No matter what fate   作:文系グダグダ

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04:第二回モンド・グロッソ

 とうとう、第二回モンド・グロッソが開催される年になった。

篠ノ之ちゃんは中学二年になり、可愛さよりも綺麗さの方が際立っている。

 

「岡部さん。今年モンド・グロッソがドイツで行われますけど、今回も?」

「まあ、しないと色んな人達が怒るよね……」

 

 色んな人達と言ったが、主に一番怒るのは織斑さんとか織斑さんとか織斑さんとかだと思う。

 それにモンド・グロッソの目玉ってある意味自分vs織斑さんとの人外大戦だと思うし。

 

「そうですよね。だって、岡部さん……ヴァルキリーでブリュンヒルデですからね……」

「篠ノ之ちゃんその話題はやめてくれ」

 

 男なのに、とボソッ追加される……それ、色々と精神に響く、マジで響く。

 

「でも、いいなぁ……私も直接会場で岡部さんや千冬さんが活躍してる所、見たかったなぁー」

 

 はぁ、とため息をついてテーブルに突っ伏す篠ノ之ちゃん。この娘普段は真面目でキッチリしていて、凛としているのに家に戻るとすぐにこんな感じにダレる。

 ダランとした感じの篠ノ之ちゃんって篠ノ之さんに似てるよねー、と脳裏によぎった。

 

「そうだねぇ……織斑さんの方も弟君が見たいと言ってた気がするしね……まあ、相談してみるよ」

「一夏と一緒に行けるんですか!?」

 

 事実、時間が経つにつれ状況も安定しているので、少しばかり行動の制約が外されるかも知れない。

 政府の間では個別に守るよりもどこかにまとめて入れてそこで護衛を行うと言った案が出てきてもいるくらいだ。

 十中八九IS学園行きだろうが……篠ノ之さんは、どうだろうねぇ? 来るのかな? それともまだ放浪の旅でも続けるのかね?

個人的には織斑さんとこの弟君が少しばかり心配だけど……

 

「まあ、そうなるだろうね」

「本当にですか? ありがとうございます!」

 

 椅子を蹴飛ばさんとする勢いで立ち上がり、頭を下げる。

 

「別にいいよ、もう三年間も一緒に住んでる仲だし」

 

 今更、遠慮なんて要らないよと付け足す。

 更に感極まったのか、両手を掴みブンブンと上下に動かす。篠ノ之さんのように抱きつき癖さえ無いものの、確かに篠ノ之さんと篠ノ之ちゃんは姉妹であると印象づけたのであった。

 

   ■   ■   ■

 

「で、モンド・グロッソの観戦に箒と同行させたいと」

 

 IS学園で一通りの教習が終わった後、織斑さんに事情を説明する。会話なんてもってのほかなので、盗聴対策も兼ねてIS同士を接触させての直接回線を使用している。

 今年度で二年目だが、相変わらず織斑さんは教え子たちに黄色い声援を投げかけられていて、その度にため息混じりにこめかみ辺りを抑えている。

 競技用と言えども、ISの操縦者。メディア等に取り上げられても精々、専門誌のインタビュー程度しか公にされていないので、その分実際に会えるとなるとこうなるのだろう。

 

 その割には自分の時はあんまりいい反応はしないんだけどね……

 

「何とかできないですかね?」

「まあ、多分できるか? 更識の護衛も引き連れたら出来るのかもな」

 

 まあ、そこら辺なら何とか出来るのかもしれん、やってみよう。と付け足す。

 以外にもツテはあるようで少しだけビックリ……しかし、ふと気づく。

 

「スイマセンね、本当に。礼は必ず……って更識って言ってましたけど、更識って何です?」

「そう言えば、お前には説明はされていなかったんだったな。更識というのはな……」

 

 ざっくりいうと、篠ノ之ちゃんや弟君の護衛を受け持っていたり、ロシアをスケコマシに行った『対暗部用暗部』って分類の人達らしいです。名前とか全然知らなかった。

 篠ノ之さんにでも頼めばすぐに丸分かりなんだろうが、あの人もあの人でそれなりに忙しいのであまり頼れない。

 教習の間は自分や織斑さんの代わりに篠ノ之ちゃんや織斑君の様子を見てくれてるし。

 

「そうなんですか、詳しく説明してくれてありがとう」

「気にするな。私とお前の仲だろ?」

「ハハッ、そうですね」

 

 話にキリが良くなったところでなんだかビックリしたような叫び声が聞こえた。

 織斑さんと一緒にその方向を見ると、そこには射撃戦仕様の打鉄を纏った女性がいた。

 

「な、ななな! 何してるんですか先輩!?」

「別に、こいつと話をしていただけだが?」

 

 自分もディスプレイを展開し『お話してたー』と表示させる。

 

「え!? だ、だってゲストさんと織斑さんがて、手を繋ぎあって!?」

 

 『貴女ちょっと疲れてるのよ』と表示させる。もう既に織斑さんとは接触回線は終了しているので、手は離れ離れになっている。

 

「なんでそれで、手を繋いでただけでそうなるんだ……コイツとは抱き合ったりもしてるだろうに……」

 

 織斑さんはため息を吐く。確かに講義中に至近距離での戦闘をシミュレートするときにはよくしている。しかし、目の前の女性は更に勘違いしたようで……

 

「だ、だだだ抱き合ってー!? もしかしてお二人って……アワワワ」

 

 あ、織斑さんが無言で拳骨を落とした。

 

「……目、覚めたか?」

「……スミマセンでした」

「全く……妄想は程々にな、山田先生」

 

 頭を抑えて蹲り、唸り声を上げる山田さん。確か織斑さんの同期で元代表候補。しかしどうも教職員の方が向いているんだとか。

 これでも現役時代、織斑さんの次に有力な代表候補らしいんだが……

 

「さて、今日の講義も終わった事だし……今日もよろしく頼む」

 

 『競技用アリーナに行きましょうか。今日はIS用のライトマシンガンについてですよ。』と表示させ、織斑さんに見せる。ついでにまだ衝撃の抜けきっていない山田さんに歩み寄り、肩を叩く。

 

「ウググ……ふぇ? なんですか?」

『織斑さんと指導しますけど……よろしければ、どうです?』

「わ、私ですか!? そんな恐れ多い……」

『まあまあ、遠慮なんて無しですよ』

「……え? 本当にいいんですか!? ありがとうございます!」

 

 感極まって、両手を掴み上下にブンブン振り回す山田さん。衣服や下着で固定されていた篠ノ之ちゃんとは違い、ISスーツに実ったスイカ様がバインバインしているというね……流石代表候補……

 

「……決まったのなら、早く行くぞ……」

 

 織斑さんは少しばかりこちらを睨んだ後、強引にこちらの腕を掴み、射撃場となるアリーナへと向かったのであった。

 

   ■   ■   ■

 

 そして、時間が経ち第二回モンド・グロッソが開催される。

 

 前回同様、推薦枠からの出場となり、自分はまたISを身に纏い。相手のISと相対する。

 相手は一般的なIS用バトルライフルと近接ブレード、そして盾を装備している。

 精神を集中しハイパーセンサーの感度を上げると、ふと篠ノ之ちゃんと織斑君を見つけた。織斑君は目を輝かせてこちらを見ていて、篠ノ之ちゃんは手をブンブンと振っている。

 

 そろそろ、時間なので拡張領域(バススロット)から複合弾薬仕様のカービンライフルを取り出そうとするが……出てきたのはIS用に大きさを再設計したサブマシンガン。各国のISが採用しているベストセラーで、ピストルグリップ内にマガジンが収納されてるやつではなく、前にマガジンが装填できるやつである。

 分かる人にはドイツの老舗銃器メーカー産だと言えば、わかるのかも知れない……

 

『これを使いましょう。これを使用すれば勝率は5.6%上がり、合計の勝率は99.8%になる見込みです。』

 

 仕方がないのでサブマシンガンを腰にマウントし、改めてカービンライフルを取り出す。最近、うちのISは自己主張が激しくて困る。

 

 試合開始の電子音が鳴り、グリーンランプが点灯する。

 両者共にスラスターと噴かし、距離を置きながら動く。どうやら相手は射撃戦を挑みたいようだ。

 相手はアサルトライフルを連射しこちらを撃つが、僅かにシールドエネルギーが減るだけで効果は薄い。相手のアサルトライフルの威力が弱いのではない。

 むしろ、IS基準ではあるが弾丸は貫通力に優れた徹甲弾(スチール・コア)を使用しての結果である。

 こちらの装甲が厚すぎて、アサルトライフルから放たれる大半の弾丸を装甲が弾くので、シールドエネルギーが殆ど消費しないのである。

 

 自分のISは頭部と上半身の前面、スラスター部分以外はちゃちな戦車砲でもその装甲を抜くことは難しい。仮に抜かれようとも爆発反応装甲や電磁装甲などの特殊な装甲を増加装甲として装着しているお陰で一撃だけなら無効化することができ、破損ないし欠けたら拡張領域から予備の装甲と交換も可能だ。

 なので、素直に頭部を狙うか腕の可動域を増やすために薄くなった上半身を狙うか、または背後からスラスター部分を狙うのが賢いのである。

 

 これには相手も驚いたのかこちらのチャージショットを盾で何とか防ぎつつ、IS用アサルトライフルからアサルトカノンに切り替え撃ち返してくる。

 こっちもサブマシンガンで撃ち続けながら距離を詰める。

 相手は盾を構えて防御しながら動きまわっているのでアサルトカノンのままでは分が悪いと感じたのか、ショットガンに取り替えるものの思うように当たらず、当たっても厚い装甲のお陰で対したダメージではない。このまま自分に有利な距離を維持するのが利口だろう。

 

 チャージショットをショットガンを持っている腕の方に当てて仰け反らせ、相手の防御体勢を崩す。

 そのまま勢いで押し切る為にカービンライフルのアンダーバレルに装着した擲弾発射器からプラズマグレネードを撃ち出し、完全に無防備な状態にする。

 トドメに確実に仕留める為に急接近し、サブマシンガンで近距離からフルオートで出来るだけシールドエネルギーが削れるうような部位に多くの弾丸を叩きこみ、ゲームセット。

 

 今回は篠ノ之ちゃん織斑君が観戦に来ているので、手をブンブンと振ってみる。

 観衆が湧き出し、歓声が中々の迫力となって帰ってくる。

今回のモンド・グロッソはリップサービス増々でお送りしますよー、おにーさんちょっと張り切っちゃう。

 そんなことを考えながら、篠ノ之さんのいるスタッフルームへと帰還した。

 

   ■   ■   ■

 

 そして第二回戦。

 イグニッションブースト見てからチャージショット余裕でした。

 

 正確に言うと試合開始の電子音が鳴り、グリーンランプが点灯すると同時に近接ブレード構えて瞬時加速(イグニッションブースト)で一気に距離を詰めて来たので、予めチャージ済みだったカービンライフル構えて迎撃、すると頭に直撃して進路がズレて自分の真横を通り過ぎたので遠慮無く再度チャージショットを撃って頭部に直撃、試合終了となった。

 

 呆気にとられた篠ノ之ちゃんと織斑君の様子が見て取れたのだった……

 

 第三回戦。

 ビット見てから迎撃余裕でした。

 

 試合終了開始と共に有線式で小さな直方体の遠隔装置が4つ程飛んできて、小銃弾を撃ってきたので文字通り落ち着いて迎撃。さらに有線式の誘導ミサイルも4つ程来たので、撃墜する。

 

 さらに、今度はレーザーライフルを持ち出し、さらに直方体状の物体を3つ程自機の周囲に展開、レーザーを発射させて、弾幕を展開。

 レーザーライフルの方は長時間照射してジリジリとダメージを与えるタイプらしく少しばかり回避が嫌らしいが、威力は長時間受け続けなければ対したダメージにはならず、むしろそれに集中して回避行動をとっているとアラートが鳴り、直方体状の物体から放たれるレーザーが自機に命中する。遠隔操作で撃てる方はレーザーライフルよりも高出力だが一瞬しか照射されない。

 

 なので、邪魔な遠隔装置からすぐに破壊、流石にもうネタが尽きたらしく残ったレーザーライフルで自分のカービンライフルとの高速で動きながらの射撃戦が始まり、チャージショットで相手ISのシールドエネルギーを削りきり、勝利した。

 

 おにーさん頑張り過ぎたかも……

 

 目を輝かせてこちらを見ている篠ノ之ちゃんと織斑君の様子を見て、そんな事が脳裏によぎったのだった。

 

   ■   ■   ■

 

 気を取り直して準決勝。

 見た感じ相手のISはスラスターが多めで機動戦向きかな、と予想される。

 頭部や胸部には発射口らしき穴が対になって開けてあるので多分内蔵火器の類だと思う。

 両手にはアサルトライフルらしき物を二挺持っているので高速で動きながら当ててくるのかな?

 前回のモンド・グロッソと比べてやはり、操縦者全体の質が明らかに向上し、IS競技用のアリーナが手狭く感じてしまう。代表候補や訓練生なら丁度いい広さなんだが……

 

 そろそろ、アリーナなどではなく洋上か無人島でも使わないといけないような時代に突入したって事なのかな? 常に時代は進み続ける物なのね……

 

『警告、何らかの防御手段を用意しておくことを忠告』

 

 少しアンニュイな気持ちに浸っている中、ISのアナウンスに従い、拡張領域から盾を取り出す。

 

『忠告、カービンライフルなどの光学兵器は非推奨。強力な実弾系を強く推奨する』

 

 おかしなアナウンスだとも思いながらもカービンライフルをしまい、IS用弾倉交換式ロケットランチャーを腰にマウント。さらにIS用三銃身仕様の20ミリガトリング砲を腕の方に装着。右手でグリップを握り、銃身を空転させ動作をチェックする。

 これらもまた市場に出回っているものであり、特に三銃身仕様の20ミリガトリング砲は車載機銃やヘリの機銃として出回っている物をIS用に改修したものである。

 

 武器を持ち替えたことに疑問を抱いたのか、不思議そうに篠ノ之ちゃんはこちらを見ていて、織斑君はこちらの動きの一つ一つに注視している。

 

 試合開始の電子音が鳴り、グリーンランプが点灯する。

すると相手は一気に距離を詰め、内蔵火器とアサルトライフルを一斉に撃ちだす。

 大小合わせて合計6門による弾丸の雨は流石に前面装甲では耐え切れないので、盾を構えて距離を離す。が、加速性能は相手の方が上なのですぐに追いつかれる。

 これでは防戦一方なので、アサルトライフルの一瞬のリロードで発生する隙を見極め、盾の構えを解いて攻勢に転じる。このまま自分の勢いにのせて倒せればいいのだが……

 しかし、目に映ったのは戦車砲を流用したと思われる超大型のランチャーを構えるISが……

 

 うわ、やっべ……

 

 そう思い咄嗟に盾を構えるが、それよりも早くランチャーが火を噴く。放たれた弾丸は途中で分離しダーツ状の砲弾となってこちらに来る、そう……それは装弾筒付翼安定徹甲弾(そうだんとうつきよくあんていてっこうだん)、通称 APFSDS(Armor Piercing Fin Stabilized Discarding Sabot)だ。

 

 こいつは普通の砲弾より威力が高い恐ろしい弾種だ。

 

 幸いにもAPFSDSは右肩に命中。右肩に着弾した瞬間、正確には爆発反応装甲を貫通し、メインの装甲よりも外部に取り付けられた二枚の間の開けられた電磁装甲に飛び込んだ瞬間、装甲の間を通る膨大な電圧が電流となり、砲弾に流れ込む。

 やがて、それによって発生したジュール熱や電磁場による力により砲弾は気化ないし分断される。結果、シールドエネルギーは少しの減少で済んだ。

 

 しかし、砲弾が命中した衝撃は残っており凄まじい威力だと身をもって体感した。

 それに怯まずにお返しの意を込めて右腕でガトリング砲を撃ち、左は盾を拡張領域に素早くおさめてから、弾倉交換式のロケットランチャーを脇に挟み込む方に持ち撃つ。IS特有のPIC(Passive Inertial Canceller)による慣性制御機能様々だ。ざっくり訳せば外的作用から生じる慣性モーメントの打ち消しなので、まあ間違ってはいない……のか?

 

 しかし相手も中々の手練らしくガトリング砲は当たってもロケットランチャーのはそう簡単には当たってくれない。

 相手もこの状態を打開すべく、後部にチラチラと見えてるスラスターに火が付いた。

 

 自分はそれを察知して素早くガトリング砲とロケットランチャーをしまい、アメリカの銃器メーカーがIS用に再設計した弾倉交換式オートマチックショットガンを取り出し弾幕を張る。

 ガトリング系統とは汎用性に欠けるが、瞬間的な火力ではそれらに引けを取らないショットガンは相手のISにガンガン当たり、シールドエネルギーを削っていく。散弾なので、射程さえ見極めればそれほどエイミングを要せずに当てることが簡単だ。

 さらに、弾倉内の残弾もすぐに装填できるので対近距離戦では大変重宝するだろう。

 

 そう予測して弾幕を張っていたが、流石にシールドエネルギーが削りきれなかった。結果、接近を許してしまい、相手は自身の両手にプラズマらしき物を纏い、斬りかかってくる。

 とっさに振り下ろしてきた右手を先程のオートマチックショットガンで防ぐが、左手の突きが頭部に襲いかかる。

 ほぼ、反射的に首を動かしこめかみ辺りを掠るように左手が空を切る。ただ掠っただけなのにシールドエネルギーはかなり減少してしまった。シールドエネルギーの残りは丁度半分、これはマズい。

 

 何でもいいからなにか無いかと思い、空いた左手に拡張領域からブラジルの銃器メーカーが手掛けたIS用のマグナムリボルバーを持ち、そのままの勢いでプラズマ手刀が正面や頭部に来ないように片腕で右手首を掴み、もう片腕は左腕を脇に挟ませそのまま息がかかるような距離まで詰め寄り、降下。

 速度は負けるもののスラスターの出力自体は勝っていたらしく、相手のISを地面に叩きつけて馬乗りのような状態で押さえつけから体を密着、マグナムリボルバーをこめかみに当てる。

 

 ハイパーセンサー越しに黄色い声援が聞き取れるが、当の本人は観客が想像している女性ではなく男性、犯罪臭漂う行為しているのは承知した上での行動なのだが凄いやるせないです。全身装甲万々歳。

 

 『降参する?』とディスプレイに表示させ見せる。

 搭乗者の女性は悔しそうに「ええ」と言った。この時点で試合終了、無事に決勝へと勝ち上がる。

 拘束を解き、起き上がろうとするISに手を差し出し、『押し倒してごめんね』と表示させる。

 

 少しだけポカーンとした表情を浮かべたのが少しだけ印象に残った。

 

   ■   ■   ■

 

「箒ちゃんといっくんが拐われた」

 

 完全に密室となったスタッフルームで篠ノ之さんが最初に言った言葉だ。

 珍しく、絶対零度の如く冷ややかな目をしている。

 

「いつ頃に?」

「分からない、流石に監視カメラ越しにだと死角が多すぎて……」

 

 そう言いながら、グリグリと監視カメラを回したり、過去の映像を見て探っている。

 少なくとも今さっきの準決勝前には二人は確認できた。

 ならば試合中か? でも対暗部用暗部の更識と現地の警察、軍の警戒網をどうやって?

 いや、黒幕探しは後にして二人を加給速やかに、そして迅速に確保せねばなるまい。

 

『箒嬢の現在地割り出し完了、表示します』

 

 ISのアナウンスが聞こえると瞬時にディスプレイに流れ込む情報。カーナビの用に道路上をゆっくり走るマークがある。

 

「なぜ、この情報を?」

『箒嬢が中学に入る時に拡張領域(イコライザ)チップを渡しておきました』

 

 『ここ数年は箒嬢がよく使っていたので』と追加で、表示する。

 

「篠ノ之さん。篠ノ之ちゃんの場所がわかった」

「こっちも丁度アリーナを出ていくSUVを見つけた。フロントガラス越しに箒ちゃんといっくんの姿も確認した」

 

 出ていく時刻を教えてもらいISに計算させる。すると、マークは丁度篠ノ之さんが行った時刻にアリーナを出ていったことが証明される。

 

「篠ノ之さん、当たり」

「なら、すぐにISで助けに行って!」

「無理だ」

 

 なんで!? といった感じに悲痛な表情を浮かべる。

 

「今、ここでISごと行くと大問題になる」

 

 もし助けに行けば、次に危ないのは篠ノ之さんなのだから。

 しかも、織斑君と篠ノ之ちゃんとの関係性を決定づけてしまうので、尚更ここでの救出は悪手である。

 

「そんな!? 箒ちゃんといっくんを見捨てるの!?」

 

 今にも食って掛かる勢いで詰め寄る篠ノ之さん。目は血走り、行きが荒くなっていってる。

 

「見捨てるんじゃない。それならば……」

 

 ISの装甲部分を展開し、ISから降りる。

 

「生身で助けに行けばいい」

 

 ISに『決勝は棄権だと言え。理由はアリーナ異常事態が発生してるような連絡が飛んでたので博士の護衛を優先したとでも言えばいい』と告げる。

 ピカーとバイザーを光らせ敬礼するIS。拡張領域チップから衣服やいつもの変装セットを取り出し、ISスーツの上から着替え、顔と露出する皮膚、声を変える。

 

「にゃはは、昔アッキーが変装セットが欲しいって言ってたから作ったけど、まさかこんなところで……」

 

 「それに妙に手際良く変装するよね……」と怪しげな視線を向けるものの、これ以上の言及はしない様子。

 ヘルメットを被り、HUD付きのゴーグルを装着。歯の奥に通信機をはめ込み、以前製薬研究施設に使った身分証を持つ。

 レッグホルスターを右足に付け、GuardianⅠを入れ、ドイツ国内にいるIS部隊に繋げるように篠ノ之さんに頼む。出来れば、顔見知りの方が変に小競り合いも無くて済む。

 

「ドイツのIS部隊で尉官の子ね、妙に具体的な注文だけど……あ、あった」

 

 投影型ディスプレイにその軍人のプロフィールが表示される。

 ふむふむ、グレンツシュッツ・グルッペ・ノイン(Grenzschutzgruppe neun)で第一中隊内のIS分隊所属クラリッサ・ハルフォーフ中尉20歳……っと。

 

「篠ノ之さん、ありがとう。いつでもその子に連絡を入れられるように手配しておいて」

「いいけど、どうしてドイツにわざわざ?」

「リスク管理さ……」

「アッキーなら大丈夫だと思うけどな……」

 

 そう言って篠ノ之さんは、不満の声をあげながらも渋々やってくれている。

 大丈夫だとは言うが、自分は万能じゃないんだ。出来るだけの手は打っておきたい。

 織斑さんの動きが全くないのは不自然だが、逆にそこから推測するとすれば……

 

 日本政府はこの件に関しては織斑さんに対して情報の規制を行なっている。

 

 可愛い弟君が拐われた。と聞けば、文字通りカッ飛んででも助けに行くような人だ。

 そんな人がじっとしているという事は恐らくはそうなんだろう。

 事態が露呈するまでの時間を稼ぎ、その間に奪還……かな?

 

 まあ、悪くない手だと思う……と言うよりも現実的で実に良い、模範的な対処方法の一つだ。

 本音を言えば、織斑さんに事の自体を教えて一緒に救出……もいいのだが、その場合織斑さんの名誉が損なわれるのはほぼ確実だと言っていいだろう。

 そして、それは弟君にも重くのしかかってくる。そう、とても重くのしかかってくるのだ。

 だからこそ、自身で二人に接近し……出来れば、ドイツや更識よりも早く発見せねば……

 

   ■   ■   ■

 

 ゴーグルに映しだされたマップを頼りに街中を進む。

 自身の駆る750ccのレース出場用バイクは流れるように車の合間合間をすり抜ける。

 時折、反対車線に乗り出したり、ショートカットの為に人のいない歩道を突き進む。

 

『200メートル先を右折してアウトバーンに侵入してください』

 

 ISからのナビゲートを受けて右折、そのままアウトバーンへと侵入する。

 

「篠ノ之さん、アタリだ」

 

 そう言って、ヘルメットのカメラで篠ノ之ちゃんと織斑君を拐ったSUVの車列を映す。

 SUVは皆黒く塗装されていて、窓もすべてスモークガラスだ。

 

「確認した。先頭車両に箒ちゃんといっくんがいるね」

「ああ、念の為にクラリッサ中尉を連絡が取りたい」

「わかった。気をつけてね」

 

 そう言って通信が切れ、今度はHUDに製薬研究施設以来の軍人さんの顔が出てきた。

 

「お久しぶり……かね?」

「私は貴様の事などは知らん。それに正気か? 少なくともISとの個人通信は軍事機密のはずだ」

 

 軍人さん、クラリッサ女史は鋭い目付きでこちらを威圧する。

 昔、マジギレして勢い余ってベロチューした織斑さんよりかはマシだが……

 

「確かに、軍事機密中の軍事機密であるIS関連だと、ただじゃ済まないだろうね」

「でも、それに目を瞑る代わりに君の名誉と功績が一つ加えられるとすれば?」

 

 以前、沈黙を保ったまま。このまま話を続行させる。

 

「ドイツの尻ぬぐいをしてやろう。君の愛するドイツは名誉を守られ、君はこの事件を解決に導いた功績が手に入る」

「どうかね? 上司とでも相談中かな?」

 

 未だに沈黙を破らず、自分も少し焦り始める。

 

「断れば、ドイツは二度目のミュンヘンオリンピック事件を未然に防ぐ事が出来ない国という烙印を押されてしまうだろう……どうやら、それも仕方がないようだな」

 

 そう言って、通信を切ろうする。

 

「待って」

 

 クラリッサ女史が沈黙を破り、通信を切ろうとしたこちらを引き留める。

 

「話を聞きたい。貴様は一体何を知っているのだ」

「何をか? ……君達こそもう知ってるだろう」

「今必死に探してる物さ。計2つ。」

「証拠は?」

 

 無言でSUVの車列を映す。

 

「信頼性が無い」

 

 拡張領域チップからカスタムスナイパーライフルを取り出し、バイクが横転しないようにハンドルを固定し、シートに股をしっかり挟んでからスナイパーライフルを両手で持ち、左右はバイクの重心移動で、上下は腕で調整して射撃。

 弾丸は最後尾のSUVの後輪に命中。大きく車体を回転させ、減速する。

 丁度、自分とすれ違った辺りでスピンからの横転を行い、そして爆発した。

 一斉に最後尾近くのSUVのバックドアが開き、アサルトライフルを構えた覆面の男たちがこちらを睨む。

 

「これでいいかい?」

 

 信頼性抜群だろ? と聞いたが……

 

「あ、貴方!? 狂ってるの!?」

 

 クラリッサ女史には大変衝撃的な映像のようでとても驚いた顔をしていた。

 

「なら、早く現場に急行することだな。要救助者の身柄も危ういぞ」

 

 クラリッサ女史のISに直接マッピングデータを渡し、一方的に切ろうと思うが少し思いとどまる。

 

「そう言えば、君は自分に覚えが無いと言っていたな」

 

 返事はなくただ無言。

 

「もうステルスと恐竜には慣れたかい?」

 

 瞬間的に顔を真っ赤にするクラリッサ女史。それを見て、少しだけ顔がにやける。

 ついつい要らない茶々を入れてしまうのは悪い癖だが、中々やめられない。

 そのまま通信を切り、バイクを左手で動かしながら、スナイパーライフルで応戦する。アサルトライフルの弾幕をかいくぐりつつ、乗員を撃ったり、タイヤを撃ち車を横転やスピンさせたり、直接ドライバーを狙ってシートを撃ったりして、SUVの数を減らしていく。

 

 そして、SUVが篠ノ之ちゃんと織斑君を載せている奴だけになった時、ローターの音が聞こえてきた。後ろを振り返れば、そこには数機の小型ヘリ(リトルバード)と複数のオープンカーがこちらに迫ってくる。

 これはヤバイと感じ、慌ててハンドルを大きくきる。その瞬間、今まで走っていた所にチェーンガンによる掃射によって煙が舞う。

 リトルバードはそのまま自分を追い抜き、SUVと並走する。後ろのオープンカーから数人のテロリストがアサルトライフルで射撃を加えてくる。

 

 スナイパーライフルを拡張領域チップにしまい、バイクに取り付けてあるショットガンスキャバードからスコープ付きショットガンを取り出し、フォアハンドをスライドさせてショットシェルを装填した後、急速に速度を落とす。

 テロリストが反応する前に左右のオープンカーの中心に付き、ショットガンを連射する。

 散弾は適度な距離で撃てば、たとえ大雑把に狙っても死のリングに敵を捉えてさえいれば命中する。そして、敵と敵の間に平行に挟まれる形になるので相手は誤射の危険性からか反応が鈍い。

そのまま運転手を無力化した後、オープンカーは操縦不能になり側壁にぶつかったり、そのままブレーキがかかり、急停止する。

後を追いかけるべくバイクの過給器(スーパチャージャー)を起動。グンと来る重力に耐えながら、SUVを追いかける。

 

 SUVとそれを護衛するリトルバードが見えてきた。

 過給器を停止させ、ショットガンのストック左側面やタクティカルベストにに取り付けてあるホルダーからショットシェルを取り出し、チューブマガジンに入れてから、フォアハンドをスライド。薬室(チャンバー)にそのショットシェルを、装填する。

 こちらに気づいたリトルバードが旋回し、こちらにチェーンガンを向けてくる。対するこちらも両手でショットガンを構え、スコープを覗き狙いを定める。リトルバードが掃射を開始するよりも早く、ショットガンが火を噴く。

 

 ショットガンから放たれた安定翼付サボスラッグ弾というふざけた代物は遠く離れたパイロットを殺傷するには十分な射程と貫通力を有し、リトルバードは操縦不能に陥る。

 そのまま高度を下げ、地面に接触、大破する。残骸を避けて今度はもう一機のリトルバードに照準を合わせ、撃つ。

 複数のスラッグ弾は外れたり、胴体部をかすめたりするが、一発がローターに命中。リトルバードが一気に墜ち、大破する。

 

 ちょうどその時であった。二機のレーゲンタイプがこちらを追い越し、片方のISがSUVを止め、もう片方はドアを破る。

 そのまま、二機のISは流れるように犯人を出力を低くした電撃手刀で気絶させ、それぞれ篠ノ之ちゃんと織斑君を抱えて飛び去っていく。

 

 二人とも無事らしいが篠ノ之ちゃんは意識があるが、織斑君は眠っているようだ。篠ノ之ちゃんはISに抱えられながらもこちらを見てビックリしている。

 こうして第二回モンド・グロッソでのテロ事件は水際でなんとか阻止できたのであった。

 

   ■   ■   ■

 

 第二回モンド・グロッソ。その結果はゲストの決勝戦棄権により、織斑さんの優勝となった。

 棄権により、ゲストはヴァルキリーの受賞する権利も剥奪され、順位も自動的に最下位となる。

 なぜ、ゲストが決勝を棄権したのか? 真相は未だ明らかにされていない。

 

 ……というのが結局の所。一般の民衆が知る。第二回モンド・グロッソの真相である。

 織斑さんはトーナメント優勝により再度ブリュンヒルデの称号を与えられ、ヴァルキリーの称号としては同じく格闘部門と、新たに新設された機動部門と共に授与された。

 機動部門授与の決定的な要素としては、ISにとっては狭いアリーナ内を瞬時加速(イグニッションブースト)で縦横無尽に飛び回った事と連続的な瞬時加速を使用し、実戦で他の出場者の度肝を抜いた事が要因である。

 

 篠ノ之ちゃんと織斑君は無事に日本政府に送り届けられ、後になって自体を知らされた織斑さんは大変驚き、一時混乱したが。無事に織斑君と顔を合わせることによりなんとか平静を取り戻した。

 そして、ドイツからISの新設部隊設立に伴うIS教習の依頼に織斑さんは2つ返事で了承せざるを得なく。日本政府もこれに反対できず、泣く泣く一年間の出向を織斑さんに許可した。

 

 織斑君は自分に負い目を感じたのか日本に残るらしい。織斑さんから聞いたが、その後その事件を忘れようと必死に剣道や勉強に打ち込んでいるんだとか……

 何らかのフォローが必要なのかもしれない。

 

 次に篠ノ之ちゃんの番。

 篠ノ之ちゃんも案の定、精神が少し不安定なものなっていた。特に不甲斐ない自身に対して、憤りを感じるようでISの操縦も荒々しく、少し暴力的な感じになっている。

 

 救出後、自分や通信機越しだが、篠ノ之さんと顔を合わせてからの第一声が「ごめんなさい……私のせいで、岡部さんにあんな危ない事をさせてしまって……」や「姉さん、ごめん……私が行きたいってワガママ言ったばかりに……」である。

 謝るのはむしろ自分達の方なのに……こんな事態にまでなってしまった自身を憎く感じる。

 何気に変装した自分が見破られていたが、今は余り聞く気にはなれなかった。

 

 射撃しか能のない自分が恨めしい……そして、篠ノ之ちゃんよりも射撃を取ってしまった自分の本心に嫌気が差してしまう。

 

 結局、あのテロリストの目的も理解できず、黒幕も推測止まりといった現状。

 モンド・グロッソが閉幕し、いつものように過ごすが、何かが欠けたような気がした。

 インターホンが鳴る。今は自分一人なので玄関に向かいドアを開けると……

 

「貴方が、岡部友章さん?」

「そうですが、貴女は?」

「申し遅れました、私は第十七代更識家頭首……」

「更識(さらしき) 楯無(たてなし)と申します」

 

 そう言って彼女は頭を下げたのであった……

 

   ■   ■   ■

 

 目の前にいる少女はあの更識の頭首らしい。なら、言うことは一つ。

 

「ええと、いつもお世話になっております?」

「……うーん、まあ、そうよね?」

 

 もうちょっと警戒すると思ったんだけど……となんだか肩透かしを食らったような様子。

 いやまあ、早かれ遅かれ来るとは思ってたし、プロ相手に舌戦で勝てるわけないのでここは普通に接する方針なんです。

 このまま立ちっぱなしのあれなので、家にあげる事にした。

リビングに向かい、椅子を引いて楯無嬢を座らせ、テーブル越しに向かい合う。

 

「で、今日は何の要件で?」

「まずは、第二回モンド・グロッソの誘拐未遂での謝罪を」

 

 といってから、形式的でありがちな謝罪文句を続けた。

 

「と言う訳で、今回の件は誠に申し訳ありませんでした」

 

 そう言って、謝罪を締めくくった。

 

「いえいえ、とんでもない。更識の皆さんのお陰様で今回の誘拐も未遂に終わりましたし、責めるつもりはありませんよ」

 

 身振り手振りも加えて、ややオーバーなリアクションを含める。

 

「そう言って頂くと、こちらも素直に嬉しいわ」

 

 向こうも微笑みながら返す。

 

「それと、今日はもう一つ要件がありまして……」

「そのもう一つとは?」

 

 楯無嬢はニヤリと笑みを浮かべつつ

 

「私、唯一の男性操縦者でフリーランスのスナイパーの貴方とお話がしたかったの」

 

 と、核心を付いてきた。

 

「ど、どうしてそれをー」

 

 リアクションをとってみたが、彼女は扇子を開きそれを見せた。

 

『40点 迫力不足』

「ま、待ってくれ! 俺は知らないんだ!本当に何も知らないんだ! た、頼む! どうか見逃してくれ!!」

『60点 迫力満点だが場違い』

「悪いが、君にはここで死んでもらう……」

『50点 最初に持ってきて欲しかった』

 

 どうもお互いこういう茶々を入れるのが好きみたいなのはわかった。

 

「で、どんなお話をご所望かい?」

 

 あんまり女の子受けが良い話は持ち合わせてないけど、と付け足す。

 

「そうね……ドイツのお話でもしましょうか。特に、少しきな臭いお話を」

 

 先に私から話すわね、と言って話を始めた。

 ドイツのIS部隊新設の話で、新設部隊の隊員は医療やバイオテクノロジーの発展の理由でナノマシンを注入するらしい。

 特に、眼球からナノマシンを注入し視神経や脳のスペック向上、更にはISの適正値の向上を図るのが、ナノマシン注入の最大の目的だそうで、これを『ヴォーダン・オージェ』(Wodan Auge?)と言う。

 しかし神の目ってすげーな、自分もやりたい。

 

 しかし、これは表の理由に過ぎず、本当の理由としては絶対に命令に背かないスーパーソルジャーの作成の一環であるという疑惑が浮上した。

 もし、命令違反を犯せばナノマシンが体内で暴れ回り、矯正させる……という代物。

 現在のナノマシン技術は複合的な働きやプログラムを持つナノマシンは未だに作成されていない。なので、俗に言う懲罰目的のナノマシンがドイツで実験されるのでは無いかというのが示唆されている。

 今までは人を強化するよりも既存の兵器の強化に金を注いだほうが良かったのでナノマシン技術は医療用止まりだったが、ISの登場後、再びそのナノマシン技術に食指が動き、研究が加速したのが要因である。

 

 更に、ナノマシン技術の応用として他の操縦者の動きをトレースして再現させようと目論んでいるらしい。状況によって、その手のプロフェッショナルの動きが出来たら大変強力だからだ。

 だから、IS部隊新設に伴う教導に第二回モンド・グロッソのブリュンヒルデ兼ヴァルキリーでもある織斑さんを指名したらしい。

 

 つまりはモンド・グロッソでの一連の騒動はドイツの自作自演の線が濃い、というわけだ。

 

「で、これがドイツの新設IS部隊『シュバルツ・ハーゼ』の資料よ」

 

 と言ってテーブルの上に資料が置かれる。今時珍しい紙媒体だ。

 ISの登場後、一般人はそうおいそれとはISを直接見る機会は無いが、IS系統の技術の一つである投影型ディスプレイの登場、急速な普及によって電子媒体の需要が急増し今や紙媒体は落日の一途をたどっている。

 

 因みに一般人におけるISの認識としてはメディア越しに見れるスター的なものである。

 ISは軍事としての側面が強くなりすぎてしまうと今後、様々方面で厄介な事になるのは周知の事実。

 そこで、世界中の国々はIS部隊を平時では大規模な火災や遭難事故、海難事故での救出などに投入したり、一部では警察機関用にISのフレームが開発され、凶悪犯罪などにも投入されている。

 そのおかげもあってか、実際に映画のアクションスターばりの活躍を見せるISなどを見て一般市民の反応は上々、各国の苦心の末、ここ10年にも満たない内にそれなりの支持を得ることが出来た。

 

「で、これが指揮系統。面倒だから略称黒兎隊はドイツの既存の軍事組織とは独立しているの」

 

 楯無嬢は資料を開いて、解説してくれている。

 部隊の隊員の構成、ISの数、後方部隊等々。

 

「で、これが黒兎隊の上層部とも言えるメンバーよ」

 

 資料をめくり、解説をいれる。

 その中には以前に侵入した、製薬研究ビルの所長や一部の幹部、その親会社関連の人物の名前が入っていた。

 

「この医療・バイオテクノロジー系製薬研究ビルとこいつの繋がりは以前にもあったわ」

 

 と言って、実質的に黒兎隊を率いるドイツの中将を指す。

 

「ISが登場する以前に、クローンや遺伝子強化、ナノマシン投与によるスーパーソルジャーを用いての特殊部隊を創り、ドイツでクーデターで起こした組織の黒幕っていう噂よ」

「まあ、そのクーデターは皮肉にも天然物のSAS上がりのフリーランスにやられたらしいけど」

「逆に製薬研究ビルの方はあんまり情報は掴めなかったわ」

 

 力及ばずだったわ、と言いながらため息をつく。

 

「ただ、この製薬研究ビルにはそれらを行う技術はある……って言うのは出資者の中に遺伝子技術関連の人がいることで確定だけど……」

「へえ、こりゃすごいや」

 

 思わず賛美を送る。製薬研究ビルの件についてはこっちで把握しているので、懲罰目的のナノマシンの情報はほぼ確定で間違いない。

 トレース目的のナノマシンは今現在実例が無いため禁止されてはいないが、いづれ発覚すれば少なくとも競技用としてその機能を使うことは禁止されるだろう。

 

「更識ですから」

『年季が違うのだよ年季が』

 

 はにかみながら扇子を広げて照れてる楯無嬢。無駄に芸が細かい……

 

「で、英国の諜報機関並の活躍を見せる更識楯無嬢がちょっとISが使えるだけの射撃バカに何を求めるのかな? 護衛? 陽動? それか焚き付け?」

「や、やけに素直ね……」

『愚直』

 

 流石にド直球過ぎたのか扇子で口元を隠しながら苦笑いを浮かべつつ、半ば呆れ気味の様子。

 

「誠実がモットーですから」

「そうね……なら、これはお誘い、かしら」

「お誘い?」

「ええ、ドイツへの借りを返すためのお誘い」

 

 そう言うと雰囲気が変わる。暗部の人みたいな雰囲気をしっかりと醸し出している。

 具体的に言うと、空気が凍るような感覚とか本能的に逃げ出したい気持ちにさせるような感覚に駆られる感じ。

 

「やられたら、その分キッチリ報復を……常識でしょ?」

 

 それだけ言うと、元の雰囲気に変わる。

 若いのに凄みが出てること……プロですな。

 

「ごめんなさい。少し、ペンを貸してくれませんか?」

 

 無言でペンを渡すと、資料の余白に何かを書き込んでいく。

 

「はい、私のISへの連絡先」

 

 そう言って、資料を渡す。

 

「他にも色々と書いてあるから、じっくり考えて決めるといいわ。そしてその気があったら。連絡して頂戴」

 

 一人が寂しい時でも歓迎するわよ、と笑いながら言ったのだった……

 

   ■   ■   ■

 

 更識楯無嬢が去ったのを確認しながら、バレないようにISを通じて篠ノ之さんに報告を入れることにする。

 

「更識にバレちゃったの!?」

 

 せっかく頑張って、情報遮断したのに〜と付け加える篠ノ之さん。思ったよりもそんなにショッキングではなさそう。

 

「流石に全世界が把握なんて事はないだろうけど……」

「まあ、知ってるのは国内ぐらいだと思いますよ」

 

 細かい情報や紙媒体での情報は流石に抹消は出来ないから、更識はそれを頼りにここまで来たんだろう。結局、早かれ遅かれこうなる。

 

「それで? 何か脅迫された?」

 

 薄い本みたいにアッキーの貞操が汚されるぅー、と言いながら聞いてくる。

 

「IS越しに聞いてたでしょ。更識の提案に乗るの? 乗らないの?」

 

 ピシャリと言い放つと「あれ? やっぱりわかっちゃった?」、と返ってきた。

 

「そうだねー……遺伝子強化なんて要らないし、ヴォーダン・オージェなんてのもISには少ししか恩恵が無いし……でも、例のナノマシンの件については流石に抹消……はできないけどワクチン位は作っておきたいねー」

 

 ちーちゃんやアッキー、箒ちゃんやいっくんががそのナノマシンを打ち込まれて苦しむのは我慢出来ないよと付け加える。

 

「じゃあ、利害の一致って事で良いかな」

「問題ないよ!」

 

 私やちーちゃんの分までドーンとやっちゃってね! ね!、と興奮している様子。

 

「じゃあ、話したい事も無くなりましたし、切りますね」

「ちょ、ちょっと待ってアッキー! 束さんは話したいことがいっぱいあるよ! あるよ!」

 

 ISの通信を切ろうとするが篠ノ之さんに止められる。

 

「アッキーがバレた事で、束さん良いことを思いついたんだよ! だよ!」

「で、何を思いついたんです?」

「アッキーがバレちゃった事だし、いっくんもISが起動できる男性操縦者になって貰うのですよ」

 

 どうどう? と聞いてくる。

 

「いや、男がISを動かせるようにするためには束さんが超頑張らないと作れないんじゃ……」

「いっくんが中3の間に束さん超頑張って作る。んでもって、アッキーといっくんのセットで世界中に盛大にバラす」

 

 この人言い切りやがった。

 

「いや、どうやって世間に説明するんです? それと織斑さんとかには?」

「束さんの理論で言いくるめる。実際に男性に反応するISコアなんて物はアッキーといっくんだけなんだから。ちーちゃんについては束さんが直接お話するの」

 

 この人開き直りやがった。

 

「モンド・グロッソでいっくんが狙われてしまったんだ。少し強引だけど、この方法でIS学園にいっくんを入れたら、マトモな組織以外はそうおいそれとは簡単に手出しは出来ないよ」

 

 IS学園では名目上、どの国家からの干渉は受けないので確かに理屈としては通じる。

 

「そして、在学中に自衛出来るだけの力をつけるわけか」

「正解♪ さっすがアッキー」

 

 色々と反対意見を考えたが、ぐうの音も出ない程に正論だった。

 自身の頭が残念な可能性も示唆出来るが、これ以上の案を浮かべる事出来ない。

 

「じゃあ、自分はIS学園で教官役かな?」

「そうしてくれるととっても嬉しんだよ! だよ!」

 

 どうやら、彼女の意図を上手いこと汲む事ができたようで、ウサ耳が機嫌良くピコピコと跳ねている。

 もう少し自分の前世の記憶探しもしたかったのだが、事態が事態なのでもうこの辺で打ち切るとしよう。

 

「これから大変になるな」

「でもでも、束さん。今とっても楽しいんだよ!」

「そうかい。束さんも落ち着いたら、いつか織斑さんとかと一緒にIS学園で教員として働きたいね」

 

 そう言うと篠ノ之さんは雷にでも打たれたような表情をし、やがて目を爛々と輝かせた。

 

「……アッキーやちーちゃんと一緒に働けるように今から頑張ってくるね! ね!」

 

 と言って、通信が途切れた。

 篠ノ之さんはいつもどおり、毎日楽しそうだね。良かった良かった。

 篠ノ之さんから許可を貰ったので、早速楯無嬢に通信をつなげることにする。

 通信が繋がり、ディスプレイ越しにお互いの顔が見える。

 

「やあ、更識さん」

「あら、どうしたの? 今晩の予定は空いてるわよ」

「そういうのは順序を踏まえましょうよ」

「もしかして、デートのお誘い?」

「うん。一緒にドイツでもどうですか?」

「私のお願いを受けてくれるの? 嬉しいわ♪」

「それに、貴女が自分に話したい事があったように、自分も貴方に話したい事が色々とあるんです」

「へえ、私を口説くんだ」

「女子大学生以上のオネーさん以外はこちらからお断りします。主に篠ノ之ちゃんのお友達の簪ちゃんについて色々と……ね」

「……え!? なんで妹の事を!?」

 

 それ初耳よー!? と軽くパニクる楯無嬢を知り目に「それでは、予定はまた後ほど。」と言って通信を切ったのであった。

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