インフィニット・ストラトスadvanced【Godzilla】新編集版   作:天津毬

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お待たせ致しました‼︎第12話です‼️


EP-09 最前線ノ暇/雪原ノ暴龍(アンギラス)

ギジガ統合基地・兵舎

その一室。

簡易デスクの上で椅子に座ったまま上半身をうつ伏せにして子供らしい寝顔を浮かべながら眠っているユーゲンがいた。

顔を疼くめている場所には常に持ち歩いている部隊に関する記載をしたノートだ。

ユーゲンはその記録係りで、今回の作戦について記載中に戦闘と千尋たちの案内による疲労で睡魔に勝てず、眠ってしまったらしい。

そこに、リーナが入ってくる。

普通ならリーナが入って来た瞬間に意識を覚醒させ、飛び起きて「寝てなんかいませんでした。」というのだが、今のユーゲンにそれが無理なくらい疲れているらしく、無反応だった。

「あの、同志軍曹…疲労困憊でお休みのところ悪いのですが…」

リーナが声をかける。

「…ふぇ?」

すると眠い目を擦りながら少し可愛らしい声をあげる。

いつもより反応が圧倒的に鈍い。

「…ベシカレフ伍長、何か御用でしょうか…」

眠気のせいで重い瞼を指で擦りながら聴く。

それを見て、リーナは、

(…ああ、やっぱり子供なんだな…)

と思う。

ロリシカの兵員補充のために女や16歳の子供まで徴兵される徴兵制の影響で徴兵され、無理な野戦昇格を繰り返され、メドヴェーチ中隊で幾多もの修羅場を乗り越えても、まだ徴兵されてから一年しか経っていないユーゲンは、年頃の子供らしい抜けているところがあるのだ。

「…伍長?」

やっと開きだした瞼で、リーナに聴く。

「…あ、すみません。あの、今日1730時より大会議室で次の作戦の解説があるらしいので、それを伝えに…」

「あ、どうも。助かります。」

「いえ…あの、軍曹。」

「なんですか?」

「寝るなら簡易ベッドの方が良いですよ?こんなとこで寝てたら風邪ひいちゃいます。」

リーナが言う。

それにユーゲンは顔を顰めて、

「そうしたいのは山々なんですが…布団に潜ると完全に熟睡しちゃうので…」

そう、言う。

「あ、じゃあ私が起こしにきます。1650時でよろしいですか?」

リーナが気を利かせて、言う。

「あ、それくらいで。助かります。」

「いえいえ…ではそれくらいに…失礼しました。」

リーナが、部屋から出て行く。

するとユーゲンは、簡易ベッドに潜り––––––ほんの数秒で眠りに就いた。

 

■■■■■■

 

ギジガ統合基地・戦略機格納庫

 

千尋と箒は自機の整備や調整のためにそこに来ていた。

「…ふぅ」

特自のBDUに身を包み、機械油で所々を汚している千尋が、駆動系部分の整備をしながら、かいた汗を首からかけたタオルで拭う。

「…にしても、なんだこの機体…」

千尋は、怪訝な顔をして、ふと呟く。

関節やセンサーなどは既存技術が使われているが、動力源たる主機が何処か分からない。

跳躍ユニットは既存のロケット・ジェット複合エンジンだが、主機は如何なるものか分かっていない。整備班班長の山本も設計書を隅々まで確認したらしいが、それらしいものは見つからなかったらしい。

そしてこの機体には主機以外にも様々な箇所がブラックボックス化されている。

山本が今整備している155ミリ超電磁投射砲もだ。

「…な〜んか面倒くさい事に巻き込まれた感じだよなぁ…」

思わず千尋は呟く。

銀龍が墨田絡みの代物という時点で嫌な予感はしていたが、搭乗者にすら情報を開示しないのは––––––

「特自内でのハト派とタカ派の内ゲバが激化してるってか?…はぁ…面倒くせえなぁ、派閥とか政治とか…」

頭をガシガシとかきながら、うんざりした顔で呟く。

––––––ほらな?結局彼奴らは自分達しか見てない。巻き込まれる俺達の事を見ていない。そんな奴らに加担するだの、守るだの、する義理なんざないだろう?

何処からともなくもう1人の自分が言ったような気がした。

「…うるせぇよ。」

それに、千尋は無意識に呟いてしまう。

言ったところで意味などないのに呟いてしまう。

彼奴らが––––––人間が身勝手なのは今に始まった話じゃない。そして俺だって人間全てを受け入れた訳じゃない。少なくとも、まだマシな人間を受け入れただけだ。人の基準ではなく俺の基準で。

それが傲慢な事くらい分かってる。実際、自分がバケモノになる要因になった核を作った人間、使った人間までも受け入れるつもりなんてこれっぽっちもない。

家族を奪った事を、自分をバケモノに変えた事を根に持ってない訳じゃない。

…だが、それがなければ箒にも会えなかったのも事実で–––––

「…はぁ…頭痛え…。」

自分の因縁と小難しい事を考えて、頭痛がしてくる。

自分の誰にも言えない事だから。

箒と同じように自分だけで抱えている事だから。

(こんなんじゃ、箒姐のこと言えねぇなぁ…お互い様だし。)

千尋は苦笑いしながら、内心思う。

「千尋、整備の調子はどうだ?」

整備班長の山本が聴いてくる。

千尋と箒は苗字で呼ぶと紛らわしいため、下の名前で呼ぶ兵士が多い。山本もその1人だ。

「まぁやってはいるんですけど…」

千尋は微妙な顔をして、

「主機関連の確認ができないのが…ちょっと。」

そう、言う。

それに山本も苦笑いしながら、

「まぁ、銀龍は荒吹壱型丙とは違うからなぁ…運用思想とか設計思想とか…。」

銀龍は荒吹や荒吹壱型丙より若干スマートで、なおかつブレードを腕に仕込んでいる他にマニピュレーター先端や足先がスーパーカーボン製の爪になっているなど、明らかに荒吹より近接密集戦を想定した機体だった。

「でも主機まで秘密なのは変でしょう?…いざ何かしら不調があって整備したい時もできないし。」

それには山本も同意する。

いくらなんでもそれはおかしい。

主機が見られては困るのか、主機の安全性に絶対的自信があるのか…まぁ、間違いなく前者だろう。

銀龍を手掛けたのはタカ派の連中らしいから。ハト派であるこちらに知られては不味い事をやらかしている––––––と考えるのが普通だ。

「ふ〜…組織ってな〜んでこんなに面倒くさいモンなんですかね?」

千尋がため息をつき、汗を拭いながら、聴く。

「…さあなぁ…こればっかりは人間の根底にあるモンが原因なんだろうなぁ…欲深い生き物だからな。人間って。」

山本が困ったような、憂うような顔をして言う。

「ま、こいつが量産される事は無いだろうなぁ…」

「え⁉︎どうして…」

山本の言葉に千尋が少し驚く。

それに山本が理由を話す。

「まずひとつ、近接密集戦に特化した銀龍はピーキー過ぎるから汎用性に欠ける。

ふたつ、高価なパーツが使われてるからコスパ…コストパフォーマンスの面で最悪だし整備性が悪い。

みっつ、たとえ量産されても年間10〜20機程度しか無理だ。おまけに維持費が高い。

…これだけの悪要素が詰まってりゃ、兵器としては欠陥品も良いとこだぞ?なら、信頼性と安全性、汎用性が確立されている荒吹や既存兵器を生産、強化した方がマシだ。」

「あ、あ〜…た、確かにそうですね…。」

千尋はこれから乗る機体の悪い点を指摘され、少し複雑な気分になる。

「…あ〜、ちょっと言い過ぎたな。悪い。」

「あ、いえ‼︎」

「まぁ、この機体の悪い点はISにも通ずるんだよなぁ…。」

ふと、山本が呟く。

確かによく考えればそうだ。

ISは女性にしか乗れないから汎用性に欠ける。無駄に精密で高価なパーツを使うからコストが高いし整備性も悪いし維持費も高い。さらにせいぜい467機しか作れない。

これだけの要素があればISもこの銀龍と同じく欠陥兵器なのだ。

そして山本をはじめ整備スタッフはISの整備もした事があるらしいが、男女問わず、皆が声を揃えて「最悪。」と評している。

並の駐屯地や基地では整備がまともに出来ず、整備ができるのはIS関連の資材の集まっているIS学園やIS関連の企業、米軍基地くらい、らしい。

だから自衛隊ではISの導入は打ち切り、現在配備中の10機もIS学園への寄付が予定されていた。

とても手に負えないからだ。

そしてそれに反発しているIS乗りがいるが…まぁ、それはIS学園の教師になればいいだけの話。

正直な話、すでに戦略機を配備している自衛隊からすればISは目の上のタンコブに過ぎないのだ。

だから今年度を持って、ISの完全撤廃を決定した。

配備されているISは来年度に予定通りIS学園に寄付される。

––––––来年度があれば、の話だが。

「ッ⁉︎敬礼‼︎」

瞬間、箒と共に機体の整備をしていた楠本さやか二曹が叫ぶ。

見ると、戦略機ハンガー内にまりもが入ってきたのだ。

千尋も山本もすかさず起立し姿勢を整え、敬礼する。

「楽にしてもらって構わない。本日1730時に戦略機パイロット、および整備主任は私と共に大会議室に来い。今回発動予定の作戦会議がある。」

まりもは、そう言い放った。

 

 

 

■■■■■■

 

ギジガ統合基地・廊下。

千尋たちはまりもに連れられ、大会議室に向かっていた。

そして大会議室の手前でメドヴェーチ中隊の面子と出会う。

千尋と箒はその中にユーゲンを見つけて––––––ユーゲンも2人を見つけて––––––

「「あ、先程はありがとうございました。」」

千尋と箒が会釈してユーゲンに言う。

「あ、いえいえ。対した事ないです。あれも仕事ですから…。」

ユーゲンが微笑みながら応える。

「…挨拶は済んだか?入るぞ。」

まりもが少し母性を孕んだ声音で千尋と箒に言う。

 

大会議室・17時30分。

そこは大型モニターを3つと雛壇型になっているイスを備えたかなり大きい部屋だった。

そして雛壇型のイスの上には作戦に参加する実働部隊の面子とそれをサポートするCP(コマンドポスト)オペレーター達。

その中には千尋たちが属する防衛省技術試験小隊、ユーゲンの属するメドヴェーチ中隊、ラトロワ中佐率いるジャール大隊らも含まれていた。

その眼前の壇上に基地司令の中将が立つ。

「本作戦はロリシカ国防陸・空軍、ロリシカ国境警備軍、在ロリシカ米軍、ロリシカ派遣自衛隊からなる合同軍による大規模作戦である。作戦名は––––––『クリムゾン・スノー(深紅の雪)』。」

そしてそう言うと、背後のモニターに衛星写真が映る。

そこには、雪原を覆い尽くさんばかりの錆色の群れ–––––––バルゴン群が写っていた。

「これはアメリカ軍が捉えた映像だ。現在、バルゴンの群れ、推定1500体前後がギジガに向けて進行中だ。」

厳しい顔でそう言う。

「先鋒は3日後、ギジガ統合基地・第2前哨基地に到達すると思われる。すなわちここが諸君らの戦場だ。」

戦場、という言葉に千尋と箒は反応する。

今までシミュレーションの戦闘しか体験したことがなかったからだ。

「よって第2前哨基地に陸軍から2個戦略機大隊と1個戦略機中隊、2個戦車大隊と1個自走砲中隊を、国境警備軍から1個戦略機大隊を、在ロリシカ米軍から1個戦略機中隊と1個特射大隊を、ロリシカ派遣自衛隊からは1個戦略機小隊と2個メーサー小隊を移動。そこで部隊を展開し、迎え撃つ。なお、大型種が確認されていないため、司令基地からは空軍のB-52R爆撃機と在ロリシカ米軍のB-2爆撃機を航空支援に出撃させる。

また万一に備え司令基地に1個戦略機中隊と1個戦車大隊、1個自走砲中隊を展開させる。」

基地司令がやはり厳しい顔で言う。一歩間違えれば自分たちの命どころか自分たちの守るべき市民も死ぬのだ。予断は許されないのだろう。

次に第2前哨基地の地図が投影される。

ベルホヤンスク統合基地の司令基地からかつては山だったがたび重なるバルゴンの侵攻で削られた丘をひとつ越えた場所にある、ヤナ川東岸、チェルスキー山脈のふもと。

そこが第2前哨基地の所在地だった。

「諸君らも知っての通り、今年度のバルゴンはサハ共和国国境やマガタン、チュクチ・カムチャッカ方面ではなく、ギジガに向けて主にコルイマ山脈を横断するようにに集中的に侵攻して来るため、その眼前にある第2前哨基地はかなりの戦力が集中しているが、同時に被害も甚大だ。よって工兵部隊や整備部隊も実戦部隊に同行する。」

確かに、基地司令の言う通り、衛星写真から見ただけでもかなり酷い有り様だった。

滑走路には今朝のバルゴン群の死体がまだ片付けられておらず、格納庫には中型種が突っ込んで倒壊しているものもある。そのせいか吹雪にさらされている屋外で戦略機や戦車の整備をしている者も写っていた。

「到着後、整備、工兵部隊は施設復旧を優先。戦略機部隊の展開は以下の通りだ。

第2前哨基地南部に3軍共同の防衛線を構築しこれを3分割。東部戦域を国境警備軍ジャール大隊、西部戦域を在ロリシカ米軍スネーク中隊、そして中央戦域に防衛省技術試験小隊と国防陸軍メドヴェーチ中隊を配置する。」

第2前哨基地の衛星写真の南部に3軍共同防衛線が長方形の黄色いマーカーで示され、青白い点線で東部戦域、西部戦域、中央戦域に分割され、そこに各部隊のエンブレムが配置されていく。

それに千尋と箒は息を飲む。

これから死ぬかもしれない場所に行くのだと、そういう思考が、2人の脳を支配した––––––。

 

 

 

 

「千尋、箒。」

ブリーフィングが終わると千尋と箒はまりもに声をかけられた。

「…え?あ、は、はい‼︎な、なんでしょう⁉︎」

箒が思わず声を裏返しながら応じる。千尋も声は出さなかったが箒と同じようにビシィッっと、1秒足らずで直立不動の姿勢を取る。

2人共顔には脂汗が浮かんでいた。

初陣の緊張と焦燥感、膨大な情報量のせいでブリーフィングを聞いてはいたものの、内容の3割近くは頭に入っていなかった。

仮に入っていたとしても新兵の2人が作戦内容を聞いて対策を考えるなど無理だ。

だから2人共、『まずい』、と顔に書いてあった。

間違いなく、まりもに叱責されると思ったのだろう。それが当たり前だと2人共認識しているが、やはりどう切り抜けるか、焦燥感に駆られた脳内で必死に思考する。

「–––…はぁ…」

まりもが2人の意図を察したのか、ため息をつく。2人は叱責される寸前だと思い、全身を強張らせる。

「…これを読んどけ。」

「「…へ?(え?)」」

2人に差し向けられたのは罵声でも拳骨でもなく、2冊のメモ帳だった。

「お前たちみたいな新米がブリーフィングで緊張して話が聴けない––––––なんてのはロリシカ派兵組ではよくある事だ。」

まりもは怒気を孕んだ声音ではなく、呆れた様な、母性を孕んだ声音で、言う。

「今回はまぁ、見逃してやる。その代わりそのメモ帳にどう対策したら良いか書いておいたからあとでしっかり読む様に。良いな?」

「は、はいっ‼︎お心遣い感謝致します‼︎以後は先程の様な失態は…」

箒と千尋が敬礼をして箒が緊張した声音で応じる…が、遮って、

「別にそう畏る必要はない。お前たちみたいな事は誰でも最初にあることなんだ。それに上官が部下を支えてやるのは当たり前の事だ。怒鳴っていびり散らして暴力を振るうだけでは上官失格だ。お前たちだって愚痴や相談くらい私に言っても良いんだぞ?…そんな事も聞けないようでは、部下を率いる身である私の器が知れてしまう。」

微笑みながら、母性を孕んだ声音で、まりもが言う。

それに千尋と箒は心底安心して、

「「はっ‼︎有難うございます‼︎」」

威勢良く返事する。

それにまりもはやはり微笑みながら、言う。

「良い返事だ。ああ、ちゃんとメモは読めよ?」

「「はい‼︎」」

そう会話を終えると千尋たちは、まりもに連れられ、大会議室を出た。

 

 

 

 

 

■■■■■■

 

IS学園・第2シャフト。

そこでは訓練上がりのセシリアが神楽と本音と共に自機の整備をしていた。

「…もうすぐクラス別トーナメントですわね…。」

セシリアがMF-5トーネードⅡの管制ユニット内で呟く。

「そうねぇ…簪ちゃん、4組代表だからウチから抜かれちゃったし…。」

神楽が言う。

簪が4組代表である為、学園守備隊から抜かれたという理由だが、他にも学園守備隊以外に正規のIS学園教師部隊が遂に重い腰を上げて動き出したから、というのもあった。

そして次にやるクラス別トーナメントは1組代表織斑一夏、2組代表鳳鈴音、3組代表イェジー・ロドリゲス、4組代表更識簪の4名がトーナメント制で勝ち上がっていく、というイベントだった。

周りの女子たちはお祭り気分だが––––––

「…何事もなく無事に終わると良いのですが…。」

「それは…ないと思う〜…多分何か起きちゃうと思うよ〜…」

セシリア達には、そういう懸念があった。

織斑千冬の弟であり、世界初のIS操縦者の織斑一夏が参加するのだ。

何かが起きない訳が、無いだろう。

 

 

 

■■■■■■

 

IS学園・生徒会室

そこに簪はいた。

暗部当主にして日本国家代表候補生で学園生徒会である、更識楯無の部屋に。

「か、かんちゃん…その、ご機嫌斜め、かな?」

楯無は部屋のソファに座り、テーブルを挟んで簪と対峙していた。

楯無のソファの後ろには従者であり本音の姉である布仏嘘がいる。

「…別に。」

あからさまに不機嫌な声音で応える。

それに楯無は苦笑いしながら、

「し、新型ISの件は…その、ごめんね…」

簪には専用ISとして白式が送られる予定だったが、それはどういう訳か織斑に渡ってしまった。

だから楯無はそれが原因だと思って謝る。

「そうじゃ、ないよ…」

ワナワナて震えながら簪が、わずかに怒気を纏った声音で言う。

「どうして、私が4組代表なの?私より優秀な子は、他にもいた。」

「それはお父様が…だ、だってせっかく日本代表候補生の妹なのに…」

楯無は愛想笑いを続ける…が、

「…いつまで私はお父様に––––––暗部に縛られなきゃいけないの?」

静かに、しかし雷鳴のような荒々しさを孕んだ声音で簪は聴く。

それで楯無は黙ってしまう。

「お父様が私より優秀なお姉ちゃんを暗部の当主に、日本代表候補生にさせた。…で、お姉ちゃんより遥かに劣る、オマケでしかない私にまでお姉ちゃん同様に縛り付けられる未来を求めるの?何の為に?」

やはり静かに、だが怒りが激しく込み上げてきた状態で簪は言い続ける。

「お父様が、暗部が思い描いた方向を進まなきゃいけないの?でなきゃ落伍者?ふざけないで。」

やはり簪は静かに言い続ける。

「…こんなこと言っても八つ当たりにしかならないことくらい分かってる…お姉ちゃんのおかげで少しでも私は自由を手に入れられたのも分かってる…でも、なんでいつまでも縛られなきゃダメなの?私の未来は、なんで私が決められないの?」

それを見た嘘は少し悲しそうな顔をして部屋から出て行き、楯無は悲しそうだが、笑みを浮かべて、

「…そうね…貴女は私より自由だもの…自分のことくらい自分で決めたいよね…」

楯無には暗部の次期当主という、父が敷いたレールの先にある縛られた未来しかない。

だが簪はまだ自由な未来があるのだ。

楯無はそれを少し羨ましく思うのだ。

楯無の内心を察したのか、簪は少し申し訳なさそうな顔をして、

「…ちょっと言い過ぎたね…ごめん…」

謝る。

「ううん、良いの。そうよね……敷かれたレールの上しか歩まなかった私とは違って自由があるのに、まだ縛られてちゃ…鬱憤だって溜まるわよね…溜め込むとよくないから、お姉ちゃんには、そうやって愚痴として言えば良いのよ?お父様に言ったりしないし…」

「…うん」

 

 

■■■■■■

 

 

 

 

 

 

 

ロリシカ・旧オムクスチャン近郊。

バルゴンの侵攻によりかつて山だった場所はほぼ削られ、今や高地となっているそこに、吹雪により降り積もる雪の上を走る1つの巨大な、体軸があった。

錆色の体にプリズム状の突起を背中に持つ、バルゴン大型種だ。

だが体は戦略機ではつけられないほど巨大な切り傷や裂傷にまみれた状態だった

そしてその大型種は恐怖し、何かに怯えた様子で走り続ける。

少しでも遠くへ、遠くへと逃げようとする。

ついには息絶え絶えとなり、一度足を止めてしまう。

そして後ろを確認するが、何もいない。

それでバルゴンは安心する。

だが、目の前を仄かに鈍く光を放つ蝶が通り過ぎ、頭上の積乱雲で雷の鳴る音が聞こえたかと思うと、

瞬間、閃光と共にその蝶に落雷が命中する。

至近距離で凄まじい閃光が光ったためにバルゴンは一瞬視界を奪われる。

それと同時に、ズン、という足音と凄まじい殺気が背後から発せられた。

視界を取り戻したバルゴンは、眼前で落雷を受けた蝶が背後に飛んでいくため、それを追って背後を見る。

–––––そこには、幾千匹もの蝶を身に纏い、稲妻を走らせる黄金色の棘を背中に生やし、体表は僅かに藍色めいた灰色に翡翠色のラインが入り、トリケラトプスのように前に伸びた2本の大きなツノと幾つもの小さなツノを頭から生やした4足歩行のアルマジロのような暴龍が、いた。

「グオォォォオォオオォオォオオォッッッ‼︎‼︎」

その暴龍が咆哮を上げ、空気を振動させ–––––––衝撃波が発生し、足元の積雪が全て宙に舞い上がり、地面が覗く。

獲物を、見つけたのだ。

「ッ⁉︎ヴォオォオオ‼︎」

バルゴンは怯え、直ぐさま逃げようとする––––––が、息絶え絶えの上に足を怪我していて動けない、だから、生体レーザーを放とうとする。

暴龍は1、2度前足で地面をグラインドさせ、地面を、蹴る。

瞬間、立っていた地面が衝撃で抉れ、破片の多くが暴龍の後ろに吹き飛ぶ。

暴龍は数秒とかからないうちにバルゴンとの距離を一気に詰めて行き–––––––

バルゴンが生体レーザーを暴龍に放つ。

しかし暴龍は爪先に電磁波を集中させ、レーザーを足場にするようにして、軌道をずらせる。

バルゴンが目を見開いて驚愕する。

しかし暴龍はそれに御構い無しに迫り––––––暴龍は、強靭な顎でバルゴンの首に歯を食い込ませ、力一杯に噛み付く。

バルゴンは本能的にもがこうとする––––––だが、しかし、それは遅過ぎた。

何故なら、暴龍に牙を首に食い込まされ、力一杯に噛み付かれた時点で、そのバルゴンの命運は尽きてしまったから。

 

ブチィン‼︎

 

肉の千切れる、嫌な音が雪原に響く。

音の元には首が無くなり、断面から血を吹き出すバルゴンと、バルゴンの首を咥えた暴龍が居た。

暴龍が、数秒とかからない瞬間にバルゴンの首を、喰い千切ったのだ。

暴龍はその首をポイッと捨てると、勝利の雄叫びを上げ、積乱雲から落ちてきた落雷が背中の棘に命中し、その雷は暴龍のエネルギーに変換される。

暴龍–––––アンギラスは再び咆哮を轟かせ、新たな獲物を求め、再び動き出した––––––。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




投稿遅くなりすみません。
大学が始まったため、忙しくなったので、これからは投稿ペースがさらに遅れる可能性がありますが、ご了承下さい。お願い致します。

今回ですが、作戦会議回でした。

なお、まりも三佐の千尋と箒に言ったセリフですが…完璧超人(笑)の某ブリュンヒルデがそれを聞いたらどう思いますかね?


そして最後にまさかの不遇大先生アンギラス登場。
イメージ的には外見は千年竜王アンギラス、戦闘パターンはモンハンのジンオウガって感じです。


不定期ですが次回もお願い致します。




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