No matter what fate   作:文系グダグダ

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02:モンド・グロッソ

「……と、言うわけで篠ノ之ちゃんは五年生になっても元気でやっていますよ」

「そう……ありがと」

 

 ISのコア・ネットワークを通して、現在進行形で逃亡中に篠ノ之さんにいつもの定時報告を終える。

 ISのお陰で盗聴対策も話してる様子も見られることが無いので安心だ。

 

「それにしても、やっぱり嫌われちゃった。箒ちゃんに……」

 

 篠ノ之さんの声のトーンが下がる。相当落ち込んでいるようだ。

 そりゃまあ……家族がバラバラになり、一人で過ごすハメになったのは他ならない、自身の姉。

 それとなく本人に聞いたが、やっぱり姉の事については気持ちの整理がつかないとのこと。もう一つの原因として篠ノ之ちゃん自身のIS適性がCだということも拍車にかけているのかもしれない。

 

 憶測だが、その出来事は篠ノ之ちゃんにとって、自身の姉に捨てられたような感覚を味わったのかもしれない……ホントは姉なりの妹への愛情なのにね。なんとも皮肉というか……ねぇ……

 

 IS適性は束さんの身近にいる人間だけランクA+オーバーの適性値、仮に名前をつけるならSランクになっちまうからな……自分はともかく……これらの事に関しては世界中だれもが知らないことだ。

 篠ノ之姉妹の双方の理由を知ってる身としては歯がゆいが、時間を掛けてゆっくりと解決に導かなければならない類の問題故に仕方が無いことでもある。

 幸い、ISの発表時には篠ノ之さんは名前は明かさず、身内もまだバレていない。

 なので、篠ノ之ちゃんはここでも剣道仲間を作ってそれなりに楽しくやってる。

 

 ここ最近剣道や近接武器、格闘技などのスポーツの人気が鰻登りなので、篠ノ之ちゃんの友達作りにも拍車をかけている。

 まあ、近接武器や格闘系のスポーツの人気の火付け役は白騎士と織斑さんの代表候補選出だろう。

 

 白騎士事件の時は電磁砲バリバリ撃ってただけで地味だったしな〜自分。白騎士は空を縦横無尽に駆け巡りミサイル斬りまくって、最後にはどでかい光柱打ち上げて派手に暴れまわったし。

 織斑さんは射撃はダメダメだが、その分近接はえげつないの一言だし。そりゃ人気出るわ。

 

「大丈夫です。希望を持ちましょう。篠ノ之さん」

「……うん。そうだね。束さん、頑張るね」

 

 何も一人だけ辛いわけではない。みんな平等に辛いのだ。織斑姉弟もきっとそうだろうし……

 そう思い、そのまま話すことも無いので篠ノ之さんとの通信を切ろうとするが……

 

「それにしても……」

「……何です?」

「アッキーも元気無いね?」

「そうですか? 特に何も変わりないですけど?」

「気にするだろうから聞いて無かったけど、ちーちゃんが第一回モンド・グロッソの日本代表に選出されたこと、もう知ってるでしょ?」

 

 もう、それで何が起こってどうなったなんてわかってるんだから、束さんにはバレバレなんだよ〜と間延びした声で付け足した。

 

「わかってますよ。それに射撃が出来なくたって、生きていけますよ」

「ちょっと!? 本気で言ってる!?」

 

 アッキー相当重症だよぉ……と、しまいには逆に心配される始末。

 簡単には誤魔化せんよなぁ……

 

「やっぱり聞いたとおりだよぅ……これは報告物だね……決めた!!」

「え? 何を……」

「そうと決まれば即、行動なのだ〜」

 

 じゃーねーと声がして一方的に切られてしまう。

 

「岡部さーん、お風呂上がりましたよー。早く入って下さいねー」

「わかったー」

 

 篠ノ之ちゃんからそう言われたので、お風呂に入りますかね。

 

   ■   ■   ■

 

 次の日。車で篠ノ之ちゃんを学校前まで送り、無事に自宅に戻ると……

 

「え?」

「やっほー」

「まったく……」

 

 何故かリビングで織斑さんと篠ノ之さんがくつろいでいた。

 

「……見なかったことにしよう」

 

 そう、これは超法規的措置。と呟き、回れ右して自室へと行くために昇り階段に行こうとするが……

 

『……』

 

 何故か自分のISに退路を塞がれた。

 目を……正確には頭部パーツのバイザーに視線を合わせようとするがプイ、とISは視線をずらした。

 

 拗ねてるんですねわかります……

 

 そして、自分の肩に手が置かれた、振り向くとそこには

 

「岡部、少し外に行かないか?」

 

 滅多になく真面目な顔をみせる織斑さんがいた。

 

 で、織斑さんを助手席に乗せ、車で少し離れた臨海公園にやって来た訳ですが……

 普通に二人きりで並んで公園内で散歩って何なんだよ!?デートだよ!!

 思いっきり混乱中でした。

 

「えー、あー、織斑さん。モンド・グロッソの日本代表選出おめでとう」

「何、当然のことだ。」

「それにしても、暮桜? だっけ? 一振りの雪片だけで日本代表だなんて凄いや」

「……」

 

 突然、織斑さんは自分の胸ぐらを両手で掴み、思いっきり織斑さんは自身に引き寄せてから、自分を押し倒した。

 視界が見えなくなり、地面に激突するかと思ったが、ちょうどタイミングよくベンチに勢い良く座る形になった。首がグワングワン揺れて、ベンチの後ろが壁だったので後頭部が心配だったが、腕の感触があるので多分保護してくれてると思う。

 

「……いきなり何するんですか!?」

「私は回りくどい事は嫌いだ。束から聞いたぞ……」

「何をですか……」

「お前が腑抜けになったとな……ッ!」

 

 後頭部に回していた腕を戻し、両手を自分の肩に乗せ、自分の視界が広がった。

 そして、底冷えするような程の怒気をはらませて静かに、ゆっくりと丁寧に告げた。

 目は明るみを帯びず、ややうつむき加減の様子と相まって思わず生つばを飲む……

 

「私が何故、代表になったか知ってるか?」

「……さあ?」

「お前だよ、岡部。お前が私を引き込んだのさ」

「自分が?」

「あの時、白騎士事件の時の最後の荷電粒子砲。あれだ

 あの寸分の狂いも無い正確さ、その一瞬を見分ける判断力、それを決断させ被弾を恐れぬ胆力……

 包み隠さず言う、あの最高の一撃に、私では到達できない射撃の領域に一歩だけ踏み込ませてもらったようなあの感覚、あれが決定的なきっかけだ。そう……お前の射撃に惚れたんだ」

「……」

 

 思わぬ展開に立ち眩みがした。学生時代余裕で全国五連覇が何を言うか……

 

「学生の時は少し気になるぐらいだった、スポーツテストでお互いに張り合ったり、実際に射撃の様子を見て気になり出した、そして現職や退役した自衛官を相手取ろうと銃と射撃にあれだけ真剣に打ち込むお前に正直、嫉妬もした

 だからこそ! お前と闘いたいと思った! お前が純粋に射撃が好きだから、束に頼み込んで代表候補生にでもなると思ってたんだ!」

 

 当初はそう思ってもいたが、その矢先に篠ノ之ちゃんの件が出てきた。

 趣味と人の人生、比べる必要もなかった。それで射撃が鈍ったとしてもISを装着すれば、増援が来るまで篠ノ之ちゃんの肉壁ぐらいにはなれるので特に問題はない。それで、命を落としたとしても別にいい。元々無かった命なのだ。それ相応の使い方で構わない。

 

 そう、言い訳したい衝動に駆られるが喉元で抑える。元は要領の悪い自分が悪い。

 もし、もっとうまく立ち回れば、こうなることは回避できたと思う。ここは素直にお叱りを受けよう。

 

 織斑さんは次第に感情が高ぶってきたのか半分涙目になりながらも喋り続ける。

 

「だが、お前は何もしなかった!? 高校の時のように反旗を翻す事もなく……

 何も言わなくていい! これは私の思い込み、我侭だ。ただ……ただ、聞いていて欲しい……

 お前は……また、射撃をやりたいか?」

「もちろんやりたい」

 

 ピシャリ、と即答する。

 その返答に織斑さんは暫し呆然とするが、十分な答えを得れて満足したようで、

 

「愚問か……束、正確には箒から聞いたぞ、一年くらい前から覇気が無くなって、銃弄りの時間とボーっとする事が増えた……ってな」

「え? なんで篠ノ之ちゃんから?」

 

 突然話に出てきた妹さんに思わず首をかしげる。

 

「まだその呼び方なのか……大方、束が通信機か何か渡したんだろう」

 

 なんたってあいつの大切な妹だからな、と織斑さんは付け加えた。

 

「まあ、お前から射撃を抜いたら何も残らんしな。流石の箒も何とか出来ないかと言ってたくらいだ」

 

「確かに、違いないや」

 

 もし、一夏から剣道を抜いたらそんな感じに腑抜けるのかもな、と笑いながら話した。

 

「でも、織斑さんとISで相見える事になるのは、三年後の第二回モンド・グロッソかなぁ」

 

 今年は代表候補も決まったし、と付け加える。

 その言葉に織斑さんはニヤリと笑った。

 

「喜べ、お前は第一回モンド・グロッソ特別推薦枠として出場する事が確定している」

「……ハァ!?」

「束がお前……解体された白騎士の片割れの操縦者をIS発明者、篠ノ之 束博士直々のご指名ということで国際IS委員会とモンド・グロッソ運営委員会、アラスカ条約機構に申請を出したから直に正式に出場可能だ」

「無茶苦茶過ぎる……」

「それをやってのけるのが篠ノ之 束だ」

 

 一国の代表の私には出来ない芸当さ、と言い足す。

 

「だから……男に二言は無いな?」

「まずは鈍った腕の修正だな……」

 

 射撃再興の道は険しいぞ、と茶化される。

 

「雪片一本で世界取るのも同じくらい険しいけどな」

 

 お互いにニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

 

「ふん。そこまで言うなら、私から一つ貸しをやる」

「へぇ、どうやって返すんだい?」

「憎いことに、モンド・グロッソで順当に勝ち進めば、私とお前は決勝戦で闘う事になる。そこでお前は私に借りを返せばいい」

「中々憎い演出だね。で、何を預かればいい?」

「なに、持ち物じゃない。そいつはなッ……!!」

 

 キスされた

 

 突然両手で顔を固定され、唇を合わせ、舌で口腔内をこじ開けられ、強引に舌が入って来て……蹂躙された……

 自身の舌とか歯とか、喉の奥までありとあらゆる場所を舌が這い回り……おまけに唾液も流し込まれる。

 当然の事態に対応する事も出来ず、なすがままにされる、唾液を流し込まれた時には抵抗しようとしてベンチから立ち上がろうとするが織斑さんは膝で押さえつけてきたので立ち上がれず、呼吸すらとれない。

 

 しかし、酸欠で青い顔をしているのを見たためか、織斑さんは恍惚な表情から一転、即座に口づけを中止し離れる。

 足りない酸素を補給しようと口で必死に空気を取り込む自分と、恍惚とした表情で織斑さんも口で呼吸をしていた。

 何気に銀色のアーチが伸びていて、憎い演出だと思ったのであった。

 

「ふふふ……この貸しは高くつくからな……しっかり返せよ……」

 

 そう言って未だに上気した表情の織斑さんはIS・暮桜を展開、瞬く間に去っていった……

 いつものジャケットとパンツ姿ではなくて、ジャケットとタイトスカートで中のシャツのボタンが妙に開いてたのはこれかよ……

 

   ■   ■   ■

 

 元々は宇宙用のマルチフォーム・スーツであるIS。

 少し前までは極小人型兵器としての側面が強くなってきていた。

それでは何故ISはこれらの要素を含むのであろうか?

 

 ISの構成は何と言ってもISコアが不可欠なのは周知の事実。しかし、コア以外の装甲部分や近接ブレードなどの武器・銃器を構成しているのはある特殊な素材(ISマテリアル)である。

 その素材は通常時では鋼にも劣るが、ISコアから発されるある特殊なエネルギー波を受けることによって宇宙用のマルチフォーム・スーツ・極小人型兵器などと呼ばれるほどの性質へと劇的に変化させる。

 ISコアからの特殊なエネルギー波の放射範囲としては精々シールドエネルギーを纏うことのできるごく僅かな範囲のみなので、現用兵器への転用は大変困難を極める。シールドエネルギーが切れて搭乗者の保護を優先する場合は装甲部分のみを強化させる。

 ISコアとISマテリアル……これら2つの要素がIS、通称インフィニット・ストラトスを成立させているといっても過言ではないだろう。

 

 そして今ではISはスポーツの側面が色濃くなりつつある。

 

 ――その象徴として、第一回モンド・グロッソは開幕したのであった……

 

 自分は第一回モンド・グロッソでは、どうもシード枠での出場のようで、実質二回戦から参加するようである。

 モンド・グロッソでは一定量のシールドエネルギーを削れば勝利となる。そして、一定量のシールドエネルギーが無くなれば自動的にISは競技に必要な機能を停止するようになっている。まあ、機体性能差による一方的な競技ならないように取り計らった物なのだろう。

 ――第一回モンド・グロッソの初戦であるISと相対していた。

 

 装甲部分をオリーブドラブ一色に塗られ、装備は6銃身で構成されたガトリングガンと4連装ミサイル発射器が肩に2つ、ハンドガン、高振動サーベルというスタンダードな装備だ。

 

 ――篠ノ之束が予想していた『ISはISで、しかも格闘でしか相手にならない』というのは結局の所、IS同士の戦闘における極論の一つである。

 

 実際問題、ISはISだけを相手取る他にシールドエネルギー・絶対防御という概念が盛り込まれている。そして、拡張領域(バススロット)という無限大にもおよぶであろう多様性から近接武装の他にも飛び道具――もとい銃火器が持たされるのは当然である。

 用途は多い、ISの近接攻撃に対するけん制から、歩兵・機甲部隊・ヘリ部隊の援護等など……

 高所を取れるということはその分、射界が広くなり、できる事が多くなる。

 

 ISは地上戦では文字通り最強の歩兵から人間攻撃ヘリや人間自走砲のような役割を果たすことも出来るし、空中戦ではその機動力と戦闘機を凌駕した耐久性、拡張領域による継戦能力から、重要視されることは間違い無い。

 

 ISを兵器としての特徴で言うならば『守り』よりも『攻め』に特化した兵器だと言えるだろう。

 

 ――まあ、最大にして最悪の欠点としては『数』が少なすぎるということだが……

 

 天才と言えども、篠ノ之束はその点に至っては全くの素人だということである。

 

「まあ、結局の所銃火器は廃れること無く、IS用銃火器というジャンル(概念)が新しく生まれた訳だ」

 

 自分はホッと一息ついて、この事実に安堵しつつも、手持ちの装備を確認する。

 

 自分が『ゲスト』として出場するときの基本装備としては、IS用カービンライフルとアンダーバレルに装着した擲弾発射器のみだ。

 ライフルはストック(銃床)が無く、特殊な装甲材に対する対抗策として実弾とエネルギー(ビーム)弾の混合または切り替えができ、セミ・フルオートの切り替えも可能だ。

 

 自分自身としてはこのような装備は物凄く心もとない。

 しかし、そうやらねばならない事情もある。

 

 ――モンド・グロッソに……ISの最強の一角として『ゲスト』有り、つまりは上位に食い込まなければならない。この大会で、実力を――力を示さねばならない。

 

 なぜなら、今の自分は篠ノ之束の『懐刀』であり、世界にとって目に見える『脅威』だからだ。

 

 ――この手の世界は舐められてはダメである

 

 そう印象づけるためとしてはインパクトが必要である。生半可ものではない、強烈なものをだ。

 

 方法としては優勝することが一番の安牌である。だが、それだけではやや足りない。

 なぜなら、篠ノ之束の『懐刀』であるが故に、『当たり前』と世間に認識されるからである。

 

 だから自分はこのIS用カービンライフルという武器『一つ』で、世界を獲らねばならないのだ。

 

 ――たった、たった一つの武器だけで世界最強クラスであること、自分は『別格』であるということを示さなくてはならない。

 

 自分はそのフレーズを頭のなかで復唱しつつ、深く息を吸って、吐き出す。

 全身の感覚を研ぎ澄ませ、思考を徹底的に論理的(デジタル)に切り替える。

 バイザーから見える視覚情報を整理し、カービンライフルの実弾の数と、エネルギーのチャージが完了しているのを確認する。

 

 二機のISはお互いに睨み合いう。

 試合開始の電子音が鳴り、グリーンランプが点灯する。

 

 周りの観客の声援も、風景も、闘いに不必要な者はすべて切り捨て、ただ目の前の敵だけに意識のすべてを集中させる。

 

 まずはお互いに距離を取り合う。

 自分はカービンライフルを構え、弾種・射撃方式のセレクターを『実弾』と『フルオート』に変更して、狙いを定める。先手は相手にくれてやり、こちらのカウンターの期会を伺う。所詮、先の後だ。

 

 相手はこちらを射線上に捉えつつ、右腕に装着されたガトリングガンを向け、銃身を回転させ始める。こちらのHUD上では、ガトリングガンが向けられ、完全に射線上に自分の機体が有ることを確認した時には、警告音と共にガトリングガンに銃口に赤いサイト(クライシスサイト)が表示される。

 

 ――この赤いサイトが表示されたということは、この直後頭部パーツへの攻撃、すなわち直撃弾が来ることを意味する。

 

 このままだとガトリングガンの直撃弾をくらってしまうので、射線から逃れる為に急加速をつけて、射線から離れる。だが、警戒は怠らない。カービンライフルで何時でも迎撃できるように構えておく。

 

 その時、相手のISの肩部のミサイル発射器からミサイルが二発発射され、こちらに向かって来る。

 

「……(こちらの退路を断つ為の布石か)」

 

 ミサイルから逃げつつ、あらかじめ用意しておいたカービンライフルを用いて迎撃、ミサイルを撃ち落とす。

 

「……!(さあこい!)」

 

 ミサイルの迎撃に神経を集中させていたので、迎撃が完了次第、即座にハイパーセンサーで周囲を確認すると、側面下側からガトリングガンを発射する相手ISを捉える。 

 避ける間もなく、ガトリングガンは右足側面に被弾するが、装甲に阻まれシールドエネルギーを削るに至っていない。

 

「(その程度か)」

 

 全身の非可動部を装甲で覆い、さらに増加装甲を載せた自身のISはいとも簡単にガトリングガンの弾丸を弾き返す。

 生憎、自分はIS自体の操縦は並である。なので、それを補う形でISのAIのサポートによって回避行動を取るが、それでも機動力・機動性の点に関しては世界最強クラスには程遠いだろうと確信を持って言える。

 そして、ISの特色として空を完成制御システムPIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)による高機動力である。

 

 ――明らかに宝の持ち腐れである

 

 ならどうすれば良いか? 簡単な事だ

 装甲・耐久性・継続戦闘能力を特化させればいい。

 

 幸いにも篠ノ之さんはこのISを自身の試験用ISとして拡張領域(バススロット)、耐久性特化型にするつもりだったらしく、モンド・グロッソに向けての調整を行っていた。

 

 それがこのISだ。 

 全身を装甲で覆い、さらに増加装甲で強固にしてシールドエネルギーの容量も大きく拡張させ、多くの武器を携行(マウント)できるようにしたのだ。

 

 ――この判断は間違っていなかったようだ……

 

 そう思いながら、急加速でガトリングガンの射線から退避しつつ、カービンライフルを構え、即座に距離を大きく詰めるように急加速をしてからの応射で答える。

 相手は急加速で動くこちらを捉えるためか、慣性による等速直線運動のような状態で、宙に浮いたまま射撃を継続している。

 

 全身を装甲で包んでいる自分と違い、他は露出部位が多いので、そこを狙えばより多くのシールドエネルギーを削ることが可能だ。特に頭部は、他の露出部位よりもさらにシールドエネルギーを削ることができる。

 

 ――たかが弾丸、されど弾丸

 

 いくら軽質量とは言え、丸々1つの弾丸を止めるには多くのエネルギーを消費させるからだ。

 

 多少のカス当たりには目をつむりつつ、相手のISにカービンライフルをフルオートで浴びせ、ミサイルの餌食にならないように距離を詰める。

 今、この回避行動は自身のISのAIが行い、自分の全神経は射撃に集中させる事ができる。

 

 相手のISの非フレーム化部位、剥き出しに見えるISスーツや頭に弾丸がいとも簡単に命中する。

 

 相手にとって見れば、先手をとったにもかかわらず、ひらりと回避され、そんな不安定な状態から最も手痛い部分に的確に撃ち込まれているのだ。たまったものではない。

 相手のISはすぐさまガトリングガンを拡張領域にしまうと、サーベルを抜刀した。

 このまま突っ込むと切られかねないので、反対方向に先ほどの急加速よりもさらに強い出力でブースト吹かして、勢いを殺す。

 

 ――この自分の様子に相手のIS操縦者は驚いた顔をしていた

 

「……(仕留める)」

 

 カービンライフルのセレクターを『混合』に切り替え、急いで退避しようとする相手に向かって容赦無く撃ちこむ。

 

 一瞬呆けた敵に対して、直撃を狙うのはたやすいこと。

 混合弾は相手の頭部に文字通り『直撃』

 

 規定量のシールドエネルギーが減ったからか、相手はそのまま地面に激突。

 その際に絶対防御が発動し、激突の際の衝撃は無くなったものの、ISは待機状態に移行。相手は『撃墜』した。

 

 ――あの時の相手方の驚いた表情は一体何なのだろうか?

 

 最後に思ったのはそれだけであった。

 

「……(まだ、始まったばかりだ)」

 

 無事に一回戦に勝利、次に第二回戦に突入する。相手の名前・国籍には特に興味が無く、覚えてはいなかった。

 

 相手の装備としては肩にはアサルトライフルが折りたたまれてマウントされ、ランス型の近接武器、腰にはランチャーがくっついている。こちらには既にランスを構え、試合開始と同時に速攻で攻撃を仕掛けてきそうだ。

 

「(だが、自分のやるべきことは変わらない)」

 

 ――相手に先手を譲ってからのカウンター。これが鉄則だ。

 

 カービンライフルのセレクターを『エネルギー弾(ビーム)』に切り替えておき、戦闘に備える。

 

 予想通り、試合開始の電子音とランプの点灯と共にランスチャージでこちらに突貫せんとする相手方のIS。

 それを引きつけ、紙一重で躱した後、カービンライフルを構え、背中を見せてるISに照準を合わせる。

 ……が、相手はスラスターを噴かし、クイックターンで180度、方向転換、そのまま勢い良くランスを投げつけてきた。

 

 ――少し後に織斑さんに聞いたのだが、この技術は特殊無反動旋回(アブソリュート・ターン)と呼ぶらしい。

 

 これには流石に驚き、半ば反射的にエネルギー弾でランスを迎撃し、弾き飛ばす。バイザーのディスプレイにはエネルギー弾の残量を示すゲージがごっそりと減った。

 

「(エネルギー弾は無駄弾は使えないのか。もって4~5発程度……か)」

 

 その後、素早く引き金を引き、相手に反撃を許さないように撃つ。

 だが、相手は再び急加速――先程の試合で自分が見せたようなレベルの急加速を行い、ひらりひらりと残りのエネルギー弾をかわした。

 

「(速い……並みのIS乗りでは無いということか)」

 

 カービンライフルのエネルギー弾の残量は0になり再充填(リチャージ)が始まった。こうなると、再び再充填が完了するまでエネルギー弾は撃てない。

 カービンライフルのセレクターを『実弾』の『セミオート』に切り替える。

 

「……(無駄弾は使えない)」

 

 その間に相手はマウントされたアサルトライフルを取り出して――さあ反撃だ、と言わんばかりに負けじと撃ち返してくる。

 

「回避行動」

 

 その言葉を合図に自身のISは完全な全自動(オートパイロット)で回避行動に移る。

 

 双方、素早い回避行動を取りながらの激しい射撃戦だが、命中率はこちらのほうが遙かに良い。

 なので、このまま押し切れば勝てる。だが時折、アサルトライフルの銃口にサイトが表示される。その時は腕の装甲部分でガードするか、素直に避けている。

 

「(あともう一歩……)」

 

 相手の動きも緩慢になり、各パーツも少しずつボロボロになったその時、運悪くカービンライフルの実弾の弾が切れる。

 

「(弾切れ、エネルギー弾に切り替えを)」

 

 事前にバイザーで確認していたこととは言え、素早くセレクターを切り替える。

 

 ――目の前で……爆音が響き渡った

 

 相手はこの一瞬の隙に賭けたらしい、アサルトライフルを投げ捨てると腰部分にマウントした小型携行型のランチャー(発射機)を構えると先ほどの急加速とは比べ物にならない程の……まさに瞬間的、爆発的な加速でこちらに肉薄する。

 

 相手のランチャーからは青白い球体――プラズマの弾丸が放たれた。

 

 とっさに自分は唯一の武器を持っている右腕を後ろに回し、左腕を前に差し出して防御する。

 プラズマは、自分の左腕部に命中。閃光手榴弾(スタングレネード)を喰らったかのような激しい光が視覚情報を襲うも、ISが即座に調整する。

 そのまま自分は、無事な右腕を相手方のISに、カービンライフルの銃口を直に押し付けるようにして、エネルギー弾(ビーム)を放った。

 

 1発、2発、3発……相手はカービンライフルの直撃をくらい地面に激突。そのまま撃墜判定を貰った。

 

 バイザーのゲージに記載してある数値類を確認すると、規定量のシールドエネルギーは5割にまで落ち込んでいた。

 そして自身の左腕を見ると、プラズマの光熱量によって、左腕の増加装甲が熱く真っ赤に――そして、ドロドロとしたジェル状に変化して、一部は地面に垂れていたのであった……

 

「(ヒトがくらったら……即座に炭化コースだな……)」

 

 その事実に戦々恐々としながらも、左腕の増加装甲部分を切り離し、拡張領域(バススロット)から新たな増加装甲を取り出してから次に第三回戦。準決勝へと駒を進めた。

 

 ――準決勝

 

 やけに砲身が短い砲を右肩に装備し、実体盾とエネルギーシールドの二重構造の盾を装備した相手だった。砲身にはSchulter-Haubitze(肩部榴弾砲)の文字が見える

 

 試合開始は双方共に地上からのスタートだ。試合開始からすぐさま砲から逃れる為に空中に逃げこむと案の定、飛び立った後の地面には穴が空いていた。

 

 いかにシールドエネルギーで死なないとは言え、ほとんど生身で砲をくらうような形なので、正直ビビる。

 その直後、衝撃が走り、規定量の12%のシールドエネルギーが持っていかれる。HUDで確認すると、複数の弾丸が各装甲部位にヒットしたようだ。

 

「……ぐぅ!(これは……厄介かもしれん)」

 

 再び、相手の砲が火を吹く。ハイパーセンサーで必死に目を凝らすとなんのことはない、キャニスター弾、つまりは散弾だった。

 とっとと砲身を叩き折りたいが、それを防ぐための盾なのでそう簡単には破壊は困難だろう。何らかの隙を生じさせないといけない。

 

「……はああ!(この一瞬の隙を……突く!)」

 

 再び、散弾を食らい、また1割のシールドエネルギーが減った後、次のキャニスター弾に備えるべく、セレクターをグレネードに設定し、相手の砲撃と同時に射出する。

 カービンライフルのハンドガード下に取り付けられたグレネード発射機の中身はプラズマグレネード弾だった。

 プラズマグレネードは閃光と電磁パルスを発生させ、散弾を無効化して更に相手の目を潰し、怯ませる。

 その後、迅速にセレクターを『混合』に切り替え、実弾・エネルギー弾の混合をを砲に撃ちこむ。

 

「……(ここからが本番だ)」

 

 思惑通り、戦車砲の砲身は折れて使い物にならない状態になった。

 相手は、戦車砲のパーツを外し、腰からIS用の軽機関銃を取り出し、機動力に物を言わしての射撃戦に展開する。

 こちらも負けじと今度はエネルギー弾を撃ちこむが、相手の盾にガードされる。そして、スラスターを大きく噴かし、機関銃を撃ちながら急速に接近する相手IS。何らかの近接武器でもあるのだろうか……

 

 接近を許すのはいけないと判断し、いつでも最大火力である『実弾・エネルギー弾』の混合弾の確保のために『実弾』・『セミオート』にセレクターを切り替え、完全に相手方のISとの距離を保ちつつ射撃戦を繰り広げる『引き撃ち』に移行するが、中々引き離すことができない。

 

 ――こちらは全身を重い装甲で固めた機体。

 

 ――対する敵は、要所要所を守る盾を持っているだけで、それ以外極々一般的な機体

 

 ――機動性の差は歴然としていた……

 

 次第に距離を詰めてくる相手IS。それに加えて、その行動の意味も徐々に判明する。

 相手の持っている盾には何か杭打ち機のような機器が積まれているのだ。

 

 これって、もしかしてパイルバンカーとかパイルドライバーとかって言われてる代物なのでは……

 

 ――どう考えてもくらったらヤバそうなシロモノだ。

 

「……力押しでいくか」

 

 そう決心すると、イチかバチか――二回戦目に戦ったISのように一気に加速した。

 

 ――後に判明するのだが、これが瞬時加速(イグニッション・ブースト)というものらしい。

 

 一気に相手のISの懐に飛び込んだ後、左の肩で思い切りタックル(ショルダータックル)を繰り出す。

 

 ガギン! という大きな打撃音とともに激しく金属が擦れあう。

 自身のISの左肩と相手のISの装備している盾が擦れあっているのだ。

 それも、自身のISの左肩が赤く赤熱する程に……それだけ瞬時加速(イグニッション・ブースト)での加速は驚くべき程に速いのだ。

 

「……オラァ!」

 

 懐に飛び込んだ後、そのまま上半身を捻って右腕――カービンライフルごと横殴りに殴りつける。

 

 ISはパワードスーツの一種である。

 パワードスーツの機能の一つとしては筋力補強というものが存在する。

 これはISにも例外なく組まれているが、やはり……その機能にも性能の優劣は存在する。

 

 ――ただ、武器だけを持っているISと、とても重い装甲材に包まれた腕で持っているIS……

 

 いづれか2つの内どちらが強いか……想像に難くないだろう。

 相手のISはタックルを盾で受け止めたものの、次に横からの打撃からは受け止める事はできず、まともにくらい、盾を思わずこじ開けられてしまう。

 

「もらった!」

 

 これを見逃すほどに自分は甘くはなかった。

 事前に『実弾・エネルギー弾』の混合弾に切り替えたカービンライフルを相手方のISの目の前に突き立て、ひたすらに引き金(トリガー)を引いた。

 

 あとは、今までと同様に相手方のISは撃墜。

 無事に自分はアタッチメントとして、擲弾発射器(グレネードランチャー)をつけてはいるが、IS用カービンライフル一本で決勝戦までに駒を進める事に成功したのである。

 

 いよいよ、決勝戦。自分ことエントリーネーム『ゲスト』に対するは日本代表の織斑 千冬である。

 余談だが、モンド・グロッソの開催中は自身の正体が露呈しないように常にISを装着している。

 で、そのISは白騎士事件で使用したそのままのISである。色は流石に塗装してあって、ロービジ塗装や洋上迷彩にしてる。最近、名前をつけろと言わんばかりに電子音を鳴らすことが多い……知らんがな。気に入らないと電子音鳴らすしさ……

 

「で、決勝戦はやはり、束が推薦したお前か……無事に逢えて良かった……」

「……」

「何も言わなくていい。身振り手振りだけで構わん」

「……」

「聞いてくれ、私はな、高校の時からずっとずっと気になっていたんだ」

「……」

「あの時、私はISでは機動力に近接が一番だと言った。」

「……」

「だが、お前はそうではないと言った」

「お互いに最年少で剣道で連覇を果たした私と、射撃で同時優勝したお前。方向は違えども……どこか似てないか?」

「……」

「そして……物足りなく感じないか?」

「自分の限界も見てみたくないか?どこまで通用するか知りたくないか?最強に成りたくないか?周りに認めてもらいたくないか?」

「……」

「そして、もう一度言う……世界を変えたいか?」

「!!」

 

 勢い良く首を振る。

 

「現時点で最強の近接使いは私だ。今この場がそれを証明している」

「……そうだな」

 

 身振り手振りでいいとも言われたが、流石にだんまりはこちらとしても嫌なので。相槌ぐらいは返す。そうじゃないと、織斑さんに失礼な気がしたから。

 

「そしてお前は私がここまで来ることを予想していた、いや……確信かな?」

 

 ここまで私の期待に答えてくれたのはお前が初めてだよ、と言い加えた。

 

「臨海公園でお前から意思を聞き出した時、思ったよ……お前とは決勝でしか逢えない、って

 あれに嘘偽りは無いぞ。高校時代からお前が私を見ていたように、私もお前を見てたんだ、ずっとな」

「……そうか」

「だから……お前にあんなこと、できたんだぞ……」

「……」

「わ、私に恥を……かかせるんじゃない……」

「……借りは返す」

 

 それを合図に織斑さんは雪片を構え、自分はライフルを構える。共に、武装は一つ。グレネードは外した。

 お互い、気分が、闘志が、闘争心が……高揚し、増幅されていくのがわかる。

 

 自身の好きな射撃以外でもこんな気分になったことなんて……前世を含めても無い。

 

 下手したら、この闘い……一瞬で決まる……

 

 そして、運命の試合開始を告げる電子音とランプが点灯。

 織斑さん駆る暮桜は一瞬で姿を消す、しかしそれは自分以外の人間から見たらの話だ。

 もう1mも無い間合い、最後の最後まで引き付ける、そして悟られぬようにする……

 そして雪片の切先が装甲を掠った時、チャージショットを放つ。狙うは……頭部!!

 

 そして、織斑さんは通り過ぎていった……シールドエネルギーは……常に減ってる!?

 

「どういうことだ!?」

『Victory-system activating』

「……クッ! 流石だ……」

 

 自機の異常に動揺しつつ、視線はしっかりと暮桜を捉え、次に備える。どうなったはわからんが、これが有利な状況な事には間違いないようだ。

 

 ……なら、シールドエネルギーが尽きる前に暮桜に一発ぶち込む!!

 

 そう考え、空中での制御は完全にIS任せで射撃に完全に集中する。しかし、彼女も危険だとわかっているようで容易には近づかない……

 

「甘いッ!!」

 

 いくらVシステムとやらの威力・射撃補正を受けてもチャージショットを撃つ際の充填期間は短縮できず、一気に踏み込まれ、切られる……がダメージは無い。

 

「零落白夜が……効かない?!」

 

 不味い、シールドエネルギーもそろそろ切れかかってきた。

 

 焦る気持ちを押さえつけて、最後の最後まで諦めない。

 その気持ちだけでもう一発撃つが、避けられ、斬られる。その時に自分は暮桜を抱きしめた。お互いの息がかかるような距離まで顔も近づける。

 

「え?!あ、え!?」

 

 訳がわからない様子の織斑さんは半ば錯乱した状態でその手に持った雪片でこちらをバシバシと容赦無くシバくが、Vシステムがそれらを無効化する。

 そして、背中に回したカービンライフルの銃口を無理矢理当てて、引き金を引いたのだった……

 

   ■   ■   ■

 

 目を覚ますと、そこは研究所のような場所だった。周りに色々な機材が並んでいて、自分はその部屋のベッドで寝ていた。

 

「おっはー、アッキー」

 

 自分が起きたことに気づいたのか、相変わらずメカメカしいうさみみをつけた篠ノ之さんがいた。

 

「あれ?自分は……織斑さんと……モンド・グロッソで決勝戦を……」

「ああ、その事ね」

 

 自分の困惑した表情に納得したような篠ノ之さん。

 

「結果は?」

「なんと!?引き分けなんだよ!だよ!」

 

 アッキーすごーいと言いながら、どこからかクラッカーを取り出し鳴らした。

 ご丁寧にクラッカーの紙には祝・同時優勝(?)と書かれていた。あれ?そういえばモンド・グロッソで優勝したらヴァルキリーとかブリュンヒルデとか言われるんだよな……

 

 男なのにヴァルキリーだと……?

 

 男なのにブリュンヒルデだと……?

 

 どうすんだこれ……

 

「あれ?織斑さんは?」

「ちーちゃんは代表のスタッフと一緒に選手村に引き上げたよ」

「そうなんだ……あれ?織斑さんはそうだとしても自分はなんで選手村じゃないの?」

「あそこだとアッキーのんびり出来ないでしょ?」

 

 だから隣に作っちゃいましたー、と小さく舌を出して答えた篠ノ之さん。

 もうシラネ……ツッコまねぇ……

 

「……そうだ。自分のISについて聞きたいことがあるんだ?」

「何々、束さんのスリーサイズを知りたいと?そうだね〜上から」

「多分ワンオフアビリティ出てきたっぽい」

 

 束さんの発言を言い切る前にピシャリと言い放つ自分。

 

「……ホント?」

「ホント」

 

 あれ?篠ノ之さんの様子が……

 

「すっごーい!!ちーちゃんについで二番目だね!ね!」

 

 うみみゃあ!!と言いながら抱きつかないで欲しい。メロン様、いや違うスイカ様がぁぁ。

 ウサギなのに猫みてぇにうみゅーとか言ってスリスリしまくる篠ノ之さん。

 あれ?自分モテ期にでも入ったの……ただ単に篠ノ之さんがフレンドリーなだけです。

 流石にそれは……ねぇ……

 

「で? 名前は何なの?」

「Vシステムって言うらしい。ISが言ってた」

 

 キャーISガシャベッターと言いながら、少し考えこむ仕草をする篠ノ之さん。

 正確にはVictory‐Systemだが、なんだかこそばゆいのでVシステムにした。

 実はValkyrie‐Systemじゃないよな? ……いい加減にそのネタから離れるか。

 

「ねぇねぇアッキー?それでそのISってどこ?」

 

 アッキーの待機状態見せてー、と言いながら手を差し出す……が。

 

「え? 自分持ってないけど」

「え?」

 

 その時、物音が聞こえる。

 

「あ!? あそこ!光学迷彩で隠れてる!」

「え!? ホントなの!?」

 

 物音の方を向くと、そこには僅かに空間に歪みが生じていた。正確には僅かに視界の先にある研究機材が歪んで見えるというか、そんな感じである。

 

「とまれ! 姿を見せるんだ!」

 

 そう言うと、素直に姿を表したIS。

 その様子に流石の篠ノ之さんもビックリしたようで。

 

「モンド・グロッソ用に頼まれた、アッキー専用の複合弾薬仕様ISカービンライフルを渡した時にも思ってたけど、凄いフリーダムだよね!」

 

 まるでこの束さんみたいだよ! と言う。もしそうなら自分は立ち眩みから気絶できる。あと、何気にモンド・グロッソで使ったライフルの正式名称ってそんな感じなんすか……長ぇよ……

 

「白騎士事件以来弄って無いから、は、早くこのISをイジらせてほ、欲しいんだな」

 

 ハァハァと息をあげながらジリジリとISににじり寄ってく篠ノ之さん。対するISは後ろに下がっていく。ふと、バイザー越しから捨てられた子犬の様な目線を感じた?いいえ気のせいです。

 最近、機体名のネーミング関連でおいたが過ぎたのでお仕置きです。

 名前なんてネーミングセンスない自分に求められても……ねぇ?

 ISが篠ノ之さんに引きずられる所を見たところで、眠気が来たのでまた寝かせて貰う事にする。こっちはモンド・グロッソ開催日の前からずっとIS装着したまま生活してきたんだ、もうちょっと寝ても文句はないだろう、おやすみー。

 ……これってどこから持ってきたベッドなんだろうな?見るからに新品じゃなさそうだし。

妙に甘い香りがするしまさかしのののさんのベッ……

 

「ドだってぇ!?」

 

 今度は同時に叫び声を上げて起きた。何か変な事を考えてたが、思い出せない。そして周りを見渡すと椅子に座って驚いた様子でこちらを見る織斑さんの姿が……

 

 その手に持ってる包丁はなんですか……?

 

 一瞬、トンデモない事を想像したがすぐに結論がついた。

なんのことはない、綺麗に切られた林檎とその皮が織斑さんの近くにテーブルの上にあったのだ。

 そして包丁を持つ手とは違う手には剥きかけの林檎が。しかし……

 

 ご丁寧にウサギさんカットって……

 

 思わず、俺は弟くんか……と、言いたい衝動に駆られるが、せっかくの好意を無為にするのもアレなので大人しくスルーする。

 昔、弟くんが風邪で寝込んだ時は確かそんな感じだったしな。

 

「起きたか、まったく……モンド・グロッソ開催中、お前はずっとISを展開したままだったから心配したんだぞ」

 

 そう言って、林檎を切り終え、テーブルにおいてあった爪楊枝をウサギさんに突き刺し、手前に持って来る。

 そのまま自分はウサギさんを受け取り、食べる。モンド・グロッソ開催中はひと目のない選手村の自室でハイパーセンサーで周りと盗聴・盗撮と電波を気にしながら何も食べずに過ごしていたので素直にありがたい。モンド・グロッソの前から下剤などで出すものを出しきってから行ったので、胃・腸はまさにカラっぽの状態である。

 篠ノ之さん印の経皮吸収型栄養剤が無ければ死んでた……あの人さらっとブレイクスルーをおこしてるからホントにヤバイ、凄い通り越してヤバい。Crazy通り越してAwesome位ヤバい。

 

「まあそんなに慌てて食べるな。まだ、林檎はある」

 

 急いで食べると胃や腸がビックリするしな、とも付け加える織斑さん。

 1つずつウサギさんを取り、こちらに差し出す。それを自分が受け取り、食べる。これらのプロセスが何回か行われた時にふと思った。

 

「織斑さん」

「なんだ?」

「これ?普通にテーブルを自分のそばに置けばいいんじゃ……」

 

 返答は楊枝で刺されたウサギさんだった。織斑さんは……いつものようにイケメンですね。

 これぐらいでは動じないらしい。こちらとしても成り行きとはいえベロチューかまされて初めてを奪われた身なのでどうでも……

 

 ベロチューの件で改めて思うが、絶対織斑さんの感情がヒートアップした故の暴挙(?)だと思う。この人、普段滅茶苦茶クールで凄くカッコイイけど、一度熱くなるとナニしでかすかわかったもんじゃない……

 

 まあ、これぐらいなら大丈夫だろ、と軽い気持ちで織斑さんが持ってるウサギさんを直接口に咥え、食べた。

 

「おまたせ〜アッキーのISの解析が終わった……よ?」

 

 篠ノ之さんがこちらに来たが、なんだか不思議そうに見つめている。そしてわなわなと震えだし……

 

「ちーちゃんとアッキーがイチャイチャしてるー!?」

 

 しかも『はい、あーん』だよ!だよ! とビシッと指をさして驚愕する篠ノ之さん。

 それを理解した織斑さんはボッ! と効果音がなるくらい一気に顔を赤らめ、新たに林檎の皮を剥き始める。これで林檎三個目ですよ……

 

「束さんもやるね!やるね!」

 

 そう言って、楊枝で林檎を突き刺し、はーい、あーんと差し出してくる。

 結局頑張って完食した後……もう、林檎は当分食べたく無いと思った……

 

   ■   ■   ■

 

 その後、無事にモンド・グロッソが終わり、見事(?)射撃部門で堂々の最優秀賞を得て、ヴァルキリーの称号を貰い、またトーナメントでは総合優勝でブリュンヒルデの称号を貰いました。

 

 男なのにヴァルキリーでブリュンヒルデ……

 

 トーナメント制だったのに部門ってなんだよと思ったが、どうもそれを決める人達がトーナメント時での各代表の動きやプレーを見て、議論を交わして決まるみたい。

 初戦で負けたりした人達の対策にトーナメントで早く落ちてしまった代表は同じ落ちてしまった代表同士で最後まで戦い続けてその時の動きやプレーも評価に加味されると篠ノ之さんから説明を受けた。

 

 ちなみに、織斑さんは近接部門で最優秀賞を貰いヴァルキリーの称号を、トーナメントでも総合優勝でブリュンヒルデの称号を貰った。

 どうもトーナメントの決勝でまさかの二機同時ダウンは流石にだれも予想できなかったみたいでこのような形に落ち着いた。

 

 そして、多分ワンオフアビリティであると予想されるVシステムの機能について。

 Vシステムは自身のシールドエネルギーを消費して発動する。

 Vシステムの発動中は、相手からの攻撃は一切無効化し、機体の性能を向上させ、自身の装備である複合弾薬仕様ISカービンライフルの威力を劇的に向上させる。特にチャージショットの威力は胴体と頭部、いづれかに命中すれば一撃でシールドエネルギーをすべて持って行き、各パーツ、部位に命中すれば大破もしくは部位の機能の完全停止に持ち込める。

 

 しかし、Vシステムは発動中シールドエネルギーはその間減少の一途を辿り、一度発動させれば、自身のシールドエネルギーを喰らい尽くすまで発動し続ける……という欠点がある。よって対戦終盤のシールドエネルギーが少ないような状況では、発動しても攻撃する間も無くシールドエネルギーが無くなるといった事もありえる。

 

 多少の差異はあれどそれはまさに織斑さんの暮桜のもつワンオフアビリティ、零落白夜とある意味対を成す物となった。使える機会的な意味でもな。

 

 余談だが、モンド・グロッソでは他のISとの公平さを示すため、各国の公式に開示されたISの性能に基づいて自分のISにリミッターをかけ、モンド・グロッソ運営委員会にそのスペックや特性を提示して許可を得た上で使用していた。

 男性操縦者のIS着用の為に格段にガタ落ちしたからといっても、曲がりなりにもキチガイ性能の宝庫である白騎士と同時期に製作された機体である。これぐらいはしなければ……

 

 だが、所詮操縦者……自分自身が残念な人なので射撃の補正や反動制御、移動や回避運動くらいしか使っていなく、一部の性能しか引き出せていないのが現状だが……

 

 次は織斑さんと白黒付けたいなぁ、と思いつつ。自宅に無事に帰るとすぐに地下に建造された射撃場で黙々と人間用の銃器とIS用の銃器を撃っていた。別になんの事はない、幅が狭く奥行きが広い一人で射撃するには十分な部屋だ。

 どうも、篠ノ之さんが以前こっちに来た時にやらかしたんだろう。方法については想像したくないが……

 

 と、丁度拳銃の弾倉の中身が無くなりスライドストップが上がる。弾倉の取り出しボタンを押し、空の弾倉を抜き取り、スライドストップを下ろして、セーフティーをかける。

 

「何か用かい?篠ノ之ちゃん」

 

 そう言いながら振り向くとそこには篠ノ之さんの妹がいた。なんだか少し緊張した面持ちだ。

 

「岡部さん、おかえりなさい」

「ああ、ただいま」

「その……モンド・グロッソでは姉さんに色々振り回されましたよね?」

「まあ、振り回されたけど……織斑さんと同様、付き合い長いからねー」

「でもモンド・グロッソに出たせいで、そのせいで……岡部さんが世界中から狙われるなんて……」

 

 世界中から狙われる、確かに篠ノ之さんが推薦した正体不明のISとその操縦者、しかも白騎士事件の当事者でヴァルキリーとブリュンヒルデの称号を持つほどの実力とくれば、誰もが喉から手が出る程欲しいに決まっている。それをわかっているからこそ今のセリフは言えるのだが……

 あれ? なんで篠ノ之ちゃんが自分はISに乗れることを知ってるんだ?

 

「岡部さん、ごめんなさい! 私が軽い気持ちで姉さんに言ったから……だから!」

「……あー、その件な」

 

 既に涙目な篠ノ之ちゃんに寄って屈んで、篠ノ之ちゃんと同じ目線で見る。

 

「実はな、もう白騎士事件の時から、ISに乗ってたんだ。それで、その後、篠ノ之さんの家族が離れ離れになったって話を聞いて、当時篠ノ之ちゃんが一番危うい状態だったから、篠ノ之さんに無理言って篠ノ之ちゃんを守りたいって頼んだんだ」

「そう……なんですか?」

 

 涙目になりながらもそう聞いてくる。

 ホントの所は篠ノ之さんに頼まれて護衛に来たのだが、そんな事言ったら情緒不安定な今では多少なりともショックを受けるのではないのだろうか? それこそ仲良しの姉に頼まれただけで自分の事は見てくれない……なんて事を考えてしまったらマズいという懸念があったのでさらりと提造しておく。

 あとで篠ノ之さんに事情言って謝らないとなぁ……

 

「ああ、そうだよ。だから、そんなに気に病まないで。な?」

 

 そう言って篠ノ之ちゃんの頭を撫でる。

 

「むしろ、自分は織斑さんと同じ位強いんだぜ。頼もしいでしょ?」

「……はい!」

「今はまだ、子供だけど、事情が事情だ。今からでもこれからの事を考えてもいいかもしれないな……」

「そうですか……」

「ま、そんな不安そうな顔にならなくてもいいよ。篠ノ之ちゃんが大人になるまでは、きっちり面倒見てあげるよ」

「はい。でも、私としては岡部さんはもう少ししっかりしてほしいです」

 

 しまらねー、と言いつつ、ホントの事なので苦笑いを浮かべてしまう。それを見て、篠ノ之ちゃんは面白そうに笑っていた。

 うんうん、子供は笑顔でいてこそ、ですな。

 目が少し赤くなってるが、中々魅力的なモノでした。

 

 次の日の朝、コーヒーを飲んでたら篠ノ之さんが勢い良く

 

「岡部さん! 私に射撃とISを教えて下さい!」

 

 と言ってきたので、思わず咽た。おまっ、日本政府の監視下なんだぜここ。せめて、篠ノ之さんが作った地下の射撃場で言って欲しかったッス……後でバレてないか確認とらんと……


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