No matter what fate   作:文系グダグダ

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20:8月 夏休み

 篠ノ之さん主催の贅沢なデートのひと時を過ごした後、篠ノ之さんは織斑さんとハルフォーフさんの二人を連れて、自分の家に入った。

 特に思うことが無かったので自分も一緒に自宅に入ろうとすると、篠ノ之さんからのストップがかかってしまった……

 篠ノ之さんが言うには三人で話し合うことがあるらしい……

 

 ――此処の家主は一応、自分なのだけどなぁ……

 

 仕方がないので、お隣にお邪魔することに……

 お隣の家に入り、リビングルームにお邪魔すると、そこには同じく追い出された組であろう篠ノ之ちゃんと凰さんがいて、メイド(チェルシー・布仏姉妹)と他のメンバーも確認した。

 勿論、シャルロット・デュノアとラウラ・ボーデヴィッヒ、この二人も同じ部屋に居ることが確認されている。

 

 自分が来た時には、彼女たちはテーブルを囲んでの今晩のお茶会を実施していた。

 まず、目に付いたのはテーブル上に普段では見ないようなケーキスタンドだ。

 色とりどり、多種多様なケーキがスタンドに存在している。他にも、ティーパーティー用の器具が色々と置いてあることが確認できる。

 

「「お帰りなさいませ、岡部様」」

 

「岡部せんせー、お帰りー」

 

 いち早く気がついたのはメイド組だった。

 チェルシー(チェルシー・ブランケット)さんと布仏 虚(のほとけ うつほ)布仏 本音(のほとけ ほんね)の三人だ。

 相変わらず、妹さんの方はえらく砕けた会話だが、自分にとってはお堅く挨拶されるよりかは気が楽なものである。

 

「あ、岡部さん

 お帰りなさーい」

 

「岡部先生、お帰りなさい」

 

 次に気がついたのは、篠ノ之ちゃんとデュノアさん。

 そして、その後はいつものメンバーである凰さんやオルコットさん、ボーデヴィッヒさんや更識姉妹も出迎えてくれる。

 

「で、トリプルデートってどんな感じだったの?! お姉さんに教えてよ~?」

 

 更識さんは折りたたんだ扇子で自分の方を指して茶化す……が、自分は返答として無言で出歯亀(更識楯無)にデコピンを食らわせる。更識ちゃんがよくやったと言わんばかりにグッ! と親指を立てているが気にしない事にする。

 

「ひっどーい! 暴力はんたいよ! 義兄様(お・に・い・さ・ま)

 

 扇子を広げて口元を隠す、広がった扇子には『DV反対』の文字が……

 懲りない野郎に今度はげんこつを一発お見舞いする。『ゴッ』と鈍い音を立てて、更識さんはオーバーに椅子から転げ落ち、ゴロゴロと転がった。

 

「いったーい!」

 

「んなオーバーな……」

 

 更識さんの様子に呆れていると、いつの間にか妹さん(更識簪)が姉の席のケーキを隣に移動させ、椅子を引いてこちらを見ていた。

 

「あ、そうそう。なんでケーキがいっぱいあるんだ?」

 

「シャルロットとラウラが貰ってきた……

 セシリアがイギリス本国から紅茶セットを取り寄せた……」

 

 思わず『なるほど』と呟く。

 

「それにしても、大人三人で内緒話なんて……気になるわね……

岡部先生は何か知らないの?」

 

凰さんがショートケーキに乗ったイチゴをフォークで突き刺して、こちらに向ける。

 

「さあ、自分には心当たりがないなぁ……」

 

本当は一つだけ予想が出来るが、今この場では言えない。なのでしらを切らせてもらう。

 

「まあ、来るべき時には、レーラーも言ってくれるだろう。

……それにしても、どうして貴方だけ仲間はずれなのだろうか?

 クラリッサなら納得出来るのだが……」

 

小皿に乗せようと、ミルクレープのホールを切り分けながら、ラウラ・ボーデヴィッヒが疑問にする。

視界の片隅には、『姉さん、埃が立つから邪魔……』、と言って更識ちゃんが姉をシャキッと立たせた。

 

「……もうっ、かんちゃんったら過激なんだから

何も 夢現 (ゆめうつつ)(対複合装甲用超振動薙刀(なぎなた))を持ち出してまでやらなくてもいいじゃない……」

 

「……姉さんはすぐにネタに走るよりも、もう一度常識を叩き込んで貰いたい」

 

 ――更識ちゃんの言うことはもっともだが、こういうところが姉妹だなぁと心の中でつぶやいた。本当に、この家が大きいからできる荒業だと思う。

 

「簪さんの言うことはもっともですわ……少々過激ですが……

ささ、岡部先生。お掛けになって下さいまし、せっかくの紅茶も冷めてしまいますわ」

 

 オルコットさんが呆れ顔でそう指摘した後、自分に紅茶を振る舞おうとする。

 特に断る理由もないので、自分は言葉のままに椅子に腰掛ける。

 

「オルコットさんに付き添ってイギリスに行った時以来だね。

 あの時は君のお母さん直々に紅茶を淹れられてて、驚いたよ」

 

「貴族たるもの客人をもてなすのも嗜みの一つですわ。

 私も紅茶ぐらいならば、当然出来ましてよ」

 

 フンス、といった感じにオルコットさんは強気に意気込む。

 

「ははっ、じゃあ期待できそうだ。

 その意気込みで料理の方も凰さんや篠ノ之ちゃん、簪ちゃんに教えてもらって、頑張って欲しいな」

 

「うぐっ……ぜ、善処いたしますわ……

 お父様から、連絡です。

『学園祭に行く』だとのことですわ」

 

 自分がそう言うと、オルコットさんはがっくりとうなだれてそう答えた。

 

「了解、手配をしておこう。

 ……おおっと、ボーデヴィッヒさんも同じだからな。

 『レーションだって美味しくできるように日々研究している』

 『そして、今でも食事は軍において重要なこと』……だ。

 その事を身を以て感じて欲しい」

 

 いきなりのキラーパスにボーデヴィッヒさんはビクッ、と身構える。

 

「り、了解しました。先生(マイレーラー)

 

「ま、そこのメシマズ二人の事はアタシ達に任せなさい」

 

「……まあ、一夏の為だ。ラウラ、協力は惜しまないぞ。

 それに……(実の姉)は強大だからな……」

 

 凰さんが茶化して、篠ノ之ちゃんが答える。

 

「姉さんも……花嫁修業はすべき……」

 

「でも政略結婚じゃないですかー!? いやだー!」

 

 更識さんのその一言に、皆は笑ったのだった……

 

 

   ■   ■   ■

 

 

 バイトの一件から数日が経ち、8月も中盤――ちょうどお盆を過ぎた頃、フランスから定刻通りに帰ってきたシャルロット・デュノアは空港のロータリーでアストンマーチンを見つけると、大きく手を振った。

 

 車はシャルロットの傍に横付けられて、助手席のドアが開く。

 運転席には岡部友章がいた。てっきり、自身の同級生でもあるセシリア・オルコットか更識のお抱えの運転手が乗っていると思ったシャルロットは少しだけ意外だと思った。

 

「お疲れ様、デュノアさん。帰省はどうだった?」

 

 デュノアは助手席に座り、ドアを閉める。そして、岡部友章は彼女にそう言ってからギアをドライブに入れて、アクセルを僅かに踏みこんだ。

 荷物はすべて、シャルロット・デュノアの愛機であるラファール・リヴァイブ・カスタムⅡの拡張領域(バススロット)内に収納済みなので、今のデュノアは文字通りの身一つだ。

 

「うん、良かった……良かったと思います」

 

 シャルロット・デュノアはほんの少しだけの帰省での、しかし記憶には強く残るであろう思い出を回想しつつ、シンプルな言葉で感想を伝えた。

 

「そうか、それでデュノアさんのお父さんには『例の物』を渡したかい?」

 

 岡部友章はそれに対して何の感慨も無く言葉を返した。

 例の物というのは、シャルロット・デュノアが帰省する前に岡部友章が彼女に渡したただの紙の封筒の事である。中身は丁寧にも蝋印で閉じられているためにシャルロット・デュノアはその中身までは見てはいなかったが、両親に渡した時の反応を見るに、とても魅力的な物が書かれていたのであろう。

 

「あ、はい。きちんと伝えました

 『学園祭にでも詳しい話を』と言ってましたよ」

 

 それはシャルロット・デュノアの両親がIS学園に直接趣くということを意味していた。

 

「うーん、期待以上だな……わかった。

 手間を掛けた。

 ありがとう、デュノアさん」

 

 こうしている間にも、アストンマーチンは道路を駆けて行く……

 ふと、岡部友章はハッ、と何かに気づいた後、助手席にいるシャルロット・デュノアに話しかけた。

 

「あ、そうそう。

 急な話なんだが……

 明日に篠ノ之ちゃんの実家で夏祭りがあるらしい。

せっかくの日本なんだし、織斑君たちと一緒にどうだい?」

 

「夏祭り、ですか……?」

 

「ああ、篠ノ之ちゃんの実家が神道系の……

 まあ、ざっくり言えば神社……あー、違うそっち(欧州)に合わせるなら神父や牧師……なのかな?

 自分には的確な説明はできないが……まあ、そういう家だ」

 

 岡部友章の何とも言えない、もやっとした不十分な説明を聞いた。シャルロット・デュノアであったが、それなりに頭の回転が早い事もあってか、まあ何とか理解はしたようだ。

 

「へえ、箒の家も家で変わってるんだね

 ところで岡部先生は?」

 

 シャルロット・デュノアは好奇心半分、ちょっとした打算半分に聞いた。

 岡部友章はそれを聞いて少しだけ苦笑いを浮かべる。

 

「自分は普通も普通、日本のよくある中流家庭の一人さ。

 強いて言えば、親が企業間取引(Bussiness to Bussiness)の中堅企業の社員『だった』ようなものだよ」

 

 そして、会話が途切れる。

 

 ――実は、岡部友章とシャルロット・デュノアは毎日のようによく会うものの会話自体は数える程しかしていない。

 

 シャルロット・デュノアがIS学園に来た当初は、警戒からか岡部友章と意図して言葉を交わさなかった事にも起因しているのだが……

 問題が解決して以降もシャルロット・デュノアと 岡部友章の会話は少なかった。

 

 理由としては岡部友章の忙しさもあるのだが、シャルロット・デュノア自身に、岡部友章に対して、何か話しかけられる事が少ないからだ。

 織斑一夏や篠ノ之箒のように半分身内なのも同然な人物でも無ければ、セシリア・オルコットやラウラ・ボーデヴィッヒの二人のように師と慕う事も無い。

 ついでに言えば、凰鈴音や更識簪のように岡部友章と何らかの共通点も薄く、一般のIS学園の生徒達(おてんば娘)更識楯無(茶化し仲間)のように癖のあるタイプでも無い。

 

 ――シャルロット・デュノアは品行方正で気立てが良くて素直。

   岡部友章にとっては手のかからない生徒と言うのがピッタリと彼女に当てはまっているのだ。

 

 さらに言えば、放課後の補習授業(ISガチ模擬戦)に置いても同じように……

 

 一点特化型の暮桜弐式(織斑千冬)白式・雪羅(織斑一夏)

 それぞれ特殊な機能を備えた第三世代ISである、ブルー・ティアーズ(セシリア・オルコット)シュヴァルツェア・レーゲン(ラウラ・ボーデヴィッヒ)打鉄弐式(更識簪)

 

 これらのIS達に比べ、ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ(シャルロット・デュノア)はどうしても見劣りしがちである。

 そして、拡張領域(バススロット)特化型としてはゲスト(岡部友章)、万能性としては赤椿(篠ノ之箒)、この2機の下位互換的な位置づけになりがちなのもこれらの印象に拍車をかけている。

 

 加えて言えば、シャルロット・デュノアのISにおける操縦技能としては正に『器用貧乏』であり、同じようなジャンルの人間としては、完全な上位互換として山田真耶やクラリッサ・ハルフォーフと言った人間もいるために埋もれがちなのである。

 シャルロット・デュノアにはISにおける武器の高速切替(ラピッド・スイッチ)という特殊な技能を持っているものの、彼女には圧倒的に経験というもののが足りていないのだ……

 

 なので、岡部友章がシャルロット・デュノアを教導する際には、篠ノ之箒やセシリア・オルコット、織斑千冬――彼女は半ば強引だが……

 彼女たちのようにまで、かなり深く入り込んだ教導は出来なかった。

 

「…………」

 

「…………」

 

 と、このような要因が幾つもの重なって今のような状況になったのである。

 

「あの、岡部先生……」

 

「ん?」

 

「こうやって二人きりになるのって、結構珍しいですよね……」

 

「? ああ、そうだな」

 

 岡部友章がそう答えると、シャルロット・デュノアは少しだけ戸惑った後に、意を決して言った。

 

「どうして、どうして……私を助けてくれたのですか?」

 

「……」

 

 これには岡部友章も返答に困った。

 

 そもそも、岡部友章のフランスでの1件とシャルロット・デュノアの男装については関連性があるように見えて、完全なる『偶然』である。

 結果としてはシャルロット・デュノアの男装問題については織斑一夏が動き、それに合わせて、岡部友章や織斑千冬、更識楯無の面々が迅速な行動や対応で済ませたかのように見えているだけなのである。

 

「……君は、織斑一夏に好意を持っている」

 

「……えっ、あ、あの」

 

 岡部友章からの突然の奇襲に言葉の意味を即座に理解したシャルロット・デュノアは顔を赤面させ、両手で顔を覆って戸惑う。

 

「君は、シャルロット・デュノアは織斑一夏に対して明確に恋愛感情を持っている。そうでは無かったか?」

 

「……は、はい」

 

 赤面させたシャルロット・デュノアの対して、岡部友章は容赦無くストレートに言葉を伝えると、シャルロット・デュノアは肯定の意を示した。

 

「きっかけとしては、まあ……転校直後に男装がバレ、そのまま織斑一夏が君を庇い続けたり、気をかけてくれた。それがきっかけだな」

 

「……ええ、まあ

 それが、それが理由ですか……」

 

「デュノア社の経営状況はどうかね?」

 

 シャルロット・デュノアの質問に岡部友章は質問で答えるというタブーを犯す。

 だが、シャルロット・デュノアは立場上からか、岡部友章の有無を言わさない口調からか反論できず、素直に答える。

 

「経営は……将来的な物を見据えると、厳しいと思います」

 

「そうだ

 現在、デュノア社はラファールシリーズによって利益を得ている。ISのフレームの費用は勿論だが、契約に基づくメンテナンスやオプションパーツ・武装パーツ、消耗品の供給によって膨大な利益を計上している」

 

 

 ISはその中枢たるコアの他とラファールタイプや打鉄、レーゲンタイプやテンペストタイプのフレームを購入する『だけ』ならば、戦闘機よりも『高く』はない。

 

 問題はISコアに限りがある点と、維持費・訓練費などのコストが遥かにかかる点である。

 

 なので、フレームの購入費による利益よりもその後のアフターサービスから利益を計上するようなビジネスを展開するのは当然の帰結といえよう。

 

 

「しかし、デュノア社は第三世代型ISの開発は他の先進国よりも一歩遅れる形となる……

 確かにラファールシリーズの汎用性とオプションパーツの豊富さ、メンテナンスなどのアフターサービス……それらをISのフレームの購入時に抱き合わせで購入させ、流動性の高いキャッシュフローを実現させたビジネス形態としては他の先進国よりも進んでいるのは事実」

 

 

 ――いくら、傑作機と言われようとも時代の流れに遅れてしまえば非力な存在に過ぎない

 

 

 

 ――デュノア社による第三世代型ISの開発が『遅れている』という事実が市場に流れている

 

 デュノア社にとっては、これは本当に痛い所を突かれる訳だ。

 当然、他の企業・先進国はこれをネガティブキャンペーンの材料として嬉々として使うだろう。

 そして、デュノア社のCEOが今まで傀儡化していた事によっての弊害として、技術力は勿論のこと、ビジネスモデル等のノウハウも少なからず流出してしまっている事が予想される。」

 

 岡部友章が、フランスでの1件でかち合った――ほんの短い間でさえ、それらのノウハウと多くの資金が闇の中へ消えていった事実も確認している。

 シャルロット・デュノアはその事実に反論しようも無く、ただ黙りこくって岡部友章の話を聞いている。

 

「私個人の意見としては、(シャルロット・デュノア)(織斑一夏)と恋人になろうが正妻になろうが(めかけ)や愛人になろうとも、両方共に幸せになってくれれば何も問題は無い」

 

 ――自由恋愛バンザイ……だ

 

 と岡部友章はつぶやく。

 

「だが、後ろ盾の無い状態でアレ(織斑一夏)を含む身内(篠ノ之姉妹・織斑姉弟)魑魅魍魎が跋扈する世界(社会)に解き放ってしまうのは非常にマズい

 ……かと言って、後ろ盾の操り人形にされてしまうのは――私自身が『絶対』に許さない」

 

 ここまで言えば、シャルロット・デュノアも察しがついたようで、目を見開き驚愕といった感情を露わにさせて、運転席にいる岡部友章を凝視した。

 

「私に……デュノア社がその後ろ盾となれ……と……

 だから……助けた……」

 

「『ゲスト』、ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡに通達

 

 ――『これから私が喋ることすべてを記録にするな』

 

 そして『ゲスト』

 

 『私とデュノア以外の何者にもこの会話を漏らすな』」

 

 岡部友章の左腕につけてある腕時計型のISコアがチカリと発光した。

 

「シャルロット・デュノア

 私はデュノア社がそのまま衰退するのを良しとしない

 だから私は『ISコアの製造権(ライセンス)』を将来的にデュノア社に渡そうと思っている」

 

 ――絶句……

 

 シャルロット・デュノアはその言葉に背筋が凍り、しっとりと背中に汗が染みてくる。

 

「でも……どうやって……」

 

 震える唇で搾り出せたのはたったこの言葉だけだ。

 対照的に岡部友章は涼しげにしている。

 

「普通に『特許』をとって『利権化』する」

 

 ISコアは完全にブラックボックス化されている。

 ISコアが世界に配られてからも現在まで、それは未だに破られてはいない。

 

「デュノアさん。以前、みんなで勉強会をやった時に自分は大学から来たと言っていたのを覚えてないかい?」

 

「ええ、まあ。はい」

 

 唐突に話が変わった事に疑問を感じつつ、シャルロット・デュノアを少し気の抜けた声で返事を返す。

 ちょうど車は赤信号に差し掛かり、一時的に止まった。

 

「これが大学行ってた意味」

 

 岡部友章は助手席に体を向ける。

 

 ――シャツの左胸には。十六弁菊花紋の中央に五三桐をあしらったデザインの徽章(バッジ)がつけてあった。

 

「身内で固めないと安心できない(タチ)でね。自分の悪い癖だよ」

 

 シャルロット・デュノアはもうため息しか出なかった。

 

「今のところは順調。年内には利権化完了する見込みだ」

 

「岡部先生……いや、岡部さん……あなたは一体……」

 

 シャルロット・デュノアはまだ自由の身では無い。

 彼女の生も死も、知らぬ間にこの男が握っていたのだ。

 

「君が織斑一夏を本当に愛する事ができない、もしくは愛する事が出来る自信が無いのなら……

 無理は言わない、『あきらめろ』」

 

 解っていたことではあるが、その言葉はシャルロット・デュノアにとってはハンマーで頭をかち割られるくらいの威力があった。

 

「でも、一夏には他にも……鈴とかラウラとか、簪さんだって……それに箒だって!?」

 

 かつて、少し前に凰鈴音からも言われた言葉を思い出して、苦笑しつつも岡部友章は答える。

 

市民同盟(civil union)という言葉を知ってるかい? 結婚に似た『法的に承認されたパートナーシップ関係』という言葉らしい。私はその制度を利用したいと思う

 

 もう一度言わせてもらう。シャルロット・デュノア

 もし君が本当に織斑一夏という人間を愛する事ができない、もしくは織斑一夏という人間と彼を慕う娘達と共に生きていくことができないというなら……

 

 ――あきらめるんだ」

 

「……クス」

 

 シャルロット・デュノアは喉を鳴らして笑った。まるで岡部友章を見下すように……

 

「岡部『さん』フランスは先進国の一国だと言われているけど、それって何だと思いますか?」

 

「? さあ?」

 

「正解は――『愛』ですよ

 フランスは愛の先進国なんです

 政略結婚? ハーレム? 上等です。むしろ、この上なく燃えてきました」

 

 シャルロット・デュノアの心は折れず、むしろ燃え上がっていた。

 この反応には岡部友章も予想はしていなかったようで、少しだけ戸惑う。

 

「……(こいつ大丈夫だろうか)」

 

「『デュノアの強みは汎用性にある。常に相手の予想を裏切ってやれ』

 補習授業での岡部さんの言葉、大正解でしたね」

 

 そう言って、ニコッと岡部友章に向けて満面の笑みを浮かべるシャルロット・デュノア。

 その顔は正に『してやったり』といった表情であった……

 

「……参った」

 

「数日後にお祭りがあるから女性陣のみんなでお買い物に行くんでしょ?

 しっかりと運転、お願いしますね。義兄様(おにいさま)

 

 ちょうど、信号が青になり、岡部友章は苦笑いを浮かべてため息をつきながら、ゆっくりとアクセルペダルを踏みこむのであった……

 

 

   ■   ■   ■

 

「(何も変わってないなここは……)」

 

 8月のお盆、その週末に篠ノ之箒は親戚の家である篠ノ之神社にいた。

 

「うわぁ、ここは変わらないなぁー」

 

 その隣には、篠ノ之箒の保護者代わりでもある岡部友章が感慨深くそう呟いていた……

 

「ええ、本当に何も変わってない……」

 

 板張りの剣道道場は今でも時が止まったように静かに佇んでいた。

 岡部友章が言うには定年退職した警察官の方が、今でも善意で教室を開いているらしい。

 

「今は結構人居るな」

 

「ええ、昔は私と千冬さん、そして一夏と岡部さんしかいませんでしたからね。

 たまに姉さんもいたけど……」

 

 そう言うと、篠ノ之箒は壁の木製名札を見ながら、物思い吹けるように生徒手帳を取り出し、写真を眺めた。

 

「お、ツーショット写真。そんなところに入れてあるのか」

 

 岡部友章はそっと後ろから覗き見る。写真はシンプルに剣道道場での剣道衣姿の篠ノ之箒と織斑一夏のツーショット写真であった。

 

「ええ、岡部さんが撮ってくれた写真ですから。

 あの時はありがとうございます」

 

「ははっ、これぐらいしかお節介はできないからね。

 ツーショット捏造、と言うのも青春の1ページにはちょうど良いが、こっちの方がいいってものだろ?」

 

 そう言うと、岡部友章は手帳を取り出す。

 手帳には写真が収められおり、岡部友章はパラパラとそれをめくるとそこには、同じ場所での篠ノ之姉妹と織斑姉弟の写真が入っていた。

 

 ふと、岡部友章は手帳をしまうと、こちらに向かう人物に向けてお辞儀をした。

 

「お久しぶりです雪子(ゆきこ)さん」

 

 ――さらっと岡部友章は篠ノ之箒の叔母である篠ノ之雪子に篠ノ之箒の様子が見えないように移動してからお辞儀をしていることは、本人以外知る由もない。

 

 篠ノ之箒は慌てて生徒手帳をしまうと、岡部友章の前に出る。

 

「お久しぶりです。叔母さん

 つい懐かしくて、ここで立ちつくしてしまいました」

 

 そう言うと篠ノ之雪子は純粋に微笑んだ。

 

「いいのよ、元々住んでいたところですもの。誰だって懐かしむわ

 岡部さんも箒ちゃんの付き添い、ご苦労様」

 

「好きでやっていますので。お構いなく

 お心遣い、感謝します」

 

 そう言って、岡部友章は再び頭を下げる。

 篠ノ之雪子は再び、篠ノ之箒に声をかける。

 

「それにしても、良かったの?

 夏祭りのお手伝いなんてして?」

 

「いえ、こちらとしても都合が良かったので、大丈夫ですよ」

 

 篠ノ之箒はそう言うと、篠ノ之雪子は嬉しそうにした。

 

「あら! それは大歓迎だわ! 男の子とのデートでも考えているのね?」

 

「ッ! ……ええ。せっかくのチャンスですから」

 

 篠ノ之雪子の一言に一瞬だけたじろぐものの、篠ノ之箒は強かにそうきり返した。

 

「それじゃあ、しっかりと準備必要よね?

 6時から神楽舞だから、今のうちにお風呂に入ってちょうだいね」

 

「はいっ!」

 

 そう言うと、篠ノ之箒は家の中に入っていった。

 

「岡部さんはどうされます?」

 

 この場に残ったのは岡部友章と篠ノ之雪子の二人だけである。

 

「では、そちらの方にお邪魔します」

 

「ええ、どうぞ。ごゆっくり」

 

 岡部友章と篠ノ之雪子は、一緒に家の居間の方に向かう。

 篠ノ之雪子がお茶を出してくれたので、ゆっくりとそれをいただきながら、篠ノ之箒の準備が終わるまで、篠ノ之神社について色々な質問をぶつけてみた。

 

 元々、篠ノ之神社で行っていた。祭りというのは厳密には神道系の類では無く、土地神伝承的なものに性質が近いらしく、基本は正月と盆に神楽舞を行う。

 神楽舞の目的は現世に残った霊魂を幽界に還す為に神様に捧げる為の手段であり、これが時代を経るごとに元々は古武術の一派であった『篠ノ之流』が剣術へと変化し、今では剣道へと受け継がれている。

 詳しい記録や書物は今では消失してしまったものの、今でもこの篠ノ之神社には女性用の実用刀があったりと、その道の人間をして『いわくつき』と呼ばれてる場所でもあるのだ。

 

 その話を聞いて岡部友章は思考する。

 篠ノ之雪子は夏祭りの準備があるので、居間を去って行く。

 

 

 ――何故……何故、自分はその幽界に還らずに今も現世(ここ)に存在しているのか?

 

 

 ――自分には現世で何かやるべきことがあるのか?

 

 

 ――それとも、神は自分を幽界に還す気がないのか……?

 

 

 ――何故、よりにもよって自分の目の前にそんなもの(篠ノ之神社)を置いたのか…?…?

 

 

 岡部友章には、これらの現象がすべて全くの偶然で片付るには不可解に感じた。

 だがしかし、いつまでも思考しても、結論は導くことができないのは仕方がない事だった。

 

 

 …………ただ一つだけ、わかることと言えば、自分と篠ノ之、その間には何か超常的な因果関係があるのかもしれない、という事だけである。

 

 

 ――偶然も重なれば必然に、ひいては運命になる……

 

 

 しばらく、深い思考に耽っていた岡部友章だったが、携帯電話から機械的な着信音がけたたましく居間に鳴り響く。

 岡部友章は空想の世界から現実に引き戻され――まるで、幽界にから現世に帰ってくるかのように一瞬だけ肩を震わせた後、携帯電話を手にとった。

 

「一夏か……」

 

『ああ、友兄。

 今、みんなといっしょに篠ノ之神社についたところ』

 

 岡部友章はハッとしておもむろに腕時計を見る。

 IS『ゲスト』は気を利かせて、ディスプレイを点灯させ、時刻をはっきりと見えるように表示させる。

 

「ああ、もうそんな時間か……織斑君は『至急』、剣道道場の方に来てくれ

 他のメンバーのお守りはやっておこう」

 

『? ああ、わかった!』

 

 織斑一夏はそう言うと、携帯電話の会話を切ったらしく、岡部友章はそのまま携帯電話をポケットにしまい込んだ。

 

「さて、行くか」

 

 岡部友章は気だるげに立ち上がると、篠ノ之神社の夏祭りの出店に向かって歩き出した。

 

「さて、自分はやることをやりますか」

 

 色とりどりの出店を背景に、人の波をするりと抜けながら岡部友章は歩いて行く。

 彼の今日の目的は、篠ノ之箒と織斑一夏とのデートの遂行を見守ることである。

 勿論、ほかの学生組を仲間はずれにするわけにも行かないので、うまいこと手綱を握りつつやらなければならないし、こういったイベントでは織斑一夏の体質(フラグ)が光るので、それにも目を光らせなければならない。

 

 ――勿論、これを好機に攻勢仕掛けてくるのは何も織斑一夏の周りだけではない

 

「一人でアレもコレもやらねばならない。辛いところだが、やりがいも出てくるって物だ」

 

 人通りの少ない森の中、岡部友章はIS『ゲスト』を展開、自立型にさせ、光学迷彩(ステルス)で姿形を隠した後、篠ノ之神社周辺を監視するために、上空に上がるように指示を出してから、織斑一夏が言っていた集合場所に向かう。

 

 集合場所に指定していた鳥居には結構な人がいた。

 だがしかし、直ぐにいつものメンバーを見つけ出す。

 

「そりゃ浮くよな……うん」

 

 彼らを見つけた岡部友章は思わずため息を吐いた。

 

「先生! いつまで待たせるの!」

 

 真っ先に岡部友章に突っかかってきたのは凰鈴音だ。

 

「ははっ、スマンスマン

 お詫びに今日は全部、先生が奢るよ」

 

「あら? 先生ったら! よっ! お大尽!」

 

 岡部友章がそう言うと案の定、更識楯無がノッてきた。

 更識姉妹は薄い水色を基調としたお揃いの浴衣を着ている。

 

「全く……こんだけ大所帯だと人の視線も多くなるな」

 

「おまけのこのメンバーですからね。仕方がないかと」

 

 そう言ってため息を吐いたのは織斑千冬とクラリッサ・ハルフォーフである。

 織斑千冬は白を基調とした浴衣で、クラリッサ・ハルフォーフは黒を基調とした浴衣でいた。特に織斑千冬は長い髪をアップにして、(うなじ)をみせるようにしている。

 

 そして二人がなぜ、そう言っているのかというと……

 

 ――凰鈴音、セシリア・オルコット、シャルロット・デュノア、ラウラ・ボーデヴィッヒ、更識簪・楯無の学生組

 

 ――岡部友章、織斑千冬、篠ノ之束、クラリッサ・ハルフォーフの大人組

 

 ――布仏姉妹、チェルシーのメイド組

 

 総勢13名、織斑一夏と篠ノ之箒を入れれば15名、男女比率2:13という驚異的な事になるのである。

 しかも、アジア系である凰鈴音をカウントしないものとすれば、三分の一が外国人で構成されている。

 それに加えて、岡部友章・メイド組を除く全員は皆浴衣を着用し、メイド組はもちろん(?)メイド服を着用している。

 

 ――これでは目立ってくれと言わんばかりである。

 

「流石にここまで目立つとは思わなかった……」

 

「にゃはは、仕方がないね」

 

 周りの野郎どもの怨嗟に満ちた視線をよそに、気分は小学生の引率の先生気分でげんなりする岡部友章。

 それを察してか桜色を基調とした浴衣で髪型を珍しくサイドテールにしている篠ノ之束が肩を叩いて慰める。

 

(ここまでお膳立てしておいて、織斑君に告白出来無かったら……俺泣いちゃうよ……)

 

 着慣れない衣服と、初めての日本の夏祭りに目を爛々と輝かせる欧州組を見ながら、岡部友章はただ、篠ノ之箒と織斑一夏のデートの成功を祈るしか無かった……

 

   ■   ■   ■

 

 篠ノ之神社での夏祭りから、帰った一同。

 織斑姉弟は、そのまま岡部友章の家とそのお隣で泊まることになった。

 そして大人組は岡部の家で、学生組は隣の家で泊まることが決定された。

 

「で、私達3人を呼び出してなんの話だ? 束」

 

一対のソファに男性陣と女性陣が向かい合うように座っており、篠ノ之束はそれらから少し離れた位置にいる。

 

「んーとね、重大発表!」

 

そう宣言する篠ノ之束の姿に懐疑的でありながらも渋々と彼女の話を聞こうとする一同。

 

「へえ、それでどんな話なんだ……っ!」

 

 岡部友章は篠ノ之束にその内容を聞こうとしたその時、突然篠ノ之束は立ち上がるや否や、そのままこちらの方に飛び込んだ。

 

「おいッ!」「なッ!」

 

 驚愕する二人をよそに岡部は立ち上がり篠ノ之束を受け止める。

 彼女は彼の服を掴むと、そのまま抱きつくようにギュッと握った。

 

 いくら軽い女性とはいえ、人一人の飛び付きの衝撃は大きい。岡部はそのまま後ろに倒れ込もうとするが、後ろにはソファがあった。

 ソファはそんなに背もたれが高くなく、このまま真後ろに倒れれば彼はひっくり返って脳天を床に激突させる恐れがあった。

 なので、篠ノ之束が抱きついてきた衝撃を利用して足を器用に動かして軸ずらし、ソファに座り込むように倒れた。

 篠ノ之束は横抱き――俗に言うお姫様抱っこの体勢で、両腕を岡部の首に回してじぃー、とこちらを見つめた。

 

 二人(織斑千冬とクラリッサ・ハルフォーフ)から見れば、篠ノ之束が岡部友章を押し倒したように見えるのは確実であった……

 

「し、篠ノ」

 

「好き! 好き好き好きっ! だいすき! 君とは死ぬまでずっと一緒だよ! だよ!」

 

 名字すら満足に言えず、篠ノ之束は岡部の頬に軽く――まるで子供がやるようにキスをしてから爆弾を投下した。

 この様子をみた織斑さんとハルフォーフさんの目つきが剣呑な物に変わるのにはそう時間はかからなかった。

 

「束! これはどういうことだ!?」

 

「え? そのままだけど」

 

 ソファから立ち上がり、篠ノ之束に食いかかる織斑千冬。だが、篠ノ之さんは不思議そうに首を傾げるだけだ。

 

「それにしても、どうして今なのです? 篠ノ之束?」

 

 織斑千冬に遅れを取る形で、クラリッサ・ハルフォーフが問いかけた。

 表面上は穏やかに見える彼女だが、その目は笑っておらず、冗談でも言おう物ならどうなるかわかったものでは無い雰囲気を醸し出していた……

 この場にいた岡部は真っ先にこう思った……

 

 ――ここはいつから世界一おっかない女選考会会場になったんだ……

 

 場所の都合上、どうしても2人の視線の射線上にいる岡部は必然的に2人の威圧をくらう場所にいるわけで……

 顔や表情、その他見える場所には出さないが、ソファに掛けている背中には、この十数秒の内にしっとりと冷や汗をかいていた。

 

 ――ちなみに岡部友章のおっかない女ランキングは、織斑千冬が2位、篠ノ之束が1位、クラリッサ・ハルフォーフが5位の順位に輝いている。こんな時にはどうでもいい話だが……

 

「『新参』のハルフォーフちゃんにはわからないだろうけど……

 ちーちゃんはわかるよね? ね?」

 

「わかってる……ただ、お前の口から言え……」

 

 そういった織斑千冬の拳はフルフルと震えていた。

 

「えー、だって私達が高校時代の時は何かとお節介をかけてクラスから孤立しないように尽力してくれたでしょう?

 白騎士事件の時は二つ返事で引き受けてくれて、箒ちゃんまで守ってくれて

 第二回モンド・グロッソでは生身でいっくんや箒ちゃんを助けに行ってくれて

 で、いっくんのIS学園入学に際には男性操縦者として矢面にたってくれてるんだよ?」

 

「ああ、その件に対しては束の他に私も深く感謝している。

 岡部は高校時代からほとんどの時間を私達の為だけに尽くしてくれた……

 初めは彼に辛く当たっていたはずなのに……だ」

 

「それを言えば私も、彼に命を2度も救われてます

 特に第二回モンド・グロッソ後の『ナノマシン・スキャンダル』では、私のみならず、間接的にではありますが黒ウサギ隊(シュヴァルツェア・ハーゲン)の全隊員の人生すら救ってくれました」

 

 それぞれの口から言われる。岡部友章のやらかしたこと(ある意味での黒歴史)を言われて内心、悶絶する岡部。

 今のこの場で発言がもし、許されるようならば彼は『ぐぉぉぉ……ッ!』と、唸っていたことだろう。

 

「でも……

 

 実 は こ れ だ け じ ゃ な い ん だ よ ?

 

 

 篠ノ之束はそう言うと、今まで岡部友章と篠ノ之束しか知らなかった出来事を暴露した。

 

 ――まずは、岡部友章が家族と完全に縁を切っていたことから始まり……

 

 ――第一回モンド・グロッソ後のリハビリや、その後の行動の事を話した

 

 この事柄に関しては、特筆すべき事柄がいくつかある。岡部友章は自身の黒歴史をほじくり返されるのを直視したくないので、今此処で情報を整理(現実逃避)を行った。

 

 まずは、幾つものリハビリ行為を行った後、いくつかの組織が自分の正体について掴んでいた。

 更識・オルコット……そして国連本部が極秘に設立した超法規的対テロ組織M.O.P.(Multiple-Operation-Program)と欧州に本部を置くV.S.S.E.(Vital,Situation,Swift ,Elimination)

 

 この4つの集団が自分に好意的な集団である。

 M.O.P.はGHOST SQUAD――つまりは特殊部隊G.H.O.S.T.と傘下に入れているいわば、母体。

 後者2つの組織からは、それぞれこちらに武器・装備の供与と訓練の場を提供を行った。

拳銃のガーディアンⅠは支給武器の一例だろう。

 

 ――この手の組織は常に人材が欠乏しがちである。

 

 下手に藪をつついては蛇を出す事もないという判断だろう。

 彼らの厚意に対し、自分は快くこれを引き受けた。

 

 ――世の中、ヤバイ奴らなんてゴマンと溢れている。

 

 自分は前世で嫌というほどにこれを思い知っていて、彼らもそのことには重々承知しているからこその取引であった。

 

 勿論、好意に対しての逆――悪意も存在していた。

 

 そして、その悪意の結晶として、表面的に現れたのは……

 

 

 ――関係者の暗殺・誘拐、そして妨害工作

 

 

 これは第二回モンド・グロッソの一件もそれに当てはまると言えるし、シャルロット・デュノアの件やついこの間に起こった最新鋭のIS暴走事件――福音事件もこれに当てはまる。

 

 実はこれ以前にも語らなかったが、いくつか存在していた。

 

 

 ――篠ノ之姉妹、そして織斑姉弟暗殺・誘拐、である。

 

 

 自分という名前が一度でも挙がれば、他の関係者を洗い出すのは当然の帰結。

 そして、自分は今まで深い付き合いをしていたのは篠ノ之・織斑のメンバー。

 ここで、高校時代彼女たちの関係の良化に時間と労力を少なからず多くつぎ込んできたことが裏目にでた瞬間である。

 

 ……とはいっても、前世でG.H.O.S.T.やV.S.S.E.に所属し、多くの修羅場をくぐり抜けてきた経験と勘は、同組織の援助の甲斐もあってか、最盛期の少し手前まで実力を発揮できるようにまでなっており、事細かく、そして表立って特筆すべき事ではない。

 実際、幾度にわたってそれらの工作をすべて未然に粉砕しており、今も織斑・篠ノ之両家が大手を振って今日までに、外に遊びに行くことが出来たり、この場に居ることが何よりの証拠である。

 

 VTシステムの抹消時にG.H.O.S.T.の部隊と遭遇し、戦わぬまま、彼らが退いてくれたのも、これらの理由があるからである。

 

 これが一つ、次は大学でのことだ。

 

 ISを作った事は良い物の、篠ノ之さんにとってここまで世界に大きな影響を与えた事は流石に予想だにしなかった事であった。

 このままでは、自由に身内の身動きが取れないことは直ぐに予想できた。

 だが、篠ノ之さんはこれらの打開策までは上手く思いつかなかった。一般人との常識に大きな齟齬が起こっている『天災』の彼女独特に悩みだろう。

 

 ――それでも彼女は諦めなかった

 

 彼女は、何らかの権力(パワー)を得ようと考えていた。できれば穏便に、かつ暴力的では無い方法を。

 

 そして、その方法の一つとして、ISの『利権化』に着目した。

 

 ――これから世界はISの基幹技術を元にさらなる発展が予測される。

 

 ISの『発明者』である篠ノ之さんは誰よりもいち早くそれに着目し、利権化の方法の一つとして、『特許』の取得を考えた。

 

 ――篠ノ之束にとってはISですら自身のやりたい事の過程の一部に過ぎない……

 

 『天災』たる彼女はそう考えたのだ。

 

 特許の取得にはISの事細かな――今でも完全にブラックボックス化されており、未だに解明されていない『ISコアの製造方法』と特許として利権化する……

 

 そう結論付けるのに至っては時間はかからなかった。

 

 ――しかし問題はあった。

 

 書類の作成・提出は全く問題ない。

 各国・全世界の特許機関に『それぞれの言語で』書類をたしなめる事も問題は無い。

 特許取得の条件になる、新規性・進歩性・著名性も全くもって問題ない。

 書類の中身――審査官が理解できるだろう内容にまで言語や用語を落とし込める事も、高校時代に賜物のお陰で問題はない。

 

 ――では何が問題なのか……

 

 特許の申請には発明者の他に『弁理士』が必要だ。

 

 これが曲者だった。

 

 篠ノ之さんはこの弁理士から、何かしらの綻びが生じる可能性についてもっとも危惧していた。

 その話を聞いた自分は、『自分がそれになる』と言った。だから、大学に通ったのだ。

 勿論、それらの事がばれないように学科を変え、受講履歴も足がつかないようにした。

 

 大学――特に日本の大学は社会から孤立している。

 

   ――そして、伝統に縛られている。

 

   ――コンピューターによる電子化が進む中、完全に電子化されず、未だに紙媒体でやりとりをしているところがあるのだ。

 

 自分はその特性を突いた……そしてばれないように勉強を続け、去年にはついに徽章《バッジ》を手に入れる事ができたのだ。

 

 ――ISが登場して6~7年、そしてISの利権化に成功すれば『20年』、その権力を手に入れられる。

 

 あとは、その間に資金やコネに変換すれば良い。

 

 ――ISの登場からおよそ30年もたてば、また新たなブレイクスルーが発生するだろう

 

 ここまでくれば、確実で堅実な基盤と力を付けられる。

 

 ――それが、自分が大学に行った目的だ。

 

「ここまで言ったらわかるでしょ?

 こんなにも……アッキーは束さんを理解してくれて、命を――人生を懸けてくれて、尽くしてくれてるんだよ?

 

 ―― 彼 に 惹 か れ な い わ け が 無 い じ ゃ な い

 

 ―― 彼 に 溺 れ な い わ け が な い じ ゃ な い」

 

 あまりにもショッキングな事実に織斑千冬とクラリッサ・ハルフォーフの両名は言葉を失った。

 これを好機(チャンス)と見たのか、篠ノ之束はさらに畳み掛ける。

 

「アッキーは、私達に色々なものを与えてくれた……

 君はとても不器用だけど、それは確かに私達の力となり、糧となり……未来になったの

 

 ――8年

 

 君は8年も私達のために頑張ってくれたし、これからも力になってくれる

 私達の為に奔走し、ISに乗り込んで戦い、守るために多くの修羅場や戦場を渡り歩いてくれた。

 

 でも君もそろそろ疲れてくる頃だよ……?

 仮に今は大丈夫でも、ここまでに濃い経験中々無いよ?

 絶対に君はなにか溜め込んでいる

 

 だからね……

 

 そろそろ束さんも本格的にアッキーの力になりたいんだ

 正直な所ね、束さん……

 

  君 の た め な ら 何 で も し て あ げ る

 

 ――君が望むものなら何でも手に入れてあげる

 

 ――君が望むものなら何だって作ってあげる

 

 ――もし君が疲れたなら私が癒してあげる

 

 愚痴だって聞いてあげるし、人肌が恋しかったら抱きしめてあげる!

 何なら着て欲しい服があったら何でも来てあげるし、束さんのカラダで癒して欲しかったら、君が満足するまでシてあげる!」

 

そこまで言いきってから、篠ノ之束は岡部友章の耳もとで囁いた。

 

「今まで焦らしちゃってゴメンね

貴方の欲望……全部束さんが受け止めてアゲル……」

 

そう言って、篠ノ之束はペロリ……と岡部の耳たぶを舐めた後、軽く甘噛みをした。

 

「っ!!」「おい! 束っ!」

 

 この言葉と行動に、織斑千冬とクラリッサ・ハルフォーフは面食らった。

 クラリッサに至っては、今まで冷静にソファに座っていたのだが、ソファから立ち上がる程に狼狽えた。

 この言葉には岡部友章も今までにないくらいに動揺していた。

 

 岡部友章自身の予想では、篠ノ之束には自身に対して好意はあるもののここまで大きなモノになるとは思ってもみなかったのだ。

 

「……だからって、私はこの中の3人から1人を選べなんて言わないよ?

 私はね、アッキーを束縛したりはしないよ?

 でもね……何番目でも良いから束さんは君の妻になりたいんだ

 

 浮気? 愛人? 最終的には束さんの元に帰ってくれたらすべて許しちゃうんだよ? だよ?」

 

 このような発言が躊躇無くできるのは、篠ノ之束にとっての大きなアドバンテージである。当然のように、織斑千冬とクラリッサ・ハルフォーフの両名も反応を露わにする。

 

「!? そんな!? 束! そんなことが……ッ!」

 

「くぅ……私の最大の切り札が、こんなところで使われるとは……」

 

 だがしかし、反応は両者共に異なったものであった。

 

「……」

 

「あら? ハルフォーフちゃんも同じ事を考えてたんだ。見る目あるねー」

 

「なんだと!?」

 

岡部友章自身、クラリッサ・ハルフォーフの愛人発言を聞いていたので、すんなりと理解することが出来たものの、織斑千冬はクラリッサ・ハルフォーフが赴任した時や福音事件の時に奪い取るという趣旨の発言をされていたので、逆に混乱してしまっていた。

 

「大方、織斑さんを煽る為に言ったんだろう。

……福音事件では助かった」

 

岡部友章は今すぐにでも逃げ出したかった。

三人も――しかも全員綺麗どころに思いを寄せられるのは純粋に嬉しいことなのだが……

 

「……」

 

 ――正直な所、怖いのだ。

 

 確かに、岡部友章は学生時代は織斑千冬や篠ノ之束の為に動いてきた。それは……紛れも無い事実。

 だがそれは、岡部自身の打算も込みでの行動なのだ。

 

 徐々に前世と剥離し、変容を遂げようとする世界。

 

 生き残る術を持たない岡部友章の下に現れた二人。篠ノ之束と織斑千冬……

 

 今までの出来事の発端からしてこの二人は、もし……この世界を舞台上に例えれば、間違いなく彼女達は一線級の役者であり、重要なキャストである。もしかしたら、主人公(ヒーロー・ヒロイン)なのかもしれない。

 

 対する岡部は戦うことしか能の無い男だ。

 

 今考えれば彼は、彼女達に出会った時に本能的にその事実に察し、生き残る為にこのような事をしたのだ。

 

 ――はっきりと言おう、『前に出すぎた』……いや、『前に出ざるを得なかった』

 

 今この場で、岡部友章が彼女達を受け入れることは……つまりはこの舞台にメインキャストとして出ることを意味するだろう。

 

 今まで裏方やスケープゴートといった役割であった岡部にとってはこの事実がとても恐ろしく感じるのだ。

 

「……すまない」

 

 だからこそ、今此処ではっきりと言わなければならない。

 関係の維持は不可能、ならばこのままズルズルと引き込まれるのならば、明確な意思表示を行うのがいいだろう。仮に返答が鉛弾だとしても、甘んじて受け入れなければならないのが辛いところだが……

 岡部友章はそう決断づけた。

 

「自分は君達と、その……恋愛関係は、結べない……」

 

 岡部友章はそう言って、篠ノ之束を元のソファに戻し、そのまま席を立つ。

 クラリッサ・ハルフォーフや織斑千冬はこの様子をただ静観するしか無かった。

 そしてそのまま彼はリビングを出ようとするが……

 

「アッキー、誰が『選べ』とも『付き合って下さい』とも言ったかな?」

 

 岡部友章は歩みを止めた。

 

「ねえ、アッキー。

 束さん、他にも色々と新技術の利権化の申請とかしたいんだよねー

 主に赤椿とかのISのシステム関連と、私の研究用に必要な個人的な試験的なIS隊を」

 

 篠ノ之束その言葉にクラリッサ・ハルフォーフは意図を察した。

 

「……では、シュヴァルツェア・ハーゼから選りすぐりの操縦者を何人――いや、全員こちらに来ていただきましょうか?」

 

「良いねー、『よくわかっているじゃないか』

 じゃあ、早速『ISコアのストック』を、それも『新たに作り出したISコア』を持ちだそう」

 

 ここまで二人が喋れば、織斑千冬も意図に察する事ができる。

 そして、覚悟も決まる。

 

「では、私も『IS学園の教師』ではなく『白騎士』として、その計画に参加しよう

 何、IS学園で実施すれば問題はない。ついでに代表候補生や愚弟(織斑一夏)も呼ぼうではないか」

 

 それぞれ三人は背を向けたまま止まった岡部友章に対して視線を向けて言い放つ。

 そして、篠ノ之束はトドメの一撃を言い放った。

 

「アッキーは私達だけじゃなくてみんな(学生組)の事も大事だよね?

 私もちーちゃんもハルちゃんも……君を逃すつもりは無いよ? よ?」

 

 岡部友章に残された選択肢は『彼女達に屈する』のみ……

 最早、彼には後戻りという選択肢なぞすでにもう無かったのだ……

 

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