インフィニット・ストラトスadvanced【Godzilla】新編集版 作:天津毬
今作が初投稿ですので、駄文かもしれませんがよろしくお願い致します。
EP-00 プロローグ
2015年・7月7日・午前0時11分・某所。
「むふふーか~んせ~い。ワームホール生成装置~」
どこぞのネコ型ロボットのように言う、不思議の国のアリスのような服装の女、篠ノ之束。
彼女はISの生みの親であり、国際的テロリストでもあり、自分や自分の身内以外はクズだのゴミだのと認識している人格破綻者だ。
そして今彼女が作ったのは、今の世界とは決して交わらない、平行世界に干渉する装置だ。
そんなものを作れるから、天才であることは違いない。違いないのだが・・・
「よーしこれで異世界に行き放題だし、そこの技術もパクり放題だよね。そしてゆくゆくはそいつらも全部束さんのものに…」
・・・こんな理由だ。まさに絵に描いたようなクズである。
「よーし、さっそくスイッチ、オン!!」
しかし、この行いが、この世界を激変させ、人類世界を滅亡させ、自分の愛してやまない妹を追い詰めるほどの黙示録をこの世界に具現化することになるとは、この天才もとい天災も知らなかった。
さらに、世界と世界をつなぐとなると、天文学的エネルギーが必要になる。
そしてそれの余波が影響を及ばさないわけが、なかった。
「…って、あれ?嘘!?制御が…!?」
同日・午前0時15分・東京・墨田区。
その、とあるマンションの一室。
篠ノ之箒は要人保護プログラムによってそこに住まわされていた。
一定の家具はあるものの、家族も誰もいない、盗聴器と監視カメラしかない部屋に。
そして今は、眠れずにいた。
別に監視カメラや盗聴器のせいじゃない。それはもう慣れた。要人保護という名目で実験動物のように四六時中観察される、胸糞悪いこの状況には、もう慣れてしまった。
眠れない原因はほぼ毎晩のように見る、全長3メートルから全長85メートルの二本の突起が後頭部から生えているコウモリのような外見の異形の鳥の群れが人々を食い荒らしていくその凄惨な光景の中で、自身は鏃(やじり)のような突起が先端に付いた触手を持つ黄色い単眼の異形の鳥に取り込まれるという、酷く生々しく、おぞましい悪夢の所為だ。
「なんだというのだ…」
思わず、酷く疲れた表情で、呟いた。
瞬間、轟音と共にすさまじい衝撃波が窓の外から、箒に襲い掛かり、箒は、吹き飛ばされ、意識を失った。
同日・未明。
「う…ぐ、何、が…!?」
数分後、箒が目を覚まし、視界に入ってきたのは・・・文字通りの地獄だった。
爆風か衝撃波かによって潰れたビル。
墨田区上空に渦巻く、禍々しい、黒い太陽のような、空に開いた、孔。
そしてそこから流れ落ちてくる、赤黒い泥の柱。
その泥はマグマのように人を、車を、建物を、辺りの街を焼き尽くしていく。
「ッ⁉︎」
箒はあまりに現実離れした光景に絶句する。
が、それよりも本能的な身の危険を感じ、すぐに玄関に走っていき、靴を履き、ドアを激しく開けて、家から飛び出した。
地獄と化した、墨田区へ。
未明・墨田区。
泥が街を飲み込んで行く。
人が燃える。
人が死ぬ。
車が燃える。
車が爆発する。
建物が燃える。
建物が崩壊する。
その中を、箒は逃げる群衆にまみれながら墨田区を走って、泥から逃げる。
その後ろで。
1人が泥に飲み込まれる。死ぬ。
3人が泥に飲み込まれる。死ぬ。
8人が泥に飲み込まれる。死ぬ。
それらの人間はすぐに死んだ訳ではない。悲鳴や断末魔を上げて燃えながら死んでいった。
そして、箒はそれを聞いていなかった訳ではない。
けれど、振り返る余裕も無かった。いや、振り返れば次は自分の番なのではないか、という恐怖があったから振り返る事は出来なかった。
ただひたすら逃げて……目の前に見えた歩道橋を駆け上がり、泥をやり過ごす。
「あ……」
その時にはもう、箒以外に生きた人間はいなかった。
他の人間は皆泥に飲み込まれたか、他の何かで全て死んでしまったから。
瞬間、ドォン、ドォンと遠くから爆発音が轟き、電力の供給が断たれ、墨田区全域から、文明の灯りが消える。
けれど暗くはならない。
この世を焼き尽くさんとする炎が、人間を焼きながら、夜空を赤く照らしていたから。
そこで、箒はぺたん、と、膝をついて座り込み、愕然と燃える墨田区…否、地獄を見ている事しか出来なかった。
自分にできることは何もない。周りには誰もいない。みんな死んだ。
……こんな時、一夏なら、『何かしろ』と言うんだろうな…だが何をしろというのだ。
そう思いながら箒は周りを見渡す。
タンパク質が炭化する臭いを放ちながら燃えていくヒトだったもの。
煙を大量に吸ったせいで呼吸ができずに窒息して死んだヒトだったもの。
未だに燃え続ける木造建築が一部に使われていた建築物。
焼け落ち、完全に瓦礫と化した建築物。
誰もいない、生きている人間が誰もいない、廃墟と化した街。
「こんな状況で……どうしろというのだ…」
誰もいない恐怖とこの煉獄による絶望の所為でついには泣き出してしまい、歳相応の少女の、か細い声音で泣き出してしまう。
だが、ふと顔を上げた時、瓦礫の中で何かが動いた気がして…それが何か、考えもせずに、反射的に駆け出した。
午前1時54分・墨田区。
痛い…熱い………。
明らかに周りの瓦礫とは違う、どこかケロイドのような外見の全長3メートル近い瓦礫が積み重なる隙間、そこに、緋色の髪に童顔の少年……いや、少年の死体の細胞と同化し、取り込んだ、存在がいた。
そして、ソレはほぼ全身に大火傷を負っていた。
身体の傷…治らな…い……ここで…死んじゃうかな……。
そう思いながらソレは、今まであった事を思い返していた。
家族をみんな殺されて……俺と親父だけ生き残って、バケモノにされて……親父は、先に居なくなっちまって…ただ、親父を探しに行っただけなのに…ちっちゃくてへんてこりんな奴らに攻撃されて……それが何千日か続いて……タコみたいな奴がオレの血を飲んでバケモノになって…そいつをぶっ飛ばして…ああ、そうだ、その後……カタギリ?だっけ…そいつが俺の事を『ゴジラ』って呼んだんだっけ……?それで俺は……あ、そっか…殺しちゃったんだ…なんで、だろ…気付いたら殺しちゃったんだ…ちっちゃくてへんてこりんな奴らが作ってた、俺と親父をバケモノに変えた力を殺したみたいに、何故か……殺しちゃったんだ…
少し、何故か悲しげな、虚しい気持ちになる。
それから、変な虫と戦って……それから…なにか、とてつもなく強い力が俺に向けて放たれて……熱線で対抗して…それから……凄く、へんてこりんで、暗くて、怖い所にいたなぁ……
地面も海も空もなく、重力もなく、空気もなく、ただ果てのない黒い、チラチラと赤や青といった色の巨大な渦巻きがあるだけの、空間を思い出す。
何億日……いや…何兆日過ごしたかなぁ……あそこで…もう、絶対にあんなとこ行きたくないけど…さ。
ああ、でも…その前に、死んじゃうかな……
悲しげな、そんな顔をして、瓦礫の間から覗く、醜い地上を整然と見下ろす月に目を向け、
「せめて…最後に、親父に会いたかったなぁ……」
そう、つぶやく。
と、次の瞬間、瓦礫がどけられる。
すると、身体の所々に火傷をしたり、埃を被って、服はボロボロで、ポニーテールをした少女がソレの視界に入った。
その少女はソレの手を掴むと涙をボロボロと流しながら、嬉しそうな、安堵したような声音で、
「生きてる…生きてる……‼︎」
そう、言う。
ソレは少し、というか、かなり戸惑う。
今まで、へんてこりんは自分が居なくなる事を望んでいたから。
でも、今目の前にいる少女は、
「良かった……ありがとう…生きていて…1人でも生きていてくれて…1人でも救えて…救われた……」
自分に対して感謝すら覚えるような、そんな、変な奴だった。
でも、ソレは多分、きっと一生涯忘れない。
その少女の、その時の顔を、自身を助けてくれた、自身の存在を肯定してくれた、篠ノ之箒という少女を。
そして、天災がこの世界と異界を無理矢理繋げて、その反動で生じたエネルギーの影響で約10万人の人々が死んだ日、箒とソレ……後の篠ノ之千尋は出会った。
カチリ。
そして世界が破滅するまでの秒読みが始まる。
誰かが言った。
これは破滅だ、黙示録だと。
傲慢で驕り高ぶりすぎた人類に罰が下ったのだと。
これは怪獣王と、この世界に元々いた災いの使者に、人類が支配者の玉座から引きずり降ろされるまで、いかに生きたかという物語–−–。
とまぁこんな感じです。
次回からは6年後の原作スタート時点が舞台です。
なお、世界が破滅することは今回の現象の所為で確定しています。
いえ、ISが生まれた時点で……いや、人類が、核兵器を生んだ瞬間から…破滅は確定していたのかも知れません。
次回もよろしくお願い致します。