インフィニット・ストラトスadvanced【Godzilla】新編集版 作:天津毬
千尋「内容詰め込んであと2、3話したら対ゴジラ戦終われるだろ。というか人間パートを全カットしたら今回でイケるだろ。」
うん…(´・ω・`)
というわけで第2次本土防衛戦となります。
なんで第1次じゃないかというのは…怪獣学(ゴジラ)にて触れています。
…俺、第2次日本本土防衛戦編書き終えたら、日常編書くんだ…。
千尋「なお世界各地の戦況と箒のイリス周りのフラグ回収。それとセシリアが主人公格となる
…日常なんて無かった(⚪︎ェ⚪︎` )
千尋「うん。そんなわけで今回もどうぞ。」
2021年6月13日・正午12時15分
千葉県館山市南部・布沼地区
「––––––こちら、欧州連合極東派遣軍ポーランド陸軍第2機械化軍団第8装甲騎兵師団第3戦車中隊……!」
コヴァルスキ少佐がオープン回線で無線機を手に怒鳴る。
––––––放射能の霧に浮かぶIS学園の対岸。
平砂浦に面した国道257号線、平砂浦海岸。
館山カントリーゴルフクラブ敷地内には––––––擱座ないし大破したT-72M1モデルナ戦車18両が残されていた。
「––––––現在、IS学園を襲撃したと思しき巨大不明生物が館山市に上陸…我が隊は戦闘続行不能…この通信が届いている部隊は速やかに迎撃を––––––!」
蹴り飛ばされた車両。
無理な機動で履帯の外れた車両。
焦げた土塊の下敷きとなった車両。
熱で溶解したアスファルトを浴びた車両。
幸いにも死亡者が出ることは無かった………だが––––––。
「––––––くそっ…!!」
––––––認識が甘かった、とコヴァルスキ少佐は唾棄する。
…IS学園で発生した複数回の原爆級と思しき爆発の原因はおそらくあの巨大不明生物だろう。
なら––––––小規模とはいえ核爆発に耐えるだけの堅牢な肉体を持っていたということだ。
…つまり戦車の正面砲撃は通用しない。
それは推測出来ており、またその手の存在とも対峙した事もあった。
––––––
ウクライナにて確認されていた個体であり、核爆発にも耐える耐熱装甲として機能する甲殻を全身に持つ希少種。
過去にポルタバ戦線にて戦術核による漸減作戦を実行せざるを得なくなった状況下で出現し、即座に戦術核を投下––––––合計300体以上ものギャオスの殲滅に成功した。
––––––だが、
さらにあろう事か甲殻表面が激しく炎上し、火達磨になりながら時速180キロという速さで疾走し、味方陣地に突っ込んで来た。
––––––その余りに想定外過ぎる敵を前に前線は瓦解。
…唯一救いがあった点があるとすれば、甲殻が重過ぎるのか飛行能力を失うまでに退化した種であったことだろう。
これで飛行能力まであるとなれば目も当てられなかった。
––––––そしてポルタバ市街から30kmの地点で第2機械化軍団第8装甲騎兵師団第3戦車中隊は
甲殻への直撃弾は当然ながら意味が無い。
だからこそ––––––
それは、中世ヨーロッパの甲冑と同じように––––––鎧の繋ぎ目が弱点である事を晒していた。
だからこそ、後衛車両が後退しつつ頭部および脚部への陽動砲撃を実行。
同時に左右からの前衛車両の挟撃を合図に後衛は脚部への集中砲撃にシフト。
脚部の破壊と同時に前衛後衛全車は機動砲撃戦に移行し––––––関節に全力砲撃を実施。
実際それしか手段が無かったとはいえ––––––結果的には嬲り殺す形で殲滅に成功した。
––––––その教訓から、今回上陸した巨大不明生物にも同じ戦術を取ったのだ。
だが––––––あろうことか今回は皮膚そのものが
劣化ウラン弾の持ち込みが叶わなかったとはいえ––––––いやそもそも表層部への物理的打撃をもって敵を撃破する戦車との相性が悪過ぎる。
––––––アレの皮膚を貫通・突破するには、おそらく
そしてそんな贅沢な装備を欧州連合極東派遣軍は持ち合わせていない––––––もちろん、ポーランド軍もだ。
" …それにしても、皮膚そのものが甲殻を超える防御力を持っているって…一体どうなってるんだ…デタラメにも程がある。 "
軽く頭痛を起こしている頭を抱えながら、半ば呆れたように内心呟く。
––––––兎にも角にも、欧州連合極東派遣軍ポーランド陸軍第2機械化軍団第8装甲騎兵師団第3戦車中隊の継戦能力は完全に喪失。
今出来る事は、館山市周辺に展開している全部隊に注意勧告をしつつ、敗残兵らしく立ち去るだけ。
" 車両大破5、中破7、小破4、損害軽微2。
乗員重傷21名、軽傷32名––––––だが。"
…だが、ひとまずは。
" ––––––全員生き残っただけ、良しとするか。"
––––––そう自分に言い聞かせる。
「中隊長––––––稼働可能車両への応急修理が完了した。」
ヴィシニエフスカ軍曹が告げる。
それにコヴァルスキ少佐は顔を向けて、強く頷く。
––––––ここで項垂れていても仕方ない。
…とにかく今は。
「––––––了解………では動ける車両に負傷者を乗せ、我々は西岬海水浴場に向けて出発する。」
無線機を通信士に預けながら言う。
––––––先程、無線のやり取りで西岬海水浴場にイギリス海軍のLCAC-1級ホバークラフト型揚陸艇が
…上手くいけば、負傷者を乗せた上で補給が出来るかもしれない。
主砲の砲弾はイギリスとは規格が違う代物だから部隊内でやりくりするしかないが––––––M2重機関銃の弾丸くらいは貰えるだろう。
…それで対抗出来るわけではない。
だが、あるに越したことはないだろう。
ウクライナでは大型種の後に小型種の巨大不明生物の侵攻が確認されていた。
今回は種類も違う生物だが––––––無いとも言い切れない。
ならせめて、歩兵支援ができる程度の火力を補充しておく必要があるのは必然と言える。
だからこそ、さっさと戦車に乗り込もうと未だ軋む身体に鞭を打つ。
––––––直後。
自分達から東北東––––––出野尾地区より、銃声と爆発音が木霊する。
「––––––報告!現在、出野尾地区にて臨時国連軍IS部隊が交戦中…‼︎」
通信士の声に、コヴァルスキ少佐は反射的に館山市一円の地図を開く。
––––––出野尾地区は現在中隊の展開しているアロハガーデンたてやまゴルフ場から東北東に直線距離で4km程行った、二方向から山に挟まれた細長い地区。
起伏が激しい上に平野が少ない事から侵攻速度の低下は必至と言える。
…IS部隊としては、そこを挟撃する形で仕留めようとしたのだろう。
コヴァルスキ少佐からすれば––––––そんな自殺願望めいた行動は理解出来ない。
だが––––––好機である事も確かだった。
「急ぐぞ––––––!」
T-72に飛び乗りながら、コヴァルスキは発破をかけた––––––!
◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎
正午12時09分・千葉県館山市出野尾地区
––––––大地という床に走った亀裂のようにさえ錯覚する山間部。
40メートルから100メートルの山々に囲まれた安房丘陵の大地を、ひとつの山と誤認する程の巨躯が––––––進撃する。
それはさざ波のようにゆっくりと。
それは雷のように荒々しく。
大地を踏み潰し、踏み砕き––––––
「▂▅▇▇▇█▂▇▂––––––––––––!!」
––––––大気を揺るがす咆哮。
空が割れるような爆音が大気を揺らし。
…60メートルにも及ぶ巨体。
…3万トンにも及ぶ体重。
一体どのようにして二足歩行による個体生命を維持しているのか。
普通、これ程ものサイズの生物が陸上にいれば、歩行することすら叶わず自重で潰れてしまう。
数十メートルにも及ぶサイズの生物が存在出来ないわけではない。
何しろ、現代における世界最大の哺乳類たるシロナガスクジラは30メートル以上ものサイズでありながら個体生命を維持している。
だがそれは水中……つまり浮力が働いている場合に限る話である。
故に、水棲生物が浮力の存在しない地上に上がってしまえば内臓の自重で死んでしまうのだ。
それを補完・回避するモノがあるとすれば、重心の分散……即ち多脚化と頭部と尾を用いたシーソー化による水平にバランスを構築する事こそが巨体を支える要素。
…だが、ゴジラは直立二足歩行による個体生命維持を実現している。
自重による自滅も、バランスの構築も関係なく––––––あらゆる常識を無視して、ゴジラは顕現していた。
––––––いや、人間の常識で測るのが間違いなのだろう。
「▂▇▂▂▂▂––––––––––––––––––…!」
…ふと、唸り声を大気に刻む。
それは外敵の知覚。即ち威嚇行為。
睨みつけるように、敵がいる方角を睨みつける。
…視線の先、北東に2キロ––––––。
––––––同時刻。
館山市・大戸地区
豊房駐在所前・県道86号線
国連軍第11空中機械化歩兵中隊
簡易指揮車(イスズ2tトラック改造型)
––––––ゴジラより、北東に2キロの地点。
そこに国連軍第11空中機械化歩兵中隊の指揮車––––––民間トラックのコンテナ積載部分に情報統合指揮ユニットを搭載しただけ––––––は展開していた。
…その傍らでは、CP役となる女性指揮官が非常に不機嫌極まりないような。不安で押しつぶされたような––––––そんな表情を浮かべていた。
––––––元々、彼女らは陸上自衛隊の自衛官であり、陸自の数少ないIS部隊のひとつだった。
もちろん、自分は男より優れている事は自負している。
ISに乗れるのは女だけだし、子供を産めるのも女だけ––––––そう考えれば『男は生物学的に不良品である』とさえ思えてくる。
––––––故に装備は一番優遇されるべきだ。
…だと言うのに。
「…どうして支援装備は民間改造車やロシアの中古車両なのよ…‼︎」
呻くように愚痴る。
––––––彼女の言う通り、簡易指揮車の隣には。
ロシア軍から購入し、KPV重機関銃をM2重機関銃に挿げ替えたBRDM-2J-18装甲偵察車と、同車を改造した––––––車体の屋根に板チョコのような形のフェーズドアレイ・レーダーを搭載しただけ––––––観測支援車が追随している。
BRDM-2とは、1962年よりゴーリキー自動車工場により設計された「装甲偵察哨戒車」だ。
タイヤの気圧集中制御システムと車体後部に設置されたガソリンエンジン、前面に収納式の波切板を持つ艇体形の車体と車体後部の1基のウォータージェット推進装置による水上走行能力を持ち、尚且つ大口径機関銃を密閉式の銃塔に装備し、赤外線式暗視装置が標準装備となっている。
他にも主車輪の間に設置された4つの展開式補助輪を持ち、軟弱地では地面に接地させて不整地走破能力を向上させることが可能である上に––––––値段が安い。
その低コスト故に発展途上国でも手に入る為、現在ロシア本国を含めて45ヶ国が運用している。
…だが、IS部隊に配備するにはあまりにお粗末と言える。
そして彼女らも当然それについて憤りを見せていたが––––––
「––––––仕方がないでしょう、中隊長。私達が防衛省からどう捉えられているかを考えれば分かる話です。」
––––––その隣で、「いい加減そのリアクションは飽きました」と彼女の部下である木村曹長がウンザリしたように言う。
…木村曹長の言う通り––––––それはやむを得ないと言える。
––––––ただでさえISは高価なパーツを使う上に、オーバーホールとなると専用の設備が必要となる。
結果、本体と整備設備込みで1機あたり………100億円越えという価格となる。
…比較対象として、
F-15戦闘機は1機あたり30億円。
F-2戦闘機は1機あたり73億円。
97式戦術機荒吹は1機あたり65億円。
IS周りの設備を揃えた上で予算の9割を使い果たし、支援車両については大幅に予算を削らなくてはならなくなる。
––––––次に、アラスカ条約によってISを用いた軍事目的での武力行使の禁止。
これによって自衛隊内でのIS部隊におけるIS以外の装備の充足化が見送られた事。
––––––最後に巨大不明生物の存在によってISより既存兵器を優先化、あるいはEOSを発展化させ戦術機という兵器を作るなど、露骨にISの充足化路線から外したという事。
…もちろん、ISが巨大不明生物相手に無力なのは知っている。
だが、実戦に投入せざるを得ない状況に此方が置かれた時の事を考慮していなかった……否。実戦に投入することすら想定されていなかった。
––––––つまり、防衛省からすればIS部隊は「金食い虫」であり始まる前から「戦力外」と認識されていた。
––––––故に、「支援装備は必要最低限のモノで良い」という判断になるのは必然。
…そもそも、ISとはスポーツ・競技用の存在である。
分かりやすく言えば––––––アサルトライフルやマシンガンの飛び交う現代の対人類戦に単発式かつ性能はマスケット銃並みの競技用ライフルを装備させた兵士を送り込むようなモノ。
そうなれば結果がどうなるかは見えているし、最前線ではハッキリ言って話にならない。
––––––戦力外通告がなされるのも無理はない。
…理性を持った状態で冷静に考えれば簡単にわかる話。
––––––だというのに。
「だ、だまらっしゃい!この敗北主義者!女の恥め!!」
––––––事実を述べるとこの通り、発狂して罵詈雑言を吐き散らす。
まるでガキだわ…正直、貴女みたいな人が幹部自衛官になれた事に驚きを隠せません––––––と、木村曹長は内心思う。
「…ま、そんな性格だから
続けてボソリ、と口にする。
「なんか言った⁈」
「いいえ、何も––––––それより、迎撃に向かわなくてよろしいんですか?」
何もなかったように木村曹長が聴く。
––––––ゴジラを挟むように八幡神社と観音寺院に彼女の子飼いの部隊が展開している。
そして彼女自身も迎撃に参加すると息巻いていたのだ。
「はん––––––言われずとも!」
「こちらも支援には尽力しますので…」
「要らないわよそんなのッ!!」
––––––聴くと、周囲の人間を全く考慮せず、所謂腰巾着と言える部下2名を引き連れて飛翔した。
…その衝撃でいくつか石が舞い上がり自分達の展開している隣にあった派出所––––––現在は住民の避難誘導により無人となっている––––––の窓ガラスを叩き割った。
「…はぁ……。」
––––––木村は溜息をつく。
…どうしてこんな部隊に来てしまったんだろう、と。
残されたのは、木村曹長を含む本部付き支援小隊––––––各車両とオペレーター総勢15名のみであった。
「…どうします?補給物資だけ置いてズラかりますか?」
ふと––––––木村に尋ねる声。
声の主は、打鉄を纏った木村の部下である川口三曹(伍長)。
「私達だけであんなのを相手取るなんて無茶ですし…せめて、艦隊や航空隊、砲兵の支援を受けられなければ火力不足です。」
––––––確かに、彼女の言う通りである。
ISは、その何者にも追随を許さない機動性が売りである。
機動性だけであれば地球最強の兵器と言っても過言ではない。
––––––だが機動性にステータスを振っている分、火力投射力は現行既存兵器の全てに劣る。
…何しろ、重武装の歩兵が空を飛び回っているだけに過ぎないのだ。
対人類戦ならばいざ知らず、巨大不明生物相手となると圧倒的に打撃火力が不足していた。
「それに国連軍の通信が正しければこの辺り一帯は––––––…」
「…そうね、軒並み焦土化確定かしら。」
––––––現在、ゴジラの侵攻予測ルートにある大戸・東長田・西長田への面制圧砲撃を行うべく、大綱地区丘陵地帯・館山市城山公園にM1クルセイダー自走砲とMLRSから成る野砲部隊が展開しているとの情報があった。
…そして、今木村や川口ら支援小隊が展開している場所は面制圧の該当地域内。
足の速いISならいざ知らず、こちらは足の遅い地上車軸である。
支援小隊にも2機のISがいるが、それはあくまで支援車両の警備機体。
即ち地上車軸との連携が前提となっている。
––––––ならば。
「––––––早いとこそうしましょう。…総員傾注!」
木村が無線機を手に取りながら、支援小隊全員に告げる。
「––––––これより我々は現地域から離脱。館山港へ退避する。」
––––––館山港は現在国連軍が展開しており、臨時の地上拠点が置かれていた。
本来ならここに最初から布陣するのが正解なのだが––––––そうは出来ない理由があった。
まず、館山港は前線になる可能性が高く、戦力外通告をされていた我々は内陸部に展開せざるを得なかった事。
次に、戦力外とはいえ予備戦力としてIS学園、そしてポーランド陸軍の後方に配置されていた事。
最後に、あの
––––––それにより、たった今陣地転換を行わなければならない事態となっていた。
…まぁ何はともあれ、このまま陣地転換が叶わず味方の面制圧で爆死––––––なんて事にはならないで済むだろう。
…思わず川口は胸をなで下ろす。
––––––直後、出野尾地区にて爆発音が連鎖した。
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––––––2分前
館山市西長田区・観音院前
ゴジラから西へ約800メートル。
観音院前に––––––FIS-3Jラファール・リヴァイヴを纏った女たちは展開していた。
––––––彼女らこそ、国連軍第11空中機械化歩兵中隊実働第2小隊であった。
機体フレームには山岳地帯での戦闘を想定して施された迷彩色。
腕には3連装バルカン式大型ロケットランチャーを装備。
先頭に立つ女は中隊長が布陣しているという実働第1小隊と交信をしている。
「こちら一番機、目標を確認、今から仕掛けます。」
ISを纏った女はそう言うと第1小隊との通信を終える。
女の後ろにはISを纏った女15名がおり、全員が装備の最終確認を行なっていた。
「…全員、装備はちゃんと確認した?」
全員が応じる。
––––––しかし、それには確かな不安と焦燥を孕んでいた。
彼女らは陸自所属のIS乗りたちだが、上層部の警告、そして臨時国連軍への正式な異動命令、ついで自治体からの災害派遣要請を待たず、機体も装備も無断で基地から出撃し国連軍のIS部隊に合流したのだ。
––––––基地に帰投すれば、間違いなく
…現在ISの立場は他の兵器より優位に立っているハズだった。
––––––しかし巨大不明生物の出現と相次ぐ敗走によって、その優位が揺らいだ為に自らの権力が形骸化する事を恐れた女性権利団体の一部が彼女たちに命令したのだ。
––––––その、指揮系統も組織の規則も無視した行いによって、彼女らは背水の陣を強いられていた。
…ゴジラを倒さなければ、自分達の人生が破滅する。
だからこそ、死に物狂いで戦うことが出来る。
––––––ふと、先頭の女はそんな彼女らを鼓舞するように拳を掲げて声を上げた。
「大丈夫!私たちはISを使えるエリートよ!他の兵科の男たちとは違って色々なことができる!」
––––––彼女自身、それは虚勢であった。
まるで波に攫われる砂山のように、脆く壊れやすい意思。
だがそれでも、彼女は指揮官としての使命を果たそうと声を放つ。
「だから––––––あのデカブツを倒すわよ!」
––––––私達の未来のためにも。と付け加えるように叫ぶ。
––––––直後。
センサーに熱源反応が急接近していることを伝える警報が鳴る。
「––––––ッ!?」
女は反射的にスラスターを蒸し跳躍––––––その場を離れ、遮蔽物に飛び込もうとするが。
唐突に吹き荒れる豪風。
まるでミキサーにぶち込まれて掻き混ぜられている果実のように吹き飛ばされる。
––––––観音院の本殿。
––––––喫茶店の内装。
––––––田園の真ん中。
––––––農家の倉庫。
––––––ビニールハウスの中。
––––––民家の玄関。
次々と暗転と変遷を繰り返してめちゃくちゃに掻き回される景色。
最後の衝撃と共に––––––そこに、仰向けに倒れ伏していた。
眼前には、
砕けた木製の床。
倒れ伏したドア。
原型を失った玄関。
ではここはリビングか。
そして今私は––––––ああ、民家の壁を突き破ったのか。
混濁する意識の中で彼女は理解する。
つまり、先程めちゃくちゃに掻き回され景色の中を通って来たわけで––––––ああ私は民家やビニールハウスを突き破るように吹き飛ばされたのか、と更に理解する。
朦朧としていた意識が再構築されて行く。
そして––––––
「な、何が……、っ……!?」
思わず、反射的に口に出す。
そして––––––後頭部に違和感を感じた。
…なんだ、これは。
––––––後頭部に食い込むように存在する異物感。
奇妙なままに––––––まるで、万力で固定されたように動かない肉体。
––––––頸を伝う、生暖かい液体。
「あ、あ、あぁぁぁぁぁッ!!」
女は恐怖で動けなくなった。
––––––否、恐怖だけではない。
別に手脚が瓦礫で埋もれてはいない。
その程度であれば身に纏ったISのパワーアシストを持って除去出来る。
…それすらできない。
ISの制御系がやられたのか?
––––––否、そうではない。
確かに機体各部は損傷しているが、致命的損傷というわけでもない。
…では何故か?
パイロットに問題があるにしても、肉体が欠損したわけではない。
そうでないとすればひとつしかない。
––––––後頭部に食い込むような異物感。
それが全てを物語っていた。
すなわち––––––瓦礫が小脳に突き刺さっていたのだ。
脳は大きく分けて2つの機能に分類されている。
大脳は複雑な思考。
小脳は肉体の動作。
それらを司るように、脳とは分担されている。
つまり今、後頭部に突き刺さった瓦礫によって小脳を破壊された彼女は––––––磔にされた死刑囚同然であった。
かちかちかちかち、かちかちかちかちかちかちかちかち。かちかちかちかちかち……!
動けない未知の恐怖を前にして、歯を震わせる。
(ほ、他のみんなは…⁈)
––––––一縷の希望を託し、思考操作でウィンドウを展開する。
しかし––––––残ったのは、自分だけであり、他の隊員は全滅した事を告げる内容だけが映し出された。
かちかちかちかち、かちかちかちかちかちかちかちかち。かちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかち、かちかちかちかちかち…ッ!!
このまま失血多量で死に至る未来が脳裏をよぎり、女は先程以上に歯を震わせる。
そして再び高熱源反応をセンサーが捉え、警告音を鳴らす。
女は顔を上げ––––––ゴジラと視線が交錯した。
…直後、ゴジラの背が光り––––––青白い白熱光を放つ……!
「は、はは…ぁ、はははは…‼︎」
そして女は自らが絶対的に助からない未来を前にして、狂気に満ちた声で乾いた笑いを上げて––––––蒸発した。
◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎
––––––2分後。
館山市岡田区・八幡神社前
ゴジラの進撃していた出野尾地区から山を挟んで西に隣接する地区。
そこに––––––実働第1小隊は布陣していた。
そしてそこに中隊長が合流し、攻勢を仕掛け––––––直後に、西長田にて火柱が上がる。
「第2小隊と通信途絶––––––!」
同時に上がる報告。
––––––つまりそれは、第2小隊の全滅を告げていた。
その報告に中隊長の女は舌打ちするなり、
「使えない
思わず吐き捨てる。
…それに、周囲の部下達は顔を曇らせる。
いくら同じ女で、尚且つ同じ女尊男卑主義思考であれ。
––––––ここまで露骨な態度を取られれば表情を曇らせるくらいする。
その言動は、明らかに自分以外の人間を男女平等に見下している内容だったから。
…最も、中隊長はソレを気にも留めない。
––––––苛立ちを浮かべたまま、3連装バルカン式対艦バズーカを手に。
「さぁ––––––行くわよ!全機続きなさい!」
中隊長の号令と共に––––––15機全てが跳躍を開始した。
…うち、中隊長を含む8機はゴジラと視線が交錯する高度、即ち対地高度60メートルを。
…残り7機は、ゴジラより遥か上空。即ち対地高度100メートル以上を。
それぞれ二手に分かれながら––––––対艦バズーカを穿つ…!
「▂▅▇▇▇█▂▇▂––––––––––––!!!」
––––––全ての物を圧砕する咆哮。
––––––全ての者に宣告を下す音。
––––––全てのモノを圧倒する声。
乳白色の屍体を思わせる生気の無い眼球が、ギョロリと現場指揮官の女を睨み付ける。
––––––一瞬交錯する視線。
" 来るが良い " と告げるように吊り上がる口角。
「総員攻撃開始!」
焦燥を滲ませながら、中隊長が吠えるように、無線越しに怒鳴る。
…作戦がないわけではない。
だがその為には今––––––陽動攻撃を行う必要があったのだ。
…空を裂くように舞う、深緑の影。
…火薬と共に砲弾を穿つ、8名の女。
『死ねぇ––––––ッ‼︎』
『私達の未来の為に…!死んでよ!』
8機のISが、ゴジラの外周を捕捉しきれないような高速で飛行しながら、副兵装である50口径アサルトライフルと、主兵装である対艦バズーカを穿つ。
無線越しにIS操縦者の雄叫びと50口径アサルトライフルの銃声と対艦バズーカの砲声が響く。
––––––彼女らが守ろうとしているのは、先の学園教師部隊と同じ。
館山市の市民ではなく。
在日欧州邦人でもなく。
館山市そのものでもなく。
剰え日本の領土でもなく。
更に言えば女性の利権でもなく。
––––––ただ、自分達の権力とソレが約束された未来。
…ただ、それだけ。
––––––ゴジラが人間の感情と思考を理解出来たなら、呆れて殺すことすら止めるだろう。
そして––––––嘆くだろう、こんな者達の為に先人は命を散らしたのか、と。
『…やっぱり…やっぱり効いてない!』
IS部隊の一人が放つヒステリックな悲鳴が言う。
50口径アサルトライフルに使用されている50口径の12.7mmNATO弾が通用しない事はIS学園の部隊が交戦したデータ––––––IS委員会が秘匿回線で中継していたもの––––––で分かりきっている。
「落ち着きなさい!」
中隊長が叫ぶ。
––––––策が無いわけではないのだ。
そも、作戦も無しに戦力を分散するなどあり得ない。
––––––それを証明するように。
ゴジラの後方––––––否、上空300メートルより突っ込んで来る7機のラファール。
直後––––––砲声と共に対艦バズーカが二斉射放たれる。
––––––合計14発。
現用艦艇の装甲を貫くに足る砲弾の貫通力に、上空からの落下エネルギーによる上乗せ––––––確かにそれならば、与えられる威力は向上するだろう。
それはさながら爆撃というに相応しい…!!
––––––だが、それだけである。
「▂▇▂▂▂▂––––––––––––––––––…!」
ゴジラの唸り声––––––それは鬱陶しい
『ち、中隊長!やはり効果ありません‼︎』
「だまらっしゃい!角度が浅いのよ!もっと突入角度を垂直になさい‼︎」
『か、角度の問題じゃないです!こいつ––––––』
––––––並みの兵器では、貫けません。と言おうとする声を遮るように。
ゴジラは爆撃というに相応しい攻撃を行った部隊を見るなり––––––青白い、白熱光を放つ。
すぐさま、全員は回避行動に移る。
『––––––ぇ?あ、嫌(ザ––––––––––––…』
しかし、その狙いは努めて冷静に。精密に。
『や––––––(ザ––––––––––––…』
確かな、必殺の一撃をもって、ラファール・リヴァイヴを撃墜して行く。
『中隊ちょ(ザ––––––––––––…』
撃墜の度に鳴る悲鳴と砂嵐のような音。
機体のみならず、断末魔さえも焼却し尽くし無に帰して行くその様は––––––まさに荒神そのもの。
既に––––––こちらは残り3機にまで減らされていた。
「ッ、まだよ––––––––––––!」
中隊長が吠える。
直後––––––自分に追随していた部下の機体制御を制圧。
半自律モードに切り替える。
『ち、中隊長、何を––––––!』
「うるさい!役立たずでも囮ぐらい出来るでしょう‼︎」
2人をゴジラの眼前で棒立ち状態にさせ––––––中隊長はゴジラの後方へ飛ぶ。
狙いは一点、頸のみ。
『ふざけ––––––ひっ、やっ、い(ザ––––––––––––)』
『この、クズが––––––(ザ––––––––––––)』
恐怖に怯えた声と、怨嗟に満ちた罵声と共に、最後の僚機が撃墜される。
––––––だが、それで充分隙は出来ていた。
中隊長は対艦バズーカをゴジラの頸に当たる皮膚に密着させる。
…彼女が頸に拘る理由は至極単純。
そこに脊髄があるからである。
脊髄とは、神経の塊と言うに相応しい程精密かつ重要な機能。
それを破壊すればどうなるか––––––まず、頸より下の身体を動かすことが叶わなくなる。
完全殲滅には至らずとも、なんとか行動不能に持ち込むことが出来る。
「はっ––––––死ねェ!!」
––––––躊躇いなく、中隊長は引き金を引く。
1発目。
弾着。
砲身回転。
2発目。
弾着。
砲身回転。
3発目。
弾着––––––。
…ゼロ距離からの対艦砲弾が皮膚を焼き払い、そして。
––––––無傷の表皮が、姿を現わす。
「…ッ、う––––––そ…?」
…あり得ない。
ゼロ距離からの3斉射––––––イージス艦を撃沈せしめるだけの攻撃––––––を受けたのだ。
健在であるはずが無い。
––––––だが、現実の光景が無情にも事実を告げる。
直後––––––振るわれる尻尾。
それは頸を狙ったものではなく––––––ゴジラ自身の背後の地表を薙ぎ払い。
「は、どこ狙って––––––––––––…」
どこを狙ってるのよ。と、後がないにも関わらず馬鹿にしたような口調で言う中隊長の言葉を遮るように、未知の衝撃が後頭部を震わせた。
「か––––––は、っ––––––な…⁈」
何が襲ったのか理解出来ず––––––朦朧とする意識の中で眼球を動かし後方を見る。
––––––眼球に映ったものは、ソーラーパネルであった。
そしてふと––––––出野尾地区の多目的広場に太陽光発電所が隣接していた事を思い出す。
…つまり、先程尻尾を振るったのは。
頸に張り付いた女を叩き落とす為でも苛立ちから無造作に振り回した訳でもなく。
––––––ソーラーパネルを空中に巻き上げて、私を叩き落とす為…⁉︎⁈
中隊長/女は理解する。
直後––––––重々しい音を響かせ、女は地面に叩きつけられる。
ソーラーパネルが後頭部を打ち付けた衝撃で朦朧としていた意識はそれでハッキリとする。
そして、咆哮が大気を震わせる。
「▂▅▇▇▇█▂▇▂––––––––––––!!!」
「っ……!」
先程から何度も聴いていたハズの音量が、片耳の鼓膜を破る。
普通ならば、耳を塞ぐだろう。
だが女は耳を塞ぎもせずに、ただ這い蹲るようにその場を離れようと試みる。
「ひぃ……い、いやぁ…っ!」
かちかちかちかち。
恐怖に歪んだ顔は歯をカスタネットのように打ち鳴らし、ただただ無様に敗走しようと試みる。
逃走を促す警鐘が脳内に反響する。
痛みで小さく悲鳴を上げながらも無理矢理体を動かし、赤ん坊のように四足歩行で地を這い逃げる。
それを嘲笑うように、あるいは罰するように、轟音と共に巨脚を持って前進する。
その進路上にあるのは女。
––––––その巨脚が、自身を踏み潰そうとしていると気付いた女は。
「い、嫌ッ!死にたくない!」
急ぎ、覚束ない動きで逃げようと足掻く。
しかし感情も思考もぐちゃぐちゃに混濁している状況下ではまともにISさえ操れない。
その速度は亀より遅く––––––ゴジラはそれを睨みつけ。
大地が軋むような轟音を響かせ。
「▂▅▇▇▇█▂▇▂––––––––––––!!!」
「ひぃ––––––‼︎」
女の悲鳴が大気を震わせるより早く––––––3万トンもの大質量が女を粉砕した。
同時刻。
三浦半島沖・南方6キロの海底
水深821メートル
暗い
海面の波が織り成す光の舞が体表を舐めるように伝う。
その中で––––––ソレは動き出した。
––––––千尋にーちゃん?チガウ?
––––––コレは…だぁれ?…千尋にーちゃんに似てるけどチガウ…
––––––
––––––千尋にーちゃんジャナイ、コレハ、
––––––じゃア、殺サナイト…おねーちゃんヤにーちゃんヲ酷イ目ニ遭ワセルカモ知レナイ。
––––––アア…殺ソウ。
…海底に囁く、無垢な子供の声。
それは明確な殺意を持って––––––
今回はここまでとなります。
千尋「久しぶりに悪女めいた女尊男卑主義者見たな。」
…うん、まぁそれは置いといて。
今回は第2次日本本土防衛戦の導入回となります。
千尋「…俺、全然出番無かったなぁ…」
次回も不定期ですが、極力早く投稿致しますのでよろしくお願い致します。