鎮守府を少しの間空ける事になってしまうが、4人で出掛けることにした。
しかし国と国民を守ると言う僕の体裁上、余り長く空けるのは宜しくない…ので、近場に出掛ける事になる。
「鳥海、その辺にしておいて4人でご飯を食べに行こう。丁度お昼時だしね?」
「司令官さんがそう言うのなら…」
言い終えると佐世保の頭を鷲掴みにしていた手を退け、此方を振り返る。というか、青葉も止めなかったのか…その様子からすると、彼女も害を被っているに違いない。
「でも良いのですか?此処が無人になってしまいます。」
「近くだし、少しなら大丈夫だろう。その気になれば直ぐに戻れる距離だよ。」
「呉さんの奢りらしいですよ!」
「やったぜ。」
話を聞いてない奴が居るな…いつ誰が奢るなんて言ったんだ。
でもまあ、この4人が揃って…もいうのはもう2度とない機会かもしれない。戦いに出るのはこの娘達だが、僕らもいつ誰に殺されるか分かったものでは無いのだ。
「……分かったよ、今回に限り僕の奢りにしよう。好きな物を食べてくれ。」
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「ふー、食った食ったー。サンキュー、呉!」
本当に食い過ぎだ、君は赤城の生まれ変わりか何かか。
特に警報等も鳴る事もなく楽しいひと時が過ぎ去り、時間的にも鎮守府へ戻る時間となった。
艦娘でも普通の食べ物を食べるものなのか…てっきり資材しか食べないものと思っていた。
考え事に耽りながらも、視線が一軒の店へと奪われる。
……これは、鳥海にプレゼントするにはうってつけかもしれない。僕のセンスは決して良いものでは無いが、これなら無難な所だろう。
「鳥海、先に帰っててくれない?少し寄る所があるから。」
「え…、司令官さん1人では危険………ですが、私が居ると困る用事の様ですね。」
「理解が早くて助かるよ。じゃあ、そこの2人を頼む。」
「分かりました。」
そう短く返すと、2人の背中を押して鎮守府への帰路に就く。
鳥海は本当に勘が鋭い。特に、透き通った赤い目に見つめられると、心の中を覗かれているのではないかとさえ思う。あれ程頭脳明晰ならば、彼女の隠し事なんてものは僕程度に気付ける訳がない。
「まあ、それは兎も角プレゼント、プレゼント。」
頭の中をよぎる嫌な考えを振り払う様に頭を振ると、店内へと入る。…果たして、喜んでくれるのだろうか。
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「先に行って貰っててごめん、無事に用事が済んだよ。」
執務室で待っていた3人に軽く頭を下げると、ちらりと鳥海を見る。
僕の視線に気付いたのか、小首を傾げて不思議そうに僕を見つめている。
異性に物を贈るのは人生初。これから彼女がするであろう反応を考えると胸の動悸が止まらない。もし受け取って貰えなかったら、突き返されたら、嫌な顔をされたら、僕はどんな顔をすれば良いのだろうか。
彼女がそんな子じゃないのは分かっているが、その"もしも"がどうしても拭えない。
一歩、また一歩と彼女の方へ歩みを進めていく。余程緊張した顔をしているのだろう、不安げな声色で「司令官さん?」と呼び掛ける声が何処か他人事の様に聞こえる。
「鳥海。これ…君へ。」
余りの恥ずかしさに声が震え、顔面中の毛細血管に血液が集まって頭が火照る。今、僕は最高に情けない姿をしているだろう。
女性経験のない僕が、能動的に贈り物をしたい、と感じたのは初めての事だった。出来ることなら、受け取って欲しい。更に欲を言うなら、喜んで貰えると嬉しい。
そう思って彼女に贈ったのは、可愛らしい装飾の付いた小物入れ。これを切っ掛けに、少女らしい趣味を見つけてくれれば…という、僕の願いも籠った贈り物だ。
暫く面食らった様に硬直した彼女だったが、何処か思い詰めた表情をふと見せるも、何かを諦めた様に短く息を吐く。
「ありがとう、ございます、司令官さん。」
彼女はそう告げると、僕へと一歩、歩み寄る。
そして僕の差し出した手を両手で優しく包み込むと、屈託のない満面の笑顔を浮かべて言葉を続けた。
「私、一生大事にします。この小物入れも、貴方の想いも。女の子らしくなれるように、頑張りますね?」
……よかった。ここまで喜んで貰えるなら、勇気を出して本当によかったと思う。
ただ1つ不味かったのは、この部屋には僕らの他に2人のド変態パパラッチがいた事。
まるで僕が一世一代のプロポーズをしたかの様なこの出来事は、今日、彼らが帰るまで僕弄りのネタと化した。