No matter what fate   作:文系グダグダ

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07:IS学園 4月~5月

 その日の晩、門限が過ぎた頃の事だ。自分は織斑君の部屋のドアをノックする。

 

「はーい、今出まーす」

 

 男の声なので織斑だろう、足音が近づきやがて扉が開く。

 

「どちら様ですか……って岡部先生」

「お、丁度いいな。手間が省ける。篠ノ之ちゃーん、織斑君少し借りるわ」

「え!? ちょ、いきなりなんですか!? 岡部さん!?」

 

 来客が自分だとは思わなかったのだろう。バタバタと足音を立てて寝間着姿の篠ノ之ちゃんがこちらに向かってくる。

 

「まあ、男の話って奴だ。勘弁な」

「は、はぁ……」

 

 あんまり釈然としない表情をしつつも首を縦に振る。

 

「そーいうことだ。一緒に散歩と洒落込もうぜ」

「え!? 友兄! もう門限過ぎてるし無理だ!?」

「寮監は自分だからセーフ」

「職権濫用ッ!?」

 

 自身の腕を織斑君の肩に回しつつ、寮の外へと向かうのであった。寮の外へ無事に出ると、織斑君を伴いぐんぐんと歩き、寮から遠く離れたベンチに着く。

 丁度隣に自販機があるので、お金を入れて緑茶でも買うことに。

 

「織斑君はどれが欲しい? 奢るぜ」

「……? じゃあ烏龍茶」

 

 緑茶を取り出した後、更に硬貨を投入し烏龍茶のボタンを押す。

 

「ほらよ」

「サンキュー」

 

 織斑君に烏龍茶を渡した後、ベンチに座る。そしてそのまま突っ立ている織斑君を手招きする。

 

「まあ、隣に座れや」

「……? ああ」

 

 首を傾げるものの、大人しく自分の隣に座る。

 

「訓練の後、クラス代表決定パーティーが学生用ラウンジで行われたんだってな」

「ああ、クラス代表はセシリアに決まったからな。なんでそれを?」

「2年の新聞部の副部長さんが自分にインタビューしてる時にな」

 

 納得したような表情をする。

 

「黛 薫子先輩だったっけ?」

「そうそう、そんな名前の子」

 

 雑談で織斑君の緊張を解いた後、そろそろ本番に入る。

 

「そういやさ……」

「なんだよ? 友兄」

「勝手に推薦されたとはいえ、負けて悔しいだろ?」

 

 織斑君の瞳が揺れた。

 

「でも、相手は代表候補だろ? いくらなんでも数時間操縦しただけの俺が勝つだなんて……」

「嘘を言うな。泣いてるぞ、織斑君」

 

 そう言うと織斑君はすぐさま腕で目元を擦る。だが、袖は濡れてなかった……

 

「カマかけたんだよ。意地っ張りめ」

「なんで? なんでわかったんだ?」

 

 織斑君は不思議そうにこちらを見つめる。

 

「そりゃ、高校時代から自分と織斑君はそれなりには顔を合わせてるし、それに加えて去年いっぱいまでは一緒に住んで、生活しただろ? お互い……ある程度はわかるさ」

 

 一瞬、いつもの茶化し癖で『お互いにえちぃ本の場所も分かり合ってるだろ』と言いかけたが、なんとか踏みとどまる。

 

「じゃあ……なんでそんなカマをかけるなんて事を?」

 

 不機嫌そうに唸りながら聞いてくる。

 

「いいか? よく聞け」

 

 ここから自分の独壇場だ。言わなければならない事がたくさんある。

 

「織斑君、君は今大変な立場にいるんだ」

「立場って……男性操縦者だろ?」

「それだけじゃない。君はあの織斑千冬の弟でもあるんだ」

「そして、篠ノ之姉妹の知人でもあり……」

「この自分の知人でもある」

「君は狙われやすい立場なんだ」

 

 これに織斑君は反論する。

 

「でも、他は他で自分は自分だろ?」

「だが、他のやつはそうは思わんぞ」

 

 この言葉に織斑君は声を荒げる。

 

「なら! 俺が千冬姉達の邪魔だというのか!」

「そうじゃない。誰が君は要らないと言った。誰が悪いとかそう言う次元の話じゃない。これは……運命なんだ!」

「なら……どうしろってんだよ……ッ!」

 

 そう言って、織斑君は項垂れる。

 

「自分も篠ノ之姉妹も、織斑さんもそうだが織斑君……君もこの先険しい運命が待ってるだろう」

 

 織斑君はこちらを見つめる。

 

「だからこそ。ISを……『白式』を君に託したんだ」

「なんでそこでそうなるんだ……?」

「生身では何も出来ない。だが、ISは武器でありツールでもあり……そして、権力とも成り得る。もし君が使いこなせる様になれば……」

「自分の運命を切り拓けるのか……?」

「そうだ」

 

 正確には手を出しにくくなるだけだが……まあ、無いよりはマシだろう。

 

「だからこそ、強くなれ。この世の理不尽に立ち向かえる様にな」

 

 そう言いつつ、自分のISに合図を送る。

 

「でも……確実に強くなるなんて保証は無いぜ……?」

「いや、確実に強くなる。おいで、『白式』」

 

 そう言うと、まずは自分の腕時計が反応し、ついで織斑君のリストバンドが反応する。

 そして、自分のISと白騎士が目の前に現れる。

 織斑君は何故自分の声に白式が反応したのか不思議に思っているのか、自分と白式を交互に見つめる。

 

「ISは搭乗者との息が合えばそれこそ空前絶後の超兵器と化す。一般に適合率が合えばの話だ」

「でも、俺の適合率は『B』、箒に至っては『C』だぞ!?」

 

 これに反論する。

 

「いいことを教えてやる。実はな……」

「織斑君と篠ノ之ちゃんの適合率は『S』なんだよ。これは自分と織斑さんと同じ適合率だ」

「でも! 証拠が……」

「証拠ならある」

 

  そう言うと、白式は勝手に動き出し織斑君の目の前に跪く。

 織斑君が驚く中、自分のISも同様にして跪く。

 

「これが証拠。篠ノ之さん曰く、相性バッチリ……なんだとか」

「これが……」

 

 そう言って、織斑君は白式を見つめる。

 自分は微笑みながら、織斑君の頭に手を置き、撫でる。

 

「ま、運命とか立場とかそんな小難しい事を言う前に男なんだから女や大事な人の一人や二人、いやむしろ全部守れねぇとな」

 

 そう言うと、織斑君も釣られて笑い出す。

 

「そんな漢に鍛えあげるのが友兄の仕事じゃないの?」

「自分の扱きは地獄だぜ? ついていけるか?」

「勿論」

「じゃ、これで話は終わりだ。とっとと戻るか」

 

 ISを待機状態に戻し、寮へと戻るのであった。

 

 寮に帰った後、織斑君とはお別れし、今度はオルコット嬢の部屋に向かう。ドアをノックした後、扉が開く。

 

「どなたですの?」

「どうも、夜分遅くに済みません」

「っ! 岡部先生!?」

「少し、話があるんだ。休みに言ってた報酬の件について」

 

 現れたのは髪を下ろしたオルコット嬢。すぐさま要件を言うとすんなり入れてくれる。

 部屋の中はオルコット宅から持ちだしてきたであろう家具類がならんでいる。一人部屋に希望できる代表候補生ならではだ。

 

「少しお時間を頂ければ、紅茶をご用意致しますけど……?」

「いや、あまり夜の淑女の部屋には長くはとどまらないので、お気になさらず。」

 

 そう言ってテーブルに着く。

 

「それで……報酬は何なんですの?」

「織斑君の力になって欲しい。正確に言えば、彼を鍛えてやって欲しいんだ」

「それはまた……どうしてですの?」

 

 オルコット嬢は不思議そうにする。

 

「あいつが社会に出ても、理不尽に潰されないように教え導くのは教師として当然じゃないのかな?」

「IS実習のみの岡部先生がそう仰られてもあまり説得力は無いですが……まあ、そうしておきましょう」

「そうしてくれると助かる」

「それに……一夏さんはまだまだ強くなられますわ。そう……代表候補生になるまでがむしゃらに頑張っていた私のように……」

 

 そう楽しそうな目で言う。

 

「へぇ、彼のこと……それなりには認めているのか」

「勿論。短時間でブルー・ティアーズのビットをかいくぐった人は一夏さんと貴方ぐらいの物ですわね。」

 

そりゃいいことを聞いた。

そう思って席を立ち、部屋を出ようとする。

 

「そういえば岡部先生」

「なんだい?」

「お父様とお母様からの伝言なのですが……『今度の夏にオルコット邸にいらしては?』とのことですわ」

「……善処はしとくよ」

 

 そう言って部屋を出たのであった。

 

   ■   ■   ■

 

 職員会議の後、自分だけ教務主事の同僚に呼び止められる。

 

「転校生?」

「そう、中国の代表候補生が少し遅れてここに来るのよ。それでつい先日2組の方に転校するのが正式に決まったんです」

「は、はぁ……で、いつですか?」

「それが……今日なのよ」

「今日!? えらく急ですね?」

「まあ、1年生の寮の部屋自体は代表候補生用の部屋は空いていますし……」

「それで……いつ頃来るんです? その子? 出来れば特徴や名前も知りたいのですが?」

 

 そう言うと、同僚は書類を取り出す。

 

「これが、その子の資料です」

「どうも。報告ご苦労様です」

 

 資料を受け取り、IS実習に向かうのであった。

 午前は2年生を相手にIS実習を無事に行い、授業が終了するとスーツに着替え、ベネックス女史と合流してIS学園の公用車に乗り込みエンジンをかける。目的地は最寄りの空港だ。

 

 空港に着き、警備員に事情を説明して正面エントランス前に一時停車させてもらう事に。自分はそのまま待機して、ベネックス女子が迎えに行く。

 やがて、ボストンバッグを持った小柄なツインテールの女の子をベネックス女史が連れてきて、その子の荷物をトランクに入れた後、後部座席に座らせてからベネックス女史は助手席に乗った。

 

「IS学園へようこそ。凰(ファン) 鈴音(リンイン)さん」

 

 そう言って、車を発進させる。

 発進させて暫くの間はベネックス女史がIS学園内での簡単な説明をしていて、鈴音嬢はそれを真剣に聞いている。自分はただひたすらに運転のみに集中している。尾行している車は無いか、すれ違う車のナンバーは見覚えがないのか、歩行者が不審な動きを見せていないかとの警戒も怠らない。

 ベネックス女史の説明が一通り終わると、今度はミラー越しに自分をちらちらを伺う。やがて、決心がついたのか口を開く。

 

「もしかして……運転している人って……」

「ええ、貴方のクラスの担任の岡部 友章先生よ……」

「嘘……大物じゃない……」

 

 驚いて、口をアングリと半開きになる。

気持ちは分かるが……

 

「ISで学園の男と言ったら……自分と織斑 一夏の二人ぐらいなものですよ……」

「……そうだ。一夏はどの組にいるんですか!?」

 

 ふと、運転しながらそう返すと織斑君の単語に盛大に引っかかる。でもって、遅ればせながら以前、織斑君が言ってた母国に帰ってしまった女の子の話を思い出す。

 

「織斑君は1組にいるよ……そうか、君が織斑君のセカンド幼馴染か……」

「もしかして……昔よく遊んでた千冬さんの友達って……」

 

 自分の言葉になにか引っかかったのであろう。割りとあまり知られていない事実を呟く凰嬢。

 

「その考えで合ってると思うよ、凰さん」

「……なら強い訳だわ……」

 

 一人で何か悟ったように納得して呟く。何か解せない気もするが……

 

「あ、そうそう。折角だから同じ男の立場として織斑君に会う前に一言……」

 

 そう言って、ミラー越しに凰嬢をちらりと見る。彼女は少し緊張した面持ちでこちらを見つめる。

 こりゃ篠ノ之ちゃんと同様に凰嬢も織斑君にホの字ですな……

 

「三年ぐらい前……だっけ? 毎日あなたのお味噌汁を作りますの改変版を中坊成り立ての織斑君が理解できるとは思えないけど……ちょっとかっこつけてマセた感じが仇になってるっぽいよ」

「ウニャー!?」

 

 そう言った途端、彼女はボッ……っと発火するように顔を赤面させ、頭を抱える。

 いやだって、その言葉を正しく理解するのは結構難しいだろ……

 

「まあ……頑張れ? 倍率は結構高いけど……」

 

 そう言って、意味を理解出来ずに首を傾げウンウン唸っているベネックス女史を見ながら、引き続き車を運転するのであった。

 

   ■   ■   ■

 

 IS学園に到着後、凰嬢を学寮の代表候補生用の一人部屋に案内し、本国からの届いた荷物を確認ないしボストンバッグを部屋に置いた後、学園内の案内に入る。

 まずは学寮周りから始まり、ラウンジや購買、アリーナや教室などを回る。説明はベネックス女史が担当してくれたのでこちらとしては大分助かる。

 

「おや、岡部先生とベネックス先生」

 

 誰かに呼ばれたので凰嬢共々振り向くと、パンツスーツ姿の織斑先生がいる。織斑先生の姿を見て、なにか思い出したのか凰嬢が小さな声でうにゃ、と鳴いた……

 

「ああ、織斑先生でしたか」

「今は……中国の代表候補生の案内かな?」

「そういった所です」

 

 そう言うと、織斑さんは凰嬢の方へ顔を向ける。

 

「そうか……私は隣の1組の担任をしている。織斑 千冬だ……まあ、よく知ってるとは思うがな。凰 鈴音さん」

 

 そう言いながら微笑む織斑さん。凰嬢は誰この人……と言った感じで見つめている。

 

「まあ、クラスが違うから、授業ではIS実習位しか会えないと思うが……よろしく頼むよ」

 

 それでは、引き続き学園内の案内……お願いします。と言って去っていく。

 

「……岡部先生。あの人、ホントに千冬さん?」

 

 信じられない表情で後ろ姿の織斑さんを指す。

 

「君の目には織斑さんがどう写っているのか気になる所だが……いつもどおりの織斑さんだけど……」

「……引き続き案内を頼みます」

 

 今のは無かった事にするらしい……

 引き続き、案内を再開する。ここでベネックス女史と別れ、自分と凰嬢の二人で歩く。今度はグラウンドから各部活の建物についての案内と説明をする。

 

 丁度、剣道場の前に差し掛かった時だ。向かい側から織斑君、篠ノ之ちゃん、オルコット嬢、簪嬢の4人と遭遇する。傍から見たら羨ましい光景じゃなかろうか……

 織斑君と篠ノ之ちゃんは竹刀袋とボストンバッグを持ち、オルコット嬢と簪嬢は投影型ディスプレイを出しながら何やら話し合っている。向こうは距離が遠く、視線がズレていることもあってかこちらには気づいていない。

 

「なっ!?」

 

 その様子をみた凰嬢は絶句し、そして次第に不機嫌な表情になりだす。

 

 うわ……ヤッバ……

 

 不穏な空気をすぐさま感じ取り、凰嬢の肩を叩き、そっと彼女に耳打ちする。

 

「言ったろ? 三年前の告白の意味を分かれというのが酷な話だ。許してやれ……」

「それよりもッ! ……あの娘達は誰なの!?」

 

 フーッ! フーッ! ……と向こうの恋敵(?)に威嚇しつつ答える。

 

「あいつらか? 織斑君の隣にいるのがファースト幼馴染の篠ノ之 箒で、後ろにいるのがイギリスの代表候補のセシリア・オルコット。で、その隣の眼鏡型の携帯用投映ディスプレイをかけてるのが更識 簪」

 

 そう答えた途端、一気に駆け出す。それとほぼ同時に自分も飛び出し後ろから羽交い締めにして抑える。

 

「フシャー! フシャー!」

「あーもう……! 分かった分かった。浮気現場を発見したからってそう怒るな。な?」

 

 落ち着いたのか凰嬢は羽交い締めにされたまま、首を自分の方に回す。いつもの四人は剣道場に無事に入って行った。

 

「じゃ、どうやってあの中に入れって言うのよ……」

 

 心なしか少し涙目で問いかける。まあ、心中は察せるけど……

 

「……しょうがないな。手伝いましょうか……」

「ホント?」

 

 涙目で問いかける凰嬢。

 

「範疇に入るかどうか分からんが、生徒の声に答えるのが教師ですしなぁ……出来るだけ手伝ってみようか……」

 

 ここでふと、もしオルコット嬢と簪嬢も一夏に惚れたらと考えてしまう……うん。

 

 修羅場じゃねーか!!

 

 まさかな……

 

 そこまで想像した所で、涙目状態から復帰した凰嬢。そのままプイと顔をこちらから背ける。

 

「……ありがと」

「まあ、ドンドン青春しろよ」

 

 そう言って羽交い締めの状態を解き、自分についてくるように指示する。

 凰嬢は大人しく指示に従い、ついてくる。そのまま剣道場内に入り、いつものメンバーがいるところに足を運ぶ。そこには丁度、頭の防具を着けようとする織斑君と篠ノ之ちゃんの姿と、その様子を観戦しているオルコット嬢と簪嬢の姿があった。

 

 そして、織斑君に一言。

 

「おーい、織斑君。転校生にセカンド幼馴染が来たぞー」

「え? 鈴が来たのか!?」

「私の他に幼馴染……だとッ!?」

「あらあら……」

「……もしかして修羅場?」

 

 騒然となる中、自分はそっと物陰に隠れていた凰嬢を彼女自身が着ているIS学園の制服の衿台を持って引っ張りだし、背中を押す。

 背中を押された凰嬢は勢い余って織斑君の前に出る。

 その様子を自分は生暖かい目で見ているのであった……

 

   ■   ■   ■

 

 月、水、金曜の放課後にアリーナで行われる、織斑君達と愉快な仲間達との訓練は凰嬢を迎えたことにより更に激しくなっていた。

白式、打鉄のキメラ機、ブルーティアーズに、打鉄弐式……そして凰嬢の専用機甲龍(シェンロン)の生徒機。

 

 そして、暮桜弐式と自分のISの教官機。

 お互いに並んで向かい合うとすごい壮観である。

 

「よーし、今日の訓練はどうするんだい?」

「まさか何も考えてないだろうな……」

 

 気楽に織斑君達に尋ねる自分にニヤニヤ笑いながら問いかける織斑さん。

 

「はい! 友章、射撃がしたいです!!」

 

 勢い良く手を挙げる。織斑君。

 

「一夏さん! そう言って、前回も前々回もマニュアルでの射撃をしたではありませんか! 今度は岡部先生は私と踊っていただくのですわ!」

 

 そう言って拗ねるオルコット嬢。

 

「待て、セシリア。ただ単に円状制御飛翔(サークル・ロンド)で回避と射撃の両方を練習したいだけではないか……今回は模擬戦で岡部さんと千冬さんに自分の実力を見せたいんだ」

 

 そのオルコット嬢の言葉に反応し、突っかかる篠ノ之ちゃん。その三人がガヤガヤと言い合いになる。その隙に、打鉄弐式がPICで音を立てないように超低空移動でこちらに寄ってくる。

 

「……あの……織斑先生と岡部先生のお二人に……マルチロックシステムの改修と……山嵐の調整が……したいのですが……よろしいですか……?」

 

 上目遣いでこちらを見つめる簪嬢。これに篠ノ之ちゃんが気づき……

 

「あ!! 簪、ずるい!」

「簪もなのか!?」

「簪さん! 抜け駆けは禁止ですわ!」

「だって……箒ちゃん達が……中々決まらないから……」

 

 そう言って、簪嬢が言い合いに加わる。

 最初はオドオドしてばかりだが、一ヶ月も経てばまあまあ慣れるようである。

 

「フフフ……なら今回は私が岡部と模擬戦でいいな?」

 

 そう言って、自分を見つめる織斑さん。

 

「……千冬さんってこんな人だっけ……って、違ーう!! まずは私と岡部先生との模擬戦でしょう!!」

 

 しばし、その様子を呆然と見ていたが、やがて復活し自分に詰め寄る凰嬢。

 それを見た織斑さんが一言。

 

「別にブリュンヒルデである私でも……構わんのだろう?」

「丁重に岡部先生との模擬戦の権利を差し上げます……」

「フフ……身をわきまえてる娘は……私は好きだぞ……」

 

 即座に平伏する凰嬢に何やらサディスティクな視線を向ける織斑さん。どうも、この上下関係は覆そうに無さそうだ……

 

「全員意見をまとめてないので、全て却下します。それにしても模擬戦かー……それもいいかな。」

「模擬戦なら私とだよな!? な?」

 

 織斑さん詰め寄らないで下さい……

 

「勿論、私ですよね? 岡部さん!」

 

 篠ノ之ちゃんは笑顔で言わないで……

 

「……私のミサイルラッシュ……興味ありませんか?」

 

 簪嬢は上目遣いをやめて……

 

「私と踊って下さいまし……」

 

 オルコット嬢はダンスを誘うように手を差し伸べないで……

 

「甲龍の実力を見せてやるわ!!」

 

 凰嬢は意気込まないで下さい。

 

「友兄! 男同士なんてのも、悪くないよな?」

 

 織斑君は期待に満ちた目を向けないで。

 全員の視線を一手に受ける自分。

 

「……いつから自分対誰かになるといった?」

 

 唖然とする一同。

 

「普通は生徒同士で模擬戦して経験値貯めてから教官だろ……なので、今日の模擬戦第一回戦は篠ノ之ちゃんとオルコット嬢ね」

「え?! セシリアさんとですか?」

「箒さんと……ですか……」

 

 突然の指名に驚く二人。……残りはこっち見ないで……

 そして、二人は渋々模擬戦の準備をする。

 

「そういえば、セシリアとは初めてだな」

「言われて見れば……そうですわね」

 

 お互いに近接ブレードとレーザーライフルを構える。

 

「準備はいいかい」

「大丈夫だ」「よろしいですわ」

「それでは、開始ッ!!」

 

 自分が声を張り上げ、模擬戦が開始される。

 まずはオルコット嬢のレーザーライフルの銃口が光るが、その前に篠ノ之ちゃんはブーストを噴かして射線を外れ、回避する。その後素早く納刀し、瞬時にアサルトカノンを量子変換で取り出して撃つ。近接ブレードをちらつかせていたのはブラフのようだ。

 

「甘いッ!!」

 

 アサルトカノンの銃弾に気づいたオルコット嬢は急いで射線から離れるが、片足に被弾。シールドエネルギーが減少した。

 

「クッ……なんて切り換え速度なんですの!?」

「クイックドローはお手の物さ」

 

 その後、射撃戦に以降する。アサルトカノンとレーザーライフルによるシールドエネルギーの削り合いだ。

 両者共にシールドエネルギーが規定の5割を切ったところで、オルコット嬢はビットを1つだけ展開して篠ノ之ちゃんに張り付かせる。

 

「そのような物、叩き落とす!」

 

 それに気づいた篠ノ之ちゃんは一気にブーストを噴かし、ビットを叩き切ろうとするが、オルコット嬢のレーザーライフルがそれを阻止する。

 

「あらあら、私を忘れてもらっては困りますわ」

「ビット1つだけとは……少し相手を舐めているのではないか?」

 

 そう言って、反動の強いアサルトカノンから反動がマイルドなアサルトライフルに切り替えて、突撃。しかし、オルコット嬢の専用機、ブルーティアーズに対し加速性能に劣っている打鉄では追いつけない。

 

「何!? ビットを使用している時は動けないはずでは!?」

「それはビットを多く、そして同時に動かしている時ですわ」

「……クッ! しまった……」

 

 そう言うと、すぐさま回避行動に移るが、背後からビットがレーザーを放ち、その内の一発が打鉄の背中に命中。シールドエネルギーを持っていかれる。

 

「ほらほら……私からの攻撃もありますわよ?」

 

 サディスティクな視線を篠ノ之ちゃんに向けながら、ビットとの連携で十字砲火を浴びせる。

 篠ノ之ちゃんも回避に集中しなければならなくなり、中々反撃できない。

 

「これは……かなり、厄介だな……ッ!」

「それでは、ここで終わらせましょうか。」

 

 苦しい表情で呟く篠ノ之ちゃんに宣告を下すオルコット嬢。残りの3つのビットを展開し、更に濃密な十字砲火を形成させる。更に用心深く、ミサイルビットもその周囲に展開し、二重の構えをとる。

 

 その時、篠ノ之ちゃんは不敵な笑みを浮かべた……

 

「それを待っていた……ッ!」

 

 そう言うと、即座にIS用の多目的ロケット擲弾発射器を構え、オルコット目掛けて撃つ。

 こっそり時限信管でも調整したのか、篠ノ之ちゃんのすぐ前方で起爆。篠ノ之ちゃん自身もシールドエネルギーを削りつつも、残りの容量がミリ残りの状態で耐える。

 

 そのかわり、これに耐え切れなかったビットやミサイルビットが撃墜される。

 

「そんな……信じられない……!?」

「これで、終わりだ!!」

 

 そう言ってオルコット嬢に向けて近接ブレードで吶喊。

オルコット嬢はビットの操縦に神経を集中させたため、なにも出来ない状態だ。

 近接ブレードの切先は確実にブルーティアーズを捉えそして……

 

「シールドエネルギー切れでダウン判定。よって勝者……セシリア・オルコット!!」

 

 自分はディスプレイで二機のシールドエネルギーの容量を確認しそう告げた。

 

 切先がブルーティアーズを貫く前に、奇跡的に生き残っていたビットが最後の力を振り絞りながら、自らの推力と引き換えにレーザーを放ち、打鉄に命中したのだ。

 

 オルコット嬢の意地が、自身を勝利に導いたのだ。

二機は地上に降りる。

 

「……無念だ……クッ!」

「……今回は運が良かっただけですの……」

 

 二人共々衝撃だったようで、悔しそうな顔をしつつ、うなだれる。

 

 しかし、自分と織斑さんは拍手を二人に送る。

 他の生徒達も拍手を二人に送る。

 

「大変いい勝負だったぞ。篠ノ之、オルコット」

「篠ノ之ちゃん、専用機持ちの代表候補生相手によく頑張った。あと一歩の所まで追い詰めたじゃないか」

 

 その言葉を聞いて、二人はとても驚いている。

 

「岡部さん…… 本当ですか?」

「ああ、腕を上げたね。篠ノ之ちゃん」

 

 そう言って頭をポンポン、と優しく叩いてから、軽く一方向に撫でる。

 

「……! ありがとうございます! 岡部さん!」

 

 悔しそうな顔から一転、パァ! と華が咲くように笑顔になる。

 

「……私はどうなんですの?」

 

 少し拗ねた表情でこちらを伺うオルコット嬢。

 身内ばかり相手にしてるのがあんまり気に入らない様子……そりゃ当たり前か。

 

「勿論、油断せずにしっかりとトドメをさそうとする姿勢も良かった。そして、何よりも諦めずに生きているビットを探し出して咄嗟に一撃を加えたあれは……長い事その機体に乗らないと中々出来ないことだ……今回の模擬戦は良かったぞ。よくやった、オルコットさん」

「……はい! そう言って貰えて、とても光栄に思いますわ!」

 

 そう言って誇らしげにするオルコット嬢。

 

「篠ノ之とオルコットは休憩! 次! 織斑君と凰さん!」

「織斑君と凰さんは休憩! 次は……やっぱ希望通り自分と簪さんでいこうか。あ、織斑さん、補助頼みます」

「次は織斑君とオルコットさん。30分間、円状制御飛翔(サークル・ロンド)!」

「次! 篠ノ之さんと凰さん!」

「二人共お疲れ様。 最後に……織斑さん……やりましょうか?」

 

 こうして、今日の放課後の訓練は過ぎていった……

 

   ■   ■   ■

 

 寮の自分の部屋にはちょくちょく来客が来る。今晩もまた……誰かが自分の部屋をノックする。

 

 ……と、ドアを叩く音がしたのでそんなモノローグを思い浮かべながら、ドアを開ける。

 

「友兄! ゲームしようぜ!」

 

 同じ男同士……というか貴重な男子なのか織斑君がよくこっちに遊びに来る。やはり年頃の女の子と一緒だと精神が張り詰めるのだろうか……

 

 篠ノ之ちゃんやオルコット嬢に簪嬢、さらにはつい先日凰嬢までも加わり、彼もそれなりには苦労しているようだ。

 

 織斑君は主に遊び目的か、篠ノ之ちゃんの入浴時の避難先として自分の部屋をよく利用する。

 この時間に来たということは篠ノ之ちゃんの入浴時なのだろう。

一通り二人でゲームをして遊んだ後、織斑君は部屋から出ていった。

 

 しばらくすると誰かがドアをノックする。ドアを開けると……

 

「ちょっと聞いてよ岡部先生!!」

 

 つい先日IS学園に転校してきた凰嬢である。

 転校初日にあんなことを言ったおかげかすっかり凰嬢専属の相談役になってしまっている。

 ちなみに2組での彼女はマスコット的キャラ……ぶっちゃけ愛玩動物として愛でられています。愛玩動物として愛でられつつも、面倒見が良く、ちょくちょくIS実習で他の生徒のフォローに回ることがある。流石代表候補生……

 

 余談だが、オルコット嬢は理詰め過ぎて、篠ノ之ちゃんは感覚的過ぎてダメでした。

 

 その為なのか、なぜかクラス代表はみんなを引っ張ってくれる凰嬢の方がいいという声が挙がり、クラス代表自身もそれに賛成の為見事(?)クラス代表に選ばれたというね……

 そういった出来事を思い浮かべつつ、凰嬢を部屋に上げ、冷たいお茶を出す。

 

「で、今日は何があったんです? 凰さん」

「そうよ! 聞いてくれる! 一夏ったらね……」

 

 今回は相談ではなく、愚痴のようだ……

 こういった感じに相談とは別に、一夏への唐変木に対する愚痴も行なっている。

 なぜこうなったかと言うと、最初の相談で「すぐカッとなって一夏に手をあげてしまうんだけどどうすればいいんだろ……岡部先生……」という相談に対して……

 

「ストレスの捌け口として誰か気の利いた人に愚痴ればいいんじゃないかな?」

 

 と、答えた所、凰嬢の愚痴の聞き役に決定した。

 教師だし可愛い生徒の頼みなんだからいいよね? ……って言われると反論出来ぬ……

 やがて、今日の愚痴から始まり、次第に昔の話の愚痴にまで発展した凰嬢の愚痴は一通り言い終えると一時終わりを迎える。

 

 ……一度だけ、「もう直接どう考えても曲解できない位ドストレートな言葉で告白したらいいんじゃないかな?」と尋ねた事があるが答えとして返って来たのは凰嬢の赤面した顔である。

 

 凰嬢も篠ノ之ちゃんと同じタイプですか……

 

 そう面倒臭く思ってしまった自分をどうか許してほしい。

 

「……ふぅ、なんだか胸がスッキリしたわ。ありがと、岡部先生」

「ああ、別にいいよ」

 

 お茶の入ったグラスを飲み干し、スッキリとした顔になった凰嬢。

 

「また、何かあったら頼みますねー岡部先生ー」

 

 そう言って、部屋を出ていく凰嬢。教師って……大変なんだね……

 そう思いながら、グラスを洗い乾燥機に入れるとまたノックが……開けてみると……

 

「岡部先生、夜分遅くに失礼しますわ」

「岡部さん、遅くに失礼します」

 

 篠ノ之ちゃんとオルコット嬢が、二人共お風呂上がりで色っぽいです……

 

「ん? なんだい?」

「明日の休みなんですけど……買い物に付き合ってくれませんか?」

 

 そう尋ねる篠ノ之ちゃん。

 

「いいけど……オルコットさんは?」

「私も箒さんと同じですわ」

 

 そう答えるオルコット嬢。しかしふと疑問が浮かぶ。

 

「そりゃ、いいけど……荷物持ちなら織斑君がいるんじゃないの?」

 

 そう言うと篠ノ之ちゃんは呆れ顔で言う。

 

「当の一夏は、『今度の休みは友人の飯屋に行って来る』……だそうだ」

「うーん……学生なら連絡橋のモノレールでも問題ないけど……荷物もあるだろうしなぁ……」

「ですので、岡部先生にエスコートをお願いしたいのですの」

 

 自分の言葉に同調するかのように喋るオルコット嬢。

 

「……仕方がないな……わかった。ミニバンで良ければいいけど?」

「ありがとうございます! 岡部さん!」

「助かりましたわ! 岡部先生」

 

 そう言って、いつ頃出発するのかを自分に告げてから自室に戻っていった。

 その後、シャワーを浴びてバスタオルで体を拭いている時にまたドアがノックされる。大声で少し待ってもらうように言うと、急いで拭いて寝間着に着替え、ドアを開ける。

 

「岡部……一緒に私の部屋で飲まないか?」

 

 自分の姿をマジマジと見ながら織斑さんがお酒を勧める。

 

「すいません。明日、用事で車に乗るんで……」

「……そうか……済まなかった……」

 

 そう言って、ションボリしながら隣の自室に戻る織斑さん。ゴメン、明日の買い物ついでに何か買いますからね……

 織斑さんの背中を見つめながら、そう堅く決心するのであった……

 

   ■   ■   ■

 

 次の日、朝早く起きて、自身のISに織斑君の監視を命じた後、出かける用意をしてそれが終わる時に丁度、ドアがノックされるので開けるとそこには私服姿の篠ノ之ちゃんとオルコット嬢と凰嬢が……

 

「あれ? 凰さんも一緒に行くのか」

「話が早くて助かりますわ岡部先生」

 

 そう言って、そのまま寮を出ていき、教員用の駐車場へと向かう。

 そして、自分のミニバンへと向かい、ロックを外す。

 

「前から順に二席、二席、三席のシートなんでご自由にどうぞ」

 

 そう言うと、三人共同時に助手席のドアノブに手をかける……

 

「む」「あ」「あっ……」

「あ、いつもの癖でつい……」

 

 篠ノ之ちゃんが申し訳無さそうにする。

 

「あ……あたしは前のほうが好きだから……」

 

 凰嬢は動揺している。

 

「あれ? オルコットさんが助手席に座りたいだなんて……?」

 

 ふと、疑問が湧いたので呟く……

 

「……実家だと、いつも後部座席のみだったもので……」

 

 思わず三人共「なるほど……」と、言ってしまう。流石お嬢様……

 

「な、ならセシリアに譲ろうか……それでいいだろ? 鈴」

「え、ええ。そうね……私達は真ん中の二席に座るわ」

「あ? ありがとうございますわ……?」

 

 そう言って、後部ドアを開け、真ん中の二席に座る。運転席の真後ろの席が篠ノ之ちゃんで、その隣が凰嬢。

 その後、自分はドアを開け、運転席に座る。最後にオルコット嬢は恐る恐るドアを開け、助手席に座る。

 

「お、おじゃまいたします……」

「まあ、そんな固くならずに……あ、ドア閉めて」

 

 そう言われて、ドアを閉める……が弱すぎで半ドア状態になる。

 

「えーと……もっと強く」

「もっと強く……ですか?」

 

 そう言ってもう一回助手席のドアを開けて、閉めるが気を使っているのかまた半ドアになる。

 篠ノ之ちゃんと凰嬢は半ば呆れ顔である。

 

「……しょうがないね。うん」

 

 そう言って運転席から身を乗り出し、うつ伏せ状態でオルコット嬢の膝の上に上半身を載せてから、ドアを開けて……閉める。その 後、ロックをかけてから起き上がる。

 

「うう……申し訳ありません。岡部先生……」

「まあ、しょうがないよ……ちょっとした……カルチャーショックのような物だし。」

 

 顔を赤くしながら恥じらうオルコット嬢……

 一方篠ノ之ちゃんと凰嬢は「これが本物のお嬢様……!!」と戦慄している。

 

「……で? 目的地はどこなんだい?」

 

 その言葉に「あっ……」と我に返る三人娘。

 

「そうですわね……『レゾナンス』なんてどうでしょうか?」

 

 あの超大型複合施設か……まあ、買い物にはぴったりだね。

 

「そうね。アタシは賛成」

「異議なし」

「わかった、なら出発」

 

 超高性能伊達メガネのナビゲート機能を起動し、車のエンジンをかけて出発したのであった。


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