No matter what fate   作:文系グダグダ

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09:IS学園 5月~6月 クラス対抗戦

「岡部先生、私です、篠ノ之です」

 

 とある休日、寮にて自室のドアを叩く音が聞こえ、篠ノ之ちゃんの声が聞こえる。

 

「やあ、時間通りだね」

「こんな時間に何かあるんですか? 岡部先生。言いつけ通り、一夏も連れて来ましたけど……」

「友兄、なんだってこんな時間に?」

 

 ドアを開けると、不服そうな顔で二人がいる。現在夜中の3時……まあ、そうなるわな。

 

「ありがとう、篠ノ之ちゃん。まあ、とりあえず入った入った」

 

 二人を部屋に招き入れ、鍵を閉めて、とりあえず冷えたジュースでも出しておく。二人はちょうど都合よくテーブルに座ってたので、テーブルの上にジュースで満たされたコップを置いておく。

 

「はい、どうぞ」

「ありがとうございます」

「サンキュー」

 

 そして、最終確認として、ISのハイパーセンサーやその他の既存のセンサーなどを駆使し、この場には自分を含めた三人しかいない事を確認する。

 

「じゃあ、始めるか」

 

 そう言って投影型ディスプレイを二人の前に出す。その様子に戸惑いを隠せない二人。そして、通信が繋がりディスプレイには……

 

「やあやあ、アッキー……ワァオ! 今日は箒ちゃんといっくんだー!」

「姉さん!」「束さん!」

「うん。ちょうど二人と話でもしたいだろうなと思って、二人に来て貰いました」

 

 そう伝えると束さんはグッ、と親指を立てて

 

「さっすがアッキー! 気が利くぅ! でも、束さん的にはもうちょっと早い方が良かったかなー?」

「ははは、篠ノ之ちゃん達がIS学園に慣れるまでは流石に無理があるからねー、こんな時期になりました。でも、まあ……喜んでくれて嬉しいよ」

 

 目が点になる二人を見つつ、まるでいつも話しているかのように、自分と束さんは会話をする。

 実際、IS学園に教員として入った時から、こういった時間を見つけては、ちょくちょく束さんと通信はしているのだ。織斑さんも織斑君とオルコット嬢とのクラス代表争い以降、よく加わっている。

 

「……で、お二人さんは結構話すネタが多そうだから、変わるか?」

 

 そう自分に言われ、二人は勢い良く首を縦に振る。

 

「是非とも」「もちろん、変わるよ」

「じゃあ、しばらくは三人で話すといいよ。自分は少し席を離れておくからさ」

「それじゃあ、話が終わったら束さんの方から連絡するよ」

 

   ■   ■   ■

 

「で、私の部屋に来たと……」

 

 篠ノ之さんと篠ノ之ちゃん、織斑君との三人で話をさせたかったので、大人しく隣の織斑さんの部屋にお邪魔した。自分はソファーに座り、織斑さんはベッドに座り込んでいる。

 

「ええ、やっぱり……色々と話したいことがあると思うし、お互いに」

「確かに、そうだが……相変わらずお前は荒治療が好きというか……なんというか……」

 

 そう言いながら、彼女は呆れる。

 

「むしろ、みんなが消極的だと思うけどなぁ……」

「私はむしろ、お前は積極的すぎると思うがな」

 

 うーん、そうなのかな……いや、織斑さんが言ってることだし、そうなんだろうな……でも……

 

「えー、だって昔から篠ノ之さんと二人で話してる時から『ちーちゃんやいっくん、箒ちゃん達はもっと束さんを頼ってくれてもいいのにな~』ってボヤいてましたよ?」

「……訂正だ。お前等が積極的だと思うのではなく、積極的すぎるんだ」

 

 解せぬ……まあ、束さんの力を借りてまでの事が純粋に無いんだろうね、三人は……って普通は無いよね。自分は、色々と注文したなぁ……セミオートのカスタムスナイパーライフルとか、拳銃(GuardianⅠ)とか……特にこの2つはわざわざ参考資料まで作ってまで頼み込んだ代物だし……

 確かに、積極的と言うか……遠慮が無いなぁ……自分。

 

「えー、でもゲスト機も篠ノ之さんに色々と武装の要求をしていたような……」

『それらはシミュレートの結果、武装として不適格なので廃棄ないし返却いたしました。もともとはノウハウの習得の一貫ですので』

 

 解せぬ……

 

「……ところで、クラス対抗戦の事なんですけど……」

「露骨に話題を変えてきたな……まあいい」

 

 白い目でこちらを見る織斑さん。

 

「やっぱり一般学生と代表候補生の差って……覆せないですかね?」

「流石に厳しいな。経験が違いすぎる」

 

 バッサリと切り捨てる。

 別に、それはそれでいいんだけど……やっぱり、一応公式戦だし、もっとハイレベルな物を自分としてはご所望したいのだが……

 ほとんど自分に来るのは当の代表候補生達……やっぱりこう……意識というかヤル気の差が、そのまま実力に直結してるような気がする。

 まあ、放課後の模擬戦なんかを偵察するのは中々の評価に値するけど……もう一押し欲しい感じかな?

 

「うーん……個人的には代表候補生グループに一矢報いて欲しいんだけどなぁ……一般学生達には」

「……言いたい気持ちもわかるし、オルコットや凰を引き締めておきたい気持ちもわかるが……少し難しいのでは?」

 

 暫く考えこむが、いい案は浮かばなかったようだ。

 

「やっぱり? 自分は今でもあんまり人気は今ひとつだし、織斑さんは逆に人気が有り過ぎて高嶺の花みたいな存在になってるよね……」

「中々、もどかしいな……」

 

 そう言って二人ともども溜息をつく。

 その後、他愛も無い雑談や、おつまみでも食べつつ、篠ノ之さんの連絡が来るのを待っておく……

 

 と、突然二人の目の前に投影型ディスプレイが現れる。

 

「ヤッホー。箒ちゃんといっくんはもう自室に帰ったよー」

 

 大体、話し終えたのか。少しばかりスッキリしたような感じがする。

 

「内容は……聞くのは野暮か……」

「まあ、当人達が納得したのならそれでいいですよ」

 

 少しばかり内容は気になるが……別にいいだろう。

 

「ねえねえ、アッキー。束さんのIS学園就職の件なんだけどどうなったの? の?」

 

 束さんはワクワクしながら、メタリック感溢れるウサミミをピコピコさせる。

 

「まあ、大変だけど……なんとかなりそう……かな?」

「全く……ここまでこぎつけるのは中々骨が折れるぞ……」

 

 そう二人で言う。事実、この件は大変難航した。

 

 なにせあの……行方知れずの篠ノ之さんである。

 

 ホントに、学園上層部相手に良く舌が回ったものだ……あと、楯無嬢や織斑さんにも色々と手伝ってくれたし、本当にありがたかった……

 

「そこまで迷惑かけちゃったの? たの?」

 

 と、ウサミミを垂れるようして申し訳無さそうにする。これはいけないのですかさずフォローにはいる。

 

「いや。疲れたのは事実だけど、それ以上に篠ノ之さんとまた一緒になれる方が嬉しいよ。その為なら、自分は何だってできますよ。ね? 織斑さん?」

「あ、ああ束は私の……その……し、親友……だからな……」

 

 フォローに入る自分を見て、織斑さんもそれに続くが……面と向かって言うのは照れるのか、少し目線を逸らしつつ、顔を紅潮させる。

 その様子を見て、初めは驚いていたが、次第に篠ノ之さんは笑いを堪えきれ無くなり……

 

「あははっ! ちーちゃんったら、照れてるー!」

「……照れてなど……ない……」

「どう見ても……照れてるよ……プフッ……」

 

 次第に肩をプルプルと震わせる織斑さん。……あ、ヤバ。

 

「……学園に来た時には、盛大に歓迎してやろう……な?」

 

 この言葉の真の意味を知ったのか、篠ノ之さんは顔を青くする。

 

「アッキー! 束さんやっぱり放浪の旅が良いー!?」

「……調子に乗るからです。諦めて下さい……」

 

 ホントにこの二人は名コンビだと思うよ、うん。

 

   ■   ■   ■

 

 クラス対抗戦まで日が少なくなってきた頃、IS実習も終え、職員室に戻ると何故か生徒さんがいた。それも二人。向こうはこっちに気づいてないようだ。

 

「えーと、そこの一年生?」

 

 とりあえず無視するのもアレなので声をかけると、驚き、こっちに顔を向け、駆け寄って来る。

 

「えー、何か用かい?」

 

 そう言うと少しおっかなびっくりしつつ答えようとする。

 ……確か、二人は3組4組の生徒、しかも両方共クラス代表だ。放課後の模擬戦でも良く偵察していたことは記憶に新しい。

 

「あの、クラス対抗戦って……規定量のシールドエネルギーを削れば勝ちなんですよね?」

「ああ、そうだよ」

 

 片割れが……3組のクラス代表の質問に答える。次は4組のクラス代表が口を開く。

 

「装備や武装の制限なんてものってありませんか?」

「いや、特には。けれども、専用機は武器・武装の性能や特性によっては、その分のシールドエネルギーを差っ引いて貰うけど」

「なら、私達の打鉄やラファールは大丈夫なんですね」

「うん。基本的には問題は無いよ」

 

 そういうとホッとした表情を浮かべる二人。

 

「別に、ラファールや打鉄に付属されてない物でもいいんですか?」

「うん、IS学園にあるやつならね。」

「じゃあ……」

 

「スモークディスチャージャーってありませんか?」「自動迎撃装置みたいなのが……欲しいです?」

 

 うーん……調べてみる? そう思い、手持ちのPDAで調べることに

 

「ちょっと待ってろ…………残念、IS学園には無いね……」

「そうですか……」「ありがとうございます」

 

 ホントに残念そうな顔をして、去って行く二人……ホントに無いけど、なんか悪い事したような気分だなぁ……

 

 そう思いながら、自分のデスクに座ると、アリーナとISの使用届けがおいてあった。

 

「んーと、名目は『2年・3年でのクラス対抗戦反省会』日にちと時間はクラス対抗戦当日で時間はその後……ふーん。」

 

 届出の書類の詳細部分を見てみると、打鉄3機・ラファール3機編成という結構規模の大きな物だ。まあ、クラス対抗戦当日は晩ぐらいに予定があるので、時間制限はかけさせて貰うが許可してもいいだろう。

 そう判断して、その書類に判を押し、赤ペンで『但し、午後8時迄とする』と書いてからその書類を保管しておく。

 

 まさか、これって楯無打倒の為のやつじゃないよね? いやいやそんな間抜けな……一応、報告でもしておこうか? まあ、念の為に……

 

 そう思って、メールでその趣旨の事を打ち込んで楯無嬢に送った後は……さぁーて、学生達の成績付けだぁ。

 

   ■   ■   ■

 

 今日はクラス対抗戦。

 

 各学年のクラス代表が学年トップを目指して試合をするという物である。

 そして、只今……一年の第一試合、2組対4組に向けて、凰嬢のいるピットに赴いていた。

 

「どう、凰さん。調子は?」

「バッチリよ、岡部先生」

 

 そう言って、甲龍のマニピュレータでグッと親指を立てる。

 

「凰さん。確認だけど、甲龍のシールドエネルギーは打鉄やラファールの約半分の減少で敗北になるから、注意してね」

「ええ、それは何度も聞いたわ。あとは、それの対策もね」

 

 自信満々に答える。初めて回避訓練を行った時から、もう何度も回数を重ねているので、それなりには上達しているだろう。

 

 問題は……経験ですけどな……

 

「……岡部先生? なにニヤニヤしてるの?」

 

 視線に気づいたのか怪しげにこちらを見る凰嬢。

 

「気のせいだろ、さあ! 気合入れて行くんだぞ!」

「……そーいう事にしとくわ……じゃ、頑張ってきます!」

 

 そう言って、甲龍は誇らしげに飛び立つのであった。

 

 甲龍を見送った後、教員用の観戦席に戻る。いやはや、こんなに事が運ぶとは思わなかった。結局、最後まで彼女達は3組4組の偵察には気がついていなかったようだ。折角の機会だから、これを機に少しばかり意識改善のきっかけにでもなってもらいましょうか……

 教員用の観戦席に入ると、そこには織斑先生、山田先生、ベネックス女史がいる。自分が来たことに気づいたベネックス女史はこちらに駆け寄って来る。

 

「岡部先生、どうでした? 凰さんの様子は?」

「まあ、いい調子だと思うよ」

「それは良かった。このクラス対抗戦では、専用機持ちや代表候補生は制限がかかってますからね。少しの油断が命取りともなりますからね」

 

 ホッとした表情を浮かべるベネックス女史。このまま立ちっぱなしも何なので、織斑先生の隣にお邪魔することに……

 

「隣、いいですか? 織斑先生?」

「ああ、構わん」

 

 了承を貰ったので、そのまま椅子に座る。織斑先生と山田先生はコーヒカップ片手に試合が始まるのを待っている。その時、隣からティーカップを2つ持って、ベネックス女史が自分の隣に座る。

 

「はい、岡部先生。ミルクティーでいいですか?」

「ああ、それでいいよ。ありがとう、ベネックス先生」

 

 そう言って、彼女からミルクティーの入ったティーカップを貰う。

 

「あ、皆さん。そろそろ始まりそうですよ」

 

 山田先生がそう言いながら、コーヒーを啜る。……あ、苦かったのか砂糖を追加した。隣の織斑先生は平然としてるのに……

 

 そんなこんなしているうちに、一年生の2組対4組による、試合が始まる。2組は凰嬢の駆る甲龍。対する4組はラファールだ。4組……頼むぞ……

 まずは一撃いれようと、甲龍が青龍刀を構え、ラファールに迫る。あまり近接戦闘は強くないラファールの弱点を突く形だ。

 これに対してラファールは……煙に消えた……。これに慌てたのか甲龍は急停止、そのまま煙の無い方に引き返す。

 

「え……? ラファールにそんな機能……ありましたっけ?」

「いえ、そんなモノは無いはずですが……」

 

 不思議そうにアリーナを眺める山田先生とベネックス女史。アリーナの観戦席にいる生徒も驚きの表情だ。

 

「岡部先生、何かやったのか?」

 

 そんな中、織斑先生がただ一人……自分を凝視する。

 

「あんまりにも3組4組が哀れなので、ついカッとなって少しばかり助けてあげた。それだけです」

 

 あの時、IS学園にはご所望の装備は無かったが、楯無嬢や最寄りの在日米軍、国連軍辺りに連絡を入れ、お願いしてみると案外手に入った。

 理由としては、『ISと現代兵器との共存』だとか『IS戦術論』や『射撃型ISの考察』、『ISにサブシステムは必要か?』みたいな論文の製作に欲しいと言ったら、物凄いアッサリとくれた。

 結果、発煙弾発射機(smoke grenade dischargers)と自動迎撃装置の一種であるハードキル(直接迎撃)型のアクティブ防護システム(Active Protection System)が送られてきたので取り付けておいた。

 

「やはりか……」

「教師は生徒の味方ですから」

「放課後の模擬戦で3組4組が見に来てても普通に無視してたのもそれか……」

 

 溜息を吐く織斑先生、出来るだけ贔屓はしたくないですから……ね?

 

 騒然とするアリーナ、しかし試合は続いている。

 甲龍はラファールを燻り出すついでに煙を吹き飛ばそうと、龍咆で撃ちまくる。しかし、煙を完全に除去するよりも前にラファールの攻撃……多分、マズルフラッシュと発砲音から推測するにアサルトカノンの弾丸が甲龍に襲いかかる。

 と、ここで今までの回避訓練が活きたのか、甲龍はなんとかかわし、アサルトカノンがとんできた方向に向けて、龍咆を撃つ……が、どうも手応えが無いらしい。

 

 そうこうしているうちに、煙幕も薄くなってくるが、再びラファールが煙幕を張り始める。ある意味、最強の兵器だとかよく誇張されてきたISだが、いくら適性が高くともISコアとの相性が悪かったり、操縦者が未熟な学生程度ならば精々最強の歩兵止まりといったところか。ISコアとの相性が良ければ、煙幕の中でもなんとかして見えるように自動的に調整してくれるのだが……

 凰嬢と甲龍は受領してからの日が浅いので、まだそこまでの関係に持ち込んでおらず、マニュアルで色々と設定を変更するしか無い。問題はそれにすぐ気づくかどうかだ。

 

 そう思いながら、甲龍を心配そうに見ていたのだが、どうやら気がついたみたいで、ハイパーセンサーの設定をいじって煙幕でも見えるようにすると、後はほとんど一方的な闘いとなってしまった。もし、はじめの煙幕が無かったら本当にすぐに終わったであろう試合だった。

 

 結果、ラファールのシールドエネルギーが規定量を超えたので、甲龍の勝ちとなった。

 

「いやぁ、勝ちましたね。甲龍」

 

 と気楽に言ったものの……

 

 三人からなんとも言えない視線を受ける。

 

「いやぁ、確かに凰さんが勝ったのはいいんですけど……少し、いろんな意味でヒヤヒヤさせられました」

「うーん、4組も中々侮れないですね」

 

 苦笑いを浮かべる山田先生に妙に感心するベネックス女史。

 

「……それでは、私と山田先生はセシリアの様子でも見てくる」

 

 そう言って、山田先生と一緒にセシリアの様子を見に、観戦席から出ていく。二人が帰って来るまでの間、自分とベネックス女史の二人で雑談をしたり、 紅茶を淹れなおしていたりすると、アリーナから1組のセシリアが駆るブルー・ティアーズと、3組の打鉄が入場してきた。

 

「ただいま、もどりました」

「おかえりなさい」

「お二人、おかえり」

 

 そう言って、また四人並んで観戦する。

 そして、試合が始まる直前、織斑さんが口を開く。

 

「岡部先生」

「はい」

「やはり、3組にも何か小細工を?」

「ええ、そうですけど……あ、ネタバレはしませんよ。見てからのなんとやらですから」

 

 そう言うと、ちょうど良いタイミングで試合が始まる。

 早速セシリアはミサイル型ビットを2発向かわせる、振り払おうと打鉄は必死に避けようとするが、ビットは巧みに打鉄を追いかける。

 そして、ビットが打鉄にあたろうとしたその時、打鉄の背中にある格納筒から防御弾が発射され、やがて防御弾から指向性を持った散弾が発射、ブルー・ティアーズのミサイル型ビットを迎撃し、爆発させる。

 

 その様子に呆気に取られるセシリア、これを好機と捉えたのか近接ブレードを構えて急加速、セシリアのブルー・ティアーズに斬りかかろうとする。この後のセシリアの行動としては……レーザービットでは迎撃には間に合わず、レーザーライフルであるスターライトmk.Ⅲでは命中率に不安が残るだろう。

 ブルー・ティアーズに斬りかかる打鉄、観客は誰もがやられると思っただろう。しかし、セシリアは見事、近接用ショートブレード、インターセプターを用いて文字通り、打鉄の近接攻撃を迎撃した。

 

 ここまで、近接訓練の結果を残してくれるとは……流石だ。

 

 これはマズイと判断したのか、はたまたビビったのか一端引いてしまった打鉄。そのぐらいの時になると、レーザービットも全4基共に展開しており、これより先は一方的な闘いとなった。

 

 結果は1組のセシリアの勝ち。近接攻撃によるピンチから咄嗟のインターセプターで迎撃に成功したのが今回の試合の肝であった。

 

「おぉー、オルコットさんも勝った。成長してるねぇ~」

 

 三人の視線が痛い……

 あまりにも気まずいので、何故か慣れないコーヒーを飲もうとし、その際砂糖と塩を間違えるという面白すぎる事をやらかした。

 

「お、岡部先生。コーヒーに塩入れちゃってますよ!?」

「や、山田先生。このコーヒーはエチオピアン・モカと言う豆で淹れたコーヒーでね。エチオピアではこいつに塩を入れて飲むんだよ」

「へぇ、それは初耳でした。私も今度やってみますね」

「だが、お前のように砂糖と同じ感覚では入れないがな」

 

 織斑さんがピシャリと突っ込み誤魔化せなかった。ちくしょう。

 

「え? そうなんですか?」

 

 なんだかんだで気になっていたのか真似しようとしていたベネックス女史。好奇心旺盛であります。

 

 ちょうどその時、1年の決勝として、ブルー・ティアーズと甲龍がアリーナに到着する。お互いにヤル気は十分、コンディションも十分。

 二人は言葉を幾らか交わし、完全に戦闘体制をとる。さあ、試合の始まりだ。

 

   ■   ■   ■

 

 クラス対抗戦が終わった。

 残念ながら1組対2組では凰嬢の甲龍が惜しくもセシリア嬢のブルー・ティアーズに敗北を喫した。

 

 原因は……純粋にこっちに来たばかりの凰嬢の方がセシリア嬢より経験不足だということだ。主に放課後の模擬戦ないし訓練の量の差的な意味で。

 

「……と言う訳で、今年のクラス対抗戦は2組が惜しくも準優勝でした。いやー、すごいすごい」

「凰さん。お疲れ様でした」

 

 放課後のHRにて、自分とベネックス女史がパチパチと拍手している中、2組はお通夜ムードである。

 

 ……そんなにラウンジのデザートフリーパスが欲しかったの……確かに、1組は色々と集まってやったよね……クラス代表争いのパーティーとか。

 

「……そこで、だ」

 

 ニヤリと微笑みながらチケットの束を取り出す。

 生徒たちは不思議そうにそのチケットを凝視する。特に前の席にいる生徒はそのチケットが何を意味するのかがわかるので、驚きの表情を浮かべる。

 

「せっかくだから、今晩の午後8時からのラウンジは2組貸切でのスイーツのバイキングってのはどうかな?」

 

 返事は生徒達の拍手喝采となって返ってきた。いやー、頑張って頼んだ甲斐があった。

 

「さっすが岡部先生!」「やったぁー!」「キャーオカベサーン!!」

「キャー!」「キター!」「先生素敵っ!」「ありがとう先生~!」

 

 みんな入学当時と違って態度激変しすぎだろ……と呆れていると、こっそりプライベートチャンネルで通信がつながる。

 

『いくらでもいいのよね? 先生最高!』『ありがとう先生……ホントに、期待……してもいいの……?』

 

 お前等もテンション上がってるのね……

 

「そーかそーか、じゃあ配るから、今晩忘れずに持ってくるんだぞ」

 

 そう言って、生徒達にチケットを配っていく……その時、ふとベネックス女史と目が合ってしまう。

 

「岡部先生……私も……いいですか?」

 

 顔を紅潮させつつ、しおらしくしながら尋ねる。貴女も好きなんですね……

 

「ええ、だからちゃんとありますよ? 先生の分。普段からお世話になりっぱなしですから、そのお礼も兼ねて」

 

 そう言って、チケットを見せる。

 

「Youpi!! やった!」

 

 そう言って、喜びのあまりハグする。アンタもか。

 

「わかりましたから、みんなが甘いもの好きなのはわかりましたから! はやくHRを終わらせて、晩のバイキングでも、ね!?」

 

 今日の2組はいつもの1組並みに賑やかだったよ……

 

   ■   ■   ■

 

 で、放課後。ISの保管庫から、待機状態の打鉄とラファールをそれぞれ三機取り出して、2年・3年生に渡しておく。

 念の為にゲスト機のコアを通じて、各ISのコアやアリーナのシールド担当のコアに何かあれば逐一報告、又は対応するようにと頼んでおく。

 無事、全機から了承を貰ったので、職員室に戻り、自分は大人しく書類業務を淡々とこなしていく。ホント、自分とベネックス女史の二人で処理できる書類業務を一人でこなせる山田先生は凄いと思うんだ。あれもあれで織斑さんとは最高の相棒だよね。

 

『報告、アリーナ内にミステリアス・レイディの反応をキャッチ』

 

 もうすぐ7時20分に差し掛かろうとした時、急にISコアから音声と映像が流れる。職員室なので、映像の音は消している。

 あら、ホントに会長さん打倒だったのか。一応、伝えといて良かった……

 

『状況はややミステリアス・レイディが有利です』

 

 逐一報告を入れてくれるISコアの音声をBGMにセコセコと書類業務をこなしていく。そろそろ、学生用のラウンジにも行かなくては行けないので、そろそろ引き上げなくては……

 

『ミステリアス・レイディ、打鉄2機目を撃墜。操縦者、アリーナから離脱させときます』

 

 ほうほう、ある程度のシールドエネルギーを削って待機状態にしたのか。学園用のISは全て安全対策の為、規定量のシールドエネルギーが消費されると強制的に待機状態に移行して貰うようになっている。空中にいる場合はPICで強制的に地面に降ろしてから、待機状態にしている。

 待機状態とは言え、ちゃんと残りのシールドエネルギーが搭乗者を守ってくれるので、流れ弾が多い日も安心だ。なんたって、本来のシールドエネルギーの量は規定量とは比べ物にならない程の量なのだから……IS、耐久性に関しては最強を誇ってもいいぐらいの性能である。

 

『ミステリアス・レイディ、ラファール3機目を撃墜。操縦者、アリーナから離脱させときます』

 

 これで相手は打鉄のみとなった。6対1でここまでだとは……いやはや、凄いものだ。

 

「ミステリアス・レイディの残りシールドエネルギーの量は?」

『ミステリアス・レイディの残りシールドエネルギー量は、規定量のおよそ69%です。やや注意域です』

 

 確認してる間に、ミステリアス・レイディが打鉄にトドメをさす。

 

『勝者。ミステリアス・レイディ』

「ご苦労様。他のIS達にもそう伝えておいてくれ」

『了解しました』

 

 ISにお礼を言い、学園用のISの回収をするためにアリーナに行くのであった…… 

 

   ■   ■   ■

 

 打鉄とラファールを回収し楯無嬢にもお礼を言われた後、学生用ラウンジに向かう。

 

「あ、岡部先生ー」「先生ー」「みんなー先生が来たよー」

「遅いですよ、センセー」「もうみんな集まりましたよー」

 

 ラウンジに到着すると、各人思い思いのデザートを皿に載せた生徒達が自分に気づき声をかけてくれる。

 

「悪い、ちょっと前にアリーナを使用してた生徒の相手をしててな」

 

 そう言って生徒達に手を振りつつ、ガトーショコラとティラミスをトレーに載せ、席を探す。

 ふと、クラスメイトの愛玩動物と化してる凰嬢と目が合う。どうやら、放課後の模擬戦の話らしい。多分、織斑君絡みなのだろうが……恋愛が絡むと女の子って恐い……

 

 ……これは座れそうにない。

 

 なので、別の席を探す。プライベートチャンネルで『先生のバカぁ!』と悲鳴が聞こえるが気にしない事にする。

 次はベネックス女史……ここも生徒がいてコロニーを形成している。ちょっとここに突入するのは勇気がいるな……

 やがて生徒の密度が少ない席を見つけると今度は簪嬢と目が合う。

 

「……隣、いいか?」

「……いいですよ……」

 

 と、首をコクリを動かす。なので、向かい合えるような席に座る。

 

「で、味の方は?」

「……普通」

「そうかい」

 

 そう言いつつ、和菓子を口に運んでいる。彼女のトレーを見ると全てが和菓子という徹底ぶりだ。

 

「和菓子……好きなのか?」

「……家で……よく食べてたから……」

 

 簪嬢は少し他の生徒達と比べて引っ込み思案というか内気というか……基本的には受動的な子だ。

 幸いにも、2組のみんなはそれなりには理解があるらしく、彼女との距離を適切に図りつつ、上手いことの付き合っている……と思う。

 今までは何故こんなに引っ込み思案なのかと疑問に思ったが、姉の楯無嬢のコンプレックスだと考えれば納得はいく。

 

 とどのつまり、ベクトルは違えど篠ノ之姉妹とおんなじような関係なのだ。

 

 ただし、篠ノ之姉妹は一家離散の上常に狙われている状態。更識姉妹は裏稼業の人達の将来的な中枢でただ単に双方の理解が及ばない……って結構ハードだな……

 織斑姉弟も両親はいないようだし…………自分だけ身軽で自由な御身分だなぁ、ただただ笑うしかねぇや。

 

「先生……和菓子……好きなの?」

 

 熟考していたせいか視線が簪嬢のトレーにある羊羹に突き刺さっていたらしく、不思議そうにこちらを見ている。

 

「ん……まあ、それなりに……」

「……ん」

 

 それを聞いてそっと、羊羹を渡す。

 

「ありがとう」

「……最近……あの人から頼まれた? ……私の事」

 

 羊羹食べながら答えるとするか。

 

「ん? そうだけど。布仏さんと篠ノ之ちゃん辺りかな?」

「……うん。でも、開き直られるのは……意外」

「別に後ろめたい理由も無いので」

 

 そう言うと、簪嬢はどら焼きを一口囓る。

 

「じゃあ、あの人に何を頼まれたの?」

「君の保護。生徒会は学園最強が云々でそういうのはタブーらしいけどねー」

 

 特に黙りこくる理由も無いのであっさり喋る。後は変に誤解しないように言葉を付け足す。

 

「まあ、会長さんはホントにホントに」

 

「ならあの人に伝えておいて、余計なお世話って」

「いつでもお姉さんに会うなんてことも早々ないなら何時になるかはわからないよ?」

 

 直接姉に会って言って来いと言外にほのめかす。少々荒療治だが、やっぱりこういう時は姉妹でガチ口論かガチ喧嘩でもしてお互いに言いたい事を言えばいいと思うよ。

 

「なら、好きにして」

 

 ――チッ、ヘタレやがった。

 

 そう内心で舌打ちをしつつ、残りの羊羹を食べ終える。

 どうやって、この子を説得できるように引きずり出せるのか考える。ちくしょうめ、結局更識家の好感度稼ぎと銘打って家庭のトラブルに首突っ込んでるじゃねぇか。

 おまけに当の簪嬢は頑固と来た。これ以上自分が言っても逆効果だし、みんなに話を通しておいて彼女を説得……なんてことをしたらもう最悪だ。

 

「そうか……ごめんね」

 

 残念ながら、自分にできるお節介はここまで。後は、楯無嬢の方面からアプローチをかけるか……似たような境遇の篠ノ之ちゃんがフォローに回るか…………少し心配になってきたぞ……

 一人っ子の自分としては、なんとも言えない感覚を味わいつつ、残りのお菓子を食べていく……

 

「……あ、そうだ。新しくお菓子を取りに行くけど、何か欲しいのやつはあるかい?」

 

 しばらくは無言でお互いに食べていたがちょうど両者共に食べ終える。しかし、このままだと気まずいので少し雰囲気を変えるために話を振る。これで無理なら素直に離れるべきだろう。

 

「……じゃあ、洋菓子。先生が良いと思ったのを……」

「あいよ」

 

 気まずい事を言ったのを自覚しているのか、あっさり了承してくれる。自分が選んだものをご所望するのは少し予想外だったが……

 彼女を待たせるのもいけないのでとっととトレーを持って行く事に……すると、凰嬢にインタビューしている上級生が一人。新聞部部長の黛 薫子(まゆずみ かおるこ)だ。

 彼女はクラス代表争いの後でも、織斑君とオルコット嬢辺りに取材をしたのは記憶に新しい。

 ついでに蛇足だがその時の新聞部が発行したタブロイド紙を見たことがあったが……まあ、よくある女性向けの大衆紙のような物だった。しかしIS学園での大衆紙ということで、内容はここやIS関連に特化したものが多く読んでてそれなりには楽しかった。ISスーツってあんなにあったんだな、初めて知った。

 ちょうど、凰嬢へのインタビューも終わったのか笑顔で去ると、こっちと視線が合う。

 すると、パァ……と明るい笑顔、営業スマイルを浮かべてこちらにやって来る。

 

「あ、どうもどうも。私、IS学園新聞部の部長をやっております。黛 薫子(まゆずみ かおるこ)と申します。」

「これはご丁寧にありがとう。1年2組の担任をやっております。岡部 友章です。」

 

 お互いに頭を下げ、自分は新聞部の部長の横を通り抜ける。こういうのはスルーするに限る。

 

「あ、ちょっと! お話を伺いたいのですが!」

 

 慌てて、こちらを追いかけるが、自分は気にせずデザートをトレーに載せていく。あ、このエクレア美味しそうだな……簪嬢にとっておこう。

 

「ちょっと! スルーしないで下さいよぉ!」

 

 無視されて若干涙目になりつつある部長を尻目にどんどん選んだデザートをトレーに載せていく。キルシュトルテやバームクーヘン、ブラマンジェなどを選ぶ。

 自分も簪嬢多分そこまで多くは食べれないので、これぐらいにして彼女の元へと戻る。

 

「はい、好きなのを好きなだけ取ってくれ。あと、紅茶も入れたけど……いる?」

 

 コクリと頷いて、簪嬢は紅茶とエクレアを取る。

 

「あら? かんちゃんじゃない! 岡部先生と一緒にいるなんて、珍しいわね」

「ん? 更識さん知り合い?」

「あの人の友達」

 

 何故か脳裏に、IS学園の新聞部が発行した書物を見て爆笑する楯無嬢が浮かんできて、反射的に納得してしまう。確かに、そういうゴシップ記事とか好きそうだよね……

 

「で、完全にスルーしたのに涙目になってまで自分に聞くことなんてあるかい? 残念ながら、女の子受けするようなネタなんて持ってないけど……?」

 

 そう言うと彼女の目が一瞬光る。なんかヤベェ……

 

「では、IS学園実習教員に至るまでの経緯……白騎士事件やモンド・グロッソでの出来事などを」

「メディアのインタビューで言った事が全てです。」

 

 そうバッサリと切り捨てる。果敢に来るのは良いことだけど、それはNG。

 

「なんでですか? 今の貴方の立場を考えたら……」

「そういう話なら尚更ダメです。諦めてください」

 

 そう断って、紅茶を飲む。

 白騎士事件の当事者でしかもモンド・グロッソの優勝者。特大のおまけに男性操縦者で一部の人間には雇われ軍人であるとくれば……ね……

 取り入る要素があり、名目上巻き込まれた織斑君とは違い、自分には擁護される要素なんて皆無。ある意味男と女の敵と言っても過言では無いだろうか?

 

 しかし、表面上心配してくれている部長さんには悪いが、これ全部自分の意志ですから。

 

 白騎士事件や篠ノ之ちゃんの近くにいてあげたり、IS学園の教員になったのはのは篠ノ之さんに頼まれたから。モンド・グロッソは織斑さんに頼まれたから。雇われ軍人になったのは自分の記憶が知りたいから。

 

 動機は何らかの事象に巻き込まれるような形だが、それでもやると決めたのは自分の意志があったからだ。そうじゃなきゃ高校卒業時点で自衛隊に直行してます。

 

 そして、自分がゲスト機の搭乗者で、初の男性操縦者だとバラしたのは篠ノ之姉妹や織斑姉弟が背負っている物を軽くしてあげたいから。さらに欲張りな事にIS学園に来てから、良い教師にも成りたいだなんて思い始めてもいたり……

 これは傲慢かも知れない、だが自分はそれでもやりたいと思ったのだ。いやーやりたいことがいっぱいあって大変だぁ。

 

 ……でも、優先順位は篠ノ之姉妹や織斑姉弟だよ……まずは彼らが一番大切だから……良い教師になるのは当分先の話かな……?

 

「そうだね……そういうタブー以外の事なら……IS学園関連ならもしかしたら答えられるかもしれないね」

 

 持ち帰るネタが無いというのも寂しい物なので、遠まわしに条件付きで答える事を伝えると、途端に目を輝かす部長。

 

「それでは! どうです? ISスーツを着た生徒に合法的に指導できるのは?」

 

 むせた

 

 吹き出さないだけマシであるが、その代わり激しく咳き込んでしまい、簪嬢が気を使って背中をさする始末。

 

「あら? こう……見る!触れる!動かす! みたいに出来るでしょ?」

 

 そんな一昔前のおもちゃの売り文句じゃないんだから……

 

「ガキンチョ相手にそんな気起こすかよ……」

「そうですか……『2組の担任は女子大生以上のお姉さんが大好き』……っと……それではありがとうございまーす」

 

 そう言うと笑顔でラウンジから立ち去るのであった。ゴシップのネタにされるのは勘弁してほしいものである……

 

   ■   ■   ■

 

「また転校生!?」

「ああ、また……転校生だ……」

 

 思わず声をあげる自分とこめかみを押さえる織斑さん。

 6月に入ってすぐの事であった……

 

「ええー……末には学年別タッグトーナメントがあって更に7月入ってすぐに一般科目の前期定期テストですよ!? しかもその後、夏休みの一部を使っての1年生限定の臨海学校もありますし……」

「だから今の時期に……だ……しかも二人もいる……」

 

 二人共深いため息をつく。何故なら、この時期の転校生なんて代表候補生かそれに準じるレベルの生徒でしかありえないからだ。当然、1組2組の負担が増えるのは当然の事だ。

 

「で、どこの代表候補で、どこに振り分けられるんですか……」

「ドイツとフランスだ……しかも両方私の所だ……」

 

 なんでドイツに出向したからといってここまで私に押し付け……もとい期待しているのか……と、ボヤく織斑さん。流石にここまでだと同情したくなる。

 

「それは……お気の毒に……何かあれば遠慮なんてせず、すぐに自分に相談して下さいね」

「ありがとうございます、岡部先生」

 

 そう答える織斑さん。その答えに自分は少し不満なので、こっそりプライベートチャンネルでさらに伝える。

 

『そんな水くさい事は言わないでください。織斑さんも自分の本当に大切な人達の中の一人なんですから……ね?』

『……そうか……それなら、今後のアテにはさせてもらうとするよ。ありがとう』

 

 そこまで言葉を引き出したので満足。引き続き転校生の話へ……

 

「で、いつ来るんです? その代表候補生達は?」

「明日だよ……」

「明日!? また随分急な……」

「先方からのゴリ押しのようでな……全く……」

 

 再びため息をつく織斑さん。ここであることに気づく。

 

「ところで、ドイツから……って聞きましたけど……もしかしたら織斑さんの知り合いかも知れないですね」

 

 織斑さんのファンっていっぱいいますし……と付け加える。

 

「正解だよ……そのもしかしたら……だ」

「へえ、どんな娘?」

「去年ドイツに出向した時、偶々ドイツ軍のIS部隊にもレクチャーしてほしいと言われたので、そこに出向いた時に……な……」

「ドイツ軍!? 子供なのに?」

「まあ、正確に言えばドイツ軍の災害救助部隊……という名目の特殊部隊だがな……嫌な話さ」

 

 そう言い捨てる織斑さん。それには自分も大きく同意。「原因はお前等だろ」とか言われそうだが、当事者としては「んなもん知るか」と言いたいもんである。元々IS自体宇宙開発用なのに、戦争や政治に使おう考える人達に文句を言って欲しいものだ……

 

「まあ、その話はじっくり聞かせてもらうことにして……じゃあ、また公用車を引っ張り出さないと……」

「そうだな……何故ここはそんな細かい所まで男がいないのだろうか……理解に苦しむ……」

 

 そうお互いに首をかしげながら疑問に思うのであった。

 

   ■   ■   ■

 

「そういう訳で、明日の放課後の模擬戦は無しだ」

 

 放課後、補習という名の模擬戦や訓練などが終わった後、いつものメンバーにそう報告すると、みんな残念そうな表情を浮かべ、がっくりと肩を落とす。

 

「まあ、そう気を落とすな。もしかしたらこのメンバーに新しい仲間を加えての補習になるかもしれんぞ」

 

 そんな落ち込むみんなをフォローするかのように、織斑さんが言う。

 

「本当か!千冬姉!?」「本当ですか!岡部さん!?」

 

 自分と織斑さんは無言で拡張領域から出席簿を取り出し、白式と特装型打鉄の頭部をどつく。

 

「痛いよ千冬姉!?」「ひどいよ岡部さん!?」

 

 凄く気持ちいい快音を出した二人は涙目で自分と織斑さんを見つめる。ISに乗ってるからできる芸当だ。

 

 ……何気にシールドエネルギーが減っているが気にしない事にする……別に、人間用の9ミリパラベラム一発分だしいいや……

 

「篠ノ之、織斑。ちゃんと先生を付けろ。いいな……」

「オルコットさん、凰さん、更識さん。これが高速切替(ラピッドスイッチ)ってやつの一種だ。コイツはこうやって素早く行動に移すことが出来るから、闘いを有利に進める事だって出来るぞ。今ので十分にわかっただろ?」

 

 織斑さんが二人に説教しつつ、自分は他のメンバーに解説を挟む。

 他のメンバーはコクコクと首を縦に振る。

 

 さて、大体補習が終わった直後は、教員を交えての雑談会となる。で、今日の話題はというと……

 

「それにしても……箒、アンタ強すぎ……」

 

 篠ノ之ちゃんのIS技術の腕の話らしい。凰のこの一言がきっかけだ。篠ノ之ちゃんのみ、量産型のカスタム機だからか、そういった印象が強いのだろう。

 

「確かに、箒さんと初めに手合わせした時は大変驚きました」

 

 オルコット嬢も凰嬢に同調する。

 

「本当に……俺なんか鈴やセシリア、簪に何とか食らいついていけるのに……」

 

 織斑君も同意見らしい。

 

「む、そんなに褒められると……悪い気はしないな……」

 

 褒められて照れてる篠ノ之ちゃんの肩をポンと叩く。

 

「そりゃ、なんたって自分の一番最初の生徒だからね。気合も入るって物だよ」

「じゃあ、やっぱり……箒が強いのは岡部先生が原因?」

「それもあるかもしれないけど、やっぱりやる気と資質じゃないかな?」

 

 凰の質問にはそう答える。

 

「資質……でも篠ノ之さんの適性は「C」の筈ですよね?」

「それは一般的に数値化した時の場合さ」

「ならば……箒さんの場合は一般的では無い……と?」

 

 そうオルコット嬢が尋ねてくる。

 

「そうだねぇ、身近な人で言うと篠ノ之ちゃんはある意味、織斑姉弟に似ている……かな? つまり、剣道とかで近接戦闘には慣れているというか……下地が出来ているんだ」

「下地……?」

 

 簪嬢が首をかしげる。

 

「私や岡部先生のIS適性は「A+」を超えている……仮にこいつを「S」としよう。こいつはISを自由自在に動かすことが出来ると言われているな?」

 

 織斑さんが説明を引き継ぐ。

 

「これはモンド・グロッソを経験した私や岡部先生だから言える事だが……その程度じゃ、近接・遠隔のみでの優勝なんて無理だ」

「やっぱり、ある程度の経験は無いと、難しいよ。実際に自分も織斑先生もヒヤヒヤした場面なんて幾つかあったのは事実だし」

「では、ここで質問だ。私と岡部先生の共通点は何だ? ……あ、篠ノ之は知ってると思うから言うなよ?」

 

 そう言って、織斑さんは篠ノ之さんに釘を刺す。

 

「んー……織斑先生は一夏と同じ剣道でしょ? 岡部先生……射撃……?」

「日本でも狩猟があると聞きましたから、岡部先生は狩猟でもやっていたのでしょうか?」

 

 不思議そうにする二人、内心イジけてなんていませんよ……イジけてませんよ……グスン……

 

「……射撃競技……エアライフルとエアピストルで全国優勝していた……」

 

 その様子を見兼ねた簪嬢はそっと助け舟を出す。

 

「ま、そういう事だ。ISに触る前に何らかの競技である程度のセンスが磨かれていたおかげだな」

 

 織斑先生がさくっと結論を述べる。

 

「だから篠ノ之さんも一夏さんもそれなりには強いのですか?」

「まあ、それなら納得かな? センスが磨かれていると言っても一夏の方は織斑先生が剣道方面で監修してるし」

「箒の場合は……岡部先生が補うように射撃を叩き込んでる分……死角が少ない」

「ま、君達も補習に来てくれる限りは、自分も織斑先生も鍛えあげる事には鍛えあげるから。三年ぐらい経ったら、期待はしてもいいと思うよ」

 

 そう自分が述べて、今日の雑談は終了した。

 

 で、翌日。凰嬢を迎えに行く時と同様に公用車で空港へと向かう。今回は運転手は相変わらず自分だが、今度は助手席は織斑さんだ。

 運転中、怪しげな車か兆候が無いかの確認も怠らずに無事、空港へと到着。織斑さんは二人の代表候補生を迎えに行く為、空港へと向かう。もし万が一何かあっても織斑さんと代表候補生達はISを常に常備しているので問題は無いだろう。

 

 そう思いながら待つこと十数分後……困惑気味な織斑さんがフランスとドイツの代表候補生を連れてきた。

 片方は長い銀髪にそれとなく威圧感を感じるような雰囲気を醸し出している。左目に付けられた眼帯がその雰囲気をさらに強調している。もう片方は金髪でどことなく中性的な顔立ちをしている。織斑君みたいだな……

 そう思いながら、車から出て後部座席のドアを開ける。二人は……金髪の方は自分に会釈しながら乗り込み、銀髪の方は我関せずといった感じにそのまま乗り込む。

 

 助手席に再度、織斑さんを載せて出発。

 

「岡部先生、この二人がフランスとドイツの代表候補生……シャルル・デュノアとラウラ・ボーデヴィッヒだ……」

 

 そう言って、自分に二人を紹介すると共に二人にも自分の事を紹介する。

 

「あの……例の元ヴァルキリー兼ブリュンヒルデ……」

「教官と唯一互角に闘える事ができると言われている……あの男が……」

 

 バックミラー越しに二人の表情を伺う。金髪で中性的な方、シャルル・デュノアはニコニコしながらミラー越しに手を振っている。一方、銀髪眼帯の方、ラウラ・ボーデヴィッヒは特に表情は変わっていない。特に自分に関してはどうでも良いみたいだが、ミラー越しに目線が合うと少しだけ視線を合わせた後、逸らした。

 

 なんだか不穏な空気を感じつつ、引き続きハンドルを握る……ふーん、ラウラ・ボーデヴィッヒとシャルル・デュノア……ん?シャルル?

 

「織斑先生。もしかしたら、もしかすると……」

「私も今さっき知った。デュノアは男だ……」

 

 面倒事が確定じゃねぇかちくしょうめ……

 


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