久遠寺家inちびレオの回です~
「帰ったぞ」
そんな主の言葉に、森羅を敬愛する赤毛ポニーテールのメイドかキッチンから飛び出してくる。
彼女は、主の顔を認めてぱっと顔を輝かせ、
「森羅様!お帰りが遅いので心配してたんですよ!あの下男がきちんとお世話できなかったんじゃ、ない、かって・・・・・・」
喜々とした言葉は、徐々に小さくなって尻すぼみに。
ぽかんと口を開けたベニの視線の先には、森羅の腕の中にいるちんまりとした生き物がいた。
子供、である。幼児だ。それは分かる。
分からないのは、そんなものがなぜ敬愛する主の腕の中にいるのか、だ。
口をぱくぱくさせるベニに、森羅がふっと笑いかけ命じる。
「ベニ、疑問はあるだろうが今は控えよ。皆の前でちゃんと説明する。広間に皆を集めてほしい」
「は、はいっ!すぐに」
「大佐にはもう伝えてある。他の者達を、すぐに集めるんだ。急げよ、ベニ」
「かしこまりました、ご主人様」
胸に渦巻く疑問を一時凍結させて、ベニは森羅の命令を遂行すべく階上へ向かう。
それを見送った森羅は、不安そうな顔できょろきょろと周囲を見回すレオに微笑みかけ、
「レオ、大丈夫だ。ここが私の家だよ」
「森羅ちゃんの、おうち?」
「そうだ。よし、ちょっとは落ち着いたみたいだな。偉いぞ?」
言いながら、ふよふよのほっぺを手のひらでスリスリと撫でてやる。
レオはくすぐったそうに首をすくめて、それからぎゅっと森羅の胸元にしがみついた。
自分に懐くその様子が何とも可愛くて、森羅はぎゅーっとレオを抱きしめ直し、広間へと向かうのだった。
「で、どう言うことなのかしら、姉さん」
集まったメンバーの気持ちを代表するように、未有が質問の声を上げた。
森羅は膝の上に載せたレオを愛でながら、みんなの顔を見回す。
誰もが戸惑ったような顔をしていた。
「あのぅ、レン君の姿が見えないんですけど、お仕事でしょうか?」
最愛の弟の姿を探すようにきょろきょろと周囲を見回しながら、美鳩が問う。
そんな彼女に鷹揚な頷きを返しながら、
「皆をここに呼んだ理由も、レンが不在な理由も、すべてはレオが握っている」
「レオ?」
南斗星がきゅうっと首を傾げ、じいっと森羅の腕の中の小さな存在を見た。
頬が上気して目がきらきらしている様子から、彼女はかなり、レオが気になっているようだ。
「レオとは、この幼児の名前だ。実はな・・・・・・」
レオの頭をなでなでと撫でながら、森羅は語った。
レンの姿がここになく、レオがここにいる理由を。
話が進むに連れて、集まった面々の表情が様々に変わる。
ある者は呆れたように、ある者は心配そうに、またある者は絶望の表情を張り付けた様に。
「そ、そんなぁ~。じゃあ、レン君の居場所は分からないって事なんですか!?」
「まあ、そういう事になるな。美鳩、お前のお得意の弟レーダーで何とかならんのか?」
「さっきから試してはいますけど、近くにいないことくらいしか分からなくて」
「そうか。お前ならもしやと思ったのだが、流石に無理だったか」
うーむと唸る森羅と、沈痛な表情の美鳩。
「てか、あいつも子供じゃないんですから、迷子になったとしても自分で帰ってこれるんじゃないですか?」
ベニが至極まっとうに冷静な意見を出すものの、美鳩が激しく首を振る。
「ただの迷子なら、もう帰ってきても良いはずです!それなのにまだ帰らないって事は、何かあったとしか・・・・・・」
「レンはきっと大丈夫よ。気を落とさないで、美鳩」
未有がそう声をかけるが、美鳩は取り乱したように頭を抱えて首を振るばかり。
終いには泣き出してしまった。
「レンくぅ~ん、レンくぅ~ん」
弟の名前を呼びながら泣く美鳩にどう声をかけて良いか分からず、みんなが固まっている中、小さな影が動いた。
その影は、よいしょよいしょと森羅の膝からにじり降り、とてとて歩き悲痛に泣く美鳩の前に立つと、両手を広げてその頭をぎゅうっと抱きしめた。
そしてそのまま、ぷにぷにした手の平で美鳩の髪の毛を撫でながら、
「おねえちゃ、泣かないで?」
そう言いながら、つられたようにくすんと鼻をならした。
「レオもね、乙女ちゃんに会いたいの。でも、我慢すゆ。だから、おねえちゃも、泣いちゃめだよ」
大きな瞳をうるうるさせながら、レオはちっちゃな手で美鳩のほっぺたを挟むように顔をのぞき込んだ。
次から次へとこぼれる美鳩の涙を見て困った顔をし、それから唇を寄せてその涙を吸い取っていく。
優しく、慰めるように。
ちゅっ、ちゅっ、と小さな音を立てながら。
真摯に、何とも可愛らしく。
「レオ君も、我慢してるの?」
かすれた声で美鳩が問う。
レオは泣くのを我慢したせいで真っ赤になった鼻のまま頷く。
「レオ、乙女ちゃん居なくて寂しいけど、泣くの、我慢すゆ」
ひくっとのどをならしながら、レオはそう宣言する。
その様子が余りにいじらしくて、美鳩は思わずレオを抱きしめた。
「そっかぁ。レオ君が我慢してるなら、お姉ちゃんも我慢しないとね」
そう言いながら鼻をすする。
涙はいつの間にか止まっていた。
「レオ君の乙女ちゃんと、私のレン君、頑張って一緒に探しましょうね」
「ん!それまでレオ、頑張ゆの。おねえちゃも頑張って?」
「うん。頑張るわ。ありがとう、レオ君」
残っていた涙を拭い、美鳩は柔らかく微笑んだ。
レオもえへへっと笑う。
その可愛らしい笑顔にどぎゅんと胸を貫かれ、美鳩は頬を染めながら少し戸惑った顔をした。
それに目聡く気づいた森羅が、
「ん?どうした?美鳩」
そう問うと、
「いえ、レオ君の可愛い笑顔を見ていたら、レン君にしか感じたことのない胸のトキメキが」
「ええっ!美鳩もいよいよブラコン卒業って事!?」
「いえ」
ベニの叫びに、美鳩が神妙な顔をして首を振る。
そして、う?と可愛らしく首を傾げて自分を見上げるレオを見つめた。
「私がブラコンを卒業した訳じゃありません。レオ君は、レン君に匹敵する究極の弟属性みたいです。私の中の姉属性が、それはもうキュンキュンしてますので」
「なんと!?」
「究極の弟属性ぃ~?」
森羅が目を見開き、ベニが疑わしそうにレオを見る。
「おとうと・・・・・・いいなぁ」
「なっ、南斗星さん!?南斗星さんには夢が居るよっ!!」
南斗星はうっとりとレオを見つめている。
そんな南斗星に夢が必死にアピールするが、今の南斗星の目には映らないようだ。
「全く、ばかばかしい。・・・・・・でも、あの子には半ズボンが似合いそうだわ」
「わぁ~僕、弟を可愛がってみたかったんですよねぇ~。ほら、どっちかっていうと僕、弟キャラですから、自分より下の存在が居ることが少ないって言うか」
「あんたは弟キャラって言うより、永遠の下っ端キャラだろ、あ゛?」
未有が頬を上気させながらレオの半ズボン姿を妄想し、ハルが自分のキャラ性を主張するも、さくっとベニに叩き潰される。
そんないつもの喧噪を、大佐は目を細めて見つめながら自慢の髭を指先でしごき、
「はっはっはっ、みんな元気で結構ですなぁ」
これまたいつものように笑うのだった。
読んで頂いてありがとうございました。