No matter what fate   作:文系グダグダ

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21:9月 学園祭 前編

 アリーナでは相変わらずの激戦が繰り広げられていた……

 対戦カードは凰鈴音と織斑一夏。

 両名共に機体の詳細については凰鈴音は攻撃特化パッケージ(換装装備)崩山(ほうざん)を装備した甲龍と第二形態移行(セカンドシフト)を完了させた白色・雪羅である。

 

「このっ! とっとと落ちなさいよ!」

 

 4門の熱殻拡散衝撃砲による圧倒的弾幕の他には、最近中国の開発局の方から声送られてきた試作品であるIS用アサルトカノン――試作型突撃鉄騎砲を凰鈴音自身が持って撃っているのだ。

 

 ――攻撃は最大の防御

 

 これが今回の凰鈴音の作戦である。

 

「そっちこそ! ちょっとくらい弾幕を抑えてくれよ!」

 

 熱殻拡散衝撃砲は威力が通常の龍咆より高い――貫徹力や殺傷範囲に優れている反面、見た目が炎弾なため、視認性が良く避けられやすい。

 

「あんたバカ!? 白式の第二形態移行(セカンドシフト)以来、機動力も火力も……

 こっちは雪片弐型で直接バッサリと斬られたら一発でアウトなのよ!?」

 

「そりゃそうだけど!? 炎弾に混じって通常の不可視の龍咆まで混ぜること無いだろう!?」

 

 白式・雪羅の従来よりもパワーアップした機動力とスピードを駆使してもアリーナという密室な以上、少しずつシールドエネルギーが削られていく。

 白式・雪羅自身も従来よりも燃費が悪くなったせいか、瞬時加速(イグニッション・ブースト)する度にシールドエネルギーが減っていく。

 

「なによ!? 岡部先生に聞いたわよ! 第二形態移行時に性能試験を行ったら、瞬時加速のチャージ時間は約2/3・最大速度は1.5倍程に強化されたって! チートよチート!」

 

 お互い話し合いながら、平然と片方は撃って、片方は回避に集中している所を見ると、この数ヶ月でずいぶんと操縦の腕を上げたと岡部友章は思った。

 

「岡部。あいつら、喋りながら試合をやっているな……」

 

「ああ、お互いに色々と揺さぶりをかけながらだろうが、見た目はサボっているようにしか見えないな……」

 

(岡部)よ、どちらが勝つと思う?」

 

 岡部友章は織斑千冬とクラリッサ・ハルフォーフの両人に挟まれる形で二人の試合を見ており、このような形で二人と雑談や解説で話し合う。

 

「そうだな……凰さんのアサルトカノンが……」

 

 ちょうどいいタイミングで、甲龍のアサルトカノンの弾丸が弾切れを起こす。

 凰鈴音は素早く、突撃鉄騎砲(アサルトカノン)の上部に突いた箱型弾倉(ボックスマガジン)を取り外し、再装填(リロード)を行った。

 

「切れた時が勝負の分かれ目……かな?」

 

「はぁぁあああ!」

 

 織斑一夏のIS――白式・雪羅は二段階瞬時加速(ダブル・イグニッション・ブースト)で 凰鈴音の甲龍に肉薄する。甲龍はアサルトカノンを放棄し、すぐさま青竜刀――双天牙月を構えていた。

 だがしかし、甲龍の青龍刀(双天牙月)近接ブレード(雪片弐型)で弾き飛ばすと、その刃先を甲龍に突きつけた。

 

「くっ……あたしの負けだわ……」

 

 凰鈴音が降参の意を示すと同時に、雪片弐型の輝きが消える。ちょうどシールドエネルギーが底をつき、零落白夜の能力が消えたのだ。

 

「ふう、今回は俺の勝ちだな」

 

 試合終了を告げるアラームが鳴り、ただの物理刀と化した雪片弐型を下げると、織斑一夏と凰鈴音はISを待機状態に戻す。

 そして、1組と2組の生徒達は皆一斉に拍手と黄色い声援を彼に投げかけた。

 

「まあ、総合的にはアタシの方が上だけどね」

 

「戦績は後期からリセットだろ? 初めて勝ち越したんだからちょっとぐらい感傷に浸らせてくれよ……」

 

 ――今日は9月の3日。今年度後期初めての1組2組の合同IS演習の授業である。

 

 ――そして放課後……

 

「うぉぉおお!」

 

 白式・雪羅(織斑君)は自身の左腕の多機能武装腕(アームド・アーム)をクロー形態に変化させ、ゲスト機(自分)に肉薄する。

 

「……」

 

 自分は白式を引きつけてから、左肩の発煙弾発射機――スモークディスチャージャー(smoke grenade dischargers)を発射、至近距離で発煙弾の信管を作動させる。

 

「うわっ!」

 

 突然に煙の中に消えたゲスト機に困惑する織斑君の声を聞きながら、煙幕の中で煌めく爪から離れて回避する。

 

「あたれっ!!」

 

 煙の中から早急に離脱した白式・雪羅(織斑君)は自身の左腕の多機能武装腕(アームド・アーム)を荷電粒子砲、月穿(つきうがち)に変化させ、煙の中にいるであろうゲスト機(自分)に発射して来る。

 

 シールドエネルギーを削ってまでの射撃、当たれば大きな損害は免れない。

 

 普通なら、盾で身を守るのだが、今回は新作ミッションパック――Fタイプ(ファイトタイプ:Fight Type)の運用試験も兼ねているので、武装は……これもまたデュノア社の試作品であるヘビィマシンガン(重機関銃)――デザート・フォックスのカービン(Carbine)タイプ――銃全体の全長を短く切り詰めた物が一つだけである。これをヘビィマシンガンCと呼ぶ。

 

 スラスターとクライシスサイトを頼りに荷電粒子砲を避けつつ、ヘビィマシンガンCをしっかりと左手で保持しながらとにかく撃ちまくり、白式に急接近する。

 

「……!」

 

(荷電粒子砲が掠めただけでかなりのシールドエネルギーが持っていかれただと!)

 

 回避行動による、急な体勢の変化も肩当て(ストック)を取り除き、銃身を短く切り詰めたこの銃は容易に相手を捉えることができる。

 命中スレスレのきわどい荷電粒子砲がゲスト機のフレームに掠めていく中、白式・雪羅はまともにヘビィマシンガンCの掃射を浴び、怯んだ。

 

「ぐわぁ!」

 

 小型化されているとはいえ、重機関銃――質量の大きい、口径が大きな弾丸はさぞ、痛いだろう。

 自分は、白式が怯んだことを確認すると、ヘビィマシンガンの射撃を中断して右肩でのショルダータックルを敢行する。

 右肩には棘付き装甲(スパイクアーマー)が備え付けられているのが、Fタイプ――格闘・白兵戦用ミッションパックの見た目の大きな特徴としての一つとしてあげられるだろう。

 体を捻り、右肩をせり出す体勢で、あの時――モンド・グロッソで行った時のままに瞬時加速(イグニッション・ブースト)を行う。

 

 ――自動車同士が正面衝突したような……凄まじい音がアリーナに響き渡る。

 

「一夏ッ!」「一夏さん!」「イチカッ!」

 

 観客席で篠ノ之ちゃんとオルコットさん、凰さんが織斑君の身を案じて叫ぶ。

 

「馬鹿者! 怯むな!」「イチカ! 逃げて!」「嫁! 逃げろ!」

 

 一方、織斑さんとデュノアさん、そしてボーデヴィッヒさんは追撃を警戒した。

 

「ふんっ!」

 

 だが、自分は織斑君に余裕を与える暇もなく、赤く熱した(スパイク)を見ながら間髪をいれずに左腕を振るう。

 拳が振りぬかれた直後、爆発音が漏れ、そのまま拳は文字通り『伸びて』、火薬の爆発力から得た速度で白式・雪羅の露出した腹部に杭打ち機のように突き刺さる。

 そして左腕部の装甲の隙間――排莢孔(エジェクション・ポート)から熱くなった空薬莢が飛び出した。

 

 ――これがFタイプ一番の目玉。試験型固定装備『アームパンチ』である。

 

 IS『ゲスト』は他の一般的なISに比べ、推進翼が少なく、全体的に一回り大きい。

 そのメリットとしては手足のリーチの長さや装備できる武器の大型化が望める。

 アームパンチ機構はその『手足のリーチ』をさらに強化したようなシステムであり、ゲスト機の増加装甲――厳密には反応装甲(Reactive Armour)(たぐい)である爆発反応装甲(Explosive Reactive Armour)電磁装甲(Electromagnetic Armor)任意開放(アーマーパージ)でしか近接攻撃『武装』が無かったゲスト機の近接能力を高めることができる唯一の方法である。

 

 白式・雪羅はくの字型に折れて、吹き飛ばされる。

 だが、まだ自分の行動は終わっていない。

 

「これは、勝負ありですね」「アッキーって意外と容赦無いね」

 

「……ここまでのハンデがあっても……一夏には厳しい」

 

「ここまで泥臭い戦い方は、岡部先生の特色ね」「私達にはとても真似はできませんね……」

 

 ハルフォーフ先生と篠ノ之さん、更識姉妹と山田先生の外野が何か言ってるが、気にすることなく自分は両手でヘビィマシンガンCを構えてきっちり白式・雪羅の頭部にフルオートで弾丸を叩き込んで、シールドエネルギーを完全に消し飛ばしたのであった……

 

「ふう……」

 

 地面に倒れた織斑君にいつものメンバー(一夏ラヴァーズ)が駆け寄るのを尻目に、自分は降り立つとバイザーを可視状態にして、ヘルメット部を格納した。

 

「どう? 『アームパンチ機構』は?」

 

 テテテ、といった風に真っ先に自分に駆け寄ってきたのは篠ノ之さんである。

 

「ああ、これなら満足できそうだ」

 

「それなら良かったよ」

 

 うさ耳をピコピコと動かしながら、IS学園指定の白衣を着ている篠ノ之さんは満足そうに頷いた。

 

「それと、室内戦を想定して足部に球体駆動式全方向移動装置(ボールダッシュ)や、方向転換用の(シュタイクアイゼン)もあるのがすごいね」

 

 自分はそう言うと足裏のボールを起動させ、滑るようにアリーナの地上を走り、フィギュアスケートのようにくるりと一回してから篠ノ之さんの所に戻った。

 

「相変わらず岡部、お前は器用なものだな」

 

「ローラースケートみたいで、ちょっと楽しそうですね」

 

「室内戦……満足に空中に上がれない時の為か……理にはかなっているか?」

 

 走っている間に、織斑さんとハルフォーフさん、山田先生がこちらにやってきたようで、それぞれ呆れている。

 

「篠ノ之さん。これらの装備、制式採用しちゃいましょう」

 

「オッケー! 全ミッションパックに採用・装備させちゃいましょう!」

 

 自分はそう言って親指を立てると、篠ノ之さんもノリノリで応えてくれた。

 

「それにしても、ずいぶんと一夏……いや、白式・雪羅はエネルギー消費量が多くなったな……」

 

「強力な武装、強化された機動力……しかし、その分エネルギーも多く食らう……か」

 

 立体ディスプレイに計測データを表示させて織斑さんとハルフォーフさんはそう言って指摘する。

 

「なんと言いますか、乗り手のセンスが問われる――ピーキーな感じですね」

 

「だが、あのポテンシャル……火力と機動性の高さは全ISの中でも光るものがあるな」

 

 山田先生の指摘に織斑さんはそう答えた。

 事実、幾つもの荷電粒子砲が掠っただけでゲストのシールドエネルギーは試合で定められた規定量の6割を削っている。

 近接攻撃においてはゲスト機だからこそ反応して回避行動に成功しているが、同じ格闘機同士だと確実に仕留めていた。それほどまでに速かったのだ。

 

「とりあえず、ちょっと織斑君の所に行ってきます」

 

「ああ、行って来い。

 ちょうど第二形態移行(セカンドシフト)や臨海学校で調子に乗ってた愚弟には良い薬だった」

 

「臨海学校での一件は自分も気を引き締めるにはいい機会でした。

 お互い様ですよ」

 

 そう言って、織斑に手を振って応える。

 次に、自分はボールダッシュで織斑君達の方に駆け寄る。

 

「あら? 楽しそうね?」

 

「実にユニークなアイデア……」

 

 滑走時の姿を見ていた更識姉妹が興味深そうにこちらを見る。

 

「大丈夫か?」

 

「うーん、まだふらふらする……」

 

「先生……ちょっとだけ、見てもいい?」

 

 デュノアさんと篠ノ之ちゃんの二人に両肩を支えられて、織斑君は情けなさそうに答え、更識ちゃんは食い入るようにゲスト機の脚パーツを注視する。

 篠ノ之さんに視線を向けると、彼女はグッ、と親指を立てた。

 

「ちょっと待ってね、良いみたいだ。どうぞご自由に。

 もう少し手加減が上手くいけば良かったんだが……スマン。

 今度の休みに何かご飯でも奢るよ」

 

「マジか! サンキュー!」

 

 目に見えて喜ぶ織斑君に対して、凰さんは織斑君の後頭部を小突く。

 

「サンキュー! じゃないわよ。

 いくら近接が不慣れな岡部先生相手でもさっきの闘い方はいくらなんでも舐めてかかりすぎよ」

 

「いやぁ、ゲスト機がマシンガン一丁だけしか持っていなかったもんだから、つい……

 機動力も火力もこっちの方が上なんだぜ?」

 

「嫁よ。

 展開装甲でシャルロットのラファールよりも豊富な武装を保有することができるゲスト機といえども、それが全てではない。

 それらを各状況で最適な武器を選択し、しっかりと扱える先生(レーラー)がいてこそ、その潜在能力(ポテンシャル)を遺憾無く発揮できるのだ」

 

 織斑君は凰さんにそう言うと、ボーデヴィッヒさんがそう指摘する。

 

「ラウラさんの仰る通りです。

 ゲスト機の装備に目を奪われがちですが、岡部先生自身も相当な使い手なのですよ?」

 

 ボーデヴィッヒさんに続いて、オルコットさんも同調する。

 

「(でないとフランスで銃撃戦なんてできないよね)……今回は技量差だから仕方が無いよ」

 

「(そうでなければとうに、私が襲撃された時に死んでいる)……まあ、そう責めるな。ラウラ、セシリア

 特に、私も同じことは言えんしな……」

 

 何か釈然とはしない表情なものの、篠ノ之ちゃんとデュノアさんがフォローを入れていた。

 

 ――予定変更。今直ぐにフォローでも入れるか……

 

 織斑君周りの空気に少しばかり違和感を感じた自分はそう決心した。

 時間を見ると、ちょうど夕ごはんの時間だということがわかる。いつもと違って少し早いが、今日の補習はお開きにしよう。後期はまだ、始まったばかりなのだから。

 

「はいはいはい! アリーナでだべっているのもいいが、そろそろ今日の補習はお開きにするぞー!

 先生たちは学食に行くけど、付いて来るか? 今日は先生が『何でも』奢るぞー」

 

「はいはい! 今何でもって言ったわね? 私行きまーす!」

 

 ――楯無お前じゃねぇ座ってろ

 

 心の中でそうツッコミを入れる。

 しかし、真っ先に更識さんが反応したおかげで、この場は一気に晩御飯へと突入するムードに雰囲気が変わったのであった。

 

 ――流石です。会長

 

   ■   ■   ■

 

――突然だが、話は8月の月末に遡る。

 

「お待たせしました!」

 

 とあるバー、息を切らせた山田真耶はカウンターに座る織斑千冬に会っていた。

 

「すみません、少し遅れました」

 

「そのセリフは突然呼び出した私が言うべきだろうに……こちらこそ、いきなりで悪い」

 

 欧州製の調度品で固められ、いかにも『大人のバー』といった雰囲気を醸し出すこの店は織斑千冬の行きつけでもあり、時たま岡部友章も誘って飲んでいる事がある。

 

「いえいえ、どうせ部屋で通信販売のカタログを眺めていただけですし」

 

 そう言って、山田真耶が織斑千冬の席の隣に座ると、バーのマスターがそっと二人にアルコール度数が比較的低いカクテルをそっと差し出した。

 

「それにしても、いきなり呼び出すだなんて何か有りました?」

 

「……まあ、相談、相談事……だな」

 

 山田真耶は普段からしっかりしていた織斑千冬がこんなにも歯切れの悪い様子でいきなり自分を呼び出した事実に苦笑しつつ、少し茶化した。

 

 ――例えば……岡部先生絡みですか? と言ったのだ。

 

 山田真耶にとっては普段からの軽い――おふざけの意趣返しのつもりではあったのだが……

 

「うっ……やはりわかるのか……」

 

 何事にも動じない程度に、カリスマと威厳を見せていた織斑千冬がこんなにも弱気になっている……

 山田真耶は初めて見る同僚の姿に戸惑いを隠せなかった。

 

「えーっと、とりあえず乾杯しましょ!

 その後何があったのか、私に話していただけませんか?」

 

 彼女は慌ててそう言うと、グラスの片割れをそっと織斑千冬に差し出す。

 織斑千冬もそれをあっさりと受け取り山田真耶のグラスにそっと当てた。

 

「それでは乾杯っ」

 

「ああ……」

 

 その後、織斑千冬は夏休みに起こったことを――具体的には篠ノ之束の衝撃発言を話したのであった。

 

「……で、岡部先生はどう答えたんですか?」

 

 山田真耶はISコアの製造法の特許化や、ドイツのIS配備特殊部隊、通称黒ウサギ隊(シュヴァルツェ・ハーゼ)が全員、篠ノ之束の下に降りるといった衝撃の事実にめまいがしそうなものの、岡部友章をめぐる三角、いや――四角関係について、当の本人はどう答えたのか聞いた。

 

「岡部は……最低限――今年を含めてあと5年はここ(IS学園)にいてくれるそうだ……

 篠ノ之束の妹――箒達がそのまま大学部か、祖国へと帰る時と同じ時にアイツは蒸発する気でいるらしい」

 

「先輩、そんなことを聞いてるんじゃないです。

 岡部友章ははっきり答えを言ったんですか?」

 

 力無く回答する織斑千冬ではあるが、山田真耶は岡部友章のその発言を直ぐに『はぐらかし』と判断して、更に問い詰める。

 

 ――山田真耶は当事者ではない、だが同僚ではある。

 

 岡部友章の無責任なその発言は彼女を怒らせるのには十分な威力を誇っていた。

 

「『君達とは付き合えない』はっきりと……そう言ったよ」

 

「なるほど、そこで公の場では言えないような事を篠ノ之束が言って、クラリッサさんと先輩が援護射撃をして、今に至る……と。

確かに岡部先生のそれって無責任ですよね。」

 

 山田真耶が怒るのも無理は無い。

 なぜなら、岡部友章は篠ノ之束のIS製造法の特許化と織斑一夏達の育成・地盤固めが終わり次第、自分達から身を引くと言ったのだ。

 今現在、IS学園内でのIS実習に関わる教師陣の数が多いとは言えない。

 そして、学園内においても派閥というものが存在しており、IS実習の教師陣はそのすべてが20代という異常なまでに若い派閥である。

 当然、派閥内での駆け引きには経験の差で弱くなるが、それを補っているのが織斑千冬と岡部友章の2人なのだ。

 2人ともIS業界内にとどまらず、世界的にも名を馳せ、織斑千冬はその天性のカリスマで、岡部友章は20代では異常なまでの理論武装と弁舌の強さで実習教師陣の待遇面を支援しているのだ。

 

「ああ……当然、それを盾に私達は彼を責めたさ。

 だが、人員ではクラリッサ先生の黒ウサギ隊を充てる事によって……

 派閥内ではデュノア社とオルコット家がIS学園の――IS実習教師陣の支援を行うと言っていた。

 他にも更識や大学部、学園のトップや国連にまで根回しを行っていて、岡部自身が此処を去っても問題無いように手配していたよ……」

 

 織斑千冬はそう言うと、力無く項垂れた。

 

 ――ここで、岡部友章の擁護と補足事項を付け足そう。

 

 岡部友章はIS学園に教師として入ってきた際は第一回モンド・グロッソ前での織斑千冬の告白も、篠ノ之束からの愛情も全て『若さからの一過性のもの』と判断して、彼女達と付き合っていた。

 

 ――彼にとって、織斑千冬と篠ノ之束の二人はまさに高嶺の花、自分が手に出来るようなものではないと思っていたのだ。

 

 ――だからこそ、岡部友章は二人と対等に付き合えるだけで満足しており、今まで散々アプローチがあったのにもかかわらず、彼はそれを受け止めないでいた。

 

 『彼女達にはきっといい出逢いがある』

 

 『戦う事しか芸の無い自分には勿体無い』

 

 純粋な好意をぶつけられる中、岡部友章は打算的に物事を考える一方、本心からそう思っていた。

 彼女達も岡部友章との長い付き合いから、急激な関係の変化を望んでおらず、今までのままにズルズルと温い関係を築いていくだけでも十分であったのだ。

 いわば、岡部友章と2人(織斑千冬・篠ノ之束)の関係は膠着状態にあったといえるだろう。両者共に、この関係からどちらにも転んで欲しく無かったのだ。

 

 ――しかし、クラリッサ・ハルフォーフという存在がすべてを狂わせた。

 

 クラリッサ・ハルフォーフと岡部友章の関係はとても薄いもので、ここから織斑千冬や篠ノ之束程の関係を築いていく事は到底無理である。

 だからこそ、彼女は岡部友章に対して大攻勢を仕掛けたのだ。

 

 クラリッサ・ハルフォーフは織斑千冬のドイツ出向――黒ウサギ隊との教導にて接触しており、実はこの時点で織斑千冬と岡部友章の関係を匂いで察していた。

 そう、織斑千冬がドイツに出向する前に岡部友章がちょくちょく織斑宅に来ていたためである。

 

 クラリッサは確認の為に、教導の合間合間――俗に言うガールズトークのような物で、飲酒が許可されている時の合間合間で織斑千冬に恋人がいるかどうか、好きな男のタイプは等と言った物を雑談の中で仕掛け、岡部友章と織斑千冬との関係を推察していた。

 

 織斑千冬・篠ノ之束の連合と岡部友章の2つの勢力

 その中に新たな、第3勢力としてクラリッサ・ハルフォーフが入り込み、膠着状態を無理にでも崩壊させる事を選んだのだ。

 

 ――そして、その結果として、先の大攻勢に至るのである。

 

 岡部友章は当初、膠着状態の長い時間の間に二人の自分に対する熱は次第に冷めていくだろうと予想していた。

 しかし、クラリッサ・ハルフォーフは長い時間をかけて、二人の岡部友章に対する感情は徐々に積層していくと考えていたのだ。

 

 その結果として、クラリッサ・ハルフォーフという脅威に晒された織斑千冬は今まで取らなかった露骨なまでのアプローチを行うようになり、篠ノ之束が初めての攻勢に出るにまで至ったのであった。

 

 ――もっとも、奪い合う形ではなく3人で共有するという結論に至ったのは流石のクラリッサ・ハルフォーフも予想できなかったが……

 

 頼みの綱の一つである、一夫多妻制の実現の難しさも岡部友章自身が織斑一夏の為に勧めている市民同盟の所為で、奇しくも岡部自身が嵌められてしまうという結果になってしまう。

 

 ――こうなると岡部友章は守勢に回る他なく、取るべき手段としては物理的に距離を離すしか無かったのである。

 

「……もうこうなったら」

 

 かなりの時間が過ぎ去り、山田真耶と織斑千冬の両名はアルコールが回ってきた頃合い。

 山田真耶は爆弾を投下した。

 

「先輩、ヤっちゃいましょう」

 

「ッ!?」

 

「既成事実ですよ! き・せ・い・じ・じ・つ!」

 

「……あ、ああ。

 だが、それは少し……やり過ぎるのでは?」

 

 普段の山田真耶からは考えられないセリフが飛び出し、織斑千冬は面食らう。

 アルコールが回っているからこそ、言えるのだろうか……と、彼女は思いつつ、理由を尋ねた。

 

「そんなことありませんよ先輩!

 岡部先生の事を聞けば聞くほど、その行動が不可解なんです!

 なぜ、そこまで私達に対して周到に根回しをしておきながら、彼自身がその対象に入って無いんですか?」

 

 織斑千冬は確かに、と思う。

 普通はそこまで後ろ盾を得ていれば、問題は無いだろう。

 だが、岡部友章はそれらをすべて、自分達に渡す気でいるのだ。

 

「おそらくですが、これは憶測なんですが……

 岡部先生は白騎士事件の片割れISゲスト機の操縦者です。

 それに加えて、あの人は何かと色々な人脈(コネ)を持っています。

 考えてみれば本来岡部先生は世界中から狙われてもおかしくない人です」

 

 山田真耶のその言葉は半ば正解である。

 

「だからこそ、岡部先生は地盤の固まったIS学園に居ると、逆に不都合が起こりうる……

 そう考えたから、地盤の固まるであろう5年後にIS学園を去るって言ったんだと思います」

 

「理には、かなっているな……」

 

 暮桜弐式に盗聴器等の電子機器や、聞き耳をたてている者、不審な人物が居ないか常に探知を任せている中、織斑千冬は相槌を打つ。

 

 ――学園に帰ったら、少し相談してみるか……

 

 いつもと違い饒舌な山田真耶を尻目に、岡部友章の攻略について算段をたてる織斑千冬であった。

 

 ――岡部友章、『最終防衛線』(貞操の危機)突入である。

 

   ■   ■   ■

 

 放課後の模擬戦から見ての翌日。

 朝のSHR(ショートホームルーム)と一時限目の一部分を使っての集会が行われた。

 アリーナにはIS学園高等部から大学部までの生徒達がひしめき合っている。

 

「おはようございます。織斑先生、山田先生」

 

 教員も例外では無く、教員用のアリーナの席には各教員が揃い踏みしている。

 自分はいつものメンバーを見かけると、いつもどおりにそこに向かう。

 

 ――そう、いつもどおり……だ。

 

「アッキー! おはよう!」

 

「おはようございます。岡部先生」

 

 すぐさま返事を返した篠ノ之さんとハルフォーフ先生に手を上げて軽く答えてから、席に座る。

 

「岡部、遅かったじゃないか?」

 

「早朝からオルコットさんの――イギリスの代表候補を担当するIS整備部門と喧嘩してきた」

 

「それは……また、お疲れさまです」

 

 織斑さんへの質問の答えに、山田先生が同情した。

 自分がSHRに遅れそうになった訳は、先日の放課後、全員で食事に行った際に、オルコットさんから実弾装備を持ちたいという提案があったからである。

 

 理由はエネルギー系の武装を無効化出来る装備が充実してきたからである。

 

 その代表例といえばシャルロット・デュノアのIS、ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡの装備の一つであるリヴァイブ専用防御パッケージ(ガーデン・カーテン)だ。実体シールドとエネルギーシールドを2枚ずつもつそれは、ブルー・ティアーズのエネルギー系武装の大半を防御してしまう。

 次に、織斑一夏の白式・雪羅の多機能武装腕雪羅(せつら)である。

 多くにわたって、ブルー・ティアーズと交戦した記録からか、対エネルギー耐性を持つ盾が左腕に生成されるようになったのだ。

 他にも、ドイツのラウラ・ボーデヴィッヒが操縦するシュヴァルツェア・レーゲンのフレームに対ビーム加工が施されていたりと……

 各国のISはブルー・ティアーズとの交戦した記録から、対策としての対エネルギー武装の

開発が行われているのだ。

 

 なので、自分は別に実弾装備等を持たせてもいいと思うが、BT兵器の稼働率や稼働試験をやりたいイギリスのIS部門はオルコットさんに実弾装備の使用を禁止していた。

 そこで、自分がイギリス側との交渉に打って出たのだ。

 

 早朝――とは言ったが、実質的には相手方の時差に合わせて深夜から国際線で連絡を取り、激しい口論の末、『そんなにやりたきゃ軍でやれ、今すぐブルー・ティアーズを本国にでも送り返してやろうか?』の一言で相手の心を折ることに成功したのである。

 

「まあ、他の国のISが対BT兵器の対策をしてきている

 と、言ったら血相変えたんで自分としてはそれを見れて満足ですよ」

 

 事実、BT兵器やレーザーなどといったエネルギー兵器だけであれだけやれるのは素直に驚嘆に値する。

 だがしかし、何故? そこまでしてイギリスはブルー・ティアーズに固執するのか?

 本国に試作機か後継機の一つや二つ、存在してもおかしくは無いはずなのだが……

 

 アリーナのディスプレイに映しだされたIS学園の生徒会長――更識楯無の様子を見ながらぼんやりとかんがえる。

 

 ――普段もこんだけピシっとしてればいいんだけどなぁ……

 

 何故か自分や――恐らく織斑君に対して、挑発的に視線を傾けながら、更識さんは話を続ける。

 

 ――先程から、篠ノ之さんとハルフォーフ先生が何やら話をしているが、気にしないことにする。

 

「では、今月の一大イベントの学園祭なんだけど、今回だけは特別なルールを導入するわ!」

 

 デデドン! と自分の脳内サウンドエフェクトを鳴らしつつディスプレイに映しだされた文字を見た。

 

『クラス・学部対抗男子争奪戦』

 

 ――男子、男子……織斑君、でも『男子』

 

 ――轡木の爺さん? 無いわ……じゃ、自分?

 

 ――自分(岡部友章)

 

「ファッ!?何!?ちょ!まっ!!」

 

「岡部、落ち着け。

 まだ、お前だという確証は無い」

 

「そうですよ岡部先生! 織斑君はまだしも先生の可能性はもしかしたら……ッ!」

 

「山田先生は静かにお願いします……」

 

 自分は思っきり席を立つようにして立ち上がるのと同時に、黄色い声援が飛び交う。

 他の教員達も驚いて立ち上がった自分を見つめていて、織斑さんや山田先生は自分をなだめてくれている。

 

「静かに」

 

 更識さんのその一言にざわついていた生徒たちは引き潮にようにスッ、と静まり返る。

 カリスマの無駄使いである。

 

「学園祭では各クラスと学部毎に催し物を出して、その後それに対して投票を行い、投票数が上位のクラス・学部には報奨金が出る仕組みですが……」

 

 生徒たちは静かに溜めに入った更識さんを食い入るように見つめている。

 

「それじゃあつまらないから、クラスには織斑一夏君を、学部には岡部友章先生を(強制的に)異動させちゃいましょう!」

 

 ――デデーン! アウトー!

 

 再びうるさくなる生徒たちをよそに頭を抱えたくなる衝動を抑える。これ以上はうろたえてはいけない。

 更識さんはどこかに――きっと織斑君の方向に、ウインクをした後、こちらの方にグッ! と親指を立てた。

 だが、自分とは視線が合っていない……

 

 視界を横に向けるとそこには親指を立てて返している篠ノ之さんとハルフォーフ先生の姿が……

 

 ――えっ……

 

 驚愕をよそに織斑さんはスタスタと二人に向かって歩き寄る。

 

「よし! クラリッサ。

 1限目、残りの時間で1組2組『合同』で早速集会を取るぞ」

 

「了解しました。ブリュンヒルデ」

 

「束、お前の所属はどうなるんだ?」

 

「ゲスト機付きの整備員兼非常勤講師みたいな扱いだけど、2組の所属だよ?

 かいちょーさんにそうして貰ったし」

 

 ――えっ……そこは怒って問い詰める場面なんじゃ?

 

「ちょっと織斑さん!」

 

 山田先生が次に織斑さん達に駆け寄る。あーもう、これ茶番ですわ……

 

「私だけ除け者なんてズルいですよ!」

 

 やっぱり茶番だった!

 

 かくして初耳、そして本人達の未承認のままに、自分と織斑君の争奪戦が始まったのである。

 

 その後、残りの一時限目の時間を用いて、1組2組合同での催し物を決めるために自分が管理を担当している別のアリーナ内のブリーフィングルームで行っていた。

 

 円卓のように机をぐるっと囲んだ中、生徒たちが席に座る。その中央には立体ディスプレイが投影されている。

 そこに書かれていたのは……『織斑一夏のホストクラブ』『織斑一夏とポッキーゲーム』『織斑一夏のツイスター』『織斑一夏と岡部友章の王様ゲーム』『岡部友章と織斑一夏のマッサージ店』

 

「却下」「不採用」

 

 今回の集会での進行役として自分と織斑君が担当する事となったのだが……

 

「アホか! 俺とだなんて誰が得するんだよ!」

 

「いい年してできねぇよ! 誰が喜ぶんだ!?」

 

 出るわ出るわ、法律上スレスレ……と言うよりもほぼ完全にアウトなシロモノが出るわ出るわ。

 自分と織斑君は断固として反対する。

 

「私は嬉しいわ! 断言してもいい!」

 

「織斑君と先生は1組2組の共有財産よ!」

 

「イケメンは女子を喜ばせる義務があるわ!」

 

「アッキーとポッキーゲーム出来るならいいよ!」

 

「他のクラスや学部の人達から色々と言われてるんだってば

 部活やサークルの先輩達も恨めしそうに言われたり」

 

 しかし、女子陣営の勢いも負けてはいない。

 さらっと共有物にしないで欲しいものだ。

 

「いいですよね! 織斑先生! ハルフォーフ先生!」

 

「法律に引っかかるのはやめんか馬鹿者」

 

「ただでさえこうやって我々は手を組んでいるのです

 その数を活かせるような物を考えましょう」

 

 女子生徒達は教員陣営に助けを求めるが、織斑さんとハルフォーフさんがそれを一蹴する。

 とにかく勝つために手段を選ばない女子生徒達と、流石に法律スレスレの事はやらせたくない教員陣営の意見が対立する中、挙手した生徒がひとりいた。

 

先生(レーラー)、発言しても?」

 

 ラウラ・ボーデヴィッヒである。

 

「ああ、許可する」

 

 一抹の不安(ハルフォーフさんの入れ知恵)を抱えながらも、彼女の意見を聞くことにした。

 

「ありがとうございます。

 喫茶店……というのはどうでしょうか?」

 

 シーン、と静まり返る部屋の中、教員陣営はようやくまともな意見が出てきたことにホッと一息つく中、ボーデヴィッヒさんは話を続ける。

 

「ボーデヴィッヒさん、詳しくお願いできないか?」

 

「了解しました

 まず、従業員がウェイトレスの服やメイド服、コスプレ等をすれば確実に客受けが良いものとなることが予想される」

 

 確かに、IS学園の生徒達はなぜかわからないが女子のレベルが高い。

 見ていて目の保養になることには間違いないだろう。

 

「次に、経費の一部回収が確実に見込まれる点。

 あらかじめ外部の人間を呼び寄せる事ができる学園祭の招待券などで身内に来てもらって、投票してもらえばある程度の得票数の底上げに貢献できると思われます

 例えば、私の場合は非番の部下(黒ウサギ隊)に来てもらって票を入れてもらう――といった所でしょう」

 

 これもまあ、理にかなっている。

 メリットの欄を作成し、大雑把な解説を立体ディスプレイに投影させ、話を聞く。

 

「ラウラ、1つ質問がある」

 

「なんでしょうか? 教官?」

 

「お前の案は確かに健全で、メリットが多い

 だが、制服や喫茶店の器具はどう調達する? 各種類を取り揃えるわけにもいかないだろう?

 それにこのクラスのメンバーの中にウェイトレスや調理の教育も含めればかなり厳しい物だと思うが……」

 

 織斑さんがボーデヴィッヒさんの案についての問題点を指摘する。

 が、あらかじめこのような質問が来るのを想定していたのかボーデヴィッヒはすぐに返答を返す。

 

「調理器具や紅茶セットの方はセシリアとシャルロットにお願いするつもりであります。

 教育の方は……喫茶店の『@クルーズ』の店長にお願いして、放課後に教育期間を設けたいと思います」

 

 自分は思わず指を鳴らした。

 なるほど、これならなんとか突貫工事ながらも問題は無さそうだ。

 まさか、デュノアさんとボーデヴィッヒさんの二人が夏休みに『@クルーズ』でお手伝いをしていたのがここで影響を及ぼすとは思わなかった。

 

「まさかボーデヴィッヒさんの口から『@クルーズ』の名前が出てくるとは……」

 

「どこで知り合ったの!?」

 

「これなら出来るかも……」

 

 他の生徒達も見ると、驚きながらも全員納得した様子で概ね賛成しているようだ。

 

「ふむ、どうでしょう? ハルフォーフ先生?」

 

「さすが隊長です。この案でいいでしょう。

 『@クルーズ』の従業員の学園入りについては私達でなんとかします。

 岡部先生、問題は?」

 

「いや、問題は無い。自分が直接上に掛けあってみよう。

 デュノアさんとオルコットさんは喫茶店用の家具類やできれば紅茶とコーヒー類の調達をお願いできませんか? 無理なら何とか自分が調達しますが……」

 

 自分も賛成の意を表明してから、勝手に本人達の未承認のまま話を進めるのも悪いので、セシリア・オルコットとシャルロット・デュノアの両名に確認を取る。

 勿論、経費は学園祭での予算で落とすようにも言っておく。

 

「いいえ、先生。是非、オルコット家の総力を挙げて支援させて頂きますわ」

 

「僕の実家から色々と送って貰うよ。デュノア社名義で送ればすぐに調達できるはず

 それに、一夏や先生には厨房か、ウェイター役で執事服でも着ればオーケーだよね」

 

「よし。執事服を着るのは自分と織斑君、そしてデュノアさんでいいとしてだ。

 最終的に喫茶店にしたいと思うが、みんなはそれでいいだろうか?」

 

 デュノアさんの軽口に返しつつ、最終的な確認として多数決をとる。

 

「織斑君の執事服姿! いいわね!」

 

「服はどうする!? 私演劇部の衣装係だから作れるけど?」

 

「もういっそのこと『コスプレ』喫茶でいいんじゃない?」

 

 雪だるま式に話が膨らんでいく中、織斑さんが自分に耳打ちする。

 

「なあ、岡部。

 コスプレ衣装はどうするつもりだ?」

 

「生徒達は作る気でいるが、1組2組合わせて約50人あまりだ。さすがに厳しい。

 IS学園の制服の寸法からメイド服を注文して、個人の希望する衣装は作るか同じように調達して、1人に2着の体制でいいんじゃないか?」

 

「ふむ、なるほど」

 

「ところで、先生達もコスプレするのー?」

 

 衣装の調達方法を確認していると、布仏さんが爆弾を投下した。

 

「岡部先生はまず決定よね!」

 

「篠ノ之先生は……いつもどおりでもよさそう!」

 

「ハルフォーフ先生も何かやりますか?」

 

 見る見るうちに決まっていく教員のコスプレ。

 そして安定の決定事項に加えられる自分。

 

 ――もういっそのこと特殊部隊(G.H.O.S.T. SQUAD)の衣装でも着てやろうか……

 

 『PANDA』『NINJA』『バーチャシティポリス(V.C.P.D.)』……あっ、実用面的にバーチャコップのボディアーマーシステムが好ましいじゃないか……

 

「フフフ……国連に掛けあってみるか……」

 

「何故、衣装の話に国連が出てくるんだ……」

 

   ■   ■   ■

 

 アリーナでの集会が終わり、昼休みに突入する中、自分は事の元凶(更識楯無)に会おうとしていた……

 

「友兄、じゃなくて岡部先生……」

 

「やっぱり考える事は同じか……」

 

 織斑君とばったり会い、そのまま二人で更識さんを問い詰める事となったのだが……

 

「……で、これはどういうことだ更識さん」

 

 学園の内の広場で彼女の姿を見つけた自分達はすぐさま問い詰めようとする。

 ……が、彼女は自分の言葉を無視してスタスタと早歩きで歩いて行く。

 

「え? ちょ!?」

 

「……おい! 更識さん! 更識!」

 

 何度も呼びかけても彼女は聞く耳を持たず、まるで自分達から逃げるように駆け出したのだ。

 仕方が無いので彼女についていくといつものアリーナにたどり着く。

 しかし、ここで違和感に気付く。

 

 ――いつもなら学園のアリーナや道中には少なからず生徒が居るものなのだが、今は更識さんが一人だけだ……何故……

 

「……で、改めて聞くがこれはどういうことだ更識さん」

 

「えー、ソッチの方が面白そうじゃない?

 私達は決して、かんちゃん達の放課後の模擬戦に参加できないことにご立腹じゃないですよー?」

 

 結局ソレかよ……と呆れつつも、物陰から複数人駆け出してくるのを確認した。

 

「覚悟ぉおお!」

 

 自分は更識さんに向けられた竹刀の突きの射線上に体を動かし、竹刀を握った。

 

「あのさ、君。今取り込み中なんだ」

 

 そう言って、竹刀を取り上げた後、そのまま突進の勢いを利用して軽く投げ、地面につかせる。

 

 ――残りは三人か……

 

 残りを確認したら、すぐさま手に持った竹刀を片方の一人に投げる。

 狙い通り、竹刀は更識さんに向けて吶喊する一人の足を挟み込むように飛んでいき、目論見通りに生徒は竹刀に足を絡ませて転倒した。

 

「とんでもない事になってきたかも……」

 

 織斑君はそう言うと、自分が倒した生徒が転倒する際、思わず投げるように手放した竹刀を難無くキャッチすると、残りの一人に対して小手狙いで横に薙ぐように竹刀を振り、相手の竹刀を弾き飛ばして無力化させた。

 

 そして更識さんは最後の一人に対して、扇子で相手の竹刀の振り下ろしを防いだ後、素早く相手の足を払いのけた。

 

 ――その時、背筋に悪寒が走る

 

 撤退していく生徒達をよそにアーチェリーや弓道の弓を持った生徒達を確認する。

 そして、待機状態ではあるがゲスト機は自身のハイパーセンサーが何か感じ取ったのか警告音を鳴らした。

 

「畜生、これを狙って巻き込んだな!」

 

「私もこんなに激しくなるとは思ってもなかったのよ!」

 

「二人共! 争ってないで逃げよう!」

 

 自分達は降り注ぐ弓矢から全力で逃げつつ、一番近いアリーナの出口に向かう。

 しかし、退路上には実習用ISであるラファールや打鉄がIS用アサルトライフルであるアメリカのクラウス社製実弾突撃銃――レッドパレットやデュノア社製実弾突撃銃――ヴェントをこちらに構えていた。

 

「IS用の銃器で人を撃つ授業なんてやってないんだがな……」

 

「うわぁ……これはやり過ぎたわ……」

 

「え? え? えぇぇ!?」

 

 ――どうやら、ゲスト機の警告音はこれらしい。

 

 後ろから、近接ブレードを装備した打鉄やラファールなどの後続にも挟まれる。

 正に『絶体絶命』

 

 前方に3機、後方に3機。しかし、相手がISを持ちだしたのならば……

 

 ――こちらもISが使えるわけだ……

 

Gタイプ(ガードタイプ Guards Type)、起動』

 

 IS『ゲスト機』を装着すると、目の前の打鉄とラファールは一斉に射撃を開始し、後ろのISも一斉に更識さんに斬りかかる。

 

AIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)、起動』

『シールドビット3機射出』

『警告、リソース不足により飛行補助機能停止』

 

 更識さんもIS『ミステリアス・レイディ』を装着するがゲスト機に比べると、遅い。

 目の前の弾丸を受け止めつつ、シールドビットを更識さんと彼女に迫り来る近接ブレードの間に滑り込ませて、斬撃を受け止める。

 

「助かったわ!」

 

「助けるとわかってたくせに! 援護はしないからな!

 織斑君も白式を装着するんだ! 今から対複数機との戦い方を教えてやる!」

 

 そう言ってから球体駆動式全方向移動装置(ボールダッシュ)を起動させ、AIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)を一旦停止させる。

 

 ――さあ、『狩リ』の時間だ……

 

   ■   ■   ■

 

「ふう、今日は散々だった……」

 

 もうとっくに深夜にさしかかろうとした頃合いに、国連や欧州の各組織、シカゴの知人等に『根回し』を終えた自分はポツリとそう呟いた。

 

 それ以前に放課後の補習授業の後、大学部の学生達の模擬戦もあってか精神衛生的にへとへとの状態で、学生寮の自室の前へと辿り着く。

 結局のところ、更識さんが言った内容については公の場で言ってしまった以上、撤回も出来ず。かと言って自分の教員としての権力で押しつぶそうにも、こんなにも盛り上がりを見せた生徒達やクラスの皆の期待を裏切る形となるためにやるわけにもいかず……

 

 更識さん自身は『どーせ1組と2組が結託して優勝するから問題ないでしょ?』と、あらかじめ予測していたみたい……というか、ハルフォーフ先生と篠ノ之さんとの相談の上で決めたそうだ。実際に実現できそうなので、あまり更識さんを責めるわけにもいかない。

 

 彼女達いわく、『織斑一夏(朴念仁)に意識させる為』とのことだが、何気に朴念仁と書いて、自分と織斑君と言った具合に不穏当な言い方で言われているような気がする。

 

 ――夏休みの篠ノ之さんの実家の夏祭り以降、引くに引けない所まで自体は進行していた。

 

 クラリッサ・ハルフォーフが起こした撃鉄は篠ノ之束が引き金を引き、織斑千冬という信管を叩いたのだ。

 理性という薬莢に包まれた中、感情という炸薬が爆発し、押し出される弾丸はまごうことの無い愛情だ。

 

 そしてそんなサタデーナイトフィーバー(粗悪な銃)を所持していたのは自分……情けない話だ……

 

 その結果が暴発し、自分自身を危うくさせたのだ。

 何故、彼女達はこうまでして自分のことを慕い、愛しているのか?

 何故? ここまで自分本位な奴に愛情を……ソレこそ破滅的なまでな愛情を注げられるのだろうか……

 自分には理解できない。分からない…… 

 

 ――もういっそ離れるか……?

 

 ――駄目だ! 本当にやるかもしれない!

 

 ――なら残る?

 

 ――それこそ彼女達は自分に依存してしまう! そして自分も依存してしまう!

 

 そう考えた結果が『先送り』である。

 

 ――中途半端

 

 ここに来て、織斑千冬と篠ノ之束、クラリッサ・ハルフォーフの三人に対する自分の態度はまさしくその一言に尽きる。

  好かれている事を認めてはいても、くっ付こうとはしない。関係を清算し離れるつもりはあるが、懸案事項に拘り過ぎ。

 

 ――未だに迷っているのだ。決定的な一打を放つ事を。

 

 確かに……自分はどうやら、『朴念仁』に過ぎないようだ……

 

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