お ま た せ
先の大規模作戦から数十日、特に敵との大きな争いも無いまま過ぎて行った。敵の大将を討ち取ったからかは定かでは無いが…。
戦況に進展は無かったが、鳥海の行った解剖により奴らの生態について判明した事が多々あった。
以下は鳥海の提出したレポートの一部抜粋である。
1、深海棲艦同士で会話の出来る器官が備わっている。
奴らはこれを使って相互間の通信及びコミュニケーションを取っているらしい。恐らく上位の個体からの命令系統も存在するだろう。解り易い例えはイルカだが、個体によっては此方の通信を阻害する周波数を持つものが居るとの事だった。
2、元は艦娘である事。
深海棲艦としての装甲を取り外した容姿が、暫く前に初轟沈した重巡の艦娘に酷似。更にその細胞からも艦娘特有の遺伝子が検出された事から、轟沈した艦娘が卵から孵化するかの如く深海棲艦に生まれ変わる事が証明された。
他にも色々な事が綴ってあったが、取り敢えず重要なのはこの2点だろう。
確かに解剖の設備を整えはしたが、まさか此処まで研究を進めていたとは思いもよらなかった。結局研究途中の所は見せて貰えなかったし。
「…まあ、取り敢えずはジャミングに耐性を持つ通信機器を明石に作って貰わなきゃなー。これだけは困るよ。」
鳥海のレポートの成果があってか、先日、我が鎮守府に遂に明石が配属された。
しかし彼女が配属されたその日には、鳥海の指導の元、鎮守府内のセキュリティ強化の為に防犯カメラの作成やら設置やらをやらされて疲労困憊だった様だ。お陰で鎮守府のセキュリティは万全になったが。
「戦いも厳しくなるなぁ…。艦娘が深海棲艦になると分かった今、轟沈だけは回避しなきゃならなくなったし。」
書類の溜まった机に突っ伏して、思わずぼやく。
はなから轟沈させる気は毛頭無かったが、他の鎮守府はそうはいかない。どう気を付けたとしても不慮の事故は避けられないので轟沈を無くすのは不可能に近い。
現場の細かい指揮は鳥海に一任してあるから問題は無いが…
………………。
「……鳥海に頼りっきりだな、僕は。」
思えば殆ど全ての事を鳥海にやって貰っている気がする。戦闘に関してはどうしようも無い事と分かってはいるが、こうしたセキュリティの面や研究に関しても鳥海にやらせてばっかりでいる。
「もう鳥海が提督でいいんじゃないかな…」
「そんな事は有りませんっ!」
弱気になって呟いた瞬間、執務室の扉がバァン!(大破)と開け放たれる。
「上の人間は椅子にどかっと座って書類に判子を押すのが仕事です!後は私達艦娘の、周辺住民の方々に対する粗相やミスは全て、貴方の責任になってしまいます。その書類の束の中にはそういった内容の物もあるんでしょう?」
「それはそうだけど…って、いつからスタンバイしてたの、しかも良く聞こえたね…」
「私は地獄耳ですから!職業上必要な事でもありますしね?……こほん。ですから、そういった社会からの柵から私達を守ってくれている事は、私達にとって凄く嬉しい事なんです、非常に助かる事なんです。その辺りを自覚して欲しいですね。」
彼女はたわわな胸部を揺らしつつ得意気に胸を張ると、慌てた様にクールを取り繕って説教を再開する。眼福や。
「うん、ありがとう。鳥海達とは違う土俵で戦っている、って認識で居ようと思う。」
豊満な胸部をガン見してしまう悲しい癖を押し留め、なるべく爽やかな笑顔で返答する。こんな事されたら嫌でも目が行っちゃうだろ!いい加減にしろ!
すると鳥海は両手を腰に遣ってにこりと微笑む。
「宜しい。…明石さんが言うには、あと数日の内にジャミング耐性を持つ通信機器が完成するそうです。流石工廠のエキスパートですね。」
早いなおい。僕が指示する前に……でもまあ、あのレポートを書いた張本人なら、その辺りにも気付いてくれると思ってはいたが。
「なので、来週辺りには出撃出来る様になるでしょう。見回りで駆逐級の駆除は体が鈍ってしまいます。」
「ありがとう、気が利いてるね…。なら、僕の方でも情報を纏めて出撃先の考査を進めておくよ。出来次第に招集するから休んでてくれ。」
「ええ、お願いします。…では、失礼しました。」
今度はパタリと派手な音を立てる事なく退室していく。最初からそうしてくれ…心臓に悪い。
何はともあれ、次の出撃先を決めなきゃならない。未だ姫・鬼級の出現情報は来ていないが、残りの濃霧の中には恐らく居る事だろう。霧に出撃した他の鎮守府と情報交換しながら、慎重に決めて行こうと思う。