No matter what fate   作:文系グダグダ

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25:9月 幕間

亡国機業(ファントム・タスク)ね。一体、何が目的だったんだろうな……」

 

「さあな」

 

 岡部友章の問いかけに対して、向かいに座っていた織斑千冬はさも興味が無さそうにそっけなく応える。

 

 ここはIS学園の食堂であり、岡部友章達は朝食を取っていた。

 

(サイレント・ゼフィルスの操縦者か……やっぱり、彼女(織斑千冬)に似ているな。)

 

 岡部友章は先日のキャノンボールファストにおける。亡国機業のISサイレント・ゼフィルスの操縦者に思う事があったようで、しばらく思案するが……

 

「まあ、いいか。それよりも織斑さん、次はだし巻き卵を貰えませんかね?」

 

「ああ、わかった」

 

 今までお互いにプライベートな部分、例えば家庭などは追求しなかった間柄である。故に、岡部友章は思考を中断させた。

 

 織斑千冬はキャノンボールファストでの最大の功労者である岡部友章に食事を与えていた。

 何故なら、彼の左手には包帯がグルグルと巻かれていたからである。

 

「ほら、口を開けろ」

 

「なあ。今更だが、自分は右腕で箸を持てば、織斑さんの手を煩わせる事は無いのでは?」

 

 周りから奇異の目で見られることに未だに抵抗を感じる岡部友章はそう主張するものの、織斑千冬の意思は当然ながら変わることはない。

 

「そう思うなら、左手を負傷させなければ良かったのだ。そうだろ?」

 

 ぐい、と差し出されただし巻き卵を岡部友章は口を開けて頬張る。

 

「アレはそうする他無かった。守るべきものを傷つけては本末転倒だろう」

 

 左手の負傷の理由が岡部友章にはあった。

 彼はキャノンボールファスト当日、ISを纏う直前に亡国機業が雇い入れたゴロツキと交戦していた。

 逃げまどう観客が入り混じった中での交戦は、如何に高性能・非殺傷機能のあるガーディアンⅡであっても民間人を巻き込む可能性があった。

 主に誤射ではなく、ゴロツキを撃ちぬいた銃弾が貫通し、民間人に当たることを岡部友章は懸念していた。

 

 そして間の悪いことに、岡部友章は逃げまどう観客の中に、織斑一夏の知り合いである五反田蘭が居ることを確認してしまったのだ。

 それを確認した岡部友章の行動は早かった。彼はガーディアンⅡをゴロツキに向け、銃口を左手で塞ぐと躊躇無く引き金を引いたのであった。

 

「その危機感知能力は褒められるけど。でも、束さんはその自己犠牲的な精神がキライかなー。自分の手で弾丸の貫通力を殺すなんて発想はぶっ飛んでいるにも程が有るよ」

 

 岡部友章の答えに対して、横から篠ノ之束がトレーを置いて彼の隣に座る。

 

「私も同感だな」

 

 クラリッサ・ハルフォーフはそう言うと、織斑千冬の隣に陣取った。

 

「君がそこそこに有能なのはいつものことだが、些か自己犠牲が過ぎる。

 まあ、その恩恵に預かった私達が言える義理では無いが」

 

 三人の視線が岡部友章に突き刺さる。

 

「そんなに見つめて何が言いたい」

 

「ただねー、アッキーはそろそろ自分の幸せを求めてもいいと思うんだ」

 

 篠ノ之束の言葉に岡部友章は疑問符を浮かべるようにして首を傾げた。

 

「自分の、幸せ……?」

 

「そうだ。

 一夏達がIS学園を卒業する頃には、お前も自由に行動できるだろう?

 だからこそ、その時の為に身の振り方をだな……」

 

 不思議そうに呟く岡部友章に対して織斑千冬はそう言ったが、どうにも歯切れが悪い。

 

「そろそろ結婚も視野に入れて欲しいということですよ。岡部センセ」

 

 クラリッサ・ハルフォーフはそう言うと、ニコリと笑みを浮かべ岡部友章を見据えてくる。

 

(結婚!? だなんてとぼけた事は言えないだろうな。

 鈍感を演じるには勘が鋭すぎるか……)

 

 思わず、岡部友章はクラリッサ・ハルフォーフの視線から目を逸らした。何故なら、彼はそう言い放ったクラリッサ・ハルフォーフの眼光に何となく恐怖を感じていたからである。

 

「織斑一夏のハーレムを成立させるために打った手が、結果的には自分に返ってくるなんて、貴方は思っても見なかっただろうな」

 

「ああ、特に自分にもハーレムが出来るとは思ってもなかったさ」

 

 岡部友章のその開き直ったような言葉に、女性陣一同は意外そうな顔を浮かべる。

 

「フフ、アッキーもとうとう、観念したのね」

 

(あろうことか、2年の(まゆずみ) 薫子(かおるこ)に話を流してしまったのが致命的だな)

 

 ある出版社の編集長を姉に持つ彼女がそのネタを嬉々として使わない訳など無かった。

 後日、IS専門で取り扱う雑誌は勿論のこと、一般の大衆雑誌に至るまで『ゲスト機操縦者!! 戦乙女(ヴァルキリー)を墜とす!!』や『ブリュンヒルデ! まさかの熱愛発覚!?』、『ゲスト機操縦者ハーレム疑惑!?』などと見出しが大々的に出てきた時にはもう既に後に退けない状況であり。自分の弁明など焼け石に水も同然であった。

 

「これで、男からも女からも敵になるな」

 

「いいや、私達が味方さ。愛する人」

 

 岡部友章はこれほどにまでに安心するような台詞だと思った。

 

   ■   ■   ■

 

 ISの整備室は各アリーナに隣接するか形で設けられており、ISに置ける技師となるであろう『整備科』のための施設でもある。

 最も、例外は勿論存在しており、岡部友章と更識簪もその中に入っていた。

 

「反応速度のレスポンスが悪いな……それに、この動作だと各パーツが干渉してしまう」

 

「先生、そこの構造体間違えている」

 

「悪い。しかし、全学年合同のタッグマッチがあるのに助かるよ」

 

 岡部友章がそう言うと、更識簪はメガネ型ディスプレイをくい、と上げる。

 

「私も打鉄弐式の動作プログラムを弄ってみたかったから、調度良かった。

 それに……」

 

「それに……?」

 

「私と岡部友章が二人きりになる事なんてあんまりなかったから……」

 

「ああ、確かに。君と二人きりなんて、そうそうめったにないことだな」

 

 岡部友章がそう言い終えると、再び二人は作業に打ち込んでいく。

 

「あの……!」

 

 唐突に、更識簪は珍しく大きな声を挙げた。

 まっすぐに岡部友章を見つめる更識簪の様子は真剣さに溢れている。

 

「今まで言いそびれていたけど、ありがとうございました」

 

 岡部友章はその言葉に何となく察しがついた様子で、勢い良く椅子から立ち上がってペコリと頭を下げる更識簪を優しく椅子に座らせる。

 

「そこまで、思いつめる必要はない。

 自分に出来るだけの事をしただけだ。

 いや、むしろ本来ならば、勝手にプライベートに入った私の方が君に謝罪するべきだろう。

 こちらこそ、済まなかった」

 

 更識簪の予想とは大きく離れたのか、岡部友章のその態度に彼女は面食らった。

 てっきり岡部友章は先の件については煙に巻いたと思っていたからである。

 

「いえ、結果的には。丸く収まったから……いいですよ……

 貴重なゲスト機のデータも……見れましたし。てっきり篠ノ之博士に任せっきりだと思いました」

 

「時間があれば、調整はしている」

 

 岡部友章の評価を若干の上方修正を加えた更識簪は、ゲスト機の調整履歴を見て。感嘆の意を表した。

 

(火器管制・制動システムは勿論、シールドエネルギーや拡張領域(バススロット)関連はほぼ毎日、アクセス履歴がある。コンソールによる調整は大半は深夜、それもかなり遅い時間)

 

「流石にパーツを直接弄っての本格的な物は、篠ノ之さんに任せっきりだが」

 

 普段から機体の調整についてはあの織斑千冬以上に口を酸っぱくして言っている事がおおかっただけに岡部友章もまた、自身の言葉通りに調整を行っているようだ。

 

(それにしても、これがいつもの調整なの……?)

 

 エミュレーターを作動させながら多数の入力機器を扱うといった、篠ノ之束顔負けのコンソール捌きで動かしていた更識簪はふと、疑問に思う。

 先程から、岡部友章から振られたプログラムの修正・推敲を担当しているが、更識簪にはどうにも不自然な既視感を感じ始めていた。

 

(まるで、整備科のみんなで仕上げた時……そう! 打鉄弐式のマルチ・ロックオン・システムの構築ににている!)

 

 更識簪は岡部友章の横顔を見た。

 彼は、黙々と作業を続けている。更識簪や篠ノ之束と違い、岡部友章は1つのコンソールを叩いていた。

 

(それなら篠ノ之束に相談するのが良いはず……彼女なら、喜んでやってくれそうなのに……)

 

 疑問に思う手前、岡部友章本人に問いただそうと一瞬だけ考えるが、特に彼女自身には何も影響が無いのもまた事実。

 

(まあ、いいか。それだけ岡部先生が真剣にISがと向き合っているって証明だし)

 

 そのまま二人は時間めいいっぱいまで作業を続けたのであった。

 

   ■   ■   ■

 

 この日の放課後もいつも通りの補修が岡部には残っていた。

 岡部友章は装備の最終点検をピット内で行っていた……

 

 

「きたか。指導開始だ」

 

 アリーナのピットから発進した岡部友章を迎撃するかのように、紅い機体が飛び込んできた。

 

「遅い!」

 

 紅椿の刀型武装である『空裂』を持った紅椿が岡部友章のゲスト機に肉薄する。

 完全に間合いを支配した篠ノ之箒は笑みを浮かべて空裂を振るうが、ゲスト機はそれをあっさりとかわした。

 

「何っ!? と、でも言うと思うか」

 

 紅椿から距離を早急に離すゲスト機。ピットから地面に降り立って、態勢を整えようと試みた。

 それに対して、篠ノ之箒は動揺することなくニヤリと笑みを浮かべた。

 彼女の背後にはそれに応えて、2機のISが攻撃準備を整えていた。

 

「……逃げ場を潰す。マルチロックオン、目標……ゲスト機」

 

「ターゲット捉えた! フォイア!」

 ゲスト機がかわした先を予測してか、地面に固定していたラウラ・ボーデヴィッヒの120mmL80レールガン (パンツァー・カノーニア)が火を吹き、更識簪の高性能誘導八連装ミサイル『山嵐』が発射される。

 山嵐はゲスト機の回避予測地点を制圧し潰すように展開され、動けなるであろう地点にレールガンがゲスト機に叩き込まれる作戦だ。

 

「徹底的に叩く!」

 

 そう言って、二人のところにまで離脱した篠ノ之箒は左肩からブラスター・ライフルである穿千を取り出すと、ゲスト機にむけて連射を叩き込んだ。穿千は出力の可変が可能なライフルであり、今回は威力を落として連射性能・弾幕成形能力を上げたようだ。

 ラウラ・ボーデヴィッヒのシュヴァルツェア・レーゲンも彼女に続くようにレールガンを容赦なく浴びせていた。

 

 まずは始めに、『山嵐』がゲスト機の退路を塞ぐようにして、周辺に次々とミサイルの雨が着弾する。そして、ゲスト機が爆炎と煙に包まれた中、おおよそ、1機のISには過剰火力とも言えるほどに火線の数を重ね、火力を集中させていた。

 

「煙が濃いな……これだけやれば当然だな」

 

「これで墜ちてくれれば楽なんだがな」

 

 一通り打ち尽くした後、手持ちの火器の発砲を一旦取りやめた篠ノ之箒とラウラ・ボーデヴィッヒはそう言い合った。

 

「……それにしても煙は濃くないか?」

 

「ああ」

 

 いったん攻撃を取りやめたが、未だにゲスト機周辺の視界は未だ晴れず、黙々と煙を上げ続けていた。

 その様子に、篠ノ之箒とラウラ・ボーデヴィッヒは警戒度をあげ、相手の出方をうかがった。

 

「ラウラ、箒。この煙、電子妨害素子も撒かれてる」

 

「……来るぞ!」

 

 更識簪が各種センサー類で未だ立ち込める煙の解析結果を2人に伝えたものの、直後3にんの足元に転がってくる無数のスモークディスチャージャーの弾頭を尻目に、3機のISは近接戦闘の準備にかかった。

 周囲に濃霧がかかる中、電子妨害のお陰で肉眼以外の補助視界も得られないまま、篠ノ之箒達は身構えた。

 

「箒、簪。 お互いに死角を補うぞ。 何か動くものがあれば、容赦なく撃て」

 

 ラウラ・ボーデヴィッヒの言葉に2人は従うと、三角形を描くように……背後の死角をお互いに補えるように、配置を変えた。

 

「そこだァー!」

 

 ……そして、彼女達はゲスト機を見た。

 煙の中、ゆらゆらと亡霊のように左右に揺れる金色のバイザーが、ゲスト機であることを教えるには、十分すぎるほどに決定的なものであった。

 

 篠ノ之箒の声から3機はアサルトライフルでそれめがけて弾幕を張る。

 しかし、一向に試合の終わりの知らせが聞こえてこない。そして、変化は一瞬にしてやって来た。

 

「きゃあ!」

 

 更識簪の打鉄弐式の背後にグレネードが複数直撃しよろける。

 

「簪! うわっ……!」

 

 次にラウラ・ボーデヴィッヒのシュヴァルツェア・レーゲンに散弾の雨が襲いかかった。

 

「クソッ! なんで…!」

 

 最後に篠ノ之箒が見たのはゲスト機のアームパンチ機構であった……

 

「これで、3機撃墜だ。自分の教えた教則通りの攻撃、悪くはない。

 如何にして自分流にするかがやはり課題か」

 

 3人のシールドエネルギーの枯渇を確認した岡部は左手を握りながら、戦果を確認する。

 

(これで、先ほどの怪我も問題ないな……)

 

『暮桜弐式接近、エネルギー反応確認』

 

 咄嗟に右手の武器を手放して左腕にマウントしてあるシールドで、暮桜弐式のブレード受け止めると右腕のアームパンチをするために振りかぶった。

 

「相変わらず良い反応速度だ」

 

 織村千冬が打撃避けるために半歩下がった後、片足を軸に機体を回転させクラリッサ・ハルフォーフの乗るシュヴァルツェア・ツヴァイクのレールカノンを間一髪で回避した。

 

「私もいるぞ! 岡部!」

 

 至近弾が着弾した衝撃で土埃の舞う中、シュヴァルツェア・ツヴァイクは追撃の手を緩めることなく、そのまま全身、肉薄せんとし、ドイツ製アサルトカノン『シュトゥルム・カノーネ』でゲスト機を滅多撃ちにかける。

 

(態勢を整えねば……)

 

 大口径弾頭がアーマーを掠めていく中、恐慌状態に陥らず、落ち着いて素直にさがる事を岡部友章は選択し、牽制も兼ねて右肩にマウントされた擲弾発射器からグレネードを射出し、後退せんとする。

 

「他に機体は」

 

『ありません』

 

(こうも撃たれている間ならば、暮桜弐式も誤射を警戒してブレードでは突っ込んでは来ないだろう。

 逆に弾幕が途切れた時が危険だ)

 

 シュヴァルツェア・ツヴァイクに背中を向けては、それこそ滅多撃ちに撃たれこまれる事を知っている岡部友章は、真正面にクラリッサ・ハルフォーフを捉えたままのバック走行で後退した。

 

 

   ■   ■   ■

 

「おーい」

 

 ある人物を見つけた織斑一夏は声をかけながらすたすたと駆け寄る。

 彼女は、織斑一夏の声が聞こえたのか、足を止めて彼の方へと振り向いた。

 

「ゴメン箒、遅れた」

 

「まったく、だらしのないやつだな」

 

 ばつの悪そうにする織斑一夏をよそに篠ノ之箒はため息を一つ吐いた。彼女は織斑一夏のうっかりさんな一面をよく知っていたからであった。

 

「もしかしたら、お前は道にでも迷ったのかと心配したぞ」

 

「さすがに道には迷わないよ……多分」

 

 今日は黛薫子に頼まれていた日。つまりは、黛先輩のお姉さんが勤める雑誌編集部で取材を受ける日であった。

 当然のことながら、織斑一夏と篠ノ之箒の両名は私服姿である。

 

「なあ、箒」

 

 織斑一夏はまじまじと篠ノ之箒の姿を見る。

 

「な、なんだ……?」

 

「その服、いいね。」

 

 黒のミニスカートに白ブラウス。アウターに薄手の秋物パーカーコート……

 そのすべてはこの日の為のとっておきであった。

 

「胸元のフリルがいい感じで、似合ってるよ」

 

 織斑一夏にしては、息を吐くかのようなたわいのない言葉ではあるが、篠ノ之箒にとっては呆れるほど有効な一撃であった。

 

「(よしっ! いい感じだ!)そ、そうか……? 実は私も、結構気に入っているんだ」

 

「いやー、箒って言えば(いっけね、剣道関連は禁止って言われてたんだ)……

 どっちかというと、綺麗って感じだから、こういう可愛い女の子って感じはいいと思う」

 

 織斑一夏は素直に剣道着の印象が強いと言う手前、岡部友章からの注意を思い出し、すんでのところで踏みとどまった。

 

「っ! ……一夏にしては言い事を言うではないか」

 

 これには、篠ノ之箒は面食らった。彼女の経験則上では、この後彼はデリカシーに欠けた事でも言うのでは? と懸念していただけに、いい意味合いでの予想外の回答に思わず赤面した。

 しかし、それもつかの間のことで、すぐに復帰する。が、少し気恥ずかしかったのか、歩くスピードを速めたのであった。

 

(一夏が褒めてくれた……あの一夏が褒めてくれた……)

 

「箒? 箒、ちょっとはやいんじゃ?! まだ時間はあるから、ゆっくりいこうぜ!?」

 

 すたすたと早足になる篠ノ之箒に対し、織斑一夏は彼女を引き留める為に思わず手を握った。

 

「あっ……」

 

「もしかして、少し寒いから早く待ち合わせ場所に行くのか?」

 

 篠ノ之箒は、きょとんとして自分を見つめる織斑一夏を見る。

 

「(もしかして、チャンスなのでは……!?)そ、そうなんだ! ちょっと……手先が寒くてな!」

 

「じゃあ、このままでいよう」

 

 織斑一夏はそのまま篠ノ之箒の手を握ったまま、地下鉄の改札口へと向かう。

 初めはビクリと身体を強張らせた篠ノ之箒ではあるが、やがて織斑一夏に引っ張られる形で歩き始めた。彼女は少しうつむき加減になっている。

 

「あ、ぅ……うん……」

 

 編集部の最寄駅につくまで、篠ノ之箒はずっとこんな調子でいたのであった。

 

「おー、来たか。篠ノ之さん、織斑君」

 

「え!? 岡部さん!」

 

「なんでここに?!」

 

 最寄駅に着くと、彼らを待ち構えるようにして岡部友章がいた。

 

「そもそも君達、テロリストに襲われてそう長く経ってもいないのに、どうして街中をふらふら出来ると思ってたんだい?」

 

 私服にメガネ姿をした岡部友章は、繁華街にいる有象無象の人間とそう対した差はなく、ごく自然体にそこにいて、彼らにごくごく普通のことを投げかける。

 

「……あ! 道理で!」

 

「そういうこと。

 個人的には過保護な気もするけど、万が一もあるから中々やめられないんだよね。

 二人っきりのデートはどうだった?」

 

「ッ!? もう! 岡部さん!」

 

 二人っきりで手を繋いで繁華街を歩いている織斑一夏と篠ノ之箒の姿は特殊な監視ツール越しながらも岡部友章はしっかりと捉えており、ニヤリと笑みを浮かべながら二人を茶化す。

 

「さあ、編集部のあるビルはもうすぐだ。ここからは自分も同伴させてもらうよ」

 

 かくして、織斑一夏と篠ノ之箒の他に岡部友章というサプライズゲストを連れながら、編集部へと向かうのであった。

 

   ■   ■   ■

 

「どうもー、私は雑誌『インフィニット・ストライプス』の副編集長をやっている黛渚子(まゆずみ なぎさこ)よ。今日はよろしくね」

 

「あ、どうも。織斑一夏です」

 

「篠ノ之箒です」

 

 織斑一夏が先に言葉を返し、ぺこりと軽く会釈をした。篠ノ之箒もそれに続いた。

 

 取材用の部屋は織斑一夏や篠ノ之箒が予想した物よりも大きく、トマトを半分に切ったような形状の奇抜なソファが3つ、三角形を描く形で配置されていた。

 二人に同伴した岡部友章は今この場にはいない、彼は彼で別室で急遽『インフィニット・ストライプス』の独占インタビューを受けていた。

 どうやら、編集部側にとってもこれは想定してはいなかったようで、彼はちょっとしたサプライズゲストのような扱いになっていた。

 

「それじゃあ、早速だけど始めちゃいましょうか? ささ、ここに座って」

 

 黛渚子に勧められ2人は早速、ソファに座り、インタビューを始めることにした。

 彼女はあまったソファに座り、ペン型のICレコーダーをくるんと回して見せた。かなり使い込まれているらしいそれは、ところどころ塗装が剥げているのが2人の目にもよく見えた。

 

「このインタビューが終わったら、写真撮影があるんだけど……2人とも大丈夫かな?」

 

 織斑一夏と篠ノ之箒はこくりと頷いて見せた。

 

「協力ありがとう! それじゃあ最初の質問行くわね?

 まずは……織斑君! 女子校に入学した感想は?」

 

「いきなりそこ、いくんですね」

 

 想定していた質問があまりにも早く来てしまった織斑一夏は思わず反応した。

 

「だってぇ、普通は気になるじゃない?

 読者アンケートでも君への質問のリクエスト、すっごく多いのよ?」

 

 同意を求めるかのように、黛渚子は篠ノ之箒に視線を投げかける。

 だが、彼女は肩を竦めただけであった。織斑一夏にはその行為が一体、肯定か否定のどちらなのかがわからなかった。

 

「はあ、そうですか……

 うーん……男性用トイレが少なくて少し不便で困るかな?」

 

 気の抜けた、織斑一夏の返答に対して黛渚子は思わず吹き出した。

 

「……ぷっ! はは、あはははは! (黛薫子)の言ってたこと、本当なのね!」

 

「何が、本当なのですか?」

 

 思わず笑い出した、黛渚子に対して篠ノ之箒は思わずその詳細を聞いた。

 

「妹が言ってたわよ~。 異性に興味のないハーレム・キングって!

 ねえ、織斑君。入国許可書って、発行できないかしら?」

 

「そんなものないですよ!?」

 

 思わず、織斑一夏はツッコミをいれた。

 それと同時に、中学時代からの友人である五反田弾のような奴だなぁ……という印象を黛渚子に対して抱いた。

 

「さて、次は篠ノ之さんね? 貴女にはお姉さんの話でも」

 

「はあ、特に面白い話はできないと思いますけど」

 

 黛渚子は篠ノ之箒の目の前に人差し指を立て、左右に揺らした。

 

「チッチッチッ、別に秘密を喋るとかでなくてもいいのよ。こういうのは

 ――それで、お姉さんから専用機を貰った感想は? 国家代表候補性になる気は無いの? それともこの国が嫌いだからならないのかしら?」

 

 篠ノ之箒に対する質問は織斑一夏の対するそれとは量も質も違った。

 

「(本命は私なのかもしれないな……)ええ、専用機については感謝してます。 代表候補については、あまり興味はありませんね。 この国については……生まれ育った故郷なので、特に嫌いという訳ではないです」

 

 矢継ぎ早に投げられた質問達に対し、特に答えられない質問はないので、篠ノ之箒は全問素早く回答した。

 

「オーケー、オーケー。じゃあ、織斑君と篠ノ之さんって今のところどっちが強いのかしら?」

 

「うーん、勝率だと今のところ箒じゃなかったっけ?」

 

「そうなの?」

 

 黛渚子は篠ノ之箒に同意を求めた。

 

「ええ、若干程度ですけど」

 

 それを聞いた黛渚子はニヤニヤと笑みを浮かべながら、織斑一夏に視線を伸ばした。

 

「あららー、それは不味いわねー。女の子ぐらい守れないと、ヒーローにはなれないわよ?」

 

「ヒーローになりたくて、守ってるんじゃないですし……。別にヒーローじゃなくても、例えば一兵卒でも……」

 

「お、いいね! その台詞! 映画でも撮っちゃう?」

 

 照れながらもそう答えようとする織斑一夏を遮って、黛渚子が割り込む。

 指で作った輪っかをカメラに見立て、興奮冷め病まぬ彼女の様子はどことなく、IS学園にいる妹を連想させた。

 

「はは、そういうのは勘弁してほしいな」

 

 そういって織斑一夏は苦笑いを浮かべた。

 

「それじゃあ、地下のメイクスタジオに向かいましょうか。更衣室があるから、そこでいったん着替えて、メイクもばっちりしてから、撮影に入りましょう!」

 

「え、撮影もするんですか?」

 

 篠ノ之箒は不思議そうに黛渚子をみた。

 

「ええ、ちゃんとスポンサーの服を着せないと、私の首が飛ぶもの」

 

 あっけらかんにそういった黛渚子に対して、織斑一夏は『スポンサーのことまで考えるなんて大変だなぁ……』という感想を抱き。一方、篠ノ之箒は『そういって断りにくい雰囲気まで持っていく、手慣れているな……』という考えを抱いた。

 

   ■   ■   ■

 

「さて、ある意味本命の岡部友章さんの出番なんですが……」

 

 メイクスタジオへと向かった2人と入れ替わるように、岡部友章と黛渚子は向かい合う。

 

「貴方には色々と質問したいことはありますが、あんまり深く入れ込みすぎるのも私の首が飛びそうね」

 

 ソファにどっかりと座った岡部友章に対して、コーヒーカップを差し出す彼女はどこか苦笑いを浮かべている。

 

(まあ、それが正解だろうな)

 

 岡部友章は無言でカップの中身をすする。

 下手に彼の過去や腹を探ろうものなら、あの天災である彼女が黙っている筈はないのだ。

 

「あれだけの人達に囲まれてさぞ羨ましがられるでしょう?」

 

「ああ、口には出されないが」

 

 岡部友章はカップをテーブルに置いた。

 

「本当は貴方と織村さん、篠ノ之さんの馴れ初め話でも聞きたいところだけど……」

 

「その質問はやめておいたほうが賢明だ」

 

「ええ、流石に妹や家族がいるもの。だからこれは私の個人的な質問」

 

 黛渚子はゆっくりとコーヒーカップを持ち上げて、口に運ぶ。

 その動きはとても緩慢であり、織村一夏や篠ノ之箒の時とは違いフランクなものではなくまるで国会や裁判の答弁のような、そんな慎重でかつ、これから言い放つ言葉の一つ一つを吟味し、推敲し、シミュレートしているかのようだ。

 

 ただ単にコーヒーを飲む。

 

 そのような単純な動作ですら長い時を用いるほどに、両者の間には長い沈黙が漂う。

 

(そこまでして聞き出したいこと、しかも個人的にと念を押した。恐らくは自分の……)

 

 黛渚子はカップをテーブルに置いた。彼女なりに腹をくくったようだ。

 

「岡部友章さん、あなたは何がしたいの?」

 

 単純な言葉に秘められた意味を岡部友章は丁寧に紐を解き、繊維の一つ一つをほぐしていく。

 

(話の本意は自分の行動目的、いや……もっと単純だ)

 

 岡部友章は思案する。自身の勘が言葉を選べと囁く、黛渚子に対して、そして篠ノ之束や織村千冬たちに対してと。

 思えばきっかけは単純で幼稚な自尊心からだ。そして次に好奇心、次は自分勝手なお節介だ。

 ISが開発されてからは弟妹を守ってやらねばという使命感と姉たちを支えるという勝手な義務感。

 

(凄いな、最終的な意思決定は下したが殆どが状況に流されている。そして残りはやってやるという高慢さと自分の欲求を満たすための行動だ)

 

 それでいて外面は姉たちに比べマシなのだ。こんなひどい話はない。そして、好意すらはぐらかして楽しむ性質がある。

 傍目には美女を侍らせ、だれよりも力を持ち、それでもって人格者の一面もある。この世界特有のさえない男性の中でももっとも光る存在でもある。

 

(おまけに俺には守るものも失うものもない)

 

 織村千冬のように弟も居ず、篠ノ之束のように妹もいない。極論であり仮定ではあるが今ここで身一つの身分となっても何一つ困らず、不自由なく生活ができる。おまけに一回死んだ事もある。

 

 おそらく、黛渚子は自分の事も調べただろう。元クラスメートという接点以外を、そして自分の能力の出自を。人格形成の原因もだ。しかし何も見つからない以上、彼女は得体の知れなさ、恐ろしさを感じているんだ。

 

 コーヒーカップを持つ手が震えていたのはそれが理由。篠ノ之束の不興を買うのもそれだが、自分の正体がわからないからもあるのだ。

 

 確かに、人間は何か目的をもって生きる。一見無気力であってもそうじゃない、確固たる目的がある。結局は。

 

「そうだな。もう死ぬまで、あるいは舞台を下りるまで生きてやってるみたいな境地だろうなぁ……」

 

 もしも、1回死んでいなかったら「人生を楽しむ為に生きたい」だとか「後悔しない為に生きたい」みたいな捻くれた事を言っていただろう。

 あるいは「大切な者たちを守りたい」とでも言っていただろう。

 

 別に精神が擦り切れたわけではない、もう1回目の人生の時点で歩くべき道みたいなものができていて、もうすべて歩ききったからだと思う。

 もう自分の愛称に完璧に合致したやりたいことも決まり、磨くべきものも磨き切り、限界点まで来てしまった。

 目的を達成した……そんな感覚なのだ。

 

 最早、肉体的に朽ち果てるまで……これ以上は成長しないのだ。

 

 自分自身の可能性(Stratos)無限小(Infinitesimal)ってやつだ

 




今回はここまで
私自身からの話は活動報告にでも
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