インフィニット・ストラトスadvanced【Godzilla】新編集版   作:天津毬

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今回もオリジナル展開がちょっとあります。
…自己紹介?
すみませんが脳内補完して下さい。


EP-02 学園生活の始まり

 …暇だ。あと眠い。

 千尋は思う。

 IS学園講堂。

 どこのオペラとかやってる劇場だと聞きたくなるほど豪華な造りのそこには一年生160 人、2年生140人、教員20名の計320人が集められ、入学式の集会を行っていた。

 ちなみにIS学園自体が新設校のため、まだ2年生までしか生徒がいない。

 現在は世界最強のIS乗りと言われている織斑千冬が舞台に立ち、演説をしていた。

「諸君らは選ばれた生徒だ。ここに残るものは将来ISと人類の発展に貢献し、輝かしい未来を掴める可能性のある、金の卵だ。そのことを胸に、誇りを持った、楽しい学園生活を…」

 うんぬんかんぬん。

 聞いてないわけではないが、千尋は酷く眠い。

 長ったらしい話を聞いていると、何故か眠くなる。

 そういえば、光は『長ったらしい話をする人は例外もあるが、それでしか権力を保持できない存在、あるいは立場に立たされている者だ。』と言っていた。

 つまりは織斑千冬もその立場にあるのだろうか?さっきから10分近く話を続けている。

 だから千尋は眠い。何度首がカクンッとなったか。

 隣の箒も「くあぁ…」と欠伸をしていた。

 …まぁ、周りの女子はというと千冬への尊敬というか憧れというか、盲目的崇拝というか…そういうもので睡魔を振り払っていた。

 そんな生徒たちを千尋は眠気のせいで半分瞼が閉じかけの目で、見渡す。

 こいつらは1万分の1というアホみたいな倍率の試験を受け、クリアした、エリートだ。

 だがそれは通常の話。

 世界初の男性IS操縦者の織斑一夏、政府の要人保護プログラムによって強制入学を決められていた箒、男性IS操縦者であると同時に箒のオブザーバーとして千尋などと言ったイレギュラーだっている。

 他にも教員を賄賂で買収したりとか、政治家のコネを使ったとか…

 まぁ、そういう汚い話やズルい話で入学した奴らだっているのだ。

 男性だからという理由で学園の広告塔や研究対象として使えるから入学試験をパスさせてもらった織斑一夏や千尋、そして多分、光たちではない、何者かのコネによって入学させられた箒も、それに当たる。

 …正直、千尋は生徒として入学ではなく警備課に配属される方が良かった。

 警備課は学園内の警戒に警視庁警官隊、陸上自衛隊普通科部隊が警戒にあたり、他には海上のIS学園反対デモを行う漁船やボートを警戒して海上保安庁の巡視船や巡視艇、学園への攻撃に対処する為に海上自衛隊のイージス艦や汎用護衛艦、航空自衛隊のレーダー車やペトリオットが展開しており、学園を警備する自衛隊員や海上保安官とはなんとなく反りが合いそうだからだ。

 …それに、学園ではイケメンでなければ男性は冷遇されるという、まぁなんとも頭がおかしいとしか言いようがない、女尊男卑思想の巣掘だし、千尋はイケメンではないし普通の顔だし、ガキっぽい顔だし、まぁ、冷遇の対象だろう。実際朝から何人か…というかほとんどの女子に蔑みの目で見られてるし。

「はぁ…」

 それを考えると、うんざりして来て、溜息をつく。

 すると、隣から、

「あなた、わたくしの質問に答えて頂ける?」

 金髪縦巻きロールに青い瞳のお嬢様らしい雰囲気の、見た目から察するにヨーロッパ系の女子に話しかけられる。

「なんか用か?つか、誰?」

「あら、やはり無礼な上に無知なのですね」

 千尋の反応を見るなり女子は蔑みの目で見てくる。

「そりゃ、初対面なんだから知らなくて当たり前だろ」

 千尋は呆れながらその女子にいう。

 すると女子は少し畏まって、

「あら、それは失礼致しましたわ。…わたくしはセシリア・オルコット。イギリス代表候補生ですわ」

 胸に手を当てながら、自己紹介する。

「…ふーん。代表候補生、ね」

 それを聞いて、千尋は眼を細める。

 隣の箒も耳に入ったからか、少し警戒しだしたらしく、先程から千尋同様に欠伸や眠気で閉じかけだった目が覚めていて、横目で千尋とセシリアを見ていた。

「ええ。褒めてもよろしくてよ?」

 そんな箒に気付かず、セシリアは言う。

 だがそれを無視して、

「箒姐、イギリスってどこだっけ?」

 と、千尋は箒に聞く。

「は?」

 それを見たセシリアは思わず、あんぐりと口を開けて、固まる。

 そしてその千尋を見て箒も呆れる。

「千尋、お前…」

「い、いや〜…あはは…しゃ、社会は苦手だから…」

「はぁ…イギリス、または大英帝国。正式名称はグレートブリテン北部アイルランド連合王国。ヨーロッパ地方にあり、ドーバー海峡で隔てられており、フランスが対岸にある島国で、日露戦争時の日英同盟やイギリスの王室と日本の皇室との交流などで日本とも深い関わりがある…中学の時習わなかったか?」

「あ、あ〜…習った。習ったわ」

「…い、イギリスを…私の国を知らないなんて、日本人は馬鹿ですの?」

 セシリアが、言う。

「…こいつがバカなだけだ。日本人全員がそういうわけじゃない」

「うぐ…」

 それに箒が呆れながら応じて、千尋が箒の回答を聞いて酷く落ち込む。

 まぁ、イギリスの位置は普通知ってて当たり前というほどだから、箒の言うことは、あながち間違ってない。

「…はぁ…貴方に期待したわたくしが愚かでしたわ」

 セシリアが言う。

「勝手に期待されたって困るし。そういうのは織斑にしてろよ」

 千尋がセシリアに返す。すると何か嫌なことを思い出したような顔になって、

「もう言いましたわよ…あんな無知で無恥なかたは初めて見ましたわ…」

 わなわなと震えながら、言う。

 ああ、地雷踏んだな。俺。と千尋は思う。

「信じられます?代表候補生を知らないだなんて…」

「え…あ、うん。俺のイギリスの位置ってどこ?ってやつと同じくらい知ってなきゃ恥ずかしい内容だな。それ」

 そもそも織斑一夏の姉である織斑千冬は元日本代表だし、入学前に配られた必読、と書かれていたあの参考書に、赤文字で、しかも太字で書かれていたから眼を通せばどんなものかは分かるはずだ。

 だいたい、それでなくとも、オリンピックの選手のような感覚で世に広がっている単語だから知らないはずがない。

 知らないなら、それはイギリスってどこ?と聞く千尋のようにその科目に鈍いか、真性のバカか、世間知らずか。

「だいたいどうして男が2人もわたくしの教室に…」

 そう呟くセシリアに、千尋が遮って、

「安心しろ。俺は短期研修だし、一通りの教養を受けたら警備課配属だ。だから、すぐ消える」

 千尋が、そう言い放つ。

 実際、そうだった。

 ISの基礎動作は歩行とダッシュ、ジャンプくらいはすでに習得済みだ。

 それらの動作は歩兵強化装甲殻の基本動作にあたるから。

 そして、戦略機の機体制御の難度の方が遥かにISより難しいから、短期で良いだろうと特自が判断したが故に千尋は短期研修の後、学園の警備課に配属予定だった。

「そ、そうですの…なら、もうこの話題は切り上げましょう」

 そう、セシリアが言った直後、織斑千冬の演説が終わる。

『続きまして、臨時理事長の紹介に入ります』

 IS学園にも理事長はいるが、半年前、肺ガンになったために現在入院中で、臨時の理事長が来ることになっていた。

 そしてその臨時理事長は–––––

 

「ご紹介に上がりました片桐光です。本日から、本校の臨時理事長に赴任致しました。よろしくてお願い致します」

 光、だった。

 

「「ぶっ⁉︎」」

 思わず千尋と箒は吹いてしまう。

 光からそんなことは聞かされてなかったから。つい、驚く。

 だが、光が、特務自衛隊のヤングエリートと呼ばれる幹部士官が赴任した。

 これは、

「…荒れるなぁ…これ」

 千尋が呟く。

「ああ…この分だとタカ派の奴らも……」

 千尋の呟きに応えながら、箒も呟く。

 セシリアは少し気になり、二人に耳を傾ける。

「こりゃぁ…波乱の学園生活…かなぁ」

 はぁ…とため息を付き、頭を押さえながら、千尋は呟いた。

 

 

 

 

■■■■■■

 

 

 

・IS学園生徒宿舎(仮設棟)

 IS学園の軀体である夢見島のバブル時代の開発時に空いたままの縦穴型地下空洞施設、通称・第2シャフト。

 そこが千尋らの属する特務自衛隊が戦略機のテストを行う場所でありIS学園の整備・開発エリアだった。

 その、居住スペース。

 質素で味気ないうえにボロい見た目だが、5LDKという広さでガスコンロと換気扇、水道、シャワー室完備という、仮設とは思えないほど素晴らしい部屋。

 家具はちゃぶ台と布団、テレビ、タンスしかないが、それで十分だ。

 ここには千尋が泊まるはず…なのだが、

「なんで箒姐、それに舞弥まで俺と同じ部屋にいんの?」

 あぐらをかいた千尋が、目の前で座っているリュックを背負っている箒と舞弥に聞く。

 箒は予定通り生徒宿舎本棟の1025室に入り、舞弥は千尋よりひとつ年上だから転校生という扱いだが部屋が空いてないため用務員宿舎の空き部屋に入るはず…なんだが。

「…それは…その、ホラ、千尋が心配だからですよ。どこの馬の骨とも分からない輩にいつ殺られるか分かりませんし…」

 舞弥が、言う。

「…同じく……だ」

 箒は何故か暗い声音で言う。

 …この顔は何かあった時の顔だと千尋は悟る。

 だが、千尋にとって、いや基本同年代の、それも思春期の男女が同室で暮らすということは、いろいろな気遣いをしなければならないし、ある意味苦痛だ。

「ていうか箒姐も舞弥も男と一緒に暮らすことがどういうことか分かってる?」

 千尋は問う。

 だが、

「……覚悟の上だ。…という訳で、泊まるぞ」

 箒がそう言い放つ。

「いや待て」

 何がという訳で、だ。

「では私も。そういうことで」

 舞弥まで、言う。

 なんでこうなる…と内心毒突く。

 もう、2人とも元の部屋に帰る気はない。特に箒は。

「はぁ…」

 ため息を付きながら、部屋の片付けは終わっていて、あとは箒の荷物だけだから、

「ちょっと出かけてくる。」

 そう言って、千尋は部屋を後にする。

 向かう先は強化装甲殻やISの整備エリアにあたる区画。

 特務自衛隊が強化装甲殻を持ち込んだフロアで、さらにその下には戦略機を格納しているフロアがあった。

 千尋は、そこに用があるのだ。

 その、手前のエレベーターホール。

 今いるのは整備フロアより数階上だから、千尋はエレベーターに乗ろうとする。

 と、そこに、

「あら、貴方は…」

 声の方を見ると、今朝講堂であった少女、セシリア・オルコットがいた。

「貴方、一体何をしていますの?」

 なぜかセシリアは千尋につっかかってくる。

「別に。この先に用があるだけ」

 極力面倒くさい事態にならないように、受け流す。

 そうしていると、エレベーターが開く。

 それに2人は乗り込む。

 中には教師がいた。

「あら、オルコットさん。こんばんは。貴女も整備フロアへ向かうのかしら?」

「はい。わたくしの機体の調整に」

「性が出るわね。…でも、貴方は何で来たの?貴方に関係するものは無いはずよ?」

 セシリアに応じて、その次に千尋に言う。

 瞬間、千尋は疑念を浮かべる。

 何故、この女はエレベーターの最下層…整備フロアのあるB3階のボタンではないボタンまで押しているのか。

 今の会話ならB3階のボタン以外押すのはおかしい。

 仮に間違いで押したとしても、今度は千尋への発言が引っかかる。

 強化装甲殻がISと同じ整備フロアに、さらに下には戦略機が置かれていることを、それに特務自衛隊が関与しており、千尋と特務自衛隊の関係は資料として学園に提出したから、学園の教師は知っているはずだ。

この女が【本当にこの学園の教師なら】

 つまり、こいつは––––––

「敵か」

 千尋は、低い、子供とは思えないほど大人びた声音で、呟く。

「え?」

「⁉︎チィッ‼︎」

 それを耳にした、千尋の隣のセシリアは驚き、その教師に化けた女も一瞬動揺するが、すぐに懐からナイフを出して、振り上げて、千尋に切りかかる。

 それをすぐ様千尋は左腕の上腕部––––––に仕込んだ12式耐刃防御籠手で防ぐ。

 ギィン‼︎という金属と金属のぶつかる音がエレベーター内に響く。

 すると千尋は女のナイフを持っている手の付け根を右手で掴み、自分の側に思いきり、引っ張る。

 女も体が千尋に引き寄せられる。

 そこに千尋は間暇ついれずに女の腹に右足で蹴りを入れ、

「あがっ⁉︎」

 さらに鎧通しを左手で、女のみぞおちに入れる。

 それで、女は意識を失って、ナイフを落とす。

 その全てがほぼ一瞬で、セシリアも突然すぎて何が起きたか理解できなかった。

「…ったく。どうなってんだよこの学園の警備体制…ナイフ持った不審者を入れるとか…」

 千尋は女の落としたナイフを拾いながら、愚痴る。

 IS学園の警備体制は万全–––と、警備についている自衛官らを除いて、学園側は発表している。

 それでもこんな輩が入り込むということは、穴がある、ということだ。

 本当に油断できない場所だ。

 一歩間違えば、死ぬ。

 やはり常時警戒する必要がある。

「くそ面倒くせえ場所だなぁ…。」

 千尋は、呟いた。

 

 

 

 

 

 

■■■■■■

 

 

 第2シャフト・生徒宿舎(仮設棟)

 箒と舞弥は荷解きを終え、部屋でくつろいでいた。

「…箒」

 ふと、舞弥が話しかける。

「なんですか」

「やはり、何かあったのですか?」

 舞弥が心配そうに、箒に聞く。

 すると箒が泣きそうな顔になって、

「また…広がってるんです…シミ……」

 といって、胸を見せる。

 そこには肌を侵蝕するように日に日に広がりつつある黄色いシミがあった。

 医者にみてもらったが、『ガンの類ではないけど分からない』と言われただけだった。

 しかもシミが拡大するたびに異形の鳥の夢を見るのだ。

「怖いんです…シミが広がるたびに私が私じゃなくなる感じがして…どうにかなってしまいそうで…」

 怯えるように、言う。次の瞬間。

「うっ…ぐ、ふッ‼︎」

「箒‼︎」

 箒が口を押さえて身を丸める。

 そこに、舞弥が駆け寄る。

 箒の手には、赤い、紅い鮮血が彩られ、口からまだ少し、それが垂れていた。

 吐血したのだ。

 明らかに危険だ。

 舞弥は携帯を取り出し、千尋に電話をかけようとするが、箒は舞弥の手を強く掴んで、

「お願いです…千尋には…言わないでください……あの子に余計な心配を…掛けたくないから…」

 箒はそう言って、懇願する。

「箒…」

 舞弥はただどうしようもないくらい、必死でナニカに足掻こうとする箒を見ながら、それを了承するしかなかった。

 

 

 

 

 カチリ、また、破滅へ進む。

 1人の女子––––––篠ノ之箒もまた、破滅へ巻き込まれて行く。

 

 

 

 

 

 

 




入学式おしまいです‼︎
え?一夏がいない?…じ、次回あたりだしますから…大丈夫。
千尋は所属不明の女に襲われるわ箒は謎の症状に襲われるわ…
ゆっくりと、でも確実に、物語は破滅へ向かっています。



…あと、投稿遅れてすみません‼︎マブラヴレギオンという小説も上げてたら、時間かかり過ぎました。
以後、気をつけます。

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