インフィニット・ストラトスadvanced【Godzilla】新編集版   作:天津毬

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館山市防衛戦のちょっぴり後の話になります。
そして今回は短いです…そして内容はアッサリめで薄っぺらいです…すみません。
最近、就活が始まってしまって忙しくなったので…(言い訳)

千尋「結局、俺出れなかったなぁ…。」

まぁ、あんな状態で参加してどうにかなるものでも無いし。

千尋「八王子駐屯地から機龍をリニアカタパルトで弾道投射するとかいう案はどうしたんだよ。」

あーうん、考えてはいたけど、内閣や国連軍に無許可で…となると、ちょっと不味いよなぁ…となってしまって…。

千尋「政治って…ややこしいな。」

ほんそれ…。
というわけでEP-44になります。








EP-44 束の間の終息

––––––2021年6月13日午後17時25分

千葉県いすみ市西方20キロ沖合いの海域

ウェーブピアサー型ステルス輸送艦【大戸島】

 

キャロッ島より奪った流線形フォルムのウェーブピアサー型ステルス輸送艦ウサギ丸…改め––––––ステルス輸送艦【大戸島】。

その船は現在対水上・対衛星熱光学迷彩を展開し、ウォータージェット推進による隠密性を高めた上で九十九里沖を目指し航行中であった。

これだけの隠密性があるというのなら、これまで各国の篠ノ之束が支援していたとされる女権団や亡国機業へ接触するのも難しい話ではなかっただろう。

…その艦橋で、倉田は艦の航行を制御している自作のスーパーコンピュータの整備をしながら、独言る。

その隣では––––––寒いのか、少し肌を掻く朝倉が。

 

「いや〜、それにしても放射能の霧に包まれても生きてるなんてやりますねぇ。」

 

倉田がニタニタと笑いながら朝倉に声をかける。

一方の朝倉は無言。

…少し無理をしたのか––––––あの後戻って来てから身体の調子がおかしい。

血管に僅かな異常。

内臓に微かな傷と出血。

身体の細胞が冷めて行く。

 

––––––ああ、そろそろ限界が来たのかと理解して。

それに呼応するように。

 

……ずぞり、と。

黒い血を撒き散らしながら、

 

––––––根元から、右腕が千切れ落ちた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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6月13日午後19時40分

––––––巨大不明生物離岸より6時間50分後

 

82式戦闘通信指揮車・車内

 

「––––––一旦八広駐屯地に収容後、受け入れ準備の完了と共に箱根へ…?」

 

ふと、光が疑問符を浮かべる声音を浮かべ、対人防諜設備が施された82式戦闘通信指揮車車内で––––––スマートフォンの通信相手に問いかける。

…無論、こちらも防諜の為に守秘専用回線を用いている。

そして通話相手は、本来の学園理事長である轡木十蔵––––––の肉親である轡木誠特将。

 

「そうだ、つくば市の予備施設は国連軍および日本政府が接収。在日国連軍つくば基地として稼働するとのことだ。

––––––だが予備施設を全て接収するのも良くない…とモナーク機関が温情で元箱根の鞍掛(くらかけ)に予備施設を確保してくれたそうだ。」

 

「––––––新箱根市は未完成じゃなかったのか?」

 

––––––新箱根市。

地方自治体再編計画に基づき箱根山一帯を整備し、築かれた地方創生都市のテストベッドと言える新興計画都市。

国家非常事態時においては立川や有明などと同じ内閣府移転先・分散首都としても機能するべく、複数の公共交通機関や行政機関などの整備が行われており、国連傘下の設備も多く存在する。

だがIS学園の建造と八広駐屯地の建造に予算を割かれ、未だ完成には至っていないというのが実態であった。

 

「都市そのものは未完成だ。何しろ芦ノ湖北岸に合同庁舎他ビルが5本建ち、都市環状モノレールと都心郊外間直通快速がようやく開通したばかりだ。」

 

誠は、" そりゃ、予算ないからな " と付け加えながら告げる。

 

「政府機関を最優先で建造したおかげで、辛うじて機能はする。学園を入れる為の元箱根・鞍掛(くらかけ)国連施設の整備も完了している。」

 

「––––––おい、鞍掛って…そこ、ゴルフ場がなかったか?」

 

ついでに言えば、都市中枢の置かれている仙石原にもそれなりに巨大なゴルフ場があり、都市建造にあたり、それを取り壊す事になった為にゴルフ場経営者と国土交通省が大いに揉めたと記憶しているが…。

…流石に、二の舞いはないと願いたいが…。

 

「…ああ。くらかけゴルフ場があったな。ちなみに国連施設はそのゴルフ場を丸々潰して作ったらしい。

そして大いに揉めたそうだ。」

 

––––––前言撤回、担当者は何も学んでいなかった。

 

「…はぁ……もういい。ちなみに敷地は?」

 

「東西に1.2キロメートル、南北に500メートル程。…標高860メートルにある為、落雷が心配だが、それを除けば––––––地方の大学よりは敷地は広い。

(ふもと)の元箱根と函南には、直通インクラインが整備されているし、交通の便も悪くはない。」

 

" ––––––ついでに言えば、函南にはJR東海道本線が走っているし、そこから一つ西に行けば三島駅で、そこから二つ東に行けば熱海でそれぞれ東海道新幹線との乗り換えが出来るからな。函南駅にも新幹線乗り換え口を設ける話があるが、まだ時間がかかる。"

…と誠は付け足して、言う。

 

「––––––無駄に詳しいな、お前。」

 

軽く引きながら、光は言う。

それを知ってか知らずか、あるいは恥という言葉を知らないのか。

 

「鉄ヲタだからな。」

 

––––––キッパリと、誠は言う。

 

「お前…そういうトコだぞ––––––。」

 

光は呆れながら内心呟く。

するとそれに反論するように、

 

「貴様だってゴジラヲタクではないか。」

 

「––––––む。」

 

誠の言い放った言葉が、光の言葉を啄む。

…柴田に影響されたのか。

…間近で見たせいか。

千尋(ゴジラ)に一度殺されたせいか。

––––––確かに光自身、ゴジラに取り憑かれている事は、自覚していた。

 

「まぁ、それはそうだが––––––ところで、受け入れにはどれくらいかかる?」

 

「2週間と少しは。まだ首都圏からの地下弾丸直通列車や新箱根市役所との調整で時間がかかる…まぁ––––––臨海合宿までには間に合うだろうさ。」

 

––––––それまでは、八広駐屯地に収容するが。と付け加えて、誠は言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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6月13日午後19時40分

––––––巨大不明生物離岸より6時間50分後

 

館山市宮城無番地

海上自衛隊館山航空基地

 

––––––遠方から響くサイレン。

––––––西の空を紅く灯す炎。

––––––大気を震わせるヘリのローター。

––––––地上に響く地上作業員の怒号。

––––––ただ見るしか出来ないIS学園関係者。

…先のIS学園における戦闘の後、本土へと退避したIS学園の関係者や避難民はそこに集められていた。

ここが避難所というわけではない。

正確には東京都墨田区の八広駐屯地が正式かつ臨時の学園関係者収容所となる。

だがしかし、先の巨大不明生物––––––暫定呼称【甲】・《乙》––––––の戦闘により、地下直通トンネルが崩落。

輸送手段が断たれたが故に今は、海自の基地からヘリコプターによる輸送を取り行う為の交渉…その、最中である。

故に生徒たちは滑走路脇に設けられた臨時設営のテントに身を収めていた。

 

「…東の空が––––––紅い、な……。」

 

箒がふと呟く。

陽が沈み、照る筈のない東の空は––––––赤く紅く朱い暁け色に染まっている。

…まるで、漆黒の中に現れた夕陽のよう。

その光景に––––––ある景色がだぶって見える。

 

泥が街を飲み込んで行く。

人が燃える。

人が死ぬ。

車が燃える。

車が爆発する。

建物が燃える。

建物が崩壊する。

その中を、箒は逃げる群衆にまみれながら墨田区を走って、泥から逃げる。

その後ろで。

1人が泥に飲み込まれる。死ぬ。

3人が泥に飲み込まれる。死ぬ。

8人が泥に飲み込まれる。死ぬ。

悲鳴や断末魔を上げて燃えながら死んで行く。

燃えた跡には。

タンパク質が炭化する臭いを放ちながら燃えていくヒトだったもの。

煙を大量に吸ったせいで呼吸ができずに窒息して死んだヒトだったもの。

未だに燃え続ける木造建築が一部に使われていた建築物。

焼け落ち、完全に瓦礫と化した建築物。

誰もいない、生きている人間が誰もいない、廃墟と化した街。

 

私が壊れた日。

私が変質した日。

私が人を見殺した日。

私が千尋と出逢った日。

 

 

墨田大火災という地獄を見た日の––––––景色。

 

 

……結局––––––私は、自己犠牲だけは一人前だが、それ以外は何も出来やしていないじゃないか。

あの時から––––––何ひとつ、変わっていない。

だって、あの火災(あか)の中に人がいるだろうというのに、私はまた––––––ただ見ているだけだ。

そんなの…良いワケが無い。

 

" ––––––今すぐにでも、あの中に飛び込んで救助に加わるべきだ。"

 

そう内心思い、脚を踏み出す。

偽善とかそんなの関係ない。

––––––ただ、今はそうするべきだと判断して。

…それを、戒めるように––––––

 

《…ダメよ、貴女自分がここを離れたら他人に迷惑かけるの分かってるでしょう?》

 

柳星張(イリス)が、話しかける。

それは出来の悪い子供を軽く叱る母親のように。

 

「…………分かってる。」

 

《分かってるんなら脚を止めなさい。人命救助は悪い事じゃないし––––––アンタはそれで良いかもだけど、集団の輪を乱すのは良く無いんじゃなくて?》

 

「………分かってる。」

 

《分かってない。だいたい貴女、私に侵食範囲を広げさせた所為で身体ボロボロなのよ?

行ったところで邪魔でしかないわ。

他人に心配かけさせて、尚且つ邪魔しに行くなんて、ただの無能よ。》

 

「……分かってる‼︎」

 

分かっている––––––それは図星だった。

柳星張(イリス)のその一言一言は、確かに箒の見ないようにしている箇所を的確に指摘して行く。

故に、箒はつい声を荒げて言ってしまう。

分かっている––––––それは箒が一番理解していた。

だからこそ、自分一人だけが安全な場所で悠々と居る事が許せない。

他人にそれを強制するつもりはない。だけどせめて、私だけでも––––––

 

「箒。」

 

ふと––––––その声で思考の海から引きずり出される。

ふと、振り返れば千尋がいる。

 

「…なんだ?」

 

「なんだ––––––じゃ、ねぇよ。お前現場に行こうとしてたろ。」

 

…図星を突かれる。

動揺しまい。と表情を固めるが、瞳にはハッキリと動揺が伝わってしまい。

 

「やっぱりか。…当てずっぽうでも、結構当たるんだな。」

 

ふと千尋が、案の定というか何というか味のある顔をして言う。

––––––それはつまり、『カマをかけてみたら本当だった』という話。

その事態に箒が気付いたのは2秒後で…

 

「あっ、な––––––…」

 

羞恥とは別の感情から顔を赤くして。

 

「だ、騙したのか!?」

 

「騙したんじゃないよ。ちょっとそうなのかなって思って聴いたら箒が引っかかっただけだ。」

 

「なん––––––ゔッ⁈」

 

" 何だと–––––– " と言おうとして、それは自らの額に放たれたデコピンによって遮られる。

 

「––––––だいたい、人命救助以外にもやれる事あるだろーが。」

 

" ––––––ちったぁ頭冷やせ。" と、付け加えながら千尋は言い放つ。

それは戯けた顔ではなく、至極真面目な顔で。

ぶん取るように、箒の手を握りながら言う。

…些か強引だが、こうでもしないと箒は勝手に自分自身を危険に晒す。

––––––それは学園撤退戦で既に理解した。

だから悪いけど、箒の意思を捻じ曲げてでも生きてもらう。

…もちろんこれは傲慢だ。

それは自分がよく自覚している。

––––––箒の意思は詰まる所人助けだ。

困っている人、瀕死の人間、その全ての為に自分の命を捧げるというモノ。

それは––––––尊いモノだ。

それは––––––敬うべきモノだ。

…ならば黙って意思を尊重してやるべきと言うのが筋だと理解しているが。

…こっちにだって、言い分は有る。

––––––現在現場は数多複数の火災と生物汚染による危険地帯と化している。

そしてそんな地域での活動を目的とした訓練は最低限度こそ受けているものの、陸自化学科や特自汚染防護隊ほどの本格的訓練は受けていない。

消火活動訓練など以ての外。

––––––そんな状況では足手まといになるのは目に見えているし、下手をすれば箒が命を落とす可能性だってある。

…箒が死ぬなんて、そんなの絶対に御免だ。

だからこのように––––––強引に手を引いてでも引きずり戻して来たのだ。

 

「おい千尋、そんなに引っ張るな!腕が千切れる!」

 

その箒の抗議を受けて––––––千尋はハッとする。

それで、手を離す。

 

「…こんな時にどこへ連れて行くつもりなんだ…!」

 

箒が居ても立っても居られない––––––と言わんばかりの声音で言う。

それは箒の意思を考えれば当然である。

箒としては1人でも多く救わなくちゃいけないと感じているにも関わらず、それを阻まれているから。

…だが、悪いが今日ばかりは箒に譲歩出来ない。

今日ばっかりは––––––

 

「––––––うるせぇ、今日は休め。」

 

そう告げる。

…ただでさえ、今日は危急な事態が山のようにあり、身体を落ち着かせることさえ叶っていなかった。

それに箒自身気づいていないが。

今の箒は顔色が悪く、脚も悴むように震えながら身体を支えている。

––––––どう見てもオーバーワークだ。

まるで整備不良で墜落寸前の飛行機みたいにボロボロの身体に鞭打って、どうにか立っている現状。

これでは救助活動の最中に身体を壊す未来など容易に見える。

…だから寝ろと、そう言わんばかりに箒を千尋は睨みつけた。

 

 

…それに負けじと。

 

「そんな暇––––––」

 

" ––––––そんな暇ないに決まってるだろう!被害状況を見て分からんのか!? "

そう言おうとして箒は、

 

「…え––––––?」

 

目眩と共に––––––脚が、崩れ落ちる。

 

…視界に芝生が見えて、そこに頭が激突する数秒前。

空中から自由落下する物体が途中で留められる衝撃が箒に走る。

決して柔らかくはないが堅くもない。

痛くもなく、むしろ心地よくて。

ほんのりと、身体が暖かくて––––––それで、篠ノ之箒の意識は途絶した。

 

 

 

 

 

…ヘリコプターの轟く爆音にかき消されながら。

 

「…ほら見ろ。無理が祟ったじゃねぇか。」

 

気を失い、幼子のように寝息を立てる箒を支えながら、千尋は呟いた。

…その口調は呆れるように、戒めるように、しかして––––––愛であやすように。

 

「ゆっくり休め。じゃなきゃ、お前(ほうき)が壊れちまう––––––」

 

そう呟きながら、千尋は箒を背負う。

––––––向かう先は、臨時の避難所となっている仮設テント群。

そこへ箒を背負いながら千尋は脚を運ぶ。

 

––––––暖かい。

背中越しに、伝わる箒の体温と感触。

それはあの日、願望通り死に転がり落ちる中で触れた少女のまま。

––––––軽い。

あの日より成長したのは確かな話。

だが、箒の重みは想像を遥かに超える具合に軽い。

…ふと思い返す、IS学園入学当日の朝。

箒から『ドーン‼︎起こし』を食らい、

" 朝っぱらからいきなり何すんだよ箒姐‼︎ "

––––––思わず、千尋はそう抗議した。

" 何度起こしても起きないお前が悪いのだろう? "

––––––それを箒は、ケラケラと笑いながら、言った。

……それはただ2ヶ月前の話。

……それはたった2ヶ月前の話。

だというのに、それが––––––酷く懐かしい。

 

「…そっか、まだ2ヶ月しか経ってねぇのか。」

 

あまりに出来事が多過ぎて、まるでもう遥か昔の事のように感じる。

死に際でもないのに、回想が脳裏に過ぎる。

箒と過ごした日々と。

曲がりなりにも楽しめた学園生活と。

初めて面と向かって人間と話した記憶と。

…光に、今年中には世界が終わることを告げられた記憶。

––––––ふと、空を見上げる。

市街地から流れ込む火災の煙のせいか微かに靄がかかっている。

だが––––––雲ひとつ無い、星空が視界に映る。

世界が滅びるなんて、思えないくらい。

…そういえば昔、箒と小学校に通っていた時。

もしも世界が終わるならどうする?なんて事をクラスメイトが言ってたっけ。

そしてその時はまだ荒れてたから––––––自分の考えは、『自分を殺してくれる者を探す』だった。

そんな風に誰も寄せ付けない空気を漂わせていたから、質問なんて回ってこない。

つまりは仲間外れ。

まぁ、今思えば自業自得だ。

だけど––––––昔、ラゴス島の浜辺ではしゃいでいた小鳥の様に。

皆が楽しそうに答えていたのは見ていた。

…カレーを腹一杯食う、と男子が言った。

––––––悪く無いな、楽しそうだ。と自分は思った。

…お父さんとお母さんにお礼を言う、と女子が言った。

––––––ああ、それは絶対にやりたい。もう絶対叶わないけど、独り言るだけでも構わないから、やりたい。と自分は思った。

そしていつしか、自分自身にも問いを発した。

どうする。

世界が終わるなら。

世界が終わるなら、俺はどうする?

その時はまだ答えなんて出なかったし、どうでもいいと内心突き放した。

でも––––––今ならば。

今日この瞬間、頭に浮かんだ答えを口にして、

 

「––––––やっぱり、箒に笑っていて欲しいな。」

 

––––––がちん。

身体の何処で、細胞が死滅を開始した。

だけれども、それを理解していながら、

 

「––––––ああ、それが良い。」

 

なら、やる事はひとつ。

その時まで––––––6ヶ月で尽きるだろう命を、精々燃やし尽くしてしまおう。

––––––そう、純粋に内心呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

––––––2021年7月7日19時59分

新箱根市仙石原区湖尻町・県道75号線上

 

非常事態宣言が布告され、地上より人々が退避した––––––空っぽの街。

街に散在する無人のビルがまるで抜け殻のように佇む下。

県道を血だらけの少年が駆けている。

––––––駆けて行く先は銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)に撃墜された、想い女(おもいびと)のフライトコードの途切れた場所。

…金時山・太郎嶽付近。

仮にその目的があるにせよ、少年は自らの異常に気付かない。

––––––腹は裂けて腸が爛れ。

––––––左手の薬指は切断され。

––––––左耳は、無くなっている。

それは福音との戦闘で自らが相打ちとなり、堕ちた先で新たに一戦、二戦交え––––––肉体が損壊した事を意味する。

…故に血みどろなのだ。

それにもかかわらず、少年は駆ける。

自らの命よりも大切なモノがあるから、と駆ける。

––––––馬鹿らしい。人間の為に自分を尽きさせるなど、堕落も甚だしい。

…誰かの笑う声が聞こえた気がした。

それに、

" うるせェよ、このハゲ。"

内心、呟く。

" それが傲慢だとか偽善だとか愚かだとか気持ち悪いとか思うなら鼻で笑ってろ、チキンの石頭野郎。"

––––––そして自分の言葉の悪さに苦笑する。

相当苛立っているのか、また怪物(怪獣)に戻っていっているからか。

それとも––––––殺せるから、なのか。

…面倒くさい。

 

––––––分からない事を考えたって仕方ない。

 

そう思い、思考を終了すると。

 

––––––携帯が鳴る。

通話相手は、非通知番号。

 

「––––––誰だ。」

 

『……………。』

 

「…この電話は––––––」

 

『盗聴は、されてない。』

 

「そうかよ…時間ないから用がないなら切るぞ。」

 

『あぁっ!待って待って!…その、貴方にしか、頼めない事だから…』

 

たどたどしい声。

箒の声。

確かに彼女の声。

しかし違う。

––––––コイツは。

 

「––––––お前、誰だ?」

 

『…それは、言えない。あえて言うなら、キミと同じってコトぐらい。千尋、ううん––––––ゴジラ(オルガナイザーG1)。』

 

「––––––お前、箒を蝕んでた奴か。」

 

『結果的にはそうなる。ただ、私では、もうどうにも出来ない事が、あるから––––––』

 

「勝手言うな––––––」

 

『––––––箒を、止めて(助けて)、欲しいの。』

 

––––––それは、自ら生贄となる道を選んだ少女を止めたいと言う怪物(イリス)の真意であった。

故に、千尋(ゴジラ)も再び駆けることを選んで––––––

 

 

––––––暗転。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

––––––がちん。

秒針が壊れたように時間を刻む。

それは確かに、破滅へ向けて。

これは破滅への直行線。

––––––災いの使徒が満ち溢れ、

––––––柳星張が守護者として起動し、

––––––魔海獣が海を犯し、

––––––公害怪獣が毒の雨を降らし、

––––––破壊の王が大地を殺し、

––––––完全生命体が大気を溶かし、

––––––地球外戦闘生物が飛来し、

––––––虚構の荒神が現実(世界)を焼き尽くし、

そして人類世界が破滅する、その時までの物語。

あと––––––147日と、5時間20分後に滅亡する世界の物語。

 

 

 

 

 

 

 




今回はここまでです。
そして第2次日本本土防衛戦編も今回までとなります!

千尋「なぁ…めっちゃ不穏なワードあったんだけど…。俺の余命、あと6ヶ月ってどういうこと?あと多分福音戦みたいな奴のシーンってどうみても…。つか、最後の奴ら不穏過ぎない?」

うん、それについては次回話すわ。
というわけで次回からは柳星張編になります。

千尋「柳星張…あっ(察し)。」

次回も不定期ですが、よろしくお願い致します…。



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