インフィニット・ストラトスadvanced【Godzilla】新編集版   作:天津毬

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1日遅れてすみません!そしてギリギリ(26日以内に)間に合ったァ‼︎
ゴジラISのクリスマス回(ただのデート回)です‼︎
突貫で書いたので中身は普段と比べてスカスカだし粗雑ですが、どうかご了承下さい…お願い致します(土下座)。





閑話 壊レタ世界ノ聖夜

2023年12月24日––––––破滅から2年後。

東京都新宿臨時新都心

新宿駅西口

 

乗り換える人数は世界1位を誇る新宿駅。

正面に見えるのは4レーンに各4つずつ、計16カ所もの停留所を持つバスターミナルと地下駐車場に通ずるロータリー、そして空へ届きそうな、けれど地上に踏みとどまっているように見える摩天楼たる西新宿の高層ビル群。

––––––相変わらずというべきか、此処は大勢の人が行き交っている。

否、暫定首都立川市からの分割遷都が始まり暫定的に政府機能が移転される新宿は2年前より活気が増し、行き交う人の数は目に見えて分かる程に増えている。

治安を安定させるべく新宿区への警察官増員や足りない警察の人員を補完すべく、依然発令中である自衛隊の治安出動に則り、陸上自衛隊第1師団および第3師団が警戒に当たっている。

しかし人々はそんな混乱の中でも確かにある平和を享受している。

視界に入ってくる景色は平穏そのものだ。

––––––視界に映る世界だけなら、人類世界が崩壊しているなんて到底思えなかった。

 

「ふぅ…」

 

箒は腕時計を見ながら溜息を吐いた。

時刻は9時50分。

待ち合わせの時間は9時30分––––––20分遅刻だ。

 

「––––––勝手に呼び出しておいて遅刻とは…いい度胸だな。彼奴…。」

 

箒はイラつきを抑えられず足の爪先を駅前の歩道に敷き詰められたタイルにコツコツと鳴らす。

––––––先日、八広駐屯地の自室のポストを開けると手紙が入っていたのだ。

『明日の休みにはそっちに帰るから、そん時にどっかつれてけ。』脅迫状めいた内容で、差出人は私も皆も知る ” あいつ ” だった。

泥沼のような激務の日々の中において、突然の誘いは確かに嬉しかった。

けれど困惑せざるを得ない内容に私は2年間したことも、最近の流行りも知らない有様だったのにお洒落をして、新宿駅で待ち合わせることとなり––––––半年ぶりに前線から帰って来る ” あいつ ” の遅刻にイライラしている現在に至る。

 

「––––––は〜…落ち着け、東雲箒(しののめほうき)……。」

 

自身を落ち着かせる為に言うが、それが逆に自分の心臓を締め付けた。

––––––東雲箒。

それが今の私がこの世界で生きていく上で使っている名前だ。

そうしている理由は、私が本名の篠ノ之箒だと不味いのがひとつ。

ただでさえ今は亡き天災の妹なのに、要人保護プログラムは機能せず、IS学園のような保護施設も存在しないこの世界では偽名を名乗り何処かの組織に身を置くくらいしか自身の身を守る術がない。

さらに、私自身が柳星張を宿している今、本名のままであればどれだけ危険か––––––言わずとも分かるだろう。

だから篠ノ之箒という人間は死亡、もしくは行方不明にする事で、東雲箒という別人に成り切るしか無い。

––––––最も、成り切るのは簡単だ。

戸籍や経歴の捏造に改竄なども行わねばならない。

普通、人一人か消えれば今の社会はその気になれば極限にまで探し出すことが出来る。

昔は人一人消えようが記憶が欠落しようと、妖精に誑かされたと一蹴する事ができた。

けれど今は違う。

情報は極限化され人は僅かな異常にも機敏に反応し、その異常に対処しようとする。

奇妙な例えだが、それはまるで体内に侵入した黴菌を駆逐しようとする白血球のようだ。

けれども、そんな中で私の戸籍や経歴の捏造・改竄は行われ––––––篠ノ之箒という人間は消えた事になった。

なぜ成し得たか––––––答えは簡単だ。

––––––人間1人が消えても誰も気にしない程に混乱していた時期に行ったからだ。

木を隠すなら森の中というように、死人を隠すなら屍山の中––––––と。

そうして篠ノ之箒という人間は消えて無くなり、今私は東雲箒として生きている。

––––––それもこれも、私と ” あいつ ” を本当の子供のように面倒を見て頂いている光さんのお陰だ。

 

「––––––ふう…」

 

ため息を吐き、再び街並みに視線を向ける。

––––––眩い。

街の彼方此方にカラフルなLEDライトによる装飾がほどこされている。

よく見れば、男女のカップル––––––俗に言うリア充が各所で見受けられ、装飾が施された巨大なツリーも見受けられる。

 

「…あ……」

 

それで箒は今日が何の日か思い出した。

 

「そっか…今日は––––––クリスマスか…。」

 

ぽつり、と呟く。

ここ最近というもの、復旧した八広駐屯地内で雑務をこなす缶詰状態だったり、瓦礫の山や廃墟と化した千代田区・中央区・江東区などの復興工事への参加と警備作業、凄まじい頻度で行われる戦闘訓練––––––それらに忙殺された所為でまともな日付は残っていたが、それが何の日だったか…などの感覚が麻痺して来てしまっていた。

−–––––自分の誕生日さえも忘れてしまうくらいに。

だが、ユーラシア戦線や欧州戦線、中東戦線の現状を鑑みればそれは分からなくもないし、2021年から今年にかけて、あまりに多過ぎることが起きたのだから。

 

––––––カザフスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタン、アフガニスタン等中央アジア陥落。

––––––クーデターによる中華人民共和国の民主化と台湾をはじめとした西側との軍事同盟締結。

––––––ロシア連邦、シベリアおよび東ヨーロッパ平原放棄。アラスカ北部と北方領土に租借地を設置し、アラスカ・セラウィクに政府機能を移管。

––––––スコットランド北部に巨大不明生物侵攻。ISおよび機甲師団、制空戦闘機部隊による大英帝国防衛戦が展開される。

––––––中東砂漠地帯がほぼ陥落。中東戦線激戦化、過去最大規模の石油高騰化に伴う第3次石油危機。

––––––モンゴル陥落と同亡命政府および難民受け入れと租借地提供申請。

––––––中華人民共和国、国土を放棄。マレーシア領サバ州に租借地を設置し政府機能を移管。

––––––アメリカ、イエローストーン国立公園が噴火。火山灰と火砕流により大半の地域が壊滅し、さらに火山灰は西欧やアフリカにも降着。各国の輸送網と食料生産設備に甚大な被害を齎す。

––––––アフリカにて大飢饉が発生し、億単位の犠牲者が出る。

––––––インド亜大陸陥落。政府機能を西オーストラリアに設置した租借地へ移管。

––––––欧州大陸、イタリア半島やボヘミア高原東部、東ヨーロッパ平原など全体の6割を失陥。なれど英独仏を主力とする欧州連合軍により戦線維持。

––––––朝鮮半島陥落と国連軍による同半島に対するNN弾道弾およびS11航空爆雷を用いた作戦の結果半島諸共、巨大不明生物消滅。

––––––国連軍が旧パキスタンにて巨大不明生物に核兵器を使用。

––––––北極海より飛来する巨大不明生物に対し欧州連合・北欧連合が英氷丁諾4ヶ国共同の北海防衛ラインを敷設。

––––––アフリカにて致死性の新型伝染病が発生し、サハラ砂漠を中心に死者多数。

––––––エジプト、スエズ防衛ライン崩壊。アフリカ連合は在ア米軍との奪還作戦を思案。

––––––ユーラシア及びユーラシア近傍国家にて、核の冬と火山灰により生鮮食品が壊滅。それに伴い未曾有の食糧危機が到来。

––––––世界人口が僅か半年で80億人から8億1920万人にまで激減。

 

 

その他諸々––––––上げ出せばキリがない。

国外の ” 主なニュース ” だけでもそれだけなのだから、日本国内はもっと混乱しているのは容易に想像できるだろう。

そんな中で、やれ誕生日だやれクリスマスだ––––––なんて祝う暇がある筈がない。

唯一祝っていたことがあるとしたらそれは、年末の年越しと新年の正月くらいだろう。

 

「だと言うのに…クリスマスかぁ……。」

 

箒はため息を吐きながら呟く。

––––––だが、それは喜ばしくもある。

それが出来るほどあの東京決戦以来、混乱の只中にあった日本が安定して来たこと。

そして、自分たちのやる事が減って来たということ。

それは喜ばしいことだ。

––––––自衛官はやらねばならないことが少なければ少ないほど良いのだ。人は、その事を平和と呼ぶ。

自分達がやらねばならないのは、少しでもその状況に近付けることだ。

だからこそ、今の平穏な景色は日々の成果が開花したようで––––––心の底から、喜ばしい景色だった。

––––––しかしこの景色も東京、それも都心だと新宿のみなのだ。

他の地域は依然として瓦礫の山となったままで、数多の帰宅困難者を生み出し、立川市や八王子市の仮設住宅での避難生活を余儀無くされているのが事実だ。

––––––平和に漕ぎ着くまでの道のりは、まだまだ遠い。

 

「…はぁ……」

 

思わず、そんな事を考えると溜息が出る。

溜息を吐くと幸せが逃げるというが、溜息を吐かねばストレスが体内に充満し、身体が参ってしまう。

––––––つまりは、これはガス抜きでストレスに対する自己防衛だ。

そう結論付けて自己完結する。

 

だから気付かなかった。

ふと、瞬間––––––後ろから忍び寄ってきた手が、首を掴み––––––、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「––––––わッ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

耳元で、声を出された。

––––––そのせいで箒は、

 

「うひへゃあッ⁈」

 

動揺し、情け無い変な声を上げてしまった。

 

「にゃ、な、な、なな…な……な…」

 

心臓は激しく鼓動し、思考は混乱する。

反射的に振り返ると視界に入ってきたのは、

 

「よっ、悪りぃな待たせちまって。」

 

––––––無邪気に笑う、破滅前と変わらない子供らしさを見せながらも、何処か大人びた感情を内包した千尋だった。

 

「運悪く列車のトラブルに巻き込まれてさ––––––…?どした、変な顔して。」

 

箒は形容し難い、少し味のある顔をしたまま固まっている。

突然耳元で声を出されて驚いたこと、不意を突かれて心臓が張り裂けんばかりに内心を掻き回されたこと。

–––––––そして千尋に声をかけられて、

 

「ち、千尋………だよな?」

 

「ああ、それ以外の何に見えるんだ。箒。」

 

思わず惚けた質問をし、それに千尋が意地悪そうな顔をしてツッコミを入れる。

–––––––それで箒は我に返り、

 

「う、うるさい!ビックリしただろう!…というか遅過ぎだバカ‼︎」

 

羞恥心と動揺を隠そうと、鼻先から耳朶まで赤くして、頭から蒸気を噴き出しながら強気になって怒る。

(–––––––うん、相変わらずのツンデレだ。)

千尋は内心そう思い苦笑いを浮かべる。

 

「悪りぃ。信号トラブルに巻き込まれて。」

 

信号トラブル––––––という言葉に箒は黙る。

最近、都内の復興工事をしてはいるものの、技術的トラブルが上げられているのだ。

いずれも原因は無理な突貫工事が原因とされており、今後都内においてかなり危惧すべき問題と言える。

––––––そんな箒の神妙な顔を見て、千尋が意地悪そうな笑顔を浮かべる。

 

「とりま、今日は交代ばんこで行きたい場所回る感じでいいか?」

 

「っうぇ⁉︎あ、う、うん…そう、だな。」

 

その意地悪そうな笑顔が箒は未だに苦手で、さらに先程の羞恥がまだ残っているせいかして顔を相変わらず赤く染めたまま、必死に言葉を紡ぐ。

 

「そんじゃ、俺とデートするってコトでいいか?」

 

にかっ、と相変わらず元気一杯なんだか意地悪そうなんだかよく判別のつかない笑顔を浮かべて箒に問う。

箒はそれでさらに動揺を加速させられ、羞恥心を隠す自己防衛としてのツンデレを発動してしまい、顔を赤くしたまま言い返す。

 

「ちょ、ちょっと待て!だいたい、私はお前に付き合うとは言ったが、デートするなんて言った覚えはないぞっ。こ、これはあくまで、たまには息抜きをしようって、2人でだな––––––」

 

だがしかし、手を握られると同時に千尋の声で箒に言葉は遮られる。

 

「はい残念。世間じゃそういうのをデートって言うんだよ。しぶといのは箒の長所だけど、あんまり過ぎると嫌われるぞ?」

 

「なっ––––––き、嫌われるって、誰にっ?」

 

(ああもうっ、久々に会ったと思えばさっきから人をからかって何が楽しいと言うのだこいつはっ⁉︎)

箒は内心そう思わされる。

やはり、そこには破滅前と何ら変わらない、無邪気さを孕んだ意地悪そうで元気一杯な笑みの千尋と、動揺と羞恥心を隠そうと必死になって隠せていない箒がいた。

 

「さぁ、誰だろうな?さて、せっかくの貴重な時間がもったいないから行くぞ。」

 

「あ、ちょっと…‼︎」

 

千尋が楽しそうな顔でそう言うなり、箒の手を握って半ば強引に引っ張っりながら、先導する。

遅刻して来たのに、その相手に自身の動揺を突かれて主導権を握られてしまった箒が、そこにいた。

(––––––あぁもうっ‼︎こうなったら、どこにだって付き合ってやるッ‼︎)

––––––自暴自棄ぎみに……だがしかしやはり、何処か楽しそうに箒は内心、叫んだ。

 

 

 

 

 

10時06分

新宿区西新宿1丁目

にいやどカフェ

 

両側4車線の国道414号線と両側6車線の国道20号線こと甲州街道が交じり合う西新宿1丁目交差点に向き合うようにして建てられたビルの中にあるチェーン店形式のカフェ店に2人は入って来ていた。

––––––木造の落ち着いた、狭いのだが広いようにも感じられる雰囲気が印象的な店。

店そのものは新しいらしい。

現在は10時を少し過ぎた、小腹が空く時間であるためこのカフェにおいて腹に軽くモノを入れようと思い立ち寄った次第だ。

千尋によると、元は潰れた居酒屋を改装してオープンしたカフェらしい。

本来、新宿で店が潰れることは滅多にないのだが。

新宿区は繁華街である歌舞伎町や超高層オフィスビルなど、人を引き寄せる要素は多い。

しかもただでさえ乗車数は世界一を誇る新宿駅から然程離れていないのだ。

立地的に言えば、潰れる要素は見当たらない。

しかし東京防衛戦直後、立川市が日本の臨時首都となり、さらに放射線流の汚染も相まって、都心23区から立川市にかなりの人口が流出した。

現在は新宿に臨時政府が分割移転して来たり、除染が進んでから人口戻って来ており、このカフェもそれに応じて新しくオープンされたらしい。

2人は窓際のテーブルに座り、千尋はヒンベアートルテというゼリーで固めたラズベリー––––––ドイツ語でヒンベアーと言う––––––をケーキの生地の上全面に贅沢にコーティングした、ドイツ版ラズベリーケーキを食べていた。

 

「ん〜、甘いけどさっぱりしててうまい‼︎」

 

––––––久々に口にする洋菓子の味。

ヒンベアートルテはラズベリーの旬である初夏が一番美味しいのだが、甘いのだがさっぱりしていてくどくないその味が千尋のお気に入りとなっていた。

––––––それを食べて、最近甘味料といえばエネルギーバーや飲料ゼリーくらいしか口にしていなかった千尋は顔をのほほんとさせて、テンションがさらに上がる。

 

「…確かに、美味しい……甘過ぎるくらい…。」

 

箒が口にしているのはブドウのタルトレアチーズケーキ。

こちらも上全面に贅沢にブドウジャムを使って、さらにケーキの生地は隠し味のレモン汁により酸味のある代物だ。

––––––それを食べた箒は、まるでリスが砂糖菓子を舐めたような、驚きに満ちた顔をしていた。

 

「あれ?なんで箒の方がびっくりしてんの?」

 

「いや、私はこういう今時の学生が行きそうな店にはこの2年間寄ったことが無かったから…なんていうか、こう……ケーキの甘さに舌が驚いている……。」

 

––––––それだけ、背負えるものを背負わされ、年相応の時間を謳歌する暇さえない程に忙殺されていたということだろう。

千尋はそう察する。

けれど今は単純に、

 

「ところで次はどこ行くよ?」

 

––––––この、かけがえのない平和を享受することにした。

 

 

 

カフェで腹ごしらえを済ませると甲州街道の北側に曲がる道、所謂裏路地への角を曲がった。

華やかで喧騒に満ちた甲州街道とは裏腹に、そこには閑静ながらも賑やかな商店街が広がっている。

以前は––––––2021年の、まだ世界が滅ぶ前は表通りである甲州街道の活気に押されて衰退しつつあったが、現在は––––––千代田区を含む湾岸地域が壊滅した今はそこからも人が集まり裏路地は以前からあった商店街だけでなくバザールや屋台が並ぶ、何処ぞのお祭り会場のような状態となっていた。

 

「へぇ〜やっぱり賑わってんなぁ…。」

 

千尋は、思わず声にして言う。

 

「ああ、この辺は色々な物が売ってるし、みんな基本安価で買えるからな。デパートの商品の値段が高騰化したらみんなこういう裏路地のバザールに買いに来るんだ。」

 

箒が解説するように言う。

–––––––首都東京、行政の中心地が未だ廃墟の区画があるという程、経済的に苦しい時世を反映してか、バザールと化している商店街を歩く人の数は多い。

主に扱われているのは衣服や家具、食器などの日用品に加え本や漫画、雑誌などの嗜好品。

そして所々の露店では鯛焼きやタコ焼きなどのジャンクフードも販売されている。

今はクリスマスシーズン故か、大半の店頭に色鮮やかな装飾を施したクリスマスツリーが並んでいる。

露店のひとつひとつを回りながら、このバザールだけでなく、歩いて行く先々で様々なモノを視界に2人は焼き付ける。

大袈裟な表現かもしれないが2人にとってはなんとなくしなくてはいけない様な、そんな感じなのだ。

––––––この景色がまた焼け落ちてしまう前に、目に焼き付けておきたかったから。

そして、やはりバザールのような場所に来てしまうと、買い物欲を刺激されてしまうのがヒトという生き物で––––––

 

「あ、なぁなぁ、あの雑貨屋寄ってかね?」

 

「ん?ああ、良いな。あの手の店は私も好みだ。寄って行こう。」

 

––––––結局、そこでは千尋はオレンジ、箒は赤のマグカップを購入した。

2人とも案外雑貨が好みで、その店ではテーブルや掛け時計などを見て回ったが、やはり身近でいつも触れるであろうマグカップを購入することにしたのだ。

ついでに隣の屋台にて、たい焼きも購入した。

 

「なぁ、たい焼きってどっちから食う?やっぱり頭?」

 

「いや、尻尾からだろう。」

 

たい焼きを購入して、どちらから食べるかを軽く論争する。

しかしそれは、美味ければ良いという結論に至り今は愚問となっていた。

 

「––––––ところで箒、サンタさんっているのかな?」

 

ふと、千尋が呟くように聴く。

 

「さぁ…どうだろう、私自身サンタからプレゼントなんて貰えなかったし。」

 

たはは、と苦笑いを浮かべながら箒は言う。

まぁ、仮に居たとしてもフィンランドからソリに乗って空を飛んで来るなんて、常識的に考えてムリだ。

魔法でもないとそんな事なし得ないし、そもそもそんな御都合主義やオカルトめいたものなんてこの世界には存在しない。

そして多分、神様もいない。神様がいると人は信じていたいだけなんだろう。

––––––それはただ、人間が人智を超えたモノを神の仕業として見たいだけなのだろう。

仮に神様がいたとしたら、それはなんて意地悪で残酷で非道な神様なんだろう。

「何故こんな世界にした⁈言え‼︎」と、罵声のひとつやふたつ浴びせて本気で一発殴ってやらないと気が済まない。

––––––話がそれたが、箒はサンタやオカルトの類を信じていないわけだ。

 

「でも––––––サンタがいたらどうする?」

 

箒が問う。

それに千尋はわずかに悩み––––––

 

「ん〜どうだろ、確かに欲しいもんはあるけどもう歳的にガラじゃないしさ。」

 

ははは、と笑いながら千尋は応えた。

 

–––––––その後も2人は色々と歩き回った。

ゲームセンターでクレーンゲームに白熱して、ぬいぐるみをゲットしたり、ビルの屋内水族館を見て回ったり、商店で品物を見て回ったり––––––しかしあまり買い物はしなかった––––––その店の興味が尽きて飽きるとまた次の店を回るというのを繰り返した。

 

「たまには動物園とかも行かね?」

 

「ど、動物園⁈」

 

千尋の言葉に箒が目を剥く。

確かに今まで千尋と動物園になんて行ったことはないから、行ってみても良かったかも知れないが––––––さすがに動物園は無理だった。

なにしろ都内の動物園と言えば台東区にある上野動物園くらいだ。

新宿からは距離的に遠いし、まだそこまで伸びる鉄道も復旧していない。

さらに言えば上野動物園は東京防衛戦時の放射能汚染により放棄せざるを得ず、取り残された動物達は檻の中で白骨死体になって全滅していたという惨状により閉園している。

他にも江戸川区自然動物園や多摩動物公園、板橋区こども動物園などがあるのだが、どれも上野動物園より遠いし時間がかかる。

行けないことはないが、回りたい場所が新宿に集中しているのに離れた動物園に行く為だけに時間を割くのは勿体無かった。

––––––というわけでその案はまた今度にすることになった。

ついでに言えば映画館も2人は言い出さなかった。

––––––なにしろどの映画館も今は数年前の破滅前に上映された映画の使い回しをしているからだ。

東京防衛戦とその後に起きた混乱の中で映画なんて作ったり輸入したりすることなど滅多になく、最近やっとハリウッドから翻訳した内容の海外産映画が入ってきたらしい。

最も、上映はまだなので行っても面白くない。

それに今は映画一本観るくらいなら他の事を堪能する方が遥かに有意義な気がしたから。

–––––––その後も互いに行きたい場所を交代ばんこで色々と見ながら歩き回り、西新宿の商店を制覇していく。

そして今は、とある服屋に来ていた。

 

「––––––こ、こんな感じのはどうだ⁈」

 

箒は赤いウールステンコートに黒のミニスカという今風の服装を試着して、若干顔を赤くさせながらも自身満々に聴く。

 

「あ、うん可愛い。」

 

千尋も思わず顔を赤くして応える。

その顔は、馴れてはいるものの、久々にこうして出歩いて付き合っているからかして、何処か初々しい。

 

「そ、そっか…で、では千尋は……」

 

しかし、未だに顔を赤くして千尋のそれを遥かに上回る初々しさを放っているのは箒の方であった。

 

「…千尋はこんな感じの上着はどうだ?」

 

ふと、緑のメンズジャケットを差し出す。

 

「あ、これかっこいいかも‼︎羽織ってみる‼︎」

 

「おお、中々似合ってるな‼︎」

 

千尋も箒の差し出したそれを手にとって、子供染みた笑顔を浮かべ、箒も一昔前のようにはしゃぐ。

––––––なんて事の無いそれらのモノや体験は、今の千尋と箒にとって、まるで宝石のように価値のあるものだった。

––––––そんなことを繰り返していると、いつの間にか西新宿の商店は全て制覇し終え、お昼を回る時間になっていた。

 

 

 

 

 

午後0時26分

新宿御苑上ノ池近辺

 

––––––散々歩き回ったからかさすがに疲れた為に、千尋と箒は都民の憩いの場のひとつである新宿御苑に足を運び、そこで休憩していた。

東屋のベンチに2人は腰を下ろし、ファーストフード店で買って来たハンバーガーを口にしながら、箒が話しかける。

 

「そういえば千尋––––––ユーラシア戦線の方は…どうだった?」

 

––––––今更ながら、千尋と半年ぶりに会ったのは千尋が出張に出ていたからとかそういうわけではない。

いや、ある意味出張といえば出張だろうか。

千尋はこの半年間、特務自衛隊のPKO部隊の一員として激戦地と化しているユーラシア戦線に海外派遣されていたのだ。

 

「ん〜…なんていうか……」

 

千尋は箒の問いに対して、どう応えたらよいか分からず困った顔をする。

別に戦況が機密事項だとかそんなことは無い。

ニュースで一般人に対しても大まかに伝えられているのだから、同じく特務自衛隊に属している箒が知らないわけがない。

だから伝えても構わないのだ––––––が、

 

「…あんま思い出したくないっていうのが……本音かな。」

 

苦笑を浮かべながら応える。

–––––––そこから、千尋がだいたいどんな体験をしてきたかは、箒に想像がついた。

–––––––重くなる空気。

(ああ、やってしまった–––––––)

地雷を踏んでしまった、と箒は後悔する。

だから、違う話題に切り替えようとして––––––、

 

「そ、そういえば背はあんまり変わっていないんだな–––––––」

 

「………。」

 

–––––––さらに、地雷を踏み抜く。

一瞬して、しまった–––––––と気付くが時既に遅し。

千尋の瞳には明らかな怒りの色が浮かび上がる。

つまるところ、千尋は自身より背が高い者に低身長であることに関して触れられるのを嫌がるのだ。

それは破滅前と変わらない。

–––––––そして付け加えるならば、破滅前は身長155センチメートルで現在は160センチメートルと、身長もさしてかわっていなかったのだ。

さらに付け加えるならば、箒は身長162センチメートルと破滅前から千尋より背が高く、特自ではもっぱら『おねショタ』認定されてしまう有様–––––––。

だから千尋は拗ねてプイッとそっぽを向いてしまった。

そんな千尋を前にして、箒はあたふたとしながらも機嫌を取り戻して貰おうと声をかける。

 

「–––––あ、あ〜えっと、千尋……」

 

「…………。」

 

無反応。

箒は冷や汗を流しながらも再度声をかける。

 

「す、すまない。悪気は無かったんだ、その……そ、それにホラ、身長が小さくたって私は気にしないし…」

 

「––––––箒は気にしなくても俺は気にすんの。…せめて170代までは伸びないと困る。これ以上ガキに見られてたまるか。」

 

不貞腐れた声音で千尋が応える。

千尋はただでさえ低身長なのにそこに童顔という要素まで重なってしまっているために、より一層そういう辺りを気にしているのだ。

 

「…あぁ、多分それなら問題ないぞ。きっとまだまだ大きくなるから、お前。」

 

「……それは嬉しいけど。箒、その根拠はなんだよ。」

 

励ますつもりで箒は千尋に言うが、こればっかりは別次元の問題だ––––––と、千尋は真剣な表情と拗ねている声音で逆に箒に問いかける。

 

「え––––––あ、と…」

 

箒は思わず言い淀み、理由を探すように目を泳がせて思考する。だから少し千尋も期待した。

 

「ほ、ほら、骨格はしっかりしてるんだからちゃんと栄養を取れば育つだろ?しっかり光合成したら千尋も大きくなるかなー…なんて……あはは…」

 

「…どこの葉っぱの話だ、それ。人間と植物はつくりが全く違うから光合成なんかできるか馬鹿。」

 

再び千尋はそっぽを向く。

 

「あ……千尋、すまない。これでも私なりにフォローはしたんだが…」

 

箒が申し訳なさそうに謝ってくる。

それを見て千尋は、うっ––––––、と息を飲まされる。

箒のそういう顔が千尋は苦手だった。

 

「…べつに。話半分に聴いとく。」

 

––––––まぁ、いわゆるオンナの勘とやらを戦場以外でなら信じて見ても良いかもしれない。

そう千尋は思わされる。

––––––ふと、不意に手を箒に握られる。

反射的に振り向くと、箒は今日一番の笑顔を浮かべていて、そして声を放った。

 

「––––––ああ。背のことは保証出来ないが、きっととびっきりのいい男になる。それだけは私のお墨付きだ、千尋。」

 

「な––––––」

 

千尋は思わず鼻先から耳朶にかけて、赤くしてしまう。

––––––ど、どうしてそう、顔が沸騰するようなコト言うんだお前はっ!!??

 

「あはは、照れてる照れてる。お前も案外すぐ顔に出るから可愛いなぁ。」

 

「っ––––––く、こ、この性悪っ!」

 

「あはは!今朝のお返しだっ‼︎」

 

なんて言って駆け出す。その顔は今日一番に高揚した笑顔を浮かべながら走り出した。

 

「待てゴルァ‼︎」

 

千尋もすぐさま箒を追いかける。

生憎前線に出ていたために嫌でも体は普段より鍛えられる。

故に––––––

 

「捕まえた––––––‼︎」

 

「きゃあ‼︎」

 

––––––千尋は10メートルも進まないうちに箒を捕まえて、押し倒す。箒はそれを望んでいたかのように子供みたいに笑っている。

澄んだ空の下、芝生の上で繰り広げられる2人の甘い時間。

––––––永遠には決して続かない幸福な時間。

けれど今この瞬間が、ずっとずっと、終わることなく続いているように感じた。

2人は芝生の上で子供みたいにはしゃぐ。

––––––きっと後になってから羞恥心にまみれるパターンが待ち受けている。

けれども今は、魔法にかかったように幸せなこの時間の1分1秒を心の底から堪能することにした––––––。

 

 

 

 

◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎

 

午後5時

新宿区・臨時国会議事堂(旧東京都庁第1本庁舎)

 

––––––気が付けば、とっくに夕方だった。

夜の(とぼり)が落ち始めた2人が向かう先は現在立川からの分割移転を進む東京都庁南棟。

現在は、臨時国会議事堂と内閣府が置かれている建物であるが、やはり未だに東京都庁の方が親しみがあるらしく、そう呼ばれている。

しかしそれ故に以前まで一般人の観光ツアーが可能だったそこも、日曜日のみ一般解放される程度のものとなっていた。

そして今日は日曜日。本来なら入るのにパスIDが必要だが今日はその、南棟屋上と展望フロアが一般解放される日だ。

箒が見せたいものがあった為に2人は観光客の列に混じって東京都庁に入って行く。

––––––それにしても、と

 

「…やっぱり物々しいよな、都庁前。」

 

––––––千尋が口にする。

それもそのはずだ。臨時国会議事堂となるからか都庁前には警視庁の機動隊を乗せたバスはもちろん、他にも治安出動に当たっている陸上自衛隊の10式戦車や93式偵察警戒車、82式通信指揮車などが展開し、テロの警戒に当たっているのだ。

日常の中の非日常––––––しかしこれは何も都庁前に限った話ではなく、都内各所で自衛隊車両が展開しているのだ。

別段珍しい話ではなく、もはや当たり前の景色として慣れてしまっている都民は誰も気にかけない。

そして千尋も箒も慣れている側なので、特に気にかけることなく入っていく。

 

––––––それに都庁に入れば都庁前の自衛隊車両など気にもかけないくらいになる。

何故なら、ここから先は観光客であろうと都民だろうと都庁職員だろうと玄関先でX線検査と金属探知機を用いた持ち物検査が行われるからだ。

内閣府となるのだからこれくらい入館が厳重なのは妥当だろう。

(––––––アレ(・・)がバレないか心配だなぁ…)

千尋は心配げに内心呟きながら手荷物を渡す。

しかし心配は杞憂だったらしく、引っかかることなく千尋は突破した。

––––––さすがにあのサイズで引っかかるわけ無いか…てか、引っかかったらどの空港でもピアスとかしてる人通してもらえないもんなぁ…。

ホッと千尋は胸を撫で下ろす。

 

「?千尋、どうしたんだ?」

 

「え?あ、いやなんでもねぇよ。ささ、行こ行こ。」

 

箒の手を握り、千尋は屋上・展望フロア行きのエレベーターに乗り込んだ。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

役2分後。

同・屋上

 

陽が傾き、空が緋色から紺色へと移り変わろうとしている時間。

屋上に吹き付ける冬の冷風が皮膚を貫く。

眼下には先ほどの都庁前広場のみならず、今日練り歩いた西新宿の高層ビル群や街並み、待ち合わせをした新宿駅に、昼食と子供みたいに2人でじゃれあった新宿御苑が視界に映る。

街はそろそろ夜に移ろうとしている。

それを裏付けるように道路を行く車がライトを点灯させて、ヘッドライトの白い糸とバックライトの赤い糸を拡げ、道を紅白に染めて行っているのだ。

そして、ビル街にもまばらに灯が灯り始める。

それは綺麗、としか言えなかった。

当たり前のような夜景でも、俯瞰するように覗き込むだけでこんなにも違うのか––––––、そう千尋は思わされる。

 

「––––––箒、これを見せたかったのか?」

 

千尋は問う。

 

「ん?まぁ、それもある。けど、本命はあそこだ。」

 

箒は指を指す。

––––––そこは未だ沈黙しブラックアウトしたままの港区と品川区、目黒区、世田谷区の方角だった。

そこは復興工事を進めているシグクライミングクレーン群が乱立し、不気味なまでに異質な雰囲気を出していた。

 

「––––––時間だ。」

 

ふと、箒が呟く。

それと同時に、太陽が完全に西の果てに姿を消す。

––––––それに呼応するように、暗闇の中にひとつの光の柱が姿を現す。

赤い、紅い鉄骨を組み合わせることで形成され、天に延びるように高く高く聳え立つ––––––東京タワー。

そして、そこを起点に、まるで雫を落とした水面に波紋が拡がるように、周辺の建物や街灯にも灯がともっていく。

灯が灯を呼び、また灯が灯を呼び、漆黒に染まっていた大地を螺鈿細工の真珠色のように黎明に満ちた景色(せかい)が咲き乱れるようにして埋め尽くしていく––––––。

 

「––––––。」

 

その壮大な景色(せかい)に、千尋は息を飲んだ。

––––––生きている。

東京防衛戦で一度焼け落ちたあの景色(せかい)の中でも、人は再び生きようとしている。

その光景はともかく、とても言葉に出来ないくらい綺麗だった。

いや、綺麗なんてものじゃない、この景色は綺麗とか美しいとか、壮大だとか、そんな単語では言い表せないくらいの存在感を持つナニカで––––––とにかく、千尋の心象に響く存在だった。

 

「今日は復興地区の一斉送電テストの日でな…ちょうどお前が帰って来るから見せてやろうと思ったんだ。」

 

箒が言う。

そしてさりげなく、千尋に腕を回して組む。

千尋は一瞬ビックリしたが、腕越しに伝わって来る箒の体温が千尋をぼんやりとさせる。

 

「本当なら1人で見るつもりだっけど、お前が帰って来るっていうから、凄く嬉しかった。」

 

箒が落ち着いた声で言う。

 

「––––––この景色(せかい)を見るのは、1人より2人の方が––––––ずっと暖かいから。」

 

「––––––うん、そうだな。」

 

千尋も落ち着いた声で、そう返す。

––––––そういえば、初めて帰って来た時も此処で夜景を見たな…あの時は新都心の一斉送電の時だったけど。

 

「1人で見るのも良いんだが…その時は重圧や責任感の方が勝ってしまうんだ。…先人が––––––東京防衛戦で使命に殉じ、命を散らしてまでして護ったこの景色(せかい)を二度と失くさないようにしなくてはいけないって––––––でも、2人で来ると気が楽っていうか、弱さを吐露出来るって言うか––––––…はは、私、何言ってるんだろうな。」

 

「………………。」

 

箒の言葉に隠された想いを察し、千尋は黙ってしまう。

箒は苦笑いをしていたが、それは普段押し殺してまでこの景色(せかい)を、あの灯の中に住まう人達をあらゆるものから守ろうとする責任感に満ちた感情が決壊したダムのように溢れて行っているような声音だった。

––––––だから、

 

「…そっか。じゃあ、弱音なんていくらでも吐いちゃえよ。…俺がいくらでも聞いてやる。」

 

千尋は組んだ腕を、優しく握る。

握った掌からは箒の体温が伝わって来る。

––––––暖かい、けれども冷たい。

人らしい弱さを内包したまま責務を果たそうとする箒を具現したような感触が、掌から伝わってくる。

 

「…ありがと。」

 

箒は頭を左肩にもたれかける。

そしてふと思い出したように、口を開いた。

 

「…そういえば千尋、お前何か私に言いたい事があるのか?」

 

「––––––え”?なんで分かった?」

 

「なんとなく。」

 

––––––なんとなくで、千尋が箒に何をしたいのか、察されてしまっていた。

だから、

 

「…うん、実は箒に渡したいモノがあってさ。」

 

千尋が言って、カバンからひとつのケースを取り出して渡す。

ケースは掌に収まってしまうサイズで、それはよく恋愛ドラマの最終回とかで見るようなデザインのモノだった。

 

「––––––え?こ、これ…!!??」

 

ケースを開けた箒は驚かされた。

中にあったのは、赤い紅いルビーが埋め込まれた、か細い、けれど儚く強いプラチナの––––––指輪だった。

 

「渡すの遅れてごめんな。その、今更だけど結婚指輪……。」

 

千尋は恥ずかしい顔をして、赤面した頰を人差し指でぽりぽりと掻きながら言う。

 

「…もしかして今日遅れたのって……」

 

「うん、指輪買ってたら時間かかってさ。店の開店直後に行ってギリギリで済ませたんだけど…」

 

やはり、恥ずかしそうな顔をして応える。

 

「––––––っ!!」

 

––––––次の瞬間、箒に抱きしめられた。

 

「え、箒!?」

 

ぎゅう、と強く抱きしめられる。

––––––お互いの体温と、お互いの心臓が鼓動する音と振動が密着した体を介して共感する。

ぎゅう、と強く抱きしめられる。

––––––箒の吐息と千尋の吐息が互いの肌に当たり、互いに感情を沸騰させる。

––––––もうそこまでされたら、恥じらいとかそんなのに構っていられなくなった。

千尋も箒をぎゅう、と強く抱きしめる。

さらに感じる体温の熱と心臓の鼓動が強くなる。

お互いにもう離れてしまわぬように、もう離れて行かぬように、2人は抱擁し合う。

どう足掻いても立場上、離れてしまうのは必然だ。

––––––けれど、生きているうちは、こうして触れ合うことが出来るうちは、互いに絶対に離れぬように抱擁し合う。

人類の支配する世界が破滅した中でも、決して離れないように。

そして、2人を祝福するかのように––––––

 

「…冷たっ」

 

千尋の鼻先に不意に冷たく湿った感触がした。箒もうなじにそれが触れたらしく、それで抱擁は解除された。

––––––見上げると、街明かりが反射し琥珀色に染まった夜雲から白い白い、結晶の群れ。

 

「––––––雪だぁ…。」

 

千尋が声を放つ。

箒もそれに釣られ、楽しそうな顔を浮かべる。

 

「まるで、天使の羽みたいだな…」

 

箒が言う。

なんて、ロマンチックな喩えだろう。

地上を煌びやかに照らす黎明が反射した琥珀色の雲から降ってくる雪は天使が舞い降りてきたかのような幻想的な光景だった。

 

「––––––千尋。」

 

箒が千尋の方を向く。

その手には先ほどの指輪をはめていて。

 

「最高のクリスマスプレゼントを、ありがとう––––––。」

 

街灯の明かりが雪のヴェールに反射し、時間さえ融けてしまいそうなくらいにあたり一面を琥珀色の世界で覆い尽くす幻想的な、残酷な世界の片隅で、2人は破滅後の聖夜を迎えた––––––。

 

 

 

 

 




––––––と、こんな感じです。
正直最終回にしたら良かった感がありますが、最近のピリピリしたシリアスハード展開で溜まった鬱憤を晴らすために思い付きで書いてしまいまして…(汗)
しかも突貫で書いたために中身はスカスカになってしまいました…すみません。


次回の投稿は来年になると思います。
では皆さま、どうか良いお年をお過ごし下さい。



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