インフィニット・ストラトスadvanced【Godzilla】新編集版 作:天津毬
舞台は前回から6年後の2021年。
原作スタート時へ……。
EP-01 最後の春
【特務自衛隊・八広駐屯地】
墨田区の惨劇、墨田大火災と呼ばれる厄災のせいで焦土と化した北墨田に建てられた、「IS或いはそれに類するものに対処する第4の自衛隊」、日本国防衛省陸上自衛隊隷下・【特務自衛隊】の本部基地であり、墨田大火災後に確認された未知の元素、【G元素】を研究する為の国連管轄研究機関・【モナーク】の研究施設の存在する墨田区八広に置かれた駐屯地。
その、官舎3号棟。
畳が敷き詰められた407号室。
そこには、小柄で華奢な、緋色の髪に童顔の少年が四肢を投げ出し、布団の上でいびきをかいて寝ていた。
そこへ、ドアの向こうからノック音が響き、
「千尋、起きてるか?」
落ち着いた、少女の声が聞こえる。
「むにゃ……う、ん…あと3年寝かして…すぴー、すぴー……」
しかし少年は起きる気配が無く、寝言を言って、そのまま、寝続ける。
すると、ドアを開けて、黒髪にポニーテールをした、凛とした雰囲気の少女––––––【篠ノ之箒】が入って来る。
「…はぁ……まだ寝てるのか、この馬鹿は……」
呆れた顔で、言う。
「千尋、おい朝だぞ、起きろ。」
箒は、また声をかける。
しかし、やはり起きる気配は全くない。
「……もう…しょうがないなぁ…」
それを見るなり箒は困ったような、呆れたような、少し、楽しそうな顔をして……
「おっきろぉぉぉ‼︎」
少年––––––【篠ノ之千尋】に、飛び掛かる。
「うぇ⁉︎げぶふぅ‼︎」
まず千尋は箒の大声で目を覚まし、次に箒の胸に付いたデカブツの、男なら誰であろうが歓喜するであろう触感が伝わり、次に身長160センチ、体重42キロの箒が自由落下した衝撃が身長155センチ、体重49キロの千尋を襲い、一瞬千尋は呼吸出来なくなる。
そのせいで、千尋は変な声を上げてしまう。
駐屯地に鳴り響く午前5時の起床のラッパだろうが朝早くから寒風摩擦に励む自衛官の掛け声だろうが気にせず眠り続ける千尋には物理的、特に打撃系の目覚ましが有効で、今回箒が使ったのは名付けて「ドーン‼︎起こし」というもので、かなり有効だとなるのだが、下手すれば相手の肋骨を折りかねないものだ。
(*うp主は実際に幼稚園のころ、父親に「ドーン‼︎起こし」をして、父親の肋骨を折りました。)
「朝っぱらからいきなり何すんだよ箒姐‼︎」
思わず、千尋は抗議する。
「何度起こしても起きないお前が悪いのだろう?」
それに箒はケラケラと笑いながら、言う。
そういや、何か大事なこと忘れてる気が…
千尋はふと思い、
「箒姐、今日は何月何日だ?」
聞く。
「4月1日。IS学園への入学式の日だが?」
瞬間、千尋は固まる。
……今、なんて?
「ごめんもう一回。」
「だから今日はIS学園への入学式だ。」
千尋はみるみる内に青ざめる。
そして、チラリと、時計を見る。
午前7時02分。
始業式は午前8時40分から始まる。
まだ、1時間半近くある。
だから、千尋は胸を撫で下ろす。
だが準備は迅速に済まさなくてはならない。
千尋は直ぐさま布団から飛び出し、学園が支給した制服に着替える。
そして、箒と共に官舎内の食堂へ向かう。
食堂。
この3号棟自体あまり人が住んでいない為か、かなり空いていて、第13戦略機小隊の【永井頼人】三尉と【久字舞弥】二曹、そしてヤングエリート集団という、まぁ、若いうえにお偉いさんであり、千尋が元来いた世界で殺した片桐光男…の、何故か女になっている、【片桐光】一佐のみだ。
千尋と箒は直ぐに素早く食べれる物を選び、席に着く。
頼人と舞弥の向い側、光のすぐ後ろに。
「そういや千尋、お前箒と一緒に今日からハーレム生活なんだっけ?」
「んな…⁉︎」
頼人が、千尋に聞く。
そしてハーレム、という単語が出た為に思わず千尋は赤面してしまう。
「男性が理想郷と考えている環境…確かに、そこに派遣される者、特に男性の気持ちは、気になります。」
舞弥まで、その話題に食い付く。
「どうせロクな所じゃないです。この女尊男卑のご時世の有様を見る限りは」
そんな2人の問い掛けを千尋が動揺している中、隣の箒がバッサリと斬り捨てる。
「うわぁ…夢も希望もない……」
頼人が言う。
「ISが普及した世界になってから、目が腐る程そんなモノを見ましたし、耳が腐る程聞きましたから」
自己嫌悪のような、同族嫌悪のような顔をして、朝食を食べながら言う。
「まぁ…分からなくもないですが……でも、今の有様でも日本はマシだと思いますよ……私が拉致された、北朝鮮よりは」
舞弥が、言う。
彼女は北朝鮮の拉致被害者の1人で、7年前に北九州沖で脱北者達と漂流していた所を海上保安庁に保護され、現在は特自に籍を置いている。
今の女尊男卑で腐りに腐った日本がマシだという彼女がどんな地獄にいたかは、想像もつかない。
その隣の頼人だって苦笑いや笑みを浮かべているが、彼も地獄を知っている。
詳しくは話してくれないが、かつて上官を手にかけなければならない状態にまで追い詰められ、誰も救うことができず、ただ絶望しながら生き続けていたそうだ。
何気無く会話を交わすこの2人と墨田大火災で被災した箒とかつてバケモノにされた千尋の2人は地獄を知る者達なのだ。
「ところで2人とも」
千尋と箒の後ろから光が声をかける。
「そろそろマズイんじゃないか?」
時計に顎をしゃくりながら、言う。
午前、7時33分。
ヤバイ。
2人はそう思う。
IS学園までは何本か乗り換えが必要なのだ。
このままチンタラして、一本でも電車を逃すとヤバイ。
そう思った2人は直ぐさま朝食を頬張り、
「ご馳走様でした‼︎」
そう言って、食堂を出て行った。
「…んで結局千尋はどう思ってるんだろ……ハーレム」
2人が出て行った場所を見ながら、頼人が言う。
「さぁ、な。状況次第では敵意剥き出しになるだろうなぁ…」
光が言う。
「心配、なんですか?」
舞弥が頼人に聞く。
「ん〜まぁな。かわいい弟分だし。なんかあったらなぁ…って思って」
少し、何処か懐かしいモノを見るような目で言った。
【ゆりかもめ新臨海線】
東京沿岸部から御台場、そしてIS学園があるバブル時代に埋め立てられて作られた人工島・夢見島を繋ぐモノレール。
その、車内。なんとか間に合った千尋と箒が乗っていた。
千尋はそこで、窓際の座席に座り、ぼんやりと窓の外を見ていた。
窓の外に映るのは出勤する社会人、道を行き来する自動車、高層ビル群。
東京の街並みだった。
かつて自分が破壊した、元の世界とは違う、平和で何処も壊れていない東京。
それを見ながら、この世界に来てから色々あったなぁ…と思う。
まずは箒から千尋という名前を貰った事。
この世界が自分のいた世界とは違う世界だったり、自分はオリジナルの外皮の破片の細胞が死体と同化した、医学的には生きている死体に過ぎないこと。
自分が殺した奴が光という女になってたり、父親がすでに死んでいた事を、人類に殺された事を光から聞かされて暴走してしまったり……
でも一番知ったのは人間について、だ。
今まで人間は自分達の家族を皆殺しにしてを自分や親父をバケモノにして、唯一の肉親の親父に会うのを邪魔する奴ら、と思っていた。
でも、現実はそんな事はなくて、彼らは確かに欲張りだけども、詳しく彼らを見ている内に失敗をして他者を大勢巻き込んで犠牲を出す最悪な存在だけど、それだけじゃない。
確かに最悪な人間はいるけど、それだけじゃなくて、根の良い奴とか、自分のような存在と共生を模索する者も、たくさんいるという事を。
そして自分はそれらの人間を見境無く皆殺しにしていた現実を、思い知らされた。
でも、箒や光はそんな自分が存在する事を、生きる事を是としてくれた。
そう言えば光はこんな事を自分に教えていた。
『あと10年…いや、そうだな…せいぜいあと6年か、それぐらいしたら、人類の支配する世界は、終わってしまうらしい』
墨田大火災の起きた年に、2015年に言われた。
そして、今はそれから6年後の2021年。人類世界最後の1年ということになる。
普通の人間なら、誰も信じない。
でも、千尋は信じる信じないよりも、「何故、何が原因で滅ぶのか」が気になった。
当然、それについて聴いた。
けれどそれについてはまだ機密らしく、教えてはくれなかった。
『だがやはり原因は私達人間だ。私はそれを酷く後悔してるし、申し訳なく思っている。そしてその時はお前の力が必要になる。だから教えた」
ただ、そう言った。
そんな事を考えていると、窓の外に世界最強の兵器…なんだがスポーツ扱いされているモノ、インフィニット・ストラトス、略してISの使い方を教える教育機関であり女尊男卑の象徴でありテロの格好の的である、IS学園が目に入る。
確か、自分の役割は箒姐のサポートだっけ…それにしても箒姐も不憫なもんだ。
自分の姉のせいで自身の役目と未来を決めつけられてしまって。それはかなり辛いはずだ。
なのに箒姐は必死で我慢している。周りに迷惑をかけないように必死で我慢している。
……いや、我慢しているのはそれだけだろうか……?
千尋はそう思う。けれど、すぐにその思考は放棄する。今考えたって、答えなんて出ないから。
閑話休題。
箒のサポート程度なら女性自衛官でもできる。
だが、千尋だってIS適性ランクD+と、一応適性はあるから、その腕試しと、ISを元に作られたISの上位互換機、【戦略歩行機動兵器】とISのダウングレード版【歩兵強化装甲殻】の新型OS開発用のデータ収集、そして【3式MFS-X機龍】のDNAコンピューターの完成 。
それらが目的だった。
「千尋……何を考えているんだ?」
そんな千尋に箒が話しかける。
「ははァ…さては女の園に放り込まれるのが嬉しいんだな?」
少し意地悪そうな顔で言う。
瞬間、千尋は顔を真っ赤にする。
「ハァ⁉︎何いってんの⁉︎」
「隠さなくても良いぞ。いやぁ…普通の男の子で安心したよ」
「だから違うって‼︎お、俺は箒姐がいたらべ、別に平気たし……」
箒に言うが、端から見たらシスコンと思われる発言をしたために、耳まで真っ赤になる。
「ふふ…そうか。嬉しいよ」
しかも、箒がそれを受け止めてしまうから尚恥ずかしい。
そうこうしていると、IS学園前にある、夢見島学園前駅に着く。
「…んじゃ、箒姐、行こう」
千尋は気を引き締めて、言う。
「ああ。」
そうして2人は、IS学園へと、足を踏み入れた。
【ビキニ環礁・ファントムタスク支部・ブラボーキャッスル】
墨田大火災の起きた年以降、異常気象により霧が濃い海域に、ビキニ環礁の水爆実験の作戦名から付けられたファントム・タスクの支部「だった」基地があった。
そこにはISや戦闘機の残骸が幾つも転がり、乾いた血の跡が壁や床に付着していた。
その、基盤ブロック。
基盤ブロックの床をブチ抜くように、地下の海底洞窟に通じる竪穴から、黒い、ケロイドのような体表の巨体を持つ、青白い背ビレがいくつも背中に並び、乳白色の、感情を感じさせない目の、文字通りバケモノが上がってくる。
そのバケモノの眼前には倒れたコンクリートに座りこみながら本を読む二十代前半の女性がいた。
「ああ、れい、今日はお早い起床ですね」
女性––––−朝倉美都は、さして動じる事もなく、家族に接するように、れい、と呼んだバケモノを見上げ、話しかける。
「何か良いことでもあるのですかね……ああそうだ、れい、ご存知ですか?」
美都はれいを見上げて言う。
「日本では、あなたの事を…………【ゴジラ】、というそうですよ」
カチリ。
そして世界は破滅へ進む。
誰も望まなかった……いや、誰かは望んだ破滅へ。
カチリ、カチリ。
破滅への秒読みは容赦無く進む。
人類世界最後の春が、始まる–––––––。
はい、という訳で第1話でした。
Pixiv版とは違う展開がほとんどですが、向かう結末、そこへの過程は同じなので気にしないでください。
……次回からIS学園ですが…最後に出てきたバケモノ、なんだかわかった人、いますか?(*大ヒント:乳白色の目)
次回も出来るだけ早く投稿致しますので、次回も読んで頂けると幸いです。