No matter what fate   作:文系グダグダ

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03:三年間の空白

良くも悪くも無い

 

 これが現状の篠々之ちゃんの射撃の印象だ。

 射撃とISの操縦の教えを請われて早、数ヶ月。地下の射撃場で射撃とISの基礎的な操縦法を教えている……いやこれには齟齬が生じる。

 正確には射撃は自分が教えてるが、IS関連は全部自分のIS自身が教えている。

 ワンオフアビリティであるVシステムの発現以来、バイザーに文字を出して完全意思の疎通が取れるようになった、なってしまった。

 なので、篠ノ之ちゃんをISに乗せると勝手に指導してくれてる。

 

 射撃場自体が狭いので、飛行訓練などはできないが、ISでの歩行や武器の出し入れ、勿論射撃やそれにまつわるテクニックなどは問題なく出来るのでそれを行なっている。

 ただし、射撃についてはISの装着時のみに限定しており、生身で銃器に触ることは禁じている。

 

 ここ最近は学校行って、部活して、家に帰ってきて、訓練して……の繰り返しである。

 

 何故、こんなにも熱心なのかというと、少し前まで時間軸が戻ることとなる。

 

 第一回モンド・グロッソの結果より、機体性能に操縦者が引っ張られるという事態が頻発、操縦者の質の向上が急務となった。

 そこに目をつけた日本政府は某都道府県一つを丸ごとIS関連の教育区域とする案を国会に提出。見事に案を通過させ、国連議会に日本国内にIS学園の創立を提案したのだ。しかも建設費、人件費は自腹である。

 IS学園は高等教育機関とし、15歳から22歳までの7年間、IS学園で教育を行うといったものである。

 平たく言えば高校と大学が一緒になってしまった感じである。

 途中、18歳の時点で進路として軍などの系統に入るか、このまま進んで研究、教育職につくのかと言うのを選択するといった事も求められる。

 教官としては代表から引退した者が望ましいが、まだそんな人はいないので、当分は主に各国の代表が代わる代わる教官を務める予定。

 また、教育者も教授やドクタークラスの人間を世界中から派遣することも予定として決まった。

 

 この発表には各国は頭を悩ませた……しかし、結局その方向で議会は可決。全世界の代表とインテリ軍団が日本の某一都道府県に集結することが決定した。

 

 この日本やりおる……ッ!!

 

 ちなみに自分は束さんの所有する正体不明のISなので来れないと思っているらしい。

 ここは一つ恩の売り時かな? そこら辺は要相談である。

 

 という訳で、このことがニュースで流れ、篠ノ之ちゃんのただでさえあったヤル気にさらにブーストすることになり、このようにスポコン仕様のスケジュールと化してしまったのだ。

 

 篠ノ之ちゃんも変わったが、ISも変わった。

 ざっくりいえば後付兵装(イコライザ)を量子変換して拡張領域(バススロット)に入れられるようになった。

 ついでにコンセプトとして拡張領域の性能と容量特化という方向にした。

 これにより換装できる種類が増え、より多くの武器を扱え、より大型の兵器も所持でき、実弾やバッテリーをより多く持つことができる。

 応用すれば、通常の均質圧延鋼板の装甲、爆発反応装甲、電磁装甲などの増加装甲が破損しても取り替えが可能にもなるそうな……

 ついでに、脱着可能な拡張領域チップを増設し、そこに拡張領域を分割することにより、チップさえあれば生身の状態でもこれらの恩恵が得られるようになった。

 勿論、積んだ分速度は落ちるが、そこは篠ノ之さんが超頑張って造った特注品。できる限り最低限の低下で済ませてくれた。自分としては頭が上がりません。

 

 これに気をよくしたのか自分のISは最近、篠ノ之さんにいろんな武器の製作を依頼しているようで、少し前に見たときは篠ノ之さんが少しぐったり、ウサミミもぐったりしていたのが印象的であった。

 流石、篠ノ之さんレベルのISである。まさにフリーダム。

 

 あと、自分にも変化が現れた。

 

 夢を見るようになったのだ。

 

 それも、とびきりリアルな夢をだ……

 シチュエーションは多岐に渡る……温帯、熱帯、亜熱帯、砂漠地帯に降雪地、ツンドラなんてのもあった。

 そのような環境下での市街地、集落、ジャングルから森林地帯にさらには水中とさらに多岐にわかれる。

 そこでは、外国人の人達と一緒に銃をもってテロリストと戦っているのだ。

 分隊で行動した時あれば、小隊単位での行動もあるし、時には一人で、またある時には二人で戦闘を行うときもあった。

 相手は実に様々だった。正規兵からゲリラ、テクニカル車両から主力戦車まで。

 そこでも自分は驚異的な射撃能力を発揮し、仲間から賞賛される。

 戦闘以外にも地獄のような訓練や演習、サバイバル教習なども見た。

 

 そして目が覚めると、その時の感覚や勘が残っているのだ……しかも本物の。

 

 特に昔、バディを組んで狙撃チームをしていた男――名前はクロード・マクガレン(Claude McGarren)スコットランドヤード(ロンドン警察)の誇る、対テロ特殊部隊、STF(Special Tactical Force)の出身でコードネームではファルコン(FALCON)と呼ばれる男だ。こういう類の特殊部隊、特にスナイパーは戸籍どころか名前まで抹消されているので、半ば本名同然にファルコンという名前で通っている。

 アイツは無口で寡黙……そしてフリーのスナイパーだが、その名の示す通り、観測者いらずの索敵能力でひとたび司令部から射撃許可(Greenlight)が降りれば、目標は皆沈黙する。

 時には、スナイパーライフルで共に狙撃し、アサルトライフルやサブマシンガンでアイツを守ったりもした。

 多分……仲はすこぶる良かったのであろう、酒を飲みに行ったり、猟銃を手に狩りをして遊んでた記憶があった。

 

 自分は夢の中でファルコンの姿を見た時にここまで思い出していたのだ……

 

 そして、目を疑うようなギョッとする夢も見てしまった。

 某港に武器を満載したタンカーがやってくるのだ。そう、武器の密輸である。それを阻止する為に自分とファルコンが現場に向かうハメになるのだ。

 ここまでは普通の夢だが、この後が問題だ。

 

 篠ノ之さんにそれとなーく調べるように頼んでおいたのだが、なんとそのタンカーがやってくるのは今から2週間後なのだ。

 

 バカにして忘れたい気持ちもあるが、前科として自身の学生時代の記憶がある身としては目をそむけることができないのも事実。

 

 そして、学生時代以降の記憶を取り戻すことが出来る唯一の機会かもしれないからだ。

 

 篠ノ之さんにIS経由で電話をしたいと相談、なんとか言いくるめて許可を貰えたので、篠ノ之ちゃんがいない時にファルコンの自宅……シカゴへと電話をかけることにした。

 

 受話器を手に取り、夢での記憶を頼りにボタンを押す。

 コール音が数回なった後、アイツと繋がった。

 

「……間違い電話だ。」

 

 この、音程が低く重たい声……間違いない!

 

「ファルコンかな?」

「……知らないな」

「過去、イギリスのSAS(Special Air Service)に所属して引退した後、ここに居ると聞いたが?」

「……人違いだ」

「クロード、クロード・マクガレン」

「知らんな」

「二週間以内に君に依頼が届く、武器の密輸の阻止だ」

「……切るぞ」

「もし、話す気になったらここにリダイヤルすればいい」

 

 これを最後に電話は切れた。

 アイツは気難しい面もあるからなぁ、昔の勘だよりでは8割がた電話がかかるかもしれんが……

 

   ■   ■   ■

 

 そして、一週間後。

 地下でISの操縦訓練をしている時であった。

 

「あ! 岡部さん!!通信が入って来てますよ!」

 

 ISで走っていた篠ノ之ちゃんは急いでこちらに来てISを外した。

 

「……なぜこれを知った?」

 

 ISを装着し、通信を繋げると案の定、ファルコンだった。

 

「たまたまだ」

「……それに俺の本名もだ」

「他にも色々知ってるぜ」

「……例えば?」

「例えばお前さんがむっつりス……」

「もういい、わかった」

 

 ピシャリと止められた。

 心なしか、興奮している自分がいる。前世での友人に重ねているのかもしれない。

 

「直接会って話がしたい」

「いいぜ、好都合だ」

「現場で……」

「了ー解」

 

 通信が切れる。元々長電話が嫌いな彼だ、これぐらいで十分である。

 

「岡部さん、誰と話をしていたんですか?」

 

 随分と流暢な英語で話してましたけど……と聞いてくる。

 

「なあに、昔の腐れ縁と懐かしい話をしていたのさ……」

「え? なんて? 日本語で言って下さい!?」

「ちょっと一週間後に出かけるわ。一日丸々いなくなるかも」

 

 そもそもなんでそんなに英語ペラペラなんですか!? 岡部さん!? と驚いた様子の篠ノ之ちゃん。いかん、新しいイジリ方が出来るかもしれん……そう思ったのであった。

 

   ■   ■   ■

 

 で、ファルコンの言う通りに某港に来たわけで……只今時間は夜明け前。薄っすらと朝霧が見えております。体調は万全で、風もなく、絶好の射撃日和となるでしょう。

 一応、篠ノ之ちゃんの護衛でもあるのでISはそのまま家にお留守番。篠ノ之ちゃんに何かあったら文字通り飛んでいくだろうし問題はない。

 ついでに、早速チップの効果を活用し、セミオートで装弾数5発の7.62ミリのごく普通のスナイパーライフルと顔がバレないように変装セット一式を持ち込んでいた。便利すぎるよ拡張領域……

 早速、別人になりすましてファルコンと会うことに。

 

「……きたな。」

「ああ、俺の言う通りだったろ?」

「なら、答えろ」

 

 そう言って、スナイパーライフルを突き出す。

 

「敵か、味方か」

「味方だバカ」

 

 しばらくの睨み合い。お互いに視線を外さず、ただ……お互いの双眼と銃口が見つめ合う……

 

「……7:3だ」

「俺が7割か。よ!おだいじん!」

「……逆だバカ」

 

 なんでこんなやつに……と呟くファルコン。

 いかんな、ここまでそっくりだと色々楽しい。

 

「じゃあ、いっちょ行きますか。」

 

 そう言って、正面ゲートを乗り越えスナイパーライフルを構え、スコープを覗く。

 4階建てのビルが見え、屋上やベランダ、地上などには武装した奴らがわんさかいる。

 

 自分はその中の手頃な奴を決めると、スナイパーライフルを構える。

 銃床(ストック)を肩に当て、スコープを覗き、照準(レティクル)をそいつらの頭に合わせ、引き金(トリガー)を引く……そして、スコープ越しの映る男は糸が切れたように倒れた。

 もうそいつに用はないので、次の目標に照準をあわせ、ただただ引き金を引いて、その度に反動(リコイル)を感じる。

 対した抵抗も無く一掃したので、左に進みコンテナ置き場へ……コンテナ置き場は貨物用のコンテナが3つか4つ程積まれたのが整然と並んでいて、目の前に一人こちらに向かって後ろを向いている奴がいる。

 さらにコンテナの上にはもう一人。

 自分は後ろを向いている奴を撃ち、同時期にコンテナいる奴が撃たれる。

 

 さらにコンテナに進むと、こちらに向かってくる敵がいる全部で5人。

 スコープを覗き、狙いを定めて引き金を引く。

 弾丸はある男の右太腿を貫通した後、奥の男の太腿が撃ちぬかれ、倒れる。その様子に硬直した隣の奴の頭に照準を合わせトリガーを引く。

 その間にファルコンは二人、頭に撃ち込んでいた。

 

「……中々効率的だな」

「そりゃどうも」

 

 そして、また移動。しかし、もうバレたらしくコンテナ先にある大型トレーラー用の道には多くの敵がいる。

 

「これ使うか」

 

 そう言って、取り出したのは先程自分達に背を向けてた奴からかっぱらったアサルトライフル。

 旧ソ連の遺品でもあるこいつにはご丁寧にグレネードランチャー(擲弾発射器)付きであった。

 グレネード弾を発射口からいれ、仰角を調整し撃ち込む。

 グレネードは敵の集団の真ん中にいき、敵兵を吹っ飛ばす。

 その間にファルコンは残りの奴を狙撃、自分は丁度後ろからきた敵兵にアサルトライフルをくらわせる。

 

「……移動するぞ」

 

 もう残りを始末したのかファルコンにそう言われたので、回収業者(Scavenger)の真似事はやめて進む。

 

 トレーラー用の道路を横切り、呻く敵兵を横目に向かいのコンテナ置き場に

 そこの角で丁度、至近距離で敵兵がでてきたが、ファルコンはノースコープで返り討ちにする。

 次の曲がり角では、敵兵が複数確認できたので拡張領域から手榴弾(ハンドグレネード)を取り出し、安全ピンを抜き、投げる。

 手榴弾は壁に跳ね返り、曲がり角の向こうで爆発、次に進む。

 

「……ワァオ」

「どうした?白衣の美女でもいたか?」

「……ビキニアーミーだった」

「それで、調子が上がればいいけどな」

「……」

 

 アホなやり取りしつつ先に進む。

 そして見つけた、例のタンカー。大型クレーンで荷物の引き上げをしている。

 周りには沢山の敵兵がいて、車載機銃の付いたジープタイプの車もある。

 

「なあ」

「……なんだ?」

「あのクレーンの連結部……撃ったら壊れそうじゃいか?」

「……やってみよう」

 

 そう言って、ファルコンはマズルフラッシュを閃かす。

 見事、クレーンの連結部に当たったみたいで、荷物が落下……タンカーは大炎上となった。

 

「さて、逃げるか」

 

 そう言って、スナイパーライフルでジープの燃料タンクを撃ち、足を潰した後、きた道をもどる。

 

「……これでいいか?」

「司令部から連絡がとれた、任務は完遂だ」

「そうかい。それじゃ、司令部に仕事があればこっちに回しておいてって言っといて」

「……考えておこう」

 

 そう言って、日本に帰ったのであった。

 

『浮気者……射撃ヲタ……』

 

 家に帰ると、三角座りして篠ノ之ちゃんに肩(?)を叩かれているISを見た。

 あー……ごめんね?

 

   ■   ■   ■

 

 今年は重要な事が三つあった。

 

 一つ目、ファルコンが回してくれた仕事をこなしてる内にもう二十歳を迎えてしまった。

 二つ目、色々と記憶やかつての所属していた組織のコネが取れそうな事。

 三つ目、IS学園が無事に創立されました。

 

 結果、太平洋側の比較的土地の広い県が丸々IS学園用の学園都市と化しました。

 沿岸は海上自衛隊の護衛艦やイージス艦が駐留しており、この県に展開していた自衛隊駐屯地も本州最大規模になり、新たにアメリカ軍・国際連合軍の基地も併設された。町おこしってレベルじゃねーぞ。

 

 ……で、何故こんなにも詳しいかというと……その県に引っ越すハメになった。

 理由はバラバラにして保護するのが面倒なので、ある意味安全圏になったここに集めたいという理由。普通に単純だった。しかし、織斑姉弟の家は教えてはもらえなかった。残念。

 家も前の住居と殆ど代わり映えもないので特に言うことは無い。

 そしてもう一つ理由があってそれはというと……

 

「お前達!! 今回のISの射撃教習、ヴァルキリーが特別教官として参加なさる! くれぐれも粗相のないように! わかったな!!」

 

 織斑さんの隣で、ISの指導教官としているからです。

 自分の教習科目は射撃系統で織斑さんは近接系統である。

 目の前には各国の量産型ISが、学園用の教習機採用に向けてのトライアルも兼ねてのことである。

 イギリスのティアーズ・ゼロ、ドイツのレーゲン・ヌル、フランスのリヴァイブ・ゼロ、日本の打鉄零式、イタリアのテンペスタゼロ型がトライアルを実施中である。

 その他に来れるだけの各国代表が見学していたりと注目度は高い。

 

 キャー、と言う黄色い声援を一喝し、各自訓練に入らせる

 織斑さんは近接武器の型のチェックと組手を行い、自分は射撃のアドバイスを通信で文字を送ったりディスプレイを立体化して出したりしての指導や実際に銃を構えてやってみせたりもした。

 篠ノ之ちゃん以外の人と訓練というのは初めてだが、中々良い感じだったと思う。今度その経験を元に篠ノ之ちゃんにも指導してあげよう。

 その後、近接射撃とその対策についてという講義を織斑さんはやりたいらしいので訓練生と自分は織斑さんの方へと向かった。

 

「で、射撃する敵に対しては加速してこうだ」

 

 織斑さんが雪片を目の前に突き出す。実戦ではなく訓練なのでとても動きは緩慢だ。

 

「しかし、ヴァルキリーくらいの射撃使いになるとこうなる」

 

 それを盾に当て、流す。

 

「だが、近接でヴァルキリーをとれる者はこうできる」

 

 返し突きがこちらに飛んでくる。

 

「だが、射撃使いを舐めてはいけない」

 

 ライフルの銃身を傷つけないように雪片の腹に当て、突きをズラす。

 そして、盾で雪片をどかしてライフルを突き出す。

 

「このように、油断すると即シールドエネルギーを削られるから、警戒は怠るなよ」

 

 緩慢ながらも流れるような一連の動作に訓練生と代表が拍手を送る。

 

「それと、近接には大きな弱点がある」

「超至近距離には弱い。モンド・グロッソ決勝戦のようにな」

 

 織斑さん……目が笑っとりますがな……

 渋々ながらも備えると、両手で雪片を構えて斬りかかる織斑さんを盾バッシュで怯ませ、盾を捨て、雪片を持った右手首を持ち、織斑さんの後ろに回して、彼女の目の前まで詰め寄り、ブラスターガンに切り替えてから織斑さんのこめかみに当てる。正解の意図を受け取ってくれたと思ったのか織斑さんは珍しく笑顔で、完璧だ。 と、褒める。

 嬌声が上がるが、自分はもう気にしない事にする。

 

「このように、ここまでされると機体自体の出力、素手での格闘に強いISでないとほぼ詰みだ。わかったな」

 

 ダブルヴァルキリーでかつダブルブリュンヒルデの教習は大好評でした。

 

 夜になり終了時間が近づいてきたので集合。最後の質問タイムと入った。

 好きなもの、嫌いなものというオーソドックスな物から、教官のISの特性や自分のISの中の人が知りたいとか、恋人はいるのかというきわどい物まであった。

 そして、問題無く解散。代表の卵達と毎日忙しい代表達が帰っていく中、自分も帰ろうかと思った時に肩に現在1.5世代に分類される暮桜・改のマニピュレータが……

 振り向くと織斑さんは少しジト目でこちらを見ていた。

 

「お前、モテモテだな……」

「多分、畏怖か何かですよ」

「そう言いながらもそれに乗じて、いたいけな女の子の体をペタペタ触ってたのは?」

「射撃矯正、他に他意は無い」

「嘘、反動はISで制御できるだろ」

「大型の兵器になるとそうはいかない、少なくともリコイルコントロールは必須だと思う。それに現実と混同して生身での射撃で腕を痛めてはダメだからだ」

「……箒にもやってるのか?」

「ああ」

 

 そう答えると、あからさまに不機嫌だと言わんばかりな顔をする。

 

「……ずるい」

「ずるい、ですか?」

「ああ、ずるい。私なんてワントリガーだけだ、ずるい」

 

 そう言いながら目を細めて猛獣の目をしている辺り、もう逃げられないと悟る。

 だが、せめてもの抵抗でバックステップの要領でスラスターを噴かし、ブーストして逃げようとするが、暮桜・改の加速性能がそれを許さずイグニッション・ブースト(瞬時加速)、結果綺麗なタックルを貰い、腹部を支店にくの字に曲がり仰向けに倒れた。

 早い話、ISで押し倒されたのである。なんか卑猥な響きだが実際はそんなことはなかった。

 

「さあ、同期機能を使って二人の夜間射撃と格闘の訓練だ」

 

 結局、朝帰りという形で家に帰れました……バトルマニアめぇ……

 

   ■   ■   ■

 

 さて、IS学園での教習を終えてから二週間が過ぎたあたりに仕事が回ってきた。

 某国の製薬研究ビルからの音沙汰が無く、調査を頼みたいそうな……

 ビルの周りは無人でさらにおかしな雰囲気を放っている。

 デカイ企業が創設したらしく、このような異常事態になっても企業側は頑なに調査は拒否、手出しはできないということ。

 

 そこで、フリーの人間の出番。

 

 製薬研究ビルに乗り込み、何があったのかを調査することになった。

 

「目標上空に到達しました」

 

 クレーンゲームの要領で自分の腹部に腕を回して、釣り上げてくれている某国のIS

 騒音とサイズの関係上VTOL機(垂直離陸機)やヘリなどが使えないので、ステルスモードにした軍用のISが移動までを担当する。

 

「ワイヤーを下ろします」

 

 そう言って手を話す、自分は垂直に落下し、やがてワイヤーが伸びきり停止する。

 ISが微調整してエントランスホールの窓に寄せてくれる。

 

「じゃあ、窓を破るから。破ったらワイヤーを切り離して回収を頼む」

「了解しました」

 

 この製薬会社のビルの窓は対弾加工が施された高強化ガラス。

 だが、ブリーチクリア用の爆薬を使えば、破る事は容易であろう。

 爆薬を窓に貼り付け、ブランコのように揺らし……窓に勢い良くぶつかろうとする。

 その前に、爆薬を起爆させ窓に大きなヒビをいれ、蹴破る。

 同時に、背中に付いたワイヤーが外れ、回収される。

 

 そして自分は『ガーディアンⅠ』と呼ばれる、ある街の警察で採用された実績を持つリボルバーを構える。あくまで調査なので、こういった軽火器しか持ち歩けないのが痛い。事実、このリボルバーの装填数は僅か6発……だがしかし、こいつは他のやつよりも一味違う。

 コイツはセンサーにより射撃対象の生体反応を感知し、破壊力を調整できる。

 例えば、対障害物では破壊力を高める用に調整して障害物を破壊する。対人間に対しては一撃で戦闘力を奪うように破壊力が調整されるのだ。

 

 どうやら、三階の物見台(?)らしく、バカでかいシャンデリアが飾ってあった。

 この手の場合は研究所内の最深部が一番怪しいと記憶が述べているので、まずは一階を目指し、そこから最深部に向かうとする。

 一階に行くには外回りにガラス沿いに階段を降りていくしかなさそうなので、階段を降りようとするが……階段下には数人が聞きつけたらしく、集まっている。

 濃緑の服装に黒いフルフェイスヘルメットに黒いボディアーマー、黒いパッドで関節部を包んでいる姿はどう見ても怪しい。

 とりあえず、先手は取れるので、リーダーと思わしき5.56ミリのアサルトライフル(ドイツ製)持ちを撃つ。

 発砲音に気づき、残りの数人はこちらに拳銃を向けるが、返り討ちにする。いつもの……まるでゲームセンターでもやっているかのような軽快さで……

 

 無事に片づき、二階に降りる……

 すると、一階のラボから増援としてアサルトライフル持ちが6人程出てきた。思わず柱に隠れる。

 増援はシャンデリアの真下に位置し、周りを見ている。見つかるのは時間の問題だ。

 

 ふと、上を見るとシャンデリアに吊るしているワイヤーがあった。全部で四本だ。

 思い切って身を晒す、増援が気付くがその前にワイヤーを撃つ。

 リロードを挟みつつ、一本、二本……三本目が切れると、とうとう自重に耐え切れなくなり最後の一本も切れて、シャンデリアが落下。結果増援を下敷きに巻き込み、無事に一掃できた。

 

 おもむろにアサルトライフルを拾い、一階に降りる。増援が出てきた所が一番怪しいので探索する……

 増援の武装のセカンダリらしい、チューブマガジン式のオートマチックショットガン(イタリア製)を構え、自動ドアを開ける。T字に分岐していたので、左に行くことに。

 出会い頭に二人いたのでショットガンで対処、その後次々に出てきたのでその後もショットガンで対処していく。

 ショットガンの弾が無くなったので、拡張領域にしまっておくと奥から増援が出てきた。

 今度は盾とサブマシンガンで武装している。狭く直線状の道でのシチュエーションになっているので非常にマズい。

 横にボタンがあったのでとっさに押して、目の前に隔壁を下ろして隔離する。

 

 これで、左の道は終了。右のルートを試すことに、右のルートも同じようなもので探索していると、『遺伝子研究ラボ』という部屋が……

 自動ドアはラボの中で唯一開いている。怪しい……

 

 早速研究に突入する。中はよくわからない機材でいっぱいである。下にいけるようなので行ってみる。

 ここにも機材でいっぱいだが、敵もいっぱいいた。アサルトライフルの隊長さんに拳銃の下っ端だ。アサルトライフルで隙なく撃ち、鎮圧する。

 そして、らせん状の階段が……嫌な予感しかしないが行ってみる事に。

 

 階段は相当深く20メートル程降りた気がする。

 降りると今度は広い通路が、階段はの近くには搬出・搬入用の大型エレベーターが。

 んで持って、交戦したような後があった。さらに進むと、セキュリティルームと滅菌室があり、その先には間違いなくラボの最深部があった。

 

「ここがラボの中枢か……」

 

 セキュリティルームと滅菌室を通過し、最深部に突入。内部はドーム状で構成されていた。

 そして、ISスーツを着た濃い青色のセミショートの女性とISを装着した女性がいるが、そのISはこの国のISではない機体であった。熾烈な戦闘だったのだろう、アーマーは所々損傷していて息を荒げている。シールドエネルギーも残り少ないみたいだ。ラボ内も物が散乱し、機材が破壊されている。幸いにもこちらにはまだ気づいていないようだ。

 推測だが、ISスーツが某国のISだろう。大方、こっちは陽動であの娘が本命だったのだろう。

 だが、運悪くIS持ちとかちあい……敗北。

 

 ガーディアンⅠを構え、狙いをISにつける。

 その時、正体不明のISが片手でアサルトライフルを悔しそうにISを睨みつけるISスーツの女性に向けた。

 何か喋っているようで中身が気になるが、それは逆に好機。

 軍用ISとは言え、頭部を瞬間的に狙えば、ガーディアンⅠでもシールドエネルギーは持っていける。倒すことは無理だが……

 照準を頭部に合わせ、撃つ。一発目が発射され、反動が腕に響くが、お構い無しに全部の弾丸をISに撃ちこむ。

 結果、ガーディアンⅠの調整を受けた弾丸は四発、相手の頭部に当たる。しかも完全に意識が向いてない時に受けたので思わず相手のISはよろめく。

 その間にリロードを挟みつつ、ISスーツの女性とISの間に割り込み、銃を向けつつ相手のISを睨みつける。

 

「クッ!……やってくれたわね! こうなったら……」

 

 と、言いながらドーム状の屋根を突き破って逃げていく。

 

「ショーを見れないのは残念だけど、二人まとめて餌にしてやる!!」

 

 逃げていく、寸前にこんな事を言いながら去って行った。

 

「いってろ。今度見かけたらとっ捕まえてお尻ペンペンの刑だゴルァ」

「あ、あの……」

 

 後ろを振り向くと訳がわからないといった感じの人が……

 

「ああ、そうだったか……大丈夫か? 立てるか?」

 

 そう言って、手を差し出す。オズオズといった表情ながらも手をとってくれたのでアシストする。

 

「その……」

「いやー、友軍がいるんだった先に教えて欲しかったよー。スマンね、援護できなくて」

 

 と、おどけた感じで言う。まあ、お察しの通りだし。特にアレな感情も湧かないのでこんな対応でも問題ないだろう。

 

 仲間を囮のように扱った身分の癖に他人を責めるなんて事は許されるはずがない。

 

「は、はぁ……」

 

 一瞬、意味がわからないといった表情をするが言いたい意味がわかったようでキョトンとした顔になる。

 

「ところで……迎えはいつ頃?」

「逃げたISを補足するのに優先する為、20分程で……」

 

 と、迎えの確認をしたところで突然の揺れがくる。

 ISスーツの女性はふらついて倒れそうだったので、肩を持って支える。ラッキースケベなど無い。

 

「これっては……」

「近づいてくるのか……」

「え、や……ヤダ……」

 

 ガクガクと震え出す女性。それを横目にアサルトライフルに変え、セレクターをフルオートに切り替えておく。

 ラボを揺らしながら、姿もなくこちらに向かってくる存在。間違いない、空間が歪んで見えるあそこに何かがいる……っ!

 そこにめがけて、アサルトライフルを掃射する。

 空間の歪みが大きくなり……姿を現す。

 

 そいつは……恐竜、カルノタウルスだった。

 

 おいおい、遺伝子研究ってまさかこれかよ……!?

 

 奴は自分達を見て雄叫びを上げた後、再び姿を消す。その様子はまるでカメレオン……そのカメレオンの能力を遥かに超えている。

 

「こいつは……逃げるぞ!!」

 

 ブルブルと震える女性の頬に一発、ビンタをかます。そして、顔をグッと近づけ、女性の青色の瞳をしっかりと見る。

 

「軍人だろ!!しっかりしろ!状況を見て、死ぬ間際まで考え続けろ!!!」

 

 この一喝で正気に戻ったらしく、自分はそのまま女性の手を持って引っ張る。

 しかし、再び後ろから足音が聞こえてくる。女性は走り出そうとするが、引き止める。

 

「俺から離れるな! 絶対に傷一つなく守りきってやる!!」

 

 大口を開けながら走ってくるステルス・カルノタウルスに向かいアサルトライフルを撃つ。

 

 大体、こういう時は口の中を狙うのがセオリーだ。

 

 目論見通り、カルノタウルスは怯み、姿を消す。

 

「こっちだ!」

 

 弾倉を取り替え、すぐに移動。目指すは搬入・搬出用の大型エレベーター。

 しかし、その前の滅菌室でカルノタウルスは姿を現す。

 

「あいつ、何であんな所に……?」

「マズい、あいつ……隔壁を閉めて閉じ込める気だ!!」

 

 そこには、パイプを破壊しようとするカルノタウルスが。

 この場でパイプを破壊されてしまうと、多分隔壁を降ろされて結果、閉じ込められてしまう。

 

「どうするの!?」

「撃って止める!!」

 

 狙うは片方の目。焦らず、しかし急いで狙い撃つ。

 

「まるで狙撃兵、ハンターのようだ……」

「ナイスハンティングかな?」

 

 何とか、滅菌室まで走り込みドアをロック。

 

「早く!急いで!!」

 

 二人で大型エレベーターに向かって走る。アサルトライフルはもう弾薬が尽きたのでここでお別れだ。

 その時、壁が破壊されてカルノタウルスが迫ってくる。片目を潰されて怒り心頭のようだ。

 何とか、大型エレベーターに辿り着くが……

 

「駄目だ!!来るまでもう少しかかる!!」

 

 そう言って彼女は振り向くと、今まで追いかけてきたカルノタウルスが彼女の目の前で大口を開けていた。

 

「あ……あぁ……」

 

 絶望的、といった感じで唖然とする彼女……だが、自分はGuardianⅠでそいつの舌めがけて撃つ。

 六発共舌に命中し、怯む。

 

「言ったろ、守ってやるって」

 

 丁度その時、エレベーターが到着し、ドアが開く。

 

「入れ!!」

「ハイッ!!」

 

 そして、エレベーターのドアは……カルノタウルスによってこじ開けられた。

 

「しつこいんだよ!とっととくたばれ!!」

 

 再びすべての弾丸を再び腔内と舌、残りの目を撃ち怯ませ、ドアが締まってエレベーターは上昇を開始する。

 そこで、やっと安心感を覚える。

 

「ふう、エライ目にあったぞ……」

 

 そう言って隣を振り向くと……ヘナヘナと女の子座りをして泣きじゃくる軍人さんが……

 あれはトラウマモンだろう……なので、粗相をしていても何も見なかった事にする。

 俺だってチビリかけたわ……

 

   ■   ■   ■

 

 無線から音声が流れてくる……

 

『たった今、反英国テロリストグループから外資系企業が新しく建築したホテルを占拠したという発表があった。』

 

『犯人グループは人質の代わりに多額の身代金とグループの最高指導者とほか数名の幹部の開放を条件にしてきた。』

 

『人質の中には、あのオルコット夫妻も含まれている。』

 

『だが、事前にそれを察知した我々は君たち二人をあらかじめホテル内に入れて、待機してもらっていた。』

 

『ホテル内の人質を確保……オルコット夫妻の保護を最優先事項とし、ホテルを制圧せよ。』

 

『発砲を許可する(Greenlight)』

 

「了解」

 

「……了解」

 

 盾を背中にマウントしサイレンサーのついたサブマシンガン(ピストルグリップ内に弾倉があるタイプ)を持った男と、同じくサイレンサー付きのスナイパーライフルのみを構えた男の二人……自分とファルコン氏はエレベーターの天井の蓋を開けて、エレベーター内に侵入し、そのままエレベーターで人質のいる最上階に向かう。

 少し前の製薬研究ビルもそうだが、このホテル制圧も夢で見た内容だ。もしくははるか遠い記憶なのかもしれない。

 ただ、製薬研究ビルではISもステルスカルノタウルスも無かった。なので、記憶や夢のまま信用してはいけないのだろう。しかし、出来れば今回のホテル制圧も夢や記憶のまま終わって欲しいところだが……

 

 オルコット夫妻

 

 この存在のお陰で儚くもそうではないと確信せざるを得ない。なので、気合を入れていこう。

 貴重な自身の過去、というか前世を知る機会でもあるのでここで逃げる訳にもいかないのだ。

 

 ベルが鳴り、ドアが開く。

 ドアの前で待っていた青色の戦闘服の男二人はサブマシンガンとスナイパーライフルの射撃で倒れこむ。T字に道が別れ、正面には電気制御室と書かれたドアがある。

 最上階のホール会場・レストランを後回しにし電気制御室に侵入、こちらの存在が露見する可能性を減らすためだ。制御室に展開していた敵を殲滅する。幸いにも数人しかいなかったので増援を呼ばれずに済んだ。その後制御板を破壊し、このフロアの電源を落としてから最優先事項のいると思われるホールに突入する。

 

 制御室を出ると、窓も少ないこともあってか、真っ暗に近い状態になる。ヘルメットに内蔵してあるゴーグル型HUDをナイトビジョンやサーモグラフィなどに切り替えつつ、ホール前に到着。

 運の良いことに、テロリストはホテル全体に分散されており哨戒している奴らと撃ちあったぐらいである。だがしかし、そうまごついてはいられない。エレベーターが使えないとはいえ階段でも上がってこっちに集まりつつあるだろう。

 ドアを開けて突入。中は何かの会場をやっていたらしく大型の丸いテーブルなどが散在している。

 そして、目の前には強化外骨格、通称パワードスーツを着た巨漢と鈍色の戦闘服を着た痩せ型の男がいた。どちらも暗視スコープのようなものをつけている。そいつらの後ろには例の夫妻がいた。

 

「遺伝子強化を受けた俺は無敵だ!」

 

「暗闇の中でも遺伝子強化を受ければ丸見えだ!」

 

 こちらに気づき、そう豪語した後、パワードスーツを着用した巨漢は片腕でこちらの持ってる盾の数倍の面積を誇るかもしれない位に大きな盾を構え、もう片方の腕は車載機銃用のガトリングガンをこちらに向ける。痩せ型の男は手甲に取り付けた大型のダガーを展開、三本爪のようなものにしてからホールの7メートル程の跳躍を見せ、動き回る。

 どちらも人間離れしたもので、事実なんらかの形で強化が行われていると思われる。これも記憶には無い内容だ。

 

 まずは定石通り、ガトリングガンを持ってる腕に集中射撃。痩せ型の男の方は相方に任せるとする。

 ガトリングガンは射撃するまで、空転してある程度の回転数に達しないと撃てないという特性がある。今のうちにパワードスーツの腕部を攻撃して、動作不良を起こさせるか、巨漢自身のノックバックを期待する。

 だが、サブマシンガンでの集中射撃では、そのいづれかの状態にすることは困難らしくガトリングガンが火を噴く。盾でガードするが、衝撃が強く左腕が痺れてくる。

 やがて、弾薬が一旦尽きたのか、相手も盾を構える。お返しにと言わんばかりにサブマシンガンで撃つが、あんまり効果は期待できないようだ。

 相手もお返しに手榴弾を投げてくる。が、即座に撃ち落とす。正確には手榴弾に弾丸を当てて、爆風がこちらに巻き込まれない所に動かす。

 ある程度の手榴弾を投げ終えた後、再び盾から身を晒し、ガトリングガンを構える。すかさずガトリングガンを持った腕に撃ち込む。

 すると、腕が痺れたのか射撃を中断し盾を構える。このままではちまちまパワードスーツの強度の限界が来るまでこの繰り返しのようだ。

 

 パワードスーツの男が動けない今のうちに今度はホール内を動き回る痩せ型の男に射撃する。

 相方に気を取られていた男は、射撃を慌ててかわす。

 

「パワードスーツの方を撃て!」

「どこを!」

「頭だ!愚鈍な分いけるだろ!」

 

 相方を言葉を交わした直後、盾の防御できる範囲外から攻撃を食らったのだろう。構えを解いてよろめく男。その隙を逃さず、サブマシンガンを全弾、ガトリングガンに叩き込む。

 相手も反撃にと無理やりガトリングガンを構えるが、ガトリングガンは完全に煙を出しており使い物にならなくなっていた。

 

 ガトリングガンを投げ捨て、新たに弾倉交換式ロケットランチャーを構えこちらに向ける。慌てて、パワードスーツの腕部を攻撃しロケットランチャーの発射前にノックバックさせ、ロケットランチャーから放たれたロケット擲弾は上方に発射、天井に命中して爆発した。

 

 これに怒ったのかサブマシンガンの銃弾に構わず、こちらに突進してくる。パワードスーツのアシストを得た上での突進なので、とても強力だ。

 早すぎればルートを修正されるし、遅ければ悲惨な事になるので回避に成功か失敗かのギリギリを見極めてから……横っ跳びに跳んだ。

 

 相手の突進はそのまま空を切り、壁に激突。そのまま大幅によろけ、ロケットランチャーを落っことしてしまう。

 すかさず、奪い取ってからパワードスーツの取り付けていた手榴弾の安全ピンを抜いて点火させる。

 手榴弾が爆発し、パワードスーツの装甲の一部を破壊、この衝撃に思わず相手は膝をつく。これを逃さず、トドメの一撃。ロケット擲弾は強化外骨格の装甲をぶち抜き爆発、沈黙した。

 

 相方の方を見ると、丁度。痩せ型の男が相方に飛びかかり、大型のダガーで一閃しようとするが、ダガーを振りかぶる一瞬の隙で眉間を撃ちぬかれ、沈黙した。

 お互いの確認をした後、急いで最重要目標であるオルコット夫妻の元に駆けつけ、拘束を解き、肩を貸す。

 

「……君たちは?」

 

 ホール内が暗いせいもあってこちらを怪しむ男性と女性。

 

「スコットランドヤードのSTF(Special Tactical Force)選抜隊員です」

 

 ホントはフリーランスで、STFの雇われ隊員だが、信用して貰うために少し嘘を言っておく。

 

「そうか……助かった」

 

 ほっとする様子のオルコット夫妻。

 

「……司令部には報告した。屋上に警察のヘリを寄こすだそうだ。」

 

 相方も余計な事は起こしたくないのには賛成のようで、特に警察、という部分を強調して言っていた。

 

「ついて来て下さい」

「ああ、わかった」

「ええ、まさかここまでの事をやるだなんて……」

 

 奥さんの言葉が少し気にかかるものの、急いで屋上に向かおうとするが、ホール内に発炎筒が投げ込まれる。

 相方はテーブルをひっくり返して遮蔽物を作り、そこに夫を引き込み。強化外骨格の男が持っていた盾を両手で引きずり込んで身を守っている。自分は奥方を守るように盾を構えて、奥方の前に出る。

 

「お願いですから、じっとしていて下さいねッ!」

 

 奥方の返事がないまま盾を構えた直後、ホール出入口から激しい衝撃とマズルフラッシュと発砲音。

 それに耐えながら、相方にハンドシグナルを送り了承を頂く。

 銃撃が一旦収まり、指揮官らしきテロリストが怒鳴りつけているがそんなことはお構いなしに奥方をバックブラストに巻き込まぬように抱き寄せてから耳を塞ぎ、口を開けるように指示した後、弾倉交換式ロケットランチャーを一発発射する。

 ロケット擲弾はホール出入口付近で爆発し、床に大きな穴を空ける。残りのテロリストは仲間が吹き飛ばされた事に動揺する中、相方のスナイパーライフルで頭を撃ちぬかれる。

 

「よし、移動します!ついて来て下さい。」

 

 そう言って、夫妻を連れて屋上のヘリポートに向かうのであった……

 

   ■   ■   ■

 

 小規模な遭遇戦はあったものの無事に屋上のヘリポートに辿り着く、そこに警察のヘリコプターが二機やってこようとしていた。

 

「やれやれ、このような危険な賭けはもうゴメンだね」

「でもこれで、ようやくオルコットに潜む膿は一掃できるわ」

「それに……」

「何ですの?」

「君と仲が悪い……という設定で別居したり、望んでもない口論をする必要が無くなる」

 

 夫は妻の方に顔を合わせる。

 

「そして、また君とセシリアとの三人で一緒に暮らせる。家族の時間をやっと取り戻せるんだ」

「アナタ……」

 

 オルコット夫妻ってバカップルかよ……

 衝撃の事実と共にファルコンとなんとも言えない顔をするが……その時、どこからかミサイルが飛んできて、ヘリの一機に命中、そのまま墜落した。

 ヘリが向かってくる方向とは逆に、複座式の大型攻撃ヘリが向かってきていたのだ。

 

 無言で、スナイパーライフルを構えるファルコンに弾倉交換式ロケットランチャーを構える自分。

 ロケットランチャーの弾倉を確認した所、一発しか残っておらず、またスナイパーライフルを複数発撃つ間に敵の攻撃ヘリが残りの警察のヘリコプターを撃墜するので、ファルコンも実質一発しか使えない。

 二人共極限までに集中し遠く離れた攻撃ヘリに狙いを定める。

 

 まずはファルコンのスナイパーライフルが閃光を発した。

 

 弾丸は真っ直ぐ飛び……見事、キャノピーを貫通し火器管制を担当するガンナーの頭を撃ちぬいた。

 しかし、ドライバーがまだ生き残っている。ミサイルが使えなくなっても、機関砲がまだ使えるので、まだ突っ込んでくる。

 今度は自分のロケットランチャーからロケット擲弾を発射。攻撃ヘリはフレアを撒くも、残念ながらこいつは無誘導、フレアの赤外線などには誤魔化されずに真っ直ぐ攻撃ヘリに向かい……命中。

 攻撃ヘリは火に包まれながら急速に速度を落とし墜落した。

 

 ほっとする所に丁度。ヘリコプターが到着し、オルコット夫妻を載せる。

 

「? 君たちも脱出しないのかね?」

 

 オルコット氏が尋ねるが、自分は首を横に振った。

 

「テロリストが地対空誘導弾も持っている可能性も捨て切れませんので我々はここで援護します」

「そんな! ……貴方達の判断に感謝します」

 

 オルコット婦人は驚いた表情を見せるも、深く頭を下げてくれた。

 

「ファルコン! 地上の掃除を頼む! それでは、ご無事で」

 

 無言で頷き、スナイパーライフルで地上の対空火器持ちに狙いを定める。

 

「陳腐な言葉で済まないが……君たちこそ、生きて帰ってきてくれ」

「ことが済んだら是非、貴方達をオルコット自慢の邸宅に招待させて頂きますわ」

 

 その言葉を最後にヘリのドアを閉め、オルコット夫妻を載せたヘリは飛び立とうとする。

 自分は、ヘリポートを死守するため彼らに背を向けて走りだすのであった……

 

   ■   ■   ■

 

 英国のホテルで死亡フラグを建てちまって焦ったが、別にかすり傷ひとつも無かった。

 その後の話だが、あのテロリスト騒ぎ、真相はオルコット夫妻の持つ利権がらみによる親族の差し金らしく、結果親族の逮捕となった。少し前から夫妻の不仲説に乗っかっての犯行らしい。

 あとは、オルコットの娘さんがIS適性値でAランクを取得。貴重なBTレーザーやビット兵器との適性値も国内最高を記録し英国史上最年少での代表候補となった。篠ノ之ちゃんと同い年なのにすごいね。

 余談だが、本当にオルコットの邸宅に招待された。ただし、ファルコンが。自分は変装していて身分も偽っているので最後まで調べがつかなくて悔しがっていたと、ファルコンが話してくれた。あと、バカップルも健在だったらしい。

 

 篠ノ之ちゃんで思い出したが、もう中学生になりました。

 何を思ったのか、篠ノ之ちゃんはIS教習のある国立の中学に入学した。

 ISの実機なんてどっから持ってきたんだと思ったが、よくよく考えたらISって実質先進国しか持てないよね。フレームの購入費しかり、維持費もしかり……

 で、いつの間にかIS実習での成績が同学年トップになりました。IS適性はCなのにトップはそこそこ珍しい。主に近接実習と射撃実習と模擬戦で成績を荒稼ぎしているようで……

 特に模擬戦では、基本的に機動系の指導は事前にやっていなく、適性がCということもあってか同学年よりも一段と遅い機動力だが、近接距離以外ではひたすらに自分仕込みの射撃で射撃戦を展開、こっちはシールドで的確にガードしつつ、向こうのシールドエネルギーをガリガリ削りにいく。

 動きが遅いのもあってか相手は油断して一発逆転目的で篠ノ之ちゃんに斬りかかっても、本人自慢の剣道仕込みの近接攻撃でカウンター、逆に返り討ち……となんだかえげつない仕様に。身に纏っているのは打鉄零式・改とその武装一式とラファールタイプ付属のIS用アサルトカノンだと言うのに……

 

 岡部さんのお陰で苦手な距離を克服できました!……ってすごい可愛い笑顔で言われるようにもなってしまった。なにそれ怖い。

 あとは最近、早くIS学園で岡部さんと直接ISでの射撃分野の講義を受けたいなぁ……とまで言い出す始末。だから、なにそれ怖い。

 中学で仲の良い子でも見つけてきたのか、その子の事をよく話してくれる。性格はちょっと暗めでいつも眼鏡型の携帯用投映ディスプレイをかけているのだが、とてもいい子なんだとか……

 最近は篠ノ之さんにも専用の通信機で適度に話をして、距離を測っているようで、篠ノ之さんが物凄く嬉しそうに妹さんを自分に自慢しています。

 

 あとは、自分のIS。ここ最近全くの手付かずのおかげか完全にグレたようで拡張領域の整理をしたら出るわ出るわ篠ノ之さん謹製の変態装備。

 弾頭を弄って、射程距離の続く限り威力を殺すこと無く跳弾し続ける銃に、かんしゃく玉をパチンコ玉サイズにまで小型化、威力をIS仕様にしたものや一発の弾丸から散弾が120発ほどでてくる散弾銃、稲妻状のプラズマをショットガンのように複数発射する銃、威力がVシステム使用時のチャージショットレベルなのに一発でシールドエネルギーの二割を消費し、射程は5メートルしか無いレーザー銃、極めつけはIS用のミサイルを発射後、五秒間は上昇してからY字状に 2つに分裂を開始、合計7回分裂し一発のミサイルから計128発のミサイルに分離し襲いかかってくるシロモノまで……なんじゃこりゃあァ!!

 

 あとは織斑さん。相変わらずの百合製造機と化していて。女子達の黄色い声が物凄い。

 あと、篠ノ之ちゃんの活躍を聞いて物凄く悔しそうにしていた。そんなに射撃を鍛えたいんですか……

 織斑さんと会うときには常にISを装着しているので、世間的には女だと思われているので織斑さんに講義関連や教習関連で詰め寄られると凄く黄色い声が上がります。

 結果、織斑さんとはまた違った寡黙系クールさんとして実質的には男なのに百合な人達からも大人気と化していたり……

 

 ついでに弟君にも会ったが、最近仲良くなった娘が祖国に帰ったんだとか……

 別れもあるが、出会いもある。まあ、気にすんな。 と慰め、篠ノ之ちゃん宛てに伝言などを貰った。

 

 実はIS学園が創設されて、自分と織斑さんが結構な頻度で会うようになったので、これを利用してこっそり篠ノ之ちゃんと織斑君は文通していたり……

 

 剣道は一生懸命にやっているようで、いつか篠ノ之ちゃんと白黒つける、と語ってくれた。

 良かったな弟君、君の死亡フラグは回避されたぞ。その旨、しっかりと報告させて頂きます。

 

 そして、そろそろ高校の時みたいに一同一緒に過ごすのもいいかもしんない。そんなことを思いながら、大学での必修科目の単位を取ろうと必死こいていたのでした。


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