インフィニット・ストラトスadvanced【Godzilla】新編集版   作:天津毬

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今回はついにゴジラvsビオランテになります!

千尋「久しぶりの怪獣バトルか〜……長かったなぁ…。」

そやね––––––そして今回で戦闘は終わりになります。
ただ今回はちょっと短いです…。










EP-43 館山市防衛戦/異形ノ花(ビオランテ )

正午12時43分・館山市八幡516番地

 

大森をもって文明を地表から切り取るように、地中より無数の蔦が出現し––––––建築物を薙ぎ払う。

薙ぎ払われた平均35坪の一戸建の住宅達。

…それは、人間に対して空より降り注ぐ凶器となって––––––街を押し潰す。

 

…そして、

 

「キュウヴォオォオオォォォオォオオ‼︎」

 

禍々しくも悲哀に満ちた咆哮。

それと共に––––––植獣が顕現する。

 

「…何、何よ、コレ––––––⁈」

 

撤退の最中、ソレを見た私設IS部隊の女が呟く。

…巨大なトカゲが現れたくらいならば誰も、もう驚かない。

現に自分達はその巨大なトカゲとつい先程まで対峙していた。

だが––––––これはどうか。

––––––隆々と湧き立つ緑の血管。

––––––乾き、何千年もの時を食んだ大樹のような表皮。

––––––無数の蔦を生やし、地に根を落とした巨大樹のように。

––––––花を連想させる美麗さと爬虫類を連想させるグロテスクさ。

––––––蠅取り草(ハエトリグサ)を従える、(ワニ)顎門(アギト)

––––––言うならば、ソレは植物と動物の融合体。

…ふざけるな。こんなデタラメな奴があってたまるかと、女は思い––––––それが彼女の最期の思考だった。

 

「––––––は?」

 

視界を覆う暗黒が現れ––––––彼女は、間抜けな声と共に押し潰された。

破裂する直前の眼球には、緑色の血管が写っていて––––––

 

 

 

 

緑の津波が文明を破砕する。

––––––無数の蔦が建築物を薙ぎ払う。

––––––無数の蔦が放置車両を薙ぎ払う。

––––––無数の蔦が高層ビル群を薙ぎ倒す。

地表を覆い尽くしていたアスファルトやコンクリートが根こそぎ飛散する。

––––––大地震と錯覚する震動が地表を砕く。

しかしソレにとって大地を震わせる一撃は、虫を払った程度のものでしかない。

…そして元より、ソレにとって、あんな小さなモノは眼中にない。

ただ、眼前にある黒い荒神。

それを睨み付けながら––––––(ワニ)めいた顎門(アギト)を開き。

 

「キュウヴォオォオオォォォオォオオ‼︎」

 

––––––吼える。

全長120メートル、

体重20万トン以上にも及ぶ山の如き巨体が大気を震わせる。

地に根を張った緑の怪獣は一歩も動かず、しかし圧倒的威圧を孕んだ咆哮を放つ。

ソレこそ、植獣––––––ビオランテ。

北欧神話に伝わる植物の精霊の名を冠する異形の巨大樹。

 

「▂▅▇▇▇█▂▇▂––––––––––––!!」

 

––––––対となるように、黒キ荒神(ゴジラ)が吼える。

全長60メートル、

体重3万トンの巨体は。

自らに類似した怪物であるソレを殺そうと、咆哮を上げる。

そして迷いなく、突進を開始する…!

それはビオランテも同様に。

無数の蔦をもって、弧を描きながらゴジラに殺到する…!

 

––––––対峙する双極の体躯。

––––––大地を踏み迫る巨躯。

––––––もはや語る事など非ず。

––––––互いに孕んだ殺気を放出し。

……両者は激突した––––––!!

 

 

 

 

 

 

 

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館山市沖西方30.5キロ・東京海底谷直上

横須賀地方隊・第11護衛隊

やまと型護衛艦【やまと】・艦橋CIC(戦闘指揮所)

 

 

「––––––なんてこと…。」

 

眼前の状況––––––我々と巨大不明生物の間に乱入して来た別の巨大不明生物を前に、副長が絶句する。

先程完全に意識をこちらに向けていた巨大不明生物は、唐突に現れた別の巨大不明生物に向けられてしまった。

…本艦の乗組員の生命という意味では助かったと捉えるべきだろう。

だが––––––それは同時に、巨大不明生物の撃退という当初の目的が潰えたとも言える。

更に言えば、新たに出現した個体と戦闘を開始した為に被害状況も更に拡大する。

––––––これを、絶句せずにどうしろというのだ。

 

「––––––我々はフラれたな。」

 

ふと艦長帽を被り直しながら––––––神宮司一佐が冗談めいた口調で口にする。

 

海自船越庁舎(海上作戦センター)に通信––––––現場では判断しかねる、作戦続行の可否を問う––––––と。」

 

「了解––––––やまとより横須賀。本艦のみでは現状の判断をしかねる。作戦続行の可否を問う––––––オクレ。」

 

神宮司に促され、オペレーターは横須賀・海上作戦センターに指示を請う。

––––––だが無論、聞かずとも指示内容は理解出来る。

…作戦が瓦解したとあれば、行動は一時的に保留するしかない。

そうなれば下る内容は作戦の中止。

––––––だが確かな事は。

 

「––––––勝った方が我々の敵になる(・・・・・・・・・・・・)事…くらいか。」

 

 

 

 

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横須賀基地

海上作戦指揮センター司令部

 

「当方では判断しかねる、作戦続行の可否を問う!」

 

 

 

 

 

防衛省本省舎中央指揮所

 

「本省のみでは判断しかねる、作戦続行の可否を問う!」

 

 

 

 

 

同時刻

官邸地下危機管理センター・幹部会議室

 

––––––新たに出現した巨大不明生物によって、其処は混乱の極みと化していた。

そんな中叩きつけられる統幕長からの報告。

そしてその内容は当然…攻撃目標に含まれていない別の巨大不明生物に対しても攻撃を実施するか否か––––––。

 

––––––それを、防衛省からの報告を受けた財前統合幕僚長が花森に目線を合わせながら問う。

 

「現場が指示を求めています、作戦を続行しますか?」

 

「総理続けますか?良いですか!?」

 

「………!」

 

––––––花森の声に、大河内は思わず気圧される。

…今撃たなければ、後に更なる被害拡大を招く。

それは国民に更なる犠牲を強いる事態となる。

…しかし下手に刺激すれば巨大不明生物を2体同時に相手取る可能性もある…。

そうなれば、今なら房総半島南端だけで済む被害が更に拡大する可能性も––––––‼︎

––––––大河内は思わず、思考の海へと沈んで行く。

 

「––––––総理!!」

 

花森が発破を掛け––––––大河内を思考の海から引きずり出す。

今、最善と思えるモノを紡いで。

 

「…中止だ…作戦一時中止!この想定外の事態に、これ以上国民と自衛官を危険に晒すわけには行かない‼︎」

 

––––––それは今現時点で大河内が最善であると思えた内容。

花森は " それで良いんです " と強くうなづきながら、

 

「––––––了解。統幕長、作戦一時中止と伝えて下さい。」

 

そう言い放つ。

 

「……花森君…これで良かったのか…?」

 

––––––自分の決定でアッサリと対応は固定した。

だがこの対応では間違いもあるのではないか、という感情を抑えられずに––––––大河内は花森に問う。

––––––だが彼女はそれを斬り伏せるように告げる。

 

「新たに出現した巨大不明生物は攻撃目標に含まれていませんのでこれ以上の攻撃続行への法的根拠に欠けます。

…それに下手に刺激すれば市民を更に危険に晒す可能性があります。そして何より––––––相互に戦闘しているとなると、どちらかが勝つまで、我々の敵(・・・・)は、判別しかねます。

––––––その判断自体は、間違っていないかと。」

 

…正面スクリーンに映る––––––対峙する2体の巨大不明生物を睨みつけながら花森は告げる。

––––––それに続くように。

 

「とりあえず、どっちかが倒れるまでは静観か…。

まぁドでかくても生き物だ。殺し合えばいずれ死ぬし、これ以上防衛費に補正予算を当てることも無い––––––。」

 

「ああ。どっちかの死骸を利用した復興財源案を考えてみるか。」

 

––––––柳原と金井が言う。

…そのどちらにも、安堵の表情が浮かんでいる。

だが––––––それに対し、釘を打つように。

 

「大臣––––––先の大戦では、旧日本軍の希望的観測・机上の空論・こうあって欲しいという発想等にしがみついたが為に、国民に300万人以上もの犠牲者が出ています。

––––––根拠のない楽観は、禁物です。」

 

矢口が言い放つ。

2人はそれに対し忌々しげに顔を歪めるが、彼は気にも留めず––––––

 

「––––––総理、今は更なる避難指示を仰ぐしかないと考えます。」

 

––––––矢口は、新たに具申した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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同時刻

館山市・平久里川北岸

那古地区・館山市立第一中学校

 

––––––依然、そこは混乱に満たされていた。

 

『当避難所は、避難該当区域に指定されました。施設内におられる方々は速やかに––––––』

 

臨時の避難所が置かれていたそこは。

新たに出現した巨大不明生物の引き起こした被害拡大によって、危険地域に指定された。

一時的に避難し、安心しきっていた住民にとって、それは中々酷な話ではあるが––––––被害拡大によって犠牲者が出る前に住民の安全を確保する必要があるという判断から、住民の避難先移転が決まったのだ。

 

––––––子供や荷物を抱えて住宅街の路地を足早に逃げる人々。

––––––ビル群やマンション群に響くサイレンの木霊。

––––––避難所から続々と溢れ出し、道路や迂回路としての歩道橋を埋め尽くす避難民。

––––––火に油を注ぐように、避難準備区域から避難該当区域に切り替わった住民がマンションや住宅から続々と逃げ出して来る。

 

「足元に気を付けて下さい!落ち着いて下さい。」

 

…その中に混じり––––––警察や消防は具体的な指示もなく、自らの判断で住民の避難誘導に当たる事を余儀なくされていた。

 

「早くここから離れて!急いでください––––––」

 

––––––直後、遮るように。

頭上に爆音が轟く。

…パラパラと、乾いた音と共に砂利が降り落ちる。

––––––見上げると、有り得ないモノが視界に映る。

それは、ベランダからマンションに突き刺さる––––––モノレールの車両。

幸いにも、避難が完了していた棟だ。

それに消防隊を率いる隊長は僅かに安堵する。

––––––つい先程など、2階建アパートが丸ごと降ってきてトレーラーが潰されたのだ。

それに比べればたかだか知れている––––––だがそれでも溢れ出た住民の避難先があるわけではない、という事実を前に、意識は現実に引き摺り戻される。

指示を仰ごうと無線機を手にして––––––再び爆音が鳴る。

今度は遠方––––––平久里川南岸から。

 

" くそ、好き放題プロレスめいた滅茶苦茶な戦いしやがって––––––! "

 

それに内心毒付くと、今度こそ指示を仰ぐべく––––––無線機に向けて怒鳴った。

 

「地震災害時の避難場所では役に立ちません!新たな避難場所の指示を請う––––––どうぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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12時44分

館山市湊地区

 

「キュウヴォオォオオォォォオォオオ‼︎」

 

「▂▅▇▇▇█▂▇▂––––––––––––!!」

 

ぶつかり合う巨躯と巨躯。

ビオランテの蔦が繰り広げる乱舞に圧されながらも、ゴジラはその連撃を緩めない。

 

––––––白昼の下に走る漆黒。

2倍近い体格差があるにもかかわらず、60メートルの体躯にどれだけの力を有しているのか、力負けしている筈のゴジラは一歩も譲らない。

台風めいたビオランテの蔦を受け、弾き、真っ正面から切り崩して行く。

 

それに対し、攻撃を継続する緑森(りょくしん)の高波と。

 

––––––それに抗するかのように放たれる白熱光。

 

だが効かない。

…否、確かに効いてはいる。

しかし––––––致命傷には遥かほど遠い。

元より、この植獣は火への耐性を心得ている。

それ故に––––––生半可な炎では傷にさえ至らない。

 

「キュウヴォオォオオォォォオォオオ‼︎」

 

植獣は止まらない。

振るわれた蔦の群れ、その放たれた数100にも登る連撃が。

––––––ゴジラを刺し貫く…!

 

「▂▅▇▇▇█▂▇▂––––––––––––!!」

 

悲鳴めいた咆哮が上がる。

––––––それは刺し貫かれた痛みではなく。

––––––それは体内を溶解する強酸によって。

グズグズと、刺し貫かれた箇所は腐蝕し融解する。

それは高熱と強酸性の体液によって細胞が破壊される音。

ゴジラは酸性の体液と混じり合った血液が噴水のように吹き出し––––––辺り一面にソレを撒き散らす。

通常の生物であれば大なり小なり致命傷に至る損傷。

––––––だが、止まらない。

……ここに来て、ビオランテはゴジラの異常性をようやく理解する。

この怪物は屈強などという次元の頑丈さではなく、自分達と同じく桁違いの「法則」で守られた不死性なのだと。

 

…ああ、だからどうしたと言うのだ。

それなら、動けなくなるまで殺し尽くせば良いだけのこと…!!

 

––––––その意思を形にするかのように。

更なる蔦が地を割りながら顕現する…!

 

「キュウヴォオォオオォォォオォオオ‼︎」

 

ビル(建築物)を巻き込みながら振るわれる、暴風じみた蔦の乱舞。

植獣が咆哮と共に一閃する度に、40階建高さ120メートルにもなる高層ビルが両断されていく。

それは対艦ミサイルに匹敵する力。

それは戦艦の主砲に匹敵する大質量。

それをもって––––––荒神を、打ち付ける…!

 

––––––しかし。

 

「▂▅▇▇▇█▂▇▂––––––––––––!!」

 

相手(ゴジラ)とて黙ってやられてやるわけではない。

それを証明するように。

吹き荒れる蔦の乱舞の中。

ドンドンと音を立てて吹き飛ぶビル。

––––––その中で、先程と同じ………否。それ以上の力を振るい、荒神は植獣と対峙していた。

殺される気は僅かもないと植獣を睨め付けながら。

植獣の心臓部に照準を合わせた––––––蒼い炎が、植獣を射ち貫いた…!!

 

「ゴッ…ボ………ッ!!」

 

血の塊が巨大な顎門から零れ落ちる。

––––––その一撃でビオランテは心臓を穿たれ、吐血したのだ。

当然だ。心臓に孔が開いたのだからこうなってしまうのは必然と言える。

 

––––––荒神はその呆気なく決まった決着に、慢心の感情を浮かべる。

だが––––––それはすぐに、未知に対する畏怖へと反転した。

 

 

 

 

 

 

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12時45分

官邸地下危機管理センター・幹部会議室

 

「巨大不明生物、双方が停止。突如戦闘を停止した模様です。」

 

危機管理担当要員の防衛省職員が、前哨基地として未だに機能している海上自衛隊館山航空基地からの通信を報告する。

その報告に、思わず大河内は困惑する。

 

「停止?何だ、急に?」

 

中央スクリーンに映る現地映像を見つめながら、大河内が言う。

だが誰も答えない。

それは分からないからではなく…すぐさまに、答えが提示されたからである。

 

 

中央スクリーンに映る怪物。

120メートルもの異形(ビオランテ)は、茶色く変色を開始したように枯れていく。

だが、それは死ではなく。

その証明に––––––山のような巨躯が、割れる。

枯れて水分を喪った表皮は僅かに走った亀裂を大源に––––––連鎖的に崩壊を始める。

枯れた部位は崩れ落ち。

それは老化した部位を切り捨てるように。

それはまるで新たな部位を切り拓くように。

内より新緑が覗く。

 

––––––それは。

––––––文字通り、『脱皮』であった。

 

割れた巨躯は、まるで種子から新芽が発芽するように。

––––––新たな体躯が顕現する。

ただ旧い皮を突き破り、新しい身体を形成しただけであれば、それは差して驚くべきことではない。

 

『ゴ、ォ––––––––––––…』

 

だが、形状が一致しない。

…背ビレと思しき部位はより突出し。

––––––緑の焔が揺れているような錯覚さえ見せる程のモノへと。

…鰐のように細長い顎は腐り落ち。

––––––肉を噛み千切るのに適度な長さとなった顎門。

…胸部には、肉を突き破るように白いカルシウムの塊が生え。

––––––皮一枚を挟んで剥き出しだった心臓部を守るように肋骨が隆起し。

…上半身はより戦闘に特化した形状へと変化し。

––––––身体細胞が急速に変形し、肩と腕が形成され。

…対して下半身は根としての形状を維持しつつも、樹肉は重質化し、脚を成し。

…エリマキのように、花獣時に散った筈の赤い花びらが再び現れ。

––––––急激に多脚直立歩行形態へと身体構造を変化させる……!

––––––言うならば、それは。

 

「…すごい––––––まるで、進化だ。」

 

その姿を愕然と見つめながら。

––––––それ以外に言葉が見つからないとばかりに、矢口は口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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同時刻

館山市湊地区

 

「キュウヴゴァァアアァアァ––––––ッ‼︎」

 

禍々しくも悲哀と、太古から細胞に記憶されていた恐怖を人類(ニンゲン)に思い出させるような声が入り混じった咆哮。

––––––それは、異形の花(ビオランテ)の開花を告げる慟哭(オト)であった。

 

「▃▄▄▟▞▟▜▞▂▇█––––––––––––!!」

 

狼狽えながらも、荒神は戦意を露わにする。

だがそれに、異形の花はただ微笑んで。

 

––––––じゃあ殺すね。

子供が虫を潰すように無垢な意思を––––––歌うように、露わにした。

 

巨体が飛ぶ。

20万トンを超える大質量を持つ異形の花(ビオランテ)が、200メートル離れた間合いを詰めようと一息で落下してくる––––––!

…それを、荒神は尾を振るうことで迎撃しようと身体を振るった。

打者の如く尾を振るう荒神と、

旋風を伴って落下して来た異形の花とは、全くの同時であった。

––––––空気が荒波の如く震える。

山塊そのものとも言える異形の花を、荒神は尾の一振りで受け止めていた。

…しかし、力量に差が生まれた事を認知したのか。

 

「▂▇▂▂▂▂––––––––––––––––––…!」

 

荒神は口元を歪める。

そこへ。

旋風じみた、異形の花(ビオランテ)の蔦が一閃する––––––!

––––––爆音。

一瞬、大気に真空を形成したのではないかと錯覚する程の、肉と肉の激突は荒神(ゴジラ)の敗北で終わった。

––––––どががが、という轟音。

地を砕く一振りを受けた荒神は、その巨体を背後へ吹き飛ばされる。

…それで、荒神の姿勢が崩れる。

すかさず––––––追撃する、新緑の山塊。

異形の花は、それしか知らぬかのように数多無数の蔦を機関銃めいた連射をもって叩きつける。

避ける間も無く、荒神はその全てを叩きつけられる。

…当然、この程度では致命傷たり得ない。

だからこそ荒神は、無理に避ける事で体力を消費するよりも、あえて受ける道を選んだ。

だがしかしこれは––––––前進を許さない、攻戟の嵐だった。

その場より動く事を許さない。

その場より進む事を許さない。

その場より退くしか許さない。

だが荒神は自ら退く事は無い。

––––––故に、異形の花は荒神をその場に釘付けにした。

 

荒神にとって、勝機とは異形の花が繰り出す乱舞の合間に活路を見出すこと。

 

だが。

それも、異形の花に隙があり––––––ここに踏み留まることを許してくれるならの話。

 

…それを許さないと告げるように。

 

「キュウヴゴァァアアァアァ––––––ッ‼︎」

 

重量20万トン。

全高120メートルに及ぶ。

植物の巨躯が––––––地表というテクスチャと、その上に築かれた文明というストラクチャを粉砕しながら。

地を鳴らし震わせながら疾走する…!!

 

思わず、荒神は目を見開く。

アレが植物であるという事は今までの手合いで把握していた。

そして植物が如何なるものかも理解していた。

…だからこそ、眼前の光景に対して理解が追いつかない。

––––––異形の花は、節足のように硬化した根を脚部として歩行している…!

走る植物など見た事もない、何より––––––アレは山と同程度の大きさを持っている。

であるならば、それ相応の重量がある。

––––––だというのに。

あれほどの巨体。

あれだけの触手や蔦をもってして、異形の花は荒神と互角––––––否。一部に至っては荒神(ゴジラ)を上回ってさえいる。

何もかもがデタラメで釣り合っていない。

…自らが理不尽的存在であるにもかかわらず、荒神は異形の花のデタラメに圧倒される。

 

そこへ、休む暇を与えないと言わんばかりに蔦の機関掃射が放たれる。

繰り返される乱舞は何の工夫もない––––––ただ叩きつけるだけの駄撃でしか無い。

だがそれで充分。

圧倒的なまでの力と速度が在るのなら、技の介在する余地はない。

技巧とは、人間も含めた動物が欠点を補う為に必要とするモノ。

…もちろん、異形の花に弱点がないわけでは無い。

しかしそれが求められるのは防御の際。

故に––––––攻める際には技巧など要らず…!

 

「▃▄……!」

 

しかし––––––そう容易く荒神は墜とせない。

…それは足掻きか、口内をチェレンコフ光が蒼白に染め上げて。

––––––穿たれる、放射熱線…!

 

「キュウヴ––––––…ッ!」

 

その直撃によって、30本程の蔦が爆ぜる。

…数万度に至る熱焔。

それが蔦に内包されていた樹肉と水分を蒸発させ––––––内部から水蒸気爆発を引き起こすことで、爆散させたのだ。

…仮にも異形の花を形作るモノは植物。

それである以上、炎に勝る道理など何処にも存在しない。

––––––だが、異形の花は怯まない。

断絶し断面から垂れ流れている、樹脂とも血液とも取れる体液––––––それを、蔦を振るうことで、撒き散らす。

…その体液は、孕んだ高熱をもってアスファルトを融解する。

ソレを荒神は浴びるが、この程度では傷さえ負わせられない。

無論、異形の花もそれは理解している。

ばら撒いた体液はあくまで着火剤に過ぎない。

…あるいは、気化したガソリンか。

 

––––––背ビレに、稲妻が走る。

 

だからこそ。

 

––––––口内に、青磁色の光が宿る。

 

異形の花はそれに、火を灯す……‼︎

 

––––––気勢と共に樹脂性放射帯焔を口部より解き放つ……!!

 

瞬間。

気化したガソリンに走った静電気が大爆発を引き起こすように。

撒き散らされていた体液と、気化した血液たちに青磁色の焔が引火し––––––自分達諸共、街区を丸ごと吹き飛ばす…!

瞬間火炎温度3000度に到達する青磁焔は。

周囲のビル群を高熱で犯し、コンクリートは波打つ飴細工のように溶け落とし。

周囲の住宅群を基礎ごと、紙風船のように根刮ぎ吹き飛ばす。

打ち捨てられていた放置車両は紙吹雪のように飛散する。

 

…その、破壊の余韻を裂くように。

異形の花は攻撃を再開する。

––––––再び疾走する、山塊は。

 

「キュウヴゴァァアアァアァ––––––ッ‼︎」

 

咆哮と共に––––––掬い上げる拳の如く、『初めて腕として』振るわれる前腕衝角。

その衝角は荒神の鳩尾(みぞおち)に叩き込まれ。

––––––ガ、と荒神が喘ぐように声を漏らす。

体躯は前のめりに倒れながら。

異形の花は、それを受け止めるのではなく。

疾走したまま––––––荒神を轢き潰す…!!

 

20万トンという大質量は、轢き殺すように。

3万トン程度重量しかない荒神を引き摺りながら。

疾走を辞めず––––––それを成されるがままであるはずもなく、荒神(ゴジラ)は再び放射熱線を放つ。

…………––––––だが。

表層の水分が僅かに奪われたのみで、本体にこれという損傷はない。

それで、異形の花(ビオランテ)は既に自身の炎にさえ耐え得る強度を手にしたと理解して。

…幾棟にも渡るビル群を突き崩し。

––––––再度、荒神(ゴジラ)は放射熱線を心臓部めがけて連発する。

…幾重にも渡る幹線道路を踏み潰し。

––––––それを異形の花(ビオランテ)は鬱陶しく思い、蠅取草(ハエトリグサ)をもって荒神(ゴジラ)を噛み上げる。

…海岸沿いの遊園地を無茶苦茶にして。

––––––荒神(ゴジラ)は苦悶の声を上げるがソレを良しとして更に蠅取草の歯を食い込ませて筋繊維を喰い千切りながら疾走し。

…最後に、高度200メートルはあろうかという水柱を築きながら。

––––––勢いのまま、進路上にある館山湾へと飛び込んだ。

…その後も、水中で闘争を続けているのか。

幾重にも連なる、水柱の列(ウォーターピアス)が海面を突き破る。

しかしそれは確かに、沖合いへと向かって行き。

 

 

 

 

 

 

––––––双極の怪物たちは、海へと没した。

 

 

 

 

 

 

 

『––––––報告。

巨大不明生物は平久里川河口より離岸。館山湾を横断し、相模トラフに侵入した模様。…以後は海底の状況が悪く正確位置などはロスト。現在、所在不明––––––オクレ。』

 

 

 

 

 

 





––––––状況報告––––––

––––––2021年6月13日・12時01分05秒。
第1号巨大不明生物《ゴジラ》、 " 再 " 上陸。
––––––12時01分10秒
欧州連合極東派遣軍ポーランド陸軍第3戦車中隊が接敵。
––––––12時07分41秒。
同中隊、戦闘継続能力・喪失。
––––––12時11分32秒。
国連軍第11空中機械化歩兵中隊が接敵。
––––––12時15分08秒。
同中隊、戦闘部隊全滅・事実上壊滅。
––––––12時15分30秒。
国連館山市駐留旅団、第1号巨大不明生物に対し砲爆撃開始。
––––––12時18分41秒。
国連館山市駐留旅団IS部隊および企業私設IS部隊、迎撃戦開始。
––––––12時25分22秒
日本国政府、緊急災害対策本部の設置に関する閣僚会議終了。
––––––同時刻
平久里川北岸に被害拡大。
––––––12時27分30秒
日本政府および千葉県、避難行動を最優先する方針で決定。
––––––12時30分52秒
千葉県館山市全域で交通規制実施。公共交通機関および公道を無期限封鎖。
––––––12時30分58秒
国連軍、正式に日本政府に対し自衛隊の防衛出動を要請。
––––––12時31分05秒
千葉県、日本政府に対し有害鳥獣駆除を目的とした災害派遣を要請。
––––––12時32分15秒
日本政府、有害鳥獣駆除を目的とした災害派遣に基づく巨大不明生物への武力攻撃命令を自衛隊に発令。
––––––12時35分21秒
市ヶ谷駐屯地にて特自の対応マニュアルを基に詳細な駆除作戦の立案を完了。
––––––12時38分07秒
「護衛艦2隻による砲撃による駆除ないし撃退」作戦への大河内首相の認可、完了。
––––––12時39分41秒
東官房長官、有害鳥獣駆除を目的とした災害派遣に基づく巨大不明生物への武力攻撃に関する緊急記者会見。
––––––12時40分52秒
同記者会見に関する緊急速報。
––––––12時41分02秒
第11護衛隊による駆除ないし撃退を目的とするカイキ作戦、実行。
––––––12時41分54秒
巨大不明生物への効果確認、砲撃に誘導され館山湾方面に転進。
––––––12時42分48秒
突如として別個体の巨大不明生物(以下、第2号と仮称)が地中より出現。巨大不明生物(以下、第1号と仮称)と交戦開始。
––––––12時48分59秒
第1号および第2号、両者共に戦闘しつつ夕日海岸より離岸。そのまま海底にて戦闘を継続しつつ太平洋に水没。
––––––12時49分35秒
自衛隊および国連軍、対潜哨戒を実施。追跡を試みるも巻き上げられた海底の泥がソナーを遮断し索敵不能化・打ち切り。
––––––12時50分13秒
状況終了。







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