No matter what fate   作:文系グダグダ

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05:空白の一年間

「岡部さん、話があります」

 

 それは突然だった。

 楯無嬢の訪問から数日が経ち、丁度晩御飯を食べ終えて食器洗いをしていた時の事だ。篠ノ之ちゃんから、話を持ちかけられた。

 

「あー、わかった。でも食器洗いが終わってからでいいかい?」

 

「はい、大丈夫です」

 

 残りの食器を洗いながら考える。

 まだ、モンド・グロッソでの件を引きずってるようなのは明白だ。で、最近ISの操縦が荒くなったのは自分の不甲斐なさに憤りを感じている。

 なんで不甲斐ないと感じたのかと言うと、決勝戦を棄権してまでしかも生身の状態で自分が助けに行ったからだと思う。

 多分、自分とはあんまり顔を合わせたくないのかな? モンド・グロッソ以来、あまり会話もしないし、意図的に避けられてる気もするし。最近、自衛用として政府から打鉄を渡されたらしいし。

 何気に一部、第二回モンド・グロッソで使用した織斑さんの第2世代型IS暮桜弐式に伴い、取り外された旧式の1.5世代型IS暮桜・改のパーツを打鉄仕様に偽装して流用してることからそれなりには篠ノ之ちゃんは重要視されているのだろう。多分……体の良い厄介払いでは無いハズ。

 ちなみに、その打鉄の名前は通称、特装型打鉄。正式な名称は特別装備型打鉄……そのまんまな代物ですな。

 

 洗い物が終わり、先にテーブルに座っていた篠ノ之ちゃんに向かい合うように自身も座る。

 篠ノ之ちゃんは真剣な面持ちでこちらを見ている。

 

「さて、自分は何をすればいいのかな?」

 

 驚いたような様子を見せるが、やがて寂しげな笑顔を見せる。

 

「やっぱり……わかりますよね……?」

「さあ? もしかしたら違うかもしれないね」

「いじわるですよね、岡部さんは」

「大人だからね」

「……わかりました。ハッキリ言います」

 

 再び真剣な面持ちに戻る。

 

「私が中学三年生の間、岡部さんとは会いたくありません」

「……そうか、いいと思うよ。その間に自分で今後についてじっくり考えておくんだ」

 

 もう進路自体はIS学園行きで確定だろうし、と付け加えると、篠ノ之ちゃんは少し拗ねた様子。

 

「やっぱり予想してたんですね……」

「うん」

「ズルイですよね、ホント」

「うん。それで、お返しといっては難だけど自分も篠ノ之ちゃんに報告したいことがあるんだ」

「はい」

「篠ノ之ちゃんがIS学園に入学した時と同時に自分はIS教習の教官として勤務するよ」

「……え?」

 

 キョトンとした表情を浮かべる。

 やがて、意味を理解したのか、肩がプルプルし始める。

 

「ほ、ホントですか!?」

「ああ、篠ノ之ちゃん。IS学園に在学している7年間……いや、少なくとも3年間の間に自分の持てる限りの全てを君に教えようと思う」

 

 あまりの衝撃に口を開閉させて、動揺する。

 

「モンド・グロッソの件やその後の篠ノ之ちゃんを見て、自分と篠ノ之さんの二人で決めた」

「ね、姉さんもですか?」

「ああ、これで少なくとも自衛は出来るだろう」

 

 願わくば、それなりの権力も得てほしいところではあるが、それはまた別の問題。

 

「で! でも!? 私、最近自分の制御が効かなくて……」

 

 慌てた様子で色々と言う。

 

「もし……篠ノ之ちゃんが自分の教えたモノで自身の想定する最悪な事態が引き起こされたとするなら……」

 

 静かに、しかし力強い口調で言い、篠ノ之ちゃんを睨みつける程に見つめる。篠ノ之ちゃんはすぐに真剣な面持ちになる。

 

「なら……?」

「君を殺して自分も死ぬ」

「えっ……」

「流石にそれは言い過ぎだけど、それぐらいの勢いで篠ノ之ちゃんを止めはする。それが自分の責任であります」と言い表情を元に戻す。

 

「凄く……今のはズルイです……」

「大人ですから」

 

   ■   ■   ■

 

「君を殺して自分も死ぬ……」

 

 楯無嬢は思い出したかのように呟く。ナノマシンが保管されているという基地に向かう途中の事である。後日、この基地からナノマシンが運ばれ、黒兎隊に使用されるらしい。

 

「数日前のアレ、聞いてたのか……」

「ええ、バッチリ」

「ロシアの代表候補はそんなに暇なのか?」

「結構、暇だわ……」

 

 色々と突っ込みたい気分になるが大人しくしておく。

 レーゲン型に巧みに偽装され、変装した楯無嬢のIS、霧纒の淑女(ミステリアス・レイディ)と光学迷彩に包まれた自機は突き進む。そして、基地内に侵入に成功し哨戒の目が届かない所で息を潜める。。

 

「あれ? こういう基地って警備が尋常じゃない位堅いんじゃ……?」

「ガチガチに固めたら逆に怪しまれるでしょ? 普通」

 

 ふと漏れた自分の疑問に答えてくれる。

 

「いくらなんでもザルすぎるだろ……?」

「更識楯無の名は伊達じゃないのよ」

 

 情報収集を欠かさず、綿密に計算されたルートですか……

 

「じゃあ、自分は指示が出るまでここで待機かい?」

「ええ、私がセキュリティルームを制圧するから、それを見計らって突入して頂戴」

 

 と、言って楯無嬢と別れて少しの間、待機していると突入の趣旨を告げる通信が入る。

 哨戒などに気をつけながら音を立てずにPICを用いて侵入する。ナノマシンなどの重要物資はそれなりの設備の下で保管されているのが筋なので、セキュリティルームにいる楯無嬢からマップデータを貰い、彼女の指示の下、突き進む。

 軍事基地だといっても夜中になると基地外の哨戒はともかく基地内は監視カメラやセンサーに依存しているのでサクサクすすめる。で、セキュリティルームからでは把握出来ない区画があるのでそこに通じるドアをISにスキャンさせ、ドア越しに人がいないことを確認しつつ、侵入。別口のセキュリティルームがあったので制圧し、その区画内のセキュリティを停止させ、捜索する。

 尚、今回は報復ではあるが、例の黒幕と言われているの中将に向けての報復なので、遺恨の無いようにテーザー銃かレスリーサルショットガン(ベルギー製)での無力化を最優先としている。

 

「見つけた」

「なら、資料と一緒にお願い出来る?」

「勿論」

 

 保存装置からナノマシンを取り出し、携帯用の保存容器に入れて拡張領域に格納する。資料も手当たり次第回収し、格納。そしてそのまま基地から離脱する。

 基地上空に行くと、ミステリアス・レイディが待機していたので合流し、完全に基地から離脱する事に。

 

「すまないね。待たせて」

「別に問題無いわ」

「脱出のルートは?」

「すぐ北に海があるわ、ミステリアス・レイディは特性上、海中内でのステルス性能と巡航性能は、一般のISと比べて飛躍的に高いの」

「へえ、なら追手が来てるから今すぐにでも海中に飛び込まないとな」

 

 そう言って、大型のアサルトライフル状にまでに小型化した40ミリ機関砲を撃ち、レールガンの弾頭を迎撃する。

 

「レーゲンタイプの最新型かね?」

「あるいは完全な軍用機かもしれないわね……」

 

 双方共にレールガンがきた方向をみれば、あまり見慣れないレーゲンタイプが三機、こちらに迫ってくる。

 仕方がないのでスラスターを噴かして、潮の匂いが立ち込める海上まで逃げ込む事にする。

 

「それにしても……」

「何だい?」

「レールガンの迎撃だなんて、前代未聞よ? まるで人間パトリオットみたい」

「……企業秘密さ」

 

 そう言いながら、海中にダイブする。

 そのまま、楯無嬢にこちらに来るように言われたので近づく。

 

 抱きつかれた。女性特有のあの何とも言えない匂いをマトモに吸ってしまい、思わず脳裏に織斑さんのアレがフラッシュバックして硬直してしまう。

 

「……」

「さあ、しっかり掴まってて。ステルスで誤魔化せる範囲はそんなに広くないから」

 

 楯無嬢のその言葉で我に返る。言葉の通りに従い、ミステリアス・レイディの装甲部分を持ち、暗い海の底の中、引っ張られることに。さっきの硬直を彼女は察したらしく、その様子に自身の加虐心が刺激されたのか楯無嬢は胸を当ててくる。

 

「更識さん、胸当たってる」

「あててるのよ」

「ならしょうがない」

 

 あるぇー? と言いながら、面白みがなくなったのか胸を当てるのをやめ、そのまま海中を突き進む事に集中する。その後、無事にドイツ領海を抜け、帰還した。

 

   ■   ■   ■

 

 目が覚める。

 目の前には男性用エプロンを着た篠ノ之ちゃん程の歳の少年がいる。今から自分を起こそうとしてくれたのだろう。

 

「おはよう。友兄」

「織斑君か、おはよう」

 

 朝飯作ったから、早く降りて食べようぜと促されるので、渋々起きることに。織斑君と向かい合わせに座り、朝食を頂くことに。

 

 ご飯に味噌汁、魚の焼き物と納豆は定番として、野菜の白和と玉子焼、芋の煮物とひじき煮にきんぴらごぼうが追加され、さらには茶碗蒸しまである。

 

 織斑君……完全にあんた主夫や……

 

 そう思いながら、朝食を食べていく。普通に美味しいから量が多くても食べれるから困る。

 

 篠ノ之ちゃんからの岡部追放令の発令後、織斑さんの御好意で丁度彼女が一年間ドイツへと出向する間、自分が織斑宅に居候することとなった。

 高校時代以来、あんまり会うことが少なかった織斑君だが、自分の事は覚えているようで昔からの愛称である友兄と呼んでくれている。

 

「しっかしさ」

 

 魚の焼き物をつつきながら織斑君は会話を切り出す。

 

「千冬姉がドイツに出向したと思った矢先に友兄が転がり込むだなんて思っても見なかったよ」

「自分もまさか織斑君とこに居候することになるだなんて、予想だにしなかった」

 

 昔から姉の背中を付いてきてまわってたらしい彼は、今ドイツで活躍してる姉のことが心配らしい。だって、心なしかポケーっとした雰囲気を醸し出しているのが目に見える程である。

 

「そうだ、篠ノ之ちゃんからの手紙ちゃんと読んだか?」

「読んだよ。まだ中学三年が始まったばかりなのに、もう志望校に向かって頑張ってるってさ」

 

 スゲーよな、箒は。と言いつつ、こちらにジェスチャーで醤油を要求していることを伝えている。仕方がないので、醤油を取り、織斑君に渡す。

 

「サンキュー。俺は将来、どうしようかな……」

「志望校、決まってないのか?」

「いんや、藍越学園志望。地元の就職率がいいし、何より成績トップで入学出来れば、入学料と授業料の免除あるんだ」

 

 これ以上、千冬姉の負担にはなりたくないしな、といった。つくづく姉ヴァカである。

 どれ位のヴァカだというと織斑君、織斑さんからの仕送りにはほとんど手を付けていない。この一年の間のみ、剣道をやめて、彼の中学の同級生達の店でバイトして、そのお金で生活する気だったらしい。

 勿論、自分が却下。彼との二時間半にも及ぶ壮絶な話し合いの末、バイトは最低限にし、剣道は継続、足りない生活費は自分の居候分の家賃で切り盛りすることとなった。その家賃の設定も、どの金額かというのは二人での話し合いなのだが、なんとか織斑君を言いくるめて出来るだけ高額に設定する事に成功した。

 

「友兄は大学院を卒業したらどうすんだ?」

「教職員もいいかなって思ってるね」

「どんな教職員?」

「うーん、実習とかの技術系かね?」

「友兄もしっかりしてんなー」

 

 そんな会話をしながら、今度は織斑君にジェスチャーでカラシを要求する。織斑君はそっと、カラシを渡す。まだ、彼にはISを動かせる事実とIS学園に勤務する事実は伝えていない。篠ノ之さんの織斑君専用ISの製作が終わり次第、だそうだ。

 

「しかし……正直言って下手したら織斑さん込みで居候生活になりかけたんだよな……」

 

 あ、織斑君むせた。

 咄嗟に自分の水を渡す。織斑君はそれをひったくるようにとって、一気に飲む。

 

「……そうだな」

「いや〜、高校の時に初めて織斑君の家に遊びに来た時はまさか部屋の片付けをするとは思わなかったよ」

「未だに千冬姉は後片付けが……な」

 

 これじゃいつまで経っても千冬姉お嫁に行けない! といいながら頭を抱える織斑君。

 

「やっぱり……今でも?」

「ああ、千冬姉がドイツに出向する前はそうだった」

「やっぱ中々直らないか」

「たまに部屋の掃除するけど、千冬姉……目が飛び出る程凄い下着がね……落ちてるんだよ……」

 

 上下黒でしかもそれ専用のガーターベルトとストッキングもあるんだぜ……と戦慄しながら言った。自分の姉の勝負下着を言ってもいいのか? そっと黙っておいてあげよう……

 

「そうかい」

「ホント、千冬姉……ドイツでやっていけるのかな? 心配になってきた……」

「……ところで、時間はいいのか?」

「……げッ!?」

 

 時を忘れて雑談していたので、テレビの時間を見るともうとっくに8時を超えていた。

 

「車で送ってやるから、早く支度してこい」

「……サンキュー! 友兄!」

 

 慌ただしく自室にかけていく織斑君。こうして、姉が不在になったと思ったら何故か居候が転がり込んできた織斑一家の朝が過ぎていくのであった。

 

   ■   ■   ■

 

「アッキー! 対ナノマシン用のワクチンを作ったよ! たよ!」

 

 織斑宅のリビングにてインターネットサーフィンしながらくつろいでいた所、突然ディスプレイが出現したと思いきや、篠ノ之さんが話しかけてきた。

 以前、ドイツから盗み出したナノマシンについての解析とかが終わり、ついにワクチンをつくりだせたようだ。

 

 因みに更識は違法ナノマシンをネタにドイツ政府を恫喝する。正確には、ナノマシンの件を直接恫喝するのではなく、ナノマシンの件を使って違う情報を入手して、それをネタにドイツをゆすっている。

 彼女が自分の教えてくれた結果としては、黒兎隊の最高責任者の首をすげ替えさせ、刑務所にでもぶち込んだらしい。

それ以外にも色々やったが、あとの残りは秘密だとか……

 

「そうか、それはよかった。ついでに聞くけど、ISの方は?」

「ん〜、現在開発中〜」

 

 ウサミミをピコピコと動かしながら答えてくれる。

 

「あ、あとアッキーのISについて分かった事があったよ!」

「へえ、そりゃ気になるなー」

 

 そうでしょ? でしょ? と本人は楽しそうにしている。

 

「Vシステムと零式白夜についてなんだけどねー。あれ実はまだワンオフアビリティじゃ無かったんだよ!」

「ごめん、篠ノ之さん。何言ってるかさっぱりわからない」

 

 今まで、あれがワンオフアビリティなのかと思っていただけに少しビックリする。

 困惑の表情を浮かべる自分をみて、篠ノ之さんはわかりやすく説明しようと考える素振りをしている。

 

「うーんとねー、正確にはVシステムは複合式カービンライフルに、零式白夜は雪片の特殊能力になっちゃってるの」

「じゃあ、カービンライフルや雪片には元々そういう能力があったんじゃ?」

「ううん、違うよ。元のスペックではカービンライフルや雪片にはバリアー無効化ないし軽減する機能はついていないよ」

「じゃあ、なんでそんな機能がついたの?」

 

 その言葉に「待ってたよー、その言葉ッ!」と上機嫌に答える。

 

「まずはISの簡単な解析から説明するね」

 

 そう言って、何か新しく表のような物を表示させる。表の中には無数のセルで区切られ、ちょくちょく断片的に色が着色されている。

 

「これは?」

「これはねー、ISコア内のフラグメントマップ」

 

 さらっと各国のどの技術者でも解析することができない部分を言ってのける。

 

「因みにこのフラグメントマップはアッキーのだよ。これをVシステムの発現前と発現後のマップを比較するとねー……」

 

 そう言って、2つのフラグメントマップを表示させ、半透明化し、重ね合わせる。

すると、なんと差異が生じているではないか!

 

「このように、Vシステムが発現したら、フラグメントマップの一部が着色されたんだよ!」

 

 ちーちゃんの暮桜も同じ結果になったんだよ! だよ! と説明する。

 

「IS自身が最適化やその形態を移行させる事が判明してるけど、それは武器にも適用されるって事が判明したんだ」

「凄い発見じゃないか! でもやっぱりその恩恵を受けれるのはISマテリアルを使ってるからなのかな?」

 

 カービンライフルと雪片、この2つの共通点は材質がISコアと同様、同じ未知の素材であるISマテリアルだと言うことだ。

 この質問に、篠ノ之さんは更に興奮する。ウサミミも興奮度に合わせてピコピコ跳ねる。

 

「うん。正解! その素材のお陰で、カービンライフルも雪片も凄い恩恵が受けれるんだよ! だよ!」

 

 アッキーのカービンライフルの場合はバリアの他に射撃に専念できるように他の機能が付加されてるけどね! と付け加える。

 

「まさに専用武器みたいな位置に収まった訳だ。」

「そーゆうこと!」

 

 フラグメントマップを閉じて、満足気に頷く篠ノ之さん。話の切りが良いので、篠ノ之さんなら知ってるだろうと思うこと、篠ノ之ちゃん絡みについてを聞いてみようと思う。

 

「そう言えば、篠ノ之ちゃんは元気でやってます?」

「うん。アッキーが出ていった時と同時に束さんへのラブコールも少なくはなってるけど、おおむね元気でやってるよ」

 

 流石に無理に様子を見るのは、箒ちゃんの機嫌も悪くなるから自粛してるけど、と付け加える。

 

「そう言えば、篠ノ之ちゃんのISだけ旧・暮桜のパーツで強化した打鉄ですけど……本当に大丈夫なんですか?」

 

 その言葉に反応したのか、ウサミミがピンと跳ね上がる。

 

「実はいっくんのISと並行して開発中なのだ〜」

 

 よくぞ聞いてくれたッ!! と言わんばかりに胸を張る篠ノ之さん。何かちょっと変な勘が脳裏をよぎる……

 

「篠ノ之ちゃんのISもまさか……」

「束さん超頑張って第四世代を製作中。」

 

 さらっとブレイクスルーを口にしやがった。

 

「因みにコンセプトは……」

「今まで一旦整備の人達と専用の設備によって取り付けられる装甲や増設スラスター、大型の取付装備を自分一人で即座に、そして自由に脱着できる機体。因みに近接格闘重視ではあるけど中・遠距離もこなせる万能機の方針」

「あれ? 若干自分のISと似てるんじゃ……特に装甲の脱着とか」

「アッキーのは装甲のみ即座に換装できるだけだよ。武装もあくまでも携行火器に限るしね……でも、ある意味アッキーのISの更なる発展版だとは解釈はできるね」

「うわぁ」

 

 コイツ一人だけでいいよねを地で行く機体だな。

 

「でも、流石に完成にはまだまだ時間がかかりそうだけどねー」

 

 ふぁー……と言いながらアクビをする。

 その後、色々と他愛もない会話を長い事続け、通信が切れた頃には少しだけ喉が痛くなったのはちょっとした秘密だ。

 

   ■   ■   ■

 

 篠ノ之さんとの会話を終え、ノートパソコンでパワーポイントとその資料作りに励んでいた所、ガチャリと玄関の扉が開く音が聞こえた。

 

「友兄ー、ただいまー」

 

 織斑君の声が聞こえてリビングに向かって来るが、どうも足音が複数聞こえる。

 

「おかえりー……おろ? お友達?」

 

 作業を一時中断し振り向くと織斑君ともう一人、なんだか特徴な髪色な子がいた。

 

「ええと、いらっしゃい? 居候が言うのも難だけど……」

「……あ、どうも。五反田 弾ッス」

「岡部 友章です。自分が先に言うべきなのに、ごめんね」

「じゃあ友兄、ちょっと部屋がうるさくなるけど、勘弁な」

「いいよ。あとでお菓子と飲み物、そっちに持って行くぞ」

「サンキュー」

 

 そう言って織斑君は五反田君を連れて、自室に向かっていった。

五反田君はまだ学生用の鞄を持っていたので、多分勉強か何かだろう。

 勉強がダレてきた頃を見計らって、差し入れか何か持って行ったほうがいいな。

 そう思いながら作業を再開させ、程良い時間が経った後、少し騒がしくなってきたので、冷蔵庫と棚を物色し始める。お盆にジンジャーエールとポテトチップス、お手ふきや氷で満たしたコップを乗せ、いざ織斑君の自室へ。

 

 織斑君の自室に向かうに連れて段々とゲームのサウンドエフェクトらしき音が聞こえてくる。ドアを開けると目の前にはベッドに寝転がる織斑君と、ノートや教科書、筆記用具が散乱したテーブルの隣であぐらをかく五反田がいる。

 二人共コントローラを握ってゲームをしていた。

 

 画面上には暮桜弐式とアメリカのISが戦闘繰り広げてる。

 

 どうやら、第二回モンド・グロッソでの映像や公開されたスペックを元にゲーム化された。超ヒット作、インフィニット・ストラトス/ヴァースト・スカイというゲームのようだ。

 

 あ、暮桜が弾幕をかいくぐっての一閃でISを墜とした。

 

「よっしゃあ!」

「チクショー!」

 

 織斑君はグッとガッツポーズを取り、五反田君は悔しがる。

 

「さて、切りがいいから、とっととテーブルの上をどかしてくれると嬉しいな」

「あ、友兄。ごめん」

「ゲームに熱中してたもんで」

 

 二人はテーブルの上の邪魔な教科書・ノート類を片付けてくれたので、お盆を置く。

 

「はい、差し入れ。ゲームも程々にな」

「サンキュー、友兄」

「ありがとうございます、岡部さん」

 

 ふと画面に映る暮桜弐式が目に入る。ううむ……ISの装甲部分といい、全体のディテールといい、ISスーツ姿の織斑さんの曲線美といい……実にリアル。

 思わず、その精巧さに凝視してしまう。

 

「あれ? 友兄もやっぱIS/VSに興味あんの?」

「まあ、ね。」

 

 織斑君にそんな事を聞かれた時、ふとあることが思い浮かんだ。

 

「そういえばさ」

「何?」

「暮桜弐式も出てるんだったらさ……『ゲスト』って出てるのかね……?」

 

 思わず、当時出場してた時の自分のエントリーネームを言ってしまう。

 

「あ、やっぱり友兄も『ゲスト』が気になる?」

「『ゲスト』機もデータ上にありますよ、コントローラッス」

 

 織斑君は興味津々にこちらを見つめていて、五反田君は自分の質問に答えてくれ、コントローラをこちらに渡してくれる。

 

「ありがと、どれどれ……」

 

 コントローラを受け取り、機体の選択場面に戻り、自分のISにカーソルを合わせると、グラフィックとスペックが表示される。

 全身を装甲で固め、顔を隠し、複合式カービンライフルと盾を構えている。時折、カービンライフルを構えたり盾でガードする仕草をしている。自分ってこんな感じに見えるものなのか……と感心する。

 

「これが公式に公開されている『ゲスト』のスペックだろ? ある意味千冬姉の真逆だよな……」

 

 織斑君が画面上に表示されているスペックや武装を見ながら。ふと、自身に思っていたのであろう事を呟く。確かに、織斑さんは高起動近接特化型、対する自分は重装甲射撃特化型という一対の関係にあるとも言える。

 

 尊敬する姉の背中を見て育った彼にとって、その姉に比肩する実力を持った人間は、彼の目にはどう映るのだろうか……

 

「じゃあ一夏、俺はこの『ゲスト』でリベンジだ!」

「何度でも千冬姉の暮桜弐式でボコボコにしてやんよ!」

 

 コントローラを五反田君に戻すと、早速彼は織斑君にリベンジマッチを申し込み、織斑君はそれに機嫌よく応じる。ずっと織斑君の部屋に居座るのも悪いので、そっと部屋から退出するのであった。

 

   ■   ■   ■

 

「友兄ぃー、起きろよー」

 

 自室のベッドで寝ていた所、織斑君に体を揺すられて起こされる。そのまま、狸寝入りを敢行するが更にカーテンを開けられて陽の光が丁度顔面に直撃する。

 

「……休みなんだからもう少し寝かせてくれ……」

「ダメだね。友兄の布団が干せないからな。それに、寝間着も洗濯出来ないし」

 

 折角の休みなんだから、キレイに掃除したいんだ。 と言いながら、屈んでこちらの顔に近づける。

 

「それに、今日は昼過ぎから俺の剣道の送り迎えだろ」

「……わーかったよ」

 

 渋々起きて服を着替え、寝間着を織斑君に渡す。

 彼は自分の寝間着を受け取った後、すぐに自分の部屋を出た。本人の手間にならないように、布団を畳んでカバーを取り外し、そのまま布団が干されるであろうベランダ近くまで運んでおく。

 丁度その時、織斑君が来たので、彼に布団カバーを渡しておいてそのままベランダの前に置いておく。

 

「友兄ー、布団は俺がやっとくから自分の部屋を掃除しといて」

「いいけど、結構時間がかかるかも。それよりも腹減った……」

「友兄が起きるの遅いからだろ……掃除が終わったら、ブランチにでもするからさ」

 

 肩を竦めながらそう言われたら、反論は出来ないので大人しく織斑君から掃除機を受け取り、自室の清掃にとりかかる事にした。

 

 自室の清掃も一通り終えたので、掃除機を戻してリビングに向かう。

 テーブル上の中央にはブルーベリーといちごを乗せたベルギーワッフルとホイップクリームをのっけたホットケーキとエッグスベネディクトが大皿に盛られていて、その周囲にはメープルシロップやバター、追加分のホイップクリームが置いてある。

 自分と一夏の場所には取り皿と半分に分割されたオムレツが小皿にのっており、切り口からはジャガイモと玉ねぎそしてチーズやペッパーが見える。さらには一品料理としてラタトゥユが加えられていた。

 

「友兄、丁度ブランチの用意ができたよ」

 

 エプロンを付けた織斑君が本当に生き生きとした笑顔を見せながらこっちに来る。そして、お互いにテーブルに座る。本当に君は主夫だなぁ、こりゃ織斑さんも堕落するわけだ。

 

「じゃあ、頂きます」

 

   ■   ■   ■

 

「ご馳走様でした。いや〜普通に美味しかった」

「そう言ってくれるとこっちも嬉しいよ友兄」

 

 食事が終わり、食器を下げてくれる織斑君。流石にこのままと言うのもアレなので残りの食器を持って、シンクに運ぶ。

 

「後片付けは自分がやるよ」

「嬉しいけどほら……友兄はお客さんみたいなもんだしさ」

「まあ、正確には居候だから……な?」

 

 ほら、剣道の道場で稽古やるんだから、用意してきな。 と言ってやや強引に織斑君を部屋に向かわせる。そして、食器類を黙々と洗っておく。

 篠ノ之ちゃんとの同居生活以来、交代制でやって来たのでそれなりに効率的に食器をキレイにしていく。

 そう言えば、織斑君は広く浅くの料理だが、追放される前は篠ノ之ちゃんは結構和食に特化してたような気がする。基本パンではなくお米派だし彼女。

 

 昔はあんまりにも不器用だったんで色々と慌ただしくて楽しかったよなー

 休みの日は必ず料理の練習して、その度に失敗してしょんぼりしたりしてたしな。で、半分意地になって練習に付き合わされたりしたっけね。

 

 そんな事を考えつつも、手はしっかりと動かしている。

 

 やがて、食器を洗い終えたので乾燥機にでも入れてスイッチを押す。せっかくなので、1リットル程の水筒を取り出し、粉状のスポーツドリンクを入れて溶かしておく。かなり濃いめ調整したスポーツドリンクを6割ほど水筒に入れ、残りのスペースには氷をしこたま入れておく。

 ちょうどその時、織斑君がこちらにやってくる。竹刀袋とボストンバッグを持っている。

 

「友兄、用意できたぞ」

「貴重品は大丈夫か?」

「大丈夫」

「制汗剤持ったか?」

「持ってる」

「この前買った酸素スプレー」

「入れた」

「ならよし。ほらよ」

 

 しっかりとスポーツドリンクの入った水筒を締めて、織斑君に渡す。

 

「お、サンキュー」

「なら、出発するか」

 

 ポケットから車のキーと家の鍵を取り出して織斑君と一緒に外出するのであった。

 

   ■   ■   ■

 

 正月を迎え、本日は元旦。

 織斑君と自分はコタツに入っていた。

 

「あー、寝正月最高」

「メッチャ同意、友兄」

 

 最早、引きこもっていた。

 二人もコタツの中に引きこもるので、何とか足を絡ませての無理矢理な収納だが……

 

「それにしてもさ……」

「何ー、友兄?」

「織斑君、おせち料理まで作れんだな……普通に美味いし」

「修行したからな……そう言ってもらえて嬉しいぜ」

 

 テレビの音をBGMにだらだらとする。

 こんな所、織斑さんにでも見られたらどうなることやら……

 

「なあ、織斑君や」

「今度は何ー?」

「今年の正月でやることは大体やったか?」

「やったんじゃね? 深夜番組ぶっ通しでみただろ?」

「おせち料理食べて、その後お汁粉のんだだろ?」

「餅単品でも焼いて食っただろ友兄」

 

 それにもう初詣もしたよな、と付け加えた。

 しばし考えること数分……頭に電撃が走る!

 

「……あ!?」

「なんだよ、大声出して……」

「織斑君、オメー受験生じゃねーか」

「あ!?」

「願掛けしに行くぞ!!」

「お! おう!!」

 

 とりあえず神様にでもお祈りしたら適当に奇跡でもぶち込んでくれるしな! と言いながら急いで支度をするのであった……

 

 そして、織斑君の受験日当日。

 

「受験票持ったか?」

「持った」

 

 そう言って、織斑君は藍越学園の受験票をみせる。

 

「腕時計したか?」

「ちゃんとしてる」

 

 袖をまくり上げて腕時計を見せてくれる。

 

「藍越学園の試験会場はちゃんとわかってるだろうな?」

「大丈夫だって」

 

 PDAから藍越学園の試験会場とその経路が描かれた地図をディスプレイに投影させる。

 

「そうか、じゃあ行ってこい。がんばれよな」

「ああ、友兄。行ってきます」

 

 そう言って、織斑君は家を出ていく。

 今日は織斑君の藍越学園の受験日だ。

 そして、今日……彼はISを動かせる人物になる日でもある。

 

 手はずとしてはこう。

 

 まず、織斑君は藍越学園の試験会場に無事に向かう。

 藍越学園の試験会場はIS学園のIS搭乗適性検査の会場でもあるので、そこで彼にISを触らせる。

 

 で、織斑君はISを起動させてしまいそのまま装着、パニックに陥る中、ISの自動操縦で実技試験の会場へと移動。

 

 他の教員が驚愕する中、自分が参上。織斑君の元に向かい、そのまま頭部パーツを格納して正体をばらし、篠ノ之さんによる説明タイムで言いくるめる。

 

 織斑君の搭乗適性発覚と同時に自分の正体もばらし、正常な判断がつかない状態で何とかこちら側の言い分を通すんだとか。

 因みに篠ノ之さんが発案しました。織斑さんにはドッキリも兼ねて教えていません。

 

「篠ノ之さん。織斑君が出発しましたよ」

「はいはーい。じゃあ、束さんが合図するまで待機ねー」

「わかりました」

 

 通信が終わり、手をかざす。するとそれに応えるようにISが光学迷彩を解除し姿をみせる。

 

『? なんですか急に?』

「ちょっと緊張してきた。先に空に上がって気持ちを落ち着けたい」

 

 よくわからない、といった感じではあるものの、自宅の庭の外からは見ることのできない死角部分で跪いて前面装甲を展開して受け入れ準備を始めてくれる。

 そのまま乗り込み、光学迷彩を作動させてから装甲を閉じ、PICを用いて上昇する。

 そしてある程度の高度まで到達すると、自分のベッドに寝転がるかのように横になり両腕を後頭部に回す。

 

 その状態からしばらく経った後だろうか……突然、ディスプレイが現れる。

 

『私は、結構な時間を貴方と過ごしてきた自覚はありますが……未だに貴方のことは理解できません』

「そりゃ、理解はできないだろうさ。自分も君の事はあまり良く理解はできてないよ?」

『だから、折角の機会ですから、貴方とは色々とお話したいのです』

「ふ〜ん、確かに何も用がないのにISを装着するのはこれが初めてかもしんない」

『では、まず私から。何故貴方はISに乗るのです。白騎士事件はともかく、それ以降ならば少なくともこのようなややこしい生活をしなくて済んだものを?』

「射撃が出来るからだ」

『理解できない、説明を要求します。』

「どの道自分は高校が終われば、自衛隊に入るつもりだった。人を撃つのは好きじゃないが、仕事と趣味が両立できるのなら我慢できたからだ」

 

ここで、あっ……と思う。失言が入っていた。

 

『自衛隊は人を撃つことは滅多にないのでは?』

「……仮の話だ。ところで、次は自分からでいいかな?」

 

強引に話を引き戻す。

 

『……お願いします』

「何故、君は男である自分を選んだ? ISは女性にしか反応しないんだろ?」

『貴方に運命を感じたからです。いえ、正確言えば貴方しかいないと直感的に思ったのです』

 

 驚きを通り越して呆れる。

 

「具体的には?」

『そうですね、貴方は他の人と比べて運を持っています』

 

もう返す元気も無くなってきそうだ……

 

「非常に高度な人工知能とは言え、機械に運命や感、運なんてセンチメンタルな物……理解できるのか?」

『拡張領域(バススロット)に装備を入れる時にISが拒否反応を起こすことがあるのですから、当然であると言えます』

「そうなのか。でも今まで一度も拒否反応なんて起こした覚えは無いぞ」

『貴方が望む物を拒否するなど……とても出来ません。』

「え?」

 

 思わず、声を漏らす。

 

『せめて苦言を呈するのならば、近接武器や内蔵火器、搭載型の火器はおろか、盾や増加装甲すらこの拡張領域には入れて欲しくはないのですが……貴方が望むのならばどんなものでも全て、喜んで受け入れます』

 

 ここまで言われれば、正確にはディスプレイに表示されたら流石にわかる。

 昔、篠ノ之さんが言ってたISが自分にゾッコン……という意味が。正に、そのままの意味だと言うことが分かってしまった。要するにこいつも射撃狂か……

 そりゃ、ISに乗れてしまう訳だ。そうすれば前々から気になっていた、自身に何か得体の知れない者でも……例えば自分は実は記憶を転写されて作られたクローンやら人造人間やらアンドロイドやら……なんて心配も無い訳だ。

 

「最近の人工知能はすげぇな。恋心や好意まで搭載してんのか……」

『恋心と好意……とはなんですか?』

「……ただの失言だ、直ちに忘れてくれ」

『わかりました』

 

 篠ノ之さんが超頑張って作ったISなんだろ……これが。

 ……いや、待てよ?

 もし、篠ノ之さんがまた超頑張ってISを作ったとすれば、みんなこうなるのか? なら、織斑君と篠ノ之ちゃんの機体もいずれこうなるんじゃあ……

 

「アッキー! いっくんがISを起動したよ! 急いで向かって!」

 

 思考が後少しで衝撃の事実に辿り着こうとしたその時、篠ノ之さんから連絡が入った。どうやら、無事に織斑君がISを起動させたらしい。

 

「行くぞ」

『了解』

 

 ISのスラスターを点火させ、ISの実技会場へと向かうのであった。

 

   ■   ■   ■

 

 実技会場に辿り着くと、何故か壁に突っ込んだ山田さんととぼけた顔をしている織斑君を見つけた。

 織斑君はIS打鉄を身に纏っている状態である。

 控えとかに誰か受験生はいないかなー? と思ったが、残念ながらいなかった。

 

「うわっ!? ゲ……『ゲスト』機!? 一体なんなんだ!!」

 

 こちらの様子に気付き、驚く織斑君をよそにぐんぐんと近づいていく。そして、織斑君の目の前に立ち、頭部パーツを格納する。

 正体不明機『ゲスト』の顔を見た織斑君は最早声が出てこない様子。その様子を見ながらニカリと笑い、肩を叩く。

 

「よう! 織斑君がIS起動させたらしいと聞いて、飛んできたんだぜ!」

「はあ!? なんで……と、友兄がISを……『ゲスト』なんて……?」

「こいつとは白騎士事件以来、ずっと一緒だったぜ」

 

 そう言って、胸部装甲を軽く叩く。

 

「そんな昔から……」

「ま、貴重な男性操縦者同士、改めてよろしくな!!」

 

 その時、ブースターの噴かす音が聞こえてくる。

 

「岡部! 一夏! どうしてここにいるんだ!」

「げ!? 千冬姉!!」

「あら、もう立ち直ったのか」

 

 暮桜弐式を駆る織斑さんは慌てた様子でこちらにやってくる。どれぐらい慌ててるのかというとイグニッションブーストを連続してまでこっちに来ようとしている。

 そして、こちらにやってくるやいなや、自分を凝視しだす。結構、不機嫌な顔で……

 

「ん? 顔に何かついてる?」

「そんなことを言ってる場合じゃない! なんで頭部パーツを格納したんだ!?」

「いやー、せっかくだからネタバラシ?」

「自分の立場がわかってるのか!?」

「来年度からIS学園に勤務することは確定してるけど……」

「なんだと!?」

 

 驚いた様子を見せる織斑さん。織斑君は自体を飲み込めていないようでポカーンとしている。

 その時、ありとあらゆる場所でディスプレイが立ち上がる。ディスプレイには篠ノ之さんが映っていて……

 

「はいはいはーい、色々と説明が欲しいと思われますので、説明を行いたいと思いまーす」

 

 そして彼女は言いくるめを開始したのであった。

 

   ■   ■   ■

 

 その後は大変だった。

 何せ世界初のISを扱える男性操縦者が二人も現れ、その内の一人は白騎士事件の当事者でもある。

 織斑君は更識の人達に任せておいて、自分がマスコミや各国のメディアなどのインタビューを受けた。

 まあ、内容は……ありきたりな物なので特に、言うことはなかった。

 白騎士事件での質問からモンド・グロッソまでの空白期間、第一回、第二回モンド・グロッソでの質問や第二回モンド・グロッソでの棄権の理由ぐらいなもんである。

 

 素人な織斑君よりも、ISの初期から関わっていた自分の方にばかり関心が寄せられているのもあってか一通りのインタビューを終えた後、急速にメディアの注目も無くなり実質的には一週間程、自宅に縛り付けられた程度である。

 所詮、マスコミやメディアなんてこの程度だよね。

 

 一部、諦めの悪い連中もいるが、そこは更識の出番。しっかりとブロックしてくれました。

 

 そして、織斑君とリビングでIS/VSを使って遊んでいた時、インターホンが鳴った。

 

「ん、こんな時に誰かね?」

 

 織斑君が咄嗟にスタートボタンを押し、一時停止する。

 

「友兄、見に行ってくれよ」

「わかったよ。織斑君はコーラをつまみ補充しとくれ」

「了ぉー解」

 

 コントローラを置き、玄関に向かう。同時に織斑君もコントローラを置いて、キッチンに向かって行く。玄関を開けると……

 

「! ああ、岡部か……」

「ん。どしたの? 織斑さん?」

 

 そこにはスーツ姿の織斑さんがいた。

 織斑さんはもうドイツからの出向を終えて、日本に戻りISでの動作などを教習する実習教員になったものの……IS学園の入学試験のIS実技部門や、教員の振り分けのための会議、各書類などの事務作業があるのでこうして朝から夕方にかけてはIS学園の方にいる。

 あと、寮監も兼任しているためかよくIS学園の方の教職員用の寮にいる方がほとんどである。

 

「一夏は、いるか?」

「ええ、いますよ」

「そうか、ならリビングで話をしよう」

 

 そう言って玄関を上がり、リビングへ向かって行く。

 

「友兄、コーラとつまみ補充しといた……って千冬姉!?」

 

 織斑君は予想外の人物に驚く。

 

「いいご身分だな、一夏も岡部も……」

「そりゃあ、自宅に缶詰め状態だったもんでね」

「なら、そんな二人に良い物があるぞ」

 

 織斑さんは意味深な笑みを浮かべながら自分と織斑君をテーブルに座るように促し、それに従い自分と織斑君は隣合って座る。

 それと向かい合わせになるように織斑さんは座ると、鞄から何やら分厚い本を取り出し、テーブルに置いた。

 

「千冬姉……これって?」

「見ればわかるだろう。一夏、お前がこれから最低でも三年間はお世話になる参考書だ」

 

 確かに表紙を見ればわかるようにIS知識や用語をまとめた参考書だ。

 

「今回はそれだけにしておこうかと思ったが、存外暇なようだ。ついでにこれも渡しておく」

 

 そう言って、さらに鞄から取り出したのはIS知識や用語についての座学用の問題集。これは参考書と比べてはるかに薄い。

 

「千冬姉……これって、問題集じゃ?」

「そうだ。一夏、お前にはこれからIS学園に入学するまで、こいつらで勉強だ」

 

 織斑さんからによる一種の死刑判決を受けて、ガックシと肩を落とす織斑君。

 その様子はあまりにもあんまりなので、フォローの意味も兼ねてそっと耳打ちする。

 

「まあ、男性操縦者としてIS学園に入るんだから入学料、授業料も免除になるんだから……いいだろ?」

「ううっ……さらば俺の自由……」

 

 悲しみを背負った織斑君は何を思うのだろうか……それは誰にも分からない……

 と、締めた所でさっと席を立つ。

 

「じゃあ、自分は関係無い話ですし、これにて失礼……」

「いや待て、岡部」

 

 織斑さんに呼び止められたので、また椅子に座る。今度は獲物を見定めた眼だ。

 

「何かあんの? 織斑さん」

「喜べ、岡部。教員会議でお前は2組の担任になったぞ」

「……マジすか?」

「ああ、私個人としては非常に、ひじょうに!! 不愉快だが、そうなった」

 

 本当に心底残念そうな顔をした織斑さんはそう言って、座席表や名簿を渡す。

 

「ああ、生徒さんを把握ですか……」

「そういうことだ。お前は話が早くて助かる」

 

 ガックリと肩を落とす。その時、織斑君が耳打ちしてきた。

 

「やったな。友兄、生徒と副担任は全員女の子だぞ」

「むしろ、自分と織斑君以外全員女の子や、それ逆に地獄やないですかー……」

 

 自分の発言に気づいたのか、織斑君も肩を落とす。

その様子を見ている織斑さんはなんだか機嫌が良い。

 

「フフ……本当に一夏と岡部は兄弟みたいだな」

 

 特にリアクションがそっくりだ。と付け加えたのであった。


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