No matter what fate   作:文系グダグダ

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06:IS学園 4月

 朝の職員会議を何事もなく終え、副担任が何とかやっているであろう2組へと向かう。途中までは織斑さんの担当する1組と同じ道なので二人並んで歩いている。

 

「まさか、本当に担任だとは思わなんだ。てっきり副担任位だと思っていたが……」

「だから、本当に岡部は2組の担任に決まったと言っただろ?」

 

 2組の出席簿をしげしげと見ながらの呟きに呆れた表情で織斑さんは答える。

 それから、自分の姿を見てくぐもった声で笑い出す。

 

「くくっ……それにしても、岡部の眼鏡を掛けた背広姿は見慣れないからか、全くもって似合わないな」

「自覚はしてるんだ。あまり言わないでくれ……」

 

 そう言って、織斑さんの姿を見る。

 ぐぬぬ……タイトスカートとスーツの組み合わせとか似合いすぎるぞ、マジ反則。

 

「ぐぬぬ……織斑さんは反則すぎる……」

「フフッ、まあその内お前も様にはなるだろう」

 

 満足そうな笑みを浮かべながら肩を叩き、励ましてくれる。

 そんなことをしながら廊下を進んでいくと2組のプレートが見えてきた。

 

「それでは織斑『先生』、これで」

「岡部『先生』もヘマはやらないように」

 

 そう言って織斑さんと別れ、2組のドアを引く。

 2組の生徒さんと副担任とが一斉にこちらを向く。

 

「ミス・ベネックス、済まないね。職員会議で遅れたもので」

「いいえ、岡部先生。事前に聞いていましたので特に問題はありませんよ」

 

 テレーズ・ベネックス。元フランス代表で2組の副担任。

 黒目の灰色がかった茶色の髪で髪型はロングのシャイニーストレート、長身でスレンダーそしてお胸様はつるぺたすとーん、以上。

 

 教卓についた所で隣の組から突然、何か引っ叩いたような破裂音と男の声が聞こえた。

 

 織斑君……

 

 何事も無かったと言わんばかりにスルーし、教卓に両手をのせて言い放つ。

 

「……一時中断させてすまない。引き続き、各生徒の自己紹介を頼む。」

「……更識 簪……です……」

 

 そして隣から黄色い声援が立ち上がる……少しばかりの沈黙の後、2組の残り全員が1組の嬌声がエコーとして聞こえる中、自己紹介を終える。

 

「ご苦労様です。最後は自分かな? 今年1年間、2組の担任をやらせていただく事になった……」

 

 生徒や副担任が息を呑む。

 

「男性操縦者で『ゲスト』の搭乗者でもある、岡部友章だ。よろしく頼む」

 

 左の手のひらから投影型ディスプレイを展開して、各言語別に自身の名前を出しておく。織斑さんとは対照的にシーンと2組の教室は静寂に包まれる。

 

 ……やっぱりみんなの憧れが実は男だなんて、嫌だよなぁ……

 

「科目はIS実習を担当させてもらう。織斑先生とは違い、自分は君達の自主性に応じて、カリキュラムが求める実力が付くように鍛える所存だ」

 

 さらに教室が静まり返る。副担任のベネックス女史は特に助け舟を出す様子も見られない。

 ただ、普通に待機しているだけである。

 

「まあ、自分はISの実習か2組のホームルームぐらいにしか出会えないと思うので、そう気を張らなくても構わない。では、これで失礼させてもらう」

 

 そう言うと途端に2組の表情が和らぎ、ベネックス女史は「自己紹介、お疲れ様でした。」と、ニッコリと笑みを浮かべながら声をかけてくれる。

 

「あとは、よろしく頼むよ」

 

 そう言って、教室を後にしたのであった。

 

 やれやれ、先が思いやられるよホント……

 

 午前はアリーナで2年生相手にISの実習が行われるので教室を出ていった後、すぐに職員室に向かい、自分に充てがわれたデスクに向かう。

 そして、鍵を使って自分に充てがわれたロッカーを開けて上着を入れ、防弾チョッキ2型をカッターシャツの上に着こむ。

 余談だが、靴はジャングルブーツで下着替わりに上下両方ともにイングリッド社製ISスーツを着込んでいる。

 そのままロッカーを締めて、学生用のアリーナに向かう。幸いにもホームルームがまだ終わっていない内に教室から出ていったこともあってか、アリーナはまだ人がいない。

 

 折角の機会なので、腕時計に変化してくれていたISを展開し、装着。

 アリーナ中をホバー移動で駆けたり、飛び回ったりしてアップを始めておく。武器を切り換えしながら空中で回避機動を取ろうとした辺りから、ISスーツを着た2年生がアリーナに集合していく。

 

 ホント最近の高校生はけしからんすぎるだろ……

 

 煩悩を振り払うかのごとく、空中で色んな事をしていると打鉄を装着した同僚から地上に降りてこいとの連絡が入る。この同僚は近接系が得意だったはず……

 すぐさま、降下し集合、整列を終えた2年生達の前に降り立つ。

 

「この方が、実習を担当する教官です」

 

 同僚の教師がこちらに手を向ける。

 すぐさま頭部パーツを格納して素顔を見せる。

 

「あー……今年から教職をやらせて頂くことになった。岡部友章だ。よろしく頼む」

 

 今度は拍手がとんできた。まあ、2組と比べればはるかにマシです。

 

「どちらかと言うと、射撃を教えるのがメインになる。どうぞお手柔らかに……」

「せっかくですので、誰か質問があればどうぞ」

 

 同僚め、いらんことを言いよってからに……

 

「はいはーい。私が最初でいいかしら?」

 

 元気よく手を上げたのはあの楯無嬢である。周囲の生徒や同僚は少しばかり息を呑む。

 ただ、数人の生徒は面白がっているが……

 

「えーと……お名前は?」

「あら? そうだったね。初めまして、更識 楯無と申します」

 

 猫のように目を細めて、笑顔で言い放つ。

 なんという茶番……

 

「ご丁寧にどうも。で、更識さん、何か自分に質問が?」

「今その身に纏ってる『ゲスト』の搭乗者なんですよね?」

「ええ、こいつは世間一般では『ゲスト』と呼ばれる機体ですね」

 

 親指で自分を指さして答える。

 

「なら、貴方は白騎士事件でのもう一機のISなんですよね?」

「ええ、そうですよ。自分はかつて白騎士と共に長距離弾道ミサイルの迎撃にあたっていた人間です」

 

 少しばかり動揺が広がる。

 楯無嬢は満足そうな笑みを浮かべ、二人の白人の生徒は獲物を見定めるような好戦的な目をして、こちらを見つめている。

 そんな中、好戦的な目をしている勝気な性格をしてそうな生徒が手を挙げる

 

「ハイハイ!」

「えーと、君は?」

「フォルテ・サファイアと言います!」

「んーフォルテ嬢。何かな?」

「貴方は第一回モンド・グロッソにも出場しましたよね?」

「ああ、コイツで出場したよ」

 

 するとさらにフォルテ嬢の目が輝く。

 

「織斑千冬と闘った感想をお願いします!」

「うーん、普通に強かった……としか言いようが無いね」

「なら、今織斑千冬と闘ったら勝てる自信はありますか!」

 

 さらに、目を光らせて恐らく一番言いたかったであろう質問をぶつけてきた。

 周囲の生徒や楯無嬢も興味があるようでこちらを凝視している。

 

「そりゃあ、実際にやらないとわからないね」

「そうですか、残念です」

 

 しょんぼりとした表情で質問を終わらせる。

 その直後、また手が挙がる。

 

「はい、えーと……」

「サラ・ウェルキンと申します。岡部先生」

 

 好戦的な目をしていたもう片方が手を挙げたようだ。

 そのまま彼女は続ける。

 

「本国の方から、『ゲスト』は我々には想像もつかない程の射撃技能をお持ちだと聞いたのですが、それは本当なのでしょうか?」

「その件ね……あんまり自慢は好きじゃないけど、まわりがそう言うなら……そうなんでしょうね」

「図々しいのは承知の上ですが、どうかその射撃技能の片鱗をお見せ出来ませんか?」

 

 これには少しばかり困った顔を浮かばざるを得ない。

 

「うーん、こればっかりは……的が無いしなぁ……」

 

 ごめんね。と彼女に付け加えるが、楯無嬢が突然前に躍り出る。

嫌な予感しかしないので、生徒達とは距離を少し離す。

 

「なら……こうするのはどう?」

 

 と言って、突然硬貨を取り出す。

 ……なるほど、意図がわかった。

 

「ガンマンごっこでもしろと?」

「ええ、それに私も貴方の才能の鱗片を……見てみたくて」

 

 まるで恋する乙女のように恥じらいながらいう楯無嬢。オメーは人間パトリオット見てるだろーが。

 それに同意するかのように首を振る生徒と同僚。目を輝かすフォルテ嬢に嬉しそうな表情をするサラ嬢。

 

「なら、いいわね?」

 

 そう言って、楯無嬢は硬貨を上に弾いた。

 しょうが無いので拡張領域から、リボルバーGuardianⅠを取り出し、ハイパーセンサー等で極限にまで神経を尖らし、撃つ。

弾丸に命中したコインはそのまま真上に跳ぶ。そのまま発砲を続けて、同じように真上に。コインをとばし続ける。

 合計6発の発砲音と同回数の金属音を鳴らし、硬貨は地面に落ちる。

 

 楯無等の専用機持ちや同僚はそれが全弾命中を意味しているのがわかるのか、拍手をする。

 それにつられて、他の生徒からも拍手が贈られた。

 

「良い物を見させていただき、ありがとうございました。岡部先生」

 

 そう言い、頭を下げるサラ嬢。

 正直、見世物じゃないのでこれ以降は見せまいとこの時誓ったのであった。

 

   ■   ■   ■

 

 2時限連続でのIS実習が終わり、昼食に入る。

 

 IS学園は高等教育機関、すなわち大学や高等専門学校のように1時限の授業時間は90分なので、2時限目が終わればお昼休みとなるのだ。

 

 教員用のラウンジに入り、カツ丼と味噌汁を頼み、呼び出しベルの受信機を渡される。既に何人かの教員は食事を始めていて、自分が来ると視線を向けるが、すぐに食事に戻る。

 そのまま空いたコップに水を注ぎ、一番遠い窓際の隅のカウンター席に移動しておき、注文した物が出来上がるのを待つ。自分はいわくつきなのであんまり人気のない席に着くのが一番相手を刺激しない方法だと考えたからだ、

 

 織斑君は学園唯一の男子生徒、そして自分は学園唯一の男性教員……お互い大変だ。

 

 そう思いながら、窓から見えるIS学園の様子を眺める。素での視力が物凄く良いので、どこが2組かどうかがわかる。

 ふと、気の迷いが生じて伊達メガネの特殊機能、望遠機能を作動させる。そして、1組の織斑君の様子を見ることにした。

 

 どうでもいいが、教師デビューと言ってなんでこんなスパイ顔負けのトンデモ機能が複数ついた伊達メガネを自分にプレゼントしたのだろうか? 篠ノ之さん……

 

 織斑君の姿を捉えたものの、彼と向い合うようにいるのは縦ロールのある長い金髪の白人の女の子がいた。イギリスの代表候補、セシリア・オルコットだ。

 オルコット嬢はなんだか驚いたり、機嫌を悪くしたりとコロコロと表情を変える。織斑君さては変なことでも言ったか? その様子に見かねたのか、篠ノ之ちゃんがその間に割って入り、織斑君のフォローを入れる。

 なんとか納得したのか、少しばかりの不機嫌な様子でオルコット嬢は去って行く。その後、篠ノ之ちゃんと織斑君は教室を去っていった。

 

 ちょうどその時、受信機のベルが鳴る。そのまま受信機を持って、それと引換に注文の品物がのったお盆を貰い、カウンターに戻る。

 

 そして食う。そこまで多くなかったのですぐにペロリと食べ終わる。食器をのせたお盆を返却口に戻し、出入口に行く。途中、織斑さんと山田さんがいた。メニューを選んでいるところ、どうやら今来たらしい。

 

「岡部先生、そこにいたのか」

「えーと、どうも……」

 

 織斑さんは何事も無く声をかけるが、山田さんは少しばかりぎこちない笑顔を浮かべている。

 

「ちょうど、いいところにいた。岡部先生、一緒に食べませんか?」

「ふぇ!? お、織斑先生!?」

 

 まるで当然かのように自分を誘う織斑さんとは対照的にビックリした表情な山田さん。織斑さんのその様子はまるで尻尾を揺らす狼のようだ。つまりは上機嫌。

 

「え? で、でも……織斑先生……」

 

 山田さんが織斑さんに何か耳打ちしている。

それを聞いて織斑さんは呆れた表情をしていた。

 

「隔週とは言え今まで何度も顔を合わせているだろうに……別に問題は無いだろう?」

「ま、まあそうですけど……少し驚きがまだ……ねぇ?」

「そんな事言っててもどの道IS実習では嫌でも見るんだぞ? なら今のうちに慣れておくのが賢い方法ではないのかね山田先生?」

 

 うわぁ、論破されたのか「あう、あう……」と言いながら何か葛藤している山田さん。しょうが無いのでとっとと答えを言うことに。

 

「とりあえず、織斑先生」

「なんです? 岡部先生」

「すみませんが、自分……もう食べましたので……」

「……そうか」

 

 しょんぼりとした表情な織斑さん。さしずめ尻尾をだらんと下ろした狼のよう……

 山田さんは胸を撫で下ろしていた。

 

「それでは、授業の用意がありますので」

「ああ、呼び止めて済まなかった」

 

 そう言って、ラウンジを後にしたのであった。

 

   ■   ■   ■

 

 午後のIS実習を終え、放課後のHRも無事に終わり、本日の授業は終了した。

 HRでは、クラス代表の選出が主な内容であったが滞り無く一般の生徒が受け持ってくれた。本音を言うと自分が推したい候補はいたんだが、グラスタイプのディスプレイをせわしなく動かしていたので、そっとしておく事にした。

 職員室で実習に参加した生徒の一人一人にコメントや印象、現時点での感触や今回の授業態度などを名簿に記載し本日の業務は終了する。カバンを持って職員室を出ると、ちょうど織斑さんと山田さんの二人にばったり出会った。

 

「どうも、先に上がらせて頂きます」

 

 そう言って、二人の横を通り過ぎようとしたが……

 

「待つんだ岡部先生、どこに帰る気だ?」

 

 織斑さんに呼び止められ、彼女の方に振り向く。

 

「どこって……教員用の寮でしょ? 事前に織斑君の荷物と一緒にIS学園に送ったじゃないですか」

 

 そう、自分と織斑君は自宅からではなく寮に移動することが事前に決まっていたので、二人でそれぞれ荷物をまとめて出しておいたのだ。

 

 余談だが、織斑君の荷物に関しては当初としては織斑さんの独断で決める予定でしたが、流石に織斑君があまりにも不憫だったので自分が代わりにやっておくと言っておきました。

 

 まあ、織斑君も高校生だしな! 男の聖域は守ってやらねば……

 

「ああ、その通りだ。だが、岡部先生……肝心の場所は知っているのか?」

「え? そんなの普通に男性用とかで寮から隔離された所ぽつんとにあるんでしょ? ね、山田先生?」

 

 と言って、山田の方に顔を向ける。

 いきなり話を振られたのか、はたまた野郎の視線を受けたのか山田さんは途端に挙動不審になりだす。自分けしからん視線とか向けたり強面でもなんでもないんだけどなぁ……

 

「え!? そ、そんな寂しい子みたいな事なんてしませんよ!」

「え!? 隔離しないの!?」

 

 それを聞いて今度は自分が焦りだす。

 はぁ!? 女の群れの中、男一人放置かよッ!? 新手のハニートラップかいじめじゃねーか。

 

「嘘ですよね? 嘘だと言って下さい織斑先生!?」

 

 思わず織斑さんに詰め寄る。

 彼女はやんわりと両手で自分を押し戻す。

 

「まあ、残念ながら……な?」

 

 そう言って、寮の事務用の書類データをディスプレイに投影し、自分に見せる。

 

「今年いっぱいは私と岡部先生と数人の教員が寮監を務める事になってる。ついでに言うと私と岡部先生が1年生の寮監だ」

 

 うそーん……なんか色々とパッシング貰いそうだけどホントに大丈夫か!?

 確かに1年生用の学寮の見取り図の一人部屋の寮監室にははっきりと『岡部 友章』と『織斑 千冬』の文字がはっきりと刻まれている。

 

 流石に同居人はいねーよな。うん。

 少し思考がフリーズ気味だが、なんとか現実を受け入れて織斑さんからその見取り図のデータを貰う。

 

「いやー、助かりました。中々そういう情報は回ってこなくて」

「まあ、今……岡部先生の事をよく思っておられる人は残念ながらあまり多くないからな……」

「そうですよねー、特に初代ブリュンヒルデ兼射撃部門でのヴァルキリーを兼ねた人が男だなんて知ったら普通は失望しますよね……」

 

 はぁー……という感じにため息をつく。織斑さんは別にいいとして丁度、彼女の隣に山田先生がいるので聞きたかったことを聞いて見ることにする。

 

「ほら、山田先生もそう思うでしょ? ブリュンヒルデでヴァルキリーが実は男だなんて……」

「ま、まあ……まさか男だなんて思いもしませんでしたね……てっきりたちの悪い冗談かと、ははは……」

 

 苦笑いを浮かべながら、たどたどしく答える山田先生。こんだけ挙動不審だと、この人実は男に免疫ないだけなんじゃ? と思い浮かばせる。

 

「まあ、岡部先生とモンド・グロッソで闘った者の立場から言わせてもらうと、間違いなく実力はある。この私が断言してやる」

「ブリュンヒルデ兼ヴァルキリー近接部門受賞者にそう言っていただいて、大変光栄です」

「ふん、実質銃器一本でここまで突き抜けた変態がよく言うよ」

「ハハッ、そうでしたね。それでは、お先に寮の方に帰っておきます」

 

 軽く二人に手を振って、1年生の寮へと向かう。

 

 何事も無く寮につき、寮内に入る。1年生が入居しているであろう多くのドアの中から自分の部屋の番号を探していく。

 

 だが、突然数メートル前のドアが開き、追い出されるような形で出ていく織斑君の姿がみえた。

 

「あら? 織斑君……」

「いてて、事故とは言え流石にこれはマズいよな……って友兄! なんでここに!?」

 

 尻でも蹴られたのか、さすりながらボヤく織斑君ではあったがすぐにこちらに気づき、驚く。

 

「スマンが、IS学園の敷地内では岡部先生だ。わかったな?」

「……あ、ああ」

 

 織斑君は首を縦に振る。

 

「で、なんで自分がここに居るというとだな……」

 

 と、織斑君に説明を行う所で彼が追い出された部屋から悲鳴が聞こえる。ほとんど条件反射の類でそのままドアを開けて突入、拡張領域からコンバットナイフと自動拳銃を取り出し、ナイフは左で持ち自動拳銃は右で持って近接戦闘(CQB)の用意を取る。

 

「犯人に告ぐ!! 大人しく武器を捨て投降しろ!! ……ってあれ? 篠ノ之ちゃん?」

 

 大声を挙げた先にはバスタオルに見を包み、顔を赤くした篠ノ之ちゃんと彼女の視線の先には男の聖域が……

 織斑君……恩を仇で返すなよ……

 

「わ!? こ……これが男の……って岡部さん!?」

「……いきなり叫んだから君の身に何かあったかとてっきり……申し訳ない」

 

 織斑君含め、三人の間の空気が気まずくなりましたとさ……

 

   ■   ■   ■

 

 入学初日に篠ノ之ちゃんとの気まずい雰囲気を作ってしまった後、数日が過ぎ、初めてのお休みである。

 1年生のIS実習は来週かららしく、今のところは高等部2年生以上の子達と大学部の子達の指導を行なっている。

 やっぱり大学部の生徒達も憧れのブリュンヒルデが実は男だということには驚きを隠せないようで、色々な反応が見れた。

 高等部の生徒たちは質問ぐらいで済んだが、問題は大学部の生徒である。

 IS学園は三年前に設立されたので大学部の生徒は1年生のみではあるが、かつて自分や織斑さんが一番長く指導を行なっていた生徒達である。

 

 だからその……なんというか……自分の実力に対する疑念が他よりも一層あるらしく、生徒のほとんどは自分に模擬戦を頼む始末……なので、その日のIS実習の時間は丸々生徒との模擬戦の時間になってしまったり……

 

 ルールはアリーナ内での無制限一騎討ち。自分はゲスト機のシールドエネルギーがモンド・グロッソ規定の二倍の量が切れると敗北する。切れるまでに生徒が負ければすぐに次の生徒が戦闘準備に入り、休む間もなく戦闘開始。戦闘終了した生徒はISを待機状態に戻し、休ませ、一刻も早く模擬戦に復帰できるようにする。

 

こ れを授業が終わるまで延々と続けるのである。

 

 普通に闘っても多分生徒たちは納得しないと予想できるので、ブリュンヒルデ兼ヴァルキリーの実力を見せるためにわざわざ武装は複合式カービンライフルのみでやりあうことに……

 

 生徒との闘いはまあ、所詮学生レベル。アリーナの中を満足に飛び回る事ができる程度だったので、早くて開始直後のチャージショット初弾直撃での勝利か、5分程時間をかけて相手のシールドエネルギーを削りきっての勝利が大半であった。

 数人、専用機は無いものの量産型のカスタムタイプか、ラファールや打鉄のそれぞれのパーツや武器をそれぞれ使ったキメラ装備で出撃してきたが、拡張領域に入れてある増加装甲の類も惜しみなく使い、20分前後の時間をかけてこれに勝利した。

 

 通常、IS実習では2クラス合同での2時限連続での授業なので、いくら最速で倒し続けても単純計算で80人もの生徒達の相手をするか、長くともおよそ3時間闘い続けるかの二択になってしまう。

 しかし、その時は不幸にも午後からのIS実習。3時間なんとか闘い抜いて授業が終わっても、ちゃっかり誰かが放課後のアリーナの貸出申請をやっていたようで、補講と言う名の模擬戦が続行されることになってしまった。

 

 結局、アリーナの観客席からの野次馬が増えていく中、合計3時間以上かけて約80人斬りを果たし、やっと胸を撫で下ろしたのもつかの間、騒ぎを聞きつけてやってきた残りの大学部の生徒との第2ラウンドが勃発。

 流石に自重したのか数を減らして半分の精鋭40人が模擬戦に参加。

 

 精鋭なので一人につき5分ほどかけて勝ち続ける、何故かこの学園は代表候補生を片方2クラスに固める傾向があるので、代表候補生がいない分精神的には楽であった。

 

 精鋭40人をなんとか増加装甲、シールドエネルギー共に半分にまで減らしつつもすべて撃破し今度こそ胸を撫で下ろす。

 

 だが、そうは問屋がおろさない。

 第一線から引退したモンド・グロッソの元代表候補や元代表で自分に懐疑的な教師数人との第3ラウンドが勃発。その中にはベネックス女史も元フランス代表として参戦していた。

 

 悪夢の第三ラウンド開始。

 しかし、自分は度重なる戦闘と疲労で思考がややヘンテコな事になっており、なんと元代表や元代表候補の駆る打鉄やラファールに対し、まとめてかかってこいと挑発する。

 呆気にとられるギャラリーと当事者達。そんな中、カービンライフルのみを持って増加装甲はすべて拡張領域にしまい込み片手でアリーナに招く。

 

 第三ラウンド、まさかの一対多数。

 誰もが自分の敗北を予想していたであろうこの勝負。まさかのVシステムでゲスト機が教師陣すべてを叩き落とす事で決着がついたのであった……

 

「なるほどな……それが昨日のアリーナでのばか騒ぎだったのだな……ククッ」

 

 暫く笑いを堪えようとするものの、無理だったようで爆笑しだす織斑さん。

 テーブルを叩きつつ笑う様子は普段のキリッとした織斑さんを見ている人は多分想像もつかないのだろうと思う。

 

 あの後、寮の自室に戻って消灯時間までなんとか起きていたものの、消灯時間になった時にベッドに倒れ込んだ辺りからの記憶が綺麗サッパリと無く、気がつけばもう朝だったという始末。

 その後、そのまま織斑さんにお呼ばれして隣の彼女の自室にお邪魔する事になり、今現在まで彼女が冷蔵庫から取り出した炭酸飲料やおつまみと共に昨日の一連の話を織斑さんにしていた。

まだ疲れが取れず、テーブルにもたれる自分に織斑さんは微笑む。

 

「なに笑ってるんですか……」

「いや。な……ここまで痛快な話を聞くと私も溜飲が下がって大変気分が良くてな」

「なんで、自分がそこまで大立ち回りをしたら織斑さんの気分が良くなるんです?」

「私が唯一認めた男をバカにされて、気分が良くなる筈がないだろ?」

 

 さも当然かのように、それが絶対であるかのように彼女は言い放った。

 

「……そうですか。ところで、他の教員から聞いたんですけどクラス代表で何か揉めてるんだとか?」

 

 なんだが気恥ずかしくなりながらも、悟られないように話題を変える。

 すると、織斑さんはため息をつく。

 

「そうだ、1組のバカ共が勢いで一夏をクラス代表に推薦してな。それで、オルコットが対抗心を燃やしてクラス代表に自薦……という訳だ」

 

 自薦他薦は問わない……と言うのでは無かったよ、今更ながらに……と言いながら、炭酸飲料を飲む。

 

「うわぁ、そりゃ面倒な事になりましたね……じゃあ、来週の1年生初のIS実習の授業にでも選抜するんですか?」

「ああ、そうでもしないと決まりそうにないのでな、全く……束の奴め、早く一夏のISを送ってくれないだろうか……」

 

 さらに、織斑さんはため息をつく。

 

「まあ、その辺は篠ノ之さんは時間に厳しいですし、大丈夫だと思いますよ」

「そう前向きに考えるとするよ……」

 

 織斑さんはドライフルーツを、自分はアーモンドチョコをつまんで口に運ぶ。

 

「それにしてもだ……篠ノ之には驚いたぞ」

「なんでです?」

「丁度、篠ノ之のIS学園の実技のテストの時の試験官が私でな、正直あれは将来化けるぞ……」

 

 その時の事を思い出しているのだろうか、関心した様子で頷く。

 

「えげつないらしいとは聞いてたけど、篠ノ之ちゃんってそんなにISの技量が上がったんですか?」

「まあ、専用機持ちになればその実力は顕著に現れるだろうな。まさか剣道一筋だと思ってた篠ノ之が射撃武器をあんなに使いこなす事が出来るとは思わなかった」

 

 しかし全体的にはまだまだ粗削りだな……と言って締めくくる。

そして、少しだけ不機嫌そうな顔になる。

 

「しかし、折角の機会なんだ……私にも篠ノ之のようにレクチャーして欲しいぞ。ほら、お前の苦手な剣術を私が教えて、私が苦手な射撃はお前が教える。これならどうだ?」

 

 名案だろ? と言ってテーブル越しに詰め寄ってくる。寝間着の隙間からはISスーツがチラリと見える。

 余談だが、学生時代あまりにも剣術というか剣道が苦手なので、織斑さんにレクチャーしてもらった事があるが、あの時は酷かった。主に自分が……ああ、あまり思い出したくない……

 

「時間が空いたら、やってみたいですね……休みを潰してまではやりませんよ」

「わ、わかってる……勿論、わかってるさ……」

 

 一瞬、織斑さんがガタッと動き出しそうとしていたが、すぐにやめてしょんぼりとした顔になる。

 

 眠気覚ましも兼ねて昨日の出来事や雑談等を話したが、未だに眠気は取れず、全身にひどい筋肉痛も続いている。

 椅子から立ち上がり、背伸びをしてから自室に戻ろうとするが、ふと足元がフラついてしまう。

 

「まあ、今日ぐらいは惰眠を貪ってもいいだろう。な?」

 

 と言ってふらつく自分を支え、肩を貸してくれた織斑さんは彼女自身のベッドに運ぼうとする。

 

「女性のベッドに寝るのは無理があるわ……」

「別に隣の部屋と同じベッドじゃないか、問題は無いだろ?」

「だからなんで……織斑さんの部屋で寝る事になってんの?」

 

 分からない、といった表情を浮かべる織斑さん。

 

「ベッドが近くにあるのだからそこで寝れば良いと思ったのだが……仕方のない奴だ」

 

 そう言いながら、今度こそ自室の方まで肩を貸してくれたのであった。

 

   ■   ■   ■

 

 起きて時間を確認すると、昼過ぎであった。

 教員用のラウンジで昼食を取り、気の向くままに学園内を散策することにする。

 以前にも、学園にはよく来ているもののあまり自由に行動することができなかったので少しばかり童心に帰る気分で歩きまわる。図書館棟や購買、大学部や高等部を歩きまわり、生徒用のオープンラウンジに差し掛かった時のことである。

 ふとラウンジのテラスでティーカップ片手に優雅に過ごす生徒の姿が見え、目が合う。オルコット嬢だ。

 何を思ったのか彼女は自分を見つけると笑顔でこっちに来るように手招きする。無視すると碌な事にならないので大人しく、彼女のいるテラスへと向かうことに……

 

「ええと……どうも、初めまして。岡部 友章です」

「私はセシリア・オルコットと言う者です。以後、お見知りおきを……」

 

 お辞儀する自分に対し、椅子から立ち上がり両手でスカートの裾をつまみ、軽く持ち上げる。その上で、腰を曲げ、頭を下げる。典型的なカーテシーで返してくれた。

 見事なまでのお嬢様である。自分……初めて見たわこんなタイプの人。

 

「で、自分に何かご用件が?」

「ええ、お母様とお父様を助けて頂いたお礼の件について伺いたいのですが」

 

 バレとるがな。

 

 更識に次いでの正体の露呈である。英国の諜報能力凄すぎるだろ……

 

「誤解が無いように申しますと、この事は英国内ではオルコット家のみが知り得ております……」

 

 自分が醸しだす雰囲気を察したのだろう。慌てて、補足事項を説明する。

 

「そう、ならそれを守秘しておいてくれるだけでいいんだが……」

 

 その言葉にオルコット嬢はムッとした表情を浮かべる。

 

「それではオルコット家の立つ瀬がありません。出来れば何か報酬を……例えば金銭などを要求して頂きたいのですが」

「しかし、ですな……自分は教師、いわば公務員ですので副収入の類。要は金銭などを受け取ることは無理ですよ」

 

 ぐぬぬ……という表情を浮かべる。色々考えてはいるようだが、中々アイデアが浮かんで来ないようで、閉口している。

 

「……では。この件についての話は終わりの方針で」

 

 そう言って席を立ち、その場を立ち去ろうとする。

 

「あっ…… ま、待って下さい!」

 

 そう言われて振り向くと、椅子から立ち上がり右手を出して引きとめようとするオルコット嬢の姿が見える。心なしか少し寂しげな感じもしなくもない。

 

「……お礼の話以外で頼みます」

 

 そう言って、渋々ながらも再び椅子に座る。それを確認したオルコット嬢は安心した様子で椅子にすわり、自分と向かい合う。

 

「昨日のアリーナでの一連の模擬戦、実にお見事でした」

「それは嬉しいね。ありがとう」

「特に私、最後の教員との一対多数の闘いは感動しました! あれは正しく鋼鉄の騎士と言っていいほどの勇姿でしたの」

 

 少しばかりそのシーンを思い出したのであろう、やや興奮した面持ちで自分の活躍した様子を語っている。その内容は白騎士事件から第二回モンド・グロッソまでに及ぶ。自分はそれに適切な言葉で相槌を打ちながら、彼女の話を大人しく聞いておく。

 

「はぁ、はぁ……少しばかり語り過ぎたようですわね。申し訳ありません」

「いやいや、熱心なファンに会えて良かったよ」

「そう言って、頂けると嬉しいですわ」

 

 オルコット嬢はすっかり冷めた紅茶を飲み、喉の渇きを潤す。

 

「ところで……この後、予定は空いてますでしょうか?」

「ええ、まあ……」

 

 その答えにパァと笑顔になる。

 

「そうでしたら、私に射撃技能のレクチャーを是非! 頼みたいのですが……」

「残念ながら、それは出来ない」

「ど、どうしてですの!?」

 

 断られて心底悔しいのだろう、少し声を荒げるオルコット嬢。

 

「来週のIS実習の授業でクラス代表決定戦を行うと聞いた。相手は受験日の1時間しか動かしていない学生が相手なのだろう? 流石に不公平ではないかね?」

 

 そう言うと彼女は眉をひそめる。

 

「うぐっ……そうですわね……仕方無いですわ」

「そういうことだ。今回は織斑君の肩を持つよ」

 

 立ち上がり、テラスへと出る前にかけたその言葉がトドメだったのか肩をガックシと下げる。

 フォローとして彼女の肩を軽く叩くき……

 

「まあ、君は専用機持ちで代表候補、しかもその専用機は射撃重視型と聞いた。個人的には多いに期待しているよ」

「……は、はいっ! 期待に応えられるように頑張りますっ!」

 

 しばし思考が停止してたが、やがて再起動したのか飛び上がる位勢い良く立ち上がり返事を返す。

 頑張れよー……と言いながら手を軽く振ってテラスを後にするのだった。

 

   ■   ■   ■

 

 ラウンジを後にした後、引き続き学園内を散策する。

 グラウンドや何故かあった筋トレ用のトレーニング機器が置いてあった部屋、弓道場などを回っていく。道行く先ですれ違う生徒が不思議そうな目で見るが、特に気にしない事にする。

 で、剣道の道場の前を通った時にふと、竹刀が防具に当たった時の音が聞こえた。

 

 気になるので、道場に中に入って見ることに。すると、織斑君と篠ノ之ちゃんの姿が……

 両者共に防具を着こみ、竹刀を持って熾烈な攻防戦を繰り広げている。そして、織斑君は篠ノ之ちゃんの胴に竹刀を当て、それと同時に篠ノ之ちゃんは織斑君の篭手に竹刀を当てて終了した。

頭の防具を取り、スッキリとした表情をする二人に思わず拍手を送る。すると、二人共驚いた顔でこちらを見るのであった。

 

「いやー、すごいすごい。もし、全国大会に出たらベスト4に入るだけの腕はあるね。お二方共」

「友兄!? なんでここに?」

「岡部さん!? 一体いつから……?」

「ん? 今さっき。あと、二人共……岡部先生な?」

 

 その返答に「ああ、ゴメン」、「すみません……」と返事をする二人。

 

「ところで、来週クラス代表決定戦があんのに織斑君はともかく、篠ノ之ちゃんは何してるの?」

「一夏のISの届くまでの間に稽古を頼まれたんです。それで、ISが届くまでの間、少しでも直感を養っておこう……という事で、剣道で直感を養っていたんです」

 

 うーん、まあ理屈は一応通ってるよね……

 織斑君のISが届くまでずっとこうだというのも少し不公平な気もするんでここはオルコット嬢に宣言した通り、二人の肩を持とうかな。

 自身のISに案を出すと、やや嫌がる素振りをみせるものの、了承。なら、早速行動に移す事にする。

 

「そうか……なら、二人共、自分と一緒に競技用アリーナに来るかい?」

 

 織斑君と篠ノ之ちゃんの二人はこれに了承したので、二人を連れてアリーナへと向かう。

 

「で、アリーナで何をするんだ岡部先生」

 

 移動中気になるのか、アリーナでの内容を聞いてくる織斑君。

 

「何、かつて篠ノ之ちゃんにもやった方法だよ」

「……あ! そうか、その手があったか!」

 

 自分の言葉に納得した篠ノ之ちゃんではあるが、織斑君はピンと来ない様子。そうしている内にアリーナに到着。自分はIS実習を専門にしている教員なので、アリーナを自由に使うことが出来る。

 

 アリーナのピットのロックを解除し、二人を招き入れる。

そして、発進用のパネルに自分のISを展開させ、置く。

 

「あれ、これは『ゲスト』じゃあ……」

 

 そう言って興味津々にゲスト機を見る織斑君。

 

「そんなに気になるかい?」

「ああ、すごい気になる」

 

 織斑君のその返答に待ってましたとばかりにニヤリと自分は笑みを浮かべる。

 

「そんなに言うんなら……」

「岡部さんノリノリだよ……」

 

 こら、篠ノ之ちゃん呆れない。

 

「乗ってみないかね?」

 

 そして、織斑君は驚きのあまり、声を荒げるのであった。

 

   ■   ■   ■

 

 休みが明け、待望(?)の1年生のIS実習が始まる。

 その間には織斑君と篠ノ之ちゃんとの訓練や、ベネックス女史等の自分の実力に懐疑的な教員との和解などがあったが、今ここで話題に出すこともないだろう。

 

 1組と2組の生徒達が整列する中、まずは織斑さんからのお言葉から始まる。

 

「本日のIS実習は、2組の生徒達には悪いが1組のクラス代表決定戦を先に行い、それから授業に入る。」

 

 ベネックス女史に投影型のディスプレイを展開させて、生徒の前に出す。

 

「だからと言って、残りの1組と2組の生徒さんの時間を持て余すと困るので、残りの生徒さんはクラス代表決定戦の試合を見てもらって、レポートを書いてもらおうと思います」

 

 そう言って、自分はそのレポートの書き方について説明する。

 

「と、言うわけだ。各自、しっかりと試合を見ておくように! それでは、一時解散!」

 

 織斑さんが最後に締め、クラス代表決定戦に出る二人以外の生徒達はアリーナの観戦席に移動する。

 自分とベネックス女史はオルコット嬢と一緒にピットに向かい、織斑さんと山田さんは織斑君と一緒に自分達とは逆のピットに向かう。

 

 ピットに到着し、アリーナに生徒がいないことを確認、観戦席保護の為にシールド発生装置を起動させる。

 シールド発生装置はこの学園の地下にあり、とても巨大だ。そして、シールドを発生させるのにISコアを用いる。

 

 余談だが、そのISコアは誰とも適合しないいわゆる問題児であったが、有用曲折を経てこの仕事に就いた。今ではとても充実しているのだとか……自分のISがコア・ネットワークを通じて、そう報告してくれた。

 

 シールドで、観戦席に危険が及ばないことを確認した後、オルコット嬢に出撃許可を出す。

 

「よし。オルコットさん、出撃しても大丈夫だ。健闘を祈る」

「セシリアさん。くれぐれも、油断は禁物ですからね」

「わかってますわ、ベネックス先生」

 

 そう、ベネックス女史に返した後、自分の方に振り向く。

 

「岡部先生。貴方の期待に応えられるよう頑張りますわ」

 

 そう言って、自身のISであるブルー・ティアーズを展開し、そのままアリーナへと飛んでいった。

 出撃後、自分とベネックス女史は互いに顔を見合わせる。

 

「……どう思いますか? ベネックス女史」

「恐らくは、少し油断していますね……」

「まあ、結構な頻度で放課後アリーナで自主的に訓練してますしなぁ……オルコット嬢は」

 

 そう言っている内に織斑君のIS、白式がアリーナに躍り出る。

そして、両者向かい合う……

 

「遅れてゴメン。オルコットさん」

「いいえ、大丈夫ですわ……これが貴方のISなんですの?」

「ああ、これが俺のIS、『白式』だ」

「そうですか……これで、織斑さんも晴れて専用機持ちなのですね」

「ああ、ただ……男だという理由でなってしまったけど、頑張りたいんだ。あの人達に迷惑をかけ無い為にもな」

「織斑先生と岡部先生の事……ですわね?」

「ああ」

 

 試合開始の合図であるグリーンランプが点灯した。

 

「なら……この世界の洗礼を受けなさいっ!!」

 

 まずは、織斑君が動き出す前にオルコット嬢はレーザーライフル、スターライトmk.Ⅲを即座に展開し、射撃。

 しかし織斑君はレーザーライフルを展開したのを見て、咄嗟に期待を上昇させ、回避する。

 

「お行きなさいっ!」

 

 少し驚いたものの、次の一手として射撃型特殊ビットを2つ射出し白式の背後からレーザーで射撃する。

 片方の一発は避けたものの、もう片方が当たる。しかし、怯まず加速させ、ブレードで白式の専用装備でもある雪片弐型でビットを叩き落そうとするが、上手くいかず回避行動をとり、長期戦に持ち込む。

 まだ、ISコアが織斑君との最適化処理を終えて一次形態に移行していないが故に不利な状況だ。だが、理論上は織斑君と白式のISコアの相性は自分と同様に抜群なはずなので、勝機はまだある。

 

流石に、白式と織斑君の適性値がSランクで強いのはわかるのだが、やはり少し無理があるかも……

まあ、両者ともに試験官を倒したという事になっているのでそんなに怪しまれることは無いと考えたい……うん、考えたい……

 

「しかし、ホントに1時間しか動かしていないのですか?」

「あー……ゴメン。今週末で数時間増えた」

 

 どこか遠い目をしながら織斑君はそう告げた。

 まあ、休みの時にアリーナで自分のISに乗せて軽く練習はしたからねー。少しくらいは上達してくれないとな。

 

 オルコット嬢も、ビットを動かしている間は動きが緩慢なものとなっており、彼女の射撃も牽制程度になっている。最初はビットのレーザーで被弾していた織斑君だが、次第に回避率が上昇しなんとか避けている。しかし、規定量のシールドエネルギーは半分を切った。

 

「なんで反撃しないのですか!?」

「少しの間我慢してくれ!」

 

 中々仕留め切れず、オルコット嬢は焦りを生じ始める。

 だが、彼女は運が良かったらしい。丁度白式は最適化を終え、一次移行を完全に完了させた。

 

「待たせて済まない、オルコットさん。この一撃に賭けるっ!」

 

 そう言って、オルコット嬢が驚く中、白式は一機に加速。高機動型にも引けをとらないほどの加速で、ブルー・ティアーズに向けて雪片弐型を構えて装甲を展開、突貫する。勝負に出たようだ。

 オルコット嬢はとっさにミサイルタイプのビットを射出、白式に向けて誘導する。しかし、白式に叩き落とされて爆散、その爆発から発生した煙の中を白式はお構いなく進んでいく。そして、煙の先には至近距離で迎え撃つ3つの銃口が白式を捉えていた。残りのビット2つとレーザーライフルだ。

 

「なっ!?」

「言いましたでしょ、これは洗礼であると」

 

 ビットとレーザーライフルの攻撃を受け、織斑君の規定量のシールドエネルギーが切れたのであった。初戦でここまで粘れば、織斑君の目的は達成ですな。

 オルコット嬢の方も入学時での数少ない教官を撃破した搭乗者に勝ったという事実が一応残ることだし対面の上では、そう悪くはならないだろう。

 

 戦闘を終え、オルコット嬢がピットに帰還する。

 

「お疲れ様。オルコットさん」

 

 そう軽く声をかけたつもりが肩をビクンとさせ、落ち込んだ顔でこちらを見る。

 

「その様子じゃあ、わかってはいるんだね」

「……はい」

 

 空気を読んでかベネックス女史は席を外す。

 

「じゃあ、生徒達の前で言うほどスパルタじゃないのでアリーナに戻ってくる前にちょっと反省会」

 

 先程の試合の様子を投影型ディスプレイに映し出す。

 

「まずは、ちょっと油断しすぎってとこかな? 正直に言ってごらん」

「……まず初めにわざわざライフルを展開して射撃した件です」

「正解。展開した分、射撃までにタイムラグが生じて結果避けられたね。実は初弾避けられて少しビックリしてた?」

「ええ、その通りです」

 

 しゅんとした表情で頷く。

 

「でも、すぐにビットで追撃にかかったのはまだ評価点かな? 手の内を晒してでも早めにケリを付けようと思った?」

「はい。なにか変なことを起こされても困りますので、早めに落とそうと考えましたわ」

 

 少しだけ機嫌を良くながら、答えてくれる。

 

「だけど……なんで2つだけのビットで仕留めようと思ったの?」

 

 そう言うと、再び肩をビクンと震わせる。動作もすこし挙動不審じみてきた。

 

「そ、それは……」

「少しムキになってたの……かな?」

 

 完全にオルコット嬢は頭を項垂れる。

 

「まあ、最後のあれは良い感じで良かったよ。代表候補なだけはある」

 

 気まずい雰囲気になりそうなので、やや苦し紛れに彼女の肩を叩く。

 

「あっ……」

「織斑君に付き合ってくれて、ありがとうな。機会があれば、円状制御飛翔……サークル・ロンドだっけ? それに付き合うよ」

 

 しばらく一時停止していたものの、突然こっちに詰め寄る。身長の関係上、上目使いなのが何とも言えない。

 

「ほ、本当ですの!?」

「……? そうだけど? じゃないと不公平だしねー」

 

 そう言うと、オルコット嬢は両手でこちらの手を取る。どうやらお嬢様のご機嫌取りには成功した模様だ。

 

「それでは、その時になったら是非、一緒に踊って下さいね」

「あまり、上手くは無いけど……善処はするよ」

「あら? それなら私がリードしますわ」

「……流石、お嬢様」

 

 これで反省会は終わりっ! それじゃアリーナに集合するぞ。 と言ってオルコット嬢と一緒にピットを出たのであった。

 

 アリーナでは打鉄や、ラファールを装着した生徒が近接ブレードで素振りをしたり、実際にブレードで教官と打ち合っていたり、IS用のアサルトライフルを撃っていたり、空中での機動を行なっている。

 ちなみに、近接ブレードでの訓練は暮桜弐式を装着した織斑さん、アサルトライフルでの射撃訓練は打鉄を装着したベネックス女史、空中での機動訓練はラファール・リヴァイブを装着した山田先生となっており、織斑君と篠ノ之ちゃんは二人共織斑先生の班についている。

 

「岡部先生、もう反省会は終わったか?」

「ええ、終わりました」

「なら、オルコット。お前は私の班につけ」

「わかりました。よろしくお願いしますね、織斑先生」

 

 一番近くにいた織斑さんが一旦打ち合いを中断し、こちらに飛んでくる。

 予め、授業の前に打ち合わせておいたので、あっさりと終わった。

 

 そのまま、オルコット嬢と別れ、ベネックス女史の元へ向かう。

彼女はこちらに気づいたようで、一旦生徒達に射撃を中止させ、こちらに向かってくる。

 

「ベネックス先生。代役、ありがとうございます」

「いえいえ、基本的な事ですし大丈夫です」

「なら、山田先生の補佐に回って下さい。あそこは少し生徒の数が多いので」

「わかりました」

 

 そう言って、空中の山田先生の方に向かい飛翔する。

自分もISを展開、装着してから射撃訓練を一時中断している生徒達の方に向かう。

 

「一時中断して済まない。射撃訓練は自分が教官役を受け持ちます。それでは再開!」

 

 号令をかけると一斉にディスプレイで表示された的が出現し、生徒達は的に向かって射撃を開始する。

 ハイパーセンサーで、生徒達の様子を素早く観察しながら、気になる生徒一人一人に指導を行う。

 

「ちゃんと照準器を覗いて使うんだ!」

 

「フルオートで弾丸を垂れ流すんじゃない!! ちゃんと狙え!」

 

「コラ! ストックは肩に当てるんだ! 担ぐんじゃない!」

 

「バカ野郎!! 弾詰まりが起こったからって銃口を覗きこむな!!」

 

「撃ち切って、マガジン交換したのに弾が発射されない? チャンバーにちゃんと装填したか? 撃鉄は引いた?」

 

「弾が撃てなくなった!? 見せてくれ……あーあ、チャンバー内に空薬莢が焼き付いてる。これは修理ですな。他のアサルトライフルを渡すから、それで引き続き練習してくれ」

 

「コラ! 排莢口(エジェクション・ポート)のすぐ真横に人がいるのに撃つんじゃない! 加熱された薬莢が当たるぞ!! あと、そこにいる奴もとっとと離れろ!!」

 

「そこで、二挺持ちしてる生徒!! 遊んでないで真面目にやれ!!」

 

「照準器で狙ってるのに当たらない? ちょっと貸して……これ狙撃用に調整されてるやつだ。ちょっと待ってな……ほら、これでいけるはずだ。」

 

「今回はアサルトライフルの授業だ! だれが、ショットガンを使って良いって言った?」

 

「そこのアサルトカノンと軽機関銃もだ!!」

 

「アサルトライフルでチャンバラするな!! 織斑先生のところでやって来い!!」

 

「バカ!! 銃身が赤く赤熱してるのに撃ち続けるな!! 暴発するぞ!!」

 

「コラ! 勝手に分解するな!!」

 

 指導と言ってもそのほとんどはこういった注意ばかりで、少しだけゲンナリしつつ、生徒達を見て回る。ふと、黙々とアサルトライフルを撃ってる打鉄を発見する。……あれは、倉持技研の打鉄弐式だ。と言う事は2組の更識 簪さんか。

 

 近くに寄り、観察してみるとセミオートで、確実に的の中心部を撃ってる。

 やがて、彼女は気づいたのか自分の方に顔を向けた。

 

「……どうですか?」

「上出来だ。次はセミオートではなく二点か三点のバースト射撃に切り替えてやってごらん」

 

 簪嬢はバーストに切り換えて撃つ、三点バーストは初弾と次弾は中心部に命中するものの、三発目は僅かにズレる。それをワンマガジン程撃ち切ってた後、マガジンを交換する。

 

「うーん、ちょっと反動にビビりがちかな? バースト射撃位ならそんなに反動は多くないからそう気張らないで……な?」

「……わかりました」

 

 そう言って引き続きバースト射撃を再開する。今度は、三発とも的に中心部に良く命中するようになった。

 

「ちょっと言っただけでこんだけ出来るのか……」

「……?」

「上出来、上出来。花丸をあげたい位だ。」

 

 そう言うと少し照れたのか、少し恥ずかしがって俯く。

 

「じゃあ、次はフルオート射撃だ。今回は手本を見せるよ」

 

 そう言って、安全装置を外し、コッキングレバーを引いてアサルトライフルを構え、照準器を覗きこんで撃つ。狙うは左右にスライドして移動している的だ。

 

 最初に指切りで単発だけ撃ち、初弾が命中した場所を確認するとそこから補正しつつ、反動を上手く抑えたり流したりしながらフルオートで撃ち尽くす。

 

「すごい……流石箒に射撃を教えた人……」

 

 その言葉にふと思い出す。中学時代に篠ノ之ちゃんと仲が良いとか言ってた子のことを……

 普通の中学とは違い、授業参観とか無かったものだからすっかり忘れていた。

 

「って事は……もしかして……篠ノ之ちゃんの友達?」

「箒とは……よく会ってる」

「そうか。まあ、仲良くな?」

 

 その言葉にこくりと頷く。そのまま、フルオートでの射撃を開始したのであった。

 それの様子を見て一安心した自分はふと、あるラファールに目が留まる。

 しっかりと撃っているのだが、なかなか標的に当たらない様子。

 

「あー、ちょっといいかな?」

 

 少し心配しながら、そのラファールに近づき声をかける。

 

「あ、岡部先生」

 

 その生徒は少しバツの悪い顔をしながら、返事を返してくれた。

実は無視されないか、怯えられないかと心配になってました……

 

「中々命中しないようだけど、大丈夫?」

「中々感覚を掴むのが難しくて……」

 

 できるだけ優しく語りかけて、怒っていない事をアピールすると、困った顔をしながらも答えてくれる。

 

「うーん……なら、これでいけるかな? できるか?」

『トレースの準備、完了しました』

 

 そう言いながら、自身のISコアに問いかけ、了承を得る。

 

「よし、なら起動」

『起動』

 

 すると、右半分の視界と両腕の感覚に違和感が走り、やがて目の前のラファールとの動きが同期される。

 

「きゃ! 勝手に動き出した!」

「大丈夫だ。心配無い」

 

 いきなり、自身のラファールが動き出した事に驚く生徒をなだめつつ、アサルトライフルを持ち、構える。

 同様にラファールも同じような構えをとる。

 

 そしてひたすらに射撃。射撃。射撃。

 セミオートやバースト射撃、フルオートなどを一通り撃ってから、ラファールとのトレースを切る。

 

「よし。この感覚を参考にするといいかもしれないね」

「……ありがとうございます!」

 

 何かピンときた様子の生徒さんは、ペコリとお礼を言うのであった。

 

   ■   ■   ■

 

「それでは、今日の実習はここまで、解散!」

 

 織斑さんの号令の後、散り散りに散っていく生徒達。

 そんな中、織斑君とオルコット嬢がこっちに来て、後から篠ノ之ちゃんが走ってきて、彼女に手を引っ張られながらも渋々ついてきている簪嬢の姿が……

 

「友兄!!」

「岡部先生!」

「放課後のこの時間付き合ってくれ!」「放課後のこの時間、私と踊ってくれませんか!」

 

 お互いほぼ同時に言い、互いに顔を見合わせる。

 

「岡部さん! 簪も一緒なんだが、一緒に訓練をやってもいいかな?」

 

 この少し後に篠ノ之ちゃんが到着。しかし、ケロッとしている彼女はともかく、簪嬢が肩で息をしている。

 この後の放課後は篠ノ之ちゃんのみに声をかけて自主訓練をやろうと思っていただけにこんなにも専用機持ちが来るとは思わなかった。

 

「うーん、しょうがない。四人まとめてやるか」

「いや、五人だ」

 

 そう言って、肩に暮桜弐式のマニピュレータをおいて織斑さんも自主訓練の参加を表明する。

 

「私を置いてやることはないだろ……な、岡部先生」

 

 いつか見た肉食獣の目をギラギラと輝かせながら問われる。

 

「……わかりました。けど、1組の事務作業や教員の会議はどうするんですか?」

「問題無い。山田先生に任せる」

 

 山田先生がワタワタしだすが、ベネックス女史に肩を叩かれ同情される。

 いや、ホント予め頼んで置いたとはいえ、いつか教員用のラウンジでなにかデザートの1つでも奢りますんで……ね?

 

「でも進行は自分が担当しますからね」

「ああ、それで問題無い」

「それじゃ、全員ISを展開して」

 

 そう言うと、各メンバーはISを展開させる。自分や織斑さん含め、こんなにも専用機がいたら戦術的価値までは行かなくとも戦略的価値までは・・・戦力だけは一個大隊か増強中隊規模かも知れない。補給とか指揮官とかはぶん投げるとしてだ。

 確か黒兎隊ことシュバルツ・ハーゼの隊長が少佐で副隊長が大尉、そして隊の所有するISは三機だったはずなので、数の上ではそうなるだろう。もし、最高指揮官基準で考えたらそれより上の区分になってしまうがこの際ぶん投げる。

 

「よし、それじゃオルコット嬢は自分と円状制御飛翔(サークル・ロンド)を、次は篠ノ之ちゃんとの射撃練習」

 

 その言葉に、嬉しそうに頷くオルコット嬢と篠ノ之ちゃん。

 

「織斑さんはそれまで織斑君と簪嬢の二人で近接の訓練でもしておいて下さい」

「わかった」

 

 織斑君は納得するが、それに反して、少し悔しそうな顔を浮かべる簪嬢。近接戦が苦手なのだろうか?

 

「それじゃ、準備ができたらどうぞ」

 

 そう言ってから飛翔し、アリーナの空中で留まる。左腕には盾を装着、右手には複合式ISカービンライフルを持ってアンダーバレルに取り付けてある擲弾発射器のシリンダーにプラズマグレネードを装填しておく。

 

「それでは……」

 

 そう言って、オルコットが駆るブルーティアーズはこちらに向かう。

 

「待て、セシリア」

 

……が、その前に篠ノ之ちゃんが彼女を引き止めた。

 

「なんですの?」

「1つだけ忠告しておく、岡部先生に勝とうとはするな。」

「どういうことですの?」

「そのままの意味だ。」

 

 訳が分からないといった表情をしながら、自分の前に躍り出る。

そのまま、お互いに向かい合いながら円軌道状に加速する。

 

「先制攻撃はお先にどうぞ、オルコット君」

「紳士ですのね」

 

 そう言いながら、ブルーティアーズはレーザーライフルを撃つ。自分のISのバイザー内のHUDに彼女のライフルの銃口に赤いサイト(クライシスサイト)が表示され、アラームがピッ!と鳴る。間違いなく頭部に直撃するコースだ。それを盾で難なく防御する。

 

「これなら!」

 

 そう言いながら、手足に向けて発砲。手足ぐらいでは装甲で完全に防御出来るが、それでは少し不公平。

 彼女のレーザーライフルが発砲する前に自身の機体の加速を遅くし射線をずらす。

 その後急加速、戻ってきた頃を狙った第二射の射線をずらし、回避する。

 

 それを何回も繰り返し、向かってくる敵弾は回避するか、防御する。

 ついでに回避の練習にもなるように時折エネルギー弾を撒いておく。

 そろそろ、彼女が思う存分射撃を堪能した所で、攻勢に転じる。篠ノ之ちゃん達などの生徒が目白押しだからだ。許せ、オルコット嬢。

 

 まずはカービンライフルのチャージショットを構え、その後の彼女の加速か減速後の進路を予想しつつ撃つ。

 見事、胴部に命中。その後チャージ時間の合間に擲弾発射器を発射、プラズマグレネードは空中で炸裂し、怯ませる。

その後、容赦無く頭部にチャージショットを見舞い、ゲームセット。

 

 規定量のシールドエネルギーを切れたので、そのまま減速し一緒に地上に降りる。

 オルコット嬢は……まあ、落ち込んでいる。

 その様子を見かねたのか、篠ノ之ちゃんが彼女の元に駆けつける。

 

「これが……あの人の実力……」

「そうだ、あれが岡部さんの射撃なんだ……」

「確かに、勝つなんてものではありませんわね。一瞬にしてシールドエネルギーを刈り取られるなんて……」

「だけど、それ相応に実力はつく。モンド・グロッソで各国のISを食い荒らした実力だからな」

 

 と、その後二人は少しだけ雑談に入る。流石に切り上げる為とは言え、やり過ぎだと反省。

 その後の訓練相手を変えつつ、ひたすらに射撃戦や模擬戦に明け暮れるのであった……


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