士郎、お腹が空きました 作:みなば
『良いのかい........? それを引き抜けば君は王に』
『え?』
スポッ........擬音をつけるとすればそんな音だろう。
まるで物語に出てくる村娘の様な服装をしておきながら、まるで大国の姫の様に美しい少女がいた。 ........少々アホっぽいが。
『何か言いましたか、マーリン?』
『ああ、いや........君はもう少し人の話を聞いた方が良いと思ってね........うん、切実に』
『? よく解りませんが........斧が壊れてましたよ? 今度替えの斧を作ってください、薪が切れなければ料理も作れない』
少女は岩から引き抜いた煌めく黄金の剣を軽く数回振り、やがて納得がいったのかその場を後にしていく。
『斧を壊したのは君だろう........っまて!? 真坂とは思うが........ええいクソッ! あの女、カリバーンを薪割りの為に引き抜きやがった!!』
魔法使いの様なローブを羽織った青年が大慌てで少女の後を追うべく走り去る。 慌て過ぎたのか自分の着ているローブを何度も足に絡ませて転げながら........。
「なんでさ」
朝一番、衛宮士郎が呟いたのはそんな一言だった。
始まりは悪くなかった筈なのだ、物語の始まりとしては完璧だった。 何十年........否、何百年続いても可笑しくない位の正に王道ストーリーになる確信すら与えてくれる程の光景だった。
本当に........始めだけ。
この夢が動画だったなら衛宮士郎はシークバーを一番始めに合わせ再生ボタンを押さなかったに違いない........何というか........予想の斜め上過ぎたのだ。
可愛らしい少女が何だか凄そうな魔法使いの忠告をまるっきり無視して、何だか聖剣っぽい物を引き抜き薪割りへ向かう........ツッコミを求めているような夢だ。
いや、もしかしたらまだ夢の中なのかも知れない。
「日本食はすばらしい! 1500年待ち続けた甲斐があったと言う物です! 各国のグルメを食べ歩いて来ましたが........さっさと日本に来るべきでした、やはり私は日本人なのですね!」
どう見ても金髪白人の少女が流暢な日本語で何やら怪しい事を呟きながら「私は日本人!」などと叫んでいた。
話を纏めるなら1500年世界中を渡り歩いてきた金髪白人の日本人少女という事だろうか? ........うむ、解らん。
「おお! 起きましたか少年! 急に倒れてしまった時はどうしようと思いましたが.......あの少女と幽霊に感謝ですね。 あ、ごはん頂いてます。」
「いや、気に入ってくれたんなら良いけどさ........その、あー」
「ああ、申し遅れました。 私の名前は『セイバー』気軽に呼び捨てで呼んでください」
「え? これはどうもご丁寧に?」
違う、そうではない。
何故昨日あの場所にいたのかだとか、何故冷蔵庫にいれていた我が家の食べ物を勝手に食べているのかだとか........色々聞きたいことはあるがそうではない。
取り合えず聞くとするならば........そう。
「なぁ、それ偽名だろ?」
「........え? 何で解ったんですか?」
いや、違うだろう。 もっとこう........昨日の男は何だったのかだとかそう言う事を聞くべきなのだ。
余りにも突っ込み所が多い少女に少し自分も混乱しているのかも知れない.......いや、混乱している。 それもかなり。
「いや........あーそうじゃない。 えっと、君は何であの全身青タイツはなんなんだ」
「私が何か........なかなか難しい質問ですね。 それなりに長生きしている私も何度かその疑問について自身に問うた事がありますが何度問うても結論は同じでした、『私は私である』のです」
めんどくさい........と口から漏れだしそうになるのをなんとか止める。 先程からのやり取り、気絶する前の出来事を見て考えるに彼女は間違いなく突っ込みだすときりがないタイプだ........現に彼女の箸は一向に止まらず煮物を突っつきまくっていた。
「........じゃあ、あの青タイツは?」
「密室、男二人........あの時の状況から考えるに........貴方のおホモだち?」
「んな訳あるか!」
苛立ちをぶつけるようにテーブルを叩き彼女に抗議した。 有り得ない。 自分はノーマルだ、周りが余りにも色恋沙汰がなかったものでひょっとしたら同性愛者ではないかと一時期噂がたったがあくまでもノーマルであり異性愛者である。
「なるほど.......解っていますよ少年。 初めは誰もが否定したくなるものです」
「ぜんっぜん解って無いだろうアンタ!」
微笑を浮かべながら如何にも私解ってます的な表情をした彼女は手を止める事なくパクパクと物を食べていた。
苛立ちは限界である。 まるで進展の無い状況、此方を馬鹿にしてるような態度、あの青タイツにつながる情報は無く彼女に関する情報すら録に無い。
ガラリと何かが動く音がしたが関係無い。
「俺は女の子が好きだって言っているだろう!」
「えっと........どういう状況か説明してもらっても良いかしら、衛宮くん?」
混乱に混乱を重ね自分の口から出た、出てしまったトンでもない発言。
ソレをよりにもよって第三者に聞かれてしまった事実。
おまけに相手は何故此処にいるのかも解らない同級生で........俺は顔が赤く染まるのを自覚しながら今入ってきた少女『遠坂凛』に頷き返した........。