インフィニット・ストラトスadvanced【Godzilla】新編集版   作:天津毬

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前回は、アフリカから出現したラドンが女性利権団体の専用ジェット機を撃墜。
空の大怪獣の出現により、情報統制が危機的となったゴジラIS世界ですが、今回は日本も少し危機的な立場にある事が分かるエピソード…。

また今回は、妖刀さんから許可を頂いた鷹月仁さんが登場します。



EP-16 事案、発生

IS学園・食堂

 

「あ、あの!この間は、ごめん‼︎」

朝食を食べていた千尋たち第2学園守備隊の面子は、朝っぱらから驚かされていた。

声の主––––––鷹月静音らから謝罪されてるのだから。

そしてこの間、とは『織斑墜落事件』の時である。

あの時千尋たちを心配気に見てはいたものの、助けようとはしなかった女子たちとは、鷹月とその友人たち––––––まだ、 ” まとも ” な女子たちだった。

そして、今はその時の謝罪なのだが、あまりに前触れなく唐突に自分たちが座っていたところに来て謝罪したから、であった。

いきなりだったので、千尋たちは数秒あっけに取られるが、すぐに我に帰ると、

「いいえ、いいですよ。」

セシリアが微笑みながら優しく応えた。

そしてセシリアが隣に座るスペースを空けて、鷹月と彼女の知り合いの鏡リカ、立花葵が座る。

「本当にごめん…あの時は、織斑先生の前だったから、ちょっと怖くて…」

本当に申し訳なさそうな顔をして、鷹月は謝る。

「別にいいわよ。…同じ生徒が負傷したのに、助けに来ないどころか見向きもしない織斑先生の方が、よっぽど問題だから。」

神奈が、冷めた声音で言う。

「うぅ…ごめん…」

「いや、もういいから…」

「もう謝らなくていいって。もう、充分伝わったから…」

箒が少し、呆れて苦笑いに近い笑みを浮かべて、千尋が無邪気に笑うように、言う。

そういうと、鷹月たちは少し安心したのか、ホッとした顔をする。

 

そうして、少し話をしている内に、鷹月らと親しくなる。

 

「え、鷹月と立花の父ちゃんって自衛官なの⁉︎」

千尋は思わずそう聴く。

自衛官である光やまりもと長く過ごしている千尋と箒は親近感を感じた。

「そうそう、ゴリゴリの石頭のね。」

立花が楽しそうに笑いながら言う。

 

 

 

同時刻・日本海海上

汎用護衛艦あいづ艦橋

 

「っぷし‼︎」

「風邪ですか?立花一佐?」

「…ああ、誰かが噂してるらしいな…」

 

 

 

 

「ちなみに私の父さんは仲間思いだけど親バカでさ〜」

鷹月も、笑いながら言う

 

 

 

 

 

同時刻・日本海海上

きい型航空戦艦するが

艦載機格納庫

 

「ぶぇっくしょーい‼︎」

「風邪っすか?鷹月一尉?」

「あー…誰かが噂してるらしいな…」

 

 

 

 

「最近はさ、やっぱり部隊に回される予算減って大変らしいよ。」

鷹月が言う。

その理由に、立花が察しがついたらしく、言う。

「多分、モスボール保存されてた大和型戦艦2隻を護衛艦として再就役させた上に、きい型航空戦艦を4隻も造ったから、そっちに予算振られたんでしょうね…。」

「はぁぁ…なぁんでそっちが優先されんのよ…普通陸自でしょ…」

鷹月は愚痴るように言う。

だがそれに、千尋は、

「いや、俺が防衛大臣だったら海自の方を優先すっけど。」

鷹月に、言う。

「え〜何でぇ…?」

「まず、日本って四方を海に囲まれてるだろ?だったら陸上戦力より海上戦力でシーレーンを守備するのが優先化される。」

千尋が言うと、鷹月は不服ながら、まぁ正論だから黙って聴く。

「それに今の御時世は制空権が戦況を左右するから、航空戦力…戦闘機とか、パトリオットみたいな防空戦力が必須だろ?」

実際、お隣の半島の北からは、核と思しき弾道ミサイルが数年周期で飛んで来ているのだ。

それでなくとも中国軍やロシア軍の戦闘機やISの領空侵犯に対処する為の邀撃戦闘機がスクランブル発進するケースが年内に軽く500回以上あるのだ。

「海上戦力だとイージス艦、航空戦力だとPAC-3や戦闘機の配備が最優先。そして陸上戦力は、水際での迎撃や、上陸した敵の撃退…つまりは奥の手…だから陸自の予算削減は仕方ないってこと?」

鷹月が千尋の言った事を纏めて、聴く。

「ざっくりと言えばな。」

「…でも、それでも納得行かないわよ。どうして今更戦艦なワケ?しかも北陸地方沖合を中心に––––––」

鷹月が言った瞬間、思わず千尋と箒は、固まる。

そこは、日本海を隔ててロリシカと接している地域だ。

そしてロリシカを象徴するものと言えば––––––千尋と箒自信が体験した、凄惨で泥臭く、血みどろの、人類とバルゴンとの戦場––––––。

そして、ロリシカで深紅の雪作戦前に燈から受けたレクチャーを思い出す。

 

 

『 ––––––バルゴンは時々ね、海面を冷凍ガスで凍らせて、渡洋しようとするケースがあるのよ–––––––。 』

 

 

そう、言っていた。

だがバルゴンの体組織は水に浸かると溶解する性質があるから、足場である氷を爆撃すれば、バルゴン群を一掃できる––––––だが、大型種がいた場合は?

航空戦力は役に立たない。

海上からの面制圧が必要になる。

だが、生半可な数の砲弾やミサイルはバルゴン大型種の生体レーザーで撃墜される。直撃しなくても大気がプラズマ化した時の衝撃波や熱で誘爆してしまう。

それに障害物がない海上なら、装甲を持たない現代艦艇は格好の的––––––。

潜水艦で氷に魚雷を撃ち込んでバルゴンを海中に引きずり込むのが最良––––––しかし、威力が低過ぎる。

必要なのはバルゴンの生体レーザーにも耐え得る堅牢な装甲を持ち、火力投射による面制圧に長けた艦艇––––––つまりは、旧世代の遺物・戦艦だった。

多分、数年前から海上自衛隊が戦艦を配備し始めたのは、バルゴンの渡洋阻止任務のため––––––。

そして日本にたどり着いていないあたり、渡洋阻止には成功しているらしい––––––。

だが、もし、バルゴンの阻止に失敗すれば––––––間違いなく、日本は、ロリシカ同様戦場になる。

今までそんな危険が身に迫っていた事も知らずに何事もないように、過ごしていた––––––。

そう思うと、寒気が走る。

「?どうかなさったんですか?お顔が真っ青ですが…」

セシリアが千尋と箒に聴く。

「え、あ、ああ大丈夫大丈夫。」

「だ、大事ない。気にすることでは…」

 

 

そして同時刻、その、バルゴン渡洋阻止作戦が敢行されていた事を、知るはずも無かった。

 

 

 

 

■■■■■■

 

 

同時刻・ロリシカ共和国・樺太

ゴルノザヴォーツク沖合。

 

そこはかつて、ロリシカ独立戦争後もロシア軍が居座る飛び地であったが、バルゴンの進行により放棄された土地、樺太(サハリン)が、あった。

その沖合には、幾つもの鋼鉄の牙城––––––日本国海上自衛隊、戦艦2、護衛艦6。アメリカ海軍、空母1、巡洋艦2、駆逐艦3。ロリシカ海軍、戦艦2、巡洋艦2、駆逐艦4。の3軍から成る、艦隊が展開していた。

 

海上自衛隊・【きい型航空戦艦するが】

艦載機格納庫

 

「…相変わらず、死んでるような景色だな…。」

97式戦術機荒吹のコックピットブロックに投影されている、【するが】のカメラが捉えた映像を見ながら、陸上自衛隊第1師団第1戦術機連隊隷下第3戦術機小隊 ” ブレード ” を率いる鷹月仁一尉は、呟く。

広域マップには、沿岸部を目指して進行中の、バルゴンを示すグリップ(光点)が多数––––––推定900体。

にも関わらず、投影されている景色にあるのは、静寂に満ちた一面の銀世界。

そこに点在する、焼け焦げた樹木や、雪に埋もれた家屋だったらしい廃墟。

そして、それらを覆う、灰色の、陽の光を通さない、曇天––––––。

とても、生物がいるとは思えない。

『重金属弾、渡洋阻止の度に、しこたま撃ち込んでますからね…樺太はバルゴンを殲滅できても重金属粒子の土壌汚染でこの先20年は人が住めないらしいです。』

仁の部下である、如月スミレが言う。

かつてはIS乗りを目指していたが、ある理由で戦術機パイロット––––––衛士に転属して来た自衛官だった。

『…この辺の海域も、重金属粒子に汚染されていますから、少なからず樺太に近い北海道や北方領土にも影響が––––––…』

スミレは最後までは言わなかったが、北海道の、特にオホーツク海方面の漁に深刻な影響を与えているのは事実だ。

それはロシアが不法占拠している北方領土でも同じだった。

重金属粒子で汚染された魚を食えばどうなるか––––––もう、言わずとも見えている。

1970年代、経済成長期の日本で大流行した、『イタイイタイ病』や『水俣病』などの公害病の再来––––––。

故に、日本政府は『ロシア海軍の原潜事故による海域汚染』としてオホーツク海方面での漁を規制させていた。

当初のロシア政府はこの見解の訂正を訴えたが、国連が『貴国もバケモノと戦うか?』という一言を発した瞬間、それはピタリと止んだ。

結局、大国であろうが経済が危機的で尚且つ戦力の半分近くをISにシフトしたロシア軍がバルゴンと戦えばどうなるか––––––目に見えていたから。

 

だが、それでも、やはりこの光景は––––––

『何だか、自分の手で自分の首を絞めてる感じがします…。』

スミレが悲しそうに言う。

それに対して仁が、言う。

「だが、彼らにはそれしか方法が無いんだ。その唯一の対抗策を否定してしまえば、彼らには対抗手段が無くなる。」

『…なんだか、複雑ですね…バルゴンを倒すにはそれを使わざるを得ない。でも取り戻した土地がそれのせいで死の大地じゃ…』

やるせ無い顔をしてスミレは言う。

「そういう土地は地道に元に戻すしかない。…日本だって水俣病流行った時水俣湾はヘドロや廃液まみれで汚かったけど、今は魚が住む、元の姿に戻ったろ?…それと同じように、地道に復元していくしかない。」

『そうですね…急がば回れ––––––地道にコツコツと、確実に治していくしか、ないですね。』

「そういうことだ––––––」

直後、通信が入る。

HQ––––––前線指揮所の置かれている、米海軍の復役艦である【通常動力型空母ジョン・F・ケネディ(JFK)】からの通信だった。

『HQより全艦に通達––––––矢を放て。繰り返す、矢を放て––––––。』

砲撃開始の合図。

瞬間、仁たちの乗艦している【するが】に衝撃が走った––––––

 

 

 

 

 

 

同時刻・海上自衛隊

臨時艦隊旗艦【きい型護衛艦きい】

 

太平洋戦争後に建造され、冷戦終結の1991年まで海上自衛隊で運用され続けたその戦艦は、今回のような形で【きい】は艦橋と前部甲板はその原型を留めつつも、後部甲板は砲塔を撤去。

後部甲板は哨戒ヘリコプターや戦術機用の飛行甲板として、レーダーや通信機器の近代化を施し再度、就役していた––––––。

 

 

艦橋CIC(中央戦闘指揮所)

 

HQからの砲撃開始命令が下り、海上自衛隊のやまと型戦艦【きい】、きい型戦艦【するが】、ロリシカ海軍のベルホヤンスク級戦艦【チェルスキー】、【コルイマ】は現在は砲弾を装填中だった。

その後方からは、戦艦を盾にしながらVLSからトマホーク巡航ミサイルを放つ米海軍の【タイコンデロガ級巡洋艦】と【アーレイバーク級駆逐艦】、ロリシカ海軍の【アムール級巡洋艦】と【ヤクーツク級駆逐艦】の展開している情報が広域マップに、映し出されていた。

「…いよいよ、ですね。」

艦隊司令部の海将に、【きい】艦長が、楽しそうに言う。

「ああ…楽しそうだな、艦長。」

海将がそれに対して苦笑いをしながら、言う。

「はい。彼奴らめにこの【きい】の砲を食らわせてやりたくて、うずうずしております。」

艦長がひどく楽しそうな顔で笑いながら言い、海将もそれを見て、ひどく楽しそうに笑いながら、言う。

「まぁ、気持ちは分からなくもない。」

「装填準備、完了しました‼︎」

砲雷長が、報告する。

「レーダー連動射撃用意‼︎」

安部が命じる。

同時に、【きい】の前部甲板に搭載された3連装46センチ砲が2基と3連装15.5センチ副砲1基が重い鉄の軋む音を立てながら、砲塔を旋回させ、沿岸部から渡洋を始めたバルゴン群に向けられる。

同時に、左舷の12.7センチ高角砲の代わりに艤装したオートメラーラ速射砲群も、砲塔を旋回させ、バルゴン群に砲口を向ける。

さらに、後部甲板のVLS発射口が、次々に解放される。

そしてレーダー照準により、仰角を、調整し––––––準備が、整った。

「さて、艦長。」

海将が口を開く。

「奴らに、 ” 航海には危険が付き物だ ” ––––––と、教えてやらねばな。」

ニヤリ、と口角を釣り上げて笑いながら、山本が言う。

それに艦長は、強く頷く。

「トラックナンバー36、38、撃ち方始めッ‼︎」

そして、艦長が命じる。

それに従い、各砲塔の射撃手が、引き金を、引く。

 

瞬間、火薬が炸裂する爆音と熱と共に46センチの鉄の巨筒から大気を震わせながら穿たれる、鉄火の咆哮。

 

【きい】の砲撃を皮切りに、【するが】、【チェルスキー】、【コルイマ】から次々と断続的に、鉄火の咆哮を上げていく。

46センチ砲弾と127ミリ砲弾、そして後方の駆逐艦や巡洋艦、護衛艦の放ったトマホーク巡航ミサイルやハープーン対艦ミサイルから成る鉄の雨が、バルゴン梯団に降り注ぐ。

砲弾やミサイルが、弧を描きながらバルゴン梯団に吸い込まれていき、閃光が次々と炸裂し、バルゴンを潰し、砕き、吹き飛ばす。

それはもはや、” 圧巻 ” の一言しか、浮かばない光景だった–––––––。

 

 

 

 

同時刻・【きい型護衛艦するが】

艦体後部・飛行甲板

 

飛行甲板の真下にある艦載機格納庫から、艦の側面にある4基の輸送エレベーターで仁の率いるブレード小隊が飛行甲板にリフトアップして、各機が主機を点火。

戦術機のシステムを起動させる。

瞬間、後方で爆発音が響く。

仁が荒吹の後部センサーカメラの映像を新規ウィンドで開くと、先の爆発音の元が映っていた。

【コルイマ】の後部甲板から両舷に伸びる形のV字型カタパルトの左舷––––––そこから爆炎と黒煙が上がっていた。

『航空戦艦【コルイマ】、左舷に被弾。レーザー照射を受けた模様。』

JFKのオペレーターがご丁寧に説明してくれる。

見れば分かる––––––仁は言いそうになるが、それを喉元で飲み込む。

『対レーザー防御装甲が無かったら…即死でしたね…。』

震える声音で、スミレが言う。

確かに、対レーザー蒸散塗膜が装甲になされていて、それが緩和材として機能したから【コルイマ】はあの程度で済んでいる。

もし対レーザー蒸散塗膜が無かったら–––––––轟沈は不可避だった。

だが、その安堵した矢先、【コルイマ】の前部甲板第2主砲に、レーザーが穿たれる。

レーザーのプラズマと、火薬の誘爆で主砲は爆散するが、それに留まらず、レーザーは第2主砲を貫通。

そのまま、後方に展開していた【タイコンデロガ級巡洋艦ヨークタウン】の艦橋を、貫き–––––––爆発。

『【コルイマ】、レーザー照射により主砲損傷。【ヨークタウン】、レーザー照射を受け爆沈。』

対レーザー蒸散塗膜の施されてない艦だった。

全ての艦艇にレーザー蒸散塗膜を施すには時間もコストもかかりすぎるが故に、基本、艦隊の盾となる戦艦や司令部が置かれる空母に対レーザー蒸散塗膜は優先して施される。

そのため、対レーザー蒸散塗膜の施されてない艦は、即死となってしまう––––––。

さらにレーザーの出力自体が強力なために、盾である戦艦も、今のように貫通される事がある。

後方だから、戦艦という盾があるからといっても、決して安全なわけでは、ない。

『––––––ッ!』

スミレの焦燥と恐怖を孕んだ息がヘッドセット越しに、仁へと伝わる。

他の部下2名も同じだった。

だから、仁は、場の緊張を紛らわすために、言う。

「各員、こんな話を知っているか?」

仁が言うと、全員が思わず聴き入る。

 

「海自の潜水艦が米軍との演習で、見つかることなく無音潜航を行い、ピンガーで駆逐艦を撃沈。面子を潰された米軍は舐めプしていたことを後悔すると同時に血眼で探したが発見できず。その次の演習でも本気で探すが無音潜航中の潜水艦を見つけられず。米軍は事故を起こしたのでは、とパニックになっていたところ、なかなか見つけて貰えない海自の潜水艦は ” 米軍艦隊最深部 ” にいた空母の真横に浮上。

『何かトラブルが有ったんですか?』

海自のその言葉に米軍は安堵を覚えると共に、

『演習中に勝手に浮上するな‼︎』

と苦し紛れの捨て台詞を吐いたそうな…。」

 

やはり、何て事はない。

海自に本当に纏わる武勇伝だ。

だが、こんな時にそう言った小話は本当に助かる。

全員の顔から緊張が消える。

『HQから全艦載機へ。全戦術機部隊発進せよ!繰り返す、全戦術機部隊発進せよ‼︎』

JFKからの命令––––––それを聞いて、仁が命じる。

「よし、野郎ども!仕事の時間だ‼︎これよりブレード小隊はNOE(匍匐飛行)でバルゴン梯団に突貫。【チェルスキー】に陣取っているメドヴェーチ中隊、JFKのスカル中隊と共に大型種を殲滅する。」

仁が作戦概要を言って––––––スミレに視線を向ける。

「初陣だな、しっかりやれよ。」

『は、はいっ‼︎』

スミレが少しテンパったように返事する。

「ブレード小隊各機、跳躍開始‼︎我に続けぇぇぇッ––––––‼︎」

仁の裂帛の号令。

それと共に、ブレード小隊各機が垂直跳躍。

そして海水面スレスレの高度の低空飛行に移り、突撃を開始した––––––。

 

 

 

 

 

■■■■■■

 

IS学園・第5アリーナ前

 

「…はぁ…」

千尋は缶コーヒーを飲み干しながら、溜息を吐く。

「…ふぅ…」

箒もまた、ペットボトルの緑茶を飲み干して、溜息を吐く。

「…バルゴンを食い止めねぇと…日本も、戦場に…」

千尋が、呟く。

「…そうだな。」

箒も、言う。

「でも、バケモノはバルゴンだけじゃないんだよな…じゃあ、そいつらの分も対策しねぇと…」

千尋がそう言いかけた瞬間、

「あ、いた‼︎箒さん!千尋くん!」

立花が、アリーナの方から駆け寄って来る。

「2人とも来て!今すぐ‼︎」

「は?ちょっ…」

千尋が言いかけるが、千尋と箒も立花に腕を掴まれて、アリーナの方に連れて行かれた。

 

 

 

 

 

アリーナ内部

 

アリーナ内はかなりの騒ぎだった。もちろん、悪い方の意味で。

ラウラがシュヴァルツァレーゲンで鈴の甲龍、鷹月の打鉄を血祭りに上げていたから。

それはもう、試合ではなく、リンチそのもの––––––AIC(空間停止結界)で鈴と鷹月を固定し、プラズマ手刀で斬りつけている。

しかも、鷹月の方はシールドエネルギーが磨り減り、危険値に突入している––––––。

2人とも、苦悶に顔を歪め、ラウラはそれを見て加虐に顔を歪めていた。

それを見た瞬間、千尋の中で憎悪と憤怒が込み上げる。

(––––––殺セ)

一瞬、千尋はそう思う––––––が、平静を取り戻す。

「立花は先生に連絡を!箒は俺と強化装甲殻であのバカ女を止めに––––––」

が、遮って、

「うおぉぉぉぉぉ‼︎」

織斑が白式の単一能力『零落白夜』でアリーナのシールドバリアを破壊した。

 

––––––次の瞬間、箒の瞳に映ったのは、自分の方に降り注いで来る幾つものシールドバリア–––––––超電磁フィールドの張られていた耐爆ガラスの、破片。

避けようにも、間に合わない。

そしてその破片が箒の眼前に迫った–––––––瞬間、

箒は、” 人間ではあり得ない力 ” で後方に吹き飛ばされた。

「あぐっ‼︎」

頭からアリーナの地面に打ち付けられ苦悶の表情を浮かべた。

一瞬閉じてしまった瞼を開いたそこにあったのは––––––

「え…?」

千尋だ。

だが、おかしい。

千尋の腹から、鋭利な見た目の透明で硬い物体がいくつも生えていて、そこからおびただしい量の赤い、紅い液体が流れていて––––––その液体は千尋の口からも––––––。

ロリシカで見慣れた、その液体と同じ色。同じ匂い。

つまりそれは、今、千尋から流れているそれは、千尋から生えているそれは–––––––理解が拡大する。

信じたくない事が、現実となって、頭に叩きつけられる。

「あ…あ、あ…」

理解はしている。

けれど思考が否定する。

否、箒自身が ” それ ” を認めたくない。信じたくない。

「…箒、無事…か?」

痛みを堪えた顔で、聴く。

「あ…ああっ…」

その言葉が、箒に決定打を加える。

目の前の千尋の姿が ” それ ” を ” そう ” だと、認識させる。

––––––耐爆ガラスの破片が幾つも背中から腹を貫いて、血を流している千尋が。

「…よかっ、た…。」

千尋が力無く、無邪気に笑う。

「ち、ひ…ろ…‼︎」

箒は、思わず、叫ぶ。

ふらり、と倒れかけた千尋を箒が抱き抱え、支える。

「千尋ッ!し、しっかり…どうして…!なんでッ…⁉︎」

思わず、箒は、取り乱してしまう。

「ちょっと‼︎誰か医療班を––––––」

立花も周りに医療班を要請するように叫んで頼む。

けれど、それはまったく気にかけない、織斑を応援する女子達の声に、掻き消されてしまって––––––。

「あんた達…おかしいわよ…‼︎」

立花は、言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・第5アリーナ

 

そこでは、一夏とラウラの戦闘が繰り広げられていた。

…その、一夏が破ったバリアの真下。

 

「ほう、き…背中、の…抜いて、くれる、か?」

バリアの破片2つばかりに背中から腹を貫かれて、血を流している千尋と、

「な、何言って…そんな事したらお前…!」

動揺し、混乱している箒がいた。

立花には、アリーナ医務室の教師を呼んでもらうために、そこからは離れていた。

何故なら、

「織斑くん頑張ってー‼︎」

「負けないでー‼︎」

などと、2階の観客席から叫ぶ女子がうるさくて、電話をしても内容が伝わらない。

しかもこちらは彼女らからしたら死角になっているから、気付きもしない。

「いい…から、早く!」

千尋が箒に怒鳴る。

「ッ!––––––くっ‼︎」

破片に手をかけ、掴み、力を込め、思い切り、引き抜く––––––

ブシュ。

肉の裂ける音が響く。

「––––––ッ‼︎」

さらに刺さっていた傷口から、血が噴き出す。

床に鮮血の海が生まれる。

千尋は激痛に襲われ、顔を歪めるが、歯を食いしばり、痛みを必死で、堪える。

けれど僅かに痛みを孕んだ息は、漏れてしまう。

箒はその顔を見てしまい、青ざめる。

「…次も、たの、む。」

千尋はそんな箒を元気付けようと、ふにゃ、と力無く、無理に笑う。

「で…でも…!」

「だいじょ、ぶ…だって…体は、そんな、やわじゃ、ないから…。」

必死で強張った笑みで、答える。

「だ、だからっ、って…」

やはり動揺した声。

「チクチク、してんの、いてぇ、し…体、は…だい、じょうぶ。…だ、から…」

「ッ…ご…ごめん…‼︎」

箒はボロボロと涙を零しながら、先程と同じく、破片を掴み、力を込めて––––––思い切り引き抜く。

「ッ––––––‼︎」

やはり、千尋は歯を食いしばり、悲鳴を上げまいとするが、痛みを孕んだ息は、漏れてしまう。

さらに鮮血の海が広がる。

「ごめん千尋…ごめん…」

泣きじゃくるように箒がそう言った瞬間、千尋は痛みに感覚が支配されている中、 ” 本能的 ” に危険を感じて––––––

「…ッ⁉︎伏せろッ…箒‼︎」

千尋が痛みに襲われる体に鞭打ち、箒の腕を掴み、押し倒し、覆いかぶさるような姿勢を取る。

一瞬後、コンクリートが粉砕される爆音が響いた。

先程織斑が破壊したバリアの穴から、ラウラのパンツァーカノニーアのレールガンの流れ弾が1階観客席に弾着。

観客席をいくつも粉砕し、コンクリート片が舞う。

幸い人はいなかった––––––いや。

今自分達のいる場所から僅か2メートルくらいの場所に、1人、瓦礫と化した観客席付近に倒れている少女がいた。

その少女には、見覚えがあった。

確か、今日、朝食の時に鷹月と一緒にいた––––––。

「鏡⁉︎」

箒が叫ぶ。

鏡ナギ、だった。

「ほ…うき…さん…?」

ナギは力無く呟く。

そして2人はリカを見て––––––凍り付く。

ナギは、太腿にコンクリート片が刺さり、左手が可笑しな方向に曲がり、口から血の泡を吹いていたから。

「あ…」

箒の脳裏に、あの光景が、フラッシュバックする。

ベルホヤンスク統合基地第2前哨基地の、箒の目の前で瀕死の重傷を負い、慈悲の一撃を喰らい、頭蓋の中身をぶち撒けながら死んだ、クリス二等兵の、死に際の光景が。

「しっ、かり…しろ…立花が、医者を呼びに、行って…る…‼︎」

千尋は声を発するたびに全身を駆け巡る痛みを堪えながら、ナギを激昂するように言う。

だが、次の瞬間。

「ゴフッ––––––」

吐血。

千尋の口から、赤い、紅い鮮血が溢れる。

破片が内臓を幾つか傷付けたらしい。

いや、下手したら、一つくらい内臓が潰れてるかもしれない。

そして、体に開いた傷口が、熱を孕む。

それで意識が朦朧とし始める。

「ッ!ち、千尋‼︎」

箒が焦燥と混乱に満ちた顔で、思わず支えるように抱き抱える。

「…ッ、は…ぁ!…ど畜生、が…‼︎」

腹を破片が貫いたものとはまた違う、痛み––––––傷口の断面から、新しい肉が形作られ、急速に傷口が塞がる感覚が、伝わる。

それを感じて、顔に、脂汗を溢れさせながら、痛みに歪んだ顔を浮かべる。

(人間の体だと…すっげぇ、痛えな…これ…。)

それは初めて味合う痛みでは無かった。

自身を形作るモノ–––––––G細胞の中にある『オルガナイザーG1』という、再生を司る組織細胞による自己再生の際に生じる副作用だった。

かつての自分––––––ゴジラだった頃の自分なら、蚊に刺される程度の痛みだろう。

だが今の自分––––––人の体の自分では、体を引き裂かれるような痛みが、新しい部分の肉が形作られる度に、常人なら、発狂してしまいかねないような、いっそ死んだ方がマシに思えるような激痛が、全身を駆け巡る––––––。

意識はゴジラだったものでも、体が人では話にならないくらい、魂と肉体とが釣り合わない––––––そういう事だった。

「治んの、は…良いけど…痛い、のは、御免だ…くそったれ…。」

千尋は、2人に聞こえないような小声で、呟く。

 

未だに、アリーナの方ではバカ共が戦闘を繰り広げている。

まぁ、今は、ラウラが織斑をAICで止めているが––––––瞬間、ラウラはその身動きの取れない織斑にパンツァーカノニーアを向ける。

しかも、ゼロ距離だ。

その異常性に、箒や千尋ですら、血の気が引く。

決して織斑に同情している訳ではない。

だが、絶対防御はゼロ距離で荷重攻撃を食らった場合、ほとんど意味をなさない。

ISスーツに守られた部分ならまだゼロ距離でも絶対防御は発動する。

だが絶対防御に守られていない部分は、ゼロ距離ではなんなく貫通、首などには一応、小口径程度なら防げるエネルギーが展開されるが、戦車砲クラスなら、ガラス同然––––––。

つまり、このままだと、織斑は死ぬ––––––。

ラウラがパンツァーカノニーアを穿つ––––––瞬間。

「その辺にしておけ。バカ共。」

打鉄の刀でパンツァーカノニーアの砲塔を、弾く、千冬。

「千冬姐⁉︎」

「教官⁉︎」

2人は同時に驚くが、その光景に、2人はある意味安堵を覚える。

「あ!ごめん二人共‼︎」

その時立花が山田を連れて来る。

「だ、だ、大丈夫ですか⁉︎篠ノ之くんっ⁉︎」

かなりテンパりながら、山田は聴く。

実際、生徒が血だらけなのだから、それが当たり前の反応だろう。

「…俺は平気です。それより、鏡の方を…」

そう言って、千尋は、山田を安心させる為に無邪気に笑ってみせる。

「そ、そうですか…分かりました。…立花さん!鏡さんを運ぶのを手伝って下さい‼︎」

「あ、は、はい‼︎」

山田がテキパキと指示を飛ばす。

ふと闘技場に視線を向ける。

鷹月と鈴は教師部隊が回収していた。

ラウラと織斑は千冬に何やら説教されているらしい。

千尋は箒に肩を支えてもらいながらアリーナを、出た。

 

 

 

保健室前

 

結局、千尋は簡易的な治療を受けて、保健室から出ていた。

必要最低限の分の再生をオルガナイザーG1がやったから、というのもあるが、病院と同じ、独特の匂いが苦手だったから。

何より––––––墨田大火災直後に搬送された病院での出来事を思い出してしまうから。

 

 

全身に火傷を負い、ミイラみたいに包帯でぐるぐる巻きになった人。

 

ガラスが大量に肌に突き刺さり、痛みにうめき続ける人。

 

意識の無い恋人の名前を呼んで、必死に声を掛け続ける男性。

 

親がたった今事切れて泣き叫ぶ、まだ5歳くらいの子供と、その隣で何が起きたか理解できずに呆然としている3歳くらいの子供。

 

 

––––––それらがフラッシュバックするから、千尋は保健室や病院が苦手だった。

そしてそれは、箒も同じだった––––––。

姉弟揃って、病院恐怖症というヤツだろうか?

…笑えない。

「千尋…怪我は…?」

箒が先程千尋の返り血で血塗れになった制服から特自のBDUに着替えた姿で、聴く。

「平気だよ。多分、3、4時間もしたら、治ると思う。」

「そうか…」

「…鏡の方は…?」

千尋が、聴く。

すると箒はひどく辛そうな顔をして、言う。

「…左脚の半月骨が3分の1くらい磨り減っていて…IS乗りには、もう…」

最後まで言わなかったが、千尋はそれで察した。

つまりは、将来的にISパイロットには、もうなれないのだ。

別にISパイロットを羨ましく思った事はないし、千尋からしたらどちらでもよかった。

だが、しかし、ナギにとっての夢であったモノが、いとも容易く、無残に潰された––––––それに関しては何も感じないわけではない。

同情––––––と言えばいささか無礼かもしれない。

でも、それに限りなく近い感情が、2人の中に、渦巻いていた。

鏡ナギの件だけでなく、織斑やラウラの処遇が、あまりに釈然としないものだったから。

 

––––––タッグトーナメント当日まで、アリーナの使用禁止。

 

たった、それだけだった。

負傷者を4人も出していながらだ。

織斑は千尋と間接的とは言えナギを、ラウラは鷹月と鈴を重傷に追いやっている。

あまりに納得できない、そんな処遇だった。

そして納得していないのは、千尋と箒、立花だけではない。

救援に駆けつけた、山田もだった。

『せめて専用機所有権を剥奪すべきです‼︎』––––––そう、あの騒ぎの後に開かれた緊急職員会議でそう言ったらしい。

光も、山田と同じように抗議したらしい。

『人命に関わる大事を起こしておきながら、処遇が軽過ぎるだろう。これでは、奴らは二度同じ事を繰り返すぞ。』−–––––そう、言ったらしい。

だがIS関連の権利は織斑千冬に一任されているらしく、2人の意見は蹴られてしまった。

だから、織斑もラウラも実質無罪放免––––––。

––––––ふと、千尋は思う。

そしてそれを、口にする。

「こんなに、連中にばかり都合のいい状況が…普通、出来るものなのか?」

「…こうなる事を望むくらい、学園側が愚かなのか…もしくは、学園が何者かの傀儡に成り果てているか…その、どちらかだろうな…いずれにせよ、私たちは大きな力の上でバカみたいに踊らされているだけだ。」

箒がやるせなさを含んだ声音で言う。

千尋は、ふと、座っていたベンチから立ち上がる。

「…へこんでたって仕方ないし、散歩でも行こう。」

「…そうだな…。」

千尋が言う。

箒がそれに応えて、千尋と一緒に、歩いて行った。

 

 

 

 

■■■■■■

 

生徒寮・1025室

「一夏〜ジュース飲む〜」

そこには、少女の格好をしたシャルがいた。

「お〜サンキュー。」

1週間前、織斑に女であったことがバレてしまい、シャルは自分の過去について、打ち明けた。

デュノア社の社長の愛人の娘で、機体の開発が遅れており、政府から援助を絶たれるから、社長の命令で第3世代のデータを盗むために学園に寄越された。

従わなければ殺されるから。

織斑は一緒に解決すると約束してくれた。

…でも、あの日からずっと、ただただ学園生活をするだけで––––––。

(分かってた…結局、高校生風情がどうにかできる話じゃ、ないって事くらい。)

シャルが内心呟く。

 

 

「ZZZZZZ…」

その隣では、今ジュースを飲んだ織斑が眠っていた。

「…睡眠薬が効いた…?」

シャルは呟く。

そして申し訳なさそうな顔をして、

「ごめん一夏…でも、まだ、僕は…死にたく、ない、から…」

シャルは謝罪しながら、言う。

そして待機状態の白式を織斑から外し、端末に有線接続する。

そして、クラッキングを開始した。

ISの訓練で培ったラピッドスイッチの反射神経で、次々に発動するファイアーウォールを躱し、ISコアに辿り着く。

すかさずデータのコピーを開始。

データをコピーするローディングバーが表示され、シャルは息を吐く。

「これで…これで良いんだよね…こうしたら、僕は…生きれるんだよね…?」

罪悪感に涙を流しながらシャルが言う。

だが、瞬間。

部屋の壁からガスが噴出する。

「⁉︎うっ、ケホッ‼︎ケホッ‼︎」

(これ、催涙ガス⁉︎なんで––––––…)

それで、シャルの意識は途絶えた。

 

 

クロロホルム系の催涙ガスが晴れると、ドアを蹴破って、武装した黒装束の集団が流れ込んできた。

【情報庁】、暗部・実働隊と【特務自衛隊】、特一級機動隊の隊員たちだった。

彼らの手には89式小銃とSIG556アサルトライフルがあり、それらの銃口は催涙ガスで床に横たわっているシャルに向けられていた。

シャルに意識が無いことを確認すると、特一級機動隊の隊長が通信をいれる。

「ウルフ・リーダーよりHQ、対象を無力化。これより回収します。––––––あとは頼みますよ、楯無部長。」

『了解––––––お疲れ様でした。権藤一佐。』

通信を終えると、実働隊の隊員2名がシャルを脇下から掴み上げて、他の隊員はシャルの専用機であるラファール・リヴァイヴ・カスタムの待機状態のモノを、ISコアを外界から遮断する仕様のケースに入れ、1025室を後にした––––––。

 

 

 

 

 

■■■■■■

 

 

中央太平洋・????

 

見渡す限り肉色の景色。

ねとねとして獣臭いけれどほのかに温かく、何処か愛おしげな感情すら抱かせる粘液。

緩い放射能まみれの空気。

僅かに起伏を繰り返す床に相当するモノ。

それは心地よくて、優しくて、温かくて––––––その中に、朝倉美都は白いワンピースを纏って、いた。

自分と似たモノを纏った者の中にいた。

「…うっかり、寝ちゃいそうですね…」

少しだけ––––––そう思って瞼を閉じかけた朝倉は、無造作に外に、 ” 吐き出される ” 。

「あっ」

間抜けな声を発する。

そして冷たい、塩味の水の中––––––海中に落ちる。

それと同時に先程体にまとわりついていたモノも洗い流されてしまう。

僅かな喪失感––––––少し口惜しく感じながらも、海面に、顔を出す。

そして見上げれば、黒いケロイドの巨体に乳白色の生気を感じさせない目、そして自分が入っていた場所である、不規則にならんだ牙が幾つも乱立する口を持つ、怪物––––––【ゴジラ】がいた。

普通ならこんな怪物を見たらパニックになって、泳いででも逃げようとする。

けれど朝倉は怯えるどころか、少し膨れて、

「もう少し入れていてくれたって良いじゃないですか…」

抗議する。

それはまるで、 『 幼い子供が、父親にものを言うような光景 』 ––––––にも、見えなくはなかった。

そんな朝倉に対しゴジラはプイッとそっぽを向いて別の方向に向かって歩き出す。

「…はぁ…ま、仕方ないですね…私は彼に依存している分際ですし…」

朝倉はふと呟くと、目の前に見える島に向けて着衣水泳を始める。

島までは約1キロ。

朝倉からしたら別に普通に着衣水泳でも泳いで行ける距離だ。

そしてゴジラも朝倉の向かう島に向かう。

…方角は、違うが。

ゴジラは島にある原子力発電所が目当てだ。

朝倉はそこに自分が探していたモノがあったから、乗せてもらっただけだ。

島を見た瞬間、朝倉の中で長年封じ込めてきた感情が殻を破って、現れ始める。

ふと、ゴジラを見る。

背中の背ビレだけをこちらに向けて、悠然と、海上を歩いている。

もう、ゴジラからしたら足が着くくらいの深度なのだろう。

ふと、ゴジラが足を止めて、こちらに首だけを向けるように振り返る。

それに朝倉は、

「…行ってきます。」

微笑みながら言った。

通じるはずがない。

だって、朝倉は所詮人間で、ゴジラは怪獣だから。

朝倉の言葉なんて、通じるはずがない。

でも確かに、その瞬間。

『–––––––死ぬなよ。』

ゴジラがそう言って、朝倉は、そう聴こえた…気がした。

「–––––––はい。」

だから、応じる。

通じるはずがないけれど––––––。

そして朝倉は島の方を向いて、

「さて––––––10年前の…白騎士事件の借りを、返しに行きますよ––––––篠ノ之束。」

妖艶に、何処か加虐に満ちた笑みを浮かべながら、言った。

 

 

 

 

 

カチリ。

また、世界の破滅が進む。

秒針は2と3の間を刻み、激動の序章が幕をあける。

誰かが言った。

これは破滅だ、黙示録だ。

驕り高ぶり過ぎた人間に罰が下ったのだと。

そしてこれは、その、醜い、矮小で浅ましい人類に、神の代行者たる、怪獣が、神罰の鉄槌を下す、その、直前の物語–––––––。

 

 

 

 

 

 

 




今回はここまでです。

鷹月さん達が友達になりました。

樺太を渡洋されたら北海道にバルゴンが雪崩れ込み、日本も戦場に…。
そうならないように自衛隊、ロリシカ軍、アメリカ軍は戦艦や空母を引っ張り出して間引き作戦を展開しています。


さて、一夏のバリア破壊の件は書きたかったので、やっと書けて少し達成感があります。
てか、原作でも少なからず負傷者出てる可能性がありますよね…アレ。


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