インフィニット・ストラトスadvanced【Godzilla】新編集版   作:天津毬

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前回、前々回とストレスの溜まる回でした…。
さぁ今回はお待ちかねのラドンとその他が本格登場&怪獣の存在が知れ渡るエピソードです‼︎


EP-17 紅蓮ノ翼竜(ラドン)

アメリカ合衆国

ニューヨーク・マンハッタン島

東20番ストリート

 

アメリカの経済の中心地にして、犯罪の都市の一角。

そこでは『いつも通り』の光景が繰り広げられていた。

「ちょっと!あんたアタシの車に何してくれてんのよ⁉︎」

ストリートギャングの女が言う。

警察官が彼女の車––––––ピンクのフェラーリのタイヤに『ワッカ』を付けていたから。

「ここは駐車禁止だ。はい、ワッカ付けるからなー。」

警察官は飄々とした男性だ。

「はぁ⁉︎ふざけんじゃないわよ今すぐ外しなさいよ‼︎」

「はいはいムショに入りたくなきゃ素直にワッカ付けられような〜。」

警察官は喚く女を受け流し、報告書にボールペンで記入しながら言う。

「へぇ〜死にたい?死にたいって言うんならこういうのがあるんだよバーカ‼︎」

その警察官の態度にイラついたのか、女はリボルバーを抜く。

「おいおいそういうのはしまえよ。」

やはり、呆れるように、警察官は言う。

「もう遅いってーの‼︎このマグナムの弾をアンタのケツにブチ込んで、ニュージャージーまで飛ばせてやるわよ‼︎」

女が喚く。

「いいぞ〜いいぞ〜もっとやれ〜。」

その、女と警察官のやり取りを見ていた酔っ払ったホームレスが煽るように言う。

「だぁもぉうっさい!黙ってなさいよ‼︎」

女がホームレスに向けて叫ぶ。

ふと、ホームレスに視線が向く。

その顔は、驚愕に満ちながら凍り付いた顔をしていた。

顔は東の空を向いている。

「なんだありゃあ…」

目の前の警察官もホームレスと同じように驚愕に満ちながら凍り付いた顔をしていた。

「でっかい鳥みたいなんが飛んでくるぞぉ‼︎」

ホームレスが叫ぶ。

「鳥?」

女は怪訝な顔をして呟く。

酔っ払っているにしては純粋な恐怖を孕んだ声––––––目の前の警察官も叫びこそしないものの、仕草はホームレスのそれと、同じ状況だった。

「お、おい、あんた…逃げた方がいいぞ…‼︎」

後退りながら、警察官が言う。

ホームレスは半狂乱になりながら、裏路地の方に走って行っている。

警察官も、とうとう走ってその場から逃げ出す。

「鳥がなんだって––––––」

女が言って、振り向いて––––––2人と同じ、驚愕に満ちながら凍り付いた顔をする。

満月をバックに、確かに鳥が飛んで来ている。

だがおかしい。

大きさがおかしい。

女が知る限り、一番デカい鳥は、せいぜい翼長2メートルくらいのタカだ。

だが、その鳥は、目の前の鳥はどうか––––––パッと見ただけで十数メートル…いや、鳥が近づいてくる度に大きくなって行く––––––軽く翼長100メートル以上はある、あり得ない大きさの鳥が、飛んで来て––––––女の真上を通過する。

風圧で、女の被っていたハット帽が、宙に舞う。

瞬間、一泊遅れて比べものにならない風圧が女を襲い、女は吹き飛ばされた。

「なんなのよこれー⁉︎」

女は叫ぶが、アスファルトに叩きつけられ、頭蓋骨が割れて––––––女は一連の出来事を理解できぬまま死んだ。

 

 

翼竜は、それを気にしない。

いや、そこにそんなモノが居たのかすら気付かないまま、大気を切り裂きながら、空を舞う。

そして、空に伸びる塔––––––エンパイアステートビルを回るように旋回して––––––付近の手頃なビルに、翼で身を包むように折り畳みながら、舞い降りる。

屋上に脚を着いた瞬間、翼竜の体重で屋上から数階が崩落する。

そして巨大な翼を、マントのように、開く。

 

「チュラァァァァァァ‼︎」

 

満月を背景に、翼竜––––––ラドンは、大気を震わせるように、咆哮を上げる。

ラドンの着地したビルの真下の通りでは、皆が皆、どよめきに満ちた顔でビルの屋上に舞い降りたラドンを見上げている。

恐怖する者。

驚愕する者。

カメラを向ける者。

スマートフォンを向ける者。

ラドンを見て思わず交差点でブレーキをかけて急停車したセダンに、次から次へと別の車が次々に玉突き事故を起こす。

ニューヨーク市営バスがセダンに突っ込み、セダンを吹き飛ばす。

セダンが店舗に突っ込み店舗からパニックになった客が逃げ出し––––––ラドンに釘付けにされる。

ラドンの眼前にある、5thAveの群衆は、ラドンに釘付けになる。

ラドンは再び、咆哮を上げる。

そして翼を大きく広げ––––––飛ぶ為の加速として、屋上から、飛び降りる。

瞬間、ラドンが着地していたビルの窓ガラスが風圧で粉砕され、5thAveの通行人にガラスの雨が降り注ぎ、通行人が全身をガラスに突き刺され、路上に鮮血の海を広げながら、大半が絶命する。

さらに風圧で砕け散った外壁が群衆に降り注ぐ。

群衆は車や障害物に身を隠して難を逃れる。

だがそれで終わらず、勢いを得たラドンは水平飛行態勢に移り、群衆の真上をマッハ1.8という速度で通過する。

一瞬遅れて、爆音と粉砕衝撃波が先程玉突き事故を起こした車の車列を、逃げようとする群衆を宙に舞い上げ、さらに通りに立ち並ぶビルの窓ガラスが次々に粉砕され、車と人とガラスの嵐が5thAveを突き進むように巻き上げられる。

だがラドンはそれを気にかけず、さらに加速。

マッハ2.1もの速度に、増速する。

5thAveを一瞬で飛び抜け、強化された粉砕衝撃波により、ガラスどころかビルの外壁すら、粉砕され、ビルが倒壊し、人がそれに巻き込まれて潰され、車が爆発して火の手が上がる。

粉砕衝撃波が大気を引き裂く。

一瞬遅れてビルが崩れる。

瓦礫が舞う。

爆発し、火の手が上がる。

人が瓦礫や風圧で薙ぎ払われる。

その一連の出来事が、悲鳴を上げるヒマなく––––––否、上げても一瞬遅れて轟く、空気を切り裂く爆音がそれを掻き消す––––––。

ラドンの通過した場所はソニックブームによってビルは倒壊し、車は炎を纏った鉄の塊と化し、人は場所によってまちまち––––––運が良ければ軽傷で済み、マンハッタン島から逃げるべく、ハドソンリバーやイーストリバー、スパニッシュハーレムの方角に走って行こうとする。

運が悪ければ––––––

「…ウソ、だろ…?」

「ああ…神様…」

呻く彼らの視線の先––––––通りを埋め尽くす、形容し難い肉塊のオブジェとなった、無数の人間だったモノが、何十、何百、何千、何万と転がっていた。

瞬間、遠くで爆発。

ラドンが蹂躙しているのだ。

そして、送電線が焼け落ちたのか、マンハッタン島から、人工の灯––––––電気が消える。

代わりに、自然の灯––––––火炎が、夜空を赤く染めていた。

その真下で、ニューヨークの光り輝く摩天楼を赤く紅く、紅蓮の獄炎へと、ラドンは染め上げていった––––––。

 

 

数十分後、アメリカ合衆国は東海岸全域に非常事態宣言を発令した––––––。

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

モナーク機関シアトル北米本部

 

シアトル市タコマ地区に置かれたモナーク機関の中枢––––––すなわち北米本部は、喧騒に満ちていた。

それもそのはずだ。

アメリカ合衆国本土––––––それも、世界有数の大都会であるニューヨークに、怪獣が出現したのだから。

特に中央情報本部––––––オペレーションセンターは他の部署より忙殺されていた。

まず、東京、ベルホヤンスク、キエフ、ハンブルクなどの各国支部への通達。

マスコミの情報遮断––––––しかしそれはもはや意味をなさない。

ゆえに、今は米国国防総省【ペンタゴン】との緊急守秘ライン構築が優先化されていた––––––。

大勢のスタッフがコンソールに向き合い、キーボードを叩き、守秘回線の受話器を手に連絡を行い、大型モニターにラドンの現状が投影されている––––––その光景をモナーク機関のウィリアム・バーク少将と、シンディ・サンドラ大佐は見ていた。

「軍の防空体制は?」

シンディが聴く。

「現在、アーレイバーク級イージス駆逐艦4隻とランブリング級航空巡洋艦がイーストリバーに、支援フリゲート艦1隻とアーレイバーク級駆逐艦1隻、空母エンタープライズがハドソンリバーに展開中です。空軍の邀撃機も上がりましたが…」

オペレーターが言う。

最後までは言わなかったが邀撃機は撃墜されたことをシンディは察する。

そして、ハドソンリバーに展開した部隊を見て––––––思わず舌打ちをする。

「この期に及んでまだIS不敗神話にすがっているのか…」

ハドソンリバーに展開した艦隊は、軍用IS・銀の福音を量産化、配備したIS部隊を艦載した空母にISの支援用フリゲート艦から成る艦隊だった。

「かつてロリシカやウクライナにISを派遣した結果、どうなったか知ってるだろうに…!」

シンディは吐き棄てる。

ロリシカではバルゴンの生体レーザーで堕とされ、ウクライナではギャオスに喰われた。

その瞬間に、ISは最強の兵器ではなくなった。

だから戦術機や他の兵科がISの価値を守るために、巨大生物の存在を隠匿させられるハメになっていた。

さらに付け加えるなら、ISより戦術機の方が実戦に向いている––––––。

にもかかわらず、ISというお荷物を持ってきた。

「これが彼女たちなりの足掻きという事だろう。」

パークが、言う。

「しかし…!その為に空母の乗員まで危険に晒すなど…!」

シンディが言う。

支援用フリゲート艦は無人艦だが、空母は有人艦だ。

しかも、IS以外に艦載機がないから乗員が削減されているとはいえ、600人近くの将兵が載っているのだ。

しかもその空母は元はと言えば通常空母を無理矢理IS艦載艦にしたシロモノ。

乗員だって、好き好んでなった訳じゃない。

彼らの9割9分9厘は女尊男卑を妬み嫌っている者達だ。

…しかも、今回の派遣だって間違いなく、女尊男卑主義者の軍部高官が強引にさせたに違いなかった。

「我々に出来るのはペンタゴンと現地部隊を補佐する事だけだ。…彼らに任せるしか、あるまい…。」

パークが言う。

それは事実だ。

だがシンディには納得しきれない感情があった。

 

 

 

 

ーーーーーー

 

ニューヨーク・ハドソンリバー

 

空母エンタープライズから発艦した『世界最強のIS』と目される【銀の福音《シルバリオ・ゴスペル》】8機が、煉獄のマンハッタンに向け低空飛行で向かっていた。

「しっかし、あたし達が真価を発揮する時が来るなんてね!腕が鳴るわ‼︎」

「ええホント!男どもは活躍できなくてさぞかし残念でしょうね‼︎」

キャハハ、と福音のパイロット達は笑いながら、コケにするように好き放題に言う。

今の女尊男卑の象徴––––––とすら、見て取れる光景だった。

「––––––…そういうの、やめてくれない?酷く耳障りだわ。」

ふと妖しく、冷たい声音で隊の女の1人が言う。

「な、何よヘックス…」

浮かれていた他の隊員の女が声の主––––––アメリカ海軍、ヘックス・オブライン准尉に困惑気味の声音で言う。

「ISが世界最強の兵器でいられるのは、あくまで人類間の戦い。それも戦術機をバケモノ戦に駆り出して国際社会から存在を薄れさせただけでしょう?そして戦術機より劣るISでバケモノを相手しろ、ですって?」

ヘックスには呆れと奥底に秘めた憎悪を孕んだ声音で言う。

「––––––女尊男卑主義とかいうイカれた思想とISとかいうガラクタの為に死ねってことかしら?」

全員が驚愕し、顔が強張る。

堂々と作戦内容を批判し、尚且つ部隊の隊員たちの思想も批判し、ISの存在意義すら批判したから。

「ヘックス!アンタ!」

隊員の1人が食ってかかる。

そして、福音の拡散ビーム、シルバーベルの発射態勢に入る。

だがヘックスは臆する事なく、やはり冷たい、見下すような目で通信ウィンド越しに見ながら、嘲笑うように言う。

「別に私を撃墜しようとしても構わないわよ?軍法会議にかけられても良いなら。」

「ぐっ…!」

それで、隊員は引き下がる。

いくら軍に女尊男卑が浸透していようとも、軍法会議までは免れることは出来なかった。

罪を犯せば従来通りに裁かれる––––––だから、その女は引き下がった。

「この、臆病者の敗北主義者が…!」

他の隊員が吐き棄てる。

「––––––リアリスト(現実主義者)、と言って欲しいわね。現にウクライナやロリシカではISは役に立たなかった。むしろ、戦術機の方が役に立っていたわ。」

やはり、冷たく妖しい声音で言う。

「ッ!だまれ‼︎IS乗りの面汚し‼︎恥を知りなさい‼︎」

「––––––勘違いしないで。」

より一層強く、より一層冷たく、より一層激しい怒りを込めた声音で言う。

「東海岸には戦術機部隊がいない。だから私は仕方なく今の部隊にいるだけ。家族や合衆国を守る為にね––––––この際だからハッキリ言うけど、貴女たちみたいにISの為だの、女尊男卑の為だのとか言う理由で戦われちゃね、迷惑なのよ。こっちとしては。」

今日一番の冷たい瞳をして、自分に食って掛かって来た女だけではなく、部隊の女全員に向けて、言い放った。

 

マンハッタン南部のソーホー上空に差し掛かった瞬間、ハイパーセンサーに目標が映る。

空の大怪獣––––––ラドンが。

 

「来るぞ!全機兵器使用自由‼︎奴をフライドチキンにしてやれ‼︎」

部隊長が叫ぶ。

「「了解‼︎」」

各機が応答する。

だがヘックスだけは小さく「了解」と応じた。

(フライドチキンになるのは、果たしてどっちかしらね…)

内心には、こんな低威力の火器しか持ち得ないパワードスーツでごときで一体何ができるのか––––––という疑問しかなかった。

福音各機がラドンに正面からシルバーベルを斉射。

突然の事に驚いたのか、軌道を変えてビルとビルの合間を縫うように飛行する。

「逃すな‼︎追撃するぞ‼︎」

部隊長が号令を飛ばし、福音各機がラドンの跡を追ってビルの合間に突入し、飛行するラドンの背後からシルバーベルをさらに斉射。

しかし、ラドンは今度は右へ左へ、上へ下へと不規則な軌道を描き、シルバーベルを躱す。

シルバーベルはラドンの代わりに周りのビルを破壊してしまう。

「くそっ!くそっ!なんで当たんないのよ‼︎」

「ジッとしてなさいよクソ鳥野郎‼︎」

女たちは当たらない事に苛立ちを覚えながら叫ぶ。

「各機!砲撃を継続‼︎鳥風情がISに敵わない事を教えてやれ‼︎」

なんて言う。

それに思わずヘックスは溜息を吐く。

「部隊長、却って街の被害を拡大させるだけです。砲撃は中断して––––––」

「黙れ!貴様の意見など聞くつもりはない‼︎」

上申するが、すぐに遮られる。

それにヘックスは思わず舌打ちする。

ユニオンスクエア公園前の東14番通りと西ユニオンスクエアの交差点に差し掛かる寸前––––––ラドンは交差点に隣接する工事中のビルに腹を見せつけるように飛んだ––––––瞬間、ソニックブームが耐久力の低かった工事中のビルの鉄筋を粉砕させ––––––金属の軋む音と粉塵を立てて、工事中のビルが倒壊する––––––しかも、その瓦礫が降り注いできた場所には、ラドンを追っていた、部隊長機を含む部隊先鋒の福音2機が、倒壊に巻き込まれる。

「ひ、ぎゃあああ‼︎」

「がぁぁぁぁ‼︎」

ISの耐荷重量である478キロを軽々と上回る瓦礫が次々と襲い掛かり、2機の福音を押し潰す。

通信マイク越しに、肉が潰れ、骨が砕ける音が、響いた–––––––。

「た、隊長⁉︎」

部隊の誰かがヒステリックな声で叫ぶ。

だがヘックスはそんなことよりラドンの方に視線を向けた––––––だが。

「何処に行った––––––?」

ラドンが進行方向に、いないのだ。

ふと、ヘックスの思考の中に嫌な予感が、生まれる。

先程工事中のビルを破壊したのは偶然だろうか?

ラドンがマッハ6もの速度が出せることはレーダーで分かっている。なら、振り切れた筈だ。

なぜ、私達をあっさり振り切らなかった?

(つまり、先程から今の動きの全ては––––––‼︎)

考えが纏まり結論に至る。

それと同時に、背後の半壊しかけのビルを突き破り、ラドンが現れる。

つまり、先程から今の動きは、追われるフリをして誘い込み、ニューヨークの摩天楼という入り組んだ複雑過ぎる地形を利用して撒き、背後を取る––––––という、モノだった。

すかさず福音各機はバックブーストでバック飛行しながら迫り来るラドンにシルバーベルを放つ。

「ひっ、く、来るなぁぁぁぁ‼︎」

「死ねっ!死ねぇぇぇぇ‼︎」

隊員達は、絶叫しながらラドンにシルバーベルと予備兵装の50口径アサルトライフルを穿つ。

「…くっ‼︎」

ヘックスも、30ミリチェーンガンを、穿つ。

しかしそれらの弾丸はラドンの肌を軽く削る程度しかなく、ラドンは全く動じない。

追う者が追われる者に、追われる者が追う者に変わった瞬間だった。

ラドンは加速してさらに距離を縮める。

速度は、マッハ4くらいだろうか。

福音の速度はマッハ4.5である為、ギリギリ速度は上だった。

だが、次の瞬間、羽を折り畳み、空気抵抗の少ない態勢になった瞬間、爆発的に加速し、マッハ6.2に達して、福音の真上を通過する––––––直前、ヘックスを含む数人が反射的に高度を下げ、絶対防御の出力を最大に設定––––––しかし回避に間に合わなかった1機が間近に迫ったラドンのソニックブームと、加速する際に爆発的に上昇した体温によって水分が蒸発し、さらにスラスターの中の推進剤が熱で誘爆し、爆散–––––––。

「し、支援用フリゲートはどうなってるのよ⁉︎」

瞬間、ハドソンリバーの方から響く轟音。

支援用フリゲート艦から、シースパロー艦対空ミサイルが放たれる、音だった。

いくつものミサイルが、ラドン目掛けて飛んで行く––––––。

が、それらはラドンが体温を爆発的に急上昇させて発生した暴力的な熱と、ソニックブームの衝撃により、次々と誤爆する。

「…あ…う、そ…?」

女の1人が呻く。

ラドンはミサイルを放ったフリゲート艦に顔を向け、睨みつける。

そして頭部のトサカ部分が橙色に発光し––––––口から同じ橙色の熱線が、膨大な熱を放ちながら、大気を焼きながら、空気を切り裂きながら、穿たれ––––––支援用フリゲート艦を、貫く。

一瞬遅れて爆発––––––一撃で、フリゲート艦は轟沈させられた––––––。

 

 

 

 

 

 

■■■■■■

 

 

 

––––––これは、記憶。あの時の記憶。

ロリシカ・ギジガ統合基地での、記憶。

 

「あんたが篠ノ之千尋?」

ロリシカ軍が設けた野戦病院で、意識のない箒の看病をしていた自分に、隣のベッドに寝かされた少女が話しかけてきた。

左腕は千切れ、右足はギプスで固定され、左足は切除されたらしく、ひざ関節から下がない少女が––––––。

千尋はその少女を見て一瞬呆気に取られ、顔を顰めてしまったが、すぐ平静を装って、

「は、はい。そうですが…。」

応える。

それに少女は苦笑いしながら言う。

「何考えてるか、顔に出過ぎ。」

「は…申し訳ありません。」

千尋は申し訳なさそうに謝る。

「別に良いわ…良かったわね…アンタの家族は無事で…」

千尋はその少女の言葉に答えようとするが、言葉が詰まる。

どう何を応えたら良いか、分からない。

下手に同情するように言えば、彼女を逆撫でしかねない。

だから、黙ってしまう。

そんな千尋を見て、少女––––––ライサ・セミョン伍長は言う。

「アンタは、さ…その家族である箒を守ってあげなさいな…アンタが守ってあげなきゃ、ダメよ…。」

「…はい。」

「だからさ、アンタが私の事気にかける必要なんて、何処にもないわよ。」

どこか自嘲するように、言う。

「で、でも…」

千尋はそんなライサに何か言いたげな顔を、する。

「何よ、心配そうな顔して…」

ライサは鬱陶しげな顔をして、でも助けを求めるように目頭には涙が溢れて行って––––––泣きそうな顔で、言う。

「そりゃあね、辛いか否かといえば辛いわよ。あたしは射撃の精度はイマイチだし近接戦は不得意で、持ってるのは五体満足の体だけ…それが無くなったら、兵士として何が残るのよ…何もないじゃない…」

そんなことはない––––––千尋は言いかけるが、理性がそれを止めさせる。

例え今そう言っても、それは気休めにしかならない。

義手や義足で失くした部位は補完できる…だが義手や義足に慣れるのに時間がかかるのはもちろん、体を喪った事で精神的に参ってしまう––––––イラク戦争からの帰還兵たちに多い話だった。

「バルゴン共を片付けてから、やりたいことだって、たくさん、あった、のに––––––」

ライサは呻くように、すすり泣くように言う。

…何より、義手義足をつけて多少は自由を得ても、SF映画にあるような人の手足の形そのままの義手義足などなく、かつての手足に比べれば自由は酷く削られてしまう––––––。

さらにロリシカの情勢を考えれば傷痍軍人に対する精神療養施設や義体技術が充実しているとは、思えない。

それを考えれば、手足喪った瞬間、兵士としても、人間としても終わり––––––そうなってしまいかねないのだ。

現に今目の前のライサはそれに近い位置にある。

千尋はやはり、黙ってしまう。

こんな現実に押し潰されそうな少女に何と言えば、いいのか––––––思いつかない。

オルガナイザーG1を持つ自分に罪悪感を感じてしまう。

「…アンタは…アンタも、箒も、あたしみたいになっちゃ、ダメよ––––––。」

酷く悲しそうな、けれど他人を気にかけるその少女の顔を、千尋は忘れることは、無かった。

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

IS学園保健室前廊下

 

鏡ナギの見舞いに来ていた千尋と箒はちょうどそこから出たところだった。

今のリカ見てしまうと、千尋はどうしても、ロリシカで会った兵士––––––ライサ・セミョン伍長を思い出してしまう。

 

 

 

「…2人共、お見舞いに来てくれてありがとう。」

 

「……そっか…ISには、もう、私乗れないんだ…そっか……っ、せっかく、死に物狂いで、頑張って、きた、のに…ッ」

 

 

 

 

保健室で交わした会話が脳内で再生される。

前から目指していた夢が、将来が、潰された––––––辛くて、当たり前だ。

千尋と箒は、ナギに何も言えなかった。

下手に何か言っても、ナギを傷付けかねないから。

今は、ナギが立ち直るのを祈るしか、ない。

 

瞬間、2人は殺気を孕んだ視線で前を見る。

何故なら、

 

「よっ。」

 

千尋に重傷を負わせ、間接的とはいえリカの将来を潰した元凶である、織斑が、 ” いつも通り ” のヘラヘラした顔で、2人の殺気を鈍感スキルで気付かないまま、話しかけて来たから。

 

「…なんの用だ」

 

千尋が低く、重い、ドスの効いて、怒りを孕んだ声音で、応じる。

 

「いや、見かけたから…てか、何でそんなトゲトゲしてんだよ?」

 

持ち前の鈍感スキルで、そんなことを聴く。

 

「…殺しかけたその張本人が馴れ馴れしく接して来たら、誰だってこうなるだろ。」

 

千尋は溜息を吐いて忌々しげに、言う。

 

「だいたい、お前、鏡に謝ったのか?」

 

「え?なんで謝んなきゃダメなんだよ?」

 

織斑が、持ち前の鈍感スキルでそれの意味を理解出来ない、というような顔で言う。

それに、千尋は思わず抑えていた感情の抑えが利かなくなり始める。

 

「お前…鏡に何をしたのか…分かってんのか?」

 

今すぐにでも怒鳴りつけたり、殴りつけたくなる衝動を必死に抑えながら、織斑に聴く。

 

「え?いや、でも死んでないから良いじゃねぇか。手足の1、2本無くなったって生きてたらそれで––––––」

 

持ち前の鈍感スキル云々の問題ではなく、人として正気を疑うレベルの発言––––––千尋は目を見開く。

それで、千尋の限界は、来てしまった。

 

「…ざ、けんな…」

 

「え?なん––––––…」

 

「ふざけんなっつってんだ‼︎」

 

思わず、千尋は織斑の胸倉を掴んで、怒鳴る。

思いもしなかったのか織斑は虚を突かれた顔をする。

 

 

「てめぇよくそんな口が聞けんな…ああ、確かに鏡の件はてめぇからしたら ” 些細な ” 事かも知んねぇけどな、失くした奴からしたら ” それが全部 ” なんだよ‼︎」

 

 

千尋の中で荒れ狂う感情を、織斑にぶつける。

 

 

「それなのになんだ?生きてたら問題ない?ふざけんな‼︎生きてても、そこに幸せが無かったら、何も意味がないだろうが‼︎」

 

 

千尋の脳裏に様々な光景がフラッシュバックする。

左腕と左足を失くしたロリシカ軍のライサ。

自分の夢を潰され、失望の渦中にいるナギ。

そして、家族を殺され、バケモノにされた千尋の以前の自分自身であるゴジラ––––––。

それらが千尋の脳裏に浮かぶ。

どれも、望んでなった訳じゃない。

いや寧ろ、なりなくなんて無かったものだ。

そしてそれになった果てに、幸せなんて無かった。ただただ1人にされて泣いていた。

少なくとも自分はそうだった。

確かに織斑の言うことは一理ある。

生きていたらまだ道はある。

でも今それを言うべきじゃない。しかも、張本人が言うべき言葉じゃない。

他人がそれを言えば励ましになる。

でも張本人が言えばそれはただ、責任を棚上げして、自分の非を認めたくないだけ––––––。

 

「いや、そんなこと……そ、それに鏡がどうなろうが俺には関係無いだろ‼︎」

織斑は、逆ギレする。

しかも、内容は最悪だった。

それで千尋は完全に頭に血が昇る。

破壊衝動が、脳を埋め尽くす。

右の拳を、織斑の顔面に、叩き込もうとして––––––箒が千尋の腕を掴んで、止める。

「ッ!箒⁉︎」

「よしておけ。千尋。」

冷静な、それでいて怒りを孕んだ声音––––––。

「今こいつを殴っても、お前がまわりに敵視されるだけだ。」

正論を、言われる。

「ッ––––––」

それで、千尋は歯軋りをして、押し止まる。

「さ、サンキュ箒。」

織斑が言う。

それに箒が鋭い、射殺すような眼で睨み付け、

「勘違いするな。」

冷ややかに、見下すように、言う。

「え?ほ、箒?」

織斑は、箒は味方だと思っていたのか、動揺する。

「私だって千尋と同意見だ。ただ千尋がお前を殴って周りの女子に敵視されるのを防ぐ為に千尋を止めただけだ––––––だが、私もこのままだと腹の虫が収まらない。」

「え、あの…」

織斑が動揺したまま言う––––––次の瞬間。

箒は右の拳を強く握り締め、拳を引き、勢いをつけて––––––

「へ?」

織斑の顔面を、殴る。

一瞬、織斑の顔面が変形さて––––––吹き飛ばされる。

そして次の瞬間には、壁に打ち付けられ、白目を剥いて、気絶した。

「…このくらいで、妥協してやる。」

箒は、聞こえてるはずが無い織斑に言う。

「…箒」

「…なんだ?」

「…助かった。」

千尋は、箒に礼を言う。

それに箒は呆れた顔をして、

「ああ全くだ。…次からは、自制を働かせろよ。」

千尋の頭をポンポンと撫でながら、言った。

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

「織斑先生、何故あのような処遇を?」

光が千冬に聴く。

先のラウラと織斑に対する処遇の件で、光は千冬に聞いているところだった。

「何度も言わせないで下さい。2人の将来とISの価値と学園の地位を守る為には、必要な処遇でした。」

千冬は応える。

「…その為に、鏡は切り捨てる、と?」

「学園の維持には、やむを得ない処遇です。」

その応答を聴くなり、光は鼻でそれを笑う。

「学園の維持の為?…正直に言え。女尊男卑––––––IS委員会からの命令だったのだろう?あの処遇は。」

「……。」

沈黙という名の肯定。

「…それを聴く限り、もはやこの学園は公正な機関としては機能していないな。」

「なッ⁉︎」

「何故驚く?委員会の都合の良い制度を整え、ISの都合の良い情報しか開示せず、委員会の都合の良いように運営する為に被害者を切り捨てる。それだけでなくISに都合の悪いモノは徹底的に排除する––––––それはプロレタリア独裁––––––共産主義とどう違う?」

それは果たして、光の言う通りだった。

今の学園は確かに、酷く歪だった––––––。

「片桐先生!織斑先生!大変です‼︎」

ふと、真耶が駆け込んでくる。

「テレビ!テレビ見て下さい‼︎」

真耶に促され、教員の1人がテレビを付けた––––––。

「え?」

そこに映っていたのは、見た事もないバケモノがニューヨークを襲撃し、米海軍の世界最強のIS、銀の福音が迎撃に出るも、撃墜されたという、内容––––––IS不敗神話の崩壊した瞬間だった––––––。

 

 

 

 

 

 




今回はここまでになります。
書いていて気づいた事…空飛ぶ怪獣の描写って難しい…。

久しぶりの10000越え…疲れた…。

ちなみに皆さんが登場して欲しい、という希望の怪獣がありましたら、自分の活動報告の欄でアンケートを取りますので、お気軽に書いてください。

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