インフィニット・ストラトスadvanced【Godzilla】新編集版   作:天津毬

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深紅の雪作戦の最終局面です‼︎


EP-13 深紅ノ雪作戦Ⅱ

ドイツ連邦共和国、フランクフルト県・ドイツ国防陸軍、ベーバーゼー基地。

 

東西冷戦時代からドイツ民主共和国国家人民軍…東ドイツ軍が使っていたその基地は、東西ドイツ統一と冷戦終結以降、ロシア軍の侵攻を警戒してドイツが改装に改装を重ね、かなりの規模のものとなっていた。

森林に囲まれた、4キロクラスの滑走路を4本、戦術機カタパルトを12基持ち、滑走路の脇には無人偵察機を格納している掩体壕が多数並んでいた。

その、とある戦術機ハンガー。

 

「黒兎隊の隊長をIS学園に?」

この基地に属する、ドイツ国防陸軍第666独立戦術機中隊【シュヴァルツェスマーケン(黒の宣告)】を率いるユリア・ホーゼンフェルト大尉は、自身の乗機であるMEF-2020G戦術機【タイフーン】をレンチで装甲を剥がした機体内部の油圧パイプのネジを整備して機械油に塗れたBDU姿で、首から掛けたタオルで額の汗を拭いながら、聴く。

「ええ、そうよ。」

それに応えたのは国防省本部付き将校であり第666独立戦術機中隊所属兵士であるエミーリア・カレル中尉。

エミーリアはユリアと同期、尚且つ幼馴染だからか、よくタメ口で話す。

「どうしてまた実戦経験皆無の部隊を送るわけ?」

「さぁ?どうせプロパガンダでしょう。 ” ドイツ最強のIS部隊 ” という。」

実際、ユリアの言う通り、ドイツ最強とされる黒兎隊は、実戦経験皆無なのだ。

というのも、理由は幾つかあるが、やはりアラスカ条約における『ISの戦闘地域への介入の禁止』や『ISを使った侵略行為の禁止』が大きいだろう。

それに、IS部隊は黒兎隊以外、ドイツ国内にはひとつも存在しない。

ただISという世界最強の兵器に乗っているからドイツ最強––––––という訳だ。

そんなドイツが第3世代の試作機を開発し、尚且つ ” ドイツ最強のIS部隊 ” に配備した––––––ようは『ウチも第3世代機作ったぞ?ドヤ?』と欧州各国、延いては世界に知らしめ、IS委員会からIS研究費を貰う為だろう。 ” ドイツ製のISコアを開発する ” という目的を達成する為に。

エミーリアの祖母であるグレーテル・カレル上院議員は東ドイツ時代から東ドイツの問題解決に尽力した功績を買われ、現在はドイツ政府の中でも中枢にいた。現在は統一後の未だに残る東西ドイツの経済格差の解決に取り組んでいる。そして彼女が政界で作り上げたコネクションから仕入れた情報を、これまでもエミーリアを介して ” ドイツ最強の戦術機中隊 ” である第666独立戦術機中隊を率いるユリアに伝えていた。

「確かにこれを宣伝して、IS委員会からドイツ製ISコアの開発資金を貰い、それを輸出する事で東西ドイツの経済格差解決に繋がるなら、私も賛成するわ。でも、おばあちゃんの感じからして、それは無いみたい。」

エミーリアは残念そうに呟く。

「政府の連中は、ドイツ製ISコアを作って、それで国連でのドイツの発言力を高めたいだけだそうよ。」

「はぁ?何よそれ…。」

ユリアも心底残念そうな溜息を吐く。

旧東ドイツ出身の2人は、生まれ育った東ドイツがどんな経済状況か知っているし、東ドイツの経済問題はドイツ全体の問題なのだ。

今回は、その東西ドイツの経済格差が解決されるかもしれない––––––という期待を抱いていただけに、残念だった。

経済が豊かな西ドイツからしてみれば東ドイツは目の上のたんこぶなんだろう。経済格差解決は最優先なのだが、ISが出回ってからは二の次になってしまっていた。

「これじゃあベルリンの壁崩壊前の東西ドイツ時代が良かった…っていう人の気持ち、分からなくも無いわね。」

ユリアが言う。

実際、東西ドイツに分裂していた頃が良かった、と言う人は、ドイツ国民の内の17パーセントもの人が思っているのだ。

「確かにね…でも、それだといつ核戦争が始まってもおかしくないし、ソ連や国家保安省…シュタージにだって怯えなきゃダメよ?」

エミーリアが言う。

エミーリアはグレーテルから冷戦時代の事…特にシュタージという秘密警察の恐ろしさについてよく聞かされていた。

10人に1人が密告者で、親が子を、子が親を、夫が妻を、妻が夫を密告するという厳重な監視社会。

エミーリアの祖父であるマルティン・カレルもかつて学生時代に東ドイツで深刻化していた公害問題を暴こうとしてシュタージに捕まった。

何故なら当時の東ドイツで公害問題など存在しない––––––そう、東ドイツ社会主義統一党が宣伝していたから。

党が全て正しい、党に隷属する人民だけが良い人間、党の言う事に疑問を持つ人間は国家の敵として反逆罪の濡れ衣を着せられシュタージに逮捕される–––––そして拷問の果てに死ぬか、彼らに屈服して、反革命因子の人間を密告する情報提供者になるか––––––

そんな異常な国だったのだ。東ドイツとは。

だがそんな異常な国だった頃が良かった、という人間もいるのだから、それだけ、ドイツの経済問題が深刻なのが伺える。

「それはそうだけどさぁ…でも、だからって経済格差問題を棚上げしてまでISに没頭する?普通。」

「欧州連合各国が取り組んでいる第3世代機開発計画『イグニッションプラン』、それに欧州有数の大国であるドイツが参加しないわけにもいかない。政治的地位を国際社会で誇示する為にも。」

「…はぁ…政治って面倒くさいのね〜あたしはバカだから分かんないけど、面倒くさいって事はよく分かったわ。」

ユリアが整備で体に溜まった凝りを解そうと伸びをしながら言う。

「まぁそうね。私達一介の国民や軍人が思っているように、政治は一筋縄には行かないものよ。」

「大体、軍も軍よ。ISは整備士やけに使わなきゃいけないからこっちに整備士回ってこないから機体の整備まで私達でやんなきゃいけないし…」

ユリアはくたびれた声音で言う。

そしてそれに賛同するようにエミーリアもまた、溜息を吐いて言う。

「ええ、それに関しては同感ね。日本の自衛隊はISを手放し、戦術機にシフトする事を選んだというのに…でも、イグニッションプランに参加している以上、今更日本みたいな判断は無理ね。」

そして2人の言うように、IS以外の兵科の兵士に掛かる負担を無視しているのも、また事実だった。

だが愚痴を言っても何かが変わるわけではない。

だからIS以外の兵科の兵士はモヤモヤ…つまりストレスが溜まるのだ。

「あ”ーもうやってられるかぁーー‼︎整備終わったんだし、パーッと気晴らしに飲みに行くわよ‼︎」

「え⁉︎い、今からか⁉︎」

「そうよ!ファム姉のお店行きましょ‼︎」

ユリアはエミーリアを連れてベトナム人街でユリアの祖母のアネットの知り合いであるベトナム移民2世のファム・ティ・ランが経営する居酒屋に、向かって行った。

 

 

 

 

 

■■■■■■

 

IS学園

 

「っ…指令…書?」

鈴は自室のベッドの上で部屋に届けられていた封筒の中身を見て身を強張らせていた。

送り主は中国共産党で鈴の母を間接的に殺したであろう、賀。

内容は、『織斑一夏の専用機並びに本人の回収。』だった。

だが間違いなくその文章内容からして、襲撃を行う気だ。

(そんなことしたら…一夏が…私が一夏と居られなくなる…私が幸せじゃなくなる…)

鈴が内心思う。

一夏の鈍感に翻弄されながらも、鈴はIS学園に来てから一夏との馴れ合いを心地良く感じていた。

なのに、そんな一夏との馴れ合いを、賀は邪魔する気だ。

(賀の部隊を撃退する…?そうだ。襲撃してきたら一夏と一緒にやっつけちゃえば良いんだ。どうせあたしに失うモノはない!大事なものは、守りたいものは、一夏しかないんだから…賀もバカな男…あたしの母さんを殺さなきゃ、まだあたしを利用出来たのに…。)

鈴は自分の母を亡くした賀を嘲笑う。

(無視すればいい。襲撃に来たら皆んな殺せば良い。そして3年の間に日本に亡命して、一夏と一緒に居れば––––––)

だがそこでもうひとつ鈴の中で懸念材料が生まれる。

(一夏が、あたしを見てくれる可能性は––––––?)

先日の一夏の言葉が脳裏をよぎる。

『お前なんかより千冬姉の方が大事なんだし。』

(千冬さんにばっかりで…きっと私なんて見てくれない。…じゃあ、どうすれば––––––)

「…ああ、そっか。」

鈴は呟く。

「なんだ…簡単じゃない…!一夏の大事なモノを…千冬さんを壊しちゃえば、良いんだ…そしたら一夏も私に依存するしかなくなって、私の事を見てくれるじゃない…‼︎」

鈴は結論に到り、純粋に恋する乙女の様な爛々とした瞳を浮かべながら独りごちる。

だがその口は、どうしようも無いくらい、歪んでいた。

 

 

 

 

 

IS学園・学園長室。

 

 

光と舞弥、楯無、そして山田真耶がそこにいた。

重い空気が、そこを支配していた。

「…つまり、こういう事ですか?この所篠ノ之さん達2人が帰国予定日の昨日を過ぎても欠席しているのは…あちらで孤立したから、と…」

震える声音で聴く。

光から2人が特自上層部の命令でロリシカに派遣された事は知っていた。

だが戦っている相手がバケモノで、箒がバケモノの跋扈する戦場で孤立したというのは、初めて聴いた。

楯無も、重い雰囲気の顔で聴いていた。

「…さ、更識さんは…知っていたんですか?」

ロリシカにバケモノがいたのか、という意味を含めて真耶は聴く。

「…はい。防衛省直下の情報庁に携わっていた暗部も、知ってはいました。でも公には出来ない…だから黙っていました。」

楯無が申し訳なさそうな顔で言う。

「当然、織斑先生にはまだ言っていません。」

光が言う。

それで真耶はさらに驚く。

普通の教師なら誰もが織斑先生に一番に伝えるから。

「…ど、どうして…私なんですか?」

真耶は思わず聴く。

「ひとつ、単純に彼女の性格や行動からして信頼性に欠けるから。ふたつ、通信情報を収集した結果不可解な通信履歴が多々見受けられる。みっつ、経歴や当時の生活環境を調べた結果ある人物に繋がっていた為今回の襲撃事件に関与した疑いがある…それらの要因から彼女には今回の件は伝えていない。」

光の言葉に真耶は驚愕する。

(確かに織斑は多少乱暴なところはある…でも、今回の襲撃に…テロに加担していた⁉︎いえでもそれ以前に…)

「…通信情報を収集したって…盗聴してたって事ですか…?」

「そうだ。過去に東京大学の核専門の教授が北朝鮮の核開発に関与していた事例から我々はそれの疑いがある人物やそういった事になりかねない場所…つまりはIS学園に監視を行っている。」

光の言葉に真耶は絶句する。

「近年、私達が都内に監視官を設置したのも同じ理由です。」

楯無が言う。

「でも学園に監視官を設置する事は出来ない。だから日本資本の区画に盗聴器や情報収集機を仕込む事で対処しているんです。」

といっても学園の日本資本の区画と言えばIS学園の9割6分…ドイツ資本の学園・本土間を結ぶモノレールとアメリカ資本のレーダーサイトを除く、ほぼ全域だ。

IS学園は『アメリカが日本政府に建造と資金提供を要求して作られた施設』だから。

「仮にもここは日本だから、日本国内の治安維持の為にそうした監視措置もやむを得ない…という訳ですか?」

真耶は、聴く。

「そういう事だ。やはり君は物分りが早いな。」

光は褒める様に言う。だがすぐに感情を押し殺す。

「…話を戻そう。現在神宮司三佐率いる防衛省技術試験小隊が箒の救援に向かっている。成功すれば明日にも帰ってこれる。」

「…失敗したら、どうなるんですか?」

「2人とも死ぬ。」

「⁉︎」

光の言葉に、真耶は最悪の事態を思い浮かべる。

「…ど、どうしたら…?」

泣きそうな顔で、真耶は光にすがる様に聴く。何か自分にできる事は無いかと探ろうとして。

「どうもこうも無い。ただ…待つしか無い。」

光は苦虫を噛み潰す様な顔で応えた。

 

 

 

 

■■■■■■

 

 

ロリシカ、ギジガ統合基地・第2前哨基地

 

 

戦況は最悪だった。

未知の巨大生物が出現し、バルゴン超大型種に対して攻撃を開始。

バルゴン小型種は未知の巨大生物を迎撃しているせいか、第2前哨基地には到達していない。

それだけなら喜ばしい状況だ。それだけなら。

未知の巨大生物が人間の被害など御構い無しにバルゴン超大型種と戦うなんて代物ではなく、現在第2前哨基地にもつれ込んでさえ来なければ、喜ばしい状況だったのに。

 

 

旧戦術機ハンガー。

 

地震の様な振動が地下の旧戦術機ハンガーをも激しく揺らす。

「あぅっ‼︎」

箒は振動で思わず松葉杖のバランスを崩し、倒れてしまう。

「大丈夫か篠ノ之‼︎」

軽機関銃を抱えながら、山本が肩を支えて、立たせてやる。

また響く振動。

「ど畜生が…彼奴ら好き勝手に暴れまくりやがって…」

アルセンが思わず毒付く。

瞬間、旧戦術機ハンガーの天井を突き破るようにして倒れこんで来る肉の塊…否、バルゴン超大型種。

「総員退避‼︎」

アルセンがリーナを庇うようにして、すかさず叫ぶが遅かった。

バルゴン超大型種が大半の兵士が集中していた場所に倒れこんできて––––––何十人もの兵士を、押し潰す。

「…っ!クソがぁッ‼︎」

アルセンは思わず怒りを込めた声音で叫ぶ。

だが、バルゴン超大型種が倒れこんできただけでは済まなかった。

天井を支えていた鉄骨まで落ちて来て––––––さらに兵士を押し潰し、肉の潰れる音が轟音と埃に掻き消され–––––––煙が晴れたそこにあったのは、ついさっきまで生きていた兵士達の屍と瓦礫の山。そしてそこに開けた天井から差し込む絶望的な戦場を写したような灰色の曇天から差し込む僅かな陽の光––––––。

「そ…んな……」

リーナは絶望を帯びた声音で呟く。

そして立ち上がろうと瓦礫を押しのけて起き上がるバルゴン超大型種。

瞬間、さらに天井を突き破り、暴龍・アンギラスが飛び掛る。

さらなる振動。そしてさらに天井から落下してくるコンクリートの破片や鉄骨などの瓦礫。

「きゃあぁぁぁぁぁ‼︎」

さやかが悲鳴を上げる。

(こんなの…もう、戦争じゃない……こんなのは…もう……)

箒は思わず、内心呟いた。

「ライサ!無事か‼︎おいっ…ッ‼︎」

ライサを見つけ、アルセンは思わず青ざめる。そしてライサに見入ってしまう。

「あ…大尉…ご無事、でしたか……。」

鉄骨が両足を下敷きにして、特に左足は潰れ、裂けた皮膚から血が流れ溢れ、中で砕けた骨が皮膚を突き破っている、ライサを。

「ッ!待ってろ今退けてやるから……」

アルセンはライサの足を潰した鉄骨を退けようとして、ライサは首を振る。

「片腕の上に両足まで潰れちゃったら…私は、ただの足手まといです…このまま、放って置いて下さい。最後くらい、自分で逝きます。」

ライサは悲しそうな笑顔を浮かべて、何処か決意を決めたような顔をして、ピストルホルスターからベレッタを抜く。

そしてそれをこめかみに当てる。アルセンは止めようとしない。

それを見たリーナは、ユーゲンの恋人だった少女の話が脳裏を掠め、咄嗟に、

「ま、まって下さい‼︎」

叫ぶ。そして、鉄骨を退けようとする。

「何してるの…そんなのを退けるなんて無理に決まってる…はやく見捨てなさい‼︎」

「い、嫌です‼︎」

リーナはライサの言葉に、反発する。

「まだ終わったワケじゃ有りません‼︎最後まで諦めないでください‼︎」

「貴女…こんな時にまだそんな事を…」

が、遮って、

「こんな時だからですよ‼︎」

リーナはライサに向けて叫ぶ。

「昨日貴女は言ったじゃないですか…希望くらい欲しいって…気休めかもしれない。私の自己満足かもしれない。力を持たないただの願いかもしれない。…でも…」

リーナは、必死の表情を浮かべながら、叫ぶ。

「貴女が希望を欲しいというなら私は貴女の希望になりたい!貴女が少しでも生きたいと願える希望になりたい‼︎」

嘘偽りない、純粋無垢で––––––それでいて必死で、強い瞳をしながら、叫ぶ。

ふと、それに箒も加勢する。

「セミョン伍長、私も––––––私も…ベシカレフ伍長と同意見です‼︎」

鉄骨を持ち上げようと力を込めながら言う。

脳裏に浮かぶのは墨田大火災の時に千尋を救い出そうと無我夢中になっていた自分。

誰か生きていて欲しい、誰も死んで欲しくないと、願った自分。

まだ瓦礫に埋もれている子––––––千尋はまだ生きてると信じて、諦めずにに、瓦礫を退けていた自分。

「諦めたら、何もかも…そこで終わりなんです!確かに…戦場ではこういうのは非効率かも…知れない!でも…僅かな望みを、あっさりと…捨てないで下さい‼︎」

箒は涙を目頭から零しながら、息絶え絶えに、叫ぶ。

瞬間、アルセンとアルセンの生き残った部下数名と山本、さやかが銃撃。

バルゴン小型種が天井に開いた孔から浸透して来たのだ。

さらに振動が響く。

バルゴン超大型種とアンギラスが肉弾戦を繰り広げ、旧戦術機ハンガーを未だに激しく揺らしている。

瞬間、アンギラスがバルゴン超大型種に吹き飛ばされ、箒達のすぐ近くに飛ばされ一層激しい衝撃が箒達を襲う。

だが幸運な事に、ライサの足を潰した鉄骨が外れ、すかさず箒とリーナはライサを引きずり出す。

「…はぁっ、はぁっ、はぁっ…ね?助かった、でしょう?」

リーナがライサに聴く。

「ええ…でも、戦況は最悪よ…。」

ライサが毒付く。

第2前哨基地敷地内でバルゴン超大型種とアンギラスがドンパチを繰り広げ、バルゴン小型種が第2前哨基地にもつれ込んで来ている。

…どう考えても、終わりだ。

「ええ。だから、死ぬ時くらい一緒にいましょう?」

リーナが無邪気に声をかける。

「…ったく、貴女一晩で随分逞しくなったわねぇ…」

リーナの成長っぷりにライサは呆れて言う。

箒も隣で笑っていた。

アルセンと彼の部下も希望の見えない中で、少しでも仲間を前向きにさせる為に。

「大尉!死んだらあの世で一杯やりましょう‼︎」

とても死ぬとは思えないほど活気に満ちた声音で彼の部下の1人が叫ぶ。

「了解したぞヴィークマン上等兵!浴びるくらいくれてやる‼︎」

アルセンもやはり活気に満ちた声音で、銃撃を続けながら叫ぶ。

…希望は、見えない。

天井から覗く曇天が陽の光を阻害している様に、希望は、見えない。

生きて帰れる希望なんて、見えない。

でも死ぬ瞬間まで、僅かな望みも捨てない。

だから、箒もリーナも、ライサを守る為にアサルトライフルで銃撃を繰り広げる。

昨日まで聴く側だったリーナも、戦場音楽を奏でる側に、回る。

崩落する第2前哨基地の管制塔。

箒の放つ64式小銃の7.62ミリ弾の銃声と空気を焼き、バルゴンの肉を抉る音。

さらに天井から降り注ぐ鉄骨やコンクリート片。

アルセンの放つRPGの弾頭が空気を切り裂きながらバルゴンの群れを爆発で吹き飛ばし、肉塊に、変える。

それでも浸透してくるバルゴン小型種。

やはり、希望は見えない。

どう足掻いても絶望しか見えて来ない。

みんな喰われて死ぬ––––––。

そんな未来だけが箒達の脳に浸透して行く。

でも、箒達はまだ諦めていない。

箒もリーナも、自分と共に過ごした人間の存在を、信じていたから––––––。

瞬間、それに応えたかの様に第2前哨基地上空に鳴った人工の駆動音––––––ヘリコプターのローター音と、戦術機の、跳躍ユニットのモーター音が、箒達の鼓膜に、響いた。

 

 

 

 

 

十数分前、ギジガ統合基地・第1前哨基地

 

12基の戦術機カタパルトにはメドヴェーチ中隊のガンヘッド7機と防衛省技術試験小隊の荒吹壱型丙3機と銀龍が展開していた。

『総員傾注、我がメドヴェーチ中隊は、ジャール大隊ジャール中隊、防衛省技術試験小隊、在ロリシカ米軍カロン小隊、第3メーサー隊と共に、バルゴン超大型種並びに南方より出現した大型種を含むバルゴン群の殲滅戦を開始する。』

ニコライが言う。

別のカタパルトには在ロリシカ米軍と国境警備軍ジャール大隊の機体が展開していた。

…もっとも、そのバルゴン超大型種は、防衛省技術試験小隊の銀龍に搭載させた、【試製4式超電磁投射砲】で無力化することになっていたが。

『あ、あの…第2前哨基地への、救援は…?』

ヴェロニカがニコライに問う。

『ない。我々の目的はあくまで超大型種や残存小型種、南方より新たに出現した大型種の掃討である。』

ニコライが冷たく言い放つ。

千尋はその会話の一部始終を部隊間ローカルデータリンクの通信システム越しに聞いていた。

やはり、千尋の中でもモヤモヤが生まれる。

まりもと話して少しはマシになったが、やはり頭の中を埋め尽くすモヤモヤは、消えない。

『また先程入った情報によれば、新種の巨大生物がバルゴン超大型種と交戦を開始。現在第2前哨基地に雪崩れ込んでいる。』

「…っ‼︎」

千尋もそれについては先程、まりもから聞いた。

思わず、最悪の状況が脳裏に浮かぶ。

『だが第2前哨基地には生存者がいる可能性を考慮して、重金属弾は使用しない。』

重金属弾の重金属粉塵は体内に吸い込めば最悪即死、良くても多臓器不全障害を患い、苦しみもがく事になる。

現地にいる兵士からしたら地獄だ。

だがそれ以上に、戦術機パイロットからしたら重金属弾なしにレーザーヤークトを行うなど、恐怖の他なんでもない。

レーザーが減衰することなくこちらに飛んで来るのだから。

『さらに、昨夜の作戦で使用された重金属弾の重金属雲がバルゴン超大型種の放熱で生じた上昇気流により積乱雲と化している上に大気のプラズマ化により作戦域での衛星データリンクの途絶やGPS誘導不可などの状況が懸念される。』

付け足す様にニコライは言う。

 

重金属雲の展開無し。

突入と同時にデータリンク途絶。

衛星からのGPS誘導不可。

 

(悪条件に悪条件が重なってんのかよ…)

千尋は、呻く様に内心、呟く。

『だが朗報もある。陸軍第11飛行隊のUH-60R【ブラックホーク】18機から成るヘリコプター部隊が弾薬輸送部隊として、我々に追随してくれるそうだ。期待に添えるよう、我々は我々に今成せる事をせねばならない。』

ニコライが言う。

『こちらCP、メドヴェーチリード、ジャールリード、カロンリード、MDTリード、全機発進せよ。繰り返す、全機発進せよ––––––』

CPからの命令––––––

『メドヴェーチリード了解。』

『ジャールリード了解。』

『カロンリード了解。』

『MDTリード了解。』

ニコライ、ラトロワ、在ロリシカ米軍小隊長、まりもが応答する。

『グッドラック(武運を祈る)––––––。』

管制塔からの命令で、全部隊がカタパルトから射出される。

だが千尋は、不安を拭い去れなかった。

(箒を救うにはどうするべきなんだよ…でも、まずは超大型種をやんねぇと––––––)

瞬間、内心呟いていた千尋に守秘回線でまりもが呼び掛ける。

『心配か?千尋。』

母性を孕んだ声音で、まりもは聴く。

「…そりゃ、心配ですよ…どうやって、箒を助けたらいいか……」

不安を孕んだ声音で千尋はまりもに返す。

だが、まりもはふふっ、と笑い、

『安心しろ。ジノビエフ少佐に口添えはしている。』

まりもは、そう言う。

瞬間、部隊内ローカルデータリンクでニコライがイリーナに話しかける。

『時に同志中尉、重金属雲下、あるいはそれに相当する環境下で部隊のデータリンクが途絶した場合、部隊の指揮系統はどのように定められている?』

ニコライが突然、世間話でもするようにイリーナに問う。

『何ですか?こんな時に…中隊指揮官、あるいは政務士官に一任されるが、 ” 任務さえ達成できれば方法は問わない ” ……まさか⁉︎』

イリーナは全てを察したように顔を蒼白にする。

ニコライはそんなイリーナの顔を見て、不敵な笑みを浮かべて、

『総員傾注!防衛省技術試験小隊もだ‼︎』

突然自分達まで呼ばれ、千尋だけでなく新井や門松も驚く。ただ、まりもだけは楽しそうな顔をしていた。

『これより我が中隊は戦力を分割。一個小隊をバルゴン大型種殲滅に、一個分隊を、防衛省技術試験小隊の護衛を兼ねて、第2前哨基地へ派遣する‼︎志願者は名乗り出ろ‼︎』

満を満たした号令––––––千尋は瞬間、まりもの言っていた口添えの意味を悟る。

『な、何を考えているんですか⁉︎同志少佐‼︎』

『我々の命令は大型種の殲滅。だが後方から弾薬輸送部隊がいる上に在ロリシカ米軍の装備している対大型種用装備、フェニックスミサイルMk.2を搭載しているカロン小隊に我が軍の国境警備軍。彼らがいれば我が隊は一個小隊でも殲滅可能と判断した。それに同志中尉も言っていたではないか。「任務さえ達成できれば、方法は問わない」と。』

通話記録はログとして記録される。

イリーナは言質を取られた事を悟り頭を抱える。

『ユーゲン・ストラヴィツキー軍曹、分隊に志願します‼︎』

瞬間、ユーゲンが分隊に名乗り出る。

『エリザヴェータ・マツナガ曹長、分隊に志願します‼︎』

さらに、エリザまで志願する。

『支援と救出には、近接戦に長けた私とストラヴィツキー軍曹で行くべきです!』

『ま、待ちなさい同志曹長!貴女が離れたら誰が後衛指揮を–––––––』

『貴様がやるのだ。チェスコフ中尉。』

ニコライがさも当然、と言うようにイリーナに言い放つ。

『貴様にも政治面以外に指揮官としての才能はある。俺は貴様の判断力を買っての事だ。頼むぞ––––––そしてマツナガ曹長、ストラヴィツキー軍曹、防衛省技術試験小隊の役に立ってこい‼︎』

『『了解‼︎』』

そういうと、ガンヘッド2機がメドヴェーチ中隊から離脱し、防衛省技術試験小隊に加わる。

『––––––MDTリードより各機に通達。』

すると今度はまりもが声をかける。

『知っての通り、我々の元にメドヴェーチ中隊の2機が追随する事となった。任務を再確認するぞ、我々の任務は超大型種の照射器官破壊と、第2前哨基地の生存者救出だ–––––––行くぞ。各員、私のケツについて来い‼︎』

「了解‼︎」

まりもの号令に門松、新井、エリザ、ユーゲンが応じ、それに合わせるように千尋も応答して––––––まりもを先陣に、防衛省技術試験小隊の全機が、突撃を開始した––––––。

 

 

 

 

 

 

◼️◼️◼️◼️◼️◼️

 

これは夢。

いや、正確にはあの悪夢の日の出来事だ。

クラスでいじめられている子がいて、私は助けなきゃいけないと思って助けた。

でも、いじめていた子は中国共産党の人間で––––––私は、母さんと一緒に、危険思想保持者として逮捕された。

 

薄暗い取調室。

「さて、囚人2049号––––––鳳鈴音、今日の政治思想教育の時間だ。」

鈴の前に座っている、黒い、髪の男が言う。

「君は何故、党の人間に楯突いた?母親からこの国の実情を聞いていなかったのかね?」

ふざけたような口調で男は言う。

「…知りません。母さんからは聞いてない。私はただ間違ってると思ったから––––––」

瞬間、鈴の隣に立っていた別の男に顔面を殴りつけられる。

一瞬遅れて、口の中に感じた異物感––––––歯が、折れたのだ。

(私がいくら正しいと思っても…こいつらは、すぐに暴力でそれを封じて、自分達を正当化するんだ…)

鈴は毒付く。

この国では––––––中国では自由や民主主義を謳う人間は ” 危険思想保持者 ” として逮捕され、政治思想教育…ようは洗脳されるか、粛清される。

「よさないか。IS適性が最も高い人間なんだ。」

すると鈴の前に座っている男が部下と思しき男を咎める。

「…とはいえ、その思想は、どうにかしなくてはいけない。君の思想は非常に危険だ。」

鈴に、男が言う。

「教育しなければ。」

男は愉しげに言って、ついて来い、とでも言うように、指を鳴らす。

そして、部下の兵士が鈴の両脇を抱えて廊下に連れ出した。

 

––––––連れて行かれたのは、薄汚い一つの部屋だった。

中に在ったのは、イカ臭い匂いと、汚れたシーツが敷かれたベッドと––––––何人もの男たち。

「…な、何を、するつもり––––––」

鈴は戦慄する。

いや、何をされるかは、なんとなく想像はついている。だが言葉にできない。いや、したくない。

「何をするかってそりゃあ決まっているじゃないか。」

歌うように男が言う。

「政治思想教育だよ。君のような ” 危険思想保持者 ” をこれ以上出さないためにも、君を ” あらゆる手段をつくして教育する ” ––––––書類上は、そうなっている。…まぁ、すぐには終わらんだろうが。」

「い、いやぁっ‼︎」

鈴は反射的に逃げ出そうとして––––––隣に控えていた兵士に腕を掴まれ、部屋に放り投げられる。

室内の男たちの下卑た笑いを浮かべる。

鈴は震える中、必死に首を振った。

「いや…助けて母さん…」

「助けを呼んでも無駄だよ。君の母親も今頃同じ様な ” 教育 ” を受けている。」

鈴は、その言葉に絶望する。

「ああ、君が党に忠誠を誓ってくれたら話は別だが?」

甘い誘惑––––––だが鈴は、そんな連中に忠誠を誓うのは、耐えがたい話だった。

(忠誠を誓えば、私も母さんも助かる…でも、でもそんなの…助けて…一夏ぁ…。)

鈴は藁にもすがる気持ちで一夏の名を呼ぶ。

けれど助けが来るはずなどなくて–––––––

「別に構わないよ。君が自殺しようが、代わりのIS乗りはいくらでもいる。」

鈴はさらに戦慄する。

党の権限さえあれば、こんなことすら黙殺できてしまう––––––。

「ではあとはよろしく。」

「ま、待って…いや、いやぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

次の瞬間、鈴は四肢を男に掴まれ、ベッドに押し倒され––––––犯される。

その男は、鈴が男たちに犯される光景を、何の良心の呵責も感じさせない様に、愉悦に歪んだ顔で視姦していた––––––。

 

「ごめんなさい…。」

” 教育 ” の名を借りた陵辱の後、鈴は薄汚く汚れたベッドの上でただ泣いていた。

本当は一夏に捧げたかった純潔も奪われて、汚された。

「さて、落ち着いたかね?」

先ほどの男が話しかけてくる。

何処が落ち着いただ、と言いたいが、疲労と処女を奪われたショックで口から言葉が出ない。

「まぁ、あれくらいで君は堕ちないだろう。––––––おい。」

男がそういうと、男の部下と思しき女が何枚かの写真をシーツの上にばら撒いた。

「⁉︎これっ…」

一瞬後、自分の目を疑った。全身に怖気が走った。

男たちに輪姦されている途中の写真だった。

「気付かなかったかね?この部屋にはいくつものカメラを仕掛けているんだよ。」

追い打ちをかけるように男が言う。

「さて、ここで提案だ。この写真を見せれば君の母親や君の恋人––––––織斑一夏はどんな反応を見せるだろう?」

鈴は雷に打たれたような感覚が走る。

「君の母親は君を救うために党に恭順を示すだろう。恋人は…君に失望するやもしれないなぁ…」

「や、やめてっ‼︎あたしはどうなってもいいから‼︎だから…やめてっ…‼︎」

鈴は必死に、半狂乱になって叫ぶ。

「お願いだから…やめて…」

「ふむ、ならば君が党に忠誠を誓えば、これをまかないでおこう。そして母親の身の安全も約束しよう。さて––––––どうする?」

罠ということは分かっている。

安全なんて約束されないと分かっている。

でも、陵辱で疲れ果てた体と精神は屈服してしまって––––––

「誓い…ます…」

「声が小さい。」

「誓います‼︎」

男を見上げ、多数の傷跡と体液に塗れた体を見せつけるように立ち上がり––––––

「私、鳳鈴音は、中国共産党に、忠誠を誓います…!」

「よろしい。」

男が鈴の顎を掴んで持ち上げて––––––凄みのある微笑みを浮かべて、鈴の耳元で囁く。

「今日から君は党の、そして、私––––––賀弘文の犬だ。」

 

瞬間、夢から覚める。

「‼︎」

鈴はベッドから飛び起きて、洗面所に駆け込む。

「う、おぇぇぇ‼︎」

胃から逆流してきた内部のものを、吐き出す。

「は…はぁ…はぁ…大丈夫…大丈夫よ…鈴。一夏を手に入れたら…だから…大丈夫よ…ふ、ふふ…ふ…」

どうしようもなく歪んだ笑顔で、自分に言い聞かせた。

ふと、寝る前につけっぱなしだったテレビを見ると、そこではロリシカのニュースをやっていた。

 

 

■■■■■■

 

ドイツ連邦共和国、首都ベルリン・リヒテンベルグ

 

ベーバーゼー基地からエミーリアの車で、ユリアとエミーリアはベトナム人街に足を踏み入れていた。

静けさを感じさせるベルリンの街並みとは一転して、ベトナム人街に踏み込んだ瞬間、ガラリと雰囲気が変わる。

象徴的な赤と黄色の看板。

鼻腔をつく調味料やお香の匂い。

何処からとも無く流れて来る民謡。

路上を行き交う人たちの交える言葉。

祭りのような楽しげな喧騒や、活気に満ち溢れた街並みが広がっていた–––––––。

その、とある居酒屋––––––––。

「どぅあからさぁ〜…だからさぁ〜…もっと経済格差に金使えって言うのぉ〜…。」

ユリアがカウンターの机に右頬を押し付けるように寝転び、ぐでんぐでんに酔っ払いながら、羅列の回らない声で言う。

「よしなさいよ、大尉。みっともない。」

エミーリアはその隣でフォーや春巻きを食べながら、エミーリアはユリアを嗜む。

「まぁまぁ、私もそんなの聞いちゃったらユリアちゃんみたいに感じちゃうわねぇ…。」

カウンター越しに2人に向き合いながら春巻きを作っている、店主のベトナム移民2世のファム・ティ・ランは少し苦笑いに近い笑みを浮かべて言う。

「…大体、女尊男卑とかバカじゃない?って話!力仕事には男手がいるってのに…」

「まぁ、確かにね。そこは私も大尉と同感だわ。男性を一掃しようとか女性利権団体は言ってるけど、それでは人間が子孫を残す為に必要不可欠な交配という行為が出来ないわ…それでなくとも、土木関係や工場での生産、機材の整備などには女より男が向いているというのに…私達女に過労死しろと言いたいのかしら?」

ぐいっ、と水を飲み干しながらエミーリアが愚痴るように言う。

「そもそも意味が分からないわ。何故軍はマスコット部隊である黒兎隊を維持する方針なのか。」

さらにエミーリアが箸で春巻きを裂き、裂いた春巻きを摘んで食べながら呟く。

確かに、黒兎隊に一番予算を使うよりも、現用装備の維持に務めるべきなのだが、IS部隊の維持に尽力しているが故に既存部隊の予算が割かれる羽目になるのだ。

はぁ、と溜息を吐くエミーリアを見て、ファムは苦笑いしながら、春巻きをユリアの前に置いて、

「そう…そっちも大変なのね……」

少し黄昏たような口調で言う。

「…ふっぷ…そういや、ファム姉も大変だったのよね…私らと同じ年頃の時は…」

水を飲んで酔いが落ち着いたユリアがファムに聴く。

「そうねぇ…私が若かった頃はグークって言われて、差別されていたから。」

グーク––––––ドイツ人の、ベトナム人に対する差別的な呼び方だ。

今では減った方だが––––––ファムが20代だったころの1980年––––––すなわち冷戦当時の東ドイツでのベトナム人の扱いは酷いものだったそうだ。

「経済が悪いのも全部ベトナム人のせい。仕事が上手くいかないのも全部ベトナム人のせい。食物の収穫が良くないのも全部ベトナム人のせい。あれやこれやと色々な事をこじ付けられてね…そして、そういう人間に限って多種な人種の共存を許容する社会主義の掲げる万人の平等を ” 本気で ” 訴えるんだもの。」

公衆の前…つまり表では美辞麗句を並べて、裏では自分の欲求不満を満たす為にベトナム人を痛めつけ、差別する––––––その構図は、表では男女格差の撤廃を訴えながら、裏では男性を虐げる女性利権団体の姿と何処か重なって見えなくもなかった。

「なんていうか、今じゃあ何言ってんの?ってなるわね。ベトナム人の血を引いてはいるけど、ファム姉は立派なドイツ人なのにね。」

ユリアは完全に酔いが落ち着いたらしく、落ち着いた声音で言う。

「ありがとう、そう言ってくれると嬉しいわ。」

「別にお礼言うほどじゃないわよ。同じドイツ人同士、当然なわけだしね。」

ファムに対してユリアは明るく笑って言う。

『次のニュースです。現在戦闘が激化しつつあるロリシカですが、政府の会見では–––––––』

テレビに映るニュースからは、ロリシカに関する内容が、報じられていた––––––。

 

 

 

■■■■■■

 

 

 

 

 

ロリシカ、ギジガ統合基地・第2前哨基地

 

そこでは、アンギラスとバルゴン超大型種が戦闘を繰り広げていた。

アンギラスが地面を––––––第2前哨基地の滑走路を蹴る。

衝撃でコンクリートが粘土細工のように抉れ、コンクリート片が空高くにいくつも舞い上がる。

だがアンギラスはそんなものには眼もくれずにバルゴン超大型種の前足に噛み付き、そのままタックルで、第2前哨基地の敷地外にまで吹き飛ばされる。

「ヴォ”オ”オ”オ”‼︎」

バルゴン超大型種はすかさず足を地面に突き立てて静止を試みるが、止まれず、そのまま雪原の上を転がっていってしまう。

バルゴン超大型種の足は丸太の断面のような形をした、歩くことにおいては退化したもので、急なブレーキや急激な加速には向いていない足をしていた。

そのバルゴン超大型種に追い打ちをかけるように、アンギラスは脚部の先端にエネルギーを集中させ、前足を数回グラインドする。

「グォォォォォォォォォ‼︎」

そして、咆哮を放ち、周辺の積雪や瓦礫、プレハブ小屋、装甲を持たない車軸が、衝撃波で吹き飛ぶ。

加速に適した強靭な脚で、地面を、蹴る。

瞬間、地面が抉れ、クレーターと化す。

一瞬後、凄まじい衝撃波と電磁波、熱が周囲に発生し、駐車していたタンクローリーや燃料タンクが次々に熱で誘爆する。

だが、アンギラスはやはり眼もくれずにバルゴン超大型種に迫る。

600メートル近く離れたバルゴン超大型種に到達したのはたった10秒足らずという、圧倒的な速さで。

さらにアンギラスが駆け抜けた雪原は雪が膨大な熱で一瞬にして水に融解。

だがそれに留まらず、融解して発生さた水は一瞬で大規模な水蒸気爆発を引き起こし、アンギラスの駆け抜けた地面から100メートル近い距離の地面が抉れ飛ぶ。

だが2匹はそれに眼もくれずにぶつかり合う。

アンギラスはすかさず首を噛み千切ろうとするが、バルゴン超大型種は尾を鞭のように振るい、それを阻害する。

さらにバルゴン超大型種は、口から冷凍ガスをアンギラスの頭部目掛けて口から放つ。

アンギラスはそれを右側の前足で防ぐが、その脚の表皮にまとわりついていた水分が急激に氷結し、アンギラスの前足を氷漬けにする。

アンギラスは一瞬驚いたが、直ぐさま後方に飛び退く。

近接戦でアレを喰らえば終わり––––––氷漬けにされた右足をシベリアの冷たく、硬い地面に叩きつけて、表面の氷を叩き割って、払い落しながら、そう理解したから。

さらに、感覚は麻痺したままだ。どうやら軽い凍傷を負ったらしい––––––これでは機動力を生かした近接戦に支障が出る。

どの道近接戦は不利なのだ。

だからアンギラスは、少し頭を働かせて、戦い方を、変える。

バルゴンはアンギラスが飛び退いたのを見て、一瞬逃げる為かと思い、バルゴンは目を妖しく光らせ、背中の生体レーザー照射器官にエネルギーを集中させる。

同時にアンギラスも飛び退いて着地した場所で自身の体に纏わりつくように周りを飛び回るアンギラスと同じ帯電体質のシベリアシロライコウチョウの動きがより一層、活発になる。

シベリアシロライコウチョウがアンギラスの周りで渦を巻くように飛び、まるで遠くからみればそれは竜巻にすら見えるほどで––––––瞬間、アンギラスの背中にある無数の棘が次々に膨大な電力が送られ、棘に翡翠色の神経回路を連想する筋が浮かび上がり、棘が次々にスパークし、稲妻が走る。

瞬間、バルゴンがそんなアンギラス目掛けて湾曲レーザーを放つ。

膨大な熱で大気がプラズマ化する––––––同時に、アンギラスの周りを竜巻のような錯覚を覚えるような光景だったシベリアシロライコウチョウに、アンギラスが電力が最大にまで達した棘から凄まじい超集中電磁波を全周に放つ。

瞬間、それがアンギラスの周りで竜巻を描くように回っていたシベリアシロライコウチョウの全てに感電し、シベリアシロライコウチョウが体内で蓄積していた電力を巻き込む形で、自然界では起こりえない威力の雷の竜巻が大気を焦がし、アンギラスの周りの積雪を、地表を、雷と共に発生した衝撃波が粉砕し、全周囲に積雪と地表の破片が舞い上がり、バルゴン超大型種の湾曲レーザーの威力を減衰させる。

ロリシカ軍の重金属弾に似た戦術––––––しかもそれだけではなく、先程発生した雷の竜巻はバルゴンの生体レーザーを、アンギラスの雷撃による電磁波の影響で拡散させて、消滅させた––––––。

「グォォォォオオオオ‼︎」

アンギラスは、バルゴンに向けて、咆哮を放ちながら、地面を激しく蹴り、舞い上がる雪煙に紛れながら一瞬でバルゴンに迫り、眼前で体当たりを食らわせる––––––バルゴン超大型種もそのワンパターンは戦い方を嘲笑うように冷凍ガスを放とうとして––––––アンギラスは、感覚のある左脚を地面に突き立て減速。

さらに、左前脚と後両脚で地面を蹴り、バルゴンの側面に飛び込む––––––バルゴン超大型種は驚愕する。

つまりアンギラスの動きは、フェイントだった。

 

 

 

 

「––––––んだよアレ…化け物じゃねぇか…。」

銀龍の管制ユニットの中、千尋は冷や汗を浮かべながら呟く。

…前の自分なら、 ” ゴジラ ” だった頃の自分なら、あの怪物––––––仮称・アンギラスを化け物だなんて思わないだろう。

自分と同じような存在だから––––––。

だが、今の千尋からすれば、人間に限りなく近い千尋からすれば、あの怪物は––––––アンギラスは、バケモノの他なんでもない。

バルゴンも確かに充分バケモノだ。

だがアンギラスはどうか。

あのバルゴン相手にバルゴン以上の力で対抗している。

これをバケモノと言わずして何というのか。

千尋は銀龍の試製4式超電磁投射砲をバルゴン超大型種に向けて構える。

その周辺ではバルゴン中型種が銀龍に向けて大挙してきていた。

どうやら、試製4式超電磁投射砲を脅威と認識したらしい。

千尋の周りではバルゴン中型種を応戦すべく、まりも達が奮戦している。

『千尋、射撃タイミングは貴様に任せる。バルゴン超大型種の照射器官を破壊したらすぐ様試製4式超電磁投射砲を投棄。貴様も第2前哨基地生存者の救援に加われ。試製4式超電磁投射砲については、データさえ持ち帰れば、それで良い。』

まりもが、言う。

瞬間、まりもの荒吹壱型丙にバルゴン中型種が背後から迫り来る。

だが、まりもは焦ることなく背部兵装担架のガンマウントを展開し、36ミリ機関砲を斉射。

さらに跳躍ユニットを機体が回転するように吹かながら、移動エネルギーを掛けたマニピュレーターに持つ長刀で、バルゴン中型種の首を斬り飛ばす。

そのまりもにさらなるバルゴン中型種が2体迫るが、1体はユーゲンのガンヘッドが突撃砲で頭に風穴を穿ち、もう1体はエリザが長刀で首を斬り飛ばす。

「了解です。」

千尋もそれに、応じる。

そして、相変わらずアンギラスに取っ組みられるバルゴン超大型種を見る。

アンギラスはバルゴン超大型種の脊髄を破壊しようとしているのか、背中から押さえつけるようにしている。

(––––––もう、あいつだけ居たらいいんじゃ…)

ふと千尋は思う––––––が、次の瞬間、千尋は本能的に危機感に満ちた寒気を全身で感じる。

バルゴン超大型種の生体レーザー照射器官が、妖しく光る。

アンギラスは、首の骨を折ろうと感覚のある左前脚で頭を押さえながら首に噛みつこうとしていて、バルゴンの生体レーザー照射器官の変化に気付いていない––––––

「バカ野郎!さっさとそこから退け‼︎」

千尋は思わず、届くはずがないにも関わらず、反射的に叫んだ。

でもその瞳にはかつての自分と同じ–––––––ゴジラと同じ程の力が篭っていた。

 

 

 

 

瞬間、アンギラスが何故か驚くように千尋の銀龍の方を向く。機体のメインカメラ越しに、千尋と視線が合う。

見えるはずがない。

けれどアンギラスは、自分よりも遥かに強い存在を秘めた瞳を見た気がして––––––そしてその瞳の持ち主が怒鳴る声が聞こえた気がして–––––––弾かれるように背後を見る。

そこには照射直前の生体レーザー照射器官。

瞬間、脊髄反射のようにアンギラスはバルゴン超大型種から飛び退く。

しかし一瞬遅れて、生体レーザーが放たれる。

そして生体レーザーが、アンギラスの腹部を貫く。

そこから赤い紅い色鮮やかな血が噴き出す。

「グオォ…‼︎」

苦しげに、痛みに呻くように顔を歪めながら、地面に蹲り、雪原を鮮血色に染めながら、吼える。

バルゴン超大型種は、それで調子に乗ったのか、アンギラスの方に体を向けて、生体レーザーの第2射を放とうとする。

だが、アンギラスが間接的とはいえ、作ってくれた隙を、千尋は逃さなかった。

 

 

 

 

銀龍の背中にある、主機であるG2(G-element-Generator)機関に、試製4式超電磁投射砲のエネルギー供給用特殊ケーブルが接続される。

G2機関からG元素が試製4式超電磁投射砲に充填され、発電機も唸りを上げる。

『G2機関との同調完了』

モニターにそう表示される。

千尋は酷く緊張して––––––けれど何処か懐かしい感覚に僅かに興奮していて––––––

砲身はバルゴン超大型種の照射器官に向けられたまま––––––

「はぁ…はぁ…」

緊張感が高まる。

呼吸が難しい。

肺に二酸化炭素が溜まってくる。

新鮮な酸素を求めて呼吸が荒くなる。

射撃管制は左肩に搭載されている板型レーダー搭載型の試製4式超電磁投射砲専用のG型ユニットが自動で行っている。

だから操縦桿で調整する必要なんてない。

千尋はただ、操縦桿の引き金を引くだけでいい。

でも、操縦桿を思わず力強く握ってしまう。

緊張しているから。

昂りを抑えようとするから。

網膜に投影されているロックオンカーソルは常に揺れ動くバルゴン超大型種の生体レーザー照射器官を追っている。

だがバルゴン超大型種の生体レーザー照射器官からの放熱やレーザーによって大気がプラズマ化している影響で、衛星からのバックアップが取れず、自動照準が定まりにくいのだ。

(いっそもう少し近づいて––––––いや、バルゴンに気付かれる。)

それでなくてもバルゴン超大型種のギリギリ探知圏外なのだ。

もう数メートル進めば、バルゴン超大型種から生体レーザーが飛んで来る––––––。

瞬間、不意にバルゴン超大型種が千尋を向く。

「––––––⁉︎」

思わず千尋は凍りつくような感覚を覚える。

けれどそれは一瞬、脊髄反射のように、殺気を込めて睨み返し、壮絶な笑みを浮かべる。

––––––同時に、空気を焼く音が響く。

バルゴン超大型種は、はっと顔を上げる。

空気を焼きながら、音を立てて迫るもの––––––司令基地の野戦陣地群から放たれた砲弾群だった。

アンギラスの近接攻撃により、対空レーダーの役割を果たす器官が破壊、あるいな損傷を負ったらしく、対空警戒能力が目に見えるほど、低下していた。

一瞬後、バルゴン超大型種は迎撃使用するが、アンギラスが痛みの走る体に鞭を打って、バルゴン超大型種の頭部に尾による打撃を脳に叩き込む。

バルゴン超大型種はそれで脳震盪を起こしたらしく、体が、くらりくらりと揺れる。

そこに容赦なく砲弾群が叩き込まれていく。

だがそれと同時に管制ユニット内に鳴り響く警報。

『南東より新たなバルゴン梯団!数150‼︎こちらに向かっています‼︎』

ユーゲンが叫ぶ。

「ッ‼︎」

千尋はそれに対処しようとして––––––

『そのままでいろ!千尋‼︎』

まりもの怒鳴る声が鼓膜に響く。

『貴様が今成すべきことは何だ⁉︎』

バルゴン超大型種の生体レーザー照射器官を、試製4式超電磁投射砲で破壊する––––––その試製4式超電磁投射砲は、銀龍の特殊な主機に接続しなければ使えない。

だから必然的に千尋がやらねばならない。

そしてそれを千尋は分かっている。

分かってはいる。

『案ずるな。そう簡単に殺られるタマではない。』

まりもが突撃してくるバルゴン中型種を長刀で上下に切断し、背部兵装担架の突撃砲でバルゴン小型種を蹴散らしながら、言う。

『多少は先輩を頼れよ。』

新井も二門同時斉射をしながら言う。

その隣では門松がシェルツェンの爆発反応装甲でバルゴン中型種の顔面を吹き飛ばす。

『そうですよ、篠ノ之二等兵‼︎』

さらに、ユーゲンも言う。

『伊達に2年も戦術機でバルゴン群に突っ込んで戦ってるわけじゃないです!ちょっとは信用して下さい‼︎』

ユーゲンが、突撃砲で正面のバルゴン群を蜂の巣にして––––––舞い上がり、煙幕となっていた積雪にまみれ、左翼から突っ込んでくるバルゴン中型種の頭にシェルツェンのスパイクを突き刺しながら言う。

『全くよ。…私たちが守ってあげるわ。背中は、任せなさい。』

エリザも、右手の長刀でバルゴン中型種を薙ぎ払い、さらに左手で背部兵装担架の長刀を引き抜き、抜刀する勢いを利用して、突っ込んでくるバルゴン中型種を両断しながら、言う。

「––––––了解。頼みます!」

千尋はそう言うと再度バルゴン中型種に向き直る。

試製4式超電磁投射砲の照準システムはもう少しでバルゴン超大型種の生体レーザー照射器官を捉える––––––という瞬間、またバルゴン超大型種が動いて、照準がズレる。

「…っ‼︎」

千尋は思わず、舌打ちする。

バルゴン超大型種は先程千尋に狙われていることに気づいたこと、また飛んで来る砲弾群を外させようとしているらしく、忙しく動いて照準をずらせようとする。

だが、瞬間、激痛が相変わらず体を駆け巡って、血を吹き出し続けているアンギラスが体に鞭を打ち、飛びかかり、感覚が戻ったらしい右前脚と左前脚でバルゴン超大型種の前脚を斬り裂き、バルゴン超大型種が痛みで体のバランスを崩す。

さらに畳み掛けるようにアンギラスが両前脚でバルゴン超大型種の頭を押さえ、動きを封じる。

そしてアンギラスが千尋に、瞳を向ける。

初対面なのに、何処か、昔に共に戦った戦友に向けるような、そんな瞳を見て––––––千尋は、意図を察する。

そして千尋は、笑みを浮かべながら、

 

「––––––よくやった、アンギラス。」

 

不意に意識せずに、大人びた声音で、勝手にそう言ってしまう。

何故かは分からない。

だが何故か、ふと呟いてしまう。

それと同時に、試製4式超電磁投射砲の照準、およびG元素のチャージが終わる。

だが同時に、レーザー警報が鳴り響く。

バルゴン超大型種に初期照射されているのだ。

バルゴン超大型種の生体レーザー照射器官が、再度レーザーを放つ為にエネルギーを充填。

発光を開始する。

おそらく放たれるまで数秒もない。

発射インターバルはとっくに過ぎている。

普通の兵士なら恐怖で凍りつく。

だが、千尋は恐怖を感じるどころか壮絶な笑みを浮かべていた。

久しぶりに、あの、バケモノだった頃の––––––ゴジラだった頃の自分に戻ったような錯覚が脳を支配する。

決して慢心しているわけではない。

ただ、自信があっただけ––––––

懐かしい感触が蘇る。

背中に焼けるような幻痛が走る。

放射熱線を放った時の熱を感じた時に似た、痛みが、背骨に走る––––––

「人間を––––––」

銀龍の跳躍ユニットを背後に向けて噴射。

バルゴンの照射器官がスパークする。

「なめてんじゃ––––––」

試製4式超電磁投射砲の最終安全装置が解除される。

バルゴン超大型種の照射器官がレーザーを放つ寸前に達する。

「ねぇぇぇぇぇぇぇぇ––––––‼︎」

熱線を放つように叫ぶ。

同時に操縦桿のトリガーを引く。

瞬間、試製4式超電磁投射砲の砲口から大気をプラズマ化させながら、毎分800発––––––1秒間に14発ずつ、120ミリ高速徹甲弾が緋色の光芒と化し、大気を裂き、バルゴン超大型種の照射器官に向けて放たれる。

バルゴン超大型種がレーザーを照射する––––––僅かコンマ数秒前に。

瞬間、バルゴン超大型種の照射器官に弾着し、3秒間––––––42発の、G元素により極限まで加速させられた120ミリ高速徹甲弾が、照射器官を、粉砕した–––––––。

 

 

 

 

 

アンギラスが、両前脚を退けると、バルゴン超大型種が照射器官の弾けた痛みで、思わず悲鳴に近い鳴き声を、空を見上げるように放つ。

瞬間、アンギラスはその、相手を前にして無防備に曝け出した喉元に、喰らい付く。

牙を喉に突き立てられ、バルゴン超大型種はもがく。

だがそれと同時にアンギラスの背中の棘に翡翠色の神経回路に似た外見の筋が入り、そこがスパークする。

電磁波が発生する。

いや、背中の棘だけでは無い。

脚の爪、尾の先端にある突起物、バルゴンに突き立てている牙にも、翡翠色の筋が浮かび上がる。

そして次の瞬間、上空の重金属雲がバルゴン超大型種の放熱で発達した積乱雲から、極太の落雷がいくつも背中に落ちて、アンギラスがその電力を吸収し、翡翠色の筋がより一層まばゆい光を放つ。

瞬間、翡翠色の筋が浮かび上がっていた部分が今までに無いほど発光––––––そして、全周囲に、凄まじい集中電磁波が、穿たれる。

積雪は一瞬で蒸発。水蒸気爆発を引き起こし、周囲に爆風が吹き荒れる。

––––––衝撃が止んだそこには、先程発光していた部位から放熱しているアンギラスと––––––ゼロ距離からの集中電磁波に、首を吹き飛ばされ、肉塊となったバルゴン超大型種だった–––––––。

 

 

 

 

 

『HQより全部隊に通達する。防衛省技術試験小隊、メドヴェーチ、カロン、ジャール全部隊が目標の制圧を確認。これにて【深紅の雪作戦】を終了する––––––』

 

 

 

 

 

 

 




今回はここまでです。

初っ端から鈴の「政治思想教育(洗脳)」すみません。
…近年のラノベや創作では洗脳ってナノマシン云々、脳改造云々で済んじゃいますが…
現実での洗脳は今回鈴が味わったような集団レ◯プや暴行で精神をズタボロにして追い打ちの決定打を打ち込む…という物です。
特に今回の、とは言いませんがこれに近いものが冷戦時の旧共産国家や現在の中国、北朝鮮で党に忠誠を誓わせるために、「政治思想教育」として行われているそうです。
…共産国怖い。


前回からドイツ娘が出ていますが、ちゃんと物語に絡んできます。


ロリシカではアンギラスの化け物じみた戦闘能力を…もう別物ですねわ…。
そして千尋がゴジラだった頃の感覚が蘇ったのは––––––?
そして箒の安否は––––––?



次回も不定期ですが、よろしくお願いします。




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