インフィニット・ストラトスadvanced【Godzilla】新編集版   作:天津毬

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今回はタッグトーナメント初戦、千尋・箒vs一夏・鈴になります。
また龍砲と零落白夜に関する独自解釈が入っています。


久々の一万文字越えです。





EP-29 タッグトーナメント1日目(後)

午前9時30分

IS学園第2アリーナ

タッグトーナメント1回戦

 

––––––観客席の喧騒を背景に、アリーナの中央にて、両者は距離を置いて対峙していた。

一方は織斑・凰ペア、一方は篠ノ之姉弟ペア。

千尋と箒は統合機兵【打鉄甲一式】を展開している。

 

(––––––初戦でいきなり此奴と当たるなんてなぁ…)

 

内心、千尋は呟く。

まぁ、どうせ進んでいけば当たる相手であるから、さして驚きは無かった。

––––––相手には前科があるが、この場に於いてねちっこくしていてもアレなのだからこの際気にすべきではない。

––––––その代わり、全力で相手する。

 

深呼吸。

 

––––––肺と脳に新鮮な酸素を贈る。

 

焼けた鉄を叩いて錬鉄するように神経を研ぎ澄ます。

それは何という程大層なものでは無い。

––––––ただ単にに試合の前に気を引き締めるだけなのだから。

 

「千尋、悪いけど勝たせてもらうぜ…」

 

織斑が言う。

しかし何故だろう、今までのように自信に満ちた声音ではなく、何処か『自身に不信感を抱いているような声音』でそう言った。

箒もその様子に違和感を抱いたらしく、一瞬千尋と顔を合わせるが、すぐに向き直る。

 

直後に鳴り響く、試合開始のブザー。

––––––開戦の狼煙が上がった。

 

「先手必勝‼︎」

 

織斑がそう言いながら、瞬時加速で雪片を構えて突撃して来る。

––––––速い。

織斑との距離は30メートル程。

廃墟街を想定した遮蔽物が佇む中、試合開始位置である中央の広場を模した空間を瞬時加速で千尋と箒に向けて迫り来る。

 

––––––接触まで8秒。

 

さすがは第3世代のIS––––––しかし、その動きは余りに力任せ過ぎた。

 

「––––––脚を止める、40ミリHE(榴弾)斉射‼︎」

 

箒の声。

 

「アイ、マム(了解)‼︎」

 

––––––戦闘時の指揮権は箒に任せていたが故に、千尋はそれに従う。

 

––––––接敵まで7秒。

 

右主腕の06式複合機関銃の照準を合わせる。

 

––––––接敵まで5秒。

 

銃身下部に取り付けられた40ミリ滑空迫撃砲に装填されていた榴弾を、穿つ。

引き金を引いた瞬間、銃口で炸裂する発射炎と衝撃波。

 

––––––接敵まで3秒。

 

しかし、そこで白式の左脚部と左スラスターに40ミリ滑空迫撃砲の榴弾が弾着。

脚部は大したダメージは無かったが左スラスターは至近距離での榴弾炸裂により破損。

衝撃が織斑を襲う。

 

「ちょっ、ぶッ……‼︎」

 

そして左側に集中的に食らった為に、機体のバランスを崩し、ガリガリと地面を抉りながら直進する。

––––––それを、2人は互いに逆に避ける事で躱す。

結果、織斑は遮蔽物に頭から突っ込んでしまった。

舞い上がる砂塵。

崩壊するコンクリート。

しかし、2人は回避しただけで止まらない。

 

––––––瞬間、透明の質量が空気を切り裂く。

 

鈴のIS、甲龍の武装である龍砲の放った空気圧縮弾だった。

空気を圧縮し、見えない砲弾を放つ––––––つまるところ、強力な空気砲だった。

止まれば、絶対不可視の砲弾の餌食となる。

 

「––––––オルブライトターン‼︎」

 

「アイ、マム––––––‼︎」

 

だから、機動戦を仕掛ける必要があった。

しかしながら機動戦をもってしても見えない砲弾を放つ龍砲を躱し続けるのは至難の技だろう。

 

––––––遮蔽物の無い、平野なら。

 

––––––高度制限の無い、高高度からの攻撃が可能なら。

 

2人は腰部の跳躍ユニットのモーターを吹かし、瞬時加速。

体勢を地面と平行にしながら遮蔽物としてあるコンクリートの壁を足場に、一瞬、ほんの僅かな瞬間、蜘蛛のように張り付く。

張り付くといってもコンクリートの壁に脚部を押し付けた、否。着地した、という表現の方が正しいだろう。

しかし、蜘蛛のように張り付き続けるのは不可能だ。

この体勢では、重力に抗う術がない。

だから、跳躍ユニットを点火し、再び飛び跳ねた。

 

––––––タイミングは2人共ほぼ同時に。

 

––––––しかし跳躍距離や角度はバラバラに。

 

遅れて龍砲が弾着し、コンクリートの壁に直径80センチ、深さ30センチ程のクレーターを形成する。

しかしその場には、既に2人はいないのだ。

 

跳躍。

着地。

跳躍。

着地。

跳躍––––––繰り返す度に景色が何度も反転し、天と地が入れ替わる。

頭に血が登りそうになるのをスーツが防ぐ。

オルブライトターンは一歩間違えれば事故に繋がる、危険さえある技だ。

しかしオルブライトターンを用いることで確実に、龍砲の回避は出来ていた。

着地。

跳躍––––––2人はオルブライトターンを継続したまま、幅6メートル程の狭い路地に入って行く。

先ほどまでオルブライトターンを行なっていた道路の幅18メートルの3分の1しか無い。

普通なら、練度の低い一般生徒なら、事故を引き起こしてしまいかねない幅だ。

 

 

 

 

「––––––ちょっ…冗談でしょ⁈」

 

鈴も正気を疑うような声を上げてしまう。

あまりに無謀。

あまりに危険。

普通なら、やらないような行為。

 

––––––しかし、ロリシカでの近接機動戦を経験した2人からすればそれは、『出来て当たり前』だった。

 

着地。

跳躍––––––幅6メートルという狭い空間で、2人はオルブライトターンを継続した。

 

「––––––」

 

鈴は、その2人を信じ難い目で見ながらも、2人が交差する瞬間を狙って、龍砲の照準を合わせる。

幸い、2人は背中を向けている。

これならば狙っても回避が間に合わず当たる可能性は高い。

 

––––––迎撃手段が無ければ。

 

瞬間、2人は背中の兵装担架を展開。

兵装担架にマウントされていた20ミリ機関砲を、穿つ––––––。

瞬間、銃口で炸裂するマズルフラッシュと共に対人スチールコア弾が豪雨のように放たれる。

 

「っな…⁈」

 

鈴は、思わず面食らってしまう。

ただの武装を搭載した兵装トラックだと思っていたそれは、自律攻撃も可能なガンマウントだとは思いもしなかったから。

––––––直後、対人スチールコア弾の雨が頭部を集中的に叩く。

思わず両手で顔を覆う。

––––––いくら絶対防御があるからとはいえ、物理的な防御は可能でも、心理的な防御までは可能では無かった。

 

 

 

 

「スモーク散布‼︎」

 

箒の声。

すかさず千尋は反応して、左肩部のスモークディスチャージャーを3斉射する。

その隙に箒は兵装を06式機関銃から––––––拡張領域より取り出した09式120ミリ対戦車自動滑腔砲に変更する。

スモークディスチャージャーにより、前方の視界は、世界が断絶されているかのように遮られていた。

 

「––––––威嚇射撃‼︎」

 

「了解‼︎」

 

09式120ミリ対戦車自動滑腔砲を構えながら、再び箒は声を放つ。

それに従い、千尋は06式機関銃の12.7ミリ機関銃を、穿つ。

ガガガガガガガ‼︎と、12.7ミリの対人スチールコア弾が、煙幕の中へ––––––今、2人と鈴を隔てている境界に吸い込まれて行く––––––。

 

––––––そこに、

 

煙幕を纏いながら放たれる、龍砲––––––。

千尋はそれを、紙一重で躱す。

何故躱せたかを問われれば、理由は簡単だ。

煙幕を巻き込むことで、《絶対不可視の砲弾》は【絶対可視の砲弾】になってしまったから––––––。

––––––つまり、先のスモークディスチャージャーは視界を遮っただけでなく、龍砲の長所である、絶対不可視も潰したのだ。

そして、鈴はそれに気付いてはいたが、直後の煙幕の中からの射撃。

それに対応すべく、煙幕の向こうから灯っていたマズルフラッシュを頼りに唯一の遠距離装備である龍砲を撃ってしまった。

––––––まず、それが1つ目の失敗。

そして、2つ目の失敗。

龍砲は絶対不可視であろうがなかろうが、大口径の兵器だ。

千尋の放った12.7ミリ機関銃より、圧倒的に空気に抵抗を与える面積が大きいのだ。

それは普段なら分かりづらいが、今は––––––煙幕が張られた今は、龍砲は煙幕を押し退けて直進しなければならないのだ。

そして、その、龍砲が放たれた軌跡こそ、

 

「見つけた––––––‼︎」

 

––––––砲撃すべき【相手(てき)】への、一本道––––––‼︎

––––––箒は声を上げる。

そして––––––09式120ミリ対戦車自動滑腔砲の引き金を、引く。

瞬間––––––火薬莢の火薬が炸裂した。

––––––同時に轟(とどろ)く、雷鳴の如き砲声と大地を鳴動させるかと錯覚さえさせられる衝撃波が、業火の如き砲火炎と共に、砲口からタングステン合金の塊である、120ミリ高速徹甲弾を解き放つ––––––‼︎

 

 

 

 

「––––––‼︎」

 

鈴はそれを見て、反射的に迎撃に移る。

先程放った龍砲は左肩のものだ。

チャージに時間が掛かる。

––––––だが、右肩の龍砲は健在なのだ。

故に、

 

「お生憎様、こっちだって迎撃出来るんだから‼︎」

 

右肩の龍砲を、放つ––––––。

 

––––––空を駆ける鋼鉄の砲弾。

––––––空を走る圧縮空気の砲弾。

 

両者は互いに大口径。

故に互いに当たれば、相殺し得るだろう。

両者は互いに直進し、鋼鉄の砲弾と圧縮空気の砲弾は、互いに命中し、相殺––––––しなかった。

––––––何故なら、鋼鉄の砲弾たる120ミリ高速徹甲弾が、相互衝突によって砲弾の形状を変えながらも、圧縮空気の砲弾たる龍砲を破砕し、鈴に迫ったからだ。

 

「え––––––?」

 

鈴は唖然とした。

しかし、鈴にとっては幸。箒にとっては不幸か、120ミリ高速徹甲弾は信管が誤爆したために、鈴には届かなかった。

––––––鈴はそれに安堵する。

しかし、何故、龍砲を120ミリ高速徹甲弾が貫通したのかが、どうしても理解出来なかった。

 

 

 

––––––それは、たいした話ではない。

ふたつの砲弾の運命を違えるモノがあったとすれば、それは砲弾の《性質》と【形状】。

確かに龍砲は空間の圧縮によって不可視の砲弾を生み出す、画期的な武装だ。

だがしかし、弱点も存在し得る。

––––––ひとつは、砲弾の継続時間。

龍砲は空間を圧縮することで砲弾を形成する。

しかし、砲弾を成す空気を圧縮できるのは、砲口の中でしか出来ないのだ。

一度放たれてしまえば、砲弾を成す空気を圧縮する要因は無くなってしまう。

最初こそ砲を維持できるが、進めば進むほど、砲弾の綻びは大きくなり、自然崩壊してしまう。

例えるなら、水鉄砲から放たれた水が、最初はレーザーのように一筋になっていても、勢いが衰えれば雫となって霧散してしまうように。

––––––ふたつ目は、形成された砲弾の形状。

空気を圧縮することで砲弾を形成するこの砲弾は、龍砲の砲口内部で全方位から空間を圧縮することで砲弾を形成する。

だがしかし、そこが問題だった。

それでは形成される砲弾は中世ヨーロッパで使われていた大砲の弾である砲丸のような球状の形しか生み出せなくなってしまう。

ひとつ目の問題はこれによる所為と言われても過言では無い。

何故なら形成される砲弾が砲丸––––––球体は、今より80年近く前に廃れた筈の代物であるそれは、空気抵抗が現用主力戦車の砲弾より強いからだ。

空気抵抗が強いが故に圧縮した砲弾が周りの空気を押し退けながら飛ぶごとに空気抵抗によって砲弾そのものの耐久力が落ちていく。

皮肉なことに、空気の砲弾は空気によって殺されていってしまうのだ。

そんな中世ヨーロッパの大砲の弾の球状の空気抵抗で進む度に耐久力を擦り減らすことで質量が落ちる空気の砲弾と、現用主力戦車や現用艦艇で用いられている空気抵抗の少ない鉛筆型の寿命を迎えぬ限り不変である鋼鉄の砲弾がぶつかり合えばどうなるか––––––これだけ言えば、明白だろう。

空気抵抗によって綻びを増やしてしまい、質量を失っていく空気の砲弾に対して、寿命を迎えぬ限り不変である鋼鉄の砲弾––––––次いで言えば、7400ミリの装甲すら貫通可能な10式戦車の砲弾が命中すれば、空気の砲弾の綻びを突いて破壊するなど、造作も無かった。

 

 

 

 

「なん、で…?」

 

先程の唖然とした時に発した声を紡ぐように鈴は口を開く。

しかし、唖然とする鈴を現実に引きずり戻す存在が視界の片隅に写る。

煙幕を抜けて来た統合機兵を纏った、千尋だった。

 

 

 

 

「ふん––––––ッ‼︎」

 

千尋は、14式装甲刀剣改の刀身を走らせる。

刃は空気を裂き、装甲にめり込むと、龍砲の装甲を火花を撒き散らしながら変形させて行く。

––––––斬(ザン)。

その、鋭利な刃音と共に鈴の龍砲が一基、両断される。

鈴はすかさず近距離兵装の双天牙月で斬撃を入れた直後の膠着状態にある千尋に斬撃を入れようとして––––––それを遮るように、再び鳴動する09式120ミリ自動滑腔砲。

高速徹甲弾は斬撃を入れようと真横を向いた鈴に【直撃(クリーン・ヒット)】し、衝撃で吹き飛ばした鈴を遮蔽物のコンクリートに叩きつける。

 

「このぉぉぉ!」

 

先程コンクリートの壁に派手に突っ込んだ状態から、やっと復帰した織斑が雪片を振るい、千尋に迫り来る。

––––––千尋は視線だけを箒に向ける。

箒はコクリ、と頷き、14式装甲刀剣改を抜刀。吹き飛ばされた鈴の方角に向けて跳躍を開始する。

千尋も織斑の斬撃を受け止めながら、箒から引き離す。

––––––織斑と凰の各個撃破。

それが2人の目的だった。

 

「うおぉぉぉ‼︎」

 

織斑は雪片を振るう。

どうやらエネルギー残量が無いのか、ワンオフアビリティである零落白夜は発動する気配が無い。

––––––隙を見て使うつもりなのだ。

だから織斑は隙を作ろうと、雪片を振るう。

一の太刀。

二の太刀。

三の太刀。

四の太刀。

––––––雪片を振るい、次々と斬撃を叩き込む。

しかしそれを上回る斬撃を放ち、千尋は14式装甲刀剣でいなす。

鉄と鉄が衝突する音。

刃と刃が風を斬る音。

刀と刀が交錯する音。

––––––遮蔽物に閉ざされた街並みに剣戟の火花が木霊する。

その渡り合いは互角––––––しかし互角と言えども、織斑と千尋の剣戟は根本から違う存在だった。

 

「っ…こ、のッ‼︎」

 

織斑の斬撃。

それはまるで梅雨の雨粒のように次々と連続して放つもの。

確かに、並の相手にはそれだけでワンオフアビリティを使う事なく仕留め得る実力だった。

––––––だがしかし、それは機体任せで強引に繰り返す斬撃に過ぎない。

ISという世界最強の兵器であるからこそ、その斬撃は通用するだけ。

そしてそれが通用するのは自身と同格か自身より下でなければ通用しない。

事実、数十合を越える立ち合いは、一向に両者の立ち位置を変動させず、拮抗したままだ。

 

––––––そこに、風穴を穿つかの如く、

 

「––––––っはあッ‼︎」

 

千尋の斬撃。

爆薬が叩きつけられたかのように重い一撃が、織斑の雪片に走る。

それで千尋は止まらず、さらに足を踏み込み返す刀で––––––一閃。

まるで暴風を纏っているかの如き斬撃が織斑の腿、脇、首に叩きつけられ、装甲に浸透していく。

その斬撃は例えるならば、正確無比な狙撃銃と火力にものを言わせた散弾銃を合わせたような存在だ。

 

「––––––––––––」

 

千尋はそれを、呼吸を止めさせて放つ。

––––––否。呼吸はしている。

しかしそれはあまりに静かな、必要以上の分を削ぎ落としている、戦闘に特化させた状態であったが故に呼吸をしていないと錯覚させられるのだ。

 

「––––––––––––」

 

酷く落ち着いて、微風のように乱れていない呼吸。

その状態で、千尋は刀を振るう。

手にした刀のを振るう腕が勢いを増す。

絶え間ない、豪雨じみた剣の舞。

鍛冶場の錬鉄を思わせる程に、激しい、霧雨のような火花が飛び散る。

しかしそれほどにまで激しい斬撃でありながら、刀が描く軌跡は不規則ではあるが、何処か自然的な動きだった。

織斑の斬撃が大気を破壊して繰り出す斬撃だとすれば、千尋の斬撃は大気を流れる風に刀身を乗せて、自然現象である風の上を滑らせる事で空気抵抗を減らし、まるで剣戟の一撃一撃が風そのもののように錯覚してしまう程に洗練された斬撃だった。

 

「くっ、ぐ…!」

 

織斑はそれらをスラスター制御と僅かに雪片の角度を変えながら反射的に防ぐ。

その動きは並の学生ではかなり上位だろう。

 

「ふ––––––––––っ‼︎」

 

だがそれもここまで。

守りに回った相手は、斬り伏せるのではなく叩き伏せるのみ––––––。

そういわんばかりに千尋はより深く踏み込み––––––滝壺に落ちる水流のように、渾身の一撃を叩き下ろす––––––‼︎

 

「ッ、くそ…‼︎」

 

しかしここが勝機と見たか、織斑は瞬時加速で消えた。

いや、消えるように後ろへ飛んだ。

ゴウン、と空を斬って地面を粉砕し、数多の土塊を巻き上げる千尋の一撃。

 

––––––そこへ、

 

「これで…どうだぁっ‼︎」

 

ワンオフアビリティ、零落白夜を発動した織斑が斬りかかってくる。

対して、千尋は刀を大地に打ち付けてしまったまま。

––––––これで勝敗は決する。

 

零落白夜––––––。

ISのシールドバリアや絶対防御破壊を可能とする。

対消滅エネルギー系統のワンオフアビリティ。

燃費が悪いことを除けば、世界最強のワンオフアビリティといっても過言ではない。

 

このまま行けば、零落白夜のエネルギー波は千尋の打鉄甲一式の絶対防御の代替品である超電磁装甲を破壊し、勝利し得るだろう。

このまま行けば。

このまま零落白夜のエネルギー波が届けば。

––––––しかしなんの妨害もなく、零落白夜の刃が届く。

––––––これで勝敗は決した。

 

 

「––––––え?」

 

 

––––––ハズだった。

 

しかし、織斑は自らが刺し貫こうと手を動かしたモノを見て、声を漏らした。

それはシールドバリアなどでは無く、それは––––––凹凸のある、戦車の装甲のような形をした、盾。

ギリギリのところで拡張領域から招び出し、左手に保持して突き出したのだ。

織斑は引こうとする––––––。

しかし、頭は働いても体はすぐには反応せず、そのまま刺し貫こうと盾の凹凸に突き立てて––––––突然その凹凸が、爆裂した。

爆炎と衝撃波による熱エネルギーと風力エネルギーが発生し、それが零落白夜の対消滅エネルギー波を相殺する。

 

「な…っ⁉︎」

 

織斑は驚愕の声を上げた。

 

––––––確かに零落白夜は対消滅エネルギー波を用いた、ISでは最強のワンオフアビリティだ。

しかし、弱点がないわけでは無い。

零落白夜を無効化するか、白式本体のエネルギーが切れるまで逃げ続ければ良いのだ。

後者が安全と言えば安全だ。

しかし、織斑だってエネルギー切れになることへの対策は考えてあるから乱発はしないだろう。

結果、こう着状態が長引くだけだし、エネルギー切れになるまで逃げることで勝った––––––というのでは統合機兵は評価されないのは当たり前。

ならば、前者を選ぶのが危険ではあるが英断だ。

しかし真っ向から零落白夜に当たれば––––––待つのは敗北という名の奈落へ落ちるだけ。

ならばそうなる前に、命綱を渡すのが普通であろう。

そこで千尋が拡張領域より量子変換で招んだのが、ロリシカの地において重宝した盾––––––【シェルツェン】。

ただの盾であれば質量エネルギーをかち割って、零落白夜は千尋を両断するだろう。

––––––だからこそ、爆発反応装甲という、当たったモノの圧力で起爆する旧ソ連が開発した装甲を用いたシェルツェンを使ったのだ。

爆発反応装甲による爆発時の瞬間的熱エネルギーと爆風による風力エネルギー、そして、爆発した結果反対に威力を押し出そうとするエネルギーが働くことで、零落白夜を相殺したのだ。

もとより、この爆発反応装甲もかつてはRPGロケットランチャーなどの成形炸薬による熱と衝撃を相殺し、尚且つ自分の被害を最小限に抑えながら高威力を発揮すべく開発されたのだ。

それは、既存にして洗練された––––––ゼロ距離迎撃武装。

例えるならば、バラの花の棘がそれに近いだろうか。

その、シェルツェンの爆発反応装甲のひとつに雪片を突き立てた織斑はそれを知らずに迎撃時の爆炎と爆風に襲われ、身を硬直させてしまう。

そこへすかさず千尋は、シェルツェンを垂直に保持したまま、織斑めがけて左ストレートを叩き込む––––––‼︎

 

「なっ…ちょっ⁉︎」

 

織斑の驚きの声。

しかし、それを遮るようにシェルツェンを叩き込み、

 

––––––直撃。同時に、シェルツェンの全爆発反応装甲が炸裂し、凄まじい爆炎と衝撃波が織斑を襲い、シールドエネルギーを残り12%にまで削り落とす。

そこへ、千尋は容赦無く踏み込み––––––刀を、振るう。

振り下ろす弧を描きながら、刀の刃は絶対防御越しに織斑の頭蓋に叩きつけられる。

しかし、まだ止まらない。

頭蓋に叩きつけらた衝撃を緩和しきれず、白式は前のめりの体勢のなってしまう。

織斑の視界から千尋が消える。

それは、相手に背中を見せたも同義––––––‼︎

千尋は、スラスターのロケットモーターを点火し、加速しながら、足を踏み込む。

 

「…つ……⁉︎」

 

織斑はそれに対応しようとして、雪片を盾がわりに此方に刃の面を向けて、斬撃を防ごうとして––––––

 

「––––––はあッ‼︎」

 

三尺もの装甲刀剣が陽光を映し、千尋は織斑に踏み込む。

切っ先は演舞のように。

刃の鉄は謳うように、空を斬り裂きながら、雪片めがけて振るわれ––––––‼︎

 

––––––斬。

 

再び、錬鉄するように火花を飛び散らせながら、14式装甲刀剣の刃は死に体であった雪片を粉砕し、さらに振るわれた一刀は、軌跡を描きながら織斑を両断する––––––‼︎

 

『シールドエネルギー残量ゼロ、および全武装損壊。織斑一夏、戦闘不能。』

 

––––––それで、織斑と千尋の戦闘は幕を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

––––––それと時を同じくして、

 

『シールドエネルギー残量ゼロ。凰鈴音、戦闘不能。』

 

鈴と対峙した箒も戦闘を終え––––––1回戦初戦は、千尋と箒の勝利というカタチで幕を下ろした。

 

 

 

 

 

◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎

 

午前9時47分。

ピット内・リラックスブース内

 

コーヒーメーカーと無機質な長テーブルとベンチしか無いが、取り敢えず休憩はできる場所。

––––––わずか15分と少しの攻防の末に、千尋と箒の2人はそこに居た。

 

「––––––次は、神楽たちと当たるのか。」

 

ふと、長テーブルに突っ伏して伸びている千尋が言う。

 

「だろうな……それより、気になるのはボーデヴィッヒだが。」

 

箒は冷めた目をしながら呟く。

正直な感想を言えば、ボーデヴィッヒの戦い方はただ暴力を振るっているようにしか見えないような、規則もチームワークもへったくれもない。

それでいて、手を抜いている––––––いわゆる、舐めプレイというモノ。

 

「––––––まぁ、あれで部隊長を勤めているというのだから、正直耳を疑うよな…軍隊のセオリーであるチームワークすらままならないとかどうなってんだって…」

 

千尋はイラつきを覚えたような顔で言う。

チームワークは重要。

どれだけ強くとも、1人では生き残れない。

––––––それはロリシカという ” 戦場 ” を見て、知って、学んだから。

逆を言えば、ボーデヴィッヒはソレを知らないからあんな戦い方なのだろう。

 

「…まぁ、今は素直に初戦に勝った事を喜ぶか……先は長いが息抜きは大事だからな。」

 

そう言って箒はコーヒーメーカーに寄る。

 

「コーヒーはどうする?カフェオレか?」

 

「––––––いや、ブラックで。」

 

「飲めるのか?お前、まだ砂糖とミルクがいるだろう?」

 

「––––––んな⁉︎バカにすんな!こう見えて俺だって俺なりに大人の階段登ろうとしてるんだよ‼︎」

 

箒のバカにしたような発言に、ムキとなって千尋は子供みたいに抗議する。

そんな千尋を箒は笑いながら、はいはい。といなす。

––––––久しぶりに訪れた、束の間の平穏だった。

 

「––––––ぶふぅッ‼︎」

 

––––––数十秒後、やはりまだ、お子ちゃまな千尋には早かったか、ブラックコーヒーを盛大に吹き出す姿があったそうな……。

 

 

 

 

 

 

◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎

 

同時刻・ピット内廊下

 

「なんで俺負けたんだろ…」

 

ピットに戻った織斑の第一声はそれだった。

 

「いきなり突撃なんかするからでしょ‼︎だいたいアンタ弱いのに前衛に出るって何考えてんの⁉︎」

 

鈴は思わず怒鳴り返す。

––––––単に戦術や連帯の面が欠如しており、それが千尋たちに劣っていただけの話だ。

鈴は判断能力と機体能力が高かったが戦術や観察能力で劣っていた。

織斑は機体能力以外全てが劣っていた。

これを戦術や連帯で補えば、相手が実戦経験者といえど機体性能が低いために多少は善戦出来ただろう。

つまり、それだけだ。

だがしかし、根本的な問題もある。

鈴の指導の仕方と、織斑はそれを聴きながらも反復しなかったということ。

 

「いや、まぁ…その……すまん。今度から善処する……」

 

アッサリと、織斑はその事に謝罪する。

以前の鈍感さからは比較にならないほど、適切な対応だ。

 

しかし、鈴は、

 

「っ、善処する、じゃないわよ!……あたしには、もう…後が……」

 

鈴は思わず口にする。

最後までは言わなかったが、織斑は鈴が何を言おうとしたかを察した。

––––––もう後がない。

 

「鈴…それってどういう…」

 

だがしかし、遮って。

 

「……凰鈴音。」

 

鈴に声がかけられた。

その方を向くと、見慣れぬ制服の女性がいた。

 

「話がある。……こちらに来なさい。」

 

「……ぁ………はい。」

 

鈴は恐怖に固まったような顔で応じて、その女について行く。

––––––織斑には、その姿が、冤罪の人間を断頭台に連行するような景色に見えた。

 

 

 

 

 




今回はここまでです。
戦闘描写に関して、今回は原作Fate/staynightや空の境界を手掛けた那須きのこさんの文章パターンを参考にしてみました。
対人戦を書くのが苦手な自分としてはこまごまと書けそうなのはそれを参考にするくらいでしたので…。

さて、次回ですが…とりまサクッと戦闘描写と鈴への救済フラグの話、そして巨大不明生物出現の前兆の話になるかと思います。

次回も不定期ですが、よろしくお願い致します。


PS.そういえばIS系同士の戦闘描写って今回が初めてな気が…



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