヒは軍人特有の冷酷な表情から一転……
「
綺麗な笑みを浮かべてそう言ったのであった。
そういえばそんな話をして、かっこ悪くフランスに行ったんだっけ……
そういう意味としては今回の特別演習に無理やりながら参加したのがいい方向に向かってくれたようだ。
心の中でボーデヴィッヒさんにスマヌ、スマヌ……と謝っていると今回の教官がやってきた。
「よう!」
恐らく彼の専用機であろう
こいつは無類の兵器好き……要は兵器オタクでアブナイ奴だが、全ての火器・兵器の知識と運用に長けている。
しかし、その優秀さとは裏腹に階級は軍曹である。その理由として自分の興味のないことには見向きもしない性格が災いしているからであると挙げられる。
ハーネマンは自分とラウラ・ボーデヴィッヒを見定めるとそのまま彼の専用機――HT-46M/GG-R 俗称:ヴィルトファングで立ち去っていった。
――こりゃあ、前の演習でやられたことを根に持ってやがるな……
ウォートランに入隊初日での実戦訓練において、夜の兵器工場に潜入し、教官を捕縛する事を主旨とした作戦に参加した時に相手の教官が彼だったのだ。
自分の愛用の銃器を見つめて『ああ、お前は今日も美しい……』と呟く彼にボーデヴィッヒさんは顔を青くし、自分が『ああ、ここでもか……』と呟いたのは想像に難くないだろう。
その時に彼を倒したのは自分とボーデヴィッヒさんだったのだ。
とりあえず、予習として前世知識からさっきのSTについて思い出すことにする。
HT-46M/GG-R ヴィルトファングは両腕に20ミリの6砲身のガトリング砲を搭載し両肩にはそれぞれ2連装ミサイルポッドが搭載されている。所謂――火力重視のSTだ。
そして何と言ってもこのSTの特徴はこれらの装備の一斉射撃である。
通常のSTでは発射時の反動で大きく機体のバランスが損なわれ、最悪の場合転倒、破損といった事があり得るが、この機体は機体構造を改善し、状況に応じた姿勢変更が可能となり、一斉射撃時に反動を上手くコントロールすることが可能だ。
次に汎用タンク。HT-03/BGX 俗称:ベルデ。二足歩行能力を備え、右手にグレネード砲、左手にガトリング砲を標準装備したもっとも基本的なタンクだ。
ここからさまざまな装備を追加していく事で多種多様なタンクに発展していく可能性を持っている。敵部隊の識別カラーとして暗めの色で統一されているが、環境に応じてカラーリングを変えている。
――もっとも、教官達の操るタンクと比べると操縦の腕は一段階落ちるようだが。
と行ったところで、こっちの部隊の指揮官がブリーフィングを開始した。
自分とボーデヴィッヒはすぐさま立体投影型ディスプレイを閉じて、話を聞く。
「今回の演習はここ中東で行う! 作戦内容は小型ヘリからの奇襲だ!
作戦開始後、小型ヘリから降下したらすみやかに散開、敵軍に占拠された施設を奪還するんだ! 車輌やスタンディングタンク等の激しい抵抗が予想される! 気合入れてけ!! わかったな?」
「「サー! イエッサー!」」
自分とボーデヴィッヒさんはすぐさま割り振られた小型ヘリに飛び込むように乗り込んだのであった……
■ ■ ■
「……と言うわけで、織斑君達には戦争ゲームをやってもらった訳ですよ」
自宅のリビングにて、自分主催のIS学園『特別演習』の内容を全て話し終えた後、最後に欧州のウォートラン実戦訓練用ベースで一緒に戦ってきた仲間とお世話になった教官達、そして自軍チームが運用している明るいサンドカラーのスタンディングタンクでもあるHT-03/NGX――ベイシュとの集合写真をひらひらと見せて終わった。
そして、ゆっくりとソファに座り込む。篠ノ之さんはテーブルを挟んで自分とは反対側のソファに座っていた。
「束さんいつも思うけどアッキーのそのコネは何処からきてるの?」
「まあ、秘密と言うことで……それにしても……」
自分はそう言うと、今の今まで視界から外していた人達に目を合わせる。いや、今の今まで篠ノ之さんだけ見るように集中させていた視野を大きく広げた。
「なんでお二人さんまでいるんですかね? 織斑さん? ハルフォーフさん?」
篠ノ之さんの左右に陣取り、今までの話を聞いていた織斑さんとハルフォーフさん。時折、質問や織斑君やボーデヴィッヒさんの状況などについて報告を入たりといろいろと話を交えていた。
しかし、特に呼んだ覚えの無い二人なので、どうして此処にいるのかと二人に疑問の声を投げかける。が、二人が口を開こうとしたその時、篠ノ之さんが割って入った。
「はいはーい。その件については束さんがあらかじめ呼んでおきましたー!」
そう言うと、織斑さんとハルフォーフさんは訝しげな表情を浮かべた。
「待て、束。私は岡部からここに呼び出された筈だ」
「ええ、私も
二人は自分にとって無視できない事を言う。自分も二人に同調して篠ノ之さんに説明を要求した。
「篠ノ之さん。これはどういうことなんだ?」
と言っても、どうせほんのちょっとした悪戯心からの犯行であることは明らかである。
あくまでも怒らずに、二人に説明をしてあげるよう促すように、口調自体は大変穏やかに言った。
「デートしようよ! 『みんなで順番に』アッキーと!」
篠ノ之さんのその言葉に、自分と織斑さんは呆れ、ハルフォーフさんはなるほど! といった表情を浮かべた。
■ ■ ■
『はあ、どうしてこんなことに……』
――ちょうどお昼頃、執事服を着たシャルロット・デュノアは内心で少し呆れながらもテキパキと仕事をこなしていた。
思えば、何かと常識が残念なことになっているラウラ・ボーデヴィッヒと一緒にウォートランから帰ってきてから気分転換代わりに買い物に行った時、その帰り道に困っていた女性に声をかけたのが運の尽きだったのであろう。
幸いなことにメイド服を着たラウラ・ボーデヴィッヒも……少々嗜好が捻れてしまっている方々にも大人気を博していたので、まあ……結果オーライというやつであろう。
――そうこう考えている内に喫茶店のドアが開き、新たなお客様が入ってきた。
「いらっしゃいませっ――お二人様でしょうか?」
所詮、営業スマイルという代物で喫茶店のお客さんに声をかけたシャルロット・デュノアであったが、あまりにも予想外な――完全に不意打ちを喰らった出来事に一瞬だけ絶句した後、すぐさま我に返り接客を続けた。
『なんで…………』
「ッ!――岡部!?」
「ああ、二人だ。案内を頼む」
『なんで
シャルロット・デュノアは心の奥底で思い切り叫んだのであった……
岡部友章と織斑千冬。IS業界に留まらず、最早知らない人はそうそういない二人の有名人。
それが依りにもよって二人揃っての御来店という自体。
シャルロット・デュノアにとってこの二人の仲はそれなりにも察しがついていたが、二人して
『岡部先生も織斑先生もいくら変装で誤魔化してるからって……』
髪を金髪のオールバックにして、更にスポーツタイプのサングラスをかけた岡部友章に、髪型をポニーテールにして黒縁眼鏡にした織斑千冬。
「でも、執事服着ている僕も言えたクチじゃないか……多分これお互いに察して気づいてない『フリ』をしている事だし……」
案外、人間って見た目のイメージに騙されやすいな……と、新たに学んだシャルロット・デュノアは二人を空いたテーブル席に誘導する。
二人は特に彼女に対してこれ以上のリアクションを見せるわけでもなく、すんなりと座る。
「あ、そこのウェイターさん。すぐ注文するから、少し待ってもらえるかな?」
岡部友章がシャルロット・デュノアにそう伝えると、彼女はそのまま待機する。
そして、岡部友章が織斑千冬にメニューを見せて、何にするか話合っている。
「岡部……なんでこういう所を知っているんだ?」
「そりゃ、ここの飲み物とお菓子が美味しいからじゃないですか? ここって従業員の服装はアレですけど、個人的には結構オススメですよ」
「私が言うのも何だが、こういう所を調べるのは女性の方が多いのでは?」
「紅茶コーヒースイーツが好きな
……が、彼は常に人差し指でトントンを規則的なリズムでテーブルを叩いている。
『岡部先生、モールス信号だなんて……スパイ映画じゃないんだから……』
呆れながらもシャルロット・デュノアは彼が言いたいことを即座に理解した。
『えーと……「 あ と で お は な し き か せ て ね 」ってそれだけなの!?』
――今しがた一瞬だけ、シャルロット・デュノアの脳裏に『ツッコミ役が欲しいなぁ』……と思い浮かぶ。
その後は、普通に二人から受けた注文をそのまま厨房に伝えると、そそくさと他の作業に従事した。シャルロット・デュノア個人としては大いに観察したいところではあるが、流石にずっと二人の様子を見ていられる程には、暇ではないのだ。
ある程度時間が立った後、注文されたコーヒーを出し終え、次の注文の品を持って行こうとするラウラ・ボーデヴィッヒとすれ違うので、先ほど起こった出来事を伝えた。
「なんと……やはりあの二人は教官と
「うん。正直、二人共喫茶店とかにはあんまり行かなそうな感じというか、そんなキャラクターだとは思わなったから意外だったよ」
そう言って、|二人《シャルロット・デュノアとラウラ・ボーデヴィッヒ》はそっと
「いやぁ、機会があれば一回食べてみたかったんだよね。シロノワール」
「確かに岡部が薦めるだけはあるな……全部食べるんじゃないぞ。二人で分けて食べるからな」
ウィンナー・コーヒーとシロノワールという、温かい生地のパンケーキの上にソフトクリームを絞り出して果物をトッピングしたスイーツに嬉々としてメープルシロップをかける岡部友章。
それに対して、織斑千冬はブラックコーヒーのみという何とも言えない組み合わせとなった。
「……」「……」
「ねえラウラ」「……なんだ」
「岡部先生のイメージががらがらと音を立てて崩れていくんだけど」
「
シャルロット・デュノアは、そう答えたラウラ・ボーデヴィッヒのソレは言葉に何かを悟った様な印象を持った。
彼女も彼女で何かあったのだろう……
結局、その後は織斑千冬と岡部友章は特に目立った(?)こともなく。会計を済ませて出て行った。
『ふう、一時はヒヤヒヤしたよ……』
やれやれ、と言わんばかりにシャルロット・デュノアは肩の力を抜いたのだった。
■ ■ ■
「ふむ……これでは埒があかないな……」
昼下がりの午後、ラウラ・ボーデヴィッヒは途方に暮れていた。
元はと言えば、シャルロット・デュノアの買物に付き添ったのがそもそもの発端ではあるが、それは仕方の無いこと――強制イベントか何かだと割り切りはついている。
『そこの銀髪メイドさん! 俺だ! 罵ってくれー!』と殺到する野郎共に、IS学園へ編入する以前、軍で『ドイツの冷氷』とまで呼ばれた時代の自身の絶対零度の視線と許しのない嘲笑で律儀に応えていくとともに、打開策をシュミレートしていく。
元々、軍で育った自分にとってこのような接客業務は不得意な分野であることはラウラも承知であった。
が、今の状況では必要な技能なので何とかして得なければいけないことも承知であった。
『正直、こういった特殊な趣向の店で助かったな……』
自身と同じ『女』の筈なのに執事服を着せられ『カッコいい』と言われて落ち込んでいた
しかし、『だが、これでいいのか?』という気持ちもラウラ・ボーデヴィッヒにはあった。
――よし! 決めた!
ラウラ・ボーデヴィッヒは覚悟を決めた。
『今度、新しく入ってきたお客様にはしっかりとした接客業務に挑戦してみよう』と……
万が一、見られて恥ずかしい人物……自身の
――そして、幾つものシミュレーションを重ね、万全の体制に整えた上でちょうどタイミングよく喫茶店のドアが開き、新たなお客様が入ってきた。
『……ええい! 勢い良く言ってしまえば良い!』
「いらっしゃいませー! 何名様でしょうかー?」
――その声はえらくラウラ・ボーデヴィッヒというキャラから大きく外れた口調であったのは言うまでもなかろう……完全な猫なで声であり、完全な営業スマイルであった……
――そして、ラウラ・ボーデヴィッヒはシミュレートのしすぎでしゃべる口調にだけ全神経を集中させてしまった……
――故に……悲劇(喜劇)が起こったのであった。
「隊――ッ!」
「――二人でお願いします…………クッ……」
新しく入ってきたお客様は……
一瞬頭の中が真っ白になったラウラ・ボーデヴィッヒではあるが、そこは腐っても佐官クラスのエリートドイツ軍人。何とか狼狽えることなく、二人を空いたテーブル席に誘導する。
岡部友章とクラリッサ・ハルフォーフもあまりにもキャラの違うラウラ・ボーデヴィッヒの姿に面食らうものの、直ぐに平静を取り戻した。
「嫁よ。ここは紅茶とチーズケーキが絶品だぞ。私一番のオススメだ」
「……そうか。じゃあお願いしようかな?」
先ほどのラウラのアレは見なかったこと扱いにして、気を使っている二人だが、それがラウラ・ボーデヴィッヒの心を抉るのは言うまでもない。
とりあえず二人の注文を受け、厨房に伝えると、シャルロット・デュノアが『何やってんだこいつら』と、言わんばかりの呆れた様子で岡部友章とクラリッサ・ハルフォーフを見ていた。
『……』
『ラウラ、うん……悲しい、事故だったね……』
『……もういっその事一思いにやってくれ……』
座り込んでのの字を書いているラウラ・ボーデヴィッヒの姿にシャルロット・デュノアは同情する一方、『まあ、これくらい茶目っ気があった方がいいかな?』とも思う。
「うーん、これはウバ茶かな?」
「そうだ、ここは季節に応じた旬の茶葉を使うらしい。」
そう言うと、クラリッサ・ハルフォーフはチーズケーキをフォークで切り分けてから刺して、それを岡部に向けた。
「?」
「今日は『デート』だろ? これくらいはしてもいいじゃないか。な?」
――とどのつまり、『あ~ん』的なアレである。
岡部友章は一瞬きょとんとした表情を浮かべたが、ソレを察したらしく。少しの間躊躇う。
……が、その様子を見たクラリッサ・ハルフォーフはそのままにこりと笑みを浮かべながらチーズケーキが刺さっているフォークを岡部に向け続けた。
素直に口を開けることに遅疑する様子ではあったが、クラリッサの笑みを浮かべながらの無言の圧力による賜物なのか、諦めて雛鳥のように口を開けてパクリ、と食べる。
「ふふっ、どうだ? 紅茶によく合うでしょ?」
クラリッサ・ハルフォーフがそう言うと、岡部友章はコクコク、と無言で頷きながら――流石に口に物を入れて喋る気はないらしい――そう答える。それも見た彼女は満足そうに頷き、フォークで次のケーキを差し出す。
「だけど教師陣の茶目っ気はいらないかな……」
シャルロット・デュノアはその様子を見て、今まで自分が(勝手ながらに)築いてきた岡部友章のイメージが、完全にガラガラと音を立てて崩れていくのを感じた……
――で、だ……
(しばらくして、やっとクラリッサ・ハルフォーフと岡部友章は喫茶店から出て行った。そして時間が静かに過ぎていく……)
「もう僕は何もツッコまない……」
「……はぁ」
|二人《シャルロット・デュノアとラウラ・ボーデヴィッヒ》は完全に呆れていた。
彼女達の目の前にいる二人のカップルがその原因だ。他の従業員達も奇異の目で――特に男性の方をみている。
『ねえ、あの人。今日で三回目よ。普段から不定期的に此処をご贔屓にしてるけど……』
『しかもお連れの人は全員違う人だったし……しかも何より美人……』
『世の中って何があるかわからないわねぇ……』
しきりに様子を見ては、それぞれ思い思いの考察を始める従業員の皆様を尻目に二人は内心でヒヤヒヤしていた。
「正体がバレたらどうなるんだろう、これ……」
他の従業員を方に視線を向けながら一応身内同然でもあるシャルロット・デュノアはもう苦笑いするしかなく……
「まさか、三股(?)もどきをしている男がゲスト機の操縦者だとは誰も思うまい……そして、女性3人もISの業界では大物だとも思うまい……」
ラウラ・ボーデヴィッヒもまた、俯いて片手で顔を隠し、困り果てるしかない。
「しかも……だ」
ラウラ・ボーデヴィッヒがその例のカップルに視線を向けると……
「ねえねえアッキー! 束さんこれ食べたいなぁ?」
「いいですけど、ちゃんと自分で頼んだ物は食べてくださいね?」
それは案の定、岡部友章と……
まさかの篠ノ之束の二人であった……
「えー、束さんはあとコレとかコレとか食べたいにゃー」
「しょうがないなぁ、一緒に食べましょうか? それなら色々と頼めますし」
「やった! ありがとう!」
この様子を見たシャルロット・デュノアとラウラ・ボーデヴィッヒは我が目を疑って、思わずお互いを見合わせた。
「あの篠ノ之束が……子供扱いされているだと……ッ?」
「まるで、妹みたいな扱いだよ、岡部さん……」
しばらくしてパフェなどがテーブルに並べられると、岡部友章と篠ノ之束はお互いのスプーンを相手の口に運んだり、口についたクリームを拭って上げたりとした。
傍目にはさも恋人同士か仲の良い兄妹のように見える。
この様子を見たシャルロット・デュノアはふとこう思う。
『岡部さんって相手によって露骨に対応が変わるんだ……』
この行為自体は別に悪くはない。時によってはそれは人を差別する行為として人に嫌われる危険性もある。だが、適切な使い方をすればそれは適度に人の距離を取ることのできるとても有効な手段である。
『一応、織斑先生やハルフォーフ先生に対してはそれなりに大事に接してる……のかな?』
普段の放課後の
「それにしても、ここだけだよ。三人とも『デート』の場所がダブった所は。おかげ様でみんなからの視線がイタイイタイ」
「ははは、最初のちーちゃんとのデートの時に此処を選んだのが運の尽きだね」
空のスプーンで岡部に指して笑う篠ノ之束に対して岡部友章は手でやんわりと制止する。
「ほらほら、行儀が悪いよ。でも、プライベートでオススメは此処なのも本当の事だし、せっかくだから織斑さんにも教えようかな……って思ったんだよね」
「まあ、そりゃわからなくもないよねー。でもクラリッサ・ハルフォーフも此処を狙ってたのはちょっと考えればわかったんじゃないの?」
篠ノ之束がそう指摘すると岡部友章は苦笑いで応える。
「確かにね。慣れてる自分からすると此処は『お気に入りの喫茶店』なんだけど、ハルフォーフさんから見ると『メイド・執事喫茶』の一種なんだよね。『そういう』のが好きなハルフォーフさんが飛びつかない訳がない」
「だからダブった……と、でも束さんがハブられるのは嫌だから、あえて此処を選んだけどねー」
「確信犯ですか、ちくしょうめ」
――この二人の会話をちらっと聞いたラウラ・ボーデヴィッヒは確かにと納得する。
「だから、クラリッサ・ハルフォーフが変装の際に使ったメガネ……アレ、束さんがアッキー用に作った伊達メガネでしょ?」
「うん、ああ……そうだね」
――だが、この会話も聞いてしまったラウラ・ボーデヴィッヒはほんの少しだけ後悔する。
「アレ、撮影機能もあるから今頃は
そう言って、篠ノ之束はちらりとラウラ・ボーデヴィッヒを見る。
――すべてを理解したラウラ・ボーデヴィッヒは頭を抱えたくなった……
『あー、うん……頑張ってね……』
シャルロット・デュノアにできる事は、彼女を励ますことくらいのである。
「ほらほら篠ノ之さん。意地悪しないで、ね?」
「えー私はクラリッサ・ハルフォーフの事しか言ってないよ? よ?」
岡部友章は無言で篠ノ之束のパフェをスプーンで取ろうとする。
「わー! ダメダメ! とっちゃダメ!」
篠ノ之束がそう言うと、ピタリと動きを止めた。
「そ、それにしても一日で3人でデートするからあんまり時間は無かったけど、色んなところに行けて楽しかったよ! 途中銀行強盗みたいな事件が起こったけど、警察官が即座に『鎮圧』してたね! あんなことってあるんだ」
「『警察官』『海洋保安官』『陸上防衛官』を舐めてかかってはいけない」
露骨に話題を変えた篠ノ之束に対して、岡部友章はスプーンを完全に収めた。
その後、二人は何事も無く、会計を済ませて帰っていった。
「ふう、やっと帰っていったね……もうこれで大丈夫でしょ……」
「ああ、まさか箒が来るわけではあるまい」
――ラウラ・ボーデヴィッヒの呟きにシャルロット・デュノアは戦慄を覚えたのは言うまでもない……
なにかこう、この数時間で精神的な疲れが二人にどっと来たのであった……
元ネタ解説
ウォートラン:まんまコナミのガンシュー。余談だが文系グダグダはウォートランの前作的な立ち位置であるワールドコンバットは結局プレイできなかった。
階級の話:公務員の階級システムについてはコナミのガンシュー『ザ・警察官』シリーズと同じく『セイギノヒーロー』より
GHOSTの階級についてはGHOST3、要人救出部隊……要はゴースト・スカッドをプレイしているプレイヤーの所属が此処であり。2人の元帥はまんまプレイヤーを指している。
『警察官』『海洋保安官』『陸上防衛官』:コナミガンシューの『ザ・警察官』シリーズと『セイギノヒーロー』からプレイヤーの所属である。海洋保安官と陸上防衛官の名前は実物ではないようにぼかしているみたいなので、こちらもコナミに準拠しています。
岡部友章(オリ主)=ガンシューの主人公ではない。これは絶対である。
主人公と同じ組織での所属(前世では)ではあるが……
公式サイトがまだ生きているので此処を除くと直ぐにわかるだろう
ttp://www.konami.jp/am/wartran/
サイト上部のAbout・Character・Secretを見ればより一層この世界を楽しめることでしょう。
また、大変運が良いことにカードサービスがまだ生きていた頃のプレイ動画も上がっているので、それも見てもらえると更に良くわかるだろう。kge氏には多大な感謝を
ttp://www.nicovideo.jp/watch/sm2211725?ref=search_key_video
以上、お目汚し失礼しました